不思議なものだな………



「俺はいいんです、紅尉先生」



俗世になど、もう関わらないと………



「しかし………」 「いいんです」



ただ悠久の時を過ごそうと………



「俺はこの子に、和樹に何も出来ない。多分もう戻れないです、地球には………」



誰の中にも深く入らないと誓ったのに………



「………残せる物だって殆ど無い、せいぜい普通の生活をさせてやるぐらいなんです」



そして、その後………君はうつむいてこう言った



「最低ですね………俺は、父親失格です」

「馬鹿を言うな!」




クスッ

つい声を荒げてしまった………しかしあの時は、どうしようもなかった

誰が責められるというのだ………誰が罵ったりするものか! 君も、君だって闘う必要なんて無かっただろう! 君にだって………普通に暮らして! 普通に学 校へ行って! 恋人作って結婚して………君にも権利は在ったというのに
………



「ありがとう………ございます」




立ち直りの速さは、息子にきちんと伝わっているようだ




「わかった………隠蔽には協力するが、余り大仰なことは出来んぞ」

「十分です。育てるのは、従兄弟の雷王に任せます」








すまない……獅子王君…………

私たちは、君との約束を破る………

こんなことは君の望むところではない

しかし、生き残るには………これしかない

何より………彼自身が、『闘う』を選ぶ………







「許してくれ………獅子王君」

部屋に二人の少女がいることも忘れて・・・・・・・・・紅尉晴明は一人ひっそりと呟いた。


「紅尉先生?」


「ああすまない、宮間君」


平静を取り戻し、女の子たち………宮間夕菜と栗丘舞穂に向き直る


「さて………話そう…………式森君の正体を、ね」






第二十話    『先人達のかく語りき』(前編)









避難していた夕菜がその後どうなって、そしてどういった経緯でここにいるのか。

まずはそこから話さなきゃならない。   そうだろ?




ガオファイガーとWIZ−01の戦闘で核を抉り出したころ、宮間夕菜は上空50メートルにいた。


もちろんのんびり空のお散歩というわけでは断じてない。


なぜか行かなければならないような気がしたのだ

「和樹さん………」

(何だろう・・・・・・・・・いやな予感がする)

そしてその予想は図らずともあたっていた。









そして、ひとまずガオファイガーの方に視点を戻そう。


いきなり舞穂が現われ、そして何やら魔法らしきものを使った途端、握りつぶそうとした核が人間に、アステリに戻ったのだった。


「ま………舞穂ちゃん、一体」


如何してここに、と問おうとしたその時である。


ズキン!



「な………え?


一瞬何が起こったのかわからなかった。余りに突然だったから、その痛みが、余りに強すぎたからだ。


「な・・・・・・・・・何が・・・・・・!   うわあああああ!!!


バリバリバリバリバリッ!!



今度ははっきりと感じた、ここまで来て感じない方がおかしい。
この世のものとは思えない巨大な衝撃が突如として和樹に爪を立てた。それは、和樹にのみではない、ガオファイガーにも伝わっていった。


「ひぎいいいいいぃ・・・・・アアアアア アッッ!!!」



いくら叫び声を上げても、いくら助けを請おうとも、彼に救いの手は差し伸べられなかった。

電撃の嵐が過ぎ去ったとき、ガオファイガーはそれまでの暴れ振りが嘘のように、その場に倒れこんでしまった。それでも、手のひらの人間を落とさなかったの は、まさに執念だろう。







「和樹さん!?」


それを見ていた夕菜はすぐさま、ガオファイガーの下へ、文字道理飛んでいった。安全・危険の確認などはじめから頭に無い。ただ和樹のことだけ が・・・・・・自分の未来の夫の事だけしか考えなかった。



