「ぐっ!」

呆然となっていたレイナは離 れたメタトロンの爆発に眼を覆う。

命の砕け散る瞬間……それを 表わすかのように白く…白く輝く爆発………カインの魂は…闇へと逝った…………

世界が……運命が自分を選ん だ……そんなことを誇るつもりもない………ただ軽蔑するだけだ………選ばれたんじゃないと………

「還りたかったの…あんた は………」

自らが生を受けたあの闇 へ……本当は、静かに眠りたかったのかもしれない………死者から再生され……あるべき生の刻の運命から外れ…この世界に……未来に絶望した哀れな存 在………

自分という闇を…世界に刻む ために……敢えて、大罪人となった………馬鹿だと思う……だが、カインは最期の最期に笑みを浮かべて逝った………

結局……カインの望みは…闇 は果たされたのだ………破滅を齎し…その先にある闇を世界に刻むために………

世界に愚かさを…醜さを知ら しめた………そして逝った…………業を独りで背負い…闇に身を委ね……自分の信念を嘲笑いながら………甘いとはレイナ自身も思う…だがそれでも……進もな ければならない………

人の生など、一瞬にして消え る……明日? 明後日? 一ヵ月後? 一年後? 十年後? いや……下手をすれば、今この瞬間に命が消えることさえある……それが運命なのだ……たとえ… 自分がどれだけ浅ましく闇に囚われていたとしても……その運命の刻がくるまで…レイナは進まねばならない………

神も…悪魔も……天使さえも いない………この醜くも美しい…矛盾した世界で…………

「眠れ……カイン=アマデウ ス……さよなら………兄さん…………」

だから……闇に眠れ………静 かに…誰にも邪魔されない………静かな眠りに……きょうだい達と同じく…………もう……その魂が傷つかないために……

半身の遺伝子を持つ存在…… そして…遺伝子上の兄……………善悪も正しいか間違いかも関係ない………ただ…レイナは選んだのだ……この道を………

見届けるインフィニティの瞳 から、微かに紅い雫が流れ落ちる………レイナはそれを感じ取り、眼を伏せる………

「インフィニティ……あんた も…哀しいの…………」

自らの兄弟機をその手にか け……破壊した…………最期まで…主とともに在り、そしてともに散ったメタトロン………その逝く光景に…微かに哀悼を込めるように……インフィニティは雫 を零しながら、低い唸りを響かせた………

哀しい旋律……死者から再生 され…そして破滅を齎そうとした天使は散った…………己が絶望した未来に……決して消えぬ破滅の火を抱いたまま………

自らの信念を貫いて散ったカ インは果たしてどう思ったのか…それはレイナには解からない……人は…所詮自分以外を完全に解かることなどできはしないのだから………

レイナも…そしてカイン も………内に流れる血の半分は…二人が絶望した人のものなのだから………

静かに口を噤み……暫しその 場に浮遊する…まるで……この宇宙という世界に…無限に…そして永劫に続く宇宙に………微かに涙を零しながら………

どれ程そうしていたか……時 間の感覚が狂いかけていたが、接近する反応に眼を開け…操縦桿を動かし、慣性に流れていた機体の姿勢制御を行い、態勢を立て直す。

顔を上げるレイナの視界に 入ってきたのは……インフィニティと同じ顔を持つ機体…そして、その内にいるもう一人の自分…いや……妹の顔が過ぎり、微笑を浮かべる。

インフィニティに接近したエ ヴォリューション……そして、コックピットにまるで永年聞いていなかったかのように錯覚するぐらいに感じるリンの声が響いた。

「姉さん……終わった の………?」

そう静かに問い掛けるリ ン……逡巡しながら、レイナはその視線を動かし、エヴォリューションのバックパックに装備された白いスタビライザーとビーム砲に留まり、微かに視線を細め る。

感じる……もう………天使達 は…いや………使徒として戦ったきょうだい達はいないと……自らの欲望や戦いのみに身を投じたウェンドとテルス……その身を呈して庇い、主を護ったアクイ ラ…己が愛する者と…姉への憎悪と羨望へ身を委ねたルン………そして…自らに業と闇を背負い…それを全てへとぶつけ、その存在を世界に刻んだカイ ン…………

