彼方で轟く爆発……それは、 周辺宙域からも察することができた。

そして……弾け飛んだ気配に も………デュエルパラディンを握り締めるウリエルのコックピットで、テルスはその気配を感じ取り、微かに息を呑んだ。

「この気配は……ウェンド か………殺られたか……」

すぐ近くで弾け飛んだ気配は 間違いなく同じMCナンバーのもの……そして、それは遂先程も感じ取った………

「01に続いて散ったのがま さかお前とはな………バカな奴だ」

最初に感じ取った気配は間違 いなくナンバー01のもの……だが、アディンが砕け散ったのは別にどうでもいいことだった。所詮は初期ナンバーの失敗作……だが、続けて消失したのがナン バー06というセカンドナンバーシリーズとは………テルスは仲間を哀れむどころか侮蔑するように鼻を鳴らした。

「所詮、奴は感情面をうまく 制御できない一面があった……欠陥品は壊れて当然……」

セカンドナンバーシリーズの 面汚しとでも言うように吐き捨てる。

「だが、俺は違う……俺は、 06のような徹は踏まんっ!」

握り締める拳に力を入れ…… デュエルパラディンのボディが軋み、イザークは歯噛みする。

なんとか脱出しようとする も、両腕まで拘束されている状態ではどうにもならず、テルスはニヤリと笑みを浮かべる。

「さぁて……他の連中も一緒 に始末してやるか」

自身の操るフリーダムの相手 に回った機体……仲間という小賢しい妄信に縋る愚かな連中もまた排除するために……テルスは意識を集中させ、残る3機のフリーダムに邪魔をした機体の完全 破壊を実行させる。

離れた宙域にて起動するフ リーダム3機へとその意識が繋がり……テルスの感応波によって最優先項目をセットアップされ、モノアイが不気味に輝く。

動きを止め…滞空するフリー ダムにニコルとシホは怪訝そうに構える。一瞬沈黙するも……次の瞬間、フリーダム3機は翼を拡げ……一斉に飛翔する。

「「っ!!?」」

息を呑むニコルとシホ……背 中合わせに構えるブリッツビルガーとシュトゥルムの周囲を高速で包囲するように飛び回る3機のフリーダムはまるで分身するように残像を残し、ビームライフ ルを構えて狙撃してくる。

