「碇………GGGが本格的に活動を開始したようだ」

「問題ない。すべて予定通りに進行している。所詮、パイロットはまだ十七歳。案ずることは無い」

「君の息子………サー ドチルドレンとも、年が近い筈だがね?」

「………」

「いずれにしろ、油断は禁物だぞ。何しろGGGには、奴らがいる」

「紅尉晴明、そして式森雷王………」

「そうだ、特に紅尉晴明は要注意だ。場合によってはBF団やザフトの連中よりもはるかに厄介だぞ」

「ああ、奴の前にはネルフはおろか、ゼーレの名すら霞んでしまう」

「とにかく………彼らだけには感づかれないようにしなければならないぞ。シナリオも修正の必要があるかも知れんな」

「解っている………わかっているさ、冬月」
















「ガオファイガー………GGGの切り札とも言うべき人型兵器。エヴォリュダーによって成される、地球防衛の要………か」

「今の内につぶして置くべきかも知れんな」

「ふん。何だこいつは………これがパイロット? こんなガキが」

「十七歳と言う話ですが………」

「くだらん! 我ら十傑衆が手を下すまでもない!」

「ふふ、十二歳の子供に出し抜かれたのは……何処のどなただったかな?」

「何だと貴様!」

「止さんか! アルベルト! ヒィッツカラルド!」

「………」

「………」

「とりあえず、GGGは泳がせておく。賢人会議に余計な労力を費やさずに済む」

「そうだな………爺の言うとおり、まずやるべきは………ジャイアントロボの奪還 だ!」
















「式森和樹………十七歳。平凡な家庭に生まれ、ごくごく普通の生活を送る。だがその家系に優秀な先祖を数多く持ち、その潜在能力は天文学的数値を誇る。父 親は、あのゾンダーを壊滅させたGGG機動部隊隊長、『獅子王凱』か………」

「隊長?」

「アスランか……………何、単なる独り言だよ」

「は、はい………」

「それより、奪取した四機の『G』はどうなっている?」

「はっ! 四機とも正常に稼動中です。問題はありません」

「そうか……しかし『ストライク』一機のみが、 というのはいかんな………」

「申し訳ありません………達成を目前にしながら、任務を…」

「そのことはもういい。ただ、偶然の量が少しばかり多かった。それだけだ……」

「………」

「ある哲学者によれば………」

「え?」

「人の一生の中で、良い事が起こる量と、悪い事が起こる量は一定なのだそうだ。そしてこれはどの人々に対しても平等だ。この世の中の人々に、魔法の回数が あるようにね………」

「はあ………」

「悪いことが起これば、次には必ず良いことが来る、ということなのだよ。アスラン」

「それは………」

「フフッ………そういうことだ……………」






(これで役者はそろったな……………キラ・ヤマト、そして………式森和樹


















第二十五話      ファースト・ミッション(前 編)












「夕菜〜〜〜」

「あ、松田さん」

学校の帰り、宮間夕菜は、クラスメイトである松田和美に声をかけられていた。

「今からカラオケでも行かない? このあいだタダ券手に入ったのよ」

「あ………ごめんなさい。これからちょっと、行く所があって」

「行く所?」

「はい……ごめんなさい」

「ま、良いけどね……夕菜も式森君なんて放っておいて、さっさといい男見つけなさいよ」

「はあ………」

誘いを断る理由が、和樹にあるとこの女の子は見抜いているのである。

密かに感心するとともに、少し恐怖を覚える夕菜だった。










場所を少し変えて、ここは葵学園の生徒会室

「三時からは前会長との会食。その後は第二高校理事との会合、そして……」

今その椅子に座っているのは、言わずもがなの、風椿玖里子である。

「どっちもパスよ」

「は?」

玖里子は本来、生徒会の役員ではない。しかし、あらゆる人脈と持ち前の策士の頭脳を駆使し、影の実力者として君臨しているのである。

「会食も、会合もキャンセル。今日は大事な予定があるの」

「は…いや、しかし……」

「じゃ、そういうことだから」

玖里子の下で、半分秘書のように働いているこの男は、金髪美女のいきなりの発言に何をどう返事すればいいのかわからない。

言うならば『それはやめたほうがいい』と大きな声を出したいのだができない、と言うのが正確である。

「玖、玖里子さま………」

「じゃあね〜〜〜〜〜」

なおも食い下がろうとする男を尻目に、玖里子は柄にも無く、こそこそと出て行くのだった。









「え………?」

「で、ですかすら…その………今日は部活休んでも構わないでしょうか? 大事な用事があるのです」

「どうかしたの? 珍しいわね。凜、何時もは休まず出てるのに………具合でも悪いの?」

「い、いえそうではなく…」

神城凜が話しているのは、生物部の部長。

「???」

つい三ヶ月ほど前に、前部長が転校し、その後釜として据えられた三年の女の先輩である。特に綺麗というわけではないが、面倒見がよく、仕事も丁寧で、他の 部員からの信頼も厚い。

