『こんなもんで、どうですか? 博士』

今和樹が喋っているのは、エリアWに設置されたガオファイガー、及びガオファーのシミュレーターの中。

『水陸両用整備装甲車』はガオファイガーの戦闘時のデータを元に、より効率的なシステムに再調整する役割を持っている。

このシミュレーターはそのシステムをテストするための装置なのである。

「ふむふむふむ………」

高之橋両輔は、その日もガオファイガーの調整に余念が無かった。戦いが始まるまでに少しでも和樹にかかる負担を減らそうというのだ。

しかし、17年前からのGGG隊員はこの彼の行動に少し驚いていた。




「式森く〜〜〜ん。もう少し右に動いてくださ〜〜い」

『あ、は、はい』




高之橋という人間は基本的に道楽思考の人間だった。

月曜日にはゲームをやり、火曜日と水曜日にはプラモデルに精を出し、金曜日と土曜日には「ドラえもん」と「世界不思議発見」に眼をやる。日曜日にはキャバ クラに足を伸ばすこともしばしばだ。




「宮間君、バイタル数値のベクトルを2.37ずらしてみて下さい」

「了解しました」




仕事は戦闘時以外はほとんど必要最低限のことしかやらない。『根詰めしたら壊れる』というのが本人の談だった。

それが違う。




「神城さん、コンタクトの波長を36にしてくれる?」

「はい」

「風椿さんは、EM軌道のコントラストを5:3:8にして頂戴な」

「は〜〜〜い」




新しくGGGが再編成された時から、彼は新しいプログラムの開発に余念が無かった。一週間に一度は徹夜だ。いくらなんでもやりすぎだと周りが諌めても、聞 く耳は持たなかった。

だが、彼には彼の誓いがあった。




「よし、シミュレーションをもう一回やってくれます?」




獅子王凱の息子、彼の忘れ形見を守るという誓いが………








第二十六話  ファースト・ミッション(中編)








「なるほどなるほど………」

「もう終ったの?」

高之橋が機械をいじっている隣にいるのは舞穂だ。

メインオーダールームで和樹の居場所を聞いたのはいいものの、どこをどう間違えたのかこんなところに来てしまった。

ちょうど高之橋もこれから和樹を呼ぶということなので、ここで待っていたのである。

「ええ、今日はこのぐらいでいいでしょう。これ以上やったら式森君も疲れてしまう」

「やった〜〜〜、じゃあ、これから舞穂と遊べるね」

と、ここで夕菜が割り込んできた。

「舞穂ちゃん。和樹さんはさっきからずっと疲れてるんです。休ませないと駄目ですよ」

と、妻さながらのものを見せ付ける。もっともこれは本当に和樹を心配する気持ちから生まれたものである。
Gパークでの事件の後、夕菜はそんなに怒ることはなくなった。もちろん多少焼もちを焼くことはあるが、暴走は無いので周りの人にとっては安心すべきこと だった。