全方位から放たれるビームに ブリッツビルガーとシュトゥルムは防御して防ぐが、絶え間なく放たれるビームに反撃する隙を与えない。

もし一瞬でも防御を解けば、 一瞬にして破壊される……だが、ブリッツビルガーのトリケロスUとシュトゥルムのリフレクトシールドもそう長く保つ訳でもない。

こうしているだけでも熱量の 排熱限界を超え、いつ破壊されるか解からない。ニコルとシホもこの包囲網を突破する道が見えず、苦悶を浮かべる。

やがて、遂に限界がきたの か…トリケロスUの表面が融解し、亀裂が走る。ニコルが息を呑んだ瞬間、シールドが砕け散る。

「うわぁぁっ!」

爆発に吹き飛ばされるブリッ ツビルガー……その光景にシホが息を呑む。

「ニコルさんっ!」

慌ててブリッツビルガーを受 け止めるも、それが一瞬の隙を生み、シュトゥルムに向かって放たれるビームが左肩に着弾し、装甲とビームキャノンを吹き飛ばす。

「きゃぁぁぁっ!」

肩の装甲が爆発し、衝撃が機 体を揺さぶる……左肩から噴き上げる煙……フレームは無事のようだが、ダメージは大きい。

ブリッツビルガーもシュトゥ ルムも既に機体の限界が近い……満身創痍に近い2機に向けて3機のフリーダムは動きを止め、全火器のバレルを展開する。

向けられる12門の砲口…… アレの一斉射を受ければ、まず間違いなく機体ごとバラバラにされるだろう……ここにきてニコルとシホは半ば覚悟を決めかけた。

「すいません、シホさん…… 貴方まで巻き込んでしまって………」

自分は仮にも一度死に掛けた 身……だが、シホまで巻き添えにしてしまうことに罪悪感を憶える。だが、それに対しシホは首を振る。

「いえ……覚悟は、できてい ましたから………それに、悔いはありません」

そう……もう迷いはなかっ た………シホは初めて自分のために戦えたような気さえする…それだけで満足だ。軍人になった時には、既にこの覚悟はしていた……悔いはない。

こんな時にする会話らしくな く……二人は苦笑を浮かべ…砲口にエネルギーが集束し、訪れる瞬間を待ち構える………

だが、3機のフリーダムは突 如モノアイを動かし……次の瞬間、飛来したビームに一斉に離脱する。

身を振り被り、フルバースト する……放たれた先で分散する機体群……刹那、一機は真正面に現われた機影が振り被った一撃に機体を真っ二つに斬り裂かれ、爆散した。

斬り裂いた機影:ヴァリアブ ルは右手のレーヴァティンを振り、残り2機のフリーダムに向けて砲撃するインフィニート、2機のM1。

友軍機の登場にニコルとシホ がやや呆然となっていると、そこへ声が響いてきた。

「無事か、ニコル?」

「なんとか間に合ってよかっ たしょ」

ブリッツビルガーとシュトゥ ルムに寄るメガバスターとストライクルージュ……ディアッカとルージュのコックピットにはラスティ、そしてその後ろにはアサギの姿がある。

前進していたネェルアークエ ンジェルと合流し、すぐさま武器交換を行なったメガバスターは出られたが、流石にイージスディープはスクラップ同然であり、空いている機体のなかったラス ティではあったが、道中護衛のために合流していたアサギに無理を言い、こうしてストライクルージュを借り受けた次第だった…アサギがバックで同乗するとい う形でだが………

「ディアッカ、ラスティ、助 かりました」

「礼は後回しっしょ…まず は、あいつらを倒さないとな」

「そういうこった……いく ぜっ」

メガバスター、ストライク ルージュ、ブリッツビルガー、シュトゥルムの4機が飛び……2機のフリーダムと戦闘を繰り広げるアルフ達の援護に向かう。

インフィニートのガトリング 砲が火を噴き、そしてマユラとジュリのM1がビームライフルで援護し、牽制する。

フォーメーションが微かに崩 れた隙を衝き、ヴァリアブルが斬り掛かるも、2機のフリーダムは左右に分散して回避する。

舌打ちするメイア……片方の フリーダムがビームライフルを構え、ヴァリアブルがシールドを掲げた瞬間、横から割り込むように放たれたビームがフリーダムのビームライフルを撃ち抜き、 破壊する。

メイアが振り向くと…加速し てくる4機……メガバスターが砲撃し、フリーダムを牽制する。

そこへ接近戦を仕掛けるよう に突撃するブリッツビルガー、シュトゥルム、ストライクルージュ……過ぎった瞬間、通信が届く。

「こちらの敵は私達がやりま すっ…大尉達はそちらをお願いしますっ」

やや上擦った声で届いたアサ ギの通信……メイアがアルフを見やると、アルフは頷き…もう一機のフリーダムに狙いをつける。

「俺達はあちらをやる! メ イア、ラバッツ三尉、ニェン三尉は俺とこいっ」

インフィニートからの指示に 頷き、ヴァリアブルと2機のM1は加速し、もう一機のフリーダムへと向かっていく。

フリーダムはビーム砲を展開 し、砲撃してくる…4機は分散し、ヴァリアブルが急加速し、マユラとジュリのM1がビームライフルを連射する。

「このぉぉぉっ!」

「当たれぇぇっ!」

連射するM1は狙いをつけず に狙撃し、フリーダムを狙う。その出鱈目な軌道にフリーダムのAIが混乱する。

戸惑うフリーダムに向けて ヴァリアブルがパッセルを抜き、振り投げる。ビーム刃を展開し、回転するブーメランがフリーダムの脚部を斬り飛ばす。

態勢の崩れたフリーダムに向 けてインフィニートが急接近する。フリーダムはバルカンで狙撃するも、武装を取り外したインフィニートはアストレイの機動性を駆使し、回避する。

ビームナイフを抜き、フリー ダムの頭部に向けて突き刺し、蹴り飛ばす。

一拍後、頭部が爆発し、吹き 飛ばされるフリーダム……最後のトドメとインフィニートとヴァリアブルがビームライフルを同時に構え、発射する。

2条のビームがフリーダムの ボディを貫き、フリーダムが爆散した。

そして……もう一機のフリー ダムに向かっていく4機……メガバスターとシュトゥルムがアグニUとブラストビームキャノンを構える。

「もらったぜっ!」

「そこですっ!」

発射される閃光……振り被っ たフリーダムはビーム砲を放ち、ビームを相殺させる。閃光が満ち、視界を覆う。

その閃光のなかから飛び出し てくるブリッツビルガーとストライクルージュ……ルージュから受け取ったビームサーベルを振り被り、ブリッツビルガーが斬り掛かる。

フリーダムもビームサーベル を抜いて受け止め、至近距離でレールガンを発射する。ボディに着弾し、弾き飛ばされるブリッツビルガー……

「ラスティ君!」

「解かってるっ!」

背中で叫ぶアサギに叫び返し ながら、ストライクルージュがエールストライカーを噴かし、ビームライフルを放つ。

シールドを掲げて受け止める フリーダム…だが、次の瞬間……懐に飛び込んできたシュトゥルムがトライデントを突き、フリーダムの右腕を吹き飛ばす。

右腕が爆発し、態勢を崩すフ リーダムはビーム砲を乱射する。ビームの火線が翻弄するも…フリーダムの背後に現われるブリッツビルガーがビームサーベルを振り払い、ビーム砲ごとスラス ターを斬り飛ばす。

