第十四話      Gコースターで大爆笑、もとい大爆走





「で、ナンだっけ? 俺の職業だっけ?」

今は並んでいる最中。
もうGコースターに乗るまで三分とかからなくなった頃になって雷王はその話題に触れた。
本来ならもっと長い時間並ぶはずなのだが・・・・・・

(こんな三人がいたんじゃあ・・・・・・並べるわけないよなあ・・・・・・)

その通り、

和樹の父親である雷王に気に入られようと争奪戦を開始したわけだが、その結果三人特有のオーラが発された。
あるものは怯え、あるものは逃げ出し、あるものは何故だか知らんが吹っ飛ばされた・・・・・・・・・

当の雷王はというとまったく涼しげな顔をしている。
むしろその様子を喜んでいるようにも思えた。

「「「そうです、是非教えてください、お父様!」」」

三人が同時に叫び、その結果、また少しばかり、周りのオーラが増大した。

「和樹から、聞いてないわけ?」

雷王はちらりと和樹を見たが和樹が目を逸らしたのでやめてしまった。

「そうなんです。和樹さん、自分の周りの事とかぜんぜん話さないんですよ」

「オイオイ、駄目だぞ和樹。そういうことは包み隠さず話さなきゃ、将来困るぞ」

「将来ってナンだよ!」

「自分で考えろ〜〜」

また二人の言い合いになってしまって話がそれたが、和樹が自分のことを余り話さないのは本当だった。
それでなくとも、和樹は実は養子だとかいろんな衝撃の事実を知らされたのである。
さらに、あの戦闘機やロボットに関しても、後で話すといっておきながら何も言わない。
夕菜達が知りたいと思うのも当然であった。

「で、俺の職業だけどね〜〜〜」

雷王が口を開いた。
三人がいっせいに雷王の方を向く。

「ま、一応は公務員かな? あれも政府に属しているらしいから」

「何処なんですか?」

玖里子が間髪いれずに答えた。
しかし次の瞬間彼が口に出した答えは、三人をさらに驚愕させるものだった。

「宇宙開発公団」

「「「え?」」」

「だから宇宙開発公団の、総裁やっているんだ。俺」

「「「ええええ!!!!」」」

夕菜達が驚いたのも無理はなかった。

宇宙開発公団とは21世紀の日本における宇宙開発事業の指導的団体であり科学技術庁直轄の組織の総称である。
本部である宇宙開発公団タワーは東京湾に建設され、全高400メートルの威容を誇る。

スペースシャトルの開発、打ち上げはもとより、多彩な視点での天文観測、リサイクル技術の開発および普及等が主な事業とされている。
月面開発や宇宙進出が見通されている今、最も重要な組織といっても過言ではない。

ましてやそこの総裁、ナンバーワンとなればその地位は相当なものである。
偉いなんてものじゃない、規模の大きさだけで言えば玖里子の一族が経営する風椿財閥を上回るだろう。

「神社って聞きましたけど・・・・・・」

「ああ、あそこは殆ど女房や親父に任してあるからね。正月や祭りのとき以外は殆ど手伝わないんだ」

「すごいです!とても責任ある立場におられるのですね」

「いや〜〜、それがそうでもないんだ。仕事って言っても殆ど部下の人たちがやってくれるからね。俺の方に回る仕事は殆どない。だから、一応物書きもやって る」

「物書き・・・・・・ですか?」

「うん、小説をちょっと書いてる」

「ほえ〜〜〜」

一体どんな身体をしているのかと思った。
いくら部下がやってくれるといっても相当な負担がかかることには変わりない。
それは玖里子が自分の身体でもってよく知っていることだった。