天使の名を冠する機体を駆っ た彼らは……この宇宙に散って逝った…………

「………ええ…終わったわ… あいつらの生も…」

少し間を空け、レイナは微か に苦い声で応じた。

そう…終わった……いや…終 わらせたのだ……全てを………きょうだい達を…自分達の手で…その生を絶った…………後悔はない……

「彼女は……?」

「泣いてた……最期の最期 に………」

網膜に焼きついたルンの最 期……涙を零しながら最期を迎え、散って逝った妹……その場にいなかったレイナには何があったかは解からない。

だが…それでも聞こうとはし なかった………それは…恐らくリンとルンの問題だからだ…彼女達自身の問題だから……自分には、それにどうこういう資格も権利もない………

リンとルンの闘いが彼女達自 身のものであったと同じように……自分とカインの闘いも自分達自身のものだったのだから………

「あの男は……どうなった の…?」

不意に…そう問い掛けられ、 レイナは一呼吸した後……静かに…皮肉を込めるように呟いた。

「逝ったわ……私を嘲笑っ て…ね…………」

肩を竦め、自身に向かって吐 き捨てるように呟く……レイナを…レイナの選んだ道がどこまで通じるのか……それを見届けると…不適に笑って………だが、背負っていかなければならな い……彼らが遺した闇も…業も………

リンは無言でエヴォリュー ションの手を差し出す……レイナはやや呆気に取られるも、やがて表情を微かに緩め、インフィニティの手を伸ばして取る。

互いに大きく傷つき…そし て、闇を受け継ぎ………二人の運命の姉妹は最後の後始末をせねばならない。

「いこう……」

ユニウスセブンの軌道を止め るために……再び最深部へと向かおうとした瞬間、レイナとリンは背中に殺気を感じ、反射的に身を捻った。

「「っ!!?」」

左右に跳び、両機の中間を過 ぎるビーム……振り返り、その攻撃をした相手を視界に入れた瞬間、二人の眼が見開かれる。

二人の前に立ち塞がるエン ジェル群……バイザーを鈍く光らせ、額のモノアイが動き、こちらを見据える。

「どういうこと……あいつら はもう……っ」

訳が解からない……エンジェ ルを統括していたカイン達は既に倒した………MC同士の感応波により、魂が砕け散ったのを感じ取ったのだ……だから生きているはずがない……なのに何 故……困惑するレイナとリンに向かってエンジェル群はビームランチャーを構え、砲撃してくる。

レイナとリンは歯噛みし、回 避行動に入る……既に機体の状態もほぼ満身創痍に近い…加えて、もう残り時間も少ない……ここで余計な時間を喰うわけにはいかない。

何故エンジェルが未だに稼動 しているのか、それは解からない……解かっているのは……まだ終わっていないということだけ………

インフィニティは既に火器の ほとんどを失っている……それを察したリンはエヴォリューションをインフィニティの前に割り込ませ、急場凌ぎで装着したミカエルのビーム砲:キャリバーの 砲身を展開する。

「ルン……あんたの力、今は 借りる…っ」

本来なら、こんな無茶なこと はできない……だが、リンは信じるようにトリガーに手をかけ、指を引いた。

刹那、キャリバーから放たれ る閃光が轟き、エンジェルは分散して回避する。分散し、双斧刀を振り上げて迫るエンジェルの斬撃をかわし、インフィニティはインフェルノを振るい狙うも… エンジェルは光波シールドを翳して受け止める。

「っ!」

舌打ちした瞬間、背後に気配 を感じ…インフィニティの背後に回り込むエンジェル……虚を衝かれ、息を呑む。

エンジェルがランチャーを構 えた瞬間、横から撃ち込まれた幾条ものビームが機体を撃ち抜き、エンジェルを破壊する。

爆発が照り映えるなか…レイ ナはインフィニティを操作し、蹴りでエンジェルの空いたボディを抉り、弾くと同時にインフェルノを振り被って一閃する。

次の瞬間……縦真っ直ぐに機 体を真っ二つに斬り裂かれ、エンジェルが爆発する。

素早く離脱し…レイナは先程 援護射撃が轟いた方角に眼を向けると、加速してくる機体群……フリーダム、ジャスティス、マーズ、アカツキ…そしてスペリオル、デュエルパラディン、メガ バスター、ブリッツビルガー、シュトゥルムの9機……分散し、一方がエヴォリューションの援護に向かい、フリーダムら4機がインフィニティに接近する。