「今ですっ!」

ニコルの叫びにディアッカと ラスティが応じ、メガバスターがアグニUを最大出力で放つ。フリーダムは残ったシールドを掲げるも、その熱量を排熱しきれず、吹き飛ばされ…空いたボディ にストライクルージュとシュトゥルムのビームが撃ち込まれ、ボディを貫通し…フリーダムは爆散した………

爆発が同時に轟き……MDフ リーダムが全機撃墜されたことに感応波の微かな乱れを感じたテルスはやや表情を顰める。

「っ、全て墜とされただ と……くそっ」

予想外の事態だった……だ が、フリーダム7機を喪いはしたが、それは構わない。自分の手でそれを成せばいいだけだ……まずは、この小賢しい相手から握り潰す。

「まあいい……イザーク= ジュール、まずは貴様からだっ」

操縦桿を握り…それに連動し てウリエルの左手に込められる力……握り締められるデュエルパラディンの装甲がひしゃげ、イザークが歯噛みする。

だが、次の瞬間……ビームが 轟き、ウリエルの左拳に着弾する。

テルスは微かに息を呑み、そ れによって拘束が緩まり、イザークはその隙を逃さず操縦桿を引き、パワーを全開にして拘束を強引に解き、瞬時に離脱する。

舌打ちするテルス……イザー クはすぐさま機体の状態を確認するが、両肩の装甲はもう限界だ。異常を示すレッドシグナルが展開し、イザークは毒づく。

「くそっ、強制排除だ!」

苦々しげに両肩の装甲をパー ジし、身軽になったデュエルパラディンは先程の援護をした相手を見やる。

爆煙から姿を見せるスペリオ ル……レールガンの嵐に晒され、AFを半壊させられながらも飛び出すスペリオルにイザークはやや安堵し、テルスは不適にほくそ笑む。

「リーラ!」

「イザーク、無事!?」

「ああ、なんとかな……」

正直、機体のフレームはなん とか無事…装甲がやられたが、機体は軽くなった……あの巨体なら、機動性が高い方が分がある。

「リーラ、俺が奴の懐に飛び 込む…援護を頼むぞ!」

奴は所詮超大型MS……いく らその攻撃力とパワーが桁外れでも、小回りがきく方が有利なのは常識だ。

なら、接近戦を仕掛ければ勝 機はある……イザークの考えに頷き、リーラはスペリオルを加速させ、2機は分散する。

その動きを読み……テルスは 笑みを浮かべる。

「面白い……貴様らの攻撃が どこまで通じるかな……っ」

ウリエルは左手の5連装ビー ム砲を内蔵したシグマを構え、一斉に放つ。戦艦の主砲にも匹敵するその5条の熱量が2機を掠める。

その余波は、装甲を微かに融 かす…掠めただけでこれでは、直撃すればまず無事ではすまない。

微かに歯噛みするも、それは あくまで当たらなければいいだけ……機動性ならスペリオルは恐らく劣らない。

リーラはその閃光が轟くなか へと突っ込み、ビーム砲とミサイルを放ち、ウリエルを狙う。

周囲を纏わり突くように機動 するスペリオルの波状攻撃に、ウリエルはシグマでビームとミサイルを打ち消し、弧を描くように迫るミサイルをデスベラードで撃ち落とす。

爆発が轟き、ウリエルは閃光 に包まれる……その爆発にのり、デュエルパラディンは急加速し、ウリエルに迫る。

「もらったぁぁぁぁっ!」

あの巨体ならこの位置ではか わせまい……ボディに向けて斬り掛かるデュエルパラディンにリーラも勝機を確信する。だが、テルスはニヤリと笑みを浮かべる。

「あまいっ!」

刹那、ウリエルの胸部周辺の 噴射口から火が噴き、デュエルパラディンを直撃する。

「なっ!?」

突如舞い上がった炎にイザー クは一瞬怯み、そのため目測を見失い…次の瞬間……ウリエルの巨体は僅かに距離を開き、右手を振り薙ぐ。

振り払うように叩きつけられ る拳がデュエルパラディンに直撃し、弾き飛ばされる。

「ぐわぁぁぁぁっ!」

「イザークっ!」

響くイザークの絶叫に眼を見 開くリーラ……だが、ハッと無意識に操縦桿を引く。

過ぎる閃光……僅かに遅く、 AFの左翼が融解し、失速する……歯噛みするリーラはウリエルから距離を取り、弾かれたデュエルパラディンを受け止める。

「イザーク! しっかりし てっ!」