「え〜、遊びたいよう」

「駄目です」

「夕菜さんも一緒に遊ぼう?」

「そういう問題じゃないです!」

しかしここで引き下がる舞穂ではなかった。

「じゃあ、和樹くんに聞いてみようよ」

「和樹さんだったいいって言うに決まってるじゃないですか!」

「和樹くん、いいよね?」

夕菜の言葉を無視して勝手に通信機に向かって言った。

『うん。かまわないよ、僕は』

「和樹さん!」

『夕菜もくればいいじゃない。どこ行くかはいいとして』

「うう………」




「いいんじゃない? ちょっとは生き抜きも必要よ」

と、玖里子も近づいてきた。凜も一緒である。

「凜も行くでしょ?」

「はあ………私はどちらでも……」

「分かりました………」

三人と和樹がそこまで言うなら仕方が無い。夕菜は納得した。


しかしそれでは終らない。それならば、と、夕菜はとことんまで和樹と一緒にいく、と言い出した。

「和樹さんがそこで倒れちゃったら意味無いです」

と夕菜。

そういうと今度は、さあ早く行きましょう、みんなを引き連れてすごいリーダーシップを発揮し始めた。

「ドコヘ行クノカモ決マッテネエノニナ」

ミレイの突っ込みと夕菜のさっきまでの態度とのギャップがおかしくて、シミュレーターの中から出てきた和樹が力なく笑ったその時である。








ビービービービービービービー









突如として、けたたましい音が鳴り始めた。無論GGG隊員の面々はこれが何を示しているのかはよく知っている。

「舞穂ちゃん!?」

「うん………感じるよ、ゾンダー!」

警報が鳴り始めたのとほぼ同時に、舞穂の髪が真紅に染まった。これはゾンダーを感知したときに出るシグナルなのだということも、紅尉から教わっている。

「どうも……遊びに行くのは夜の歓楽街になりそうね」

玖里子の言葉を聞いて高之橋が反応した。実は彼、年甲斐も無くかなりの女好きである。

「ほほお〜〜、そりゃいいですな。式森君も行きますか? この間いいお店を……」

「え…ええ!」

「何言ってるんですか! そんなことは許しませ ん!」


「あの………早く行きましょう」

言葉だけを聞けば、とてもこれが緊急事態とは思えない。

が、一目見れば誰にでも分かるであろう。ここにいる者の中に、お遊びの気持ちなど、和やかな気分など、一片たりとも持ち合わせていないことを。

それが証拠に、彼女たちは急いで手元の機械を片付け、2分が経過するころにはすでにメインオーダールーム直行エレベーターへ向かっていた。













ドゴオオオオオオ!!!


すでに現場は地獄と化していた。


「うわアア!!!」

「な、何だこいつ!」


建物は消し飛び、道路は有無を言わさず飛沫となり、その残骸は噴水と化し、容赦なく人々に襲い掛かる。


「ひ、ひいいい…た、助けて!」


だがそんな言葉を聞き入れてもらえるほど、『彼ら』は甘くなかった。











「へえ…………今回はまたずいぶんと妙なのを素体に選んだわね。ベイオル」

「フフ、驚いた? アヌレット」

「だが、あそこまで被害を出すことは無いだろう。ゾンダー化する為の人間が全滅してしまっては本末転倒なのだぞ」

「大丈夫でしょお………結構うまくやっているみたいですからネエ。その証拠に、人がいそうな所はきちんとよけて通っていますからネエ」

「もともと、今日の素体はこの町に苛立ちを感じてたみたいでね」

「どういうことだ?」

「リストラされた都市整備部の課長なんだって、酒に溺れてたとこを見つけたのさ、ガンベルク」

「なるほど。自分の意見が聞き入れられずにいたのが耐えられない、という訳か」

「そういうこと………」

「あれだけの火力、うかつには近づけないわけね」

「さてと、お手並み拝見かな、GGG。そして…………式森和樹」














カシャア

「やっと着いたぜ!」

「遅くなってすまない」

紅尉はメインオーダールームへ辿り着くと、即座に自分専用のイスに座る。ちなみに雷王はその性格と立場上、オーダールームにイスは設けられていない。

「夕菜ちゃん! 状況を説明してくれ」

「はい、ゾンダーは歌舞伎町に出現後、ゆっくりと北上中!」

「サテライトビュー、メインスクリーンに映します!」

凜の迅速な操作により二秒後には目の前のスクリーンはゾンダーの真上を映し出していた。

何を隠そうこの映像、実はミレイが高度上空から捕らえたものである。

ミレイの役割はこれにあった。現場の画像を見るときには二つの視点が必要だった。すなわち、地上と宇宙である。宇宙に関してはGGGが密かに打ち上げた衛 星がその役割を担っているが、地上の方はそうはいかない。人が撮影するにも無理があった。魔法でずっと空を飛び続けるにも無理があるし、ヘリで飛ぼうにも 見つかって打ち落とされる可能性が高い。

