第九話       裁きの閃光ウィルナイフ



「日本のゲームは結構やりこんでるんだ・・・・・・驚いただろう・・・」

紫の腕、いや触手とも言うべきだろうか。壁から伸びたそれは二人の首を掴んだ勢いそのままに反対側の壁まで突っ込んだ。

「かはっ・・・・・・」

「・・・ぐっ・・・・・・」

伊庭も玖里子もかろうじて気絶はしなかったが動けない。それどころか気を抜くとすぐにでも骨が折れてしまいそうだった。現に二の腕の辺りからもミシミシと 軋む音が微かだが、確実に聞こえてくる。

次第に壁が変色してきた。風情の無い白色から、殺意を帯びたどす黒い紫色に変わってくる。そして壁が盛り上がっていく。

「よっこらせっと」

「「!!」」

玖里子と伊庭は同時に驚愕した。

そこにいたのは間違っても人間ではない。かといって吸血鬼や人狼などの亜人間の類かと聞けば、そこにいる者全てがNOと言うだろう。

「な・・・・・・」

「何よ・・・・・・これ」

アステリと思われるそれは、今やまったく別の物質へと変貌を遂げていた。紫を基調とし、身体は人間としてのベースは残してあるもののこれまた紫のコードや パイプが全身を構成していてもはや何がなんだか分らない状態である。

「今から死ぬやつに教えて意味があんのか?」

「くっ・・・・・・」

玖里子はとっさにひねった左手で霊符を取り出した。こんな風に相手に組まれたときのために袖に仕込んでおいたのである。急いで魔力を練る。

「・・・・・・はっ!」

霊符から騎士の形を模した人形が形成され、その剣でもって二人を掴んでいた腕を一閃、引き裂く。十分に魔力を練っていないのでかなり透明感があるが、腕の 太さそのものはそんなに太くなかったためそれだけでも十分だった。

「ぐあっ!」

二人はその隙を逃さずにアステリから後ろに飛ぶ。その際置き土産とばかりにかおりが銃弾の嵐を降らせる。

「ありがと風椿、助かった」

「ええ、本当に助かったならいいですけどね。」

会話をしながら二人はどうやってここから逃げ出すか必死に考えていた。何にしろいったん対策を考えてから出ないと、このままでは殺される・・・・・・。そ んなことが本能の部分で伝わっていた。何よりさっき捕まったときのダメージが相当酷かった。

「結構やるじゃねえか・・・・・・ちとばかし痺れちまったぜ・・・」

「言ってろ、さっきは不意を付かれただけだ。こっちは二人なんだぞ」

もちろんこれはかおりの策だった。このように言えば相手は苦し紛れの言葉取るだろう。少なくとも戦意そのものはあると判断するはず・・・・・・。そう思っ ていた、



が、

「それじゃあ・・・・・・」

アステリの腹がグニャリと曲がった。否、外側に広がった。一枚一枚、殻をむくように・・・・・・

そして二人は・・・・・・見た・・・・・・。

「これと一緒にぃぃぃぃ!!・・・・・・俺をぉぉ――撃てるかあぁ!!」



腹の中に絡め取られた、宮間夕菜を・・・・・・

「な!・・・・・・」

「ゆ・・・・・・う・・・・・・・・・な・・・」

夕菜は意識が無かった。ただ顔はすっかり青ざめてしまって、コードに絡め取られた全身からは生気が殆ど感じられない。

「安心しろオォォォォ、お前たちもすぐに一緒になってやるウゥゥゥ!!!」

二人はショックで動けなかった。

たとえ腕が再生し、二人に向かってきても

まったく・・・・・・動けなかった・・・・・・・・・



そして・・・・・・腕が、切れた

プッツリと

閃光が過ぎ去ると同時に、

式森和樹が過ぎ去るのと・・・・・・同時に



「なん・・・・・・だと・・・」

「しきもり・・・・・・」

「かず・・・・・・き?」






場所は変わってここは葵学園

紅尉晴明は面会室で一人の人物と面会していた。

「では、決定したんだな」

「ああ」

黒スーツの男の質問を紅尉は肯定する。帽子をすっぽりかぶっているので顔はよく見えないが、広い肩幅と服越しからでもはっきりと確認できるほどの頑健な肉 体は強烈な雰囲気を全面的にアピールしつつも穏やかなイメージをかもし出してる。

