静寂が覆う地球………残され た時間はあと数時間あまり…………

人々はただ願い…そして祈 る………明日という刻が訪れることを……………

 

そして……夜に包まれるオー ブ群島の一画…………伝導所を構えるマルキオは子供達とともに伝導所を出、そして夜空を見上げている。

「マルキオ様、お空で星が いっぱい輝いてる……」

一人の少年がそう呟く……マ ルキオの盲目の眼には見えないが……夜空では無数の輝きが起こっては消え、そしてまた咲き誇る………

それは…命の煌き………争う という本能を捨てられぬ愚かな存在達が育ててしまった闇が生み出す命の最期の煌き………

あのなかに……大勢の命が戦 い…そして散っている………………

険しい面持ちで見上げるマル キオだったが……一人の少女が唐突に呟いた。

「ねぇ、マルキオ様……なに か…聞こえる…………」

少女の呟きに……マルキオや 子供達が耳を傾ける………すると…その耳に確かに何かが響いてきた………

「ホントだ、何か聞こえる よ」

「何だろう…動物かな……」

口々に言葉を交わす子供達… マルキオもやや首を傾げ、思考を巡らせる。

確かに……聞こえてきた声は 機械的な音や自然の音にしてはおかしい……たとえるなら……動物の鳴き声…………

だが……

「でも……なにか…哀しい声 だよね…………」

少女が漏らした一言に……誰 もが口を噤み…そして……マルキオも表情を顰める。

響く声は……哀しみに満ちて いる…………まるで…なにかを傷むように……………それは、まるで音色のごとく夜空に響く………

その鳴き声に……マルキオら は暫し聞き入った…………

 

 

 

マルキオの伝導所の位置する 小島よりやや離れた海上………穏やかであった海面が荒れ……そして揺らいでいる。

荒れ狂う海面より、一つの巨 大な影が浮上してくる。

雲一つない夜空……月明かり に照らされるなかで浮かび上がるのは……巨大な生命体のシルエット………

その生命体は雄叫びにも似た 鳴き声を響かせる………

その旋律に込められるどこか 哀しみに満ちたもの……そして、その鳴動に呼応するように…月明かりがなお蒼白く海面を照らし……その輪郭が露になる………

海面に浮かぶ巨大な影は…… 巨大な鯨………その白い身体に蒼白い月光が反射し、幻想的な光を醸し出す。

だが、もしこの場にこの生命 体の姿を見た者は不思議に思うかもしれない………その鯨の背には……巨大な翼がはえていた…………

まるで……人々が呼ぶエヴィ デンスかのごとく……………

鯨はなおも天に向かって鳴動 を続ける……この宇宙で戦う………二つの命へと……哀しみをのせるように……旋律が鳴り響く…………

 

 

―――――孤独な魂に……救 いがあらんことを…………

 

 

そう……願うかのよう に…………

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

FINAL-PHASE   TWIN DESTINY OF DARKNESS(未来への翼)

 

 

真空の闇……宇宙のなかを羽 ばたき、そして激戦を繰り広げるインフィニティとメタトロン……漆黒と純白の天使が、それぞれの翼を拡げ、人の業が集束された場所で己の全てをかけて命を ぶつけ合い、刃を交わす。

互いに業の果てによって生を 受けた………漆黒と純白の天使のビームの刃が幾条も煌き、互いに傷つけ斬り結ぶ……メタトロンの振り下ろしたサタンサーベルの一撃を受け止めきれず、弾き 飛ばされ叩きつけられるインフィニティ。

「がっ!」

コックピットに響く衝撃にレ イナが呻く。だが、間髪入れずにメタトロンが急接近しビームの刃を振り下ろす。

レイナは歯噛みして操縦桿を 切り、インフィニティは機体を横へとずらす。

目標を失ったビーム刃は浮遊 していたデブリを斬り裂き……その隙を逃さず、インフィニティはインフェルノを薙ぎ、それによりメタトロンの装甲に一閃が走る。続けて蹴り飛ばし、メタト ロンが弾き飛ばされる。

