多くの人々が見守るなか…… 交錯するインフィニティとメタトロンは何度目になるか解からない交錯を行い、離れる。

互いに息を切らしながら見据 えるレイナとカインの息は乱れている。

「っ!?」

刹那、レイナはインフィニ ティを加速させ…メタトロンの背中に回る。だが、その動きを読んでいたメタトロンは回転するように身体を捻り、刃を振るう。

だが、振るわれた刃が斬り裂 いた瞬間、インフィニティの姿が掻き消える。

「残像…っ!?」

息を微かに呑んだ瞬間、メタ トロンの背後に回り込むインフィニティはインフェルノを振り上げる。

「はぁぁぁっ!」

振るわれた刃をバーニアを噴 かしてかわし、距離を取る。

距離を取ると同時にビーム砲 で砲撃する…インフィニティもヴェスヴァーで砲撃し、両機の中間点で起こる爆発……その爆発へと飛び込み、閃光から飛び出すインフィニティが振り下ろす刃 をメタトロンも振り上げて受け止め、交錯するエネルギーが2機の頭部を照り映える。

「この世界は…私達が生まれ た世界よ………私達を生み、育んだ…………っ」

レイナは呟きながら、弾き飛 ばす……弾かれたメタトロン…カインは微かに一瞥し、フェザーを放つ。

硬直していたインフィニティ に火線が集中し、インフィニティは爆発に包まれる。

無表情に見詰める先で…煙が 晴れ、下から現われたインフィニティ……ヴェスヴァーの砲身が砕け、そして肩のリフレクトユニットも破損していた。

だが、レイナは無言のまま… コンソールを叩きつける。

【ブラスターユニット・強制 排除】

モニターに文字が表示された 瞬間、インフィニティに装備されていたヴェスヴァーとリフレクトユニットが強制排除される。

剥がれ落ちるように崩れてい くパーツ……だが、これが本来のインフィニティの姿なのだ……DEMの一体……人造神:インフィニティの………

「あんたにも解かるはず よ……かつて…この宇宙に生きていた生命体もまた……滅びという運命からは逃れられなかった………」

やや自嘲のような皮肉めいた 言葉で呟く。

かつて……この宇宙に……… 地球の生命より遥か過去に誕生し…存在していた生命体……エヴィデンスと名づけし生命体………

生命体としての完成体に近い 遺伝子を持ちながらも……滅びゆく運命からは逃れられなかった………

「どんなものだろうと……等 しく滅びはやってくる………私にも…そして……あんたにも!」

立ち上がったインフィニ ティ………そして対峙するレイナ………どんなに自ら優れたものと誇ろうとも……滅びる運命から逃れられることなどできない………

それが早いか遅いかの違いだ け……そして………それが次は自分達だったということ………そう……だからこそ…レイナはここにいる…………

滅びる運命を全てに課そうと するきょうだいに…いや………己が内に流れる遺伝子を持つ半身として……闇に還すために………

「生命は…魂は、運命られた 刻のなかで生き、そして滅ぶ……それは決して変えられないものっ!」

たとえ……この世界が愚かな 道を望もうと………自分達はここにいる……この世界を成す一部として………

永遠などありはしない……命 は…魂は運命られた刻のなかで生き…そして滅んでいく……それが世界を創り、紡がれていく…………

レイナもカインも…その一つ でしかない………インフェルノを構え……ウェンディスを拡げるインフィニティ………もはや……それはカインの感応では抑え切れないもの………

レイナは……鎖に縛られなが らも……その呪縛を断ち切った………そして…レイナの視線がカインを捉える。

「なら……滅びればいい…俺 達も…そして……この世界もなっ!」

一瞥し、フェザーを操るメタ トロン……幾条も煌く火線のなかをレイナは眼を閉じ、感覚だけを頼りに回避行動を取る。

機体を掠める火線にボディが 灼かれ、そして傷つくも…紙一重でかわし、致命傷を避ける。

そして、デザイアを振り被 り、トリガーを引く。

放たれる13条のビームが フェザーを薙ぎ払い、右手のインフェルノを振り被り、フェザーを叩き落していく。

フェザー群を突破し、メタト ロンに向けてデザイアのビームが放たれる。

メタトロンを襲う幾条もの ビーム……メタトロンは翼で防御するも…その熱量に僅かに推される。

だが、それに怯むことな く……ビームを逸らし、メタトロンは突如身を翻し……宙を舞い上がる……逃すまいと後を追うインフィニティもまた翼を羽ばたかせ、インフェルノを振り上げ る。

交錯した瞬間、インフィニ ティのデザイアの上部が斬り飛ばされ、メタトロンの羽が欠けた……次の瞬間、2機は脚部を振り上げる。振り上げられた蹴りが互いのボディに打ち込まれ、2 機は弾き飛ばされる。

「今度は俺から問おう……仮 に俺を倒しても…世界はまた破滅への運命から遠のくだけだ……」

そう……カイン達の介入が あったとはいえ、世界は…人類は一度滅ぼし合う道を選びかけた……仮にここでカインが倒されようとも…破滅の運命はやがて訪れる…レイナの言葉通り……

「そして…世界は君を殺 すっ」

振り上げられた刃がインフィ ニティのボディを掠め、胸部に刻まれる一閃……融ける装甲…帯びる熱……歯噛みするレイナ………

「君の存在はあの世界にとっ てのイレギュラーでしかない……そして、その能力を使う必要もない……っ」

ビーム砲が放たれ、インフィ ニティは身を翻し、デブリを盾にしながら回避する。

レイナの能力は確かに異質な もの……だが、世界の流れのなかでは無意味なもの……人の…ナチュラルを遥かに超え…そしてコーディネイターさえも凌駕する能力を与えられた存在……だ が…それはあまりに異質で必要のないもの………

与えられた能力は決して幸福 を必ずしも呼ぶものではない……闇に生まれ…そして闇に生きる存在……それがレイナ…いや……MCという存在……未来もなければ、過去もない………ただた だ闇に生きるだけ…世界においてはまったく無為なもの…能力を活かすこともできず……ただ朽ちるのを…滅びるのを待つだけ……

