第十六話      晴れのち、ドキドキなり……(後編)




最初は普通に展開が進んでいった。
最初はぎこちなかったものの澟の助言などもあって何とかなった。

ただし・・・・・・

シュ!

「うわぁ」

ビュン!

「わひぃ!」

どが!

「ぎょわ・・・」



「いい加減にしろ!」

和樹の一括が狭い鍾乳洞の中に響いた。

ここは玖里子が選んだ・・・・・・といっても適当に店員に指示したものだが・・・・・・
鍾乳洞。それが今のステージである。
広々とした空間、澄んだ湖面などを見るととてもこれがバーチャルとは思えない。

が、一人の問題児がこの状況と雰囲気を完全に破壊していた。

「『児』ってナンだ『児』って!」

「『児』で十分だ!」

わからない読者のために説明すると、要するに雷王がサボっているのだ。
しかもただ休んでいるのではない。必ず澟か玖里子の背に隠れてはっきり言って邪魔なことこの上ない。

「澟ちゃんや玖里子さんばっかに隠れて・・・・・・」

「い、いや・・・・・・・ゼイ、ゼイ」

「ハア、ッハア・・・・・・私は別に・・・・・・構わない・・・・・・ケド」

十分に構う状況であることは皆一目瞭然のことだった。
もうさっきから三十分以上もこの状況なのだ。
しかしまさか雷王を見捨てていくわけにも行かない。
はっきり言ってにっちもさっちも行かないとまさにこのことだ。

「ほら・・・・・・もう少しで・・・・・・ほら!」

出口だ。

「はあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

やっと終わったのか・・・・・・四人と一匹の口からため息が漏れる。
が、

ドサァ!!!!

「あ、あれ!」

「澟さん! 玖里子さん!」

いきなり倒れた二人に駆け寄る三人

「ああ、寝てるだけだな、こりゃあ」

二秒と立たずに雷王が断言する。

「しっかし・・・・・・まさかここまで影響があるとはなあ……」

「自分でやったくせに……」

「でも……どうしましょうか……」

「休憩場が近くにあるから、俺が運んでいくよ」

「じゃあ、みんなで……」

「いや、和樹は夕菜ちゃんと一緒にいろよ」

「え?」

夕菜が素っ頓狂な声を上げる。
和樹にしても一瞬意味がわからなかった。
夕菜と……?
まさか……

「父さん! また図ったな!」

この父親はこのためにさっき玖里子や澟の背に隠れていたのだ……
自分と、隣にいる、さっきから殆ど話さないこの少女と二人きりにするために……

「ははははははははは!! 夕菜ちゃん!」

「は、はい!」

急に呼びかけられて夕菜は驚いた。

「和樹は俺と違って、シャイだからなあ! そこんとこヨロシクな」

そういうと彼二人を担いであっという間に遠くへ行ってしまった。




沈黙………




「えっと……和樹さん」

「ん?」

夕菜が話しかけてきた。

「行きたいところが……あります」

何処だろう。
もう行きたいところはあらかた回ったと思うんだけどな……
けれど、彼女が望むのなら……

「うん、で、何処行くの?」

「こっちです」

そういうと彼女は和樹の手を取り走り始めた。









連れてこられた場所は観覧車だった。
ここから町全てを見下ろすことが出来る場所として人気を集めている。

「………」

「……………」

(ど…どうしよう……)

乗ったはいいものの夕菜はさっきから一言も喋らなかった。外の景色ばかり見ているだけである。

何か話そうとしていうが話題もなかった。

「えっと………」

「和樹さん」

「!!」

突然夕菜が口を開いた。といっても俯いていたままであったが……
何か罪の意識を感じているような、そんな雰囲気が全身から発せられ、それはさながら教会の罪人のようであった。

