雷王が部屋から出て行った後、和樹はまた体を休めることにした。

ガオファイガーが修理中の今、自分に出来ることはほとんど無い。雷王の言ったとおり、戦闘時までに自分のコンディションをベストまで持っていくのが最良 だった。

(そういえば、どうやって戦うのか、一言も言ってなかったなあ……)

ネルフとGGGは一緒に戦うことになるんだろうか。

何しろゾンダーと使徒が両方出現したのだ。力を合わせるべきじゃないかと思う。

まさに和樹の考え通り、その考えに基づいて、ネルフとGGGは共同戦線を張っていた。しかもその発案は雷王である。血は繋がって無くても親子は親子らし い。

しかし和樹はその事実を知らされていないため(雷王が言い忘れた)和樹は両方のパターンを思索する事となった。

ネルフの司令、碇ゲンドウとは廊下で一瞬すれ違っただけだが、それでも理解できたことがある。

あのタイプは自分の父が最も嫌う人間だ、ということだ。

普通に考えれば地球のピンチにそんな『しこり』を気にする訳はないが、雷王の場合そんな事は保証できない。

ゲンドウの態度に腹を立てて、喧嘩を売ろうとする姿は想像に難しくない。

先ほどまでの雷王の態度は頼もしい『大人』に見えたかもしれないが、子どもの様に騒ぐ姿を忘れたわけではなかった。

「どっちも、ありえるなあ………」

しかし、どのケースを想像しても、結局辿り着く先は一つだ。

(ネックは使徒か…………)

共同戦線を張るにしろ、雷王が腹を立てるにしろ、使徒を何とかしなければならないのは確実だ。

別々に作戦を展開しても、エヴァンゲリオンが倒れた場合、自分しか戦えるのはいないのだ。

その時の為に、勝つ手段を考えなくては…………

「どっちにしろ、誰かから話を聞いて……」

そう思った時、ドアが開く音が耳の中を通った。

ふと見ると、そこには父とは別の見慣れた姿が立っていた。

「あ、玖里子さん」

和樹の顔が和らいだ。





和樹が雷王に説教(?) を食らっている頃、シンジもまた、目を覚ましていた。

「………ん…」

カシャリと言う音がそのきっかけだった。ドアの開く音だったが、それをシンジが理解するのはもう数秒間後である。

ゆっくりと、本能的にまぶたが開いていく。それに伴い網膜とこう彩、そして水晶体が、周りの風景を認識していった。

しかしGGGの所と違い、風景というには余りにも殺伐に過ぎた。



そして、和樹と違う事として、もう一つ……



「あやなみ…………」



少年の開けた視界の向こうにいたのは、父親ではなかった。

彼と同じぐらい無表情で、無愛嬌で、無感動な、半分機械とも思える、もう一人のパイロットだった。

隣にはワゴンが置いてある。彼女が持って来たのだろうか。

まだ朦朧としている部分が頭の中にある。それを判断することは出来なかった。

シンジはゆっくりと体を起こした。

しかし彼女はシンジを一瞥すると、すぐに職務を全うすべく手元からメモ帳を取り出した。

「会う午後零時より発動される、ヤシマ作戦のスケジュールを伝えます」

ヤシマ作戦とは、今回GGGとネルフが合同で行う作戦の事である。

「碇、綾波の両パイロットは本17時30分,ケイジにて集合。18時00分、エヴァンゲリオン初号機、及び零号機、起動。18時05分に出動。同30分二 子山仮設基地へ到着。意向は別命あるまで待機。明日0時00分、作戦行動開始」

それだけ言い終わると、彼女はワゴンの下から袋を放り投げた。

白と青のスーツが入っている。自分用のプラグスーツだ。

「寝ぼけて、その格好で来ないでね」

言われて、下のほうを見る。

自分が全裸だったということに気付くのに掛かった時間は、およそ二秒半。

「あ!………ご、ごめん…」

慌ててシンジはシーツで前を隠した。

「この間から………謝ってばかりだ…」

この間というのは、シンジが綾波のIDカードを届けに行った時である。

チャイムを押しても反応がなく、仕方無しにそのまま無断で入ってしまった。

それだけならまだいいが、彼女はシャワー室からタオルを引っ掛けたまま出てきた。パニックになったシンジが、彼女と足がもつれさせ、ちょうど押し倒すよう な格好になってしまったのだ。

