フリーダム、そしてドレッド ノートHの2機を追い詰めるゲイル……ウォルフは高らかに笑いながらビーム砲を放ち、2機を翻弄する。

「ぐっ…貴様が、あの男のク ローンだと………っ!」

キラから聞かされた言葉に半 信半疑に戸惑いながら、ドレッドノートHがビームライフルを放つ。

ビームが相殺し合い、爆発が 彩られる……そして、その爆発に乗じて急接近するゲイルはドレッドノートHに向けて拳を振り上げる。

「そぉぉらぁっ!」

振り下ろされた一撃がドレッ ドノートHに叩き込まれ、さらにファーブニルが伸び…鋭く吹き飛ばされる。

「がぁぁぁぁぁっっ!」

呻きながら弾かれるカナー ド……キラは息を呑む。

「カナード……っ!」

気を回す余裕もなく……次の 瞬間には、フリーダムに向かってビームサーベルを振り下ろすゲイルにキラも反射的にビームサーベルを振り上げて受け止める。

「うっうぅぅぅっ!」

その重くて鋭い一撃に推され る……ウォルフの醜悪な笑みが聞こえてくる……キラは振り払うように弾き、至近距離からレールガンを放つ。

弾頭がゲイルに直撃し、僅か に怯む……その隙に距離を取り、吹き飛ばされたドレッドノートHに並ぶ。

「カナード、大丈夫!?」

「ぐっ…心配など不要だ」

やや苦い口調ながらも、カ ナードは気丈に言い返す……刹那、爆煙を裂くように放たれたビームに2機は咄嗟にシールドを掲げる。

フリーダムのシールドが融解 し、ドレッドノートHのビームシールドがその熱量に震える。

「ククク…愉しいね………こ うして命のやり取りをする瞬間が最高だ……お前達もそうだろう? その力を存分に振るえることがなぁっ」

爆煙から姿を見せるゲイ ル……そして、キラとカナードに向けて発せられる嘲笑………その言葉にキラは歯噛みする。

「違うっ! 僕は…僕の力 は……っ」

「はっ、何が違う……力って のは結局なにかを壊すためにあるんだ……そして、力を手にした者はそれを振るわずにはどうする…せっかく得た力だ……存分に使いたい…振るいたい……お前 達もその力で今戦っているんだろうがよ」

遮るように発せられるウォル フの言葉……力は所詮力………そして、力を手にした者はその力を試したくなる……それが望んだものでも…努力して得たものでも……突然与えられたもので も……誰しも、力があればそれを使いたくなる………世界に示したくなる……

それが力を得た者に付き纏う 一種の禁断症状だ……得た力を使わないなら…それは単なる宝の持ち腐れ………

キラやカナードは歯噛みす る……確かに、今の自身をここまで生き残らせてきたのは紛れもないこの力……二人に与えられたこの力だ………

それがどんな理由にせよ…… 力を振るい…それを引き出してきた………口を噤むキラ…だが、カナードは鼻を鳴らす。

「そうだな……確かに貴様の 言うとおりだ………なら、この力を使って…貴様を叩き潰す! 貴様は不愉快だ……っ!」

カナードは否定しない……力 を求め…そして力を得たのは事実なのだ……だが、それでもその力の使い方はカナード自身のもの……この剣を継いだ者からの意志…しれがカナードの力を振る う理由………

「………確かに、力はありま す…でも、この力は決して壊すためだけに振るうんじゃない……力は、護るためでもあるんだっ」

迷いながらも…キラは決して それに絶望しない………たとえ相手の言葉がどんなに正しくても……力に溺れて…その果てにある結末を知っているから……そうならないために…キラは剣を振 るう。

ドレッドノートHとフリーダ ムのビーム砲が展開され、ゲイルに放たれる……だが、ゲイルはスラスターを拡げ、飛翔する。

「青臭いガキどもだ……てめ えらの考えなど、俺にはどうでもいいさ……俺はただ、愉しめりゃいいんだからなっ!」

ファーブニルを展開し、突進 するゲイルにフリーダム、ドレッドノートHも加速して激突する。

激しい火花が散る戦場のなか で……援護のために向かっていたニコルとシホ…そして、その最中……反応が示し、ニコルが振り向くと…ジャスティスとアカツキが接近していた。

「アスラン! カガリさん も」

「お二人とも、ご無事でした か?」

どこか弾んだ声で無事な姿に 安堵の溜め息を漏らす二人にアスランもなんとか内心を抑えて応じる。

「あ、ああ……なんとか な…」

まだ…いや……ひょっとした ら二度と消えぬ心の傷み……だが、それも自分が選んだことだ……背負っていかねばならない……この十字架を……そのためにも…まだここで自分は死ぬわけに はいかない。

カガリもそんなアスランの気 丈な振る舞いを察し、話を推し進めようと言葉を発する。

「お前らは大丈夫だったか?  あいつらは一緒じゃないのか?」

「ディアッカとラスティは無 事です…ですが、機体の方のダメージが大きく、お二人は後退しました…僕らはまだ損傷が小さかったので………」

メガバスターとイージス ディープは半ば大破状態で後退……しかし、やはりこの局面では一機でも友軍機が必要だ。

そのために、決して低いとは いえないがまだダメージが少なく、戦闘可能なブリッツビルガーとシュトゥルムが援護に回った。

「それよりも、他の皆さん は?」

「解からん……キラやラク ス、イザーク達もまだ見つかっていない」

アスランはやや低い声で応じ る……無論、彼らがそう簡単にやられるはずなどないが、それでもこの混戦状態でどこにいるのかが解からない。

「とにかく、急いで発見して 援護に回るぞ……っ」

先陣を切りながら突き進むア スランに続くように3機が加速する……その刻、4機の前に白い影が立ち塞がる。

十数のエンジェルが翼を拡 げ、ランチャーを構えながらジャスティスらに襲い掛かろうとする……アスラン達は歯噛みして身構えるが……突如、エンジェルが動きを止める。

怪訝そうに見るアスラン達の 前で……真紅のバイザーにデータが複雑にインストールされ、AIが混乱して機体を痙攣させている。

見れば、展開しているエン ジェル全てが同じような状態に陥っている……そして、完全にこちらを見向きもせず……痙攣に苦しむエンジェルにますます不可解な表情を浮かべる。

