円盤皇女ワるきゅーレ  十二月の夜想曲

特別編第二章   花嫁の座は誰のもの? 後 編

 

 

 

 

前日の激戦から一日経 ち………再び熱戦が繰り広げられようとしていた。

和人はまたもや簀巻きにさ れ、ステージに座らされているが、そこには『優勝商品』という名札だけでなく、『兼審査員』と新しく追加されている。

そう……今日の第二回戦の品 目は料理。

当然ながら、それを審査する のは和人本人だ……前回審査を担当した4人は今回は、観客席に座っている。

ユリアーヌはニコニコと笑顔 を浮かべたまま……面白がってるとも言うが……シロ、マル、ミュウの3人は酒を片手に完全に観戦モードに陥っており、和人はやや恨めしい思いにかられた。

「さぁ、皆さん……いよいよ 2戦目! 花嫁の座は誰のものに……制限時間は2時間……それでは、スタート!!」

そんな和人の気持ちなどお構 いなし、ハイテンションの真田さんが勝負の開始を告げ、控えていた侍女が開始の大ドラを鳴らした。

女性陣はバッとくもを散らす ようにそれぞれにあてがわれたキッチンへと駆けた。

「それでは、今回の勝負の程 を…メーム様より説明をお願いします」

昨日と同じ、『解説』と書か れた席に座るメームがそれに応じる。

「はい……今回の勝負では、 伴侶に対する想いの強さが試されます…品目は特に決めておりません…用意された材料は全て共通です…これには、想いのほかに個性も試されます」

もっともらしい口調で呟きな がら、話を締め括る。

「ありがとうございまし た……さて、それでは各選手の様子を見てみましょう」

カメラを構えた侍女を引き連 れ、真田さんはまずワルキューレの所へと向かった。

 

ワルキューレは、不慣れな手 で材料を切っていく。

元々、政治的な手腕や武の面 においては卓越したものがあるが、家事関係に関してはことヴァルハラの皇女達は普通の女の子よりも遅れを取っている。

先の歌勝負では2位に甘んじ たが、それでも逆転の可能性が極めて高い。

先の事件(TV版第6話参 照)での失態を挽回するために、気合いが入っている。

大きめの鍋で水を煮込む傍 ら、野菜を適度な大きさに切っていく。

だが、その手元は危なかし く……隣で見詰めていた真田さんが思わずハラハラしていると………

「いたっ」

微かに表情を顰め、ワル キューレが包丁を離し、材料を押えていた左手の人差し指を抑える……予想通り、僅かに切ったのだ。

「ひ、姫様!!!?」

そして、次の瞬間には侍女長 であり、ワルキューレに献身的に仕える真田さんは卒倒しそうな勢いでワルキューレに歩み寄った。

「大丈夫ですか、姫様! す ぐに御手当てを……!」

咳き込むように詰め寄る真田 さんを、ワルキューレが小さく笑みを浮かべて制する。

「大丈夫……大した怪我じゃ ないから……それに…この勝負は、私自身の力で勝ちたいの」

強い意志を感じさせる表情で 言い放ち、ワルキューレは切った指を抑えながら、こちらを心配げに見詰める和人をチラリと見やると、改めて料理に向き直った。

「うう……流石です、姫 様!」

感無量といった感じで眼元か ら滝のように涙を流しながらハンカチで眼元を拭う。

「真田さん……まずは司会を お願いしますね」

その背中に、メームの半ば呆 れたような声が掛けられ、真田さんがハッと我に返った。

「は、はい! それでは、お 次の方の様子を覗いてみましょう……」

 

「でぇぇぇぇぇっ!!」

近付いた真田さんが思わず引 くほど、並々ならぬ気迫を感じさせる叫びと鬼気迫る表情で秋菜がまな板の上で包丁を眼にも止まらぬ勢いで振り下ろしている……よく指を切らないな………