「既に、基地のほうも八割がた完成している」

「オペレーターは?ちゃんと決まっているのか?」

「おそらく・・・・・・彼女たちを使うことになるだろう」

「おいおい、まだ高校生だろ・・・・・・」

信じられないという態度で男はいったが、紅尉の態度は崩れない。
あくまで淡々としている。

「仕方あるまい、彼のためなら命を差し出すだろうね。そういう子達だよ、宮間君たちは」

「あんな奴に全員骨抜きにされたってのか、信じらんねえな・・・・・・。まっ、いいか」

こんな言い方をしているものの男は半分嬉しそうだった。
それを隠そうとしているのが目に見える

「嬉しそうだな・・・・・・」

「そりゃあな。それより・・・・・・」

一転してまじめな会話に戻る。

「和樹はホントに大丈夫なんだろうな」

「ああ、物理法則から言って、天地がひっくり返っても、今の式森君は殺せないよ」

「ゾンダーが出てきてもか?」

「ファントムガオーがあるから大丈夫だろう」

「そうか」

「では話を戻そう」

そういうと紅尉は横に置いてあった袋からいくつかの書類を取り出した。

「ガオーマシンも今新しく製作中だ。基本的な機能は変わらない。今月中にはロールアウトする予定だそうだ」

「ビークルマシンは?」

「ボディは完成しているがAIを今調整中だそうだ。こっちの方はあと二、三ヶ月かかるらしい」

「変な風に育ててないだろうな」

「安心したまえ。高之橋君もがんばっている」

「なら安心だが・・・・・・和樹のせいで悪影響されないか?」

「そのあたりは君の出番だよ、長官」

その言葉にぴくっと男の眉が動いた。

「本当に、俺がやらなきゃだめなのか?別にお前がやっても・・・」

だが紅尉はその先を言わせない。

「君がやらなければ駄目なんだ。私はあくまで作戦参謀だからね」

「だから何で!ほかのやつだっていいじゃないか!」

「長官に必要な能力は知力だけじゃない。リーダーシップは勿論のこと、判断力や決断力、何より平和を誰よりも愛する心を持っていなければならない。そして 17年前からの隊員でそれら全て兼ね備えているのは、君だけだ」

「・・・・・・・・・」

何もしゃべらない彼の態度を紅尉は肯定と受け取ったのか、そこでその話題を切り上げた。

「正式な書類は明日届くそうだ」

「・・・・・・わかった」

「期待しているよ・・・・・・・・・・・・式森雷王(らいお)長官」

雷王を呼ばれた男は何も答えない。

ただ上を見上げて、何処かで戦っている息子のことを思いながら、肩をすくめるだけだった・・・・・・。







玖里子もかおりも暫く反応をまったく見せなかった。否、出来なかった。まず何で自分たちが生きているのかがわからなかったし、和樹が何でここにいるのかも わからない。というより、今自分たちの目の前にいるこの男が本当に和樹かどうかがわからなかった。