「いったい、どういうことで しょう?」

「解かりません…敵のシステ ムになにか不調でも………」

シホの問い掛けにもニコルは 言葉を濁す。

正直、何故このような状況に なったかさっぱり解からない……だが、カガリが促すように叫ぶ。

「そんなもんどうでもいい さ…それに、あいつらは私らに全然構ってない…急ごう!」

「カガリの言うとおりだな… なんにせよ、敵になにか問題が起こったのは確かのようだ……いくぞっ」

そう…どんな理由にせよ、敵 が混乱しているなら、それに構う必要などない……今は一刻も早く仲間達の援護に向かわねばならない。

加速する4機は混乱し、麻痺 しているエンジェル群を抜け……そして、レーダーが友軍機の反応と戦闘の熱分布を検索した。

「いたっ! イザークとリー ラだ!」

「ラクスもだ!」

レーダーには、『GAT− X102A』、『ZGMF−X11AT』、『ZGMF−X12A』と機種が表示されている。

だが、どうやら別々の場所で 戦っているらしく……二手に分かれなければならない。

「アスラン! イザークと リーラの援護には僕達で回ります! ラクス様の方には貴方達が!」

正直、ラクスの方がキツイは ずだ……いくら機体が秀でていようとも、彼女はパイロットとしての能力は流石にここにいる面々と比べても劣る。しかも彼女は独りで戦っているらしい…キラ のフリーダムの反応は近くにはない。

援護にならジャスティスとア カツキが向かった方が彼女の方もフォーメーションが合わせられるはずだ。

「解かった……イザーク達の 方を頼むぞ」

その意図を察したアスランは 機体を翻させ、それにアカツキも続く。

「ジュール隊長達はお任せく ださい!」

「ああ、必ずまた遭おう な!」

互いに無事を願い……4機は 分散し、援護に回る………ジャスティスとアカツキが加速し、ブリッツビルガーはシュトゥルムに飛び乗り、加速していった。

 

 

そして………巨大な天使:ウ リエルとフリーダムを前に佇むデュエルパラディンとスペリオルの2機……だが、先程まで轟いていた戦場のなかで…その場だけが一瞬の静寂に包まれる。

その原因は…デュエルパラ ディンの抱えるスペリオルのコックピットでのリーラの震え……先程のテルスの言葉……それがリーラにいい知れぬ悪寒を感じさせている。

「リーラ! おい、しっかり しろ!」

イザークが必死に呼び掛ける も……リーラは嗚咽を噛み殺すような声しか返ってこない。イザークは眼前のウリエルを睨みつけ、テルスに向かって叫ぶ。

「貴様…リーラに何をし たぁっ!?」

「ハハハッ、何って…ただ教 えてやっただけだろうが……お前も聞いていただろう…俺は…そいつと……遺伝子上の姉弟だとな」

高らかに嘲笑を浮かべるテル ス……だが、再度発せられた内容は、イザークをもさらに驚愕させるのは充分だった。

「ぐっ…そんなブラフっ!」

半ば追い出すように叫ぶ…… イザークにとっては信じられない思いでいっぱいだろう。いや…信じたくはない事実だ……この…最低な男と……自分の愛する少女が…姉弟だなどと……だが、 それに対しテルスは否定も肯定もせず…ただ悠然と不適に鼻を鳴らすだけ。

「………こと」

その刻……掠れた声で発せら れた言葉にイザークとテルスが反応する。

デュエルパラディンに抱えら れるスペリオルがゆっくりと機体を自身で立ち上がらせ…頭部をウリエルへと向ける。

「どういう……こと……な の……私と…貴方が………姉弟?」

途切れ途切れの震えた声で… それでも気丈に自身を振り絞って問うリーラ……テルスは一瞬眼を瞬くも…やがて口元を歪め、哄笑を上げる。

「クハハハハ! なかなか言 えるようになったな……昔のお前はそうやって問い返すこともできないほど臆病だったっていうのによ………」

小馬鹿にするテルスにイザー クはギリッと奥歯を噛み締め……リーラも罵られながらも表情をキッと引き締める。

確かに……昔の…人形だった 頃の自分なら……その伝えられた現実に悲観し、逃げていたかもしれない……だが、今の自分は違うと……必死に奮い立たせる。

「まあいい……冥土への土産 代わりに聞かせてやるよ………姉貴?」

なおも挑発するような…そし て、リーラの心を抉るような物言いをするテルス……リーラとて聞かずにいられるのなら聞かずにいたい……耳を閉じたい……だが、それでも逃げるわけにはい かない……そう自身に誓ったのだから………

だから知らねばならない…… この眼前の少年と…自身の関係を………さして取り乱さないリーラにテルスは拍子抜けとばかりに鼻を鳴らすが、やがて醜悪な表情を浮かべ、呟き始めた………

「お前は俺達、MCにとって 規格外の存在……02ども以上にな………そして…08である俺にとっては遺伝子上の異父姉弟ってわけだ……もっとも…俺はあの女の胎から生まれたわけでは ないがな…ククク」

自身の出生をまるで愉しむよ うに語り出す。

テルス……MCナンバー 08……それがこの少年に与えられたナンバーと個体名だった。

MCセカンドプロジェク ト……それが、第二期型MC開発プロジェクトの総称だった。初期ナンバーの01から04までの被験体は、ヴィアやフィリアらの画策でウォーダンの思惑から 大きく外れ始めていた。

そして……ウォーダンはセカ ンドプロジェクトの始動に踏み切った。既に04により、ある程度のMCの誕生実験の安定度を得ていたプロジェクトは、次に誕生させる個体として相応しい遺 伝子を求めた。

ナンバー05:ルンはクロー ン体のモデルとして……ファースト体であるリンのノウハウを活かし、後の大量生産のための実験体…そして、ナンバー02とナンバー03をも超える新たなる 被験体開発のための素体として……ナンバー06:ウェンド……あらゆるオペレーション能力…様々なネットワークを通じ、複数のシステムを同時に操り…尚且 つシステム掌握を可能とするオペレーション被験の素体……ただし、遺伝子の出所は不明…ナンバー07:アクイラ……彼女は特殊なケースであった。01の調 整実験の過程で偶然誕生した遺伝子のコピー体……総合的には失敗作であった01だが、その能力はやはり従来のどの被験体よりも高く、安定もあった。故に、 自我意識に対し調整を加え……高い身体能力と機械のような無機質さを併せ持った素体となる。

セカンドプロジェクトの最後 のナンバーとして調整されたナンバー08であるテルス…08の調整に当たり…ウォーダンはかつての友人であったアリシアの遺伝子と…そして……プラント内 における有数の資産家であったブラッド家の次期当主…ジークマル=ブラッドの遺伝子を得て、それを試験官のなかで受精させた。