「あ、秋菜様……なにやら凄 まじい気合です……」

震える口調で実況する真田さ んに気付きもせず、秋菜はひたすら調理に集中している。

なにしろ、先の歌勝負で失態 を演じ、ここで一発逆転せねば優勝の可能性はないのだ……必死にもなるだろう。

その時、チーンという音が響 き、簡易キッチンに設置された炊飯器が炊けたようだ。

俊敏な動きで移動し、炊飯器 の蓋を開けると……中からむあっとした湯気と食感をそそるような匂いが漂ってきた。

中には、混ぜご飯がふっくら と炊き上がっていた……無論、具の野菜や肉もちゃんと刻んで味付けもしたものだ。

普通、こういった勝気な幼馴 染みにはパターンが二つある……まったく料理ができない者と意外に家庭的な者だ。

どうやら秋菜は後者だったら しい……まあ、秋菜はこう見えても神社を一人で切り盛りし、しかもハイドラという居候も抱えながら家事もこなせるのだ…意外だが………

「よっし! さてと……」

ご飯が納得のいくできだった のか、蓋を閉じると改めてコンロの前の鍋に歩み寄る。

中には味噌汁が煙を立てて煮 込まれている。

その下には七輪の上に乗る 魚……そこまで見れば、メニューは特定できる。

「どうやら、秋菜様は和食で 攻めるようです……はてさてどうなることやや……それでは次の方に参りたいと思います」

結局熱中したまま気付かない 秋菜を横に、真田さんは別のキッチンへと向かっていく。

 

「さてお次は……ライネ皇 女………」

ライネに当てがわれたキッチ ンに近付くと……なにやら不吉な音が響き、真田さんは思わず足を止めた。

なにせ、キッチンからガシャ ンやグシャ、ドーンと等というような破壊音に近いものが響けば、誰でも驚くだろう。

料理ではなくまるで何かの破 壊作業だ……

「オホホホ! 私にかかれば 料理の一つや二つ……殿方に手作りの料理を差し出す……最高のシチュエーションですわ〜〜」

ウットリした表情でなにやら 妄想に走ってるが、それもまるで眼の前の現実を逃避しているように傍眼からは見える。

なにしろ、眼前のコンロにか けられた大きな底鍋には、異様な色彩を放つものがボコボコと、まるで溶岩のごとく泡立っている。

確認しに近付いた真田さんが 思わず、ウッと鼻をつまみ、顔を逸らす。

「ち、近寄っただけでこの異 臭…そしてこのプレッシャーは何なのでしょう?」

この状況で実況を続けるのは ある意味凄い……鍋の中から異臭だけでなく、異様な気配が漂い、とても人の食するものとは思えない。

「んまぁ、失礼な! これは 私が和人様のために愛情を込めて作ったのですのよ!」

愛情があれば料理……それは 激しく間違っているような気がする。

お玉を掻き回すその様は、料 理というよりもある意味黒魔術に近い……

(婿殿…御武運をお祈りしま す………)

どこか、憐れむような思いで ステージ席の和人を一瞬見やると、真田さんは早く離れたいがために、その場を逃げ出した……

 

妖しげな気配の漂うライネの キッチンから駆け足で離れると、真田さんは溜め息を一つつくと、気を取り直して別のキッチンに向かう。

「ここは…リカ様のようです ね」

今回の台風の目……現在得点 では3位とかなりの奮闘を見せているリカ。

そんなリカは、キッチンに持 ち込んだ計量スプーンや秤を使い、調味料を細かく分配し、それをわざわざ近くに置いたノートに書き記している。

自身で分量加減を確かめ、理 想に近い味を追及しているようだが、傍から見るとかなり細かい。

「リカ様、随分と細かいです ね……」

何気に後ろから覗き込んだ真 田さんは、材料の分配までキッチリ記してあるノートに思わず呟いた。

「ん…だって、こういうのは ちゃんとしておかないと………うん、これでいいかな」

調味料の分配が納得いったの か、一つ頷く。受験勉強で忙しい身だが、それでも家事は一通りこなせるのと、生来の几帳面さがここまで正確に作業を行わせるのだ。

次に大きめの鍋を取り出し、 そこに適量の油を巻く。

コンロにかけ、強火で熱する 鍋の底の油を際立たせる。

真田さんはチラリと材料を盗 み見る……鶏肉に玉ねぎ、ご飯………そしてケチャップ……

それだけで品目をイメージす るのは容易かった。

「ふむ……リカ様も優勝を 狙っていますか?」

十分に逆転できる位置にいる リカに尋ねると、リカは視線を伏せる。

「……私は、どっちでもいい んだけど」

冷静な口調で…それでも背中 を向けて答えるリカ……

「はぁ……それでは、頑張っ てください」

それ以上詮索しようとはせ ず、真田さんはキッチンを離れていく……リカはふと、ステージ席の和人を一瞥すると、顔に浮かんだ表情を隠すために、煙に曇りかけた眼鏡を持ち上げた。