「ぐっ…くそ、なにがどう なってる……っ?」

タイミング的にかわすのも防 御するのも間に合わなかったはずが……あまりに一瞬の出来事にイザーク自身も何が起こったのか理解できなかった。

そこへ響く嘲笑……テルスが 喉を鳴らす。

「クハハハ…なかなかいい手 だったが……惜しかったな」

小馬鹿にするように哄笑を上 げる。

ウリエルの巨体という欠点を 衝いたいい攻撃だった……ここが重力のある地上や月なら、恐らく先程の攻撃にも反応できず、ダメージを受けていただろう。

だが、ここは重力の存在しな い宇宙空間……そして、このウリエルには全身に姿勢制御用の小型バーニア機構を機体随所に装備し、この鈍重さに見合わぬ機動性を発揮できる。無論、それを 活かすもパイロットの腕次第……

バーニアの点火を直撃で喰ら い、しかもそこへ大質量の拳の一撃……さしものデュエルパラディンも胸部装甲がひしゃげ、ショートしている。

「くそっ、ゲホっ」

歯噛みし、操縦桿を握ろうと するが…今の衝撃で打ちつけた影響か、イザークの身体は痺れ、操縦桿を握り締める手に力が入らない。

「イザーク、きゃぁっ!」

様子のおかしいイザークを気 遣うよりも早く放たれるウリエルからの砲撃、シグマが火を噴き、火線に晒される。

リーラは必死に操縦桿を操 り、火線を外そうとするも、デュエルパラディンを抱えていては小回りの機動は難しい。

「ううぅぅっ!」

翻弄され、振動に苦悶する リーラ……その苦しみを貪るようにテルスは笑みを浮かべる。

「どうしたどうした、姉貴?  そんなんじゃ、俺は倒せないぜっ!」

シグマを放ちながら……ウリ エルはバックパックの砲身を今一度展開し、肩にセットアップする。

2対の陽電子砲:ディアボロ スの砲口に蒼白い粒子が集束し、エネルギーをスパークさせる。リーラが息を呑み、最大出力でスラスターを噴かした瞬間……ディアボロスから閃光が迸った。

解き放たれる蒼白い奔流が進 路上のデブリや動きもままならないエンジェルを灼き尽くし、スペリオルと抱えられるデュエルパラディンに襲い掛かる。

「くぅぅっ!」

あらん限りに火線を外すため に最大噴射で上昇し、なんとか火線はかわしきったものの、その過ぎるエネルギーの余熱により2機は吹き飛ばされ、スペリオルは思わず手を離し、2機は浮遊 していた戦艦の残骸へとその身を打ちつける。

「ぐっ」

「うあっ」

衝撃に呻き、機体を麻痺させ たように硬直する2機の眼の前で拡散した粒子が過ぎった後には、ポッカリとした無が拡がり……完全に消滅させていた。

「み、味方機まで……」

進路上には、理由は解からな いが動きを麻痺させ、止めていたエンジェルが多数いた。だが、ウリエルはそれもお構いなしに放った。

唖然となるリーラの耳にテル スの嘲笑が響いてくる。

「ククク、いい様だな……そ んな足手纏いなど連れているからだ………戦場では弱い奴は死ぬ…いや……所詮この世界はそうだろう……強い奴が生き、弱い奴はその糧となる……」

放たれるテルスの言葉がリー ラにはかつて聞いたジークマルの言葉と錯覚する。

「お前もそうだろう……お前 のその力は、所詮は自身が生き残るためのもの……他者を退け、自身が生き残るためのな……」

「っ、違うっ!」

呑まれそうになっていたリー ラは大きく被りを振るように否定し、スペリオルが弾かれるように立ち上がり、ウリエルに向けて加速する。

ビームライフルを放ち、接近 戦を挑むスペリオル……ビームサーベルを抜いて斬り掛かるも、ウリエルはその巨体らしからぬ反応でシグマを振り上げ、ビーム刃を受け止める。

「はっ、なにが違う? 力こ そ全てだろう……力ある奴が正義となり、そして世界を動かす……そこに生きる全てが世界? 笑わせる…弱い奴はただそこで生を貪るだけしかできない愚かな 虫けらでしかないっ」

世界を…歴史を動かしてきた のはいずれも勝者だ………戦争でも政治でも……弱いものは負け、地べたを這いずり回り、強いものが弱者を動かすことができる……それで歴史は流れてき た………

