第十話       幻影、そして帰還



甲板から出て来た時、船の揺れはますます激しさを増していった。

「な!こ、これは・・・・・・」

「歪んでるわ・・・・・・この船、グニャグニャになってる」

ぐうの音も出ないとはまさにこの事である。

船から腕が生えている

貨物船のフォルムはとりあえず残してあるものの、そこから漂ってくるよう気は決して地球上の被造物の類ではない。

「とりあえず、みんな飛べ!式森、お前はファントムガオーで」

「「「「はい」」」」

ダッ!

夕菜を玖里子が支えたまま四人が一斉に空へ飛ぶ、それが正解であった。

彼らが立っていた部分があっという間に剣山のように伸び上がったのである。あのまま何もしなかったら全員が死んでいただろう。

「グオオォッ!」

皆全身が震えた。そんなことがありうるのか、というぐらいの咆哮が船、いや、そうであったものから聞こえてきた。

「くるぞ!」

伊庭の声がしたと思った次の瞬間、剣山がいっせいに穴の開いた棒状のものへと変化した。かと思えばその穴から紫色に光ってくる。やがてそれは周囲の空域を も飲み込みどんどん肥大化してきた。

「全員右だ!」

四人がいっせいに右へ移動する。

筒から巨大な光弾が発射された。そしてそれは先ほど和樹達がいた所を通過し、放物線を描いて落下する。そして・・・・・・

ズゴオオオオオッ!!

とてつもない轟音とともに巨大な水柱があがった。水しぶきと同時に魚の死骸が落下する。水面からどんなに少なく見積もっても20メートルはあるだろう。

「そん・・・な」

「あんな物を食らったら・・・・・・」

このままではやられる。何とか方法を考えなければならなかった。倒すのがどうしても無理ならば攻めて日本に上陸させるのだけは何とかしなければならない。 とりあえずさっきの攻撃でばらばらに散開してしまったみんなを集めようと伊庭が声をかけようとしたその時・・・・・・

「はあっ!」

「式森!」

「和樹!」

伊庭の声がかかる前に和樹が飛び出していた

「おおおお!ウィルナイフ!」

ガキン!

だがあのナイフがどんなに硬い強度を誇っていようとも、どんなに今の和樹の身体能力が優れていようとも、当然切り裂けるはずもない。

ウィルナイフは砲台の一部に食い込んだまま動かなくなってしまった。

ブン

「え、うわあ!」

気付いたときには和樹は猛烈な勢いで動いた砲台の反動で吹き飛んでしまった。澟が何とか受け止める。

「大丈夫か、式森?」

「あ、うん。澟ちゃん・・・ありがと」

「礼などするな。ほら、次が来るぞ」

「いや・・・・・・」

和樹が澟の手を離れた。それと同時にファントムガオーが下に回りこむ。そして和樹は難なくそれに着地する。

「もう逃げる必要は、無いよ・・・・・・」

「式森・・・・・・」

澟が呼びかけようとするが和樹は甲板で彼女を助けたときのように詰問を受け入れない。

「みんな、離れていて・・・・・・出来るだけ遠くに」

「何を言っているんだ、式森。そんな状態で、一人でまた戦おうというのか?」 

「大丈夫・・・・・・」

ゆっくりと、しかしはっきりと、彼は言葉をつむいだ・・・・・・

まるで、自分に言い聞かせるかの・・・・・・ように・・・・・・・・・

「澟!」

やや遠くにいる玖里子が声を張り上げて叫ぶ。

「早く来なさい。こっちに」

「しかし、玖里子さん・・・」

「和樹には考えがあるの、だから私たちはそれを邪魔しちゃいけないわ」

くっきりとした玖里子の口調に澟もとうとう折れたらしかった。ゆっくりと和樹から離れていく。

「式森・・・・・・・・・待ってるからな・・・。その、その鎧は外してこい。髪も、元に戻してな。やっぱり私は・・・いつもの、いつもの・・・・・・笑っ ているお前のほうが・・・」

どんどん、顔が赤くなっている。そしてそれと同時に言葉も小さくなっているので最後のほうは今の和樹の聴力をもってして聞き取れない。

「え、何澟ちゃん?聞こえない」

「い、いやなんでもない」

「いや教えてよ、最後のほうよく聞き取れなくて・・・」

「いいといっているだろ!余所見をするな!」

何だ、こいつは全然変わっていないではないか、やっぱり少しでも・・・その・・・・・・かっこいいと思ったのは私の思い違いだったのか?