だが、インフィニティは追い 討ちをかけない……インフィニティの胸部装甲にもビームの一閃が刻まれている……あの瞬間、メタトロンも同時に斬りつけていたのだ。

互いにコックピット内で息を 荒げる……だが、カインはそれを呑み込み操縦桿を押す。

「おおおっっ!」

咆哮とともにメタトロンが翼 を拡げ、急加速する。

その加速力のままインフィニ ティに突進する……突き出されたビーム刃を受け止めるも、勢いを相殺しきれず、そのまま氷の大地へと縺れるように落下し、叩きつけられる。

朦々と立ち込める砕け散った 氷の結晶………それは…まるで地獄に存在するという極寒にして永劫の氷地獄:コキュートスかのごとく……氷の大地に佇むインフィニティとメタトロ ン…………

レイナは息を乱しながらもメ タトロンを見据え…そして、バイザーを上げ…ヘルメットを脱ぎ捨てる。

脱ぎ捨てられたヘルメットが コックピットの奥へと投げ込まれる……僅かに頭を振り…無重力のなかに銀髪を漂わせ…再び前方を見据えるレイナ………その額から…微かな鮮血が流れ落ち る。

見開く瞳に漂うは……静かな る闇……全てを破壊し…呑み込まんとする闇………

対峙するインフィニティとメ タトロン……レイナとカインの間に立ち込める感覚の渦……

 

 

―――――同じ出生の過去を 持ち………

―――――同じ人間の手に よって造られた人造神を駆り………

―――――同じ闇への狂気を 持つ………

 

 

だが……それ程までに対であ りながら……こうして自分達は戦い…相反している……皮肉なものだと思う………

一方は闇に葬られたきょうだ いの狂気と怨念…それらが望むものを選び……もう一方はそれらを裏切り……狂気にその身を堕とし……殺そうとする…………

「はぁ、はぁ………っ」

自虐的に哂い、呼吸を乱しな がらもレイナはメタトロンを見据え……そして、操縦桿を引く。

加速するインフィニティが飛 び上がり…それを追ってメタトロンも飛び上がる………宙を舞うインフィニティの上へと舞い上がるメタトロン……8枚の翼が拡がり、圧倒するように振る舞 う。

刹那……メタトロンの翼から 離脱する幾つもの羽………フェザーが縦横に舞い、そしてビームを放ってくる。

「ぐっ」

歯噛みし、繰り出されるビー ムをデザイアで受け止めながら、ビームを掻い潜る。だが、全てをかわすことはできない……レイナは素早く計器を操作し、インフィニティのリフレクトシール ドを展開させ、ビームを防ぐ。

ビームを防ぎながらメタトロ ンへ向けて加速し、ヴェスヴァーを放つ。

真っ直ぐに伸びる光条をかわ し、メタトロンはミサイルを放つ。

放たれるミサイルを掻い潜り ながら、フェザーより放たれるビームと連鎖反応を起こし、爆発が周囲で巻き起こる。

その爆発を裂きながら飛び出 すインフィニティ……その真紅のカメラアイとコックピット内のレイナの真紅の瞳が同調する………

映る純白の同型機……きょう だい機として生まれ…戦う運命を背負った2機の天使は主の意志の赴くままに刃を交える。

狂気に彩られ…レイナは刃 を……力を振るう………自らの内に渦巻く闇をぶつけるように……鋭く振るわれる斬撃が真空を震わせ、そしてインフィニティは破壊神のごとくインフェルノを 振るい、メタトロンを追い込んでいく。

翼で受け止めるメタトロ ン……カインはその斬撃に軽く鼻を鳴らす。刹那、メタトロンの蹴りが振り上げられ、デザイアごと弾かれる。

だが、弾かれたインフィニ ティは空中で態勢を変え、ヴェスヴァーを発射する。

掠める閃光が氷原を吹き飛ば し、また氷を舞い上がらせる……その氷嵐のなかで刃を幾条も交錯させる。

上・下・右・左・斜め……密 着した状態で振るわれる刃は互いを掠め、傷つける。

内に救う狂気という闇……破 滅の衝動がレイナを突き動かす………ただ…己が破滅を…闇への永遠……いや…消滅を………

振り上げられた刃がメタトロ ンのボディを斬り刻み……カインはつまらなさげに鼻を鳴らす。サタンサーベルを振り翳し……デザイアで受け止め、インフェルノを翼で防ぐ……互い に受け止める刃から火花が飛び散り、押した後弾き飛ばす。

