注)この小説において、キャ ラの捉え方や性格など本編と違う可能性があり、また曲目や料理の選定には、自身の偏見と独断が入っていますので、それを踏まえてお読みください。

各キャラのポイントを……エ ンディングを決めるのは読んでくださっている貴方です。

歌詞を全て書くと、著作権に 引っ掛かると思ったので、短くしましたが、本当は全部歌っております(脳内でご想像ください(殴))

また、なるべく有名な曲を チョイスしましたが、もし曲をお持ちなら、是非聴きながらお読みください。

 

 

 

 

 

 

円盤皇女ワるきゅーレ  十二月の夜想曲

特別編第二章   花嫁の座は誰のもの?

 

 

 

 

春の陽気が漂う麗らかな日 中………

羽衣町の時之湯の自宅にて、 和人は久方ぶりののんびりとした休日を過ごしていた……

手に持った湯呑を口に運び、 お茶を一口啜ると…溜め息をついた。

隣には、同じく日向ぼっこを しているシロ…またの名を『流星のシロッケンハイム』。

思いっきり年寄りくさい行為 だが……ここ暫くは、和人の周りはドタバタしていて気の落ち着く間もなかった。

その主たる原因は……周囲の 女性陣だ。

数ヶ月前に訪ねてきたワル キューレ・ゴーストが来てからというものの……周囲の騒がしさは増していた。

特に秋菜との摩擦が凄かっ た………一週間ほど前、和人の学校の校門前にゴーストが和人待ち伏せたことがあったのだ。

当人の和人の驚きは凄かった が……それを見た秋菜の反応はもっと凄かった。

徐に懐から護符を取り出そう として、慌てて静止させた。

抗議する秋菜に対し、説明す るからと取り敢えずその場を離れようとしたが……ゴーストは悪戯っ子のような笑みを浮かべ、和人に腕を絡まし…それに対し秋菜が表情をヒクつかせた……後 日、和人には二股説が流されることとなった。

そのまま時之湯で行われた尋 問会で……説明するのはかなり骨が折れた…なにしろ、ゴーストが秋菜を挑発するものだから……秋菜は秋菜でそれに過剰に反応する……傍から見ると、完全に からかわれているとしか思えない。

未だ、秋菜の想いに気付かな い和人は、秋菜の嫉妬と新たな恋敵の出現への危機という思いに気付いていない……

 

そんな事があってから……自 分は常に引っ張り回されて………気の休まる間もない。

もう一度、力を抜くように茶 を啜ると……大きく溜め息をつく。

そんな和人の心情を察したの か、シロが背中をポンポンと叩く。

その気遣いが嬉しかったの か、和人ははにかんだ笑みを浮かべ…そして、またもや茶を啜る。

「ごめんくださーい」

その時、玄関から来訪を知ら せる声が響き、和人は湯呑を置き、玄関へと向かっていく。

「はーい……どちら様です か?」

ガラッとドアを開けると、そ こには一人のシスター服に身を包んだ女性が立っていた。

「こんにちは、番台さん」

女性がニコリと微笑む。

「あ、ユリアーヌさん……」

和人にも見覚えがあって当然 だ……よく時之湯を訪れてくる常連さんであり、街外れの教会でシスターを勤めている……時折、番台にいる和人をからかうのが少し困った点なのだが……しか し、突然の来訪に首を傾げる。

「どうしたんですか、いった い……?」

「ここじゃなんだから、 ちょっといいかしら…?」

「あ、はい……どうぞあがっ てください」

和人が促し、ユリアーヌを 伴って居間へと案内した。

 

 

 