そのことに関して、彼女は何も言わなかったが、逆にそれが少年を悩ませることになってしまった。

アスカの方がまだマシだったかもしれない。彼女ならば相手の体をミンチにしてそれで終わりだろうから。

彼女の性格から言って(そんなに親しいわけではないが)根に持つということはないだろうが、それでもシンジにとっては気まずくなってしまうのは明白であ る。

ふと、ワゴンに乗っているトレイに目が行った。

「食事。食べる?」

旨そうな匂いが漂ってくる。今のシンジにそれを理解するだけの心の余裕はなかったが。

メニューを見る限りでは、病人食と言うよりも栄養食だ。

ベッドで寝ていないで、早く体を治してエヴァに乗れ。

誰かがシンジの脳に、直接語りかけてくるようだった。

「食べたくない………」

「体が持たないわよ」

「また、あれに乗らなきゃいけないのか……」

「そうよ」

彼女は簡潔に、質素にしか答えない。

膝を抱えるようにして、顔を埋める。

「僕は……嫌だ…」

「………乗らないの?」

「あんな怖い目に合うなんて、嫌だ。綾波は危険な目に遭ってないからそんな事が言えるんだ」

頭の中で、初号機が撃たれた瞬間が、フラッシュバックのように駆け巡る。
胸の辺りで、加粒子砲の感触が、現実のように焼き尽くす。

全ては嘘の感覚だ。撃たれた様に見えても、それらは全てシンクロしているが故の作り物の体感。

けれども、シンジの心は、それを受け止めるには余りにも脆かった。

しかし、もう一人のパイロットも、そんなシンジの睦言を聞き届けるほど、情け深い人間でもない。

彼女はあっさりと、言ってのけた。

「じゃあ、寝てたら」

シンジは、余りにも淡々過ぎる口調に戸惑った。

「寝てたらって……」

「初号機には、私が乗る」

「え?」

「パーソナルデータの書き換えの準備。赤木博士が用意してくれたから」

「リツコさんが……」

唐突な言葉にシンジは戸惑う。

しかし目の前の少女は彼に対し、一考する時間すら与えない。

「じゃ、葛城一尉と赤城博士がケイジで待っているから」

「え……?」

「さよなら」

カシャリとドアが閉まる。

空く時も閉まる時も、音は一緒だ。それでも全ての空間が閉じられたように、少年には感じられた。

残ったのは、トレイの乗った食事と、空虚な気持ちだけ。

いや、空虚なのは彼女だろう。

シンジは確かに、そこに存在していると認識しても、何も感じることは出来なかった。

まるで空気のような存在、それが綾波レイ。

「どうしたらいいんだよ………」

何も出来ない。

レイともまともに話せない。

エヴァにも乗りたくない。

ここにずっと留まるのも嫌だ。

いやだ。

いやだ。

全てがいやだ……。

そう思いながら、絶望に打ちひしがれながら目を瞑ろうとしたその時、

ドアが、また開く音がした。

少し驚いて顔を上げると、そこにいたのは意外な人物だった。

「アスカ………」

「よっ! 見に来てあげたわよ」

レイと違って、彼女は何も持っていなかった。そのままズカズカと歩み寄って、近くにある見舞い客用の椅子に座った。

余りにも対象的なその態度に、またその行為自体に対する戸惑いとして、シンジは目を丸くした。

「……………」

「何よ、その目は。このあたしがお見舞いに来て上げてるのよ。ちょっとは嬉しそうにしなさいよ」

「え、あ……うん」

シンジからは何も話さず、ただうつむいている。

「まだ……どっか変?」

「え?」

「怪我のことよ」

「ああ……それは大丈夫…」

怪我のことを話していたのだ。

アスカが多少なりともシンジを気遣ってくれたと言う事。

それは自分にとっては喜ぶべきことだったが、シンジはそれに気付かない。

やがて、シンジがポツリと漏らした。

「アスカは……なんでエヴァに乗るの?」

