薄暗い空間……そのなかに唯一光を放つもの………
端末に取り付けられたコンソールのキーを叩く音が響き、設置されたモニターにデー
タが表示されていく。
「戦闘データ消去……及び、機能データ停止………」
片言のように呟きながら、コ
ンソールを叩く人影……黙々と…そして淡々にキーを叩いていく。
表示されていくデータが次々
にカットされ、MSの構造図が映し出される。
「エネルギー系統カット……
各システム、停止………」
そこまで作業が終わった段階
で、初めてキーを叩く手が止まる……人影は、どこか憂いを漂わせる瞳を浮かべるも…やがて、表情を引き締める。
「全機能停止……」
自身に言い聞かせるように最
後のキーを叩いた瞬間……構造図に表示されていたMSから色が消え、『SYSTEM DELETE』という文字が表示された。
それを一瞥すると、人影は顔
を上げ…眼前に設置されたハンガーに固定された機体を見上げる。
―――――ZGMF−
EX000A・DEM−X000−01:インフィニティガンダム…………
それが、この機体に与えられ
た名だった……
暗闇のなかに浮かぶ鉄褐色の
灰色のボディ……そして、その頭部に闇のなかでも煌くような輝きを放つ真紅……だが、もう二度とその瞳に光が灯る必要はない。
「インフィニティ……ありが
とう……私に最期まで付き合ってくれて………」
眼前に佇むMS:インフィニ
ティに語り掛けるように人影が呟き、そして暫し見詰めていたが、やがて背を向ける。
「貴方はもう…戦わなくても
いい………」
そう……もう戦う必要などな
い………そこまで、頼るつもりもない…………
自らのきょうだいを倒し……
自分と同じく静かに涙を流した………だからもういいと……
この空間にこもれる光が差し
込まれる一枚のドア……重い鉄の扉の開閉音が響き、人影は今一度振り返り、共に戦い…そして駆け抜けた半身を見上げる………
未練だろうか……その瞳にど
こか寂しげなものが混じる………ほんの数ヶ月であったが…この機体と共に駆け抜けた戦いの日々が脳裏を掠める………
そんな未練がましい自身を嘲
笑うように肩を竦める。
「誰にも邪魔されず……静か
に眠れ…………」
最後にその感謝を込めた言葉
を送り……人影:レイナ=クズハは扉をくぐり、重い鉄の扉が閉じられた。
暗い静寂間が満ちる………機
能を停止したはずのインフィニティの瞳が微かに薄く輝き、低い唸りにも似た駆動音を響かせた後……辺りは再び静寂に包まれた………
宇宙を駆け抜けた堕天使はそ
の翼を閉じる……共に駆け抜けた少女の闇とともに………
戦うために生まれ…闇を還す
ために戦い……全てを信じて今眠りに就く………
『無限』と『永劫』を司る
『GUNDAM』は……静かな闇にその機能を停止した………
刻はC.E.72のことだっ
た………………
機動戦士ガンダムSEED
TWIN DESTINY OF
DARKNESS
PHASE-∞ エピローグ
一年半にも及んだ地球連合、
ザフトの戦争は、誰もが予想外の結末を迎えることになった……大戦末期に突如として人類に宣戦布告した『ディカスティス』…審判者を名乗る謎の組織によ
り、人類は未曾有の危機を迎えることになるも…両軍、及び一部の勢力…そして、『GUNDAM』と呼ばれるMSを駆る若者達により、事態は終結され……同
時に戦争は終わりを告げた………
この戦争は、その第3軍が天
使を模していたことから『ANGEL WARS』と呼称されることになる。
戦争においては必ず勝者と敗
者が存在する…だが、両軍とも既に疲弊が強く……また、両国の国民達が揃って和平を求める声を強めたのだ。最終決戦において流された戦闘…そして、既に長
引く抗争において抱えていた社会不安が限界を超えた必然であった。戦争継続が困難に陥り、両軍は矛を収め、地球連合軍とプラントの間で停戦が結ばれること
になった。
そして、停戦における地球、
プラント間の終戦に向けた条約交渉が行なわれることとなる。
これまでにおいて、幾度とな
く繰り返されてきた交渉……だが、互いに矛を収め…そして相手の言い分を聞き、協議する……そんな当たり前のことが今まで行なわれていなかった。
その間にも地球各国では様々
なことが起こっていた。ユーラシア内部での西ヨーロッパ方面や一部の地域で暴動が起こり、また南アメリカ合衆国でも独立気運が高まり、A・Wで既に戦力を
ほぼ損失し、疲弊している両国はこの独立を鎮圧する力も鎮静させる力もなかった。開戦初期に軍部を取り仕切っていた強硬派の面々は軒並み戦死し、ユーラシ
アではアンダーソン中将が…そして、大西洋連邦ではハルバートンが中将に昇格し、A・Wで名をあげた両将の派閥が軍部を取り仕切ることになり、また政界も