「レイナ=クズハ……いい事 を教えてやろう……」

ビームキャノンを放ちなが ら、唐突に切り出すカインにレイナは眉を寄せながら回避する。

「君も解かっているはず だ……このユニウスセブンを動かしているバーニアノズル……あと2時間で、全開に噴射される……」

闇に囚われながらも……レイ ナの思考はまだ冷静さを失ってはいない…だがそれは……あくまで冷たいもの……そして、カインの言葉に微かに息を呑む……ここに来る前に一度見たユニウス セブンを現在動かしているバーニアノズル……アレはまだ、点火しながら微速で進んではいるが……もしアレが一気に噴射されたら………その考えを見透かすよ うにカインは笑みを浮かべる。

「そうだ…バーニアノズルは 既に噴射状態にある………俺のコマンド一つで今すぐにでもこいつを地球へ堕とすことができる………」

「……っ」

ギリっと奥歯を噛み締め る……この男がどうであれ……わざわざあと2時間待って堕とすという保証はない……下手をしたら、今すぐにでも可能なのだ。

だが、それが何だと考える自 分がいる……そんなことは自分には関係ない……自分はこの男を殺すためだけにここにいるのだ……それ以外は関係ないと…それは……あいつらのやるべき事だ と………

そう考える自分が存在し、微 かな葛藤が渦巻く…苛立たしげに歯噛みする。

「そして……そのバーニアノ ズルを制御しているのは……ユニウスセブンの最深部に設置した管制室………そこからなら、バーニアノズルを逆噴射させ、これを元の軌道に戻すことも可能 だ」

その言葉には……流石にレイ ナも怪訝な表情を浮かべ、相手の様子を窺うように見る。

「そのコマンド入力のパス ワードは……俺しか知らず…またアクセスするにはそのシステムからでなくては不可能……ここまで言えば、解かるだろう?」

試すような視線………だが、 それは逆にレイナにとって不利なものだった………

カインがレイナを殺し……ユ ニウスセブンを地球へと堕とすか…………レイナがカインを殺し……ユニウスセブンを止めるか……二つに一つ………もし相打ちになれば……カインはどんな手 を残しているか解からない……

下手をしたら、自身の死と連 動してバーニアノズルが一気に加速する可能性もある。

悔しげに歯噛みし、操縦桿を 握り締めるレイナの手が汗ばむ。

「そして…あと一時間 で………統合軍が核ミサイルを使用する………だが、それが最期だ……」

そう……あと一時間で……ユ ニウスセブンの加速が止められない場合は……統合艦隊は最終手段として核を用いる。

完全に破壊するために……だ が…そうなれば…………

「ユニウスセブンは……分解 する………」

御名答とばかりにカインが笑 みを浮かべる。

核が放たれれば……確かに、 ユニウスセブンは破壊できるかもしれないが……完全に消滅させるとなると話が違ってくる………

いや……そもそも、全長数キ ロのコロニーの片割れを完全に破壊するなど物理的に不可能だ。

それに…微速とはいえ加速し た状態であるユニウスセブンの後方に向けて核を放てば…下手をしたらそれが推進力となって、加速を上げる可能性もある。

ユニウスセブンそのものが落 下するより幾分マシとはいえ…核を放てば、まず間違いなく、地球に深刻な被害を齎す。

そうなれば……間接的に地球 は壊滅的打撃を受ける…………結局……地球を盾に取っているのに変わらない状態だ…………

「これで全ての舞台は整っ た……そして文字通り…制御パスワードを知っている俺を唯一倒せる君の双肩にこの世界の命運が委ねられた………」

この戦争の発端となったユニ ウスセブンによる流星……審判者としてこの表舞台に立ったカイン……そして……最後のキーをちらつかせる………

まるで……それがあらかじめ 決められていたようで……レイナはいいしれぬ苛立ちに首を振る。

何故わざわざそんなことを聞 かせる……自分により力を出させたいのか……ギリっと奥歯を噛み締める。

全て見透かしたかのような言 葉……だが…だからといってレイナは退くつもりはない……カインを倒さなければならないことに…変わりはないのだ………

「さあ、始めよう……最期の 審判が……どういう結果を齎すか………」

サタンサーベルを構え……悠 然と佇むメタトロン…レイナも操縦桿を握り締め…インフィニティもまたインフェルノを構えて対峙する。

 

―――――世界の破滅を望む カイン………

―――――世界の運命に干渉 を嫌ったレイナ………

 