そして十分間ぐらい経ったころだろうか、ガオファイガーの胸部中央に、なにやら人が集まっているのが目に入った。何かがあると思いそこに降り立った。



皆、なにやら慌てた様子で叫んでいる。

「おい! 生命維持装置が動いてないぞ!」 

「手動で何とかしろ!」 

「どうやって! コックピットのハッチが空かないんだぞ! 俺達だけじゃどうにもならん!」 

「先にガオーマシンと分離させるか?」

「バカ野郎! その間に死んじまったらどうすんだ!」



夕菜は意を決してそこに駆け寄った。

途中で、「入っては駄目だ! ぎゃあ!」 と声が聞こえた様な気がしたが気にしない。自分が魔法を使ったことにも気付かないとは末恐ろしい女の子である。


「和樹さん!」

人々を押しのけ、コックピットに駆け寄った。ここが乗り込み口のはず………


ハッチの取っ手に手をかける。もともとは二十人集まっても歯が立たない。あけるならばそれこそ魔法に頼らなければならなかった。


「この中に………!」


「おい! 誰だ、子供なんて通し………


「どっせい!」

 
バキャアンッ!










「………」

「……………………」

「……………………………」

「と、と、通し…………」


その場にいた全員が凍りついた。恐怖で動けなくなったと言ったほうが正しいだろう。
何が起こったか、わかっていない物もいる。




その原因である少女は


「和樹さん!」



と叫ぶと、あっという間にコックピットの陰に隠れてしまった。





今何をやったの?

さあ?

あれ? 昨日ちゃんと寝たよ、俺

俺だって………

ていうかさあ………

なに?

俺たちって………何やってたの?

何も言うなよ………しょせんおれたちは、名も無き人A・Bなんだから



一部、状況を把握していない人たちにもようやく自体が飲み込めた。そしてそれと同時に恐怖が噴水のごとく吹き上がってきた。


そこにあるのは、突然現われ、そして消えていった少女の残した、力ずくで無理矢理にこじ開けられたコックピットのハッチだけである。





「和樹さん! 和樹さん!」

夕菜はコックピットの中に入ると思わず息を呑んだ。中では今だにバリバリと激しい電撃がお出迎えをしてくれたし、むき出しになった回路からは緑色の液体が 蠢いている。
 思わず目を背けたくなるような光景だったがそむけるわけには行かない。あの人が………和樹さんがいるんだから


ふと見ると、機械と機械の間に手が覗いている。


必死になってそれを退けると、中からでてきたのは………


「!!!???」


金色の鎧の上から、赤い鮮血に身を包んだ式森和樹だった。

「和樹さん!」



手を差し伸べようと思った途端、



ピピピピピ………ガガ………



『こ…ら………紅…だ』


メチャメチャになった機械の片隅で、まだ原形をとどめている機械がチカチカと発光している。声はそこから聞こえてきたようだった。


最初はぼそぼそとしか聞こえず、ノイズが混じっていたが、時間が経つに連れてはっきりと聞こえてきた。



『応答……くれ、式森君。式森君』

「紅尉先生!?」

『その声は、宮間君か? 如何してここに………』

「紅尉先生! 和樹さんが……和樹さんが………」

『式森君がどうした?』


本当なら夕菜がここにいる理由を問いただすところだがそうも言っていられない。彼女の様子から判断しても、今の探知機から送られてくる結果から見て も・・・・・・和樹の容態は極めて不安定だった。


「和樹さんが………額からいっぱい血が出て………!」

『落ち着きたまえ、私も今そっちに向かっている。呼吸はしているか?』


言われてそっと、口の部分に耳を当ててみる。空気の流れを確かに感じた。ヒュー、ヒュー、と微かにだが音も聞こえてくる。


「大、丈夫みたいです」

『よし、額は血が出やすいだけだから何とかなる。魔法で止血できるかね?』

「やってみます」


和樹の額に手が当てられる。兜の部分は邪魔なので取っ払ってしまった。



(和樹さん………)


止血はすぐに済んだ。夕菜の治癒能力の高さもあるが、やはり傷自体が小さかったのが大きい。


『よし、今の君の位置から見て、少し右にレバーがあるはずだ』

目線を動かす。確かにレバーがあった。

「はい」

『それを思い切り引っ張ってくれ。酸素吸入器がある。使い方は………』


紅尉の指示を受け、夕菜がそれを操作する。しかもその場所は巨大ロボットの体内だ。不思議な状況だったが、夕なの手は実にテキパキと、機械的に動いてい た。彼女の動作には一片の無駄も感じられない。