シオンを中心とした一派が独立鎮静のためにただでさえ消耗している国力をさらに低下させるのは好ましくないとして、ハルバートンは元南アメリカ合衆国のエ
ドワード=ハレルソンを特使として派遣、独立を容認するに至った。
そうした世界情勢のなか、終
戦協議に関しては両陣営の仲介として、赤道連合及びスカンジナビア王国などがつき、地球連合国はシオン派の議員及び大統領…そして、プラントからは議長で
あるジュセック、外交議員のアイリーンと外務次官として就任したラクスが補佐官として交渉に臨み、特別オブザーバーとしてオーブ連合首長国のロンド=ミナ
=サハク代表が出席し、終戦へと向けた各国の協議に入ることとなった。
無論、すんなりと進むもので
はない……協議が繰り返された結果、大西洋連邦は、アラスカ事変で各国に対して背信行為に及んだとして、賠償金を支払うことになり、またミナはそのなかで
オーブの主権回復を約束させた。プラント側からは、NJC及び復興支援の各地への供給が行なわれ、その見返りとして食糧の限定生産…及び資源の一部輸出が
決まった。そして、各国への外交官の常駐が取り決められることになり、問題の焦点である各軍事力に関しては、NJCの兵器転用への禁止と軍備縮小が取り決
められた。
今後の地球とプラント間の経
済協議に関しては、終戦条約に調印した後に再び行なわれることとなった。
もっとも、プラントの完全独
立など不可能であろうから…連合国家と合わせて一つの大きな組織内での同列国家としてが最大譲歩かもしれない。
まあ、組織内での一国家とし
ては独立が約束され、プラント内での製品が連合国家に利益を齎せるのなら、政治家は文句はないだろう。
それ以外の国家もその組織内
に加盟すれば、その利益に預かれるのだ……無論、配当は低くなるだろうが、それでも不満を漏らして一国家で世界に戦争を仕掛けるような馬鹿な真似には及ば
ないだろう。
また、これらの終戦協定の一
環として、地球・プラントの協同プロジェクトとして、外宇宙への探査計画が開始されることとなった。
外宇宙への進出……未だ、木
星までしか行ったことのない人類…その先にある未知の世界への旅立ち……そのためにはまず、各地盤が必要になる。
まずは、火星と木星に宇宙ス
テーション建造…さらにはコロニー開発が挙げられる。核パルスエンジンを用いた惑星間航行用コロニー建造も検討されている。
元々、火星圏や木星圏への移
住計画自体は開戦前から計画され、既に火星ではステーションを建造し、一部では生活が始まっているが、戦争の最中で交信は途絶えていた。それらを見直しの
意味も込め、まずは火星圏への移住に関しての居住区や連絡船の建造はプラントで…労働力、及び資材とうは連合から出資されることとなり、このなかでナチュ
ラルとコーディネイターの融和と、両者の交わりによるプラントの人口増加やブルーコスモス穏健派のナチュラルへの回帰が少なからず合致した結果でもある。
そして、行く行くは太陽系を
越えて外宇宙へと旅立つ……奇しくも、ジョージ=グレンの提唱したコーディネイターの意義が初めて実践された瞬間でもあった。
どれだけの時間が掛かるか見
当もつかない…だが、今必要なのは、両者が共に在れる環境なのだ……これらのプロジェクトノウハウとして、ナチュラルとコーディネイターが共にいるジャン
ク屋組合が作業効率に関するプランを提出……そして、終戦調印後にプロジェクトは始動を開始する。
終戦…そして、平和に向けて
様々な協議が進む……だが、この終戦に関しても快く思わない勢力は多数存在する。
シオンが新たな盟主として収
まり、ブルーコスモス穏健派が勢力を強め、ブルーコスモス内を統一し、強硬派の幹部クラスなどは今まで非合法に行なっていた人体実験施設などが暴露され、
ブルーコスモス強硬派やそれに関与した政治家の一部が逮捕され、またその筆頭であったアズラエル財団は理事であったアズラエルの戦死により、急速にその勢
力を弱め、また戦時中NJCの存在を隠し、自らの利益として独占していたとして多くの同列企業体から非難を受け、また経営陣が軒並み逮捕され、解体される
こととなった。
そして、そんな台頭する穏健
派に追われ、勢力を弱めながらも未だにコーディネイター殲滅を掲げるブルーコスモス一派に、最終決戦において参加しなかったザフト軍の一部の部隊がナチュ
ラルに対して根絶を叫び、プラントを離れ、身を隠すなど…両軍から離反者が多く出ている。
それらが巧妙に地下で潜伏
し、活動している…そして、海賊行為などに及ぶケースも少なくない。それらに対処するために、連合とプラントは両軍から一部の部隊を派遣し、部隊統合によ