それを打開する方法が、動物の力を借りることであった。ミレイの飛行速度は時速300キロをたたき出す。現行機の速度をはるかに上回り、なおかつその小さ さから、打ち落とされる危険性を削ぐというまさに一石二鳥のアイディアだった。

『随分トデカイゾ! 今回ノヤツハ!』

たしかに………誰もが驚愕した。

彼らの目の前にあるのは、前回出てきたWIZ−01のゆうに1.5倍はある怪物だった。

「こいつぁ………」

「周囲のビルを手当たり次第に取り込んでるぞ」

体は真っ白く、ところどころからガラス窓がのぞいている。それでいて丸まったところは一つも無い。脚、胴体、腕、頭全てが巨大、かつ乳白色をしていた。

そして………凜が再び絶叫した。

「敵に高エネルギー反応! 両腕です!」

巨大なそれはいきなり両腕を展開した。そしてそこから出ているものは、





ブシュウウウウウウウゥゥゥ………





ミサイルだった。





ドゴアアアアア!!!





「げげ!」

「被害は!?」

「第七区から第八区まで消失!」

「何でビルがミサイルを搭載してんのよ!」

玖里子の言い分ももっともだが、泣き言を言っても事態は収まらない。

「このままではまずいですぞ!」

「分かってる! 現時刻を持って奴を、WIZ−02と認定・呼称する! 凜ちゃん、和樹は?」

「三段飛行甲板空母に向かっています。到着まで後二十秒!」

「十秒で行けと伝えろ!」








三段飛行甲板空母



ファントムガオー及びガオファーを格納・発進させる飛行空母で、GGGベイタワー基地CラインのエリアTに相当する機動要塞である。

そのでかい図体に似合わず以外に機動性に長けているのが特徴だ。

和樹がIDアーマーをつけ、到着をした時には、すでにファントムガオーの発進準備が進められていた。(早くいけ、と凜たちに脅されてスピードアップしたに もかかわらず、である)

その手際のよさに思わず舌を巻いたが、そんなに感動している暇は無かった。

「隊長! 早くこちらへ!」

周りの人たちに促され、ファントムガオーのコックピットの中に入る。

「とりあえず調整はしましたが、ソフトの改良はまだです。気をつけてください!」

閉まるハッチの隙間から、整備部の男の声が聞こえる。

和樹は何も言わず、ただ黙って親指を突き立てた。





ハッチが閉まると急いでOSを起動させる。

OS起動といっても和樹がやることは機械に自分であることを認識させるだけだ。自分の父親は手動でやっていたらしいが、コーディネーターでもない機械音痴 の和樹にそんな芸当は十年たっても不可能である。

ということで、そういう風に改良したのである。





そして自分であることを認識させる方法は………

「プログラム始動(スタート)!」

音声認識である。

暗くなったコックピットの室内に緑色の光がともった。これは和樹の中のGエネルギーを効率よく引き出し、かつ増幅させるシステムだった。

和樹の中に力が満ちる………………










「ファントムガオー、発進位置に着きました!」

凜の言葉を受けて、雷王の眼はらんらんと輝きだした。

「やっときたか……遅いぜ!」

雷王は叫ぶと今まで柱に預けていた体を急いでたたき起こした。

もう彼の目には、いな、この場にいる全員の目には、希望の炎が灯っている。

「現場はどうなっている?」

「歌舞伎町の住民は、避難完了しました!」

「よ〜〜〜し」

雷王の拳に力が入る。





「夕菜ちゃん、玖里子ちゃんに凜ちゃん………」

しかし雷王の言葉はいたって静かだった。

「全員でそろっての任務はこれが初めてだ。やり直しはきかねえぞ」

「何言ってるんですか」

「私たちは大丈夫ですよ」

「覚悟の上です!」

「そうか…………」

何秒か沈黙したが………それは最初で最後だった。





「なら俺は何も言わねえ! 行くぞ、みんな!