その結果誕生し…調整された のが……テルスと呼ばれる存在だった。

「もっとも、お前が存在して いるという事実も、俺がプラントに入ってから知ったんだがな……」

そう……プラントへと潜入 し、戦時中であったために軍部へと志願した若者の一人…テルスはそう身分を偽装し、プラント内の収集にあたった。

そして、そのなかで知った事 実……自らを成す遺伝子であるアリシア=エルフィーナとジークマル=ブラッドの存在と、その娘であるリスティア=ブラッドの存在……それは、単なる個人的 興味だったのか…それとも…自らを成す遺伝子が生み出したきょうだいに興味を持ったのか……それは解からなかった。

だが、その過程でおかしな事 実に気づいた……リスティア=ブラッドの遺伝子パターンのDNAの半身がジークマル=ブラッドのものではなかった。それは、自分でも確認した…もし、彼女 がアリシアとジークマルの間に生まれたなら…自身と同じ遺伝子が検出される。だが、そこに表示されている遺伝子の半身は別のもの…そこからさらに調べ…そ れが、マルス=フォーシアのものであり……尚且つ彼女の持つ真紅の瞳がそれを決定付けた。

彼女もMCの調整を受けた存 在だと…もっとも、自分達と違ってそれは随分簡素なものだったが………だが、テルスにとっては異父姉になる。

「だから……私に…」

話を聞き入るリーラは呆然と 呟く。

これで全てに納得がいっ た……あの感覚も…テルスから感じるあの男と同質の気配も……それに対し、テルスは肩を竦める。

「ああ……解かってくれたか な、姉貴? 俺達は、父親は違えど…同じ母親の遺伝子から生まれた姉弟だとな」

顕示するように言い放つ…… 同じMCとしての調整を受けながらも…半端な処置しか受けず、そして母親の胎内から生まれたリーラ……高められた処置を施され、試験官のなかで生まれたテ ルス……まるで鏡合わせのような立場に立つ二人………

リーラは表情を顰め…唇を噛 み、操縦桿を握る拳を震わせる。

「おや? 泣き叫んで否定す るかと思ったが…意外に冷静だな」

少しばかり予想外の様子につ まらなさ気に鼻を鳴らす……無論、冷静ではないが………それでも取り乱さずにいられたのは不思議でしょうがいない。

気を抜けば、取り乱しそう だ……心が暴れそうだった………眼前のこの少年にも…自分と同じ母親の血が流れているのかと思うと……姉弟だという事実にも……

微かに呼吸が荒くなる……そ んなリーラの前に立ちはだかる影にリーラとテルスはハッと顔を上げる。

「貴様も意外に一途だな…… そんな規格外の出来損ないの姉貴にまだ付き合うのか?」

この暴露にイザークの醜態も 僅かに期待していたテルスは呆れたように見やる。

だが、イザークから返ってき たのは侮蔑の言葉………

「貴様のような奴の戯言…… 聞く耳などないっ」

「はっ、頑固だね…俺とそこ にいる女が姉弟だというのは変わらない事実だぜ」

「黙れっ! たとえそれが本 当だとしても……リーラは貴様などとは違う! こいつは強い! 俺が認めた女だ…そう簡単に折れるかっ」

あくまで事実を突きつけるテ ルスに対し、イザークは毅然と言い返す。

その言葉に…リーラがピクッ と反応する。

「こいつは強い……どんな事 があっても、必ず乗り越える……その強さを持った女だ…そして…俺はこいつを護る……そう約束したからなっ」

そう……イザークはそう誓っ た……そして信じている……だが、テルスにとっては青臭い戯言と取られたようだった。

「クハハハ! なんとも麗し いな……なら、お望みどおり…一緒に殺してやるよっ」

ウリエルがフリーダムに指示 を出そうとし……フリーダムが動き出そうとした瞬間……一番前に出ていた一機が突如放たれたビームにボディを撃ち抜かれ…爆発した。

その光景にテルスだけでなく イザークも息を呑む……そして…二人の眼はそのビームを放った機体…スペリオルに向けられる。

デュエルパラディンの横で ビームライフルを構えるスペリオル……その銃口から煙が燻っている。その眼にも止まらぬ早撃ちにテルスの眼が微かに細まる。

「テルス……貴方が私に拘る わけにも…貴方が私にとって弟に当たることにも………私は…もう逃げないっ」

コックピットで伏せていた表 情を上げ、決意に満ちた表情を向ける。

「私は…私はリフェーラ=シ リウスっ! そして……マルス=フォーシアとアリシア=エルフィーナの娘……貴方がたとえ私にとって関係がある者でも…私は……貴方を倒すっ!」

そう高らかに叫ぶリーラ に……テルスはフッと笑みを浮かべ…哄笑を浮かべた。

「ハハハハハっ!! そうで なくてはな……殺し甲斐がないっ! 貴様は…貴様ら二人は……俺が地獄へと逝かせてやるよっ!!」

リーラの言葉に臆するどころ か……より愉しげに笑みを浮かべ、フリーダム5機が加速し、襲い掛かる。

翼を拡げ…ビームを放ってく る…それらの軌跡を視界に収めながら…イザークとリーラは互いを見やり…そして、言葉要らずに頷くと……2機は分散し、フリーダムに向かっていく。

突撃するように加速するデュ エルパラディンとスペリオル……リーラの瞳にもう迷いはない……愛する者とともにあるのだから……そして…自分のためにも……負けられない……

フリーダムはビームサーベル を抜き、2機に斬り掛かるも…デュエルパラディンは両手にビームサーベルを展開し、受け止め……スペリオルもまたビームサーベルを抜いて受け止める。

エネルギーをスパークさせな がら……歯噛みするイザークとリーラ……だが、残り3機のフリーダムがビームライフルで狙い撃つ。すぐさま相手を弾き、距離を取って狙撃する。

だが、フリーダムも機動性を 駆使し…攻撃を掻い潜りながら連携を組んで襲い掛かる。デュエルパラディンとスペリオルも並ぶように連携を取り……阿吽の呼吸のごとく…タイミングを合わ せた瞬間……デュエルパラディンのフォルティスUとスペリオルのビーム砲とビームドライバーが一気に発射され……6条のビームの火線がフリーダムに襲い掛 かり、フリーダムはフルバーストを放つも、その火線が打ち消され、フリーダムのボディを6条の閃光が貫き、フリーダムは爆散する。

テルスが感嘆の口笛を吹く。 だが、テルスはさらに意識を集中させ……残り4機のフリーダムをさらに小刻みに機動させる。

ビームライフルを放ち、ヒッ トアンドアウェイを仕掛けてくる4機のフリーダム……こう纏わりつかれては、抜け出すのも相手の動きに反応するのも難しい。

一点突破を仕掛けようとした 瞬間、援護射撃が轟き…フリーダムが一瞬動きを止め、離脱する。

イザークとリーラがハッと顔 を上げると……高速で接近する機影を捉える。巡航形態となったシュトゥルムの上に乗るブリッツビルガー……2機の火線が火を噴き、フリーダムらはフォー メーションを立て直すために離脱する。