「ジェーンブランドの広 告……ですか?」

数分後……居間にて、和人、 わるきゅーれ、真田さん、リカの前でユリアーヌが来訪の目的を話し、和人が聞き返した。

「ええ……うちの教会も、新 しく広告を出すことになって…それで、結婚式の写真を取りたいと思ってたのよ……」

お茶を飲みながら、ニコリと 微笑む。

要約すると、ジェーンブラン ドの広告用の結婚式の写真を取りたいとのことで、ここを訪れたらしい。

「でも、なんでうち に……?」

率直に思ったことを和人が尋 ねる……それなら、モデルを雇った方がいいと思うのも普通だろう。

「モデルに頼むと費用が掛か るし……それに番台さん、確か時々金髪の綺麗な女の人と一緒にいるわよね?」

その問い掛けに、和人はああ と相槌を打った。

恐らく、ワルキューレかゴー ストのどちらかだろう……

「それで、番台さんとその人 に頼もうと思って……勿論、ウェディングドレスと式場はこっちで用意するから」

笑顔で告げるユリアーヌに、 和人は意表を衝かれ……次の瞬間には、顔を赤く染めて後ずさった。

「ええっ!!?」

「あら……いいわね」

驚く和人の声とは逆に、横か ら楽しそうな声が掛かり、全員がそちらを振り向くと、居間に面した縁側に、何時の間にやらゴーストが腰掛けていた……ニコニコと笑顔を浮かべて……和人は 何故か、嫌な予感が過ぎった………

その予感は的中した。

「ちょっっとぉぉ待っ たぁぁぁぁぁぁ!!!」

絶妙のタイミングで襖が開 き……全員が振り向くと、そこには仁王立ちしている秋菜が佇んでいた。

………どうでもいいが、不法 侵入だぞ……

もっとも、そんな事に突っ込 まないあたり、この場にいる者達は常識がずれているかもしれない……

「あ、秋菜……なんでここ に?」

「そんな事より! いくら広 告用でも、結婚式なんて絶対ダメ!」

必死の形相で関係ないことに 迫る秋菜に、後ろにいたハイドラが悪態をついた。

「……素直じゃないね…っ てぇ!」

ボソッと呟いた瞬間、秋菜の 拳がハイドラの頭に振り下ろされ……その痛みにハイドラが悶絶する。

「あら……どうしてかしら?  もしかしたら、近い将来の予行演習になるかもしれないでしょ? それとも……自信がないのかしら?」

あからさまな挑発に、単純な 秋菜は素直にのせられる。

「何ですって!!? いい わ! それなら、花嫁の座をかけて勝負よ!!」

毅然と言い放ち。ゴーストを 指差す……対し、ゴーストも了承とばかりに妖艶な笑みを浮かべる。

事態がなにやらややこしい方 向へ流れ始めたのを感じ取った和人はおろおろと二人を見渡し、そこへユリアーヌがさらに拍車をかけるような言葉を呟いた。

「そうね……理想の花嫁を選 ぶってのはいいかもね」

突拍子もない言葉に、和人が 思わず振り向く。

「な、何言ってるんですか、 ユリアーヌさんまで……」

「だってその方が、より理想 なジェーンブランドの写真が取れるでしょう」

悪びれもなく言いのけるユリ アーヌ……その時、それに同意する声が響いた。

「そうね……その方が、いい 刺激になるかもね」

突如として呟かれた声……こ ちらもいったい何時現われたのか、ちゃぶ台の端に、正座座りをしたメームが、ズズッとお茶を啜っていた。

「メ、メームさん……!?」

「い、いつの間に……!」

和人とリカがその神出鬼没さ に驚き、眼を見開く。

メームは一度、ゴーストを見 ると……ゴーストは肩を竦め、メームは軽く息を吐き出した。

そして、驚いている和人をジ ロリといった感じで睨むメーム。

「それよりも婿殿……これは よい機会です………私としても、婿殿とワルキューレの縁談がいっこうに進まないので、ヴァルハラ皇家の長として悩んでいるのです」

「いえ…それ以前の問題では ないかと………」

歯切れの悪い口調で、ピョン ピョンと嬉しそうにシロの上で跳ねるわるきゅーれを見やる。

「わーい! わるちゃん、和 人と結婚式を挙げるんだー」

無邪気に跳ねまわるわる きゅーれ……

 