力は…決して受け入れられな い……力は……MCの能力は…戦うためにあるのだ…戦って生き残る……それが、生命の本質なのだ………

「俺達は所詮、そういう存 在……だからこそ、この瞬間のみが俺達がこの世界にとって必要だという証だっ!」

繰り出される刃を受け止め、 鍔迫り合いを展開するインフィニティとメタトロン……そう…完全に己の能力を発揮し、ぶつかるこの瞬間……この刻こそが今、二人の存在をこの世界に知らし めている………それは…あたかも運命られたように…どちらかが淘汰されることが決まっていたように………

己が力の全てをかけて命を削 り、勝者を選ぶ……それが、幾度となく繰り返されてきた生命の進化の歴史………

「重ねて言おうっ! 俺達は 所詮闇で生き、そしてこの世界において闘うことでしかその存在を赦されないもの……闇から生まれた化物さ!」

メタトロンからの斬撃が徐々 に激しくなり、インフィニティは防戦一方に押される。

交錯する度に散る火花が飛 び、機体を掠め…灼く……エネルギーがスパークするなか、カインからの追及は止まらない。

「そんな俺達を…人間が…… 世界を受け入れるかっ!? ありえない……世界は常に異端のものを排除するのだからなっ!」

そう……MCは所詮、この世 界では生きていくことは叶わないもの……人は誰でも己と違うものを拒絶する……ナチュラルやコーディネイターは争い…そして同族でも殺し合う……常に自分 とそれ以外が存在する世界……そして、その社会を継続していくためには、異なるものを排除し、社会システムを紡ぐ………醜くも愚かな世界。

そんな世界のなかで、どちら の枠組みにも属さないMCには、最初から居場所などない……自分達は世界を成す一部でもそれはイレギュラーでしかないのだから………

「君がたとえここで俺に勝と うとも、あの世界に居場所などないっ! そして、そんな世界のために戦おうとするなど愚かなことだっ!」

渾身の一撃のごとく振り下ろ された一撃にインフェルノの形成口が斬り裂かれ、インフェルノが破壊される。

息を呑み、爆発に弾かれるイ ンフィニティ……レイナは歯噛みしながら、スラスターを噴かし、機体を制止させ、滞空する。

爆煙が晴れ…佇むインフィニ ティのなかでレイナは流れる鮮血を拭う。そして、その顔を上げ、メタトロンを見据える。

「そうね……確かに、私は化 物よ………」

自嘲めいた口調で呟き、吐き 捨てる……呪われたこの身…そして人にあらざる血肉……確かに、自分は人間ではない……化物だ………

否定はしない……化物たる道 を突き進んできたのだから……だが………

「でも…私は……レイナ=ク ズハよ……あの世界で生まれ、そして生きてきた………」

そう…化物である前に自分は レイナ=クズハという存在だ………あの世界で生まれ…そして生き、ここに立っている………

無論、レイナとて今の世界が 愚かなものだということも解かっている。だがそれでも…今の自分を成したのはこの世界だ………

何故闘うのか…レイナ=クズ ハとして生き…そして……こんな自分にも大切な者が…仲間達ができた……そして得た……絶望しかなかった道で……闇をこの先も歩く運命だとしても……過去 とは違う……澄んだ想いでいられる…………

「自分の生きる意味も…戦う 理由も……存在価値も…それは自分で見つけなきゃいけない……滅びも…自ら選び取る道よ………」

自身という証…存在価値…… そして滅び…それさえも選ぶのは一人一人だ……誰かに干渉される世界ではない………

「私は……まだ…滅びまで絶 望しきっていない………」

そう…レイナは不思議な心持 ちだった……あれ程内に渦巻いていた闇も…破滅への望みも今は澄んだ心持ちでいられる………レイナは…まだそこまで絶望に染まっていない自身に不思議と怒 りも憤りも憶えない……ただ…自分はまだそこまで絶望に染まっていないという事実を受け止められただけ………

「だから……私はあんたを止 める…あんたの闇をこれ以上、拡げないためにっ!」

刹那…インフィニティのオメ ガが放たれる……メタトロンもアポロンを反射的に放ち、火線が激突する。だが、その熱量の勢いにメタトロンが押され、火線が押し戻された。

「っ!?」

微かに息を呑み、機体を捻る も…その勢いを完全にかわせず、肩のビーム砲が蒸発させられる。

態勢を崩した隙を衝き、イン フィニティがフルブーストで加速する。

「はぁぁぁぁぁっっ!!」

レイナの意志に呼応し…イン フィニティの瞳が輝き、真紅の翼を大きく拡げ、もう片方のインフェルノを抜き、大きく振り被る。

真紅の光条が煌き、インフィ ニティがメタトロンを過ぎった瞬間、メタトロンの左腕が斬り飛ばされた。

「ぐっ」

機体が爆発し、カインは初め て表情を顰めた。

煙を噴き上げるメタトロンに 向けて、インフィニティはトドメを刺そうと反転し、再びインフェルノを構える。

これで最期……カインは反応 が微かに遅れる………振り返ったメタトロンのボディに向けて突撃し、インフェルノを伸ばした瞬間……メタトロンの前方の空間が歪んだ………

次の瞬間、眼前に拡がった光 景にレイナだけでなくカインも微かに驚きに包まれる。

インフィニティの繰り出した 刃は確かに貫いた……だがそれは………メタトロンではなく、その前方に突如出現した機体にだった。

2機の間に割り込むように出 現した機体は、純白の機体……ディスピィア………インフェルノの刃は、そのコックピットを貫いていた。

「MC…ナンバー 07………っ」

レイナは息を呑みながら立ち 塞がった機体のパイロットの名を呟く……貫かれたディスピィアのコックピットでは、貫通したビームに身体を灼かれ、血を流すアクイラの姿があった。

「うっ……かはっ」

割れたバイザーから大量に吐 血し、アクイラの表情が霞む。

アディンによって掴まれ、そ してルシファーに共に機体を蒸発させられそうになった瞬間、ラファエルの外部パーツをパージし、ミラージュコロイドを展開し、アクイラは導かれるようにこ こへとやって来た………