「ニコル!?」

「シホ…さん?」

その思い掛けない援護にやや 上擦った声を上げる…ブリッツビルガーを乗せたシュトゥルムがそのまま旋廻し、2機の前に立ち塞がる。

「遅くなりました、ジュール 隊長!」

「イザーク、リーラ! ここ は僕らで抑えます…貴方達はその隙に、あの巨大なMSを!」

「そんな、無茶だよ!」

ニコルとシホの言葉にリーラ が驚愕に叫ぶ。

ブリッツビルガーとシュトゥ ルムの2機だけでフリーダム4機を相手にするのは無茶すぎる。せめて、4機ならまだなんとかなるが……それに対し、二人は笑みを浮かべる。

「時間も推しています…それ に、あの人物の相手は貴方達の役目でしょう」

二人とテルスの因縁を察して か…そう言葉を紡ぐニコルに意表を衝かれる。そして、シホが応じる。

「大丈夫です…私達を信じて ください。お二方は、行ってください!」

「シホさん!」

「はい、ニコルさん…いきま すっ!」

巡航形態のまま……互いに頷 きあって加速するシュトゥルム……4機のフリーダムが密集する場所へと加速し、火線が飛び交う。

爆発が咲き乱れる戦場にリー ラが思わず手を伸ばしかけるも、それを制するイザーク……ハッとするリーラにイザークが低い声呟く。

「やめておけ……あいつら は、俺達のためにわざわざ買って出たんだ。ここで援護に向かったら、それこそあいつらに対し見縊ったことになる」

時間はもう残り一時間もな い……そしてなにより、二人はリーラ達にテルスに集中してもらうために敢えて陽動を引き受けたのだ。

その想いを無にすることはで きない……逡巡していたリーラは表情を引き締め、強く頷く。

「あいつらなら大丈夫だ…俺 達の仲間なのだからなっ」

そう……彼らは自分達にとっ て信頼できる仲間だ……戦場で背中を預けられるという……その信頼に応えるために……イザークとリーラは背を向け…倒すべき相手が構える先へと向かって加 速する。

その動きに気づいたフリーダ ムの一機が身を翻し……スラスターを拡げて加速する。フルブーストでデュエルパラディンとスペリオルの進行軸上に回り込み…全火器をフルバーストする。

放たれる銃弾を機体に掠めな がら……怯まない2機はフルブーストで突っ込み、ビームサーベルを構える。

交錯した瞬間、ビームサーベ ルの剣閃が煌き……デュエルパラディンとスペリオルが過ぎった瞬間……フリーダムは全身をバラバラに斬り裂かれ、空中分解する。

距離を離し……後方で爆発す る……その爆発を背に一気にウリエルへと加速し、その光景にテルスは笑みを噛み殺す。

「ククク……まあいい…なら 俺自身の手で相手をしよう………ウェンドの奴も、なにかイレギュラーが起こったらしいしなっ」

周囲を見渡すと、先程からエ ンジェルがなにか麻痺したように動きを硬直させている。エンジェルはウェンドの機体から繋がるネットワークシステムによって統括されている。だが、ウェン ドの機体反応が途絶えた気配は見えない。どうやら、外部からネットワークに対し攻撃を試みた者がいるようだ。

そんな芸当ができる人間がい たとは……まあ、そんな事はテルスには関係ない。

自分にとっての愉しみに今こ の眼前に立ち向かってくる2機だ。

多少のイレギュラーがあった が……遂に自分の前まで来た……なら、自分の手で奴らを殺してやろう……そうほくそ笑み…ウリエルがその巨体を起こす。

「挨拶代わりだ…受け取 れっ」

ウリエルの頭部に備わった機 関砲:デスベラードを発射する。4門の砲門から放たれる銃弾が、2機に襲い掛かる。

その巨体故に機関砲といって もその威力はレールガン並みの威力があり、また貫通力も高い。いくらPS装甲でも何発も受け続ければ、装甲は保っても内部機器から破壊されかねない。

機体を掠める銃弾を歯噛みし てかわすも……一門から何十発と放たれる銃弾が約4倍…それだけの銃弾を全てかわすのは不可能であり、スペリオルのAFの装甲を銃弾が掠め、PS装甲さえ 搭載せず、また機動性強化のために軽量された装甲故に掠めただけで崩れ落ちる。

そのためにバランスが崩れ、 僅かに失速する。

「しまっ……!」

リーラが息を呑んだ瞬間…… 銃弾が一気にスペリオルに襲い掛かった。ベアリング弾の猛攻を受けたに等しい銃弾の散弾を喰らい、スペリオルが吹き飛ばされる。

「きゃぁぁぁぁっ!」

スペリオルの装甲に着弾し、 AFを砕きながら吹き飛ばされ…リーラの悲鳴が響き渡る。

「リーラ! っ!?」

一瞬気を取られた瞬間…イ ザークは自身のモニターに迫る影に反応が遅れた。

ハッと眼を凝らすと……腕を 伸ばすウリエルの巨大な手がモニターに迫り、反射的に逃れようとするも僅かに遅く、ウリエルの手にデュエルパラディンのボディが掴み取られる。

「ハハハ! 弱い奴が群れよ うとも俺には勝てねえぜ!」

侮蔑するように吐き捨て、握 り締める手に力を込める……その握力にボディフレームが軋み、イザークは歯噛みする。

巨大な純白の天使の哄笑が… その場に響き渡る。

まるで……全てを破壊する巨 神のごとく…………

 

 

2体の影が折り重なる中心か ら…エネルギーがこもれ……そのエネルギーに弾かれるように飛ばされる2機…マーズとガブリエル………

「ぐっ……なかなか味な真似 をしてくれますね、歌姫」

やや苛立ちを滲ませた声で侮 蔑するウェンド…ガブリエルの胸部が僅かに焼け焦げ、煙を上げている。

「はぁ、はぁ……」

ラクスの方はそんな言葉に言 い返す力もなく……呼吸を乱している。マーズの胸部も僅かに融解している。密着した状態で放ったスキュラは、確かにウェンドの不意を衝いたものであった が、それはラクスにとってあまり芳しい結果ではなかった。