「「「は い!」」」

「ファントムガオー、発進準備!」












三大飛行甲板空母は、海上に出るとゆっくりとその大きな口を開けていった。




そしてその口の中には………




『カタパルト、接続しました。ミラー・コーティング、スタート』




見慣れぬ戦闘機が一機、その姿を見せていた。




『発進角度測定します!』




そしてその中には………




『和樹さん………』

「ん?」

勇者の姿があった。

『頑張ってください!』

「うん!」

彼女は気をつけて、とは言わない。

彼が無事に戻ってくるを、信じているから………







ピッピッピッ……ピピピピピピピピピピピピピピ!!

 『進路クリア! システム、オーグリーン! 発進準 備完了!』

 グゥオン、グゥオングゥオングゥオン!

 『ファントムガオー発進します! どうぞ!』

 「了解! 式森和樹、ファントムガオー! 行きま す!」

 ドシュウウウウウウゥゥゥゥ………

カタパルトの中から蒼翼の鳥が羽ばたいた。

あっという間にそれは、空母から離れ、大空の彼方へと去っていく。

彼らの勇気を、決意を、一身に担って………










少し余談………

「それにしても和樹……」

「玖里子さん?」

「ううん、なんか堂に入ってると言うか……これが始めての出撃なのに、なれた感じというか………

「まあ、あいつは一度体験済みだからな。『Vガンダム』で」

「「「??????」」」

「そろそろ到着だな……行けえ、和樹!」

長官の言葉の意味を知るものはいなかった。











WIZ−02の猛威は止まること無く続けられていた。

「ひ、ひどい………何て有様だ…」

『感傷してる暇はねえぞ』

「分かってるよ……」

和樹は自分の力を上げる為の言葉を紡いだ。

「フュージョン………」

その言葉を受け、ファントムガオーの体が可変していく。

「ガオファー!!!」

ガオファーはWIZ−02に眼を向けると一気にバーニアを噴射させた。

そして勢いそのままに突っ込む。

「おおおお!!」

バキャアンッ!

「え!?」

しかし相手は微動だにしない。

WIZ−01ですらこの攻撃には多少はたじろいだと言うのに、

それが、効かない

ガシッ!

WIZ−02はガオファーの腕をむんずと掴むと、ジャイアントスイングの要領で振り回し、投げた。

「うわあああ!!」

ガオファーは抵抗するまもなく恐るべきスピードで吹っ飛ぶ。

だが接地する直前、何とかバーニアを噴射し、着地した。

「くそ………」

『どうやら、前回とは打って変わって、重装甲型みたいね』

「玖里子さん。そんな事言ってないで。このままじゃやられちゃいますよ!」

『分かってるわよ』










玖里子は急いで手元の機械を操作する。

「ガオーマシン、まもなく到着します」

そして右の方に向き直る。

「後は頼むわよ、夕菜!」

「はい!」

「よし、いくぞ!」

雷王は腕を振り上げた。

あの言葉へとつなげる一連の動作。

これなくして、合体は成り立たない!