る遊撃隊の設立を急遽行なった。特殊鎮圧部隊:ガーディアンズ…両軍の仲介役として、またガーディアンズの本拠としてオーブのミナがその立場を誇示するた
めにアメノミハシラを提供…また、オーブ軍が仲介となり、両軍の統合化を図っている。
これらガーディアンズ艦隊は
アメノミハシラを拠点に宇宙や地球など、様々な場所でそれらを監視・説得・鎮圧に当たっている。
また、ガーディアンズと提携
しているのがジャンク屋組合である……世界中に散らばり、復興支援などに従事しているジャンク屋の数は多く、それらが巨大なネットワークを形成し、多くの
情報を扱っている。その膨大な情報を基にガーディアンズは潜伏している各組織の早期発見を心掛けている。これにより、ジャンク屋組合もまたその立場をより
堅持なものとしている。
そして……それら終戦協議・
協同プロジェクト・統合部隊の設立など……約一年以上にも及ぶ協議の結果、オーブにてその終戦条約調印が成されることとなった。
戦争の傷跡は未だ大きく残る
ものの……世界は平和に向けて歩み出していた…………
そして……刻はC.E.72
の12月に差し掛かっていた……………
月面裏側…前大戦初期におい
て地球軍とザフト軍が死力をかけて戦い、そして多くの死傷者を出したグリマルディ戦線の舞台になった場所………
連合軍が作動させたサイクロ
プスにより、未だ破壊された艦艇や機動兵器……無数の残骸が浮遊する墓場とも取れる場所…訪れる者も少ないこの場所に、一隻の艦が航行していた。
連合標準艦である一隻が月面
上低高度で航行し、奥の一つのクレーターへと向かっていく。
艦が接近すると、クレーター
の内部に施されていたハッチが開放され…艦はそのなかへと降下していく。
ハッチを潜り、内部へと降下
した艦はそのまま着陸態勢に入り…クレーターのハッチが閉じられる。
着陸した艦の隣には、同じよ
うに連合のアガメムノン級に護衛艦、駆逐艦などが数十隻立ち並び、そして…奥のデッキでは今現在では旧式化したストライクダガーをはじめ、ダガー系統の機
体が立ち並び、さらには連合の現在採用されている新鋭の最新型制式量産機であるGAT−04:ウィンダムも少数ながら配備されている。
工廠能力を備えた一軍の基地
とも取れるここは、かつてザフト軍が使用していた旧ローレンツクレーター基地を改修したもの。
そして現在は……ロード=ジ
ブリールが筆頭となるブルーコスモス強硬派や、今の連合軍の立場に反目し、脱走してきた兵士などが集結している反抗勢力であった。
それらの工廠を天井部の貴賓
室で見下ろすのは、背格好を整えた男……手元にグラスを傾けながら、まるで笑みを浮かべるように佇んでいる。
「ジブリール様、先程新たに
物資及び人員が到着しました」
「そうか…では、引き続き行
なわせろ……この世界において、真の正義を示すためにな」
「はっ!」
軍人と思しき男が敬礼し、そ
の場を去っていくと…ジブリールは今一度工廠を見下ろしながら、忌々しげに歯噛みする。
「おのれぇ……シュタイン
め…貴様の好きにはさせんぞ………」
こんな月の裏側に追いやられ
た恨みか…表情を醜悪に歪ませる。本来なら、アズラエルの後釜としてブルーコスモス盟主に収まり、コーディネイターどもを殲滅し、蒼き清浄なる世界を創る
という崇高な目的も全てあのシオンによって潰された。盟主の座は大戦末期においてその存在を知らしめ、カリスマ性を発揮したシオンが盟主に収まり、ジブ
リールら強硬派及び殲滅派の内、シオンの提示する方針に反する者は追放となった。今では、世間では指名手配犯だ…頼りにしていた軍需産業の老人達は、シオ
ンが齎す恩恵と利益にシオンの能力を買い、ジブリールといった成果を出していない者を切り捨てた。戦争は私怨でやるものではない…所詮は国家間の利益問題
の激突だ……ジブリールはそれを理解できていなかった。
故に見限られたのだが…この
男にはそんなものは通用しないかもしれない。
「見ておれ……必ずや、この
世界の真の担い手が誰なのか…思いしらせてやるっ」
そう…そのために辛辣を舐
め、こんな月にまで落ち延びてきたのだ……先の大戦末期から独自の戦力を増強し、私兵集団を創り上げ、ここまできたのだ。
だが、基本的に他者を隷従さ
せるしかしないこの男はシオンのように各組織と提携することはない…故に、大戦末期に設立を開始しただけにシオンも見落としていたのだ。
そして、シオンは自らが創り
上げたOEAFOを連合勢力として正式な部隊に組み込んだ。
先の戦争で多くの兵力を失っ
た連合とプラント…叩くチャンスは今しかないと踏んでいるジブリールであるが、不確定要素は統合部隊であるガーディアンズであるが……所詮は寄せ集めとタ
カを括っている。
ジブリールは…いずれ訪れる