マーズはスキュラの発射口を 融解させ、機能を失ったのに対し、ガブリエルは胸部装甲が焼け焦げただけ……さしてダメージを負っているようには見えない。

重装甲ゆえに施された対ビー ムコーティングのおかげだろう……ラクスは微かに歯噛みする。

恐らく…二度はないチャンス であったが……それをものにはできなかった。次に来るであろうガブリエルからの攻撃に身構える。

「なら…次は僕から仕掛けて あげましょう……その綺麗な顔が歪むのをね」

ウェンドもやや自尊心を傷つ けられたように表情を僅かに歪め…そして、ガブリエルはゆっくりと両手のソドムとゴモラを構える。

神話のなかで天使ガブリエル が焼き払った愚者の街の名を冠する二対の砲……それらの銃身を連結させ、巨大な砲とする。

大型ビーム兵器:ネロス…… 連結された砲のエネルギーが集束され…その砲口にエネルギーが満ちる。

「っ!?」

その光にラクスは反射的に身 を捻った瞬間……砲口から光の速さと錯覚するように解き放たれる閃光が真っ直ぐ伸びる。

その閃光はマーズを掠め…… ウラヌスを掲げて逸らすも、その熱量に表面が融解し…ラクスは瞬時にウラヌスをパージする。

閃光が過ぎった瞬間……パー ジしたウラヌスは一瞬スパークし、次の瞬間には爆発のなかに掻き消えた。

「ううっっ!」

その爆風に怯むラクス…… ウェンドは高らかに笑う。

「歌姫…まだ終わりません よ……エンジェルに…っ! 何だ、これは!?」

トドメを刺そうとエンジェル を操作しようとした瞬間、ウェンドはその違和感に気づいた。そしてラクスも、いつまで経ってもこない衝撃に眼を瞬き…周囲を見渡すと、エンジェル群がなに か機体を痙攣させ、硬直している。

「いったい、これは……?」

その不可解な現状にラクスも 思わず首を傾げ、ウェンドは悔しげにコンソールを叩く。

「僕の造ったネットワークシ ステムに侵入されただと……っ」

ウェンドが造り上げたエン ジェルによる機動兵器のネットワーク……ガブリエルを中心に、何十というエンジェルを同時に操作し、動かすシステム…最高傑作と呼べるほどのシステムに侵 入されたばかりか、ウイルスを流された。そのウイルスによりネットワークが麻痺し、それが一気に全エンジェルへと伝染し…システムがエラーを起こし、エン ジェル群は現状のようにただの屑鉄と化している。

「ええい! 04か…いや、 違う! いったい誰が……っ!?」

このネットワークにアクセス できる可能性としてあるのはオペレーション能力にも秀でていた04のみ。だが、04は今戦闘中だ…こんな真似ができるはずもない。

自らのプライドを大きく傷つ けられたウェンドは怒りを露にし、コンソールを叩き出す。

「くそっ、すぐに再構築 を……っ!」

誰かは知らないが、随分と小 賢しい真似をしてくれたと毒づき、コンソールを叩いてネットワークを再構築しようとするも…眼前に迫るビームにハッと作業を中断し、操縦桿を引いてかわす も…反応が僅かに遅れ、装甲が焼け焦げる。

「っ」

小さく舌打ちし…邪魔をした 機体…マーズを見やる。バックパックのフォルティスUを構え、その砲口より煙が上がっている。

「理由はよく解かりません が……どうやら、これは貴方にとって不測の事態のようですわね」

どこかしたり顔で呟く……そ して…ラクスはその思考をフル回転させ、この状況を自身にとって優位な方へと傾けるべく、マーズのジークフリートを放つ。

不意を衝いた先程と違い、ガ ブリエルは今度は悠々とかわし、ミサイルを一斉に発射する。

数百発の迫るミサイルをシ ヴァ、ガトリング砲、フォルティスUを一斉射し、撃ち落とす。2機の周囲に閃光が幾つも満ちる。

その巻き起こる閃光と爆風 に…ウェンドがセンサーを使い、動きを読む……刹那…爆風を裂いて何かが飛び出し、反射的にソドムを放ち、ビーム弾が掠め、何かが爆散する。

だが、爆発の熱量が小さいこ とに気づいた瞬間……巨大な奔流が正面から襲い掛かり、咄嗟にゲヘナを持ち上げ、防御するも…その熱量に推され、吹き飛ばされる。

「ぐぅぅぅっ!」

苦痛に歪む表情……爆煙が晴 れ、その奥から姿を見せるシークフリートを構えるマーズ……その砲口から硝煙が立ち昇る。

「やはり、貴方にとってはか なりご立腹の事態のようですわね……先程のような簡単な手に引っ掛かるぐらいですし……」

今の空中へと放ったのは相手 の注意を引きつけるためのミサイルによるフェイント……だが、こんな子供騙しの手は通じないと思っていた。だからこそ、ラクスは試したのだ…もし、引っ掛 からなければ…事態に変化はないが…もしそれに僅かでも反応すれば……ラクスの賭けはどうやら成功したようだ。

まず間違いなくこの現状に ウェンドは混乱し、どうにか打開しようとしている。そのために自分の相手だけに集中できなくなった。

「察するに…どうやら、この 天使達を統括しているのは貴方の機体のようですわね……それにこの天使達の状態…システムでもクラッシュさせられましたか?」

その言葉にウェンドは微かに 歯軋りし、恥辱に拳を震わせている。相手からの返答がないことに図星と察したラクスはさらに言葉を続ける。

「そして貴方は、この状態か ら立ち直らせるためにシステムの再構築をしようとしているのでしょう……だから、私の相手はできない…と………」

ジークフリートを構えるマー ズ……そして、それに応えるようにガブリエルもゲヘナを構える。

「ならなおのこと…私に付き 合っていただきますわ……片手間で倒されるほど、私の命は安くはありませんよ…それに、最後までお相手するのが礼儀でしょう……」

静かに謳うように発しなが ら…マーズはジークフリートを放つ……ガブリエルもまたゲヘナを放ち、両機の中央でエネルギーがぶつかり、スパークする。

一瞬視界を遮られるも、ラク スは追い討ちをかけるようにトリガーを引くタイミングをサポートAIに直結してあるパートナーに呼び掛ける。

「ピンクちゃん!」

【ハロ! 照準、セット!  撃テ、ラクス!】

センサーが高速で処理し、ガ ブリエルの動きを読む……自動的に合わさる照準に向けて、ラクスはトリガーを引く。

マーズのフォルティスUが放 たれ、ガブリエルの装甲を掠める。脚部のブースターを噴かし、移動するガブリエルの動きをトレースし、そしてラクスの瞳が動き、ガブリエルの進行方向を捉 えると同時にミサイルを発射する。