こんな状況で、普通の高校生なら取り乱しそうなものだが、人間は極限状態にあると、普段からは想像出来ないような動きをする。今の夕菜の動きは正にそれ だった。


事実、和樹の顔色は、少しではあるが血色がよくなっている。


『よし、後は近くに隊員が来ているはずだ、青い制服にオレンジのジャンパーを引っ掛けている。後は彼らがやってくれる。宮間君はその近くにいてくれ』

「でも………」

『聞いてくれ、宮間君』

今までにない真剣な口調に、夕菜は思わず震えた。

『君には、まだやってほしいことが有るんだ。そこから動かないでほしい』

「……………わかりました」




ここでようやく、呆気に取られた人たちが中に入ってきた。しかし、先ほどの夕菜の行動を見ているせいで、皆声をかけるのを躊躇っている。

しかし園はプロの維持の見せ所だ。そのうちの一人が勇気を振り絞って言った。



「あ、あ、あ、あとは我々にオ、オ、オ、任せ下さい………」


お世辞にも、職務を全うしているようには見えなかったが、彼にしてみればこれが精一杯である。むしろ彼はほめて遣わすべきだろう。それは夕菜を除く、全員 の思いだった。


「はい………頼みます」


夕なの沈痛な表情を見たためか、少しばかり緊張もほぐれたようだった。

機械的に動き、機械的に和樹を受け取る。けなしている様な言い方だが、このような救助活動でそうした動きは特に求められるものだ。その意味では、彼らは紛 れも無い専門家達だった。



コックピットから出てみると、夕菜は思わず目を丸くした。




(何これ………見たことも無い形………)



夕菜の目の前にあるのは、高さ50メートルはくだらないであろう巨大な………なんとも形容しがたいものだった。

要塞 、と言えばいいのだろうか。そのほかに言うべき言葉が見つからないのである。

普段人間と言うものは、見たことの無いものでも『これこれみたい』と、何かに例える。つまりは自分の記憶から形成される日常と結び付けようとするのだ。

しかしこれは、今迄で見たことのない形状をしているのだ、解らないのも無理は無い。形だけ見れば、飛行機の頭を取った部分に似ているが、そんなものではな い。そもそも大きさそのものが違う。



和樹はタンカに乗せられそこに運ばれていった。

誰かに聞こうとしたその時である。誰かに袖を引っ張られる感触がしたので、ふと下を見下ろすと。

「夕菜さん、如何してこんなとこにいるの?」

「ま、舞穂ちゃん!?」

またもや信じられない光景に遭遇した。検査といって朝早くに出かけたはずの栗丘舞穂がこんなところにいるのである。

「ねえ、どうして?」

「ま、舞穂ちゃんだってどうしたんです? ここは危険なんですよ!」





「その心配は無い」

ふと聞き覚えのある声がした。それも先ほどまで聞いていた声だ。

「紅尉先生!?」

「宮間君のおかげで、式森君も助かりそうだ。それに、君が一般市民の避難を率先してくれたおかげで、死者は今のところ出ていない」

「そうじゃないです! 心配ないってどういうことですか? 何で舞穂ちゃんがここにいるんです?」

「舞穂は浄解するための特別隊員なんだよ」

「浄………解?」

舞穂の口から聞いたことの無い単語が出てきた。魔法でも聞いたことが無い。

「そうだ、この場話すのもなんだ。ひとまず『水陸両用整備装甲車』に乗ってくれ」

「すいり・・・・・・何ですか?」

「『水陸両用整備装甲車』だ。急ごう、そろそろ基地に向かって出発する」






こうして言われるがままに紅尉に付いていくことになった夕菜。乗り込むその先で、その「すいりくりょうようせいびそうこうしゃ」の先端についている巨大な クレーンが、あの黒いロボットをむんずとワシ掴みにしているのを見て思わず息を呑んだ。

これは、この乗り物が動き出すときにも感じたことだが、こんなに大きな乗り物がどうやって動いているのかは大きな疑問だった。あのクレーンだけで、たぶん 普段私が見ているクレーン車の3倍ぐらいはあるかも………








どうしても、先ほどから難しい顔をしている隣の養護教諭の説明が必要だった。



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