「わたくしも参加させていただきますわぁぁぁぁぁ!!!」

 

上空から轟くような声が響 き…次の瞬間、時野家の庭に、上空から何かが激突した。

朦々と舞い上がる粉塵の後か ら、咳き込みながら円盤から顔を出すのは、ライネである。

「わたくしも勿論参加させて いただきますわ! ああ、一人の殿方を取り合う……最高のシチュエーションですわ〜〜」

なにやらトリップに入るライ ネ……呆れ果てている一同にトドメを刺すように、今度は襖が開かれた。

「とどのつまり……勝負だ ね」

言わずとも知れたもう一人の 時野家の居候……コーラスである。

「あら……勝つのは私よ」

フフンと不適に笑うゴース ト……その態度から、大人の余裕が漂っている。

「ぜぇぇったい、勝つのは私 よ!」

控えめな胸を張り、闘志を露 にする秋菜……背後に炎が燃えるのは気のせいではないだろう。

肝心の和人は完全に周りに付 いて行けず、おろおろしている。

「では……勝負は明日……会 場の設営を、真田さん…お願いしますね」

話を纏めるようにメームがチ ラリと真田さんを見やると、猫耳をピンと立てて、真田さんは頷いた。

「はい…お任せください!  我が侍女部隊の総力を挙げて、最高の舞台にしてみせます!!」

こうして……和人の意見を無 視し、事態は進行していくのであった………

 

 

 

そして……翌日………ユリ アーヌの教会の敷地内に特設ステージが設けられ……というよりも、よく一晩で完成させたと思えるほど、凝った作りだ。

テントが張られ、内部にはス テージに加えて照明器具まで設置され、和人は半ば驚きを通り越して呆れてしまった。

「あの……なんか、事態がど んどん大きくなっているような気が………」

「いえ……これでいいので す」

悪びれもなく答えながら、 『解説』と書かれた席に腰掛けるメーム。

「ところで……なんで、僕は こうなってるんでしょう…………」

和人でなくとも疑問に思うだ ろう……今現在、和人はぐるぐる巻きにされ、椅子に固定されている……『優勝賞品』という札まで貼られて………かなり、異様な光景だ。

「申し訳ありません…婿 殿……」

「そうなんですぅ、侍女長の ご指示なんですぅ」

脇に控えている猫耳侍女の二 人が答える。

もはや、半ば呆れて引き攣っ た笑みしか浮かばない………

 

 

「みぃなさぁぁぁぁんんんん!! お待たせしましたぁぁぁぁぁ!!!」

 

その時、何処からともなく照 明が落ち、声が上がる。

スポットライトがステージの 一点を指すと、そこにはマイクを持った真田さんが佇んでいた……ノリノリで………

「では、これより…婿殿の花 嫁の座を賭けた勝負を始めます! 司会は私、真田と…解析には、ヴァルハラ皇家の長、メーム様……審査員は、この5名です!」

ステージの端に光が集中し、 そこに設置された審査員席を浮かび上がらせる。

そこには、この勝負を持ちか けたユリアーヌ、無理矢理審査員にされたハイドラ、そしてシロ、マル、ミュウが座っていた。

 

「それでは、選手の皆様の入 場です! まずは、我らが姫様…ワルキューレ!」

 

ライトがステージの一画を差 し、そこにワルキューレの姿が浮かぶ。

「和人様、私頑張ります!」

小さくガッツポーズをするワ ルキューレ。

 

「続けて、姫様のライバル!  ワルキューレ・ゴースト!!」

 

ワルキューレの隣がライト アップされ、ゴーストの姿が浮かぶ。

「フフフ……待っててね、和 人さん」

妖艶に微笑み、人差し指と中 指を唇に当てる。

 

「婿殿の幼馴染みにして、最 強女子高生巫女! 七村秋菜!!」

 

巫女装束に身を包んだ秋菜の 姿が浮かび、閉じていた眼を開く。

「ぜぇぇったぁぁいに負けな い! 私は勝ぁつぅぅ!!」

瞳の中に闘志の炎を燃え上が らせ、拳を握り締める。

 