自身の行動を予測したように 迫るミサイルにウェンドは歯噛みし、ゴモラで撃ち落とす。

「小癪な……っ! いいで しょう、エンジェルの修復は貴方を倒してからにしましょう!」

ウェンドはエンジェルのネッ トワーク修復を中断し、優先目的をラクスの抹殺に切り替える。

修復はあとでも構わない…ま ずは、先程から小賢しげに応戦してくるラクスを黙らせればいいと……ここまで自身に不快感を味合わせてくれた相手へのウェンドの怒りだった。

彼にしてみれば、ラクスは単 に遊び相手でしかなかった……パイロットとしての能力差は歴然としている。その彼が本気を出せば、勝負を着けるなど他愛ない片手間と変わらない。

距離を詰めるように加速する ガブリエルのゲヘナのガトリング砲、そしてビーム砲が一斉に放たれ、マーズを掠める。

「うぅぅぅ!」

元々、機動性に乏しいマーズ ではそれらを機動で回避するのは難しい…ラクスにできるのは、この重装甲に頼るしかないのだ。

シヴァUを放ち、牽制する も…ガブリエルは同じ重装甲機とは思えないほどの機動性で回避し、肩部のレーザー突撃砲を連射する。

高回転で放たれる銃弾がマー ズの装甲を掠める……息を呑むラクスに向かってガブリエルが突進し、弾き飛ばす。

「うぁっ!」

身を打ちつけ、苦悶を浮かべ るラクス…そこへ発射されるグレネード弾がボディに着弾し、爆発によって吹き飛ばされる。

「きゃぁぁぁっ!」

連続の衝撃に耐え切れず、 マーズはデブリへとその身を抉りながら激突する。

痛みに声を押し殺しながら… 麻痺する身体で立ち上がろうとするも……倒れるマーズの直上に現われるガブリエル……そして、ウェンドは醜悪な笑みを浮かべる。

「所詮、貴方は戦う駒として は不十分なのですよ……御自分の身の程をよく知ったことでしょう……」

嘲笑を浮かべ…そして、幾分 か害されていた気分が和らぎ、ウェンドはガブリエルのバックパックの大型の砲身をセットアップする。

回転し、肩に倒れるように セットされ、そこに照準用固定具が起動し、肩に固定される。

ガブリエルの持つ兵装のなか でも群を抜く最強の兵装、小型陽電子砲:ソロモン……その照準がマーズにセットされる。

「では、後悔の続きは地獄で していただきましょう……アデュー、歌姫」

砲口に蒼白い粒子が集束 し……ラクスが息を呑んだ瞬間、ビームが降り注ぎ、ウェンドがハッと身を翻した瞬間、集束していたエネルギーが周囲に拡散し、ガブリエルは吹き飛ばされ る。

「ぐっ! なに……っ!?」

歯噛みするウェンドにラクス が眼を見開く。

2機の上方からビームを放ち ながら迫る真紅と黄金の機体……ラクスは表情を和らげる。

「アスラン! カガリさ んっ!」

「ラクス、無事か!?」

「遅くなってすまん!」

マーズの前に立ち塞がり、 ジャスティスが構え…アカツキがマーズに手を貸し、引き上げ起こす。

その様子に苦々しく舌打ちす るウェンドだったが、やがて何かを思いついたように表情を歪める。

「ほう? 貴方方がここに来 たということは……フフフ…成る程……で、どちらが殺したのでしょうか?」

見透かすような物言いに、ア スランとカガリが息を呑む。だが、ラクスは首を傾げる。

「どうしたのですか、お二人 とも?」

二人の様子がおかしいことに 不審そうに見やるも、アスランもカガリも唇を噛み、口を噤んでいる。怒りに震えるように身体が揺れる。

尋常でない様子にラクスはま すます眉を寄せるも…そこへ嘲笑が響く。

「アハハ、これは意外でした よ……てっきり貴方は殺されてくれるものとばかり思ってましたからね…彼女の手で」

嘲笑が響き、アスランの眼が 鋭くなってガブリエルを睨む。だが、その口は閉ざされたまま…ラクスが口を開く。

「いったい、どういうことで しょう……アスランとカガリさんに何をしたのですか!?」

厳しい視線と口調で問い詰め るラクスに…ウェンドは鼻を鳴らす。

「説明してあげないですか、 お仲間に?」

試すような物言いでアスラン とカガリに振るも、それに応えられないことを承知で卑屈な笑みを浮かべる。

「おや、失礼……では、僕が お教えしましょう。貴方方がここへ来たということは、僕の作品の一つであるイヴィルを破壊したということ……アレは僕にとってはなかなか傑作だと思ったの ですが、どうやら失敗作だったようですね」

大仰に息を吐き、肩を竦める ウェンド……だが、その瞬間…ジャスティスは加速し、ガブリエルに突撃する。

「うぉぉぉぉぉっっ!」

吼えるアスランとジャスティ スのビームサーベルが鋭く振り下ろされるも、ガブリエルはゲヘナのシールドを掲げて受け止める。

表面に展開される光波シール ドがビームの熱量を排熱させ、アスランは歯噛みする。

「お前か!? お前が…母上 をっ!」

「責任転嫁ですか? いけま せんね……その母親を殺したのは僕ではなく貴方自身でしょう…もっとも、彼女ももう既に死んでいたのですがね」

なおも挑発するように発しな がら、ガブリエルは至近距離でソドムを放ち…ジャスティスは反射的に後退する。

ビーム弾が機体を掠め、続け て発射されたミサイルが一斉にジャスティスに襲い掛かり、着弾する。

「ぐぁぁぁぁっ!」

振動に呻き、弾かれるジャス ティス……ラクスとカガリが声を荒げる。

「アスラン! くそっ、ラク ス、アスランを頼む!」

反射的にアカツキが加速し、 右手に長刀を構え、左手にビームサーベルを抜いてガブリエルに斬り掛かる。

ラクスは吹き飛ばされるジャ スティスに接近し、声を掛ける。

「アスラン、ご無事です か?」

「あ、ああ……」

「いったい、どうしたのです か? 母とは…レノア様がどうかしたのですか? もしや…」

アスランらしくない感情の激 昂……そのなかで発せられた母親の言葉……アスランは口を噤み…そして、今までのエンジェルや取り込まれたパイロット達のデータに眼を通したラクスは考え たくない結論に至り、声を震わせる。

そうであってほしくない と……必死に願いながら…だが、アスランが暫し逡巡の後……怒りを滲ませる声で応えた。

「殺したんだ…俺の手 で………母上を……あのイヴィルという機体に乗せられていたのは…俺の母だったんだっ」

半ば吐き捨てるように言い 放った言葉……だが、ラクスは戦慄し、表情を強張らせる。

「そ、そんな………」

そこでラクスはハッとした… 最初のウェンドのやり取りでウェンドが発したあの言葉…『面白い』とは……この事を指していたのか……と…ラクスの内に果てしない怒りが沸き上がってく る。