弾き飛ばされるスペリオ ル……リーラは歯噛みし、ビーム砲とビームドライバーを展開し、一斉射する。

シグマのシールドに防がれる も、その熱量に煙が噴き上がる。

「私は……私の力は、貴方と は違う! 私の力は、護りたいもののためにあるっ!」

偽善でもいい…自己満足でも いい……だが、リーラには譲れない………自分が力を求めたのは……護りたいもののため……愛する人のため………そしてなにより……自分自身だけでなく…… 全てを………

「まったく、面白い…面白い よなぁぁ……お前と俺はまるで水と油……鏡合わせみたいじゃないか、姉貴?」

高らかに哂い、リーラが苦々 しげに歯噛みする。

まさに正反対だ……同じ母親 の遺伝子から生まれ……こうまで違う………人の温もりから生まれたリーラと人の冷たさから生まれたテルス………

姉弟でありながら、二人のを 隔てるのはそれ故なのか……それとも………ただハッキリしているのは……決して互いを受け入れられぬということだけ………

「なら……自身の考えが正し いってことを……姉貴のその護る力ってやつが俺のこの壊す力を超えられるか……試してみろよっ!」

デスベラードが一斉に放た れ、レールガンの弾頭がスペリオルに襲い掛かる。

小刻みに機動しながら回避 し、スペリオルは反撃する……だが、ビームは全てシグマに受け止められ、届かない。

「さあどうしたぁ? 見せて みろよ! 姉貴ぃぃぃ!」

吼えるテルスに気圧されなが ら……リーラは苦悩しながらも叫び返す。

「負けない……っ! 絶対 に…っ!」

スペリオルが高機動で回避し ながら、ビームで応戦し、ヒットアンドアウェイを繰り返す。

「私のこの力……正しいなん て思わない…でも、負けられない……負けられないっ!」

自身の取った道が正しいとは 思わない……だが、それでもこの眼前の相手の考えを全て受け入れることはできない。

それがリーラの取った道なの だから……だが、スペリオルの攻撃にもやはりウリエルはシグマを盾に鉄壁の防御を張り、レールガンで砲撃してくる。

このままではジリ貧……その 時、AFのスラスターがダメージの過負荷により、内部から爆発した。

「っ!」

流石に度重なるダメージに AFの方にも損傷が蓄積されていた……失速し、態勢を崩す。その隙を逃すほどテルスは甘くはない……失速するスペリオルに向けてウリエルの右手が伸び、掴 み掛かる。

操縦桿を引き、逃れようとす るも…出力が上がらず、左脚部バーニアが掴まえられる。

「しまっ!」

ウリエルは握った左脚部を大 きく振り上げ、その遠心力に引っ張られ…凄まじいGがリーラの身体を圧迫する。

振り被ったウリエルはスペリ オルをデブリへと叩きつけようとする……刹那、彼方より走った火線がウリエルの右腕に着弾した。

「むっ!」

爆発にテルスの注意が一瞬逸 れる……Gに押し潰されそうになっていたリーラは歯噛みしながらコンソールを叩きつけた。

次の瞬間、AFの左脚部バー ニアユニットが接合部から切り離され、スペリオルは弾かれるように離脱し、一拍後…バーニアが爆発した。

マニュピレーターが破損し、 怯むウリエル……テルスはハッと振り向くと同時に、飛び出してくる機影……デュエルパラディンがフォルティスUを発射し、ビームの光条が破損している右腕 に直撃し、ウリエルの右腕が吹き飛ぶ。

「ちぃぃぃぃっ!」

右腕を喪い、僅かに態勢を崩 すウリエル……テルスも予想外の損傷に舌打ちする。

息を切らしながら見詰めるス ペリオルに近づくデュエルパラディン……イザークの切羽詰った声が響く。

「リーラ、無事か!?」

「う、うん……なんとかね」

正直、内部が圧迫され、気絶 しそうなほどの衝撃を受けたが……なんとか意識を保てられたのは絶妙のタイミングで行なった援護のおかげだろう。

強張った面持ちでウリエルを 見やる……先程の一撃は、まず間違いなく致命傷だったはずだ。右腕を欠損し……態勢を崩していたウリエルだったが、全身のバーニアが火を噴き、バランスを 保つ。

「フフフ……そうでなくては な……張り合いがなければ、殺し甲斐がないっ」

右腕を喪ったというのに…テ ルスはそれさえも億尾に出すどころか、逆に笑みを浮かべる。

真紅の瞳を輝かせ……ウリエ ルは身体を振り被り、今一度ディアボロスを構える。身構える2機……ウリエルのシグマが火を噴き、5条のビームが放たれ、2機は分散する。

「往生際が悪いぞっ!」

そう何度もワンパターンが通 じるほどイザークも馬鹿ではない。大火力を推した兵器は確かに脅威だが、それだけに攻撃のパターンは限られる。

「どうかな……っ」

だが、テルスは笑みを崩さ ず……火線は幾条も放たれ、その意図が掴めない攻撃にイザークとリーラは怪訝そうになるが、放たれていたビームが突如止み……シグマの5つの砲門からビー ムの光棒が展開される。