インフェルノのビーム刃が消 え、息を呑むレイナの前で支えを失ったディスピィアはメタトロンへと身を預けるように倒れ込む。

「……自分を…殺さない… で………私の…ように………」

そう…思い出したのだ……い や…戻った……そう評するのが正しい………本来の自分に……片言で…そしてまるで懇願するように呟くアクイラ……その言葉にレイナは息を呑み、カインは無 言のまま佇む。

「貴方は…ずっと……自分を 殺してきた………だか、らっ……私…は………貴方を…救い、たい……っ」

もはや息も絶え絶えで話すこ とさえ困難な身体…だが、アクイラはなおも必死に言い募る。その想いが意味するのは何なのか……

「…自分の、居場所… はっ……自分で…捜さなければ…いけない………大丈夫…です…貴方は……まだっ…あの人……に……」

そう……世界はまだ…破滅を 齎すほど絶望に染まっていない………アクイラが自身を取り戻したように……そう…消され…消滅したはずの自身を………

アディンが…そして…カムイ が……取り戻させた……だから伝えたい……この人に…この破滅も…闘いも……全ては……

だが、もう言葉が出ない…… 意識が途切れ…刹那、アクイラの瞳から光が消え……その瞳が永遠に閉じられる………事切れたアクイラとともに…ディスピィアも機能を停止しする…まる で……生命活動を停止するように……

「ナンバー…07……アクイ ラ……」

レイナは思わず呟く…いった い……アクイラの身に何が起こったのか…何か、以前逢った刻と様子が違っていた……そして…何故自分からカインを護り…何を伝えようとしたかったのか…… その意図はレイナには解からない……

ただ解かっているのは…アク イラという存在はもうこの世界に存在しないということだけ……次の瞬間、メタトロンはディスピィアの背中に向けてサタンサーベルを振り翳し、眼を見開くレ イナの前で突き刺した。

胸部から伸びる光条……刹 那、エンジンが爆発し、ディスピィアは四散していく。

「っ!?」

その爆発に眼を瞬き、咄嗟に 防御する……微かに表情を顰め、爆煙が収まると…その中心から姿を見せるメタトロンは、先程の爆発を受け、白い外装が焼け焦げ、そして微かに紅く濡れてい た……それは、いったい何なのか………

コックピット内でカインは無 表情のまま、毒づいた。

愚かだと……そのまま逃げて いれば、生き残れたものを………鎖から解き放たれたというのに……自分にそんな言葉を伝えるためにわざわざくるとは……と、内心に吐き捨てる。

「……安らかに逝け…アクイ ラ………」

一瞬眼を閉じ…小さく呟 き……カインは眼を見開く…微かに咳き込み、鮮血が口端から垂れ落ちる。

もう長くは保たない……この 身体も…そして………この闇も…………

「決着をつけよう……」

残った右腕のサタンサーベル を振り、構えるメタトロン……レイナも無言のまま…四散したディスピィアの破片を静かに一瞥すると、キッと前を見据え、インフェルノを構える。

アクイラの言葉の意味は解か らない…何故あんな真似をしたのか……そして…この男の真意も……やはり…単純に破滅だけを目的にしているにはあまりに不透明な部分が多すぎる。

なら…その真意を問い質すた めにも……カインを倒す……タイムリミットももう残りは少ない……もって後半時間……それまでに…決着をつけなければならない……

硬直したように対峙する2機 はお互いに相手の出方を窺う…既にお互い、機体のダメージは大きい……そして…もうほぼ手は出しつくした……あとは…どちらが闇に呑まれるか……相手と… 己の………凍ったように静寂感漂い……刹那、互いに真紅の翼と純白の翼が舞い上がった……交錯する刃と刃が幾条も煌き、火花を散らす。

高速で飛び回り、交錯する2 機は互いを喰らい合うようにぶつかり合う。

一瞬の隙を衝き、弾き飛ばさ れたインフィニティが氷原へと身を叩きつけられる。

「ぐっ!」

歯噛みした瞬間、メタトロン はサタンサーベルを振り被り、フルブーストで降下してくる。

振り下ろされた刃を素早く機 体を起き上がらせ、かわす…ビーム刃が氷原を斬り裂き、氷嵐を吹き散らす。

それに紛れ、振り下ろすイン フェルノの刃がメタトロンのボディを掠め、メタトロンは態勢を崩すと同時にビームキャノンを放ち、インフィニティはデザイアを掲げて受け止めるも、その至 近距離での熱量に耐え切れず、シールドが灼き融かされる。

互いに離れた位置に弾かれ、 その場で蹲る。

「はぁ、はぁ……」

コックピットで息を切らしな がら、レイナは先程の衝撃で傷を負った右腕に歯噛みする。

「はぁ、はぁ…おお おぉぉっっ!」

カインも息を乱している…さ しものカインも長い戦闘で精神力を消耗している……だが、それを抑え込むように叫び、メタトロンはフルブーストで突進してくる。

破片が突き刺さり、操縦桿を 握る右手に鮮血がつたる……だが、レイナはその傷みを抑え込み、融けたデザイアの破片を投げ飛ばした。

真っ直ぐに飛ぶ破片にカイン は意にも返さず、ビームキャノンで狙撃し、破壊する。だが、一瞬視界が覆われ…爆発から姿を見せるインフィニティがメタトロンに突撃した。

互いにフルブーストで突撃 し、弾かれるも…半ばカウンターで喰らったメタトロンは鋭く吹き飛ばされそうになるが、それを踏み止まる。

白い装甲が半ば崩れ落ちなが らも、メタトロンは再度フルブーストでインフィニティに突撃し、突き出された刃を受け止めるも、その勢いにインフィニティは押され、倒れ込む。