そして…それを自ら倒したア スラン……その心中は、計り知れないほどの大きな傷となっただろう。

「ですが、アスラン…」

「いいんだ……たとえどうで あれ…俺の手で殺してしまったことに変わりはない………」

アスランのせいではないと… そう話そうとしたが、その前に制され…アスランは眼を伏せる。

どんな理由があったにせ よ……自分の手でやってしまったことに変わりはないのだ……だが、アスランは逡巡していた顔を上げ、アカツキと交戦しているガブリエルを見やる。

「だが、俺は母上に約束した んだ……大切なものを護るために戦うと…母上の死を…無駄にしないとっ」

あの最期にジャスティスに届 けられたメッセージ……アレが、アスランの心を繋ぎ止めてくれた…偽善かもしれない……だがそれでも……この十字架を決して忘れないために…母親の死を無 駄にしないためにも………

「俺は…戦うっ」

刹那……アスランの内で何か が弾け、感覚がシャープに包まれる。操縦桿を引き、加速するジャスティス……アカツキと交戦中のガブリエルへと割り込んでいく。

接近戦を仕掛けるアカツキを 巧みな機動でかわし、翻弄するガブリエル…急接近する反応に斬り掛かるアカツキを弾き飛ばし…振り向くと同時にビームが走る。

ジャスティスがビーム砲を放 ちながら真っ直ぐ加速し、連結させたビームサーベルを振り下ろす。

ガブリエルもゲヘナで受け止 めるも…その勢いにやや推される。

「くっ……なかなかやります ね…流石、肉親を殺せる鬼だけはあります」

自身の優位性を覆させないた めに…なおもアスランの葛藤を助長するように挑発するウェンド……だが、アスランの視線が鋭くなる。

「確かに否定はしないさ…… だが、俺は戦う! 大切なものを護るために戦えと言ってくれた母のためにも……今は、この血塗られた手で戦う…そして……」

手首を捻り、ジャスティスは サーベルの柄を回転させ、ガブリエルのゲヘナを弾き、空いたボディに向けてビーム砲を構える。

「お前を倒すっ!」

発射されるビームがガブリエ ルのボディに着弾し、その熱量がビームコーティングを超え、ボディ装甲が融ける。

「むっ!」

予想外の反撃にウェンドの表 情が歪む……吹き飛ばされるガブリエルのコックピットにアラートが響く。

振り仰ぐと同時に斬り掛かる 黄金の輝き……アカツキが懐に飛び込み、対艦刀を振り下ろす。だが、ウェンドの反応速度はそれを紙一重でかわす。

「このぉぉぉっ!」

カガリのなかで何かが弾ける 感覚……右手を振り下ろすと同時にカガリ自身も半ば無意識に左手を振り上げ、ビームサーベルがガブリエルのソドムの砲身を斬り飛ばした。

その攻撃にウェンドが驚愕す る。

「バカなっ! っ!?」

あり得ないカガリの反応に呆 気に取られ……真っ直ぐ襲い掛かる閃光がガブリエルに直撃する。

「がぁぁぁっ!」

呻くウェンド……既にガブリ エルのビームコーティングは意味を成さなくなり、そして、その攻撃を喰らわせた先に構えるマーズ……ラクスはアスランとカガリに向けて叫ぶ。

「アスラン! カガリさん!  恐らく、このエンジェルを統括しているのはその機体です!」

思い掛けない言葉に二人の眼 が見開かれる。ラクスはなんとしてもここでガブリエルを破壊するべきと考えていた。

既に、このエンジェル達の機 能が麻痺している今……それが復活するのだけは避けたい。エンジェルが全機無効化できれば、それだけ勝率が上がる。

追い討ちをかけるべくマーズ もフォルティスUを構えて再度爆煙に包まれるガブリエルを狙おうとする。

「その機体を無効化できれ ば、エンジェルも……きゃぁぁっ!」

トリガーを引こうとした瞬 間、前方の爆煙を裂いて発射された蒼白い奔流がマーズを掠め、その余波がマーズの右肩のシヴァUごと装甲を融解させ、マーズは態勢を崩す。

「「ラクスっ!」」

だが、二人の意識は爆煙のな かから所構わず放たれる攻撃にすぐさま向けられ、ラクスの方へと回れなくなる。

爆煙を裂きながら出現するガ ブリエル……純白の装甲は焼け焦げ、そしてその頭部もまた右眼のセンサーが砕け、内部のコード類が飛び散り、醜悪さを醸し出している。

「よくも…よくもこの僕のプ ライドを、ここまで傷つけてくれましたねぇぇぇっ!」

語気を荒げ、ウェンドはガブ リエルの全火器を展開する。

「全てに灼き尽くされるがい いっ! メギドフレイムっ!!!」

刹那、ガブリエルの全火器が 火を噴く……ビーム砲、ガトリング砲、レールガン、そして何百というミサイルが全方位に発射され、ジャスティス、アカツキ、マーズに襲い掛かった。

その圧倒的な大火力が3機の 周囲で炸裂し、連鎖反応を起こして広域に渡って爆発が巻き起こる。

まさに…神話のなかにおける 神の怒りの炎……全てを灼き尽くす炎………全火器の発射口から煙が噴き上がり、佇むガブリエル……そして、その光景にウェンドは笑みを浮かべる。

「フフフフ! 僕に逆らった 愚かさ、せいぜい地獄で悔やみなさいっ」

幾分か気分が和らぎ……ウェ ンドは圧倒的な勝利の余韻に浸りそうになる。

高らかに哄笑を上げ…完全に 勝利を確信し、注意を散漫させている……次の瞬間、未だ前方で消えぬ閃光のなかから伸びる閃光が隙を見せていたガブリエルに突き刺さった。

「フフフ……うああぁっ!」

完全に失念していたウェンド はその奇襲に対処できず、無防備に直撃したビームにガブリエルの左腕が吹き飛ばされた。

爆発が機体を襲う……破損し た部位を押さえながら顔を上げるウェンド……やがて引いていく閃光の奥から姿を見せる機影………

シールドを掲げて防御する ジャスティス…そして、黄金の装甲が半ば剥がれ落ちながらもなんとか四肢を残すアカツキ……その一番奥で装甲を焼け焦げさせながらもジークフリートを構え るマーズ………