同じ結論に至りながらも…相 反する二人………その隔てた境界は…いったい何なのであろう………二人の内に流れるもう一つの遺伝子か……それとも……二人を成す遺伝子なのか………

「………この世界は、表と 裏…光と闇……夢と業……絶対に相反する二つの因子が絶対に離れず存在する……そしてそれは……俺達もなっ!」

刹那……メタトロンが加速 し、駆け出す。

「俺との決着……今ここでつ くっ!」

そう……相反しながらも離れ ることのできない運命………それに縛られた者………最も近くて…最も遠い存在………レイナも操縦桿を引き、インフィニティを加速させる。

互いに刃を構えて突進し…… 刃が振るわれ、剣閃が煌く………交錯し…離れた瞬間………インフィニティのアンテナの一部が欠け、メタトロンはボディに浅い斬撃が刻まれる……

だが、そんなダメージを意に も返さす……振り返ったメタトロンは間髪入れず加速し…若干反応の遅れたインフィニティを蹴り飛ばした。

「うあぁぁっ!」

鋭い衝撃がコックピットを襲 い、弾き飛ばされるインフィニティは氷の大地へと叩きつけられる。

砕け散る氷のなかで呻きなが ら…立ち上がろうとするも…それより速くメタトロンが加速し、突撃してきた。

「おぉぉぉぉっっ!」

カインが吼え、右手のサタン サーベルを振り下ろす……レイナは反射的に操縦桿を切り、インフィニティは身を捻ってその斬撃をかわし、メタトロンの刃が氷を斬り裂く。

砕ける氷の破片が粒子となっ て2機の間に立ち込め…かわすと同時に身を立ち上がらせたインフィニティはメタトロンに身をぶつけ、メタトロンを弾き飛ばす。

その弾き飛ばしたメタトロン に向けて加速し……インフェルノを振り上げる。攻めるメタトロンが顔を上げた瞬間、その視界に飛び込んでくる漆黒の影………

「はぁぁぁっっ!!」

レイナの気迫とともに……振 り下ろされた刃をメタトロンはサタンサーベルを翳して受け止める。

刹那…一斉に放たれる羽から のビームの閃光が幾条も迸り、全方位からインフィニティを狙う。瞬時に離れ…距離を取るも……羽は縦横無尽に動き……四方八方から発射してくる。それらが 数発着弾し、爆発が包むも爆風から飛び出し…ダークネスを放つ。

ビームの閃光が掠め、機体を 僅かに融解させる……だが、薙ぐように放たれたアポロンの閃光にダークネスの砲身を切り落とされる。

「くっ!」

舌打ちし……ダークネスを捨 て、爆発を眼晦ましにデザイアを放つ。

伸びる閃光がメタトロンの左 肩を吹き飛ばし、カインは微かに舌打ちするも……急接近するインフィニティがインフェルノを振り上げ、メタトロンもサタンサーベルを振り上げて受け止め る。

刃を交錯させる度にレイナと カインの脳裏に走る微かな傷み……それはなにを意味するのか………

「何故…そこまでしてあんた は私にこだわるっ!」

解からない……何故自分など に拘る……レイナがカインに拘るのはあくまで私怨だ…だが、カインは何故……対の存在だからか……なら何故、わざわざレイナに対し執拗に怒りを…自身への 敵対心を掻き立てさせる……狂気を増大させる………

レイナさえ耐えられない闇に 耐え……何故わざわざこんな真似をする………カインがその気になれば……世界を滅ぼす方法などそれこそいくつもあっただろう………

こんな舞台まで備え…そし て……自分と敵対するように仕向け…仕組んだ……いったい何がしたい……狂気に渦巻く内にその疑念が過ぎる。

その問い掛けに、メタトロン はサタンサーベルを振り被り……加速してインフィニティに斬り掛かる。

「くっ!」

インフェルノとデザイアを掲 げて受け止め、歯噛みする。押し切ろうとするメタトロンの右眼の奥で真紅が鈍く輝き、レイナを気圧する。

「……そんな事に答える必要 などないだろう……俺達にはなっ」

高らかさに叫び、振り上げた 脚部に弾き飛ばされ…レイナは苦悶を漏らす。

「だが、これが俺に取っての 真実……この世界は滅びるべきだということをな……闇が闇を産み…闇が闇を喰らう………この世界が望んだ愚かな闇……それを還すためにっ」

ビームキャノンで砲撃し、翻 弄されるレイナ……歯噛みしながらヴェスヴァーで砲撃し、両機の中間点でビームがぶつかり合い、相殺されて余波が2機を襲い、衝撃で吹き飛ばされる。