部長はいくらか首をかしげた後、はっとなった顔した。

「わかったわ! 凜、あなたもとうとう彼氏ができたのね!」

今度は凜がひっくり返る番だった。

「ち、ち、違います!」

「隠さない、隠さない。そっか〜〜〜〜そういうことなら良いわ。他の人には私から上手く言っておくから」

「そ……そうでは無くて……」

凜の弁明もこの部長には聞こえていないようだった。

「でも、どんな人か今度教えてね! 絶対よ!」

本当のことを話すわけにもいかず、凜は何とも言えぬ表情で、生物室を後にした………













ピッピッピッ ピッピッピッピ



ここは宇宙開発公団本社ビル。通称Gシティー。

『声紋を確認いたします』

あらゆる設備が調い、生活用品なども販売しており、その様はまるで一つの都市である。と、いうことから来ている。

日本の宇宙開発の技術の粋が、ここには集められているのである。

『あなたの氏名・年齢・所属・職員番号を、明瞭に述べてください』

基本的にはどんな人でも、一階のフロア、休憩所などは職員でなくとも立ち入りは自由なのである。

そしてここに………エレベーターの前に立つ一人の少女があった。


「栗丘舞穂、十三歳。所属と番号は………ありませ ん!」



ピピピピピピピ ピピピ……………ピコーン!