 

「さて……お次は第一回戦で の勝者、ゴーストの席を覗いてみようと思います」

リカのキッチンを離れ、真田 さんが次に向かったのはゴーストのキッチン……

近付くと、鼻に甘い香りが伝 わってきた……

「これは……どうやら、ゴー スト選手はお菓子系で攻めるようですね」

なにやら神妙な表情で歩み 寄っていく。

ゴーストは、片腕に抱いた ボールの中で何かを泡立てている。

遠眼からは、クリームのよう にとろりとしたものだ……甘みを抑えつつ、ゴーストが一口舐める。

ニコリと微笑を浮かべると、 やはりワルキューレそっくりだけあって、真田さんが感動の涙を流しそうになる。しかし、自分の世界に入っているがために、肝心の実況を忘れている。

そんな真田さんに気付かず、 ゴーストはそれを円筒の型に流し込み、そして円筒の土台を作ると、それを持ってオーブンへと運んでいく。

既に熱されたオーブンは、十 分な熱量をほこり、その中へとホールを入れていく。

オーブンの蓋を閉じ、中で焼 けていくのをジッと見詰める。

現在トップではあるが、最後 まで余念をしないらしい……焼けるさまをジッと見詰めたまま、ゴーストは微笑を浮かべるのであった………

 

「真田さん、真田さん!」

メームの呼び掛けに、再度ト リップしかけていた真田さんがようやくかえってきた。

「も、申し訳ありません!  では最後に、コーラス様を……」

最後の一人、秋菜と同じく最 下位にいるコーラス……当然、この2回戦目で首位を取らなければ、優勝の可能性すらない。

そこまで至って、真田さんは ハッと気付いた……コーラスが料理できたかどうか……一瞬考え込むが……どう考えてもできないような結論に至る。

崇拝(?)するワルキューレ は別としても、ヴァルハラ皇家の皇女達はとりたて家事ができるわけではないのだ。(そういったことは、ほとんどそれぞれに仕える侍女達が進んでやるものな のだ)

しかしまあ、実況である以上 覗かないわけにはいかない……緊張した面持ちでキッチンに近付く。

すると、コーラスはキッチン に向かい合ったままだ。

特に何かをしているわけでは ない。

怪訝そうに近付くと、キッチ ンには大きな箱のようなものが置かれており、それをよく見てみると、箱の正面には大きな取出し口に上には眼のようなランプがつけられ、箱の外装にはゴテゴ テと何かが取り付けられている。

それは、コーラスを模倣した 外見だった

怪しいことこの上ないもの だ……恐る恐る真田さんが、コーラスに尋ねる。

「あの、コーラス様……それ はいったい………?」

上擦った声で尋ねると、コー ラスはギギギと首を捻り、無機質に答えた。

「これは、自動クッキングマ シン:コーラス9号……僕のとっておき……」

名前からして怪しさ大爆発の ものに、真田さんはあんぐりと口を大きく開けて絶句する。

だが、コーラスは特に気にし た様子も見せず、再び首を戻し、足元からガサゴサと探り、材料を取り出す。

そして、それを箱の前に持ち 運ぶと……唐突に箱……自動クッキングマシン:コーラス9号……は眼に当たるランプ部分をビカッと光らせ、思わず真田さんは後ずさる。

刹那、箱の取り出し口……言 うなれば『口』の部分が開き、コーラスは無造作に材料を放り込むと、バタンと口が閉じられ、ランプの眼を点滅させながら、コーラス9号は至るところから煙 を噴出しながらガシャガシャ動き始めた。

その様は、まるで口の中に放 り込まれた材料を噛み砕いているようで、何ができるか不安になった真田さんは戦慄した。

「で、では……これにて各選 手の中継を終わります……解説のメーム様、この勝負どう見ますか?」

そそくさとキッチン場から抜 け出し、特設ステージの試食席に座らされた和人の隣に位置する解説席のメームが静かに咳払いする。

「ん……そうですね。今回の 勝負は、相手への献身が試されます。伴侶の者を癒すのもまた妻の役目……そしてなにより、今回の品目は料理…当然ながら、選手の数から見ても出来具合の速 さが勝負の分かれ目でもあるでしょう」