「よかったら、一冊あげようか・・・・・・といっても読まないかな? どうかな、和樹?」

「「「読みます!!!」」」

和樹が返答する前に三人が答えてしまった。
仕方がないので数秒待ってから和樹は口を開いた。

「何だっけ? 純文学だっけ?」

「ああ、そうだ」

そういうと彼は服のポケットの中をまさぐり始めた。
やがて、お目当ての本を見つけたのか、それをすっと取り出した・・・・・・











はずだった・・・・・・・・・・・・














「父さん・・・・・・・・・何、それ・・・・・・」

「ん?」

雷王は目をパチクリした。
和樹がわなわなと震えている。
玖里子達を見ると彼女達も、特に澟が顔を真っ赤にしていた。
不思議に思って手の中を見てみると・・・・・・

「あ・・・・・・・・・」

雷王が持っているのは間違っても、どう転んでも純文学ではなかった。
女性の裸が移っている卑猥な表紙に、『病院の×××××××〜彼女の×××〜』
というわけのわからないタイトルがついていた。

「あ、ごめん!間違えた!」

雷王はそれをしまうと急いで別の本を取り出した。

「こっちが本物! さっきのは趣味で書いたやつだから・・・・・・」

「父さんが書いてあることには変わりないだろが!
それ以前に変態かお前は!! 家族に内緒でそんなものを・・・・・・・・・」

「あ、空いたみたいだぞ!みんな行こう!!」

そういった次の瞬間、もう雷王ははるか遠くへ行ってしまった。

「ああ、もう!」

「いいお父さんじゃない」

和樹が歯軋りしながら歩き出そうとすると、玖里子が言った。

「どこがですか・・・・・・」

「素敵ですよ、とっても明るい方です」

「うん、さっきの本は別にしてもな」

夕菜や、あんな類の輩が一番嫌いな澟でさえもそう言いきるので和樹は少しばかりあっけに取られてしまった。

「明るいなんて・・・・・・ただうるさいだけだよ」

そういうと、彼もスタスタと歩いていってしまった。
三人は、はあっとため息をつく。

「気付いてないのね・・・・・・」

「まったく親不孝者だな」

「そうですね・・・・・・お父様、かわいそうです」

夕菜たちは知っていた。

三人とも名家の生まれである。

夕菜のいる宮間家は、江戸時代から西洋魔法を取り入れ、一時は知らぬ者なしの家となった。

澟の神城家、平安時代から続く御祓いのプロフェッショナルだし、玖里子の風椿財閥は、今や日本のトップに立つ会社だ。

自分が父に甘えたくとも甘えられない。友達も、ろくすっぽ作れない・・・・・・そんな苦しみを人一倍わかっている。

だからこそ、ああして和樹に普通に接していられるのが、彼女たちにとって驚きだったし、素晴らしいことだと思った。

和樹がそんな家庭で育ったということも羨ましかった。

「自分が一番恵まれているのにも気付かないなんてね・・・・・・」

「私が教えてあげます」

「ああ、またそうやってポイントを上げようとするんですね!」

「ち、違います! 誰がそんな・・・・・・」

また喧嘩が始まってしまった。

「はいはい、そんな事言ってないで、早く行きましょ。後つかえてるんだから・・・・・・」

二人はしぶしぶといった感じで玖里子に従ったが、睨み合ったままである。
きっかけさえあればすぐにでも互いの揚げ足を取りそうだ・・・・・・。
そんな二人を必死になだめつつ、Gコースターへと足を運ぶのだった。



「で、どう乗る?」

「私が和樹さんの隣です」

「ちょっと夕菜、勝手に決めないでよ」

「そうです。私のほうが式森も本意なはず」

「二人とも何言っているんですか。わたしとの方が絶対いいです!」

三人ともまったくきりが無い。
後がつかえているので早く決めてほしいのだが、あいにく今の彼女たちを止められるものなぞはっきり言って皆無だった。
もしそんなものがいたところで、それは『勇気』ではなく単なる『無謀』な行為であろう。