「レイナ!」

「ご無事でしたか、レイ ナ!?」

一目散に…そして真っ先に到 着したフリーダムとマーズ……そして、咳き込むように問い掛けるキラとラクスに、レイナはやや苦笑めいたものを浮かべる。

「ええ、なんとかね……ま あ、死神に嫌われたみたいだからね」

冗談めかした口調で答えなが ら、キラ達の機体を見やる……やはり、どの機体も激しい戦闘が行われた後を示すように、機体が大きく傷ついている。

フリーダムやジャスティスも 主兵装が残るのみだが、なんとか稼動できる状態…マーズは装甲がやや融け、そして装備も変わり、大破した主兵装に変わってXナンバー共通のビームライフル を装備し、機体を軽くしている。アカツキは予備バッテリーを装着したエールストライカーに換装し、ストライクルージュと同型のビームライフルとシールドで 戦線復帰した。

各々とも、早くこの場へと駆 けつけたかったのだ……そして、レイナが無事であったことに一同はホッと溜め息を漏らす。

「でもレイナ…これっていっ たい……?」

インフィニティの周りを固め るように構える4機…そして、キラは周囲を一定の距離を保ったまま囲むように飛行し、威嚇するエンジェル群に対し、疑念の声を漏らす。

「艦隊の方も戸惑っているん だ……突然、エンジェルが再起動したことに……」

簡単な補給を済ませ、先行し たアスラン達であったが……その矢先…シルフィのウイルスで機能を麻痺させていたエンジェルが突如機能を回復させ、再び襲い掛かってきたのだ。しかも、ま だ周辺で機能している両軍の傀儡も一緒だ。

流石に混乱は隠せなかった が……それでも艦隊は慌てて体勢を立て直し、残存機が防御陣形で接近している。

だが、既にカインも……四天 将も散った………彼らに統括されていたはずのエンジェルや傀儡と化した者達も当然、動きを止めるはずだ。

レイナも困惑しているの だ……この状況に………だからこそ、言葉を濁す。

「私にも詳しくは解からない わ……でも、まだ終わっていないのは確かよ」

原因は解からない……ただ解 かっているのは…まだ終わっていないということだけ……そう…まだ運命の輪は…閉じていない………

「くるぞっ!」

「ラクス、ライフルを!」

「は、はいっ!」

既に携帯火器を失っているイ ンフィニティ……マーズが備えていた予備のビームライフルを受け取ると同時に展開しているエンジェルが一斉にドラグーンを放ち、火線が幾条も煌く。

5機は瞬時に分散し、火線を かわす……身を翻し、ビームライフルで狙撃し、ドラグーンを撃ち落としていく。

だが、その攻撃に怯むことな く突進してくるエンジェル……レイナは悪態をつく。

いったいどうなっている…… 誰がこいつらを動かしていると…返ってこない問いを内心に吐き捨て、双斧刀をかわす。

回り込んでくるエンジェルの 動きを読み……インフェルノを振り薙ぐと同時にエンジェルの腹部が斬り裂かれる。だが、インフィニティに向かって掴み掛かってくる。

歯噛みするも、エンジェルは 横から衝撃を受け、吹き飛ばされる。

「リン!」

エンジェルを蹴り飛ばしたエ ヴォリューションはインフィニティの横につき、通信からやや上擦った声が響いてくる。

「マズイわよ、姉さん…… さっき、エターナルからレーザー通信が入った。統合艦隊が、予定通り、核ミサイルを使用すると…」

その言葉に息を呑む……多大 な犠牲を払いながらも、ディカスティス艦隊を突破した統合艦隊……旗艦であるリンカーンに艦載されている最後の切り札として準備された核ミサイル……猶予 はあと十数分……それまでに止められないなら、使用を辞さない……そして、そのために独立部隊である彼らにも退避しろという通信が先程エターナルら艦隊に 届いた。

ユニウスセブンが落下軌道に 入る前に、完全に消滅させようとしている…だが、レイナは思わず弾かれるようにユニウスセブンに眼を向ける……あそこには…あの人がまだいる……このまま 放っておくことはできない。

「私はユニウスセブンへ行 く……行かなくちゃならない………」

操縦桿を握り締め、微かに奥 歯を噛み締める。

そう…なにより、行かねばな らない………自分でも解からない何かが自分を呼んでいる…あそこへ……核ミサイルを使ってユニウスセブンが本当に破壊できるかどうかも怪しい。下手をした ら連鎖的被害を誘発する可能性もある……確実なのは、カインの言葉通り、コロニーを動かしている姿勢制御バーニアを操作することだ。

身を翻そうとしたインフィニ ティ…だが、その前方に立ち塞がるように群がってくるエンジェル群……舌打ちし、強行突破しようとした瞬間、ビームが降り注ぎ、エンジェル群を牽制する。