「ファイナル・フュージョン、承認!」

「了解! ファイナルフュージョン……」

夕菜の手がよどみなく動く。

「プログラム……ドラーーーイヴ!!!」

そして、手元のスイッチをガラス越しに叩き割る。









「ようっし!!」

ガオファーのブースターが勢いよく噴射する。ガオファーは空高くへと舞い上がった。

「ファイナル・フュージョーーーーーーン!」

翠緑の竜巻がガオファーを包む。


ファイナルフュージョンを行う際、ガオーマシンやガオファーが敵に攻撃されない為の結界、EMトルネードだった。

やがて三機のガオーマシン、ステルスガオー、ライナーガオー、そしてドリルガオーが突入する。

まずガオファーの両腕が方から外れ、後ろに移動する。

そこにできた空洞にそのまま新幹線型のガオーマシン、ライナーガオーが差し込まれた。

脚が折りたたまれ、ドリルが二つ付いた装甲車、ドリルガオーがドッキングする。先端のドリルは両の膝へ移動した。

最後に戦闘機型のガオーマシン、ステルスガオーが背中にドッキングする。

「ガオ! ファイ! ガー!!」

大いなる新生勇者王、ガオファイガーの誕生だった。

『ファイナルフュージョン完了!』

EMトルネードが晴れ、中からガオファイガーが姿を現す。

しかし敵は恐れた様子も無くこちらへずんずん突き進んでくる。

だが和樹としても負けられなかった。これ以上町を壊されるわけには行かない。

「はあああああ!!!」

ガオファイガーは翼のバーニアを展開すると一気に距離を詰めた。

すぐさまWIZ−02も身構え、両者は腕を組み合う。

純粋な力比べならば、ファイナルフュージョンしたガオファイガーの方が有利だ。ゆっくりとだが、WIZ−02はずるずると後退し始めた。

そして、そこから二十秒ほど経ったとき、ついに力の均衡が完璧に崩れた。

WIZ−02が脚の部分のバランスを崩した。すかさず和樹は敵の太い腰に手をかけ、

「おりゃあああ!!!」

放り投げる。

白いビルの巨人は自分が壊したビルにかぶさる様にして倒れこんだ。

『ゾオオオオンダアアアアア………』

が、すぐに起き上がる

「ああ、もう………」

『どうやら随分タフみたいだなあ。今回のやつは』 

「いちいち五月蝿いな!」

『式森! 前だ!』

「え?」

凜の言葉を受けて前方を凝視する。

ゾンダーロボがこちらへ向けて、両腕を向けていた。よく見ると顔と思しき部分もあんぐりと口を開けている。超特大のミサイルを覗かせながら。

「ミサイル! まだあったの!?」 

『よけろ式森!』

凜の忠告は残念ながら聞けなかった。

ここからよけようとしても、何発かは食らってしまう。

(なら………防ぐ!)

ガオファイガーの胸部中央が開いた。そこから粒子状のリングが現れ左腕に巻きつく。

「プロテクト・ウォール!!」

ミサイルがこちらに届いたが、ガオファイガーの防御結界ならば防ぎきれる。

そう読んだ和樹だったが考えが甘かった。

はじかれたミサイルがその勢いで周囲に拡散したのだ。

「しまった!」

あわてた和樹だったがもう遅い。

別々の方向に飛んでいくミサイルとめることは出来ない。

次々と周囲の建物が崩れていった。

『第二波、来ます!』

「そ、そんな!?」

いくらなんでも早すぎた。

通常のモビルスーツでもここまで早く次弾の装填は行えないはずだ。

しかし現に新しい白銀のミサイルがこちらに牙をむこうとしている。

しかも今度は胴体からもミサイルが出てきている。

ドドドドドドドド!!!

次々とミサイルがガオファイガーめがけて打ち出された。

(く、くそ!)