「ごめんなさい……」

「え……?」

「私のせいで……和樹さんだけじゃなくて、玖里子さんや澟さん……伊庭先生にも……迷惑がかかって……」

「夕菜……」

「けど……みんなが優しくしてくれるの……わかって……惨めな気持ちになりたくなかったから……」

ぽたぽたと……涙が滴り落ちる……。

和樹はようやくわかった……

夕菜はいつも通りではなかった。むしろ皆に謝りたいのだった。
しかし「夕菜が悪いのではない」と皆が言うのは分かりきっている。ダカラいえなかったのだ……

そして……少女の涙は止まらない……

その止まない雨の中で……少女は必死に言葉を綴ろうとする……こうでもしないと、自分がつぶれてしまいそうだ……もうどうなってもいいい、そんな惨めな気 持ちが…




「駄目だよ、そんな事考えちゃ」

はっきりと、静かに和樹が言った。

普通ならここで夕菜は顔を上げることなどしなかっただろう………
いいんです、といってしまえばよかったのに……
それでも……顔を上げたくなった……

「僕たちが夕菜を助けたのは何でだよ……」

「………」

「みんなが夕菜にいてほしいって・・・・・・笑ってほしいって、思ったからだよ」

「和樹さん……」

「澟ちゃんも、玖里子さんも、舞穂ちゃんも、伊庭先生も紅尉先生も……………そ、それに……僕も、だけど……」

顔が思いっきり紅潮してしまった。だけれどあまり言葉を詰まらせたりはしない。自分でも不思議なぐらいだった。

「だから・・・・・・そんな事いっちゃ駄目だよ・・・・・・夕菜には、笑ってほしい……みんな、そう、思ってるはずだよ・・・・・・」









言葉が………染み込む……



心の雪が……永遠に溶けまいと思ったものが……



鎖が……ほどけた………



体中の……締め付けていた楔が……












「ね?」

「………………………はい!」

夕菜に、天使の笑顔が広がる。

観覧車は、もう、一周していた







「さてと………みんなと合流しようか」

「はい!」

二人は休憩場に向かって歩き出した。
もう夕菜に今までのような陰りは見えていない。いつもの通りの、普通の高校生の姿がそこにはあった。




「和樹さん……」

「ん?」

歩き始めてから何分語った頃、突然夕菜が足を止めた

「どうしたの? 夕菜」

「私……とっても大切な事……………思い出しました」

トン!

少女の体が、ふわりと浮く

ガバッ!

当然その行き先は………和樹の胸の中。

「え?!」

「和樹さんのことが………大好きだって事です!」

「え、え、え、え、えっとっと、」

思いも寄らなかった夕なの行動に和樹の脳はパニックを起こした。
既にアドレナリンをはじめとする分泌物が体中でフォークダンスを踊っている。

「和樹さん………」

「え?」

夕菜が、そっと、瞳を閉じる。
夕菜の顔が………どんどん近づいてくる。

「え…………?」

(も…………もしかして、き、き、き、き、き………キス!)



ばっくんばっくんばっくんばっくんばっくんばっくん



(ど・・・・・・どうしよう)

和樹は、自分の両手が後ろに回るのを、必死になって押さえていた。
今和樹の脳の中では人間としてのモラルと、男としての本能が激しくぶつかっていたのである。

夕菜残しに手が回り・・・・・・・・・そうになっては戻り、回りそうになっては戻り、回りそうになったら戻りと・・・・・・
そんなことの繰り返しである。

(……な、何とかするんだ、
……ああ、夕菜ってやっぱり暖かくって柔らかい……じゃなくて! 
……ああ、特に胸の柔らかいのが……じゃなくて!
……ああ、髪の毛からいい匂いが………じゃなくて!!!)




何か手を考えるんだ! 夕菜の気を引く何かが、

そう、どーんと、ドーンと……ドーンと!















ドーーーーーーーーン!!!!!!






闇が………侵食する















あとがき

どうも、東ひじりです。
何だ! この終わり方は! と思った方スイマセン
さて次からようやく戦闘シーンに突入します。
とうとう合体のあのセリフが・・・・・・

それでは、次回もこの小説にファイナルフュージョン承認!
これが勝利の鍵だ!『ガオーマシン』



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