それは、勇気の完全なる姿


ガシャン!



「ドリルガオー、接続!」



それは勇気の証


ギュオオオオッ!!



「ライナーガオー、進入角OK!」



我々が、たどり着いた、答え


ブオオオオオオッ!



「ステルスガオー、ドッキング完了!」



あらゆる脅威から、人類を守るため新生した、ファイティングメカノイド!


「はあああああああ!」

その名は、

勇者王…………





「ガオ! ファイ! ガー!」




そして………霧は今こそ晴れる……………

「ファイナルフュージョン、完了!」





第十九話 『滅び呼ぶ鎮魂歌』








「よっしゃあ!」

「シンクロ率75パーセント、ウルテクエンジン正常に作動中」

「信じられん………」

全身で喜びを表すもの、忠実に職務を全うしているもの、あっけに問われるものなど、思いは様々だ。

だがそれは、目の前の状況をきちんと理解していることが前提である。
金髪の長官の傍らにいる少女二人は、もはや言葉を失ってしまった。背の高い方は、顔が真っ白に青ざめ今にも卒倒しそうだし、黒髪の剣豪少女は全身の震えが 止まらない。

それほどまでに、彼女たちを打ちのめした衝撃は大きかった。

今スクリーン越しに立っているのは『がおふぁー』と呼ばれていた物とは完全に別次元の存在へと変貌していた。

胸部のわずかな部分を除き全てが漆黒の鎧に身を包み、膝ではそれぞれドリルがせわしなく回転している。背中にはステルス戦闘機、肩にはスペースロケットと 敵と比べても遜色ないほど奇妙だ。が、相手に与える威圧感はWIZ−01の比ではない。顔につけたマスク、そこから発し続ける力はすさまじいものだ

もう何が何だかわからない。和樹が今まで持ち出してきた非常識の中でもこれは最大級だ。



そんな彼女たちが今できることといえば・・・・・・・・・少しでも正気を保つことであった。

紅尉は今ある状況について、数秒間唸った後、すっと立ち上がった。

「さて………私が現場に言ってくるよ」

「わかった。近くに夕菜ちゃんもいるはずだからな」

「わかっている」

「あの子の方は?」

「大丈夫だ。彼女の場合はきちんと訓練を積ませている。私は君たち親子のような無茶はやりたくないからね」

「あっそ」

雷王の答えもこれまた素っ気無い。

「ああそれと、現時刻を持って、あの巨大ロボットをWIZ−01(ウィーズ・ゼロワン)と認定・呼称するからな。記録しといて」



そして玖里子と澟はまたあることに疑問がいった。

『彼女』とは何か?
二人はそれを感覚的に、確証はないがそれでも、その人物が知り合いだということを第六感でわかった。

紅尉は近くの通信機を手に取った。

「用意はいいかね?」

「にゃー、いつでもいよ〜」

その声を聞いたとき、二人は完全に凍りついた。





巨大ロボット―――WIZ−01と名付けられたロボットは玖里子や澟と同じぐらい驚愕を隠せなかった。そしてそれと同じぐらい、彼の身体はある感情でよっ て支配されている。

恐怖という名の鎖が全身を、人間にたとえるならばつま先から髪の毛一本一本にいたるまでを、縛り付けていた。

今こそわかる。あれは悪魔だ。滅びを呼ぶ………悪魔

自分とあれは相反するもの。
絶対に自分を破壊する。どんなにあがこうがもがこうが許しを請おうが容赦しない。絶対に。



そしてこれの頭の中には、再び言いようのない憎しみがこみ上げてきた。
あの子供は、いくら自分をおとしめれば………どれだけ自分の顔を踏み潰せば気が済むのか

そしてもう一つ、反対の、待った別方向に働いていく憎しみがあった。自分に対する怒りである。

自分に対するもの………圧倒的なパワーを身に付けてもらいながらこの落差は何だ! 俺は最強じゃなかったのか?! 俺は弱いのか? いや違う……俺は強 い! 俺は、俺は………



(俺は最強だ!!!!!!)

 

 『ゾーーーーーン ダーーーーー!!!』


WIZ−01がガオファイガーに襲い掛かる。自分の恐怖を憎しみで塗り替え、新た闘争心とする。皮肉なことに、それもまたWIZ−01にパワーを与える源 だった。

両腕を思い切り振り上げ、そのまま勢いよく叩き下ろす。

「ぬあぁ!!」

和樹はこれを同じく両腕で押さえつける。地面がその重さに耐え切れるはずもない。

たちまち亀裂が走り、悲鳴を上げる。

「くう………」

必死に押さえている和樹の前に、何かが飛んできた。

(殺す!)