「ヴァルハラ皇家の皇女にし て、方向音痴! 変身のライネ!!」

 

真田の紹介が癪に障ったの か、浮かび上がったライネが癇癪を起こす。

「んまぁぁ、失礼な! 私を 誰だと思ってるんですの? 楽勝ですわ」

自信満々に胸を揺らし、髪を 掻き上げる。

 

「そして、最後のヴァルハラ 皇女……電波のコーラス!!」

 

背筋を伸ばし、無言で佇む コーラス。

「……電波が来てる……」

意味不明なことを呟き、あ さっての方角を見やる。

 

「最後は、婿殿の妹………時 野リカ!!」

 

端がライトアップされ、どこ か所在なさげに佇むリカ。

「あの……なんで私がここに いるの………?」

参加人数合わせのために無理 矢理参加させられ、半ば呆れている………

 

「それでは、自己紹介も終了 しましたので、これより勝負を開始します!」

一部、コメントに関しブーイ ングが飛んでいるが、まったく気にも留めず、真田さんはテンションを上げたまま、解説席のメームを見る。

「それでは、勝負方法を解説 のメーム様より御説明していただきます」

「はい……勝負方法は、い たって簡単……選ばれた勝負品目2勝負を全員が同時に行い、合計得点の一番高かった人物が優勝です」

淡々と説明し終えると、一礼 する。

「はい、ありがとうございま した……それでは、早速第一勝負の種目を見てみたいと思います!! 第一勝負の種目は……こちらです!!」

全員がステージの真正面に設 置された電光パネルに注目する……カシャカシャと音を立てながら不規則に動き……次の瞬間、文字が表示された。

 

―――――『歌』、と。

 

「第一勝負は、歌と決定しま した!!」

この種目に、ガッツポーズを 取る者が数名………

続けて、歌う順番が表示され る。

トップバッターは……時野リ カ。

「え!? わ、私……?」

流石のリカも戸惑うが、続け て順番が表示されていく……二番手はコーラス、三番手は秋菜、続けてライネ、ゴースト、ワルキューレ………順番の選定に、某侍女長の策略があったらし い………

「それでは、勝負の開始は5 分後……皆さん、準備に入ってください」

真田さんの指示に、全員がス テージを降り、それぞれの準備のために控え室へと向かう。

 

 

そして5分後……実際のとこ ろ、観客は和人のみだが、この際それは置いておこう。

「それでは、最初の奏者…時 野リカ様……どうぞ!!」

ささっとステージの端に移動 し、ライトが一瞬落ちて辺りは暗闇に覆われ……次の瞬間、星空をあしらったステージの中央には、某艦長服を着込んだリカの姿が……

「リ、リカ……」

さしもの和人も、普段の冷静 な妹らしからぬ姿に唖然となる。

「し、仕方ないでしょ!」

文句を言いながらも、なんだ かんだでリカも乗り気だったようだ。

(まあ、お兄ちゃんなら…… いいかな………)

なとど心の中で呟きながら、 リカは一呼吸し、柄にもなくドキドキしている心を落ち着かせる。

選択した曲の前奏が静かに流 れ始め……リカはマイクを握り締め、真っ直ぐに前を見据える。

 

一人歩きの MyRevolution   幾つもの出会いに 見つけた

優しさ……切なさ………

 

切なさを帯びる瞳で…静かに リカは歌う……

 

心に開くキャンパスは  傷付いたり  汚れたり、でも

描かれ出された  淡い感情

 

虚空をなぞるように、手を動 かす。

 

あなたの声 あなたの髪、もしも  千 年たって 会ってもまだ 覚えてる

星の数ほど  あの日の事 未来の事 もっと 

想い出下さい 私は  あなたを消せな くて  

Forever Full up My  love

 