「「なっ!?」」

眼を見開く二人に向けてテル スがほくそ笑む。

「このウリエル…単調な攻撃 しかできないと思ったか……愚かだなっ!」

そう、火線を絶やさなかった のも、全てはこのため……単なるビームの砲台という認識を敵に植え付け、その意表を衝く形で展開したこのビームステークを振り被り、そのパワーを利用して 薙ぎ払う。

薙ぎ払われたビームがまるで 鞭のようにしなり、ウリエルの前面に展開していたデブリを薙ぎ払い、それがデュエルパラディンとスペリオルへと向かう。

5条のビームウィップを完全 にかわすのは難しく、スペリオルはスラスターを全開に噴かしてなんとかかわすも、ビーム砲の砲身を一門斬り飛ばされ、デュエルパラディンは左腕を斬り裂か れた。

爆発に2機は怯む……だが、 振り払われたシグマ……そのために空いたボディ……呻きながらも、そこに勝機を見出したイザークとリーラは互いに確認するまでもなく、機体を加速させた。

先陣を切るスペリオル……そ の後方につくデュエルパラディン……攻撃直後の隙を狙われるとは思っていなかったテルスはやや感嘆の声を上げるも、近づけさせまいとデスベラードを連射す る。

晒される弾丸の嵐のなか…… リーラは怯まず、そして弾頭を読む………リーラの意識が昂ぶっていく。

「ええええぃぃぃぃっ!」

リーラの咆哮に呼応するよう にスペリオルの蒼い瞳が輝き……スペリオルは分身するように残像を残しながら機動する。

眼を顰めるテルス……回避し ながら加速するなか、リーラはコンソールを叩きつけた。

次の瞬間、スペリオルとAF が分離し、戦闘機形態へとなり…既に半壊しているAFが先頭を進み、その後方をスペリオルがつき、2機は螺旋を描くように向かってくる。

弾丸のなかを掠めるように飛 び…AFのビーム砲とミサイルが一斉射され、スペリオルもビームドライバーを連射する。

交互に放たれるビームとミサ イルの応酬が轟き、弾頭を打ち消しながらウリエルに迫り、ミサイルがボディに着弾し、爆発する。そこへ追い討ちをかけるように撃ち込まれるビームが連鎖反 応を起こし、誘爆を引き起こす。

「ちぃぃぃっ!」

歯噛みするテルス……煙を噴 き上げる損傷箇所へと向けてリーラはAFを突撃させる。

残った推進剤を噴かし、フル ブーストで突撃するAFがウリエルのボディに激突し、爆発する。

その爆発により、衝撃がコッ クピットまで届き……コンソールが破裂し、正面モニターが割れる。

襲い掛かる爆風と破片……テ ルスの額から滴り落ちる鮮血……口元から零れる血…それに気に掛ける余裕もなく、眼前に迫るデュエルパラディンがビームサーベルを振り被り、ウリエルの頭 部を斬り裂く。

一拍後、頭部が吹き飛び…… ウリエルは態勢を崩す。

「へっ…へへっ……流石に やってくれるな」

自身もかなりの傷を負ってい るにも関わらず、テルスは口元に笑みを浮かべながら操縦桿を握り、トリガーを引く。

煙を上げながら振り被るウリ エルは両肩のディアボロスを解き放つ。蒼白い閃光が一撃離脱を仕掛けた2機に襲い掛かり、2機は咄嗟に身を翻すも……余波により、スペリオルは左腕を捥ぎ 取られた。

「くぅぅぅっ!」

爆発が機体を襲い、衝撃が コックピットを揺さぶる。損傷した間接部を押さえるスペリオル……だが、デュエルパラディンがフルブーストで突進し、フォルティスUを連射する。

唯一残ったシグマで防ぎ、テ ルスはスペリオルに向けてシグマのビームを放つ。

「この俺に二度も同じ手が通 じると思ったかっ!」

機体を掠めるビーム……リー ラは歯噛みしながらも懸命に回避し、右手のビームライフルでウリエルを狙う。

連射されるビームを物ともせ ず、狙おうとするも…シグマの砲身に向かって割り込むデュエルパラディンがビームサーベルを振り上げる。

「でぇぇぇぇぃぃぃっ!」

気合一閃……振り下ろされた ビーム刃がシグマの砲身を2門斬り落とす。眼を見開くテルスに向けてフルブーストで突撃してくるスペリオル…ビームサーベルを振り上げ、シグマの間隙を縫 い、ウリエルに回り込み、ビーム刃を左肩の間接部へと叩きつける。