であろう覇者の道に夢想し、笑みを浮かべていた。
既に……自らの組織内部にイ
レギュラーが紛れ込んでいるとは気づかず………
ドックでは、先程入った艦艇
から降りてきた連合兵や様々な背格好の人間が自らのIDを持って担当官にチェックを受けている。
ここに来ているのは、現状の
連合に不満を持つ兵士やブルーコスモスが多いが、それでも用心に越したことはない。
そして、一人の連合服を着込
んだ女性がIDを渡す。
「レイ=ヒビキ……大西洋連
邦少尉……元太平洋艦隊所属……?」
担当官は、その眼前に立つ銀
の髪を首筋で束ね、そして眼鏡をかけた女性を見上げる。
「そう……いいかしら?」
「ああ、次……」
女性が問い掛けると、問題が
なかった担当官は促し、そして女性は列を離れ…一人、静かに基地内を歩んでいく。
「さて、と……まあ、随分戦
力を集めたみたいね………」
ざっと見渡しただけでも百近
いMS……元々スクラップから修理したものも多いようだが…それに艦艇……よくぞここまで世間に気づかれず集めたものだと感心する。
「今のところの最大反抗勢
力……シオンの情報もあながち的外れではなかったかもね」
小さく零しながら……連合服
を着込んだ女性……レイナ=クズハは眼鏡を掛け直し、基地内を静かに進めていく。
(爆弾設置は工廠と通路……
タイミングは…あっちに任せるか)
内心独りごちると、レイナは
基地の人気のない区画で潜入のために着服していた連合軍服を脱ぎ捨て、下から黒いアンダースーツ姿に漆黒のコートを羽織る。銃を装填し、収めると同時に眼
鏡を取る。
レイナがここへと来たのは、
依頼を受けたからだ……依頼内容は………ロード=ジブリールの身柄拘束…あるいは殺害……IDを偽装し、レイナは潜入した。
流石は軍部内にも今や巨大な
影響力を持つシオンの根回しだ……今は、議員ではなく一介の経営者に収まっているが、それでも彼をシンパとする政治家は多く、大西洋連邦における影の実力
者と謳われるほどだ。
だが、彼はあくまでビジネス
ライクの人間……それが国家に…そして自社に利益を齎すのなら、私怨は持たない。そんなところがレイナにとってはなかなか好感が持てるところだが……
しかし、元ザフトの前線基地
をブルーコスモスが使うとは……皮肉というかなんというか…と思わず苦笑を浮かべそうになる。
そして……手元の起爆スイッ
チを押した瞬間、工廠内に仕掛けられていた爆弾が炸裂し、基地内は混乱に陥った。
工廠内から起こる爆発が艦艇
のドックで起こり、倒れる柱や作業重機などが艦艇を押し潰し、またMSも数体が爆発に巻き込まれ、それが誘爆していくという連鎖反応を起こしている。
「な、何事だ!?」
悠然と見下ろしていたジブ
リールは突然の光景に上擦った声を荒げる……遂数秒前まで眼の前に展開されていた己が力の象徴は、無惨にも崩れ落ちた。
鳴り響く警報と舞い上がる
炎……ジブリールは手に持っていたグラスを落とす。グラスの砕け散る音が響くと同時に貴賓室に警報が鳴り響いた。
《緊急事態発生! 識別不明
艦一隻接近中! 迎撃に出られる者はただちに出撃せよ!》
その通信にガバッと顔を上げ
る。
敵襲……それがジブリールに
言い知れぬ怒りを憶えさせ、そして歯噛みしながら貴賓室を飛び出した。
消火作業が思うように進まぬ
なかの突然の敵襲……所詮は寄せ集めの部隊という脆さが露呈し、うまく指揮系統が成り立っていない。
そのために、各艦艇が各自の
判断の出撃していく……場合によっては、自らが逃げ延びるために……所詮は、その程度の結束力ということだった。
ローレンツクレーターにデブ
リに紛れて接近する艦……船体に施された髑髏のエンブレム…それは海賊を意味するもの……アガメムノン級を改装した、傭兵・海賊間でも一目置かれる部隊…
シャークレギオンの母艦:コスモシャークだった。
《お二人とも…目標より爆発
を確認。艦が約8隻上がってきました》
艦首前方に立つ2体の
MS……一機は胸部に髑髏のレリーフを映えさせ、片眼を眼帯型のスコープで覆い、マントを靡かせているMS…ドレッドノートHだった。
その横に立つのは、全身を漆
黒に染めたボディを持つ機体……両肩にスパイク型シールドを装備し、頭部にはモノアイが輝いている。だが、ザフト系列のMSにしてはバックパックに連合製
のガンバレルストライカーを装備し、腰部には大型対艦刀を備えている。
ZGMF−1001:ザク
ファントム……それが、この機体の名称だった。ザフト軍におけるニューミレニアムシリーズとして、現在次期主力機として配備が進められている機体の指揮官
型だ。
そして、肩には兜と剣のエン
ブレム……それは、彼女の…『漆黒の戦乙女』のエンブレムだった………