吹き飛ばされながらも……カ インは笑みを浮かべる………

「俺はこの世界を滅ぼす道を 選んだ……そして…君は俺を倒す道を選んだ……ただそれだけのこと………それ以外に理由など要らない…いや…そんなものももうどうでもいいかもしれない な……」

まるで顕示するように…そし て……必要ないと切って捨てる………だが、カインの考えは変わらない。

それ以上に……カインは愉し むように笑みを浮かべている。

「今……この場にいる君と戦 うこと………それが今の俺にとってはなによりも満たされることだ………この瞬間が…今の俺にとっての全てさ!」

バーニアを噴かし、態勢を戻 すメタトロン……振り被り………アポロンを発射する。

砲撃される奔流が未だ態勢を 崩しているインフィニティに襲い掛かる……レイナはレバーを引き……ウェンディスを展開させ、光の翼がインフィニティを覆い…リフレクトシールドとともに アポロンのビームを防ぐ。

重ねるビームシールド……だ が、その熱量が僅かながら貫通し……ボディを掠める。

ダメージは低い…レイナは一 瞥し、態勢を立て戻す……踏み止まったインフィニティ……レイナは首を振り、メタトロンを見据える。

「そうね………私達の戦い は…お互いの全てをかけたもの………っ」

カインは世界全てにその破滅 の代価を求めるだけ……己が生を受けた闇そのものを……この決して消えぬ闇の衝動を………

結局……孤独にしか生きられ ないとでもいうように…………だが、少なくともカインはレイナとは違う………

奴がやろうとしているの は……きょうだい達の望みそのものだ………闇で殺され…そして…その闇を世界にも齎そうとする…………

レイナには…誰もいな い………裏切ったレイナには………たとえきょうだい達のいる闇に還ろうとも……誰もレイナを信じない…認めない………自分は永遠の孤独のなかでしか生きら れない………レイナはそこまで強いわけでもない………

闇の孤独のなかで狂い死ぬぐ らいなら……いっそ…魂そのものも消滅した方が遥かにマシだ………

無言のまま……露出した胸元 から零れるクリスタルに眼を向ける……自身の流した鮮血が首筋をつたり、付着している………そのクリスタルを一瞬凝視すると、それを引き千切り、一瞥す る。

「私の命…魂………全て…闇 に喰れてやるわ…………たとえ…赦せぬ十字架だろうと…それが永遠に救いのないものであっても………っ」

なにもできない自分……果た せぬ自分………ただできるのはなにかを壊し…命を奪うだけ……それさえも赦されぬもの………永遠に救いなど要らない………この身が…魂が裁きの業火によっ て朽ちようとも………

この闇を終わらせる………自 身とこの男の…………眼を見開いたレイナはクリスタルをコンソールにセットアップする。

そして……カインもまた微か に笑みを浮かべながら、小さく咳を噛み殺す。

「ゴホッ……俺が喰われるの が先か…それとも……君が闇を越えるか、喰われるか……」

ボソッと小さく呟き……コン ソールを僅かに鮮血で濡らしながら、キーを叩く。

レイナとカインは互いに佇み ながら……それぞれシステムを起動させる………インフィニティとメタトロン………2体のDEMに宿りし人造神の力…そして……闇を………

インフィニティとメタトロン が低い唸りにも似た駆動音を響かせ……眼前のモニターに起動コードが表示された。

 

 

IRPAsystem  STAND BY READY】

 

DARKNESSsystem  STAND BY READY】

 

 

2体に搭載されたシステ ム……基幹は同じウォーダンによって理論を組まれた……だが、メタトロンのオリジナルに対し…インフィニティにはそのオリジナルに似せて造り上げたも の………

 

―――――至高の天使の皇に 備わりし……闇の人造神の覚醒………

―――――裏切りの堕天使に 備わりし……無限の翼を持つ人造神の覚醒………

 

 

【【SYSTEM   ALL AWAKING】】

 

 

―――――――ドックン………

 

