第十八話      勇者王降臨!



「はああ!」

腕を組んだまま、ジャンプ、そこから強烈な蹴りを加える。

シュ!

「うおりゃあ!」

ブン!

そこからすかさず左腕をはずし、後ろに回りこんで、残っていた右腕を使い、無造作に投げ飛ばす。

ザバアアアアアアアアアッッ!!

すぐ近くにある湖に投げ飛ばされたロボットは、巨大な水柱とともに沈黙した。

「フーーーーー………」

崩れた姿勢を直し、水面まで近づくガオファー。あれほど動いたというのに、中の和樹は息が少しも乱れていない。

前回乗ったときは常に全神経を集中しなければならなかった。しかし今は違う。集中しているのは同じだが、全身から力が抜け出ていくような感じとは違う。疲 れもまったく感じない。

むしろ………

(力が……溢れてくる…………なんでも、できる気がする…)

力が抜けるどころか、このロボットは、いま時分が操っている機体は何処までも力を与えてくれた。

そればかりではない。初めて乗ったときには無かった事がもう一つ。

ガオファーは戦い方を教えてくれる。

自分が何をすればいいのか、どうやって敵の攻撃をかわし、いかに動けば敵に効率的にダメージを与えられるか、それがはっきりと伝わってくる。

その状況に、和樹は少しばかり困惑していたが今はそんな暇はない。やがて起き上がってきたロボットに、すぐ目の前の敵に視線を集中する。

(何でも、何でもできる!)

『グウウウウゥゥゥ・・・・・・・・・ウオオオオ オオオオアアア!!!』

耳を劈くほどの方向にも、和樹はひるまない。

「いくぞおおおお!」












ここは、宇宙開発公団の本社ビル

式森雷王は、澟と玖里子と連れてここに到着するや否や、すぐさま地下の一室に向かった。

途中かなりの過程をたどったものの、それほど時間を掛けずにたどり着いた。

「一体何処へ行くのです?」

澟の質問はこれで十五回目になる。それでも雷王の答えは

「行けばわかる。とりあえずついてきてくれ」

これだけである。

やがて、一つのドアに到達する。
扉はオートになっているのか、勝手に開いたが……



「「!!」」

そこには、彼女達の予想に無かった光景が会った。見たことも無い機械がずらりと並び、パソコンの前には、二人、いや三人ほど座っている。真正面には巨大な 土台が二台並べられている。そしてすぐ近くの椅子に座っている人物の存在も、彼女たちを驚愕させる材料となった。



「あ……紅尉先生!」

「如何してここに……?!」

名を呼ばれた保健室の主の方はというと、この事態を予想していたためか深いため息を付くだけで驚きはしなかった。

「つれてきたんだね、長官」

「ああ、ここの方がよっぽど安全だからな」

「ちょっ、ちょっとまってよ、ちゃんと説明してくれない!」

玖里子の言った事は、そのまま澟の言いたいことでもあった。さっきから、まったくもってちんぷんかんぷんである。いくらなんでも限界だった。

「すまないが、今は緊急事態だ。取り合えずこれを見てくれよ。 ―――初野!」

「はい!」

初野と呼ばれた、赤い髪の―――声のトーンから女性だろうが―――くるりとこちらを向いた。

「スクリーン、起動してくれ」

「はい」

赤い髪を翻して、目の前の機械を手足のように動かしていく。

グゥオオオオオン

土台が鈍い音を立てて、両脇に移動した。そしてそれは巨大なスクリーンを目の前に起動させた

「これって!!」

「まずは状況整理をしよう。俺も今の事態がよくわからん。紅尉、今どっちが優勢なんだ?」

「今の時点では、式森君のほうが優勢だね」

「そうか」

「あの……やっぱりアレには、式森が?」

「聞いてなかったのか」

てっきり話していたと思った雷王だった。が、そこは紅尉が説明してくれた。

「仕方あるまい。私も、式森君には最低限のことしか話していない」

「なんでえ。そんなことか」

「だから、ちゃんと説明をしてよ!」

玖里子の言葉に、雷王は我に返ったような顔をした。

「すまん、すまん。で、確かにその通りだ。あれは、正確にはガオファーって言うんだが………………両輔、ガオファーと和樹は?」

両輔と呼ばれた、すぐ右の席に座っている老練の雰囲気を出している白衣の男はあっけらかんとした口調で答えた。

「すごいですよ。融合係数66.8% 二回目の、しかも訓練もなしにこれだけの数値をたたき出すとは………。おまけに前回の融合係数は35% に過ぎな かった、ときたもんです」