「っ!」

舌打ちした瞬間、メタトロン の刃が突き下ろされ、インフィニティも反射的に刃を突き上げた。

サタンサーベルの刃がイン フィニティの左肩の装甲を突き貫き、インフェルノの刃がメタトロンの頭部左眼を貫いていた。

一拍後、頭部が爆発し…メタ トロンの左半面が欠け、内部機器が露出する。だが、それを意にも返さず…メタトロンは突き刺していたサタンサーベルを抜き、振り被る。

「っ……ぐっがっ」

だが、振り上げた瞬間、カイ ンは突如凄まじい激痛に襲われる。

頭を微かに押さえ、苦しむカ イン…感応波の乱れに一瞬不審感を抱くも、レイナはその隙を逃さず、操縦桿を引いた。

インフィニティも左肩の装甲 を吹き飛ばし、フレームが露出しながらもスタビライザーが火を噴き、機体を押し上げる。

「えぇぇぇいぃぃぃっ!」

立ち上がったインフィニティ はそのままメタトロンに体当たりし、弾くと同時に衝撃が両者のコックピットを襲う。

身体をシートに打ちつける も…レイナは歯噛みしたまま、蹴りをメタトロンに叩き込む。

叩き込まれたメタトロンは弾 き飛ばされ、デブリに激突する…立ち昇る爆煙……だが、その爆煙を裂き、立ち上がるメタトロン……コックピットでカインは額から鮮血を流しながら…その真 紅の瞳を上げる。

主の意志に呼応するよう に……メタトロンは唸りにも似た駆動音を轟かせる。

4枚の翼が拡がり、気圧の漏 れる音が響く……咆哮を上げるその姿は白き獣のごとく見える………

 

DEUS EX MACHINA  TYPE-000 METATRON】

 

欠けた左側面…だが、その僅 かに残る右側面の砕けたカメラアイの奥で鈍く…そして不気味に真紅の眼光を輝かせるメタトロン。

大きく身を硬直させ、そして 翼がまるで生きているように動き…白い羽が舞い散るように粒子を吐き出す。

星屑にも似た煌きをばら撒 き、純白の神天使が覚醒する。

 

 

FULL DRIVE

 

 

拡がり、そして神々しさと禍 々しさを携えた4枚の翼…そして、微かに紅く染まった純白のボディ……それは、まるで天国と地獄の狭間で彷徨うかのように……

 

―――――戦闘殲滅機械神: DEM−000:メタトロン………

 

かつて、マルス=フォーシア が目指した別銀河へと旅立ち…その未開の地で人類を護り…そして先を目指すために開発された機体は皮肉にも、マルス自身によってその名を与えられた……… 汚れぬ純白の天使に与えられたのは…滅びを齎す忌まわしき命………

欠けた頭部の鈍い真紅の眼光 がレイナを捉える……そして、レイナは感じ取った。

カインは……もう命どころ か、その魂さえも闇に喰われ果てたように………その身を完全に限界を超えさせた………

メタトロンに搭載されたシス テム:DARKNESS……それは、システムの基幹にある生命体の遺伝子が組み込まれたもの……エヴィデンスという存在の………

遺伝子を組み込まれたバイオ マシン・インターフェイス……その能力を…今、限界まで引き出し、メタトロンは最期の覚醒を果たした。

まるで、機械の内に宿る悪魔 でも眼醒めさせたように……なら、悪魔に対するには同じ悪魔を眼醒めさせるしかない。

レイナは微かに身じろぎしな がら……計器を見やり…一瞬逡巡した後…眼を見開いた瞬間、レイナは迷うことなくコンソールを叩きつけた。

それは、インフィニティのシ ステムのリミッターを完全に解除するもの……刹那、濁流のごとき衝撃の波がレイナの脳に…そして身体に流れ込んでくる。

(そう……これが…本来 の………)

薄れそうになる意識を必死に 保たせる……これが、エヴィデンスに秘められた能力………不思議な…それでいてまるで自身の身体の感覚が全て抜け、天を舞うかのような浮遊感と解放感が訪 れる……

それは…かつてこの宇宙をそ の翼を拡げて舞った生命体のように…………

 

DEUS EX MACHINA  TYPE-X000-01 INFINITY】

 

覚醒する翼……真紅に拡がる 翼は鮮血とも…命の輝きを放つ光にも見える。

舞い散る真紅の粒子は、その 真紅の翼から舞い散る羽のごとく周囲に舞い上がる。

闇にその身を染めながら…澄 んだ輝きを持つ瞳……真紅の鮮血とも…宝石とも取れる輝きを秘め、佇むその姿は天使達の傲慢を裁くために舞い降りた堕天使そのもの………

光と闇……相反する混沌のな かより飛翔せし…堕天の翼……………

 

AION DRIVE

 

表示された文字は…今までと は違う………まだ数回しか使っていなかったが、その刻に感じた闇に身を委ねるような感覚とは違う。

まるで……その闇を纏うよう な…微かな温かさを感じる………知っている…自分は…この感覚を………

そう…闇のなかで交わした約 束…………

 

―――――闇が二人を分かつ まで……………

 

その刻まで……そして…自身 が闇に壊されないかぎり……絶望と破滅だけに身を委ねない限り……闇に還る刻まで……永遠に…………

混沌より生を受けし永劫の 神……『アイオーン』の名を冠せし最期の覚醒…………

 

―――――戦闘永劫機械神: DEM−X000−01:インフィニティ…………

 

自らが造り出した神を止める ために……マルスが造り上げた神に似せ、そしてそれを真似た亜神………漆黒のボディと真紅の翼を持つ……黒衣の機械女神…………与えられたのは、舞い羽ば たくための命………

マルスはいったいどういう思 いでこの機体に『無限』と『永劫』いう意味を持たせたのか……それは今となっては解からない。

だが、マルスにも確信が持て なかったのかもしれない……果たしてこれが…最良の選択なのかどうか…だからこそ……その道を選ぶものを……この機体を託せし者へとその選択を託した。