静かなる闇……そのなかに響 く鼓動………解かる……これが最期だと………この闇に身を委ねれば……もう自分は自分ではなくなると………

破壊と狂気に狂う堕天使とな ると………自身の内に消えたレイにらしくない謝罪の言葉が過ぎる………

(レイ……結局…私は壊れて たみたい………だから…あんたを裏切る………偉そうなこと言ったけど………私もこうなる運命だったようね………)

自身を嘲笑う……自分はレイ に対して言った覚悟を果たせなかった………赦せないのは…不甲斐ない自分自身……闇に身を委ねてしまう………愚かな自分自身………

だから……滅ぼそう………こ の身も…この魂も………破滅という闇へ…………裁きの業火のなかに………滅びればいい…………

眼を閉じ……全感覚を委ね る………大きな鼓動が内に脈打つ……内になにかが流れ込む………そして…自身の感覚が周囲に溶け込み、感覚が鋭くなる……操縦桿を握り締め、スロットルを 全開にする。

滅びた方がいいのだ………自 分も…この男も…………元々…この世界に存在してはならない存在なのだから………

流れ落ちる鮮血を拭い、その 真紅な瞳が揺れる………その瞳には、怒りも哀しみも憎しみもない……あるのは……深い闇だけ………そして…譲れぬ闇だけ…………

ただそれだけ……単純なこ と…………主義主張も…理想も……義務感でもましてや正義なんていう陳腐な言葉など関係ない………

ただ……相手と違える道を選 び………それが己の存在意義となっただけ……それは…人の…生命の本質かもしれない………

感覚が闇に融け込んでい く……そのなかで…レイナは無意識に呟いた………

(あんたはこっちにくる な……リン………あんたは…生きろ………)

闇に囚われ…決して抜けられ ぬ………十字架のなかへ…………

 

 

DEUS EX MACHINA  TYPE-000】

 

 

純白の天使は欠けた右眼の奥 で鈍く光を輝かせる……拡げられる純白の羽……神聖ささえ感じさせるその身に纏うのは審判の楔……最高位さえも超え…使徒の皇に君臨する天使の写し 身………

 

 

DEUS EX MACHINA  TYPE-X000-01】

 

 

黒衣の堕天使は真紅の翼が大 きく拡がる……猛る咆哮………神々に祝福されながらも叛旗を翻し…地獄へと身を堕としながらも抗う堕天使の写し身………

 

 

 

【【DRIVE】】

 

 

インフィ ニティとメタトロン……人の手によって造り上げられし人造神はその翼を拡げる………両者の共通するのは…破壊のための翼………

封印され し力を解き放つ最期の瞬間…………

一際大き な閃光がコックピットに満ちる……それは………パイロットを闇へと…破滅へと誘う諸刃の剣………

インフィニティとメタトロン の瞳が真紅に輝き……咆哮を上げる…………刹那……2機は翼を拡げ、宇宙に舞う。

凄まじいスピードで飛翔し、 斬撃をぶつけ合い、交錯し合う……インフィニティの振り下ろした刃を受け止めるメタトロンにデザイアを至近距離で放つ。

だが、メタトロンは交錯させ る刃を起点にボディを振り起こし、ビームの光条をかわす。

メタトロンの振り払う翼が起 こす衝撃波が周辺の破片を操り、まるで大気圏内で起こる真空刃を巻き起こし、破片が一斉にインフィニティに襲い掛かる。

装甲を掠めるいくつも衝 撃……小刻みに響く振動に気圧され、一瞬怯んだ瞬間……眼前に飛び込んでくるメタトロンが脚部を振り上げ、叩きつける。

「ぐっ!」

鋭い蹴りの振りを喰らい、イ ンフィニティはデブリを弾きながら吹き飛ばされる。

追い討ちをかけるように飛ぶ メタトロンがインフィニティに向かってサタンサーベルを振り下ろす。寸前のところでレイナはバーニアを引き、機体を離脱させてその斬撃をかわし、インフィ ニティはバルカンで狙撃し、ミサイルを発射する。

着弾し、爆発がメタトロンを 襲う…発泡金属装甲の一部が剥がれ落ちるも、爆煙を裂いて加速するメタトロンがインフィニティに斬り掛かる。

振り払われた衝撃がインフィ ニティの態勢を崩すも、レイナは歯噛みしてヴェスヴァーを放とうとした瞬間、メタトロンが回転するように飛び込み、脚部でインフィニティのボディを挟み込 む。