料理である以上、後から出来 上がるものは多少なりとも不利になる可能性もある。

「解説のメーム様、ありがと うございました……さあ、制限時間は後15分……果たして一番に料理を完成させるのは誰でしょうか!?」

メームに向かって一礼する と、真田さんはマイクを握り締めて叫ぶ。

和人は不安をやや感じながら その針が刻むのを見詰めていた………

 

そして……時間が残り5分を きり始めた頃、最初の完成者が名乗りをあげた。

「できましたわー!!」

最初に名乗りを上げたのはラ イネだった……先のあの異臭の物体Xを思い出した真田さんは思わず引きそうになるが、それを実況魂で堪える。

「おおっと! 最初に名乗り を上げたのはライネ皇女です!」

料理を手に駆け寄ってく る……和人は冷や冷やもので見ていた……試食席の前に立つと、持っていた皿を置いた。

「さぁ、和人様! 私のスペ シャルな料理をご堪能くださいまし」

そう言い、差し出された皿の 上にのっていたのは、見るからに異様な黒い液体状の物体……見た目は、スープっぽく見えるが、何故かスープの表面をポコッと泡が立つ…まるで、溶岩のよう だ……しかも漂ってくる臭いが尋常ではない。

「ううっ……」

鼻を刺すような臭いに和人は 引きそうになる……どう見ても可食物に見えないそれを食わなければならないということに泣き出しそうになり、助けを求めて周囲を見やると、真田さんは激励 するように指を突き出し、メームは茶をズズッと飲んで静寂を保っている。

味方がいないと悟り、和人は 目眩を起こしそうなる。

「ささ、和人様どうぞ!」

満面の笑みで勧めるライネの 笑顔が、まるで死の宣告を告げる死神のように見えた。

スプーンを持ち上げ、和人は ゴクリと喉を鳴らすと……意を決したようにそれを口の中に入れた。

周囲が感嘆の声を上げてそれ を見守る中……和人の顔が見た目からして悪いように蒼白に変わり、椅子ごと仰け反り、後ろに倒れた。

「いけない! 侍女衛生部 隊!!」

矢継ぎのごとく指示を出す真 田さんに何処からともなく看護服を来た猫耳侍女が現われ、和人に近付き、診察していく。

「大変です、すぐ胃を洗浄し ないと!」

「瞳孔もひらきかけてます よ!」

その言葉に、尋常でない様子 が誰にも解かったが、ライネだけは別の意味に捉えた。

「まあ和人様ったら…気絶す るほど私の料理がお気に召したんですね」

なにやら勘違い方向に走るラ イネに、全員が『違う!』と心の中でツッコミを入れた。

その様を淡々と見詰めなが ら、メームはこれが終わったら、皇女達にもう少し花嫁修業をさせようと決意したとかしないとか………

 

なんとか意識を取り戻した和 人は、試食席にぐったりとしていた……初っ端から凄まじい威力のものを喰らい、もはや食欲など完全に失せているようだ。

あやうくあちらに逝きかけ た…いや、実のところワルキューレとの最初の出逢いのときに死にかけたのだが……しかし、まだ料理は5つ残っている……せめて、まともに食べられるものが 出てきて欲しいと和人は切に願った。

その和人の願いが通じたの か、次の名乗り上げたのは秋菜であった。

「和人、お待たせ!」

「2番手に名乗り上げたのは 秋菜選手! 料理は、和食のようです」

真田さんが実況する中、どこ か朦朧としていた和人の前に、トレーが差し出された。

「災難だったわね…まあ、こ れを食べて元気出して」

頬を軽く染めて差し出された トレーにのっているのは、混ぜご飯に味噌汁、そして焼き魚と和食の定番メニュー……匂いも当然ながら、ライネの料理からすれば食欲をそそる。

流石の和人も幼馴染みの料理 の腕は知っていただけに、安堵したように息を吐き出した。

「じゃあ、早速……」

先程の口直しも含めて、まず は混ぜご飯を食べる……具と味付けがちゃんと際立っており、味噌汁もまたちゃんと味噌が染み渡っている。そして主菜の魚は七輪で焼いたので、見事な焼き加 減だ。