あのガブリエルの最強の奥の 手を受け……無傷ではないものの、なんとか耐え切った3機……その姿にウェンドは歯噛みし、憤怒に荒れ狂う。

「ぐっ……往生際の悪いっ!  なら、今度こそ葬ってさしあげますよっ!」

冷静さを欠き……加速するガ ブリエル……そのガブリエルに向けて、アスランとカガリは眼を見開き、ジャスティスとアカツキがフルブーストで突進する。

「はぁぁぁぁっ!」

カガリの咆哮とともに振り下 ろされる刃がガブリエルのゲヘナで受け止められる。鼻を鳴らすウェンド…だが、次の瞬間……ジャスティスがアカツキの影から飛び出し、ビームサーベルを振 るい、ソロモンの砲身を斬り飛ばす。

一拍後、爆発が機体を襲い… ウェンドの表情が歪み、さらなる連撃にアカツキの対艦刀が振り上げられ、ゲヘナの砲身が斬り落とされる。

離脱と同時にレールガンを放 ち、爆発するガブリエル……追い討ちをかけるような衝撃にコンソールの一部が破損し、ウェンドに襲い掛かる。

「がはっ……ぐぅぅ、よく も……よくも、この僕に傷を……っ!」

額から鮮血を流し、激昂する ウェンドはゲヘナをアカツキに向けて投げ飛ばす。

「うわっ!」

真正面から激突し、態勢を崩 すアカツキに向けてガブリエルは残ったゴモラを放ち…ビームがアカツキのIWSPストライカーUを撃ち抜く。

「くぅ…くそっ!」

反射的にカガリはストライ カーパックを強制パージし、本体から離脱するストライカーが次の瞬間、バックパックで爆発し、起こる爆発にアカツキは態勢を崩す。

ガブリエルは脚部のバーニア を噴射させ、ジャスティスに向けて突撃する。

「ふざけやがっ てぇぇぇぇっ!!」

激昂するウェンド…その行動 に眼を見開くアスラン……だが、あまりに予想離れした行動に対処できず、重装甲の体当たりを受け、ジャスティスは弾き飛ばされる。

「ぐぁぁぁっ」

呻くアスランのジャスティス は弾かれ、そのまま加速するガブリエルはマーズへと向かう。

彼にとってプライドを大きく 傷つけた身の程を知らぬ駒であった少女……ウェンドは完全に怒りに猛り、狂っている。

「僕は! 僕はMCナンバー 06だ! ナチュラルやコーディネイターなどに遅れを取るものかっ!!」

これまで冷静に…そして相手 を完全に自身の手の内に引き込み、罠に嵌り苦しむのをただ見詰めるだけであった姿は何処にもない……もはやあるのは己のプライドを傷つけた者への純粋な憤 怒のみ………

その突進してくるガブリエル をラクスはどこか冷めた眼で見詰める。眼を伏せ…ラクスは静かに呟く。

「私はこれまで……誰かをこ れ程憎んだことはありません………」

ラクス自身…誰かを憎むとい う感情自体が元々薄かった……だが、ここまで相手を憎んだのは彼女にとって初めてのことだった………

死を弄び……そして……それ を汚す者………この相手だけは…絶対に赦せない………

「私のすべて……これに賭け ましょうっ!」

刹那…ラクスの内で弾ける感 覚………クリアになった視界がガブリエルの動きをスローモーションのように映らせる……まるで…水のなかを動くかのような感覚……ジークフリートを両手で 構えるマーズ……その砲口に集束するエネルギーの滾り…だが、ウェンドはその光に構うことなく突撃をかける。

「歌姫ぇぇぇぇぇ!!」

「私は、歌姫ではありませ ん……ラクス=クラインですっ!」

フルブーストで迫るガブリエ ルに向けてラクスが叫んだ瞬間、トリガーが引かれた……刹那、ジークフリートの砲口から解き放たれる閃光がガブリエルのボディに直撃する。

真正面のモニターから溢れん ばかりの閃光がコックピットに充満し、それが自身の身体さえも呑み込んでいく現実にウェンドの眼が見開かれる。

「ば、バカなぁぁぁ…僕が… 僕が………負ける……」

もはや現実を知覚できないほ ど思考が停止する……閃光のなかに灼き尽くされていく身体……消えていく思考のなかで……ウェンドは片言のように呟いた………

「ア…アハハハ……僕も所詮 は……ただの駒でした…か……プロフェッサー……フフフ…アハハハハハッ………」

自虐的な笑みを浮かべたま ま……ウェンドはその身体も…感覚も……思考さえもやがて炎に包み込まれ……闇へと消えていった………

ボディに突き刺さったビーム はコックピットを貫通し、背中から弾けるように飛び出す。

だが、フルブーストしていた ガブリエルはボディを貫かれながらも加速を止めず……そのままマーズの至近距離に迫った瞬間、機体が大爆発を起こす。

その爆発に巻き込まれ、呑み 込まれるマーズ……その光景に、アスランとカガリは息を呑み…悲痛な叫びを上げた。

「「ラクスッ!!」」

その閃光に向かって叫ぶ二 人……火力を追及したガブリエルの爆発……その爆発は通常のMSの爆発よりも高い。それを至近距離で受けた……助かるかどうかは解からない。

だが、二人は必死になってそ の爆発をサーチする……1%の可能性に賭けるように捜すアスランとカガリ……そして、センサーがなにかを捉えた。

「っ!」

息を呑む二人の前で…爆煙が 周囲に引き、その奥から姿を見せる機影………その形状が徐々に浮き上がり、二人の表情が緩んでいく。

全身焼け焦げ、そして右手に 持つジークフリートの砲身が融け、半ば満身創痍な状態ではあるが……姿を見せたのは、間違いなくマーズであった。

「ラクス、無事か!? お い、返事しろよ!」

咳き込むように問い返すカガ リ…そして、通信からノイズ混じりに返答が返ってくる。

「だ、大丈夫…ですわ……お 二人…とも………」

やや掠れた声ながらも……確 かに聞こえてきたラクスの声にアスランとカガリが笑みを浮かべる。

安否をより確認しようと…近 づくジャスティスとアカツキ……ラクスもコックピット内でやや安堵の笑みを浮かべ……そして、周囲をやや沈痛な面持ちで一瞥する。

マーズの周囲に漂う白い破 片……己が歪んだプライドのために……全てを利用しようとした哀れな少年の成れの果て……だがそれは…自分でもあったかもしれないのだ………

今のラクスに葬送曲を歌うつ もりなどない……今の自分は…歌姫ではない……ただのラクス=クラインなのだから………

静かに一瞥し……ラクスは仲 間の許へと向かう……自分には仲間がいる……だから…決して立ち止まらない…その想いを胸に…………

 

――――C.E.71.10.2 22:00……

――――AEM−002:ガ ブリエル撃破………

――――MCナンバー06: ウェンド戦死…………

 

 


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