ハッと振り向くと、スペリオ ルらが一気に加速し、エンジェル群に向けて砲撃する。

「おっしゃぁぁっ! いく ぜぇぇっ!」

「当てます……っ!」

ディアッカが吼え、メガバス ターが全火器を展開し…シホは身構え、シュトゥルムのビームキャノンのバレルを展開し、次の瞬間…閃光が迸った。

解き放たれる閃光がエンジェ ル群の周囲に展開していたドラグーンを呑み込み、破壊する。その熱量にエンジェルも少なからず被弾し、動きを鈍らせる。

そこへ飛び込んでいくデュエ ルパラディンとブリッツビルガー。

「おおおおっ!!」

ビームサーベルを振るうデュ エルパラディン……イザークの叫びとともに振り下ろされる刃がエンジェルを斬り裂き、左手のガントレットで頭部を殴り飛ばし、ひしゃげさせる。弾かれたエ ンジェルが激突し、態勢を崩した隙を衝いてブリッツビルガーが手に持ったランサーを振り回し、ボディを突き貫く。

「はぁぁぁっ!」

一点に集束されたビーム刃が ボディを貫き、エンジェルが爆発する。

エンジェルを相手に奮戦する 彼らにレイナやリンがやや見入っていると、2機の前に現われるスペリオルから通信が届く。

「レイナさん、リンさん…こ こは私達が抑えます……行ってくださいっ」

リーラの必死の叫び……訊き たいことはある。だが、レイナとリンは行こうとしている…ユニウスセブンへ……それを感じ取ったリーラは何も訊かず、ただ彼女達を行かせようとする。

スペリオルはビームドライ バーを展開し、砲身に迸るエネルギーが発射され…射線上にいたエンジェル2機を撃ち抜き、破壊する。

「早くっ!」

道が拓け、語気を荒げるよう に叫ぶリーラに……レイナとリンは頷き、その拓いた間隙に飛び込むように加速していく。

エンジェル群を抜け、フル ブーストするインフィニティとエヴォリューションに気づいたラクスはマーズのフォルティスUを斉射し、フリーダムとジャスティスの間近にいたエンジェルを 牽制する。

「ラクス?」

「キラ、アスラン! レイナ とリンがユニウスセブンへと向かいました…貴方達も行ってくださいっ!」

その言葉に微かに眼を瞬 く……だが、そんなラクスに続くようにアカツキがジャスティスに斬り掛かろうとしていたエンジェルの双斧刀をシールドで受け止め、押されるも…歯噛みしな がら弾き飛ばし、ビームライフルで牽制する。

「いけっ、二人とも! ここ は私達で充分だ!!」

身を呈して活路を切り拓くた めにエンジェルに向かっていくマーズとアカツキ……その想いを無駄にしないために、キラとアスランは互いに見やり、頷きあう。

「アスラン!」

「ああっ! カガリ、ラクス 無理をするなよっ!」

身を翻し、フリーダムとジャ スティスは加速してインフィニティとエヴォリューションに追い縋っていく。

ユニウスセブンへと向かうレ イナとリンは後方から追い縋るフリーダムとジャスティスに気づき、眉を寄せる。

「レイナ、僕達も一緒にい くっ!」

「援護するっ!」

言っても戻るわけがないと既 に悟っているのか…それとも信頼しているかどうかは解からないが、レイナはただ一言で告げた。

「いくぞっ」

インフィニティが先陣を切 り、エヴォリューション、フリーダム、ジャスティスの4機はフルブーストに突入し、ユニウスセブンへ急接近する。最初の突入時にレイナが開けた空洞に向 かって……だが、その空洞から突如エンジェルが数機飛び出してきた。

立ち塞がるように迫ってくる も、4機は加速をさらに上げる……下手に時間を掛けるわけにはいかない…強引に強行突破しようと加速する4機はエンジェル群へと突撃し、エンジェル群はラ ンチャーで攻撃してくるが、それらの火線を掻い潜りながら、インフィニティ、エヴォリューション、フリーダム、ジャスティスの4機はビームサーベルを構 え、一気に飛び込んだ。

加速したままエンジェルを過 ぎった瞬間、エンジェルは機体を斬り裂かれ、分断される…一拍後、エンジェルが次々と爆発するも、まったく気にも留めず、その爆発を背に4機は空洞内へと 飛び込む。