一通り摘み、ある程度食する と、秋菜が不安げな視線を向ける。

「どう…だった……?」

あまり和人に料理の腕を披露 する機会がないだけに、不安げだったが和人は笑顔で頷いた。

「美味しかったよ」

その言葉で、秋菜は心中で ガッツポーズを決めた。

「おおっと! どうやら秋菜 選手は好感触のようでした! さてお次に名乗り上げるのは果たして……っ!」

キッチンを見やると、誰もが 仕上げにかかっている。

「できましたっ!」

その中で名乗りを上げたの は、ワルキューレだった。

「来ましたっ! 我が姫様、 ワルキューレ! さて、どのような料理でしょうか!?」

ワルキューレの登場に真田さ んが熱狂する……湯気の立つ皿を手に駆け寄ってくるワルキューレが、それを和人の前へと差し出す。

その指に大量の絆創膏が貼ら れているのに気付くと、何かを言う前にワルキューレが指を引っ込めた。

「か、和人様…どうぞ……そ の、前よりも上達は、してるはずですから………」

弱々しい声で呟き、それでも 自信なさげに視線を逸らす。

和人は以前の事件を思い出 し、ワルキューレの料理の腕を思い出すが…どこか苦笑を浮かべて料理を見やる。

見た目は特に変哲もないシ チューだ……先程のライネのどんよりとした色合いではなく、真っ白なクリームシチューのようだ。

漂ってくる匂いも別段変なも のではない……和人はやや安心し、スプーンを持ち上げると、それをすくって口へと運ぶ。

「ん……」

口の中で味を噛み締める……

「その…味付けは市販のもの なんですけど………」

言い難そうにワルキューレが 呟く……流石に、材料を切るだけで味付けまでは手が回らなかったらしい。

味を噛み締めながら、和人は 確かめる……味付けは市販のものでも仕上がりに特に問題はない……肉も野菜も切り方にバラつきはあるものの、それは気にならない。

「うん、美味しいよ…ワル キューレ」

笑顔でそう告げると、ワル キューレの顔が眼に見えて喜色に染まる。

「よかったです……」

心底ホッとしたように安堵の 溜め息をつくワルキューレ。

「姫様の料理は婿殿に好感触 の模様! 私も是非とも味わいたいです!! 姫様の優勝の可能性が高くなりました!」

流石はワルキューレ至上主義 の真田さんらしい実況に、秋菜やライネなどが不満の表情を向けるが、有頂天になっている真田さんはさくっと無視している。

残りは後半分……和人はせめ て食べれる物が出てくることを願った………

「残るは後3人! 果たして 次に名乗りを上げるのは……おっと! 次なる完成者のようです!」

真田さんが視線を凝らすと、 キッチンから謎の箱を持ち上げてこちらへ向かってくる。

コーラス9号という怪しげな 名を与えられたものを真正面に向かってくるのは、コーラスである。正面に向けられる自らを模倣した作りに、和人も思わず引きそうになる。

だが、そんな和人の心情など 無視され、コーラスはそれを和人の前のテーブルに置いた。

「……もうちょっと待って」

コーラスは言いながら、時計 を確認する。

「あの……何の時間を気にし てるんですか……?」

「……自爆」

おずおずと尋ねた和人の耳 に、なにやら不吉な言語が聞こえた。

「いいっ!?」

その意味を知るや否や席を立 とうとするが………

「後5秒……4、3、2、 1………」

和人は思わず眼を閉じる…… だが、何も起こらないので、恐る恐る眼を開けると……コーラス9号がランプの眼を突如ピカッと光らせたので、ビクッと身が竦む。

だが次の瞬間……プシューと いう音を立て、口の取出し口が開くと、そこには何故かお子様ランチが………

「……なんちゃって」

無表情で淡々と述べながら、 先程のが冗談であったのを悟ると、一同は思わず脱力する。

「は、ははは……」

引き攣った笑みを浮かべる和 人……そして、眼前に差し出されるお子様ランチ……ちゃんとライスには旗もついている。

しかし、何故お子様ランチな のか……コーラス(と作者)の考えていることは解からないとばかりに首を傾げるが、ともあれ一口食べる。

味は特に変哲もない………い たって普通のお子様ランチだ………

「婿殿……お身体は大丈夫で すか?」

何気に酷いことをさらっと尋 ねる真田さんに、和人は苦笑を浮かべるが、問題はない。

料理ができるまでのインパク トは確かに凄かったが……

「料理に必要なのは…インパ クト………では」

一礼すると、コーラスはかく かくとブリキ人形のごとくステージを降りていく……よく解からないアクションに一同は呆気に取られたままであった。

 