普段とは打って変わるその姿 に、和人は思わず凝視する……

軽く息継ぎをし、両手でマイ クを持ち上げる。

抱いてはいけない想いを歌い 上げるように声を発し……リカの視線が一瞬、和人を捉える。

 

Forever Full up My  love……

 

想いを届けるように微声を発 し……静かにマイクを下ろした。

静寂が戻ると、リカは息を吐 き出し、肩を落とすと……意地悪そうな笑みを浮かべてステージから降りていった……そのギャップに、和人は思わず呆然と見送った。

ハンカチで眼元を拭いなが ら、真田さんが再びステージ中央にやってくる。

「胸に切ない想いが拡がりま す………では続けて、コーラス様です」

ステージが切り替わり、今度 はコーラスの姿が浮かぶ……リカと違って服装に変化は無い……和人は、以前町内のカラオケ大会で外したことを思い出した。

前奏が流れ始めると、コーラ スの周囲を炎のようなものが燃え上がる。

 

割れた鏡の中 映る君の姿  泣いてい る 泣いている

細い月をなぞる指

 

パフォーマンスを付けなが ら、踊るようにコーラスは歌う。

 

誰を呼んでいるの 消えた恋の背中

何度でも 何度でも  君の窓を叩くか ら

夜の加速度に 背中押されて  糸が切 れる様に

ただ、君を 君を強く 抱いてた

 

まるで抱き締めるような仕草 で和人を見る。

 

アンバランスなKISSを交わして 愛 に近づけよ

君の涙も 哀しい瞳も  僕の心に 眠 れ

ただ、君の 君の傍に いたいよ

 

自身の胸に手を添え、コーラ スの瞳が揺れる。

最後は意外にも熱がこもり、 周囲の炎も強く燃え上がる……以前と趣旨替えでもしたのか、コーラスは満足げにマイクを下ろし、一礼するとまるでメカのように身体を動かしながらステージ を降りていった。

「熱の入った曲でした……… さぁて、盛り上がってきたところで次にいきましょう! お次は秋菜様です!!」

ステージのセットが変わり、 中央にはスタンドつきマイクを携えた秋菜が背を向けて佇んでいる。くるりと振り返ると、不適な笑みを浮かべた。

「フッ……真打ち登場よ!」

その……まるで獲物を狙うよ うな眼に、和人は冷や汗を流した。

前奏が流れ始めると、秋菜は 大きく振り被り、スタンドを持ち上げる。

 

擦れ違い急ぐたびに ぶつけ合い散切れ 合う

互いの羽根の傷み 感じている

 

真正面を向き、虚空を指差 す。

 

淋しさに汚れた 腕で抱いた  それ以 外の何かを 知らないから

繋がる瞬間 目覚める永遠 待ち焦がれ る

独りでは届かない

願いなんて 消えそうな言葉じゃ

 

胸に手を当て、眼を閉じなが ら大きくスタンドを振る……彼女らしい動きが表れている。

 

速過ぎる時の 瞬きに晒されて  独り では 届かない

ここでいつか 欲しがった想いが

 

歌の中に、自身の想いを込 め……チラリと視線を和人に向ける。

 

キミにあるから………

 

最後に決めポーズをつけ…… 伴奏が終わるまでその状態で静止する………

歌い終わると、フフンと鼻を 鳴らしながら、ステージを降りていった。

「秋菜様らしいパフォーマン ス付きの曲でした……半分まできたところで、解説のメーム様、何か一言を……」

話を振られたメームは右手を 顎にあて、考える。

「そうですね……皆、それぞ れ気迫を感じさせます……後半の者達に対するプレッシャーにもなりますね……良い意味でも悪い意味でも」

「ありがとうございまし た……それでは、4番目………」

「私ですわ!!」

被せるように叫ばれ、出鼻を 挫かれた真田さんは思わず舌を噛み、悶絶している。

「参りますわよ……」

ステージに薄いスモークが朦々と上がり……ライネが不適に佇む。

 

愚かでいいのだろう 見渡す夢の痕

さよなら 蒼き日々よ

 

ゆったりとしたテンポで始ま り……閉じていた瞳が開かれると同時に前奏が始まる。

 

流れに身を任せ いつか大人になってゆ く

少しずつ汚れてゆく事なの?