そのザクのコックピットに座
るのは…そのエンブレムと……漆黒のカラーリングを好むパイロット…リン=システィの姿があった。
「どうやら、姉さんの方は成
功したようね」
まあ、あの姉がそうそう不覚
を取るとも思えないが……内部での破壊工作となると、レイナにとっての独壇場であろう。
今回、この基地襲撃の依頼を
受けたのはレイナとリン……Illegal
Contractor:非合法処理請負人であるTDODの二人に依頼されたものだ。そして、そのサポートとしてカナード達シャークレギオンに要請したの
だ。
レイナが基地に潜入し、内部
で破壊工作を行い、敵の足並みを乱す……所詮は寄せ集め…少し乱してやれば、あとは浮き足立ち、まともな連携も取れはしない。
そして、迎撃か…それともい
ざとなったらの逃亡手段のためか……数隻の艦隊がクレーター内から浮上してきた。
リン達の役目は、それを逃さ
ないこと……カナードのドレッドノートHが飛び立ち、それに続くシャークレギオンのストライクダガー改……そして、リンも操縦桿を引き、スロットルを踏み
込む。
バーニアスラスターが火を噴
き、モノアイを輝かせながら、ザクは飛び立った。
同時に、コスモシャークの艦
首に装備された陽電子砲が起動し、次の瞬間……蒼白い粒子が迸り、閃光が解き放たれた。
真っ直ぐに伸びる奔流が射線
上のデブリを呑み込み、艦隊の密集している空間へと過ぎる。
駆逐艦一隻に護衛艦一隻がそ
の直撃を受け、爆発する。その余波を喰らい、駆逐艦の一隻がエンジンを被弾して月面へと不時着していく。
これで残るは5隻……そし
て、艦からMSが発進する。ストライクダガーがほとんどだが、105ダガーにダガーL…そして、最新鋭のウィンダムが数機……ダガー系統はほぼエールとい
う標準装備だ。
ビームを放ちながら迫ってく
る敵機にストライクダガー改は4機掛かりで迫る。流石に機体性能というアドバンテージがあるために、集団による連携で一気に攻め込んでいく。
ドレッドノートHはビーム
サーバーを振り上げ、ダガーLを両断する。
爆発が機体を照りつけるな
か、その隙を衝いてウィンダムが死角から狙撃するも、ドレッドノートHの左腕に展開される光波シールドがビームを防ぎ、パイロットは眼を見開く。
刹那、ドレッドノートHの
放ったビームに頭部を撃ち抜かれ、失速して月面へと落下していった。
そして……リンの駆るザクは
高機動で戦艦の対空砲火を掻い潜り、一気に肉縛し、両腰部から対艦刀を抜き、振り上げてエンジンを斬り裂き、エンジンが火を噴き上げ、護衛艦は失速して不
時着する。
ウィンダムがビームを放ちな
がら迫るも…それをかわし、バックパックのガンバレルを展開し、四方から襲い掛かるビームがウィンダムの四肢を撃ち抜き、行動不能にされ、ウィンダムは月
面へと落下した。
先の大戦を戦い抜いた猛者と
欲望に走った小物……既に、戦闘結果は見えていた………
クレーター外での戦闘が終結
に向かっていた頃……基地内部は混乱の渦にあった。炎上する施設に消火作業をまともに行なおうとする人間が少なく、誰もが戸惑い、そして逃げることしか考
えていない。
爆発といってもそんなに殺傷
力の大きいものではない……せいぜい、見た目を派手にしただけだ。だが、眼の前で起こる惨状に冷静に判断できる人間は少ない……爆発が数ヶ所で同時に起こ
れば、それは混乱を起こし、足並みを乱す。さらには迎撃機を半数近く封じ込めることで外で奇襲を掛けるリン達の負担も減らせる。そして、当然首魁のジブ
リールは向かうはずだ…司令室か、基地内の脱出ボートに…だが、小型シャトル等が発進できそうな緊急脱出ボートは全てシステムを破壊した。なら、ジブリー
ルは司令室にまだ閉じこもっている可能性が高い。
レイナは脳裏に様々な状況を
浮かべ、既に烏合の衆と化した兵士を横に独り……ジブリールを捜して司令室へと進んでいた。
「何者だっ!?」
「侵入者か!? 撃
てぇっ!」
司令室へと続く道を警護して
いた兵士がレイナの姿を見つけ、手にしたライフルで発砲してくるも、レイナはそれを遮蔽物に隠れながらかわし、銃撃が止んだ一瞬の隙を衝いて遮蔽物より身
を乗り出し、銃を発射する。
狙撃された兵士は一発で腕や
脚を撃ち抜かれ、痛みに呻いている。それを一瞥すると、レイナはその蹲る兵士達を横に駆け抜けていく。
生き残っていた兵士はその光
景に戦慄し、誰もが恐怖に我先へと逃げ出していく…これで、司令室に余計な増援は断てる。
レイナの恐ろしいところは戦
闘技能もだが、こうした戦術論でもある……一つの事象で二次的三次的効果を生み出す。こうした戦術論はリンには及ばない部分がある…ひとえに、10年近く
も戦場を渡り歩き、そしてダイテツに教え込まれた戦術論故に裏付けされたものだろう。