『確認いたしました。これより本エレベーターは、宇宙開発公団ビル・マイナスレベル。GGGベイタワー基地エリアB、メインオーダールームへ直行いたしま す』

その声(機械音)が少女の耳に届くや否や、エレベーターは下に向かって一気に加速した。

加速と言っても振動はほとんど感じられない。まったく持って静かなものだった。

程なくして、エレベーター内の機会はビッグオーダールームへ到着したことを告げた。





カシャア






「こんにちわ〜〜〜」

「あら、舞穂ちゃん。今日は早いのね」

明るい声で舞穂に答えたのは、GGG専属オペレーターの初野華。

「うん。今日は土曜日だったから午前中まで。紅尉先生も今日の検査は少しだけでいいって」

夕菜達四人が本格的にGGGに関っていくようになってから今日まで、いろいろと世話をしてきてくれた。

「そうなの。あ、だから夕菜ちゃんたちは早かったんだね」

いわば彼女たちのお姉さん、と言ったところである。

「夕菜さん達、もう来てるの?」

「ええ。和樹くんもとっくに到着して、訓練中よ。会いに行ったら?」













「はあ…はあ…はあ…」

薄暗い部屋の中………

「り、凜ちゃん! 大丈夫!?」

二人の男女が互いに向き合っていた。

「す、少し疲れただけだ………大体、お前動くのが激しすぎるぞ………」

それも、互いに息がかかる位に近い距離で………

「ご、ごめん………」

「おかげで………もうこんなに濡れてしまった……」

「もう一回……やる?」

「いいのか?」

「うん………」

「式森だって………もう、そこなんかこんなに…」

「大丈夫だよ………」

「じゃあ……今度は後ろからだ」

「え!?」

「できないのか?」

「わ、わかった………」

「今度は………もう少しゆっくりと動いてくれ」

















「和樹さ〜ん」

「夕菜? そっちはもういいの?」

「はい。ガオーマシンの修理も終わって、いつでも発進できます」

「じゃ、ちょっと休憩しようか?」

「む、解った……仕方が無い」




パアッ





部屋の中に明かりがつくと同時に、式森和樹はその場にぐったりとなって動かなくなってしまった。

「和樹さん……大丈夫ですか?」

真っ白な部屋の中、正面にドアが一枚あるだけである。

「うん………はあ、はあ、はあ……。けど、ゼイ、ゼイ……どうしたんだろ、父さん。わざわざ凜ちゃんから格闘術なんか教われ、なんてさ」

ドアの横には、巨大なガラス窓がある。ここから様子を観察することができるのである。

「……はあ、はあ…ふう、ふう………」

神城凜は部屋の隅においてあるボトルのつかむと、一気に飲んだ。

「凜さん、お疲れ様です。ずいぶん汗かきましたね。身体中濡れてます」

夕菜がタオルを差し出す。ありがとうございますと礼を言ってタオルを受け取り汗を拭く。動きがぎこちないところを見ると、やはり凜も相当疲れているよう だ。



「……イタタタタタタタ!」




「和樹さん!?」

起き上がったと思ったら、突然うずくまってしまった。夕菜があわてて和樹に駆け寄る。

「だ、大丈夫だよ。ちょっと、頭打っちゃって……」

「頭……?」

「簡単な型を教えようとしたのですが…何を間違ったのか、その場で転んだんです」

「おかげで頭なんて、もうこんなになっちゃって………」

和樹は頭にできた大きなこぶをさすりながら、エヘヘ、と笑って見せた。

「うわあ……痛そうですね…」

「ハハ…大丈夫だよ」

「いえ駄目です! ちゃんと検査しないと!」

「いいって。僕はエヴォリュダーなんだから……」

「いや、検査は受けたほうがいいぞ、式森。エヴォリュダーも万能じゃないんだ」

「え、あ……うん。分かった」

凜の言葉もあって、しぶしぶといった形で了承した。

「式森。次は後ろからの反射神経を鍛えるぞ」

和樹がいうことを聞いたので、夕菜はほっとしたが、次にはあれっと言う顔をして凜の方を見た。










医務室に行く途中、夕菜は凜に尋ねてみた。

「凜さん。さっきの『エヴォリュダーは万能じゃない』って、どういうことなんですか?」

「ああ、それですか」

医務室はGGGベイタワー基地の最下層、エリアDに存在する、ということは前にも書いたと思う。

「式森を修行させてわかったのですが………エヴォリュダーの能力が発動しているときは、力は上がるのですが、体力はそのままなのです」

GGG医療班の指揮を取っているのは、当然のことながら紅尉晴明な訳であるが、紅尉晴明はGGG作戦参謀長も兼任している。

「え、じゃあ………」

「そうです。常にエヴォリュダーの状態で戦っていたら、今の式森ではいずれ倒れてしまうでしょう」

「で、でも船の中とか、この間のGパークのときとは大丈夫だったじゃない」

おかげで紅尉はしごと別に医務室メインオーダールームを何度も何度も往復する羽目になってしまった。しかし本人は涼しい顔をしており、むしろ紅尉に直接用 事があるGGG職員の方がてんてこ舞いだった。

「あんな火事場の馬鹿力がいつまでも出るわけ無いだろう。普段の状態から基礎体力をつけておくのがいい。それに、ちゃんとした戦い方を身に着けておかなけ れば駄目だぞ。確かに私は、拳法はあまり得意ではないが、それでもお前に教えるだけの腕は持っているつもりだ」

「そうですよ和樹さん。倒れちゃってからじゃ遅いんです。また専用病室にいきたくないでしょう」

「わ、分かったよ………」

確かにまたあんな思いをするのはごめんだ。

ガオファイガーのコックピットの中での痛みを、和樹は忘れたわけではなった。

こぢんまりと返事をする和樹だった。



それにしても………

(はあ、この二人に結託されちゃあ、手も足も出ないよ………)