熟した果実だけ 選ばれて  ナイフで 裂かれて 呑み込まれる前に

 

声色を変え、自身の胸を刺す ように差し……笑う。

 

僕等は目指した Shangri-La

欲望は抑えきれずに

 

両手を前へと大きく拡げ、瞳 が揺れる。

何時もの様子からは考えられ ないような物静かな雰囲気を醸し出し、ライネはマイクを持ったまま両手を胸に添え……一呼吸置く。

 

空想にまみれた 「自由」を求め続けた

今なら言えるだろう 此処がそう楽園さ

さよなら 蒼き日々よ

 

眼を閉じたままややトーンの 落ちた声で歌い……次の瞬間、テンポを上げた。

最後に身体全体で曲に合わせ ながら振り……そのまま静かにステージを降りていった……

「ライネ皇女でした……で は、続けていきます」

先程の仕返しか、淡々と呟 き…ステージの下ではライネが不満を口にしているが、無視している。

「ワルキューレ・ゴース ト……!

ステージが、色取り取りに彩られる……その中央に光が集中し、ゴーストの姿を浮かび 上がらせ……和人は絶句した。

黒いロックバンドのようなステージ衣装に身を包み……後ろで二つに束ねていた髪をほ どき、ポニーテールにし、口元には、薄くルージュが引かれている……和人に向かってウインクすると、和人は思わずドギマギする。

前奏が流れ始め、ゴーストがマイクを持ち上げる。

 

空を仰ぎ 星よ満ちて  

飛び立つの 明日への  brilliant road

心の蒼さ この手に抱いて go  far away

 

髪を揺らし、流れるように踊る。

 

羨む事に 慣れてしまったら  誇れる 自分が 遠ざかってく

見えない翼で羽ばたくの fly higher

夢を描くのは『人』に生まれたから……

 

まるで、自身の出生を表すように、切なげな瞳を浮かべ、微かに潤む。

 

空を仰ぎ 星よ満ちて

飛び立つの 明日へのbrilliant road

心の蒼さ この手に抱いて 

 

間奏が入り……静かに呼吸し、瞳を閉じる……マイクを静かに構えたまま、瞳が天井を 見上げる。

視線を和人に移し、流し眼で自身の胸を押さえる。

 

あなたとなら 弱い自分をさらけ出して 走りだせるの

未来よどうか 無限に続け go far away

 

腕を伸ばし、手を拡げて全てを包むように歌い上げる。

微かに口元をなぞり、その仕草に和人は思わず息を呑む。

そんな和人に対して、微笑を浮かべ……

 

空を仰ぎ 星よ満ちて

飛び立つの 明日への  brilliant road

心の蒼さ この手に抱いて……

あたしが居てあなたが居る  この日を ずっと忘れないだろう
涙は 胸の中で流すの go far away

 

自身の存在を、闇に隠すように……静かに歌い終わると、ゴーストはもう一度和人に向 かって微笑み、ステージを後にした。

顔を赤くし、呆然となっている和人……他の参加者も、心なしか圧倒されたようになっ ている……単純に、大人としての余裕の違いだろう………

「さぁさぁ……最後を務めますのは我が姫様、ワルキューレ!!」

いよいよ最後の一人……唯一、ゴーストに対抗できると言っていいほどの存在………ス テージの照明が白い光となって一点を差す………中央では、白いドレスに身を包んだワルキューレが表情を俯かせて佇んでいる。

前奏が流れ始め……顔を上げたワルキューレの瞳が、真っ直ぐに見据えられる。

 

Hold me and feel me and Kiss me 

貴方しか 救えない  私が、壊れても  明日生まれ変われる

 

力強く発せられる声……静かにメロディーが流れ出し、マイクを両手で持つ。

 