真紅と純白の翼を拡げ、イン フィニティとメタトロンは飛翔する……二人が生を受けしこの宇宙という世界を…闇を………

振り下ろされる刃を受け止 め、またもや弾く……片腕を欠損しているというのにメタトロンの動きに鈍りどころか、逆に鋭さが増す。

振り被る刃をインフェルノで 受け止め、弾き飛ばす…同時にオメガを放つ。

放たれたオメガのビームをメ タトロンは紙一重でかわし、虚空を過ぎるビームはデブリを消滅させる。

爆発と破片が四散し、2機を 覆う…視界を遮られながらも、再度オメガを感覚が導く方向へと向けて発射する。

放たれる先に佇むメタトロ ン…あのタイミングではかわせない。直撃する……だが、メタトロンは翼を展開し、ビームを受け止める。

受け止める熱量が翼を融解さ せ、表面を侵食していくも……カインは歯噛みしながら身を振り払い、熱量を拡散させる。

四散する純白の羽……剥がれ 落ちた純白の装甲が周囲に舞い、その下の鋼の灰色を浮かび上がらせる。

耐え切ったメタトロンにレイ ナは呼吸を微かに乱しながら歯噛みする。

その翼を拡げ、さらに飛翔す るメタトロンを追い、インフィニティも飛翔する。飛翔する2機はそのまま刃を振り被り、互いに向かった振り下ろす。

交錯する刃がスパークし、縺 れ合ったまま蛇行する2機は氷原へと落下していく。氷原の地表ギリギリの位置で機体を持ち上げ、激突を避けてスレスレを飛行する。

距離を保ちながらインフィニ ティのマシンキャノンが火を噴く。

嵐のように降り掛かる弾丸の なかを掻い潜るメタトロン…だが、インフィニティは弾を撃ち尽くさんばかりに狙い撃ち、メタトロンが遮蔽物にしたデブリに着弾し、デブリが四散する。

その爆煙に紛れて飛び出し、 上を取るメタトロンに舌打ちした瞬間、メタトロンはそのままインフィニティに掴み掛かり、インフィニティは飛行したまま氷原に背中から叩きつけられ、氷原 を抉る。

ウェンディスを展開し、弾き 出すようにメタトロンを突き放し、再度マシンキャノンで狙い撃つ。

弾丸が装甲を掠めながらも、 意にも返さずアポロンを展開する…インフィニティもオメガのバレルを展開し、次の瞬間…オメガとアポロンが解き放たれた。

両機の中間点でぶつかり合う エネルギーが干渉し、余波が互いの機体の装甲を掠め、融かす。刹那、2機は跳び…直上で刃を交錯させ、過ぎる………

メタトロンは残ったフェザー 20数基を操り、インフィニティを追い詰めるようにビームを発射する。幾条も煌くビームに晒されながらも、レイナはその弾幕をかわそうとするが、そのカイ ンから伝わる気迫が乗り移ったように鋭く動き回るフェザーの動きは速く、捉えられない。

ビームが装甲を掠め、機体を 切り刻むように絡む……レイナは歯噛みする。

「くっ……っ!」

ウェンディスが展開され…翼 がインフィニティの機体を覆い、ビームからインフィニティを護る。

そして、レイナはその眼を フェザーの動きに合わせ…捉えた瞬間、インフェルノを振り、フェザーを斬り落としていく。

振るわれる一撃がフェザーを 斬り落とし、爆発の華が咲き乱れる。

インフィニティの頭上を取る フェザーがビームを浴びせてくるが、身を捻ってかわし、バルカンで狙撃し、撃ち落とす。

ほぼフェザーが一掃され、閉 じていた翼を拡げ…インフィニティは真っ直ぐに襲い掛かる。

頭上を舞うメタトロンは残っ ていたミサイルを発射する…数十発の弾頭が襲い掛かるも、インフィニティは螺旋を描くようにミサイルを回避し、目標を失ったミサイルはインフィニティの周 囲で炸裂し、インフィニティを爆発に包む。

その爆発のなかから飛び出す インフィニティの直前に迫るもの……メタトロンから切り離されたミサイルポッドが激突し、間髪入れずポッドに向けて撃ち込まれる衝撃…刹那、残弾のミサイ ルが爆発し、インフィニティは衝撃に吹き飛ばされる。

「ぐぅぅっ!」

呻きながら爆発の熱を帯び、 煙を噴き上げるインフィニティはスラスターを噴かして堪える。

そして、追い討ちをかけるよ うに飛び込んでくるメタトロンが刃を振るい、インフィニティは身を捻るも、アンテナの一部が斬り飛ばされる。

微かに乱れるモニター…だ が、レイナは操縦桿を引き、スラスターを噴かしてメタトロンに激突し、そのまま突き進む。

デブリを蹴散らしながら突き 進み、ボディを蹴り飛ばし、離脱する。

吹き飛ばされながらも、メタ トロンは身を構え、アポロンを発射する…迫るビームをウェンディスの翼を前面に押し出し、防ぐも…その熱量に吹き飛ばされる。

互いに弾かれた2機はそのま まデブリを足蹴りにし、再度接近する……幾条も煌き、振り翳される剣閃………飛び散る粒子が舞い、インフィニティとメタトロンは主と…己が運命に従い、刃 を交える。

もう何度目になるか解からな い交錯を繰り広げ、互いに鍔迫り合いで攻める…レイナとカインは歯噛みしながら…そして、内に駆け巡る衝撃に呑まれながらも、必死に操縦桿を動かす。

弾くと同時に加速し…鋭い斬 撃が打ち込まれる………互いに過ぎり去った瞬間、インフィニティの脚部バーニアの一基が破壊され、メタトロンは翼を一枚失った……

爆発が両機を襲う……レイナ は舌打ちして状態を確認する。破壊されたのは増加バーニアだけ…破壊されたブロックをパージする。

メタトロンも翼を一枚失い、 バランスを再設定するために僅かに時間を失った……互いに同時のたいみんぐで損なった機体バランスを整える…その処理能力も……今の自分達に降り掛かる全 て………

振り向くと同時に加速し…オ メガとアポロンが発射され、両機を掠める……そのまま急接近し、刃を交える。

照り映える粒子が互いの機体 を紅く染め、インフィニティは左拳を握り締め、メタトロンに叩き込む。態勢を崩すと同時に蹴りを叩き込もうとするが、メタトロンは素早く反応し、その蹴り を踏み台にするように跳ぶ。