そして、遂に司令室へと辿り
着く……ドアの横に背中を預け、手を伸ばしてドアのロックを解除する。
ドアが左右に開閉した瞬間、
司令室の奥より銃弾が轟き、過ぎる……随分セオリー通りの攻撃をしてくれると半ば感心すると、相手が銃撃で葬ったと思ったのか、止む。
その一瞬の隙を衝き、レイナ
は転がり込むように司令室へと飛び込む……突如乱入してきた黒い影に兵士達は驚くも、慌てて照準を合わせるが、遅い……レイナは一人に向けてトリガーを引
き、手首を銃弾に掠められた兵士は悲鳴を上げ、握っていたライフルを放り飛ばす。
投げ出されたライフルをレイ
ナは跳躍してキャッチし、同時に眼下に向けてトリガーを引いた。
一斉にばら撒かれるように放
たれる銃弾が呆気に取られていた兵士達の膝を撃ち抜き、兵士達は悲鳴を上げてその場で転がり回る。
そして、兵士達の後方で隠れ
ていたジブリールは悪態をつく。
「ちぃぃ、役立たずども
が……っ!」
身体を張って護ろうとした兵
士達を侮蔑し、あっさり見捨ててジブリールは逃亡しようとする。まだだ…と……ここから逃げ延びれば…自分さえ生きていればどうとでもなると……自己中心
的な考えだったが……銃撃が響いた瞬間……ジブリールの頬を掠め、銃弾がコンソールに撃ち込まれ、火花を飛ばす。
「あ、がっ……」
頬を掠めた時に出血し、流れ
る血を押さえながら、ジブリールは表情を引き攣らせてその場にへたり込む。
そんなジブリールに向けて歩
み寄るレイナ……眼を瞬くジブリールに向けて呟く。
「元ブルーコスモス急進
派……前盟主ムルタ=アズラエルに次ぐナンバー2……そしてジブリール財団の総帥……だが、先の大戦終結とともにブルーコスモスより追われ、逃亡……かし
らね、ブルーコスモス急進派幹部の一人……ロード=ジブリール?」
揶揄するような口調で銃口を
向けると、ジブリールは息を呑む。
「き、貴様ぁ! 解かってい
るのか!? 私が死ねば、蒼き清浄なる世界は失われる! 私こそが世界を導く選ばれた者なのだぞっ!」
この期に及んで何を言うかと
思えば……そんな自賛じみた戯言とは………呆れたように肩を竦めると、今一度トリガーを引く。
放たれる銃弾が再度顔を掠
め、ジブリールは引き攣った悲鳴を上げる。
「あんたの戯言を聞くつもり
はないわ……あんたみたいのが世界を導く? 哂わせてくれるわ……あんたがそれ程有能なら、こんな所で無様になっているはずがないけど?」
痛快な皮肉を込めた言葉……
シオンのように立ち回れるのなら、少なくともジブリールも有能だっただろうが…この男はあくまで己が手段に拘りすぎた。自分の考えこそが唯一無二のものだ
と……自意識過剰もそこまであれば立派だ。
「……さて…もう遺言は十分
でしょう? あとは…地獄で吼えなさい………」
ジブリールの戯言など、レイ
ナは記憶に留めるつもりもない……そんな吼えたければ、地獄で存分に吼えればいいだろう……今まで己が踏みにじった者達の前で………
だが、ジブリールはそんなレ
イナに対して背を向け…腰が抜けたのか、這うように逃げ出そうとする……これが、かつてはアズラエルに次ぐ殲滅派と恐れられたジブリールかと……あまりに
情けない姿にレイナは殺す価値も失せた。
こんな男……殺す価値もな
い……だが、逃がすわけにはいかない……レイナは逃げようとしているジブリールに向けて脚を振り上げ、腹を蹴り上げた。
「ごほっ……」
まさに権力を笠にきた脂肪太
りのごとく……深く喰い込んだ蹴りに身体を九の字の折り曲げ、眼を見開くジブリールの顔を殴り飛ばした。
月の低重力のなかを吹き飛
び、ジブリールは司令室のシートに激突し、顔からは歯が抜け落ち、そして全身の骨も妙な姿に折れ曲がっている。
身体中の関節を外した……も
う、一生ベッドから抜けることは叶わないだろうし、あれだけ精神的に追い込んだ…まともに精神が働くかどうかも怪しいが、そんな事はレイナの知ったことで
はない。レイナが受けた依頼はあくまでジブリールの身柄確保か最悪の場合は殺害だ……五体満足でいさせろとは受けていない。
そして、司令室に燃え盛った
炎に室内スプリンクラーが作動し、司令室を消化していく。
その人工の雨に濡れている
と、手元の通信機が鳴る。
《姉さん、そっちはどう?》
通信から響くリンの声に微か
に笑みを浮かべ、受信する。
「こっちは終わったわ……目
標はまあ、死んじゃいないけど…取り敢えず生産施設は破壊したし、任務は終了かしらね」
そう……この基地の工廠デー
タは破壊した。もう二度と生産はできないだろう…それに、ここを完全に破壊するのが仕事ではない。彼女らの仕事は、あくまで合法で捜査できない場所のあぶ