「玖里子さん、伊庭先生、助けに来ました!」

と声をかけても暫く何も口が利けなかった。
そしてそれはアステリも同じことである。

ただアステリの場合、この男が和樹であるということは認識できたようであった。問題なのは何故こいつがここにいて、何故こいつがこんな格好をしているのか ということ。

「二人とも、大丈夫ですか!」

少し遅れてリンが向こうからやってきた。遠くから二人の危険を確認するや否や和樹がまたも超人的スピードを出してしまったので時間差が出来たのであった。

「澟・・・・・・あれは和樹なの?」

「はい、信じられないかもしれませんが確かに式森です」

伊庭は黙っている。声が出せなかった。自分が子どもだったときの状況と余りに似すぎていた。

自分を助けてくれたあの人と・・・・・・

「助けに来たぞ!」・・・そんな言葉をかけてくれたところまで、あの人にそっくりだった。

「先生!先生!!」

はっとなって我に返る。どうやら少し気を失ってしまったらしかった。

「あ、ああ、すまん。もう大丈夫だ・・・・・・」

かおりが起き上がるのを確認すると、三人はゆっくり後ろに下がった。和樹は依然としてアステリをにらみ上げている。



やがて和樹がゆっくりと言い放った。

「夕菜を返してもらう・・・・・・」

その声、人間としての何かを超越した声質を聞いて、アステリは一瞬動じたようだがそれだけだった。人間を超越したのはこっちも同じことだ、万が一のことが 合ったとしても人質が在る。

(そうだ・・・・・・俺は負けねえ、絶対に・・・・・!)

「やってみろよ・・・・・・」

しかし、その言葉を吐いたことをアステリは次の瞬間後悔することになる。

シュッ!

「何!消え・・・ぐおっ!」

和樹がさっきの甲板で見せたように高速の速さからのアッパーカットを繰り出した。そしてそこからも和樹の猛攻は終わらない。

「ああああああああ!!」

休む間もなく拳の弾丸はアステリの顔面を襲い続けた。

しかしそれまで・・・・・・

「終わり、だあぁぁぁ!!」

最後に一発、とどめの一撃とばかりに和樹はアステリのみぞおちの部分に渾身の一撃をブチかまそうとしていた。そしてそのために一旦呼吸を置いてしまったの が問題だった。

「よ・・・・・・よせ」

アステリが息も絶え絶えに言う。最初和樹はこれを無意味な願いだと受け取った。

「うるさい!」

そして、パンチを打とうとした、次の瞬間・・・・・・

「そうか・・・・・・じゃあ」

「・・・・・・なっ!」

「これごと俺を殴っても・・・・・・いいんだな?」

それはさっき玖里子たちにも見せた、夕菜の絡め取られた姿。

「ゆ、ゆう・・・・・・ガアァァァ!」

その一瞬の隙をアステリは見落とさなかった。右腕が変化しドリルのようになる。

そしてそれはさっき和樹に食らうはずだったみぞおちの部分にヒットする。和樹はそのショックで反対側まで吹き飛ぶ。

ドガァ!

鉄板がめり込むと同時に和樹の上半身はその無効に突っ込んだ。力なくぐったりとした足は少女たちに不安感を募らせるには十分だった。

「和樹!」「「式森!」」 

玖里子と澟とかおりが同時に叫ぶ。しかし和樹は動く気配すら見せない。アステリはそんな彼女たちを哀れみと恍惚の表情で見つめる

「無駄だ・・・アレで死なないわけな・・・・・・」

「普通の人間なら・・・・・ね・・・」

パラパラと音を立てて和樹がゆっくり起き上がった。アステリたちの視線がいっせいに和樹に向く

「な、ば・・・・・・馬鹿な」

「僕は・・・そのぐらいじゃ倒れない・・・・・・・・・倒れるわけには、いかない・・・」

かすれた声で

しかしはっきりと一言一句和樹は言葉を紡ぐ。そしてそれははっきりとアステリの耳から始まって、神経を通し、脳に刻み込まれる。

「・・・こ・・・こ、こんな・・・ことが!嘘だ!・・・そんな・・・」

アステリは、ここへ来てようやく理解した。

自分はとんでもないことをしてしまったということに

「お、俺は・・・・・・」

「絶対に・・・・・・夕菜は・・・・・・・・・返してもらう!!」

「俺はぁぁぁぁぁー!!」

アステリが飛び出した。もう片方の左手も変化する。

「おれはぁぁぁー!!絶対に!負ぁぁけえぇなあぁぁぁいっっ!!」

彼は走る。猛然と自分の中の恐怖を振り払いながら走る。自分が自分でいるがために・・・・・・そうしなければ、自分が壊れてしまう・・・・・・・・・体が どうにかなってしまう・・・・・・