「でも・・・」

やっぱり気になって集中できないよ、と言うつもりの和樹の考えは次の瞬間脳天から打ち砕かれた。

ズオオオオォォォォォ!!!

先ほどの大爆発を引き起こした光弾が容赦なく和樹に襲い掛かった。

「和樹!」

「式森!」

りんと玖里子が同時に叫ぶ。伊庭は何故か何もいわなかった。まるでこれから起こる事が・・・・・・和樹が中を舞うことがわかっているかのように・・・

「はっ!」

瞬間、和樹の体が船内で見せたように緑色の光で満ちる。そして一樹は、空に跳んだ・・・・・・

「ファントムガオー!」

和樹がその名を叫ぶと同時にファントムガオーは方向を垂直に変えるとすさまじい勢いで飛び上がった。そして和樹の後ろの回りこみ、先ほど甲板でトラックを 発射したハッチが再び開く。自らもその身を緑の閃光にゆだねる、そして・・・・・・

「フュージョン・・・・・・」

和樹はゆっくりと言葉を紡ぐ。

しかしファントムガオーの動きは実に迅速だった。まず前方に突き出している腕がグルリと半回転し後ろ側に回る。そしてそこから何かが伸びて五本に分かれ る。腕だった。そして次に今度は足が出てくる。最後に顔の部分がせり出てきて、完成した。顔の額の部分では六角形の石が緑色に輝いている。まさに数秒の出 来事、その数秒の後にそこに存在していたのはまさしく、圧倒的な威圧感を持った、青き巨人。

それは・・・勇気の証・・・・・・

それは・・・人が生み出せし、平和への道しるべ・・・

それは・・・かつて存在した偉大なる勇者たちの遺産・・・・・・

その名は、

「ガオファー!!」





式森和樹は、戦術支援戦闘機ファントムガオーとフュージョンすることにより、戦闘用メカノイド、ガオファーに変形するのだ。

が、

その場にいた全員が驚きを隠せなかった。確かに今までも度肝を抜かれることはあったが、今回はその中でも最たるものだった。

確かに、いままで何に関してもドベと思っていた少年が妙な戦闘機に乗っていたら変だろう。屈強な男たちを一瞬のうちに倒したというのもあっけに取られるの は仕方の無いことだ。

しかしこれは今まで起こってきた『変なこと』とは根本的に次元が違う。どちらかというとこちらは質より量の部分で無理なのだ。だが戦闘機がロボットに変形 するなどどう考えても根本的な質の部分でむちゃくちゃだった。

「いくぞ・・・」

がオファーと和樹が読んだその機体が口を開いた。聞き覚えのある声、そうだ、これは和樹の声だ。

両肩についたブースターがいっせいに噴射する。

「おおおおおおお!!」

ガオファーが一気に加速した、その速さは従来のどの乗り物よりも早い。玖里子たちも目で追うのが精一杯だった。

一キロ、800メートル、600、400、200、50メートル

またたくまに距離をつめていく。

ガオファーの両手に爪が現われる、それは手甲のようにガオファーの手首から展開したもの、ガオファークロウだった。

「はっ!」

超スピードからの特攻が船と一体化したアステリの横っ腹を直撃した。鋼鉄の身体に深い爪あとが、えぐった跡がつく。

グウオオォォォォォォ!!