(え?)

(てめえとの腐れ縁、ここで終りにしてやる!)

そうか………そこまで
そこまで僕が憎いんだ……………

(そいつは………)

メキメキメキ………



(な! 何だと!!)


「そいつは、ありがたいね!!!!」

 
バキャア!

WIZ−01の右腕が、鈍い音を立てて、豪快に壊れた。ガオファイガーはその勢いでまたもや湖面までふっ飛ばす。
しかも今度は力任せに、無造作に、である。

『ギャアアアアッ!』

(僕も、僕もあなたを許さない! 返り討ちにしてやる!)

それは明らかに今までの彼ではない。もうへっぴり腰だった彼はもういない。
あるのは、ただ一心に、皆を守ろうとするもの、勇者だけだ。



しかし投げ飛ばしたぐらいで、WIZ−01の闘争本能が収まるはずが無い。

すぐさま起き上がると、右腕を展開し、背中の観覧車を回転させる。
先ほど浴びせかけた光線である。

『ゾオオオオオンダアア!!』

ズシュウウウウウウウ!!!!!




「和樹!」 「式森!」


「プロテクト・ウォール!」


和樹の掛け声で、ガオファイガーが左腕を突き出す。
そして胸部中央から発生した粒子状のリングがその手のひらに巻きついて回転する。


シュパアアアアアアアアアッッッ!!!


荷電粒子砲はたちまち光の渦となって、相手に押し返された。そしてそのまま、今度はその牙をWIZ−01に向ける。

ドオオオオオオン!!


しかし敵もさるものである、すぐさまバリアを展開した。


「バリアシステム、破壊率0%。まったくの無傷です!」

「でええい! 何やっとる和樹! 根性見せろ!」


その声援が(こんなものが声援と呼べるかは別として)届いたのか、和樹のシンクロ率は又も上昇した。


「まだまだぁ!」

胸部中央から再びリングが現われ、今度は右腕に巻きついた。


「ブロウクン……」


ギュオン ギュオン ギュオンギュオンギュオン!!

そして肘から下にかけて、ゆっくりと、紅に染まりながら回転していく。



「ファン トーーーーム!」

突き出した右腕は勢いを殺すことなくそのままWIZ−01に向かって突っ込んでいく。


ビシイィィィィィ!!



再びバリアを展開したが今回はそう簡単には防げなかった。いやむしろ………防ぎきれない。

少しずつ、少しずつ、敵の結界を侵食していく。

「バリア破壊率、20%、25、35……50%!」

「ようし………いっ けえええ! 粉砕だ!


メコメコメコ………………バキャア!


和樹の放った一撃が、WIZ−01を捕らえた。巨大ロボットは、どてっ腹に大穴が開いたまま力なしにぐったりと沈み込む。







右腕はゆっくりと回転運動を止めつつ、しっかりと接続される。

「どうだ!」

『グ……グウゥゥゥ…………!!』

「な、なに!?」

WIZ−01は傷があることなど感じさせない様子でむくり、と起き上がった。
しかもそれだけではない。


ジュルジュルジュルジュルジュル


傷が………大穴がみるみる内に塞がっていった。沢山の回路が身体を覆い、真新しい金属板で皮膚を構成する。

あっという間に、WIZ−01のボディは新品同様になってしまった。




「だめです! 十秒以内に再生してしまいます!」

「そんな………」

「再生能力なんて………」

今度の二人は驚愕ではなくショックだった。

この際何が起こっているかは置いておいて(それこそ、1万m上空のスペースシャトルの先端において)今ある状況を整理するならば、どんな攻撃も届かない。 どうにかして届いたとしても、再生してしまうならばあれを倒せる手段はないということだ。

「あわてるなみんな」

「その通りです」

雷王と両輔が断言する。心配している様子などは微塵も無い。

「確かに、あの再生能力は脅威です。ちょっとやそっとのダメージなら瞬時に再生します」

「だったら、それ以上のダメージを与えればいい!」



「よし………それなら!!」



「ヘル・アンド・ヘヴン!!」





瞬間、ガオファイガーの両腕に膨大な『何か』が発生した。右腕には螺旋状の、左腕には波紋状のものだ。どんな種類の、どんな物かも分らない。しかしその量 が途轍もないものだという事はわかる。


「ゲム・ギル・ ガン・ゴー・グフォ……」


両腕をあわせる。途中反発が激しかったが無視してそのままに押し切った。


ギュオオォォォッッ!