空中で回転するようにサタン サーベルを振り下ろす…インフィニティも斬り上げるように振り上げ、交錯し…その勢いで弾き飛ばされる。

距離を取ると同時に翼を拡 げ、飛翔する……息を詰まらせぬ激しい攻防を追うエヴォリューション……その凄まじい加速と攻撃の応酬に、リンは息を呑み、喉を鳴らす。

カインの…そしてレイナの今 の戦闘能力は間違いなく自分を大きく上回っている……これが、彼らの本当の……いや…限界を超えた能力………

彼らだけの世界……命の…魂 の全てをかけて………己が信じるもののために……描く軌跡は言い知れぬものを醸し出す………

その戦闘を見守る者達もま た……その戦いを魅入られたように見入る。黒と白の天使が命をかけて戦う様を……まるで…神話のなかの逸話のごとく………

世界が見守るなかを飛翔する 天使は刃を交えたまま飛び、その翼を羽ばたかせ、羽を舞い散らせる。

交錯し、距離を取る…互いに コックピットで大きく息を乱す……もう、お互いに限界が近い……機体のダメージも大きい……恐らく…次が………そう予感したレイナにカインの声が響く。

「これで最期だ……レイ ナっ」

レイナは息を呑む……カイン は…メタトロンは最期の攻撃を仕掛けてくる……対峙するメタトロンは胸部ハッチを開放する。

開放されたハッチの下に鈍く 光る銀の円形……それを視認した瞬間、レイナはそれが何なのか悟った。

メタトロンに搭載された最期 の…そしてメタトロンが開発された刻に唯一装備されたもの……セシル=クズハの造り上げたγ線を利用した攻撃兵器……無論、その威力はジェネシスとは比べ ものにならない程低い…だが、MS一体を消滅させるには充分なものだった。

だが、これはまだ未完成の装 備……カインはそんなことを気にも留めず、発射態勢に突入する。

構えるメタトロンの胸部に収 束するエネルギー……天使の内に潜む悪魔の咆哮とでもいうかのごとく唸りにも似た鳴動が響く。

間違いなく…これで決着をつ けるつもりだと……レイナはコンソールを叩き、オメガを展開する。

「バレル展開……陽電子ライ ン接続」

凄まじい速さで入力し、オメ ガのエネルギーラインを変更する……インフィニティのバックパックに装備されたパーツ…ブラスター形態時のフェイタルセイヴァー用に装着した陽電子砲のエ ネルギーライン…それを、オメガの砲身へと繋ぐ。

通常のオメガでは絶対に対抗 できない……システムを切り換え、展開されたオメガの砲身を構える。

「インフィニティ……これで 終わらせるわよっ」

呼び掛けるように呟き…イン フィニティも唸りを響かせ、展開するオメガの砲口に蒼白い粒子が迸り、エネルギーをスパークさせる。

インフィニティとメタトロン から迸るエネルギーが周囲に干渉し、凄まじい磁場を生み出す。デブリはまるでショートしたように爆発し、見守るエヴォリューションのコックピットでリンは その発される感覚に気圧される。

インフィニティとメタトロン の眼光が絡み合う……対峙し…身構えるなかでカインは僅かに眼を伏せる。

『解かっている……解かって いるんだ………君も…そして…この世界の命も………』

まるで、自身に言い聞かせる ように内に向かって静かに言い放つ……そう…解かっている…自身が急ぎすぎた結果だということも………

だが…やらねばならない…そ れが、自身に課せられた運命なのだから……

『だが……俺は…俺の魂は… 俺達の闇は…………』

自らが抱える闇…そして、逃 れられぬ鎖………その苦しみも…傷みも…絶望も………そんなものを闇へと還してはくれない現実………世界は知ろうともしない…だからこそ……知らねばなら ない…………

狂った世界のなかで…カイン は遂に救いも……未来も見出すことはできなかった……だから終わらせようとした……全てを………

だが……眼前の存在は…運命 によって生を受けた魂は……自らの闇を乗り越えた……絶望だけに支配されていた闇を……

『君はどうだ…レイナ=クズ ハ……っ』

上げる視界……そして、イン フィニティの後方で輝く蒼い地球………その光景を見た瞬間、カインは微かに口元を緩めた。

『……そうか…』

もはや何もかも不要……これ で最期とする…そして……レイナが本当に自らの信念を貫き通せるかどうか……それを確かめる。

臨界を超えてスパークする閃 光……刹那、レイナとカインの眼が見開かれ、同時にトリガーを引いた。

解き放たれる互いの内に宿る 獣の咆哮……発射される全てを包むような蒼白い閃光と全てを灼き尽くすような紅蓮の閃光が真っ直ぐに伸び、両機の中央でぶつかり合った。

互いに干渉しあうエネルギー が対消滅を起こし、周辺に拡散して浮遊していたデブリや破片を分解していく。

その拡散するエネルギーによ り、衝撃波が周囲に弾かれるように飛び…離れていたエヴォリューションはその煽りを受け、吹き飛ばされる。

歯噛みするリン…だが、カメ ラアイからの映像がぶれ……途切れたことに人々は困惑し、息を呑む。

そんな世界も関係ないレイナ とカイン……だが、弾かれた衝撃波はその発射した2機にも直撃し、インフィニティもそのエネルギーに呑まれる。

「ぐぅぅぅぅっ!!」

拡散するエネルギーに巻き込 まれ、装甲が微かに融け落ちる……だが、歯噛みしながらも必死にスラスターとバーニアを噴かし、踏み堪える。

エネルギーの衝撃波が駆け抜 け、眼前の宙域が超新星の爆発のような白い閃光に包まれ、それを凝視する。

刹那、その閃光の内側から加 速してくる機影が映った。

「おおおおおっっっっ!」

咆哮を上げながら閃光のなか から現われるメタトロン…その姿に息を呑む。

「なに……っ!?」

あの爆発の衝撃波を自分と同 じく至近距離で喰らい、メタトロンも相当のダメージを負ったはずだ。事実、メタトロンもまた装甲がほぼ融け落ち、満身創痍に近い……だが、カインの気迫は それを上回った。

あの衝撃波に耐えるどころ か、逆にそれを突っ切ってきたのだ……完全に不意を衝かれた……歯噛みする間もないレイナの眼に映るメタトロンが右手のサタンサーベルを振り翳す。