これで玖里子さんや舞穂ちゃんまでいたら………

「何かいったか? 式森」

「い、いや! 何でもない! 何でもないよ!」

ただならぬ殺気が、凜の手元の刀から発せられたので、和樹はあわてて早歩きになってしまった。GGG隊員の制服に着替えても、凜は刀を手放さないのであ る。

和樹は小言を言うことも許されない悲劇に心を痛ませつつ、医務室に向かった。














「あ〜〜〜〜〜〜〜〜、い〜〜〜〜〜た〜〜〜〜い 〜〜〜〜よ!!!!!」

医務室から訳の分からない奇声が聞こえてくる。

「ソリャ、バーボン五杯、ズベロッカ三杯、マッカラン七杯モ飲メバ当然ダロ」

ベッドのそばにいるオウムの突っ込みも、この二日酔いの親父には通じない。

「の〜〜〜〜み〜〜〜た〜〜〜い〜〜〜ん〜〜〜だ 〜〜〜〜も〜〜〜〜〜ん。仕方ないだろ〜〜〜〜〜」

「無駄だ、ミレイ。雷王には何を言っても聞かん」

そういうと、紅尉晴明は雷王の口の中に怪しげな液体をそのまま流し込んだ。

程なくベッドからは雷王のスヤスヤという寝息が聞こえてきた。

「ホント、酒弱いのに何で飲むのかしらねえ………長官」

風椿玖里子は新聞を広げながら、深いため息をついた。

「マッタクダゼ。コイツトモ五年以上付キ合ッテルケドヨ。イクラ言ッテモ直良ネエ」

「ミレイも災難ねえ」





カシャア





「あ、玖里子さん」

「あら、三人とも……って和樹どうしたの!? その頭!」

「いえ、式森が転んで、頭を打ったんです………」

「玖里子さんこそ、どこか悪いんですか?」

夕菜の質問には玖里子は手を振って答えた。

「ううん、別に用があるわけじゃないけどね。用事も終わったし」

「玖里子さんの仕事って……確かオペレートと、経理ですよね」

紅尉に頭を見せながら和樹が言う。頭のタンコブは、もはやかなりの大きさまで腫れていた。

「そうよ。まったく足元見て………予算がちっとも下りないのよ」

玖里子が憤慨していると、紅尉は微笑して答えた。

「まあまあ、風椿君。GGGは確かに、内閣からは金食い虫とか言われているが、それも戦闘が始まるまでの辛抱だ。結局彼らは自分の身が大事だからね」

「そうですけど………あら?」





玖里子は急いで新聞に集中し始めた。その目はかなり真剣なものになっている。

「なによ、これ………」

玖里子の口から思わずため息が漏れる。

「ひどい事するわね………」

「どうしたんですか?」

『ヘリオポリ ス』が襲撃されたんだって。ザフトのモビルスーツに」

「『ヘリオポリス』?」

頭に何か塗られながら、和樹は頭に?マークを思い浮かべた。

「和樹さん知らないんですか?」

「う、うん………」

「L5宙域にある資源衛星の一つだ」

「元々『オーブ』の領域ダガナ」

凜とミレイの言葉を受けて和樹は一応納得した。

なるほど、コロニーの一種だったのか………それなら自分が知らないのも納得できる。自慢ではないが、自分はそのあたりの知識はほとんど知らない。

知っているのは、自分たちの外で………宇宙では大変な騒ぎが起こっているということだけ…………。






『血のバレンタ イン』とよばれる、コロニー襲撃事件から発展した、地球連合軍と、プラントと呼ばれるコロニー群との戦争。

誰もが疑わなかった、数で圧倒的に勝る連合軍の勝利…………しかし、結局戦況は一進一退。宇宙は重苦しい雰囲気に包まれていた。

いや、宇宙だけではない。

イギリスのジブラルタル、アフリカの砂漠地帯、そして南アメリカ………これらは全てプラント側に占領されてしまっている地域なのである。

連合国の領地も激しい戦火に見舞われ、人々は恐怖に怯えながら暮らしているのが現状だ。

唯一の安息の地………それが、平和主義を唱えた日本と…



「あれ………確か、オーブって中立じゃなかったの?」



『永久中立』を唱える国、『オーブ』だけなのである。

「だからよ。だから余計に変なの。いくら戦争中だからって、これはれっきとした条約違反よ」

「まあ………知らない方がいいこともあるさ」

紅尉の突然の言葉に、その場にいた全員が首をかしげた。

「え? どういうことですか?」

「はい、終わったぞ、式森君」

「は、はい………」

もう一度聞こうと思って、和樹は引き下がった。

この人とも、もうかなりの付き合いだ。紅尉がこんな顔をしている時は絶対になにも話してくれない。和樹はそれをよく知っていた。

その時である。



ピコーン




紅尉の机の上にあるスクリーンが起動した。

『式森君? 式森君はそこにいますか?』

かすれた声だが別に機械の故障というわけではない。もともとこのスクリーン越しに喋っている人物の癖なのだ。

この人の名は高之橋 両輔(たかのはし りょうすけ)