 

 

「はああああああっっ!!」



瞬間、ガオファイガーの周囲に巨大な竜巻が発生した。先ほどガオファーが合体するときに発生したのと同じの、翠緑の光だ。
しかし今度はガオファイガーを覆わない。竜巻は、発生した勢いそのままにWIZ−01に突っ込んでいった。

たちまちそれは、その巨体さえ縛り上げる、戒めの鎖となる。

もう二体の間に障害物は何も無い。建物の類は全て吹っ飛んでしまっている。
そしてガオファイガーの背中のブースター、それがこれまでに無い勢いで咆哮を上げた。そして、それはあっという間に距離を詰め………


「オオオオオオッッ! だりゃあ!!」

 
グシャ ア!………









竜巻が晴れたとき、玖里子と澟が見たもの………

それは、ガオファイガーに両腕を突っ込まれ、辛うじて原形を残して、ようやく立っているWIZ−01の姿だった。

「うそ………」

「一体、何が………」



そして巨人は、無残にもその両腕を……………


「ハアアアアアアア………せいっ!」


絡みついた回路が、残っているであろうその刃を引き抜いた。

ズゴオオオオオオオンッッ!


それが合図だったのだろう。WIZ−01は、超新星爆発さながらの勢いで木っ端微塵になるまで爆破炎上した。
それは、今までの罪が、一気に清算されるよう―――罪を断罪されるようだった。












「WIZ−01、エネルギーレベル・ゼロ。完全に沈黙しました」

初野の声が一気に、その場にいた全員に安堵をもたらした。

「よし、後は後始末だな」

「「後始末?」」

「そうだ、ガオファイガーが手に何か持っているだろ。アレが敵の核(コア)だ」

そう言われて見てみると、確かに何かが乗っかっている。

それは紫色のごつごつした球体だった。所々に回路が覗いているが、これはさっき引き千切った時に出来たものだろう。直径は3メートルあるか、ないかぐらい だろうか。特に危険な印象は受けないが、あの不気味な、なんともいえない不快感だけは依然として残っている。

それが証拠に、今でも時々発光して入るのがわかった。

「アレを元に戻すのが、あの子の………栗丘舞穂ちゃんの仕事さ」






和樹はその核を最初、壊そうとした。
いつまた暴れだすかわから無い。反撃の目は出さないに越したことはなかったし、いくら心優しい彼でも、我慢の限界というものがある。

どうしても、許したくはなかった。

「くああああああああっっ!」

ガオファイガーの右腕に力がこもる。和樹の意思を読み取り、正確にトレースする。一片の誤りもなかった。

ビキッ!

球体に亀裂が走る。

一瞬、罪悪感のようなものが浮かんだが、すぐにかき消した。こいつは悪だ、そうだ、許しちゃいけないんだ。そうやって自分に言い聞かす。

一気にそのまま握り潰そうとしたその時、



「待っ てーーーーーッ!!」

その一瞬、ガオファイガーの力が緩んだのはまさに奇跡といっていいだろう。

「それを壊しちゃ駄目!」


思わず和樹は声のあった先を見た。空からこんな状況で何をしに来たか、というのが一つ。もう一つは、聞き覚えのある声だったからだ。

そして、そこからとんできたのは、朱色に輝く栗丘舞穂の姿だった。

「ま、舞穂ちゃん! どうして!?」

和樹も驚きを隠せない。自分が最大級の謎の塊であることなど、とうに忘れている。

「ちょっと 待っててね…………すぐに元に戻すから…」

そういと彼女はその球体に近づき、おもむろに右手を上げた。







そして、彼女は言葉を紡ぐ―――――


「テンペルム………ムンドゥース・インフィニ・ トゥーム………レディーレ!」

ブウゥゥゥゥゥゥゥンッッ!