熱量に融けるフレーム……舌 打ちするテルスにリーラの声が響く。

「これがテルス、貴方の信じ る力なの! 力には力…大きな力を持った者が正しいと……違うっ! こんなものが…力だけが正しいなんてあるものかぁぁぁぁっ!」

眼元に微かに涙を浮かべ、吼 えるリーラはビームサーベルを離し、離脱と同時にビームドライバーを放ち、融解していたフレームに直撃した瞬間、フレームが吹き飛ぶ。

左肩が爆発し、左腕がウリエ ルから崩れていく。

滞空するデュエルパラディン とスペリオルの前で、両腕と頭部を失ったウリエルはもはや満身創痍に近い…だが、2機もダメージが大きい。

互いに呼吸を乱すイザークと リーラ……その前で、ウリエルは煙を噴き上げながら身を起こす。

眼を見開く二人に……テルス の声が響いてくる。

「ぐっ…ヘヘヘ……これで終 わったと思ってるのか……」

揶揄するような口調は途切れ 途切れに掠れ、小さい……コックピット内は既に半壊し、テルスは左腕を失っていた。

溢れるように流れる鮮血が額 から零れ、左眼の視界を覆っている。

「減らず口はそこまでだっ、 貴様はもう戦えんっ」

イザークが半ば吐き捨てるよ うに言い放つ……正直、この男の今までのやり口を見れば、見逃すなどできないが、それでももはや戦闘は不可能な状態だ。

なのに何故そうまでして哂っ ていられる……薄ら寒いものを憶えながら睨むイザークにテルスはニヤリと笑みを浮かべる。

「どうかな……?」

唯一残っている右手を伸ば し……コンソールの一画を乱暴に叩きつけた。刹那、それに連動してウリエル内部から気圧が漏れ、ウリエルの全身から立ち昇る熱……コックピット内に表示さ れるタイムリミット………

「テルス、何を……っ!」

「クハハハ……ウリエルの自 爆装置を作動させてやったのさ……あと数分で、ウリエルは木っ端微塵…まあ、ここいら一帯…最低でも貴様ら二人を道連れにはできるぜっ」

「「なっ!?」」

哄笑とともに発せられた予想 外の言葉に驚愕する……ウリエルに搭載されているエンジンが爆発すれば、まず間違いなく自分達も…いや、それどころかこの辺一帯を巻き込む。

近くにはまだ仲間の機体も大 勢いる…しかもあと数分……とても離脱できる余裕はない。

「俺と一緒に貴様達もあの世 いきさ……はははっ! こいつを止めるのは一つ! エンジンの停止への雷管となっているコックピット…つまりは俺の命を断つだけさっ! 貴様らの護る力と やらで、この俺を殺してみろよっ! クハハハハっ!!」

狂ったように哂うテルス…… そんなテルスにリーラは苦悩を浮かべる。

「どうして…どうしてそこま でっ!」

何故そこまで……自身の命さ え軽んじられるのか………命の重さを知るリーラとはまったく正反対……いや…自身の命さえ厭わないのは何故なのか……

リーラには解からない……解 からない…解からない………苦悩するリーラにイザークが呟く。

「やるぞっ、リーラ!」

「っ?」

唐突に叫び、残った右手で ビームサーベルを構えるデュエルパラディン……その眼がウリエルを捉え、イザークは身構える。

「正直、俺には奴の考えなど 理解できん…だが、奴は奴自身の考えで戦っているんだ! なら、俺はお前を倒す! それが俺のお前を倒す理由だっ!」

他人の考えなど、イザークに は解からない……同じことを目指していてもその考えは皆違う……ザフトの人間として…そういったものに触れてきたイザーク……なら、自分は自分の信念の赴 くままに戦う。

「イザーク……」

呆然と呟くリーラ……そし て、テルスは高らかに哂う。

「いいねイザーク…やっぱお 前は俺と同じさ……さあ、こいよっ…お前の手で、俺の命を断ってみせろっ!」

「ほざけっ!」

「ハハハ! さあ、姉貴はど うする? お前は応えてやらねえのか……リフェーラ=シリウス!」

挑発するように叫び……逡巡 していたリーラはキッと顔を上げ、スペリオルはデュエルパラディンに寄り添い、右手でその柄を掴む。

眼を瞬くイザークに向かって 毅然と言い放つ。

「私が貴方の左手にな るっ……私達は、どこまで一緒だって言ってくれたよね……なら……」

苦しみも……その想い も………どこまでも分かち合おう………イザークとリーラは互いに頷き合い、リーラはテルスを見やる。

「貴方の考えは私には永遠に は解からないのかもしれない…だけどっ! 今は…貴方を倒す、テルス!!」

ビームサーベルを互いに片手 で持ち構えるデュエルパラディンとスペリオル……これが最期の一撃……その瞬間を待ち侘びるようにウリエルは残ったディアボロス一門の砲口にエネルギーを 集束させていく。