これに対して、紅尉も相槌を打った。

「うむ、流石というべきか………やはりというべきか……」

「どっちにしろ、この調子だったら、後はマジックブリゲートが応援に来るまで持ちこたえられればいいな!」

最後に雷王が大声を上げて締めた。ちなみにマジックブリゲートとは、自衛隊の中でも最強を誇る魔法部隊である。

「澟ちゃんと玖里子ちゃんには、これが終わったらゆっくりと話すさ……」

叫ぼうとして、二人ははっとなり思いとどまった。



雷王が冷や汗を流している。



彼には二人とも始めて会ったわけだし、彼については殆どわからないが、それでも、いつでも笑っていたこの父親が、固い表情をするということがどういうこと かはわかった。

「さてと………マジックブリゲートの到着まで何分だ?」

「先ほど埼玉の入間基地からの出発を確認。到着まで、後30分!」

「わかった」

初野の答えを受けて雷王は又も……Gパークで見せたような、苦虫を噛み潰したような表情になった。

「気張れよ………和樹!」

それは、一人も危機はしなかったが、一人の父親の紛れもない、息子の無事を願う声であった。








「おおオオオオオオ!!!」

ブォォ!!

和樹が一気にガオファーのブースターを噴射させた。勢いそのままに中へ舞い上がる。

ブォォ!!

ガオファーは変形してしまった以上、空をとぶことは出来ない。だがその代わり運動能力は格段にアップする。

瞬く間に、ガオファーは巨大ロボットとの距離を詰める。

「はあっ!!」

どてっ腹に強烈な拳の一撃を食らわせ、すぐさま着地と同時に右回し蹴り。

ドゴォ!


『ぐう!!』

しかし相手も黙ってやられる訳はない。

両腕をハンマーのように組み、勢いそのままに振り下ろす。
だがそんな一撃を甘んじて受け入れるほど、和樹とガオファーは甘くはなかった。


ブオオオオオオオオオオオォォッッ!




(よし、ここだ!)

「ファントム・カモフラージュ………」



巨大な水しぶきが上がったとき、和樹はそこから姿を消していた。
この間の会場での戦いで見せた、姿を消す技術―――ファントム・カモフラージュである。




「ようし! ナイスだ!」

この様子を眺めていた雷王は、一人感嘆していた。その固い表情も少し和らいだようである。

「また……消えた」

「一体どうやって……」

彼女たちの疑問には養護教諭が答えてくれた。

「ファントム・カモフラージュだ」

それに、両輔と呼ばれた白衣の老人が続ける。


「光学迷彩によって周囲の風景と同調・隠蔽することによってその姿を隠すことの出来る機体隠蔽装備ですよ。また、これは熱源探知や赤外線も通さないため、 レーダーにも映らない。ガオファーのような装甲の薄い機体にはまさにうってつけの武器ですよ」

二人はただ呆然とするしかなかった。

魔法社会とは別にこんな世界があったことなぞ、誰が想像できようか。
否、できるはずがないのである。
これは魔法社会の弱点でもあるのだが、古来より人々は魔法に頼ってきたのである。もちろん魔法回数の消費という点から、機械が導入されることにはなり、魔 法はサポート 役的な役割を担うこととなった。しかし、いくらサポートといっていっても、魔法の補助がつく以上………科学より魔法のほうが汎用性が高く優 れている以上、どうしても魔法に頼ってしまう。

つまりそれは、人々の目が魔法に多く傾くということである。ゆえに科学の発達は遅れてしまったわけだ。

神城家のような、古い様式にこだわる一族ならばなおの事である。

それが、いきなりこんなロボットが出てきている。挙句の果てには姿まで消す。こんなスーパーテクノロジーの数々を見せられたのである。二人が舌を巻くばか りなのは当然だった。

「まあ……凱の奴は余り使わなかったがなあ」

「ガイ!?」

その名前を聞いて玖里子ははっとなった。

ガイ………どこかで聞いた名だ
何処で………あったことがあるわけじゃない、アレは、そう……誰かが教えてくれたものだ………



「おし……いけ和樹!」


和樹の名が出たので、玖里子はいったん考えるのを止め、スクリーンに集中した。






(もらった!)