舞穂から発せられた紅の光の帯が届いた瞬間、核は大きさを縮め、紫色だったその色は失われていった。まるで、憎しみの連鎖が解きほぐされていくようだ。

ガオファイガーの掌の球体はその形状を少しずつ変えていった。
そして………その変化の行き着く先は………


「あれ………」

「人間………!?」

そこに現われたのは、紛れも無い、人間の姿だった。

「照合、頼む」

「はい」

「両輔、紅尉と協力してガオファイガーの整備を。和樹のヤツ、今頃ぶっ倒れてるだろうからな」

「了解です」

「ヨロシクな。俺は、この子達に話さなきゃいけない」

一呼吸置いて、雷王は彼女たちの方を見た。

「真実を、な………」














「アステリのゾンダーは大破、浄解されたようだな」


紫紺の部屋の中、銀の鎧が光る


「やっぱり、あの程度じゃ当て馬にもならないわね」


紅のスカートがひらりとなびく


「ケド、その当て馬にも手こずるなんて………式森和樹ってのも思ったほどじゃなかったね」


黒いフードの奥底で、暗黒の瞳がおぞましく蠢く


「いやぁ………私の予想では、彼は伸びますねえ。あの分だと、我等の脅威となるのもそう遠くはないはずですねえ」


「何だ・・・・・・・・・恐れをなしたのか? ギムレット」

「私は慎重派なのですヨォ。何処ぞの騎士様のように、むやみやたらに突っ込んだりはしませんねえ」

「なに!」

「おやおや、お気に触りましたかな? 私の言う事をそのカチコチの頭で理解できるとは………いやはや、以外や以外…」

「貴様、私を侮辱するか!」

言葉と同時にガンベルクからは、えもいわれぬ殺気が全身から吹き出した。もちろんギムレットもそれに気付かぬほど馬鹿ではない。すぐさま、受身の姿勢を取 れる準備をする。

残りの二人―――アヌレットとベイオルはこの様子を黙認していた。こんなになってしまうと、もう自分たちには止めようが無い。第一、こんな騒動は一度や二 度ではないのだ。どうせ、また三十分も続ければ目を覚ますだろう。



しかしこの日はいつもと様子が違った。

最初に気付いたのはベイオルだった。彼はこの四人の中では一番探知能力が高い。

「二人とも………そこまでだよ」

「なんだと!………うっ!」

「この気配は………」

「なるほど、よかったわね。乱闘になる前で」

彼は、仲間内での争いごとが大嫌いだった。『何のための仲間か!』と、容赦なく激怒した。どちらに非が在るかに関わらず、だ。


少しずつ彼らとの距離を詰めてくる。


ガンベルトはこの時間がもっとも嫌いだった。無論彼に対しての忠誠の気持ちには揺らがない。しかし、それでも『恐怖』を感じずにはいられないのだ。事実、 ガンベルクの腕は先ほどから震えが止まらない。

(俺は………最低だ……くそ!)

彼を信じている気持ちは人一倍強い。だからこそ、彼を恐れてしまう自分に嫌気が差していた。



「ど うしたの?………ガンベルク」



彼ははっとなった。馬鹿な、彼がここに来るまで少なく見積もっても五秒は………


「僕はここにいるよ………ガンベルク」


それには、ガンベルクだけではなく、ほかの三人も血の気が引いた。
ガンベルクの頬にゆっくりと、掌が添えられていった。

「あ………主…!」


「あ! もしかして、僕が驚かせてしまったの!?」


「い、いえそのような事は!」


「そう………よかった」


心からほっとした様子だった………。

頬からゆっくりと手を離す。
背丈や体つきから言えば、明らかにガンベルクのほうが上なのに………なぜか、感じる強烈な存在感。

あるいは、それゆえの安心感が常に自分たちには、与えられる。それが、賢人会議の者たちにとって何よりの恩恵だった。


「あの子の……式森和樹を見ててね、やっぱり思ったよ。『あの人』の子どもだってね」

「それは………喜ぶべきことでしょうか?」

アヌレットの疑問にも、彼は笑って答えてくれた。

「うん、とても嬉しいよ。全てが終わったら………あの子に色々話してあげたい」

すっと、彼は漆黒の闇を見上げる。ここには光は届かない。けれど今の彼の中は眩しいぐらいの光で満ちていた………



「僕に………ついてきてくれる? みんな」




今度は四人が応えなければならない。
彼の前にひざまずき、各々が誓いの言葉を彼に奉げる。


「もちろんですわ………」

「この生命………」

「貴方の為に尽くしますヨォ………」





最後にガンベルクが彼の前に進み出る。

「我々を………導いてください」



四人は………彼にのみ従い、彼のみに順ずる

四人は…………彼のために戦い、彼のために死ぬだろう

なぜなら、それが彼だから……彼が彼であり続ける限り………四人は命を賭けるだろう








「我らが、主……………天海 護………」





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