早送りの ビデオのような街を  ヘッ ドライトの 流星群が過ぎる

少女達は 束の間夢を見るよ

たかが知れてる 未来を笑い飛ばし

 

自身の中の二人……ワ ルキューレとわるきゅーれ………二人分の想いをのせ、歌う。

 

今夜 扉を開けよう

ねぇ 二人で

化石のような この世界を く・だ・ い・て

 

そっと胸を押さえた手 を拡げ、和人を見やる。

 

Hold me and feel me and Kiss me

貴方しか 救えない  私が、壊れても  明日生まれ変われる

瞳の中 キラリ光った 虹の色

貴方が 今教えてくれた この涙  こ んなに愛しい

 

静かに眼を閉じ……その閉じ た瞳から、一滴の雫が零れる。

それは……儚げな美しさを感 じ取らせる。

和人に向かって微笑み、右手 を大きく拡げ……和人を掴むように腕が伸ばされる。

 

Hold me and feel me and Kiss me

貴方しか 守れない  どこかで 迷っ ても 必ず辿り着ける

 

視線が彷徨い……表情が憂い を帯びる。

 

瞳の中 キラリ光った 虹の色

貴方が 今教えてくれた この涙  こ んなに愛しい

 

ワルキューレの瞳から涙が飛び……そのまま静かに自身を抱き締めるように締め括 る。

そのまま辺りが雪のように白 く染まり……その中へと消えていった………

一夜の幻の如く………

 

 

「ううぅ……姫様、素晴らし すぎです…………」

感動に染まる涙眼を拭いなが ら、真田さんがステージ中央に立つ。

「それでは……審査員の方 々、判定をどうぞ…………!!」

審査員席の上方に設置された 電光パネルが動き………

 

止まった瞬間、それぞれの顔 のデフォルめされた絵が順位のところに浮かび上がった。

結果は……

 

1位 2位 3位 4位 5位
ワルキューレ・ゴースト ワルキューレ 時野リカ ライネ コーラス、七村秋菜


 
そう表示された瞬間、表情を輝かせる者と愕然となる者が当然現われた。

トップに立ったゴーストは、 控えめに喜びを噛み締め、ワルキューレはやや悔しげに口を尖らせ、リカもどこか驚きを隠せず、眼鏡をややずり下ろした。

ライネは納得がいかないよう に不満を露にし、コーラスはぶつくさ小さく呟きながら膝を抱えている…前回の屈辱をまたしても思い出したようだ。

秋菜は秋菜で自信があった歌 で醜態に甘んじたことに怒りを憶えてハイドラを睨んだ。

「ハイドラァァァァ」

地を這うような声に、ハイド ラは思わずビクッと身を竦める。

「お、俺はちゃんとお前にい れたぞ!!」

引け腰で訴えながら、ビクビ ク震えている。

「はいはい…秋菜様、落ち着 いて……それでは、審査結果について尋ねましょう。審査委員長のユリアーヌさん、どうぞ」

真田さんに促され、ユリアー ヌが答える。

「はい……この歌には、相手 への想いの強さが試されます……どれだけ相手への想いを歌に乗せ、それを感じさせるか……上位3名の方々には、それが感じられました。ですが、残りの方々 には、そういったものがあまり感じられなかったので、この順位となりました」

静かに答え、息をつく……要 するには、ライネ、コーラス、秋菜は自己満足の方が強かったらしい……ガーンとショックを受ける秋菜………

「ありがとうございました… それでは、この順位に応じてポイントが振り分けられます」

先程のパネル部分が動き…… デフォルめされた顔の下に、ポイントが表示される。

 

ワルキューレ・ゴースト ワルキューレ 時野リカ ライネ コーラス、七村秋菜
60P 50P 40P 30P 20P

 

「さぁ、第一回戦の決着は着 きました! ですが! 勝負のホントの決着は明日の第二回戦のポイント合計によって決まります!!」

 

 

勝負は……明日の2戦目へと 移行し、それぞれの選手達は決意を新たにするのであった…………


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