アステリがこの世のものとは思えない雄叫びを上げた。

大砲を腕へと変化させガオファーに向かって振り下ろす。

だがその腕を振り下ろす前から、ガオファーは反対側へと移動していた。

「つぇい!!」

再び高速の一撃が、今度は後ろ側に容赦なく打ち込まれる。

「あああああああ!!」

その後もガオファーの追撃は終わらない。一発、また一発とアステリの身体にえぐった痕が刻み付けられていく。それはまるでこれまで彼が殺してきた人々によ る、彼に対しての呪いの様でもあった。

「ぐうウウぅぅ・・・・・・」

アステリがうめき声を上げている。それでもガオファーは攻撃を、つめに猛攻の手を緩めようとはしなかった。

それは天使による正義の鉄槌か、あるいは悪魔の手による力を悪用した事への対価か・・・・・・

「ウゴオオオオォォ!!」

グワァ!!

アステリが腕を懇親の力を込めて振り下ろした。ガオファーはそれを交わすと思いきや、攻撃に集中しすぎていたためかモロに受けてしまう。

「う、ぐああ・・・!!」

ガオファーの動きが一瞬止まった隙をアステリは見逃さなかった。ビルほども太さのあるその腕でがっちりとガオファーを挟み込む。

「ギャオオオオオオオァァ!!」

機関砲がガオファーに向けて開かれる。そして・・・・・・

ズガガガガガッ!!

零距離から一斉に、通常の何倍もある二千発の弾丸全てが機体めがけて発射された。

「うあああああああっっっ!!」

一つ残らず命中する。

「式森!」

「和樹!!」

玖里子と澟が同時に叫んだ。あたり一面に硝煙が立ち込める。

しかし伊庭だけは何も叫ばない。何も言わない。本当は彼女も叫びたいのがわかる。その証拠に全身から疲労とは違った汗が流れ出し、手足もガタガタと震えて いるのがわかる。それなのに彼女は何も言わない。何故か?

答えは彼女の目が全てを物語っている。

目だけはガオファーを、いや彼を、式森和樹をまっすぐ見ていた。彼を、何のためらいも、何の疑いも無く信じていた。

アステリはゆっくりと手を離した。

彼は本能のままに行動しているものの、頭の中ははっきりしていた。本能のままに行動していたとしても、破壊衝動だけで彼の頭が占められていたとしても、ア ステリという一人の人間そのものは船の中心でいまだうごめいていた。

あいつは必ず殺す。もう彼の命令だろうが、宮間夕菜だろうが知ったこっちゃない。これからあのよくわからん木偶人形が落ちてくるだろう。そうした時があい つの最後だ。全砲門はもう開いている。エネルギーももうフルチャージだ。打ち抜いてやる、そうしてそうしてそうして殺して殺して殺して殺して殺して殺し て・・・・・・・!!

が、

落ちなかった。

「!!」

硝煙が晴れたとき、その場にいた皆が硬直した。

ガオファーが消えた。

波紋も水しぶきも無いので、海の中に消えたともありえない。

忽然と、文字通りにその場から消えたのである。

「「うそ!?」」

玖里子と澟がこれまた同時に絶叫する。どうもさっきから二人とも驚愕のしすぎだが、我を忘れないだけでもすごい事である。それぐらい不可思議なことに遭遇 した人間の精神はもろいのだから。

「ファントムカモフラージュだ・・・・・・」

伊庭がふとつぶやく。

「え・・・?」

「先生、アレがどういったものか知っているのですか?」

「少しだけな、ほら・・・・・・」

ドスン、と甲板のほうから音がした。

アステリはぎょっとした。

アステリはそれの正体を知っている。しかし頭で考えたくはない。なぜならそれが今そこにいるということは、すなわち完全に後ろを取られている。うそだ、そ んなわけは無い。アステリは心の中で反芻した。嘘だこんなこと、俺は無敵なんだ。絶対に負けない。

「出てくるぞ!!」

何より相手は単なる若造。

「いけ!式森―――――!!」

そうだ、所詮若造、若造若造ワカゾーワカゾーワカゾー・・・・・!!