「さ、三人とも・・・・・・じゃんけんで決めれば・・・・・・いいんじゃないかね・・・・・・」

和樹が細々と、ようやく声と認識できる声で言った。

「・・・そうですね・・・・・・」

「それなら・・・・・・」

「納得もいくわね・・・・・・」

三人がにらみ合い、そして目線をちょうどおなかの辺りまで下げる。
全神経を集中させ・・・・・・そして

「「「「じゃんけんポン!!」」」

三人ともチョキ、あいこだ。
もう一回、

「「「あいこで、しょ!!」」」

今度は玖里子がグー、夕菜がパー、澟がチョキ。見事に分かれてこれまたあいこ。

「「「あいこでしょ!あいこでしょ!!あいこでしょ!!!あいこで・・・・・・」」」

一向に勝負はつかない周りの人たちは一時間以上の時間がたっているようにも思えた。

「戦う女性は可愛いもんだな」

「人事だと思って・・・・・・」

しかし雷王の顔は崩れない。

「だって人事だもん」

「ぐっ・・・・・・!」

確かに、周りの人たちは早めに乗るのをあきらめると今度は彼女たちを応援するようになっていた。
それぞれが好みの女の子たちを応援し、いつしか人だかりが出来るほどだった。

「ほら、みんな考えることは一緒だ」

その時三人の方から歓声が、いや悲鳴が上がった。

「ちょっと、澟さん!今の後出しです!!」

「な、何を言っているのですか!今のは正々堂々とした神聖な行為ですよ!!」

「嘘です!!」

「まあ、確かに今回は澟に勝ちかもね」

「玖里子さん!?」

「今回は譲ってもいいわよ」

「そんな!」

「夕菜ちゃんもそんなに怒ると嫌われるわよ」

「うっ!」

図星を指されてがっくりとする。
前回和樹が怒った理由はまさにそれだったのだから・・・・・・
同じ間違いは二度としたくない、そんな考えでしぶしぶ後部座席のほうについた。

「決まったか、じゃ乗るぞ〜〜〜」

こうして一番前が和樹と澟、後ろに玖里子と夕菜、そしてさらにその後ろに雷王という形で席についた。



「そういえばさあ・・・・・・」

がたん、と出発するときになって玖里子がポソリと言い出した。
まるでこの時を待っていたかのように・・・・・・

「澟って、この手のアトラクション大丈夫なわけ?」

「あ・・・・・・・・・」

だがとき既に遅し・・・・・・・・・・・・コースターはもう頂上、下るほんの少し前まで来ていた。

「しまったああああああああああああああ!!!!!!」

澟が絶叫を上げる同時に一気に下り坂に落ちた。
その早いこと。
絶叫マシンが苦手得意に関わらず、これなら誰だって悲鳴を上げるだろう。
和樹もようやく思い出した。
父に連れられて行ってもらった時、これに乗りたいと母にせがんで乗らせてもらったのだが、余りの恐怖に足が動かず、三時間ほど時間をロスしてしまったの だ。

「いよいよおおおぉぉぉぉぉ!!!このGコースタァァァァァのオオオオオオォォォ!!!!最大の目玉ああああああああ!!!!」

走っている最中に雷王が突然叫んだ。
最大の目玉・・・・・・?
何ダッケそれ・・・・・・必死に恐怖と戦いながら和樹は記憶をたどろうとした。
次第に思い出していく・・・・・・・・・・・そうだ、これは・・・・・・確か!!

「外側ルーーーーーーープ!!!!」

「「「「へ?!!!!???!」」」」

三人の美少女+1が同時にあっけらかんとした次の瞬間、
突然、皆外側に引っ張られるような感覚を覚えた。
余りにも変に思って必死に外を見てみると・・・・・・・・・
外側に、コースターが回っていた。

外側ループとはその名の通り、通常内側をループするはずの線路を外側に走るものだったのだ。

悲鳴が・・・・・・・・・交錯する・・・・・・・・・






「ア〜〜〜〜〜〜おもしろかった〜〜〜。ん、どうしたみんな?」

全員がダウンしていた・・・・・・・・・

「オイオイ和樹、そんなんでへばるなよ」

「そっちが・・・・・・変なんだ・・・よ・・・」

もはや何を言う気も無かった。
さすがにやりすぎたと思ったのか雷王もそれ以上は何も言わない。

「早いけど・・・・・・もう、お昼にしましょうか・・・・・・」

みな、夕菜の意見に賛成だった。







あとがき

さて、東ひじりです。このたび最後まで読んでいただきありがとうございます。
それにしても、バトルシーン出てきませんねえ・・・・・・(笑)
まあ、私の予想では次の次ぐらいで出てくると思います。
ではこのへんで・・・・・


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