後ろからガオファーが出現する。そして、それは敵に対し、悪魔の爪をふりかざりし、貫く………………………





はずだった………………





バッシイイイイイイイイイイッッッッ!!!




「なっ!?」

ガオファーの拳と巨大ロボットの背中の間に薄い膜が出現していた。
膜と表現したがとてもそんな生易しいものでは到底いない。一種の電磁バリアのようだった。

カシュ……

「え?」

巨大ロボットの背中がおもむろに開いた。中には何本ものイボ状の物が並んでいる。

和樹がそれの正体に気付いたときには、遅すぎた。

「ミ、ミサイ………」


ドシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ!!


「うあああああああ!!!」


ボゴゴゴゴゴゴ!!


自分が受けた衝撃が何かを自覚する間もなくガオファーの機体はその場に自由落下した。





「和樹!」

「式森!」

自由落下する様を直に見せ付けられ、少女二人はたまらず悲鳴を上げる。

「ファントムガオー、胸部ユニット損壊! エネルギーレベル62%までダウン!!」

「どうゆう事だ!」

「ゾンダー・バリアシステムです!」

「オイオイ聞いてねえぞ! 船では使わなかったんだろ! 何でいまさら………」

「いや……」

全員がいっせいに紅尉を凝視した。さすがの彼も顔を雲らせている。

「おそらく、人間体での戦闘時に、式森君から受けた傷のせいだろう」

「そういえば……」

「玖里子さん?」

「あのロボットの胸の辺り………切り傷、かしら? 和樹が船であのバケモノに付けたのに似てるわ」

「やはり………その傷のせいで、今までゾンダー・バリアは使えなかったのだろう。そしてその修復が、今終わった」


そうこうしている内に巨大ロボットは、ガオファーの首を左腕で掴みあげた。そして残った右腕を腹に突き上げる。
そうすると今度は背中の観覧車の部分が回転し始めた。段々と回転速度が増しているのがわかる。

「高エネルギー反応! ロボットの右腕です!」

「なに!」


ズシュウウウウウウウウウウウ ウゥゥゥゥ………!!!!!



右腕から出現した光線はあっという間にガオファーを湖の向こうへ押し返してしまった。

「ガオファー、発熱制御システムに異常! ファントム・カモフラージュ・システム、大破しました! エネルギーレベル32%!!」

「暖房装置をかき集めて作った、荷電粒子砲です!」

「この場合は家 電粒子砲というべきか………」

「「「紅尉!」先生!!!」」

玖里子と澟、それに雷王から悲鳴が上がった。この場にいるほぼ全員の心情を表しているといっても過言ではあるまい。

「下らんダジャレを言ってる場合か! どうすんだ! マジックブリゲートが来るまでもたないぞ!」

「わかっている………しかし、式森君が自分の意思でこちらにシグナルを送らない限り、『承認』は出来んのだ!」

「「『承認?』」」

また知らない単語が飛び出したため、二人はまたもや首をかしげた。今日ナン解雇の行動を行ったかわからない。

「そうだ………せめて、こちらから彼に連絡が取れれば…」

「初野!」

「駄目です! 先ほどの攻撃で、通信出力が0.23%までダウンしています! 交信は不可能です!」

「畜生………」







そのとき、式森和樹は暗闇の中にいた。

どうも意識がはっきりしない………

ミサイルかな………それともさっきのビーム?

どっちにしろ………いけない! 早く立たないと!


しかし、彼は今奇妙な感覚に襲われていた。

体の感覚がない

五体はおろか、そこから指や腹にいたるまで、全ての感覚が消えたのである。

(な…………なんだこれ、怖い! いやだあ!)

今まで体験したことの無い感覚。幽霊であったときでさえ、自分という存在は確認できたのだ。それが今まさに消えている。

先ほど記述したとおり文字道理、彼は『襲われて』いた。

(助けて……誰か助けて!)

『………き』

(いやだ………こんなのヤダ!! 誰か………)

『………ずき』

(助けてよ………父さん!)

『和樹!』








…………え?

『目を覚ませ………このままじゃ死ぬぞ』

(誰………?)



それは、自分の中に、頭に直接響いてきた。

どんな念話よりはっきりと、清々しく………心の中に、届いてきた。



『お前が死んだら………みんなが泣くぞ………立つんだ和樹!』

でも………力が入んないんだ……………感覚がないんだよ!