「最期だっ! レイ ナァァァァァァァァァ!!!」

もはや余力など残っておら ず…最期の一撃と命そのものを込めて、突撃してくるカインにレイナも眼を見開きながらも、無意識に右手のインフェルノを引いて構える。

距離を縮め、フルブーストで コックピットを突き刺そうと構えた瞬間、カインは激痛が身体に走った。

「があぁっ!」

激痛と吐き出す鮮血…このタ イミングで…と毒づく間もない……繰り出したメタトロンのサタンサーベルはインフィニティの左側部を僅かに掠め、インフィニティがカウンターで繰り出した インフェルノの刃がメタトロンのコックピットブロックを貫いた………

硬直したように静止するイン フィニティとメタトロン……既にバーニアも破損していたメタトロンは貫かれた衝撃で機体に強制的に制動が掛けられ、装甲が完全に衝撃で崩れ落ちた。

剥がれ落ちていく純白の装 甲……宙域に舞い散る白い破片……折り重なる真紅の翼を拡げる漆黒の堕天使と純白の翼を持ち、灰色の装甲を持つ神天使……まるで、一枚絵のごとく空中で静 止する2機の間に静寂が満ちる……インフィニティは左側部を掠められ、装甲が僅かに余熱で融解したが、コックピットブロックは無事だ……だが、メタトロン は間違いなくコックピットブロック間近を貫かれている。

レイナは無言のまま、硬直し たように見詰める……カインはまだ生きている…それは感じ取れた……だが…レイナは呆然と自ら突き刺しているコックピットを見詰めている。

操縦桿を握る手が緩み、ビー ム刃が消えた瞬間……メタトロンは支えを失い、右手に握っていたサタンサーベルを離す。

貫かれ、露出したコックピッ トブロックの内部……その奥に見えるカインの顔…その姿に息を呑む。

コックピットが灼け、そして 身体も片腕を灼かれている……溢れる鮮血…そして、微かに笑みを浮かべるカイン……

「……俺の敗け……だ な………」

掠れた…弱々しい声で呟く も、レイナは眉を寄せ…そして、震えるような口調で問い掛けた。

「何故……何故外したっ?」

半ば自身に向かって言い放 つ……あの瞬間…間違いなく、自分のカウンターよりも速くメタトロンの繰り出した刃が自分を灼いていただろう。寸分の狂いもなく……だが、結果は自分は生 き延び…そして、レイナの繰り出した刃がカインを捉えた。

解からない…何故……自分が 生きているという状態に喜びも実感もないまま……戸惑うレイナに向かって、カインは自嘲気味に笑みを浮かべ、肩を竦める。

「フッ……どうやら、嫌なタ イミングで限界がきたな……あと少し遅ければ…結果は……ゴプッ! いや……もはや言うまい………」

口元から溢れる鮮血……乾い た笑み……

そう……結果は出た……なに を言ってもそれは変わらない…………その様子にレイナは不審そうに見やり…そして、ハッとしたように顔を上げ、上擦った声を上げた。

「っ!? カイン…あんた、 まさか……!?」

レイナの脳裏を過ぎった推測 に…御名答とばかりに自嘲気味に笑うカイン……

「……俺も、所詮は失敗作… いや……欠陥品だったのさ………この身体も、どうやら遺伝子の劣化が…激し、かったらしいな………ロストナンバーである俺の寿命も…本当ならとっくに尽き ていた………」

そう……カインの身体は…既 に遺伝子の劣化が起こり、身体細胞が崩壊の一途を辿っていた……遺伝子調整された刻に合わさった人とエヴィデンスの遺伝子……だが、それは遺伝子同士の反 発を誘発させ、そしてそれは身体細胞の崩壊として襲い掛かった。

フィリアが示唆せし推測…… レイナは…いや……ナンバー02は、ナンバー00の誕生データ及び臨床データを基に調整された…だが、カインは……元々の遺伝子同士の過負荷が強すぎ た……限界を超えてしまった身体………

そう……カインやレイナの能 力は、人としての器であるには大きすぎ…神と呼ぶにはあまりに小さすぎた……そして…互いにかかる過負荷は遂に劣化し、崩壊を促した………

ナンバー00という試作ナン バーは…最初から既に抹消されたナンバーでしかなかった……この身をコールドスリープにかけていたのも、全ては遺伝子の劣化を少しでも遅らせるため……そ う…この運命の審判の瞬間まで………

だが、レイナはそのカインの 言葉に困惑し、問い詰める。

「何故…何故、そこまでし て……っ!?」

何故、そこまで己を追い込ま れておきながら……こんな真似をしたと…こんな回りくどい真似などしなくても…カインなら簡単に世界を破滅へと導くことなど容易であったはずだ。

その問いに、カインは鼻を鳴 らす。

「フッ……最初に言ったは ず…だ……この世界に俺という存在を…刻ませたかった……愚かなこの世界に、な……自らが生み出した闇の……深さをな……」

途切れ途切れの口調で不適に 言い放つ……そう…カインはこの世界に刻もうとしたのだ…己の存在を……己が感じた闇を…世界が生み出した闇の深さを………この命尽きる前に……この世界 全てに対して………

その言葉に…思考を巡らせ、 レイナは眼を驚愕に瞬く。

「まさか、あんた……」

レイナの言葉を制するように カインは不適な笑みを浮かべたまま、遮った。

「たとえ俺がどうなろう が……世界は変革を迎える………俺の死など関係なく、な……」

カインの生死はもはや関係な い……世界に己の闇を知らしめ…そして自らの存在を刻んだ……カインのNGEが敢行すれば、それは新たな世界の再生……失敗しても、世界は新たな再生を余 儀なくされる……そう…どちらにしろ、カインの役目は既に終わったのだ。

この世界を…愚かさを……醜 さを…闇を見せるという……だが、そんなカインの意図に…まるで達観したような意図にレイナは言い知れぬ憤りを憶える。

「大罪人…そんなものが欲し かったの、あんたは!?」

カインは確かにこの世界にそ の存在を刻んだ……世界を破滅へと導こうとした大罪人……だが、そんなものが…そんな、カインの意志にとって大きく外れたものが欲しかったのか……カイン は無言のまま、答えない。

カインにとって、そんなもの は関係ない……この世界に絶望したのは紛れもない事実だ……この世界がどの道を選ぶのか……そのために………わざわざあの男の用意したステージにのったの だ………