タイムリミットはもう間 近……どう転んでも、次が最期となる………テルスは血を流しながら、叫び上げる。

「そうだ…それでいいっ!  こい、イザーク=ジュール! リフェーラ=シリウス!!」

刹那、弾かれるようにデュエ ルパラディンとスペリオルのスラスターが火を噴き、2機はフルブーストで加速した。

イザークとリーラの呼吸が合 わさり……加速する2機に向かってディアボロスの閃光が放たれる。

真正面から向かってくる閃光 を2機はバーニアの向きを変え、半ば強引に機体を持ち上げて上昇させる。

過ぎる閃光……上昇した2機 はウリエルの頭上を取る……頭上から振り上げて迫るデュエルパラディンとスペリオル……それが、テルスにとっての最期の光景になった………

「うおおおぉぉぉっっ!!!」

「うわぁぁぁぁぁっっ!!!」

凄まじい勢いで振り下ろされ る一撃がウリエルを頭上から斬り裂いていく……ビームの刃が止まることなくボディを一直線に斬り裂き、ビームの熱が遂にコックピットに到達し、テルスはそ の身体を蒸発させられた………

(ククク………クハハハ ハっ!)

最期まで己の力に驕り……力 のみが全てであった少年は………その力によって命を断たれた……それは…客観的に見れば、因果応報なのかもしれない………

だが、少年は断末魔に上げる 笑みは…何を意味していたのか……そして…誰に聞こえるともなく掻き消えていく哄笑………テルスの意識は闇に呑み込まれた……

斬り裂き、その切先がやがて 腰部にまで到達し、ウリエルを縦一文字に斬り裂いたデュエルパラディンとスペリオルはすぐさま離脱をかける。

雷管となっていたコックピッ トが破壊され、エンジンが出力OFFになり、次の瞬間、斬れ目から煙と爆発が噴き上がり、それがやがて全身を侵食していく………細かな爆発が轟き、大きく 膨張していく………ウリエルは後ろへと倒れるように力を失い、巨大な爆発が轟いた………

戦艦に匹敵するその熱量と光 芒に……イザークとリーラは暫し呆然と見入る………不意に、リーラが呟いた。

「これで……終わったのか な………結局…私は、あの人の言葉に言い返せなかった……」

やや沈んだ面持ちで呟く…… 閃光に消え去った弟だった存在……決して受け入れられぬ互いの意志……それ以上に対立しながらも……リーラはそのテルスが己の存在意義として全てをねじ伏 せる力でその命を断った……

力に溺れたテルスは……最期 までその力に溺れて逝った………だが、自分のした事は結局同じではないだろうか……

そうとは違うと思う自分 は……やはり甘いのだろうか………沈む思考のなか、イザークがぶっきらぼうに言い放った。

「奴は奴……お前はお前 だ………お前は、お前の信じる道をこれから探せばいいだろう」

こうひねくれた言い方しかで きない自分が歯痒い……だが、イザークにはそれしかない。人は一人一人違う……だから協調と対立が起こる……決して変えられぬ必然……だからこそ、自分の 道を選らばなければならない……

思わずイザークに振り向き、 その言葉を反芻する……かつて、レイナにも言われたものだ……道は決して一つではない……その道が正しいか間違っているかなど、決して誰にも解からな い……だが、自身の信じる道なら……その道を進めばいいと………

リーラは僅かに表情を和らげ る。

「うん……ありがとう」

道はまだハッキリしない…… これから先もずっと手探りだ……だが、それでも自分の信じた道を一歩一歩進んでいくしかない……以前のままでなら、きっと迷って答を出しあぐねていただろ う…だが、この人がいてくれる……この人がいれば……自分は迷わない……そんな想いを今一度強く確信したリーラはこの人と出逢うことのできた運命に感謝し た。

「いくぞ、まだ戦いは終わっ ていないんだっ」

「うんっ」

自分の決着はついた……だ が、まだ全てが終わったわけではない……今はまだ……仲間達と…愛する者とともに……

傷ついた騎士と流星は飛び立 つ……決して離れぬ比翼として……………

 

――――C.E.71.10.2 22:13……

――――AEM−004:ウ リエル撃破………

――――MCナンバー08: テルス戦死…………

 

 

 


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