『大丈夫だ・・・・・・・・・俺が側についてる』

(!?)

なんだ、これ?

これは…………光!?

それは、今まで見たどの光よりも、はっきりと映り、猛々しく燃え広がり、美しく、雅やかに見えた

『俺はいつでも、和樹の側にいる。俺がお前を護る! だから………』





それが和樹の全身を包んだとき…………



(ああ、そっか……)



和樹には全てが伝わった。



自分がさっき、助けを求めた人

誰よりも………何よりも側にいてほしいと思った人

それは、この人だったんだ………


和樹に感覚が戻ってきた。それも、今までよりももっと強い。

魔法で雪を降らせたときより、
魔力が暴走する時より、
船でみんなを助けたときより…………怪我など、少しの傷など一気に押し返すことの出来る。熱い、狂おしいほどまでの力。その力が、全身に溢れていた。


『さあ……立ち上がれ…………』

(うん!)


もう、恐怖は無い

そこに在るのは、愛する人達への、揺ぎ無い信念

自分がそこにあることへの、自分の生に対する希望

そして………






「ありがとう…………父さん」

自分の父からもらった・・・・・・・・・譲り受けた・・・・・・・・・・・・勇気!




巨大ロボットはゆっくりゆっくりと、和樹との距離を縮めていた。

今の彼に感情があるかどうかは定かではないが、もしあるとするならば、それはm布も無く『優越感』と呼ばれるものだっただろう。

それほど、この『人形』に対する憎しみは深かった。

そのまま腕の砲身を向ける。後はエネルギーを満タンまでためるだけだ。

60%、70、80、90………

そこから発射して、これは完全に灰の塊になる……




ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!



はずだった……

「オオオオオオオオオオオオ!!!!」

ブオオオオオオオ!!!



ガオファーが突然背中のブースターを噴射した、そしてその勢いで反転、あっという間に距離を詰めロボットに渾身の頭突きを食らわせた。

『ぐオオオおおオオオ!!!』






「和樹!」

雷王だけではない、全員が歓声を上げた。

「ガオファー、エネルギーレベル89.4%まで回復しました。機体の発熱も収まっています!」

しかも奇跡は、それだけでは終わらない。

「これは………長官!」

初野が声を荒げて一心に雷王たちを見上げる。その顔は歓喜に満ちていた。

「どうした?」

「ガオファーから、『ファイナルフュージョン要請シグナル』が出ています!」

「馬鹿な! 彼はそのことを知らないはずだ!」

紅尉は明らかに困惑していた。それも当然だ。彼には最低限の事しか教えていないはずなのに………

「なんでもいいさ! 初野、ガオーマシンを出してくれ!!」

「はい!」

「しかし、不確定要素が多すぎます! 成功確立は、限りなく0%に近いですぞ!」

「ふっ………」

すっと笑うと、彼は拳を握り締めていた。もう彼の目には勝利しか見えていない

「皆、18年前………大河長官がなんていったか、教えてやるよ………」


彼はずいっと身を乗り出し、そのまま叫んだ。

「成功率なんてのは単なる目安だ! 後は勇気で補 えばいい!!」


そして勇気の腕を、彼は振り下ろす!

「初野!」

「はい!」



「ファイナルフュージョン、承、認!!!!!」




「了解!」

初野は近くのコンピューターを数秒間いじくった後、そこに現われたガラスに覆われるスイッチに目をやる。



「ファイナルフュージョン、プログラム・ド ラァァァァァイブ!!」

ガシャン! ピピピピピピピピピピ………





「よっしゃああああああ!!!!」



瞬間、彼の周りに黒い影が現われた

それは彼を取り巻き、彼を守る鎧となる。



「ファイナル・フューーーージョォオオオオオ ン!!!」






次の瞬間…彼は、輝く翠緑の竜巻の中にいた………








あとがき


君たちに、最新情報を公開しよう!
ついに戦いが終わる。だが、それは新たなる戦いの序章でしかなかった………
戸惑う少年少女たちに告げられる、衝撃の事実! そしてその裏では、ついに賢人会議が動き出す!

まぶらほ〜獅子の名を継ぐもの〜,NEXT『滅びを呼ぶ鎮魂歌』

次回も、この小説にファイナルフュージョン承認!
これが勝利の鍵だ! 『ヘル・アンド・ヘヴン』




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