り出しなのだ。こういった非合法的な活動をまさか表立った組織がやる訳にもいかない。
そして、これだけ派手にその
存在を曝け出されれば………
《それじゃ、早く戻って。
ガーディアンズの部隊が接近中よ》
「意外と早かったわね…すぐ
そっちに合流する」
そう……あれだけ派手にやら
かせば、当然軍が動く…自分達は要は、軍や政府機関が合法的に動ける理由をつくってやればいいだけだ。あとの始末は彼らがつけてくれるし、自分達は社会的
には表沙汰にならない。
この方法でこの一年間、十は
くだらない数の反政府組織や違法な研究施設を潰してきた。本来なら国際指名手配のテロリストものだろうが、両政府にとって使い勝手のいい存在である以上、
自分達の行動が制限されることはないし、黙認されるだろう。
まあ、簡単に捕まるつもりも
ないが……所詮、政治は暴力と表裏一体なのだ……レイナは司令室を一瞥し、素早く格納庫へと走る。
月の裏側故に少しばかり到着
は遅れるかと思ったが……流石に地球、プラントの両政府の抱える特殊部隊だけのことはある。
微かに笑みを浮かべながら格
納庫に到着すると、誰もが混乱しレイナに気を回す者はいない。余計な騒動に巻き込まれずに済むとレイナはハンガーに駆け寄り、固定されているウィンダムの
コックピットへと続くラダーを取り、ハッチへと搭乗していく。
シートに着くと同時にハッチ
を閉じ…APUを起ち上げる。ウィンダムのセンサーアイに光が灯り、固定具を強制的に排除する。
操縦桿を引き、レイナの駆る
ウィンダムはハンガーから立ち上がり、固定武装のバルカンを放ち、残っている無事なMSの頭部を撃ち抜き、破壊する。
全てのMSが起動不可能にな
ると、レイナはもう用はないとばかりにウィンダムを飛び立たせる。
黒煙の立ち昇るクレーターか
ら飛び出し……既に戦闘を終結させていたコスモシャークの甲板へと着艦する。
甲板には既にリンのザクをは
じめ、ドレッドノートHらシャークレギオンの機体が着艦し、ウィンダムが収容されると同時にコスモシャークはエンジンを噴かし、高速で離脱していく。
そして……ほぼ同時にクレー
ター基地に接近する艦隊があった。
「艦長、目標宙域に接近……
戦闘の熱分布算出……いえ、既に戦闘は終了しているようです」
その報告に、艦長席に座る地
球軍服を着た女性士官は一瞬眼を剥くも、やがて軽く息を吐き出した。
「また例の連中か………毎度
のことだが、鮮やかな手際だな」
どこか称賛した物言いで肩を
竦める女性士官の首筋には中佐の階級……特殊鎮圧部隊ガーディアンズ第一遊撃艦隊旗艦:ドミニオンの艦長であるナタル=バジルールだ。
A・W終結後、彼女はその功
績を認められ、中佐に昇進…しかも、地球軍からの出向でガーディアンズの一部隊の指揮官に収まった。無論、両軍における摩擦は多少なりともあるが、その手
腕を発揮し、見事に職務を果たしていた。
「よし、MS隊発進…負傷者
の救護及び連行だ……基地内部にも向かわせろ。いくら敵が既に烏合の衆とはいえ、油断はするな」
表情を引き締めると、クルー
達はナタルの指示を実行していく……不時着した艦やMSに向かって、ガーディアンズのMS隊が救助と連行に向かう。
破壊された艦艇はジャンク屋
組合の作業艦及び回収艦が牽引し、ドックへと運ぶ手筈となっている。
そして、ドミニオンと追随す
るナスカ級2隻に護衛艦3隻からMSが発進し、一部が戦闘で破壊されたMSの回収へ……そして、一部が基地内部へと向かう。
ローレンツクレーター基地へ
と向かうMS一団……ザフト側から発進してきた3機が連合側から発進してきた3機と合流し、並行して飛行する。
「しかし、見事だよな……ど
の機体も一撃で行動不能にさせられているよ」
ぐるっと見渡し、6割近い
MSのコックピットが原型を留めていることに感嘆するのは、ブレイズウィザードを装備したザクファントムに乗るエレン=ブラックストン……戦後、戦技教導
隊として編成された部隊の指揮官に抜擢され、MSによる戦術論の構築に従事し、その一環としてガーディアンズへと出向している。故に、赤服に指揮官カスタ
ムのザクファントムへと搭乗している。
「教官…じゃなくて隊長、一
人で先々行かないでくださいよ〜〜」
どこか呆れたように声を掛け
るのは、レミュ=シーミル……彼女もガーディアンズへと出向となっているが、如何せんまだまだ実戦不足……ZGMF−601:ゲイツRを駆りながら必死に
エレンに追い縋る。
「ったく、これぐらいついて
こい、シーミル」
軽く悪態を衝くエレンにレ
ミュは苦笑で無理ですとぼやき……その様子にもう一機…こちらはガナーウィザード装備のザクウォーリアに搭乗しているヴェノム=カーレルが溜め息を零す。