とっさに和樹はガードの姿勢をとったがその程度でどうなるわけでもない。

WIZ−02の攻撃は、今度は一発の残らずガオファイガーに爪を立てた。

「ぐ……ああああああ!!」









「ガオファイガー、装甲強度89%までダウン!」

「排熱追いつきません!」

「両輔、紅尉。これは………」

「ああ、間違いない………」

「やつらの狙いはこれだったんですなあ」

GGGと地球連合軍との絶対的な違い。

それは、戦術・戦略における第一目的だった。

連合軍は第一目的に『敵の殲滅』を考える。

そして第二が『自己、又は隊の防衛』である。

人々の被害を考え可能な限り抑える、いわゆる『人的損害の抑制』は彼らの中では第十四目的に過ぎないとさえ言われている。

だが、GGGの作戦は常に『人命尊重』を第一に行われる。

いついかなる時であっても市民の安全、そして日々の生活を確保し、それを考慮しながら戦うのが絶対だ。

あまり規律に五月蝿くしないGGGの、唯一絶対に守らなければならない基本理念である。これなくしてはこの組織は成り立たない。

そして、日々の生活とは今まで築き上げてきた文化である。

つまり敵を倒そうとして、その結果、都市が壊滅するような作戦をとるのはご法度中のご法度なのである。

「何より和樹自身、そんな方法で勝とうとなんてしないからな。うまく逆手に取りやがって………」

「ガオファイガー、このままじゃ装甲が持たないです!」

そう言った夕菜の言葉はもはや悲鳴に近かった。

「長官! 和樹が死んじゃうわよ!」

「分かってる………」

策がないわけではない。

17年前のGGGもこうした事態を予測しないわけがない。

だがこれは一種の賭けだった。

和樹はこの間ようやくファイナルフュージョンを行えるようになっただけだ。

これには綿密な計算が必要とする。

もし『これ』の出力が間違っていたら、座標が少しでもずれたら街は壊滅だった。

しかし………

(やるしか、ない!)

雷王は信じていた。

あの馬鹿の本当の父親は、昔からやると言ったことは本当にやってきた。

ならば信じよう。

和樹ではなく、あいつの中を流れる『獅子の血』に、

『これ』を必ず、成功させてくれると。

(信じるぜ、和樹………凱!)

雷王が部屋いっぱいに届くような声で吼えた。

「ディバイディング・ドライバーを射出しろ!」

「「ええ!!」」

夕菜と凜は一斉に声を上げた。

夕菜達だけではない。

華や高之橋博士、それにめったに感情を表に出さない紅尉でさえ驚愕した。

「もし失敗すれば……」

「街は壊滅ですよ! そんな…」

「このままでも十分壊滅だ!」

その言葉の勢いに夕菜はビクッと中を震わせた。

「大丈夫だ………和樹を信じろ。あいつは最初、限りなく0%に近いと言われたファイナルフュージョンを実行したんだ。今度だって出来る」

「でも………」

「………夕菜ちゃん、そんな顔をするな。だってあいつは、勇者だろ!」

「………」

「夕菜、そんなに萎れないの」

ふと、横から声がかかった。

「玖里子さん………」

「長官の言うとおり、和樹なら大丈夫よ。あんたの台詞じゃないけど………あの子は勇者である前に、『世界一の魔術師』でしょ!」

玖里子の言った言葉は、何よりも誰よりも、夕菜の中に伝わった。

「………はい!」

「ならばよし! 凜、夕菜と協力して」

「はい!」

そういうと今度は通信機に向かっていった。

「和樹、聞いたわね? もうちょっとだけ持ちこたえて!」

『は……はい!』

そこから爆風と共に届く声は、もはや予断を許さない状況を物語っていた。

「さてと………行くわよお!」

『これ』の射出は全て玖里子が管理する。

そのため、発射角度、座標軸、その他全てを統括するだけの腕が必要があるが、玖里子はそれを可能にしていた。

「射出準備完了! ミラーカタパルト開きます」

凜の動作によって、三段飛行甲板空母の上部が開いた。

三段飛行甲板空母はその名のとおり三段からなっている。

ミラーカタパルトとはそのうち上部一段目を占める部分である。

「ミラーコーティングスタート!」

ミラー粒子と呼ばれる未知の物質を表面に蒸着(コーティング)させ、電磁力の反発によって物体を遠くまで飛ばすことが出来るGGGのみに伝わる技術だっ た。

ファントムガオーもこれによって発進されるのである。

「玖里子さん!」

「OK! 任せなさい!」

そして今、そこから打ち出されるものこそが、

「射出!」

この状況を打開する、唯一無二の、ハイテクツールだった。



その名は、ディ バイディング・ドライバー!




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