時間は…残り『00:15: 00』を表示した…………

「残り時間はあと15分!  それまでに、ユニウスセブンを止めるっ!」

インフィニティがスラスター を拡げ、空洞内を突き進み…3機もまたそれに追い縋る。

「姉さん! アレを…っ!」

真っ暗な真空の闇のなかを突 き進み……奥からまたも現われるエンジェル……随分歓迎されていると毒づき、構えるも…それより早くリンが叫んだ。

「キラ! アスラン!!」

「うん!」

「ああっ!」

リンの呼び掛けと同時にキラ とアスランは操縦桿を切り、エヴォリューション、フリーダム、ジャスティスの3機がインフィニティを追い越してエンジェル群へと向かっていく。

「リン……っ!?」

その行動に眼を剥くも、フ リーダムとジャスティスはビームサーベルを抜き、エンジェルと斬り結ぶ。エヴォリューションもヴィサリオンを斉射し、エンジェルを粉々に撃ち砕く。

「ここは私達で抑えるっ!  姉さんは先へ……っ!」

インフィニティを背に、そし て道を切り拓くようにエンジェルを狙い撃ち、エンジェルが回避して空けた空間を拡げるように牽制する。

「レイナ、行ってっ!」

「こいつらは俺達に任せ ろっ!」

キラが叫び、フリーダムは ビームサーベルでエンジェルの腕を斬り飛ばす。アスランは咆哮を上げ、体当たりでエンジェルを弾き、態勢を崩した隙を衝いてビームライフルで狙撃し、破壊 する。

僅かに戸惑っていたが、レイ ナは意を決し、身を翻す……そして、翼を拡げて加速する。

加速するなか、微かに振り向 き…エヴォリューションに向けて、指を振った。それを見たリンは見えないレイナに向かって頷いた。

それが伝わったように、イン フィニティは振り返ることなく…フルブーストで奥へと消えていった………

そんなやり取りを確認したキ ラは複雑ながらも、二人の間にある絆を悟った……誰も立ち入れない……レイナとリンの間に確実に存在する強固な絆…そして、願った……彼女が無事に戻るこ とを………そして、キラは意識をエンジェルに向け、フリーダムを駆る。

大切なものを護るために…… そして、全てを終わらせるために…………

群がるエンジェルを相手にす る3機…だが、この狭い空間ではやはり機動性が封じ込まれ、数で攻められる方が不利だった。

防御に徹していたが、エン ジェルはやがて数でフリーダムとジャスティスを抑えに掛かった。

まるで死体に群がるハイエナ のようにフリーダムとジャスティスに掴み掛かるエンジェル……数機掛かりで機体に掴み掛かられ、動きを封じられる。

「「ぐぅぅぅぅっ!!」」

体当たりに近い衝撃に歯噛み する…だが、四肢を完全に数機掛かりで抑え込まれ、動くことができない。

拘束するエンジェルに向け て、小型の機動ポッドが動き、ビームを放ってエンジェルの頭部を撃ち抜き、動きを麻痺させる。

その隙を衝き、拘束から強引 に逃れるフリーダムとジャスティス……エンジェルを攻撃したドラグーンがエヴォリューションに収まる。

「あんた達、しっかりしなさ いっ! タイミングを合わせて…一気に蹴散らすわよっ!!」

奥から迫ってくる残存機…… リンの意図を察したキラとアスランは機体を飛び上がらせ、エヴォリューションの隣に並ぶと同時にフリーダムのビーム砲、ビームライフル、レールガン、ジャ スティスのビーム砲にビームライフル、エヴォリューションのレールガン、キャリバーが火を噴いた。

放たれる砲火の閃光が真っ直 ぐに伸び、迫っていたエンジェルを呑み込み…その白い機体を蒸発させていく……

閃光が…闇のなかに満ち る…………それは、命と命の激突が奏でるもの………

 

 

 

ただ独り……最深部へと突き 進むインフィニティ……氷の天井部が砕け、氷が粒子となって漂い、空間に充満している。まるで、死者の魂が彷徨うかのような幻想さを醸し出すコロニーの内 部を突き進むインフィニティの前に敵機の反応が現われる。

動きを止めるレイナの前に現 われるエンジェル……その姿に歯噛みする。

いったい、どれだけの数がい るんだと……そして、エンジェルはインフィニティに一斉に襲い掛かる。

エンジェルの一機は殴り掛か るように飛び込んでくるが、インフィニティはその腕を取り、相手の勢いを利用して投げ飛ばす。

だが、投げ飛ばされたエン ジェルはそのまま腕で制動をかけ、コロニーの地表に着地し、まるで巻き戻るように再度跳躍し、硬化していたインフィニティに掴み掛かった。

肩を掴まれ、その勢いに押さ れて地表に倒れ込むインフィニティ……そして、インフィニティに向けて拳を振り上げるエンジェル…だが、インフィニティのバルカンが火を噴き、エンジェル のバイザーを砕く。