そんなアステリを和樹はただまっすぐな目で見ていた。

こいつを許すつもりは無い・・・・・・

だけど、殺すつもりは無い・・・・・・

ただ僕は・・・夕菜を助ける・・・・・・

そして・・・・・

「そして・・・・・・みんなで、帰るんだあぁぁぁー!」

和樹の体が瞬く間に緑色の光で満ちた。甲板で見せたのと同じ、命を救う軌跡の光だった。

和樹の左腕が右の肘辺りまで伸びる。夜見るとそこには何かがあった。柄である。何かの柄が腕のプロテクターに差し込んであったのである。

「なにぃ!」

「ウィル!ナイフ!」

閃光が、飛び散った。





玖里子たちには何が起きたのか理解できなかった。

まぶしい光が司会全部を包んだと思ったら、後は和樹とアステリがお互い別の方向を見たまままったく動かない

「一体何が・・・・・・」

「起こった・・・の・・・?」

「ぐぅ・・・・・・」

はっとなって三人はアステリの方向を向いた。

「あああぁぁぁ〜・・・」

アステリが苦しんでいる。全身から来る痛みを必死に耐えている様子だった。

「夕菜は・・・・・・返して、もらう」

「ぐあああああああああ!!!」

アステリの四肢が緑色の光を帯びて崩れ落ちた。

やがて光の侵食は夕菜を包んでいた下腹部まで伝わって言った。
中から夕菜が現れた。意識は失ったままらしく、そのまま床に崩れ落ちる。

「宮間!」

「夕菜さん!」

「夕菜!」

玖里子たちがいっせいに夕菜のそばに駆け寄る。

少し遅れて和樹もやってきた。

「先生・・・・・・夕菜は」

「ダイジョブだ、脈は正常だし息もある。心配ないだろう」

「よ・・・」

「ん?」

「よかっ・・・・・・た」

和樹はその場にぺたんと突っ伏してしまった。

「よかった・・・・・・夕菜が無事で・・・本当に、よかった」

自然と嗚咽が和樹から漏れてくる。これがさっきまで暴れていたのと同一人物だとは思えないほどの泣きじゃくりだった。

「式森、男が泣くな・・・・・・ほら」

澟がそういってハンカチを差し出した。和樹はそれをやっぱりドロドロになった手で受け取った。

「ゴ、ゴベン、リンヂャン」

「どうやら、ホントに和樹みたいね」

「グスッ・・・玖里子ザン、ジンジデダガッダンヂィズガ?・・・」

「あ〜もう、無くかしゃべるかどっちかにしなさい」

「はい・・・」

そういって和樹は又泣き出してしまった。

ひとしきり鳴き終わった後和樹は立ち上がってみんなに声をかけた。

「さ、さてみんな、帰ろっか」

「そだな、早く帰ってドリキャスのクレイジータクシーでもやって寝るか」

「ところで和樹、それいい加減はずしてくんない?なんか別人と話してるみたいで落ち着かないのよね。それにその長髪、キバ一族にだってそんなのいないわ よ」

「キバ一族はともかく、私もそれを言おうとしたぞ式森」

アハハ、と中途半端な表情で頭を掻く和樹。

「ごめん。甲板についたらはずすよ。実は入れるトランク・・・」

そこに置いてきちゃいました、と言おうとした次の瞬間・・・

突然船が、揺れた・・・









あとがき
どうも、東ひじりです。疲れた・・・まさか小説書くのがこんなに大変とは・・・他の人の心中、察します・・・・・・ちなみに今回出てきた雷王はオリジナル キャラです。せいぜい主役を食わないように活躍させます(これが難しいんだよなあ)
さて次回はいよいよロボットバトルに突入します。ふ〜一番書きたかった部分に行くまでこんなに時間とってしまった(笑)
では!次もこの小説に、ファイナルフュージョン承認!・・・・・・してください<m(__)m>

ちなみに・・・・・・これが勝利の鍵だ!!➔ファントムガオー





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