「あのさ……何固まってん の………?」

次にステージに上がったリカ の言葉に、ハッと我に返る一同………実況の真田さんも慌てて続ける。

「し、失礼しました! それ では続けてはリカ選手! 品目は……これは、チキンライスのようですね!」

リカは割烹着をつけたまま、 黙々とステージへと上がると、皿に丸くドーム型に盛っていた鮮やかなオレンジに着色されたライスを差し出す。

「はい、まあ食べられなくは ないはずよ」

淡々と呟き、視線を逸らしな がら素っ気ない表情を浮かべる。

冷静な妹の姿に和人は微笑を 浮かべ、愛想のいい声を出す。

「はは、じゃあいただくよ」

リカの料理もいうほど食べた ことのない和人はチキンライスにスプーンをつけ、一口口に含む。

ケチャップの味がちゃんと混 ざり合い、塩コショウなどの味付けもちゃんとなっている……まあ、わざわざ調味料までr単位で計っていたのだから………

鶏肉もちゃんと適度な大きさ で切り分けられ、蒸し上げてあったのか、随分と柔らかい。

「美味しいよ、リカ」

率直に感想を述べると、僅か に照れたようにリカがそっぽを向いた。

「いやぁ……心温まる光景で すね………」

先程のコーラスがあまりにア レなもので、周りもうんうんと頷いている………

「さて…いよいよ残るは一 人……ここでちょうど制限時間も来ました!」

真田さんがキッチンを振り返 ると、タイミングよくオーブンの焼き上がった音が響き、ゴーストがゆっくりと取り出しているのが見えた。

そのまま焼き上がったホール を中央に置き、切り分ける。

そして、その一切れを皿に盛 り、湯気の立つ紅茶を添えてゴーストは満足に頷く。

「最後のとり! ゴースト選 手も完成したようです!」

流石の和人も5人分の料理を 食した後だけに、お腹もかなりふくれてきた……そんな和人の不安を拭うように、ゴーストが差し出したのは別のものだった。

チーズケーキと紅茶……どち らかというとデザートだった。

「最後だから、こういったも のの方が良いと思って……」

オーブンで焼き時間を調節 し、敢えてそこまで引っ張った……無論、焼き立てを食してもらうのとデザートならば、一番最後の方がいいからだ。

そこまで考えて調理していた ゴーストに、流石に他の参加者もどこか感嘆する表情を浮かべている。

「さぁ、どうぞ……」

笑顔を浮かべて促すゴースト に、和人も頷いてフォークを持ち上げる。

そして、チーズケーキに フォークを入れると、ふわっとしたまま抵抗もなくスパッと入り、一部が切り取られると、和人はそれを口に運んだ。

すると、口の中にふわっとし た甘さとこんがり焼けた表面の固さが絶妙な味わいで口の中に拡がった。

ゴーストがジッと見守る中 で、和人はチーズケーキを食べ終えると、紅茶を口に含む。

熱さが心地良く、和人は思わ ず大きく肩を落とす。

「美味しかったよ」

笑顔で告げると、ゴーストも 満足そうに頷き返した。

全員の試食を終え、和人が一 息つくのを見計らって、真田さんが言葉を発した。

「さぁ全員の試食が終わった ところで婿殿……審査をお願いいたします!」

和人は困ったように顔を顰め た。

本音で言えば、誰かを一番に 選びたくないのだが……それをすれば暴動が起こりそうで却下だ。

どちらにしろ、答は出さなけ ればならない……真剣に悩むこと十数分………

 

「婿殿、よろしいですか?」

確認するような問い掛けに、 和人は決然と頷いた。

「それでは……判定をどう ぞ…………!!」

和人の頭上に設置された電光 パネルが動き………

 


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