「……遅いっ」

静かに呟いた瞬間、メタトロ ンは回転するようにインフィニティを拘束したまま回転の加速を利用し、氷原へとインフィニティを叩き飛ばした。

飛ばされたインフィニティは ほぼ無防備に氷原へと激突し、朦々と粒子が立ち昇る。

深く抉るように叩きつけら れ、インフィニティのコックピット内で身体を打ちつけたレイナは苦悶を浮かべながらも、瞳を吊り上げ…インフィニティが弾かれるように飛び出す。

インフェルノを振り被り、加 速するインフィニティとサタンサーベルを振り薙ぐメタトロン……互いにその斬撃を身を捻ってかわすも…返し手で振り薙がれた一撃がインフィニティの装甲を 抉り、反射的に振り下ろされた一撃を寸でで受け止めるも、その余熱が純白の装甲を焦がす。

エネルギーをスパークさせな がら……レイナとカインは互いに相手を見据える………

結局……自分も眼前のこの男 もそういったものからは逃れられなかった………そういった意味では…所詮、自分達もまたウォーダンが求めたような新人類としては失敗作かもしれない………

インフィニティがデザイアで 強引にメタトロンを弾き飛ばし、突撃する……メタトロンに体当たりし、そのまま氷の大地を抉りながら加速する。

「はぁぁぁぁぁっっ!」

レイナの内から吼えるは純粋 な殺意……そして狂気………突撃しながらメタトロンを蹴り飛ばし、距離を取るように飛び上がる。

氷嵐を起こしながらなおも抉 るように氷原を滑るメタトロンに向けてオメガを放つ。

ビームの閃光が着弾し……氷 の粒子を巻き上げる…だが、その粒子を裂くように向かってくる閃光がインフィニティを狙う。

「っ!」

舌打ちして機体を上昇させる も……その上方に回り込む機影……メタトロンが振り被り、翼を大きく振るってインフィニティを弾き飛ばす。

振動とGに歯噛みし……氷原 へと叩きつけられ、レイナが苦悶を浮かべる。刹那、鋭い衝撃が襲う……メタトロンがインフィニティに急加速し、首筋を掴んで身体を押し込む。

加速と衝撃がインフィニティ のボディを氷原の底へと抉るように叩きつけられる。

「がはっ、うぅぅっ!」

衝撃に身体を打ちつけ、僅か に吐血する……だが、レイナはその眼を鋭く吊り上げ、操縦桿を引く。

零れる鮮血がつたり、計器を 紅く染める…スラスターが火を噴き……インフィニティを勢いよく弾き飛ばす。

弾かれた勢いで立ち上がり、 メタトロンを体当たりで弾き飛ばす…抜け出し、インフェルノを握る右拳を頭部に向けて叩きつけ、メタトロンを吹き飛ばした。

頭部にショートするような音 が走り、メタトロンは氷原を抉りながら突き離れる。

「はぁ…はぁ………」

呼吸を乱しながら……その先 を見詰めるレイナの前で悠然と立ち上がるメタトロン。

闇に囚われ…そして内の本能 が……生命としての本質が戦えと…壊せと叫ぶ……こうしてただ己の全てをかけてただ殺し合うのも……自分達のあるべき姿とでもいうように………

だが、それで構わない……失 敗作なら失敗作同士………ここで滅びるべきだろう……間違いに間違いを重ねても……真実になどならない…………

闇に闇がぶつかり…そして殺 し合い…壊し合う………いや……真実など…間違いなどない……あるのはただの現実だけ………愚かな存在の……闇の狂宴のみ………

互いにビーム刃を構え……静 寂が両機を支配する…………まるで全てが消え失せたかのような静寂感………自身の鼓動だけが、響く…………

刻が凍ったように睨み合うイ ンフィニティとメタトロンがほぼ同時に加速し……互いに跳ぶ。

跳ぶ交錯点で刃を交わし…… エネルギーがスパークする………刹那……レイナとカインの脳波が干渉し合い……二人の眼に…脳裏に光景が走った…………

インフィニティとメタトロン を閃光が覆い……そのエネルギーが周囲にスパークし、周辺の氷やデブリへと飛び、激しい爆発とうねりが響き起こる。

 


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