怯んだ隙を衝き、インフェル ノを振り上げてボディを斬り裂き、弾き飛ばす…素早く起き上がり、前方から襲い掛かろうとしていた一機に向けて左腕を振り上げ、ケルベリオスを自動で投げ 飛ばす。

回転しながら迫るビーム刃が エンジェルの胸部に突き刺さる…それに一瞥もくれず、流れるように左手のビームライフルで隣にいた一機のボディを撃ち抜く。

そして、インフィニティは大 きく上半身を捻り、右手のインフェルノを上方に向けて大きく薙いだ。

薙がれた斬撃が後方から迫っ ていたエンジェルのボディを両断する……刹那、瞬きする間に破壊されたエンジェル4機が一斉に爆発する。

その爆発から飛び上がるイン フィニティに向かって前方から突撃してくる残存機に向けて、バックパックに残っていた全ミサイルポッドを解放し、一斉に発射する。

発射されたミサイルが真っ直 ぐに弧を描きながら飛び…ミサイルに向けて加速していたエンジェルはよけることもできず、ミサイルの餌食になり、バラバラに砕け散る。

その爆発を見届けながら、空 になったポッドをパージし、レイナは操縦桿を引いてインフィニティを加速させる。

だが、レイナの内でなにか釈 然としないものが引っ掛かった……あの襲ってきたエンジェルの動き…明らかにおかしい……まるで戦闘モーションが単純すぎる。

その疑問に逡巡しながら…機 体をフルブーストさせる……残り時間はあと10分………

そして、遂に最深部へと到達 する……コロニーを支えている支柱の起点………コロニーの制御系統が集束された区画へ………

到達した瞬間、レイナは眼前 に拡がる光景に息を呑む。

「これは……っ?」

僅かに眼を瞬く……砕けた支 柱の下部に設置された巨大な機械の柱………各所に点滅のランプが灯り、稼動している。

これが、ユニウスセブンを動 かしている制御バーニアの操作装置なのだろうか……確認するように見上げるレイナ…その視界が一点に留まった瞬間、眼を大きく見開いた。

「ヴィア…っ!」

柱の外装部に固定されたヴィ ア=ヒビキのカプセル……まるで、貼り付けにされたかのごとく…または、象徴のようにも見えるカプセル……戸惑うレイナに声が響いた。

【フッ…フフフ……遂にここ まできたか…………】

突如響いた低い声…レイナは 微かに息を潜め、周囲を窺う……機械的な雰囲気が漂う男の声……だが、レイナは内からざわつくような感情が噴出すのを抑えられない。

【我が研究の頂………我が最 高傑作…………】

声の発せられる方角に向けて 視界を上げた瞬間に耳に入った声…そして、ほぼ同時に視界に入ったのは、機械の柱の最上部付近に設置された小型カプセル……いや…小型カプセルに驚いたの ではない……そのカプセル内には、溶液が充満していた……淡いライトグリーンにも似た液体のなかに浮かぶ気泡……そして…そのカプセルの中央にコード類で 繋がれていたのは……人間の脳髄………

「まさ、か……お前 は………っ」

震えるような声で呟く……そ うだ…この声は……記憶に…レイと…カイン……いや…きょうだい達全てにとって忌まわしい声……そして…己が内に流れる血を全て捨てたくなるほどの憎悪を 掻き立てるあの男の………

【運命が選びし……ニュータ イプ………レイ…我が娘よ………】

その言葉が決定的だった…… レイナの頬を汗がつたり、そして…掠れた声でその名を呼んだ………

「ウォーダン……アマデウ ス…………」

この身体を…レイを……そし て、レイナ自身の運命をこの世界に造り出した男……カインの父であり…リン達他のMCナンバー……いや………MCとして調整されたきょうだい達全てにとっ て忌むべき創造主の名を……レイナは口に出した。

馬鹿なと思う……ウォーダン は…殺されたはずだ……他でもない…カインの手で…あの運命の刻に………だが、そんなレイナの混乱を見透かすように脳髄からの機械的な声が響く。

【我は創造主…そして新たな る世界の導き手………ウォーダン=アマデウス……】

 

 


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