大戦中は一兵士でしかなかっ
たが、今やエレンの下教導隊の一員となっている。
「旦那のとこが羨ましいぜ、
うちは隊長があんなんだからな……」
思わず愚痴る先にいるのは、
ヴェノムのザクウォーリアと並行するように飛行するエールストライカー装備のウィンダム…パイロットは、地球連合軍大尉のデスティン=ノーアだ。
A・Wの最中、奇縁で共同戦
線を張ったヴェノムとデスティは、その後ガーディアンズ出向でひょんな再会を果たしたのだ。
「フッ……構わんだろう…変
に気負うよりはいい」
「いや、うちのははっちゃけ
過ぎだと思うが……」
こうして軽口を叩き合うな
ど、なかなかにできないことだが……互いに戦後結婚し、それらが二人の友情を深めたかもしれない。
「隊長……間もなく基地内部
に入るよ」
「お喋りはそれぐらいにして
くださいね」
雑談を交わすデスティに話し
掛けるのは、ソードストライカー装備のウィンダムと砲戦キャノンストライカー装備のウィンダムだ。
抑揚のない冷静な声を発する
のは小柄な少女……そして、悪意はないが妙にキツイ物言いをする女性……デスティの部下であるジェイス=テグリナス中尉とユリア=ミカゼ中尉だ。
共に先の大戦末期に活躍した
屈指のパイロット……デスティは大尉へと昇進し、ジェイスとユリアは中尉へと昇進した。そして、彼女らはデスティの部下になったのだが……
「あ、ああ…すまん」
どこか上擦った口調で応じる
デスティ……どうやら、隊長としての威厳は低いようだ。
その様子にヴェノムは哀れみ
の視線を浮かべ、しみじみと溜め息をついた。
クレーター基地内に降り立つ
と、そこらかしこで炎が燻っている……エレンとデスティは消火用のグレネードを放ち、拡散する白い粒子が炎を鎮めていく。
「でも、私達が来る前にいっ
つも終わってますよね〜〜」
ユリアが思わず漏らす……実
際、ガーディアンズに出向という形で来てはいるものの、戦闘をしたのはほんの数回…それでも既に戦意喪失している者が多かった。
「ああ、あたしらが来る前に
な」
そう…ガーディアンズがそれ
ら指示された宙域に到着すると同時に施設は麻痺、敵機はほぼ戦闘不能に追い込まれている。
「それなんですけど〜なんで
も黒い2機にやられたって話ですよ〜〜」
「……黒い2体のMS…上層
部はTDODってコードで呼んでる」
ガーディアンズ内部で囁かれ
ている噂……襲撃された者達の話では、2体の漆黒のMSによって打撃を受けた。だが、そのMSは連合製であったりザフト製であったりと確定はしていな
い……そして、上層部内で囁かれるTDODというコードネーム……その詳細はほとんど掴めておらず、現場には伝わっていない。
ただ解かっているのは……合
法的に処理できない問題を片づける非合法処理者ということだけ………そして、上層部や政府はその行動を黙認しているということ。
流石にそれを口に出すのは躊
躇われた……実際どうであれ、政治的な分野は政治家の仕事だ…こういった裏家業が必要とされている現状、仕方ないだろう。
「まあ、その辺は俺らには関
係ないことだ…さて、消火作業も終わる。回収要員を回してもらおう」
そう……詮索するのはともか
く、自分達にとっては関係のない話だ。それに、その行動を上層部が黙認しているのなら……前線で戦う自分達にはどうしようもないことだからだ。
船外における怪我人及びク
ルーを連行し、そして回収艦が基地内部に降り立ち、基地内部を検閲する。
《こちら、キャリー一尉で
す。ロード=ジブリールを発見……重症ですが、命に別状はないかと……》
ドミニオンのメインモニター
に映る純白のオーブ軍服を着込んだ男……オーブ軍所属のジャン=キャリー一尉がクレーター内部で最重要指名手配犯であったジブリールの身柄を拘束したこと
を報告していた。
発見時は、全身複雑骨折とい
う事態であったが、少なくとも命に別状はなかった。
報告を受けたナタルは顎に手
を置き、息を呑み込む。
「解かった…氏は本艦の医務
室に連行してくれ……それと、撤収準備を急がせてくれ」
《了解しました》
通信が途切れ…ドミニオンの
前方にいた機体……オーブ軍次期主力量産機であるMVF−M11C:ムラサメである。オーブ軍現主力MSであるM1と似通った形状デザインながら、M1の
弱点であった空対空戦能力を大幅に強化し、また可変機構を導入された第3世代型MS……現在はまだ、オーブ軍内でも一部にしか譲渡されていない機体だ。
ジャン専用機としてカラーリ
ングされた純白のムラサメがM1隊を率いて基地内部へと向かっていく。
こうして、野望を目論んだジ
ブリールの目論みはあっさりと瓦解することとなった。
その目論見を崩した者達の存
在は一切、表に出ることなく…………