ファントムが、いや式森和樹が、出現した時既にアステリの意識はすっ飛んでいた・・・・・・。










「雷王」

紅尉晴明は、保健室でベッドに寝転んでいる一児の父親に声をかけた。

「あん」

「一時間前の海上保安庁からの報告だ」

「いーよ、そんなの後にしてくれよ」

もし今の光景を画家が絵にするとしたら、間違いなく「けだるい」の一言だろう。それくらい、今の彼にはその言葉がぴったりであった。

「君は長官だよ。これは義務だ、何よりまずベッドから降りたまえ」

「わかったよ・・・」

しぶしぶといった感じで腰掛ける形にする。無論ベッドから降りたことにはならないが本人にしてみればこれが精一杯妥協した形だった。知ってか知らずか紅尉 はそれ以上何も言わない。

「本日19時35分、海上で貨物船と融合したと思われるロボットを確認。これが一時間前に撮影した写真だ。で、同日20時7分、ガオファーによりこれを撃 破、殲滅した」

「核の摘出は?」

「失敗した。それについては仕方あるまい、情報についてはまったく教えていなかったからな・・・」

「まあ、そのまま握り潰すよりはマシか・・・・・・。で、その後は?」

「30分後に帰還した。全員満身創痍だったよ。特に神城君は危なかったな。よく気を失わなかったと思うよ」

「神城って、あの大和撫子かい?そいつはいけねえな、すぐに治してくれよ。写真でみた限りじゃ、一番可愛いもんな。なんか純情そうだし」

「キミの好みは知らんが、治しておいたよ。二、三日すれば大丈夫だ」

くっくっ、と変な笑みを雷王は浮かべた。が、それもほんの数秒のことだった。

「さてと・・・・・・」

一転して真剣な顔になる雷王。

それは息子の和樹とは余りにもかけ離れた、一種の貫禄を感じさせる顔だった

「これから・・・・・・だな」

「ああ、これからだ・・・・・・」











やや薄暗い保健室の一室

和樹は夕菜の傍にいた。

あの後、彼は元に戻った。ファントムガオーからフュージョンアウトし、イークイップも解いて、髪はどうなるのか判らなかったがいつのまにか戻っていた。

何処に下りて、ファントムガオーもどうしようかと思ったが、その辺りは伊庭先生が何とかしてくれた。「紅尉に連絡すれば何とかなるだろう」と、彼女は言っ ていた。

(今日はいろんなことがあった・・・・・・)

和樹もかなり疲労していたが、帰ってきて一時間もするとすぐに元気になっていた。紅尉の話ではそれも特殊な能力の一つということらしい。

(正直な話し、自分でもわからない。今何が起こっていて、僕が何をやって、その結果どうなったのかも・・・・・・全然わかんない)

閉じていた目をすっと開け、

(でも・・・・・・)

傍で穏やかに眠る少女に目をやる。

(夕菜が、こうして傍にいるんなら・・・・・・僕は、今の僕は何も知らなくていい)

自然と顔に、笑みが広がる。

(夕菜が起きたら、どうしようか・・・・・・とりあえずは謝ってその後は・・・・・・・・考えてないや)

でもとりあえずは、

この安心感を、もう少し味わっておこう・・・・・・

彼女が傍にいるという、この幸福感を・・・・・・










あとがき

やっと終わった・・・・・・・・・・・・。ここまで読んでもらってありがとうございます
こんなに時間をかけても多分テレビに直せば多分一話二話程度だろうなあ。
とりあえず、紅尉先生たちが言った通りここからが本番です。バトルシーンもこれから結構出すんでよろしくお願いします。
まあ、とりあえず次回はバトルシーンなしで行こうかと思います。夕菜と和樹の仲直りの話です。多分。

では次回も、このチャンネルにファイナルフュージョン承認!!
これが、勝利の鍵だ!!『式森雷王(和樹の父親)』



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