「あ、はい。どうかしましたか?」

ファントムガオーやガオーマシンの整備、その他もろもろの機動要塞の調整全てを統括する天才科学者である。

『今からこっちにこれないかな? ファイナルフュージョンのプログラムソフト、君用に新調したんだけどもう少し微調整が必要なのよ』

このおじいさん、結構なハイカラ好きである。

紅尉先生の話だとこの人も17年前にGGGにいたことがあるらしい。

「わ、分かりました」

『ついでに〜〜〜宮間君たちもそこにいれば、来てくれると助けるな。さっきから栗岡君が走り回っていてね』

「舞穂ちゃん、そこにいるんですか?」

『うん、何とかして頂戴な』

当然和樹の実の父、獅子王凱と面識もあるはずなのだが、彼はその当時のことをめったに話さなかった。和樹が聞いてもそのときだけ『ぼけてしまう』。

通信が終わると、和樹は金色のベストを羽織った。

「じゃあ、紅尉先生。行ってきます」

「わかった」



こうして和樹は、夕菜、玖里子、凜、そして肩に乗ってミレイをつれて、高之橋がいるところ、水陸両用整備装甲車に向かった。

和樹が出て行った後の医務室はとてつもなく静かなものだった、そう、とてつもなく………

「雷王、起きているのか?」

「ん? ああ………」

紅尉の言葉を受けて、黒いスーツの男はむっくりとベッドから体を起こした。

「和樹のやつ………親父の俺がいるのにまったく言葉もかけなかったな………」

「もうわかっているのだろう、意味が無い、とね」

「ひっでえなあ〜〜〜〜、俺は悲しいぜ」

そういうと、雷王は服装を直し始めた。

よく、こんな黒いスーツばかり着ては駄目だ、と周りから言われることがあるが、そもそも自分の金色の髪に合うスーツはほとんど無いのである。唯一合うの が、前の長官が使っていた服だけだった。

「いつから起きていた?」

「最初はウトウトだったけどな…………『ヘリオポリスが襲撃された』って聞かされて、一気に眼が覚めちまった………」

服を調え終わると、雷王はさっさと靴を履き、それまでの悪酔いぶりが嘘のようにスクッと立ち上がった。

「ヘリオポリスか………あの子が引っ越した先だよな」

「キラ・ヤマト君かね?」

「ああ………無事だといいけどな…………」

雷王は紅尉に頼んで、常にあの少年の動向を監視していた。慎重に、慎重を重ねた上で。

「これはまだ極秘情報だが………」

「?」

紅尉のただならぬ気配を察知した雷王は眼を見張った。

「彼が『ストラ イク』のパイロットになったらしい………『アークエンジェル』に乗っ てな」

「なんだって!?」

爆弾発言に長官はますます目を見張った。

「もちろん偶発的なものだが、民間人がモビルスーツを動かす訳にはいかないからな。今は軍人扱いになっている………」

「ちょっと待てよ……確か新型は5機あっただろう。他の4機は?」

「ザフトに奪われたらしい」



「そう……か………」

「アークエンジェルはおそらく地球に降りる事になるだろう。もしかしたら、日本を通る事になるかも知れんな」

せっかく元気になってというのに、また元気がなくなった。雷王は靴をはいたことも忘れて、またベッドに逆戻りしてしまった。

「できるだけ会わせたくないけどな………」

「それは無理だ。あの二人はいずれ出遭う…………運命だ」

「分かってるよ! キラ君と和樹は切っても切れない関係だって! 十分知ってるさ………」

口から出る銅鑼声は、今までに聞いたことの無いものだった。

「ならば受け入れたまえ。……安心しろ雷王、式森君は大丈夫だ。たとえキラ君が……」

「その先は言うなよ、紅尉」




雷王の言葉は真剣だった。

殺気でも怒気でもない、真摯な気持ちが、今の彼にはあった。




「そのことは誰にも言うなよ。ちゃんと話せるときが来るまで、絶対に」


そんな態度と、普段の雷王のギャップがおかしくて、


「フフフ……分かっている………分かっているよ、雷王」

「ホントに分かったのか?」

「ああ」

「けっ」

紅尉の態度を見て、雷王もそれ以上は何も言わなかった。

この男は言わないといったら言わない、今回もそうだろう。

とりあえずもう一回寝ようとして、

靴を脱ごうとしたその時である。





ビービービービービービー………






突如として警報が鳴り始めた。

それと同時に医務室にあるスクリーンが起動する。

『長官! 参謀!』

「初野か? どうした!」

『新宿区歌舞伎町に、ゾンダー出現!』

「なんだと!」

「嘘だろ、おい!」





GGGに緊張が走った瞬間だった。



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