全てを終わらせるために…… だが、それは叶わなかった………自分と同じ、闇の忌み子によって…運命に選ばれた少女に………

彼女は白でも黒でもなかっ た……ただ、盤上に突然置かれた存在………どちらにも成り、どちらでもない道を選べる資格をもった者………

そして……審判は降れ た………世界が…進むべき道を…生きるべき魂を選んだ………

「……世界は君を選んだ…た だそれだけのこと……そして…君のその信念…それは、あの世界で生まれ、生きてきた君の甘い考えでしかない………」

レイナが信じる世界……絶望 だけに染まりかけていた心に希望を与えたもの……MCでありながら…運命によってこの世界に生を受け…そして闇に囚われながらもあの世界で生きてきたレイ ナの甘い考えでしかない………

希望は…絶望と闇を必ず生み 出す……それが必然だ……だが、そうして滅ぼそうとした自分は敗れ…レイナが生き残った………

いや…同じ出生を持ちながら も……既に未来に絶望していたカインには…この結果は必然のように思えた………

だからこそ……カインの役目 は…架せられた運命は終わった………そして…見届けよう…レイナの信じる世界が……どこまで進むのか…闇とともに在れるのか………

まだ世界は……完全に破滅し ての再生ではなく、イレギュラーによる再生を望むのか……

「この世界で…っ……ぐっ、 所詮はイレギュラーとして排斥される運命を背負った君が…この世界で自身の信念を貫き通せるのか……その命を…魂を削り、傷つけてまで護った価値があるの かどうか……」

MCは所詮闇から生を受けた 存在……その事実は決して覆せぬ現実………この世界のイレギュラー……だが、イレギュラーはイレギュラーである故に……真にも偽にもなれる…そして……一 度は闇にその魂を囚われながらも…レイナはこの世界を望んだ………

その価値を…結果を……これ から確かめるのはレイナ自身の責任…………

「生きて…生きて……生き足 掻くことで、せいぜい証明してみせろ……君がこの世界でどう足掻き、そして生きていくのか……地獄からゆっくり観賞させてもらう…ぞ……」

過ちは繰り返される……幾 千・幾億・幾星霜………刻が流れようとも………闇は常に在る…そして……それが世界をどう導くのか…………地獄の裁きの業火に灼かれながら…見下ろそ う………

メタトロンは麻痺したように 腕をぎこちなく動かし…折り重なるように浮遊していたインフィニティのボディに手を置いた瞬間、残った力で弾き…その慣性によって2機は離れていく………

「カイン…っ!?」

呆然となっていたレイナはそ のカインの行動に思わず声を張り上げる。

そして……レイナの脳裏にカ インから最期の言葉が響く………

『約束…だったな………勝者 に敬意を表してパスワードを教えよう………ユグドラシルのバーニアを操作するパスワードは……『INFINITY』………』

眼を瞬き、息を呑む……移動 を続けるユニウスセブンの軌道を変えるためのバーニアの制御パスワード……そのパスワードに使用された言葉………そんなレイナの様子にカインはまるで悪戯 が成功した少年のような表情を浮かべ、口元を緩めた。

『…君に…相応しい言葉だろ う………?』

そう……彼女は可能性 だ………これから先の未来において……道を…道標となることを運命られた存在……彼女が秘める可能性は……

レイナはまるで金縛りにでも あったように硬直している……それを見届けながら…カインは残った右手を動かし、ポケットに入れておいた最後の煙草を取り出す。

「……ウェンド…テルス…… アクイラ…ルン………お前らも…逝ったか……」

最期の一服とばかりに自嘲め いた苦笑を浮かべ、煙草を咥えてライターに火を灯し、点火する。既にコックピットブロックのエアーも半ば放出され、火などつくはずもない……だが、カイン は構うことなくライターを離し…自分が巻き込んだきょうだい達の顔を思い浮かべ…一瞬、眼を閉じると……最期に開いた隙間から見える離れていくインフィニ ティに眼を向ける。

慣性に従い、離れていくイン フィニティ……その内にいる少女………自分と同じでありながら、違った存在……闇をその身に宿し…そして運命を自ら変えた………

視界が霞んでいく……溢れる ように流れる鮮血が視界を真っ赤に染めていく…だがそれでも…インフィニティの漆黒のボディは黒く煌いていた………

 

―――――白と黒……天使と 堕天使………表裏一体………お互いのために生まれてきたのだと思ったこともあった………

 

相反する道を選び…そして 闘った自分達………互いが互いを求め…闇を……全てを分かつかのように……互いに鏡に映った影だった…………

誰よりも近く…誰よりも遠い 存在……カインの耳に、レイナの呼ぶ声が聞こえたような気がした………

闇に堕ちていく感覚……あ あ…還るんだなと……あの…己が生を受けた闇へと………たとえ…この運命も……己の生も…全て仕組まれたものだったとしても………悔いはない……

絶望しかなかったこの世界 で……カインは最期の最期で初めて満たされたのだから………己の存在を世界に刻み…そして………全てを吐き出したのだから………

 

―――――真っ白な孤独の世 界で……君の存在だけが唯一俺の(いろ)だった……………

 

真っ白だった世界……絶望 も…闇さえも呑み込むような白い世界………なにもなく、そして絶望する世界のなかで唯一カインのなかで色づいた存在………

白に浮かぶ黒………闇をその 身に纏った少女…………

その言葉を最期に…カインの 意識は闇へと堕ちていった……深い深い…そして……待ち望んだ回帰………未来に絶望した少年とともに…神天使は流れ……メタトロンの半壊した頭部の奥で鈍 く光っていた真紅の眼光が霞み…メタトロンは駆動音を響かせる。

刹那、メタトロンは光を発 し……爆発に包まれた。

真っ白な閃光……飛び散る純 白の破片……翼の折れた天使が羽を散らせるように………破滅を齎そうとした神天使は宇宙へと散って逝った…………

 

――――C.E.71.10.2 22:40……

――――AEM−004: ディスピィア撃破………

――――MCナンバー07: アクイラ戦死…………

――――DEM−000:メ タトロン撃破………

――――MCナンバー00: カイン=アマデウス戦死…………

 

 


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