「はぁ? 決まってんじゃない。世の中に私の実力を見せ付けるためよ!」

「そう……なんだ」

「あんたは違うっての?」

言われてシンジは黙ってしまう。

わからない。

だからこうして聞いているのだ。

「僕は……解らないんだ…」

「はあ?」

「突然ここに連れて来られて、いきなり化け物と戦えって言われて、僕はどうしたいのか………全部わからないんだよ………」

それを聞いている内に、アスカの表情は変わっていった。


「僕は……どうしたらいいんだろう…」

「知らないわよ」

それはちょうど、和樹が雷王に対して怒鳴り散らした時だった。

しかし目の前の少女は、彼を励まそうなどとは少しも考えていない。ただ、自分自身の真実を伝えるだけだ。

「アンタ馬鹿? そんな事を私がどうして答えないきゃいけないのよ。大体、私はあんたみたいに悩んだこともないわ。私はその為に生まれたんだから」

「アスカ………」

「私は関係ないわよ! あんたが乗ろうが乗るまいが、私は戦うだけ。どんなことがあってもね」

その為に生まれてきた。

その意味はよく理解できないが、それでもアスカの言わんとしている事はわかった。

自分で見つけろというのだ。

どんなことがあっても、泥を啜ってでも、一生費やしてでも。

言い終わった彼女は席を立った。もう出るつもりらいい。

しかし、ドアの前に立ったところでその足は止った。

「一応……今回は出なさいよ…」

その声質は、先程までと、少し違っていた。

「アンタに借り作られて、そのままって言うのは嫌なのよ………」

彼女はこっちを向こうとしなかったが、どんな表情をしているのか、なぜかシンジは知っていた。

耳の辺りが真っ赤になっているのは、目でも確認できた。

「あと……ガオファイガーもやられたわ。パイロットもこっちに収容されて、何やってんだか……」

そう言うと彼女は今度こそ、部屋をあとにした。

シンジはしばらく呆然としていたが、頭の中に入っていった言葉は、だんだんとシンジの心の中に入っていった。

和樹さんが……ここにいる!?

そう思った瞬間、少年はベッドから跳ね起きていた。





「ごめんね……和樹…」

「はい?」

和樹は戸惑った。

心配してくれる、と言うのは予想はしていたが謝られる覚えはなかった。

「どういう……事ですか?」

しかし彼女はなかなか次の言葉を発しなかった。

唇を噛んでいたのがわかった。

やがて…彼女が閉じた口を開いた。

「ファントムガオーの整備やったの……私なんだ…」

「え?」

人手が足りなかったので、何とか応急整備だけで済まそうとしたGGGの人達。

何人か人手を貸してほしいと言われた夕菜達だったが、そのとき立候補したのは玖里子だった。

『大丈夫、私に任せてよ。一通りのことは教えてもらっているし』

周りの人も彼女ならば安心と、思っていたのだが、停止したガオファイガーを調べている時、愕然とした。

ガオファイガー停止の根本の原因である、ショートしていた中枢回路。それは自分の担当した部分そのものだったのだ。

折しもそれは、ガオファイガーが使徒の触手に貫かれた瞬間である。

血の気が引いただけではない。いっそこのまま死んでしまいたいと思った。

「私の、所為で……ごめんね…和樹…」

和樹は言葉が見つからなかった。言っても励ませないのは知っていた。恐らくGGGの他の整備員の人たちは、原因を知っているだろう。だが決して責めたりは しないはずである。みんな良い人達ばかりだから。それが余計に玖里子の心を責めさせているのだ。雷王だって決して、玖里子の名前を出さなかった。

何とか励ましたい。元気な彼女に戻ってほしい。それでも言葉が出てこなかった。

和樹がそんな風に悩んでいる様子を、玖里子は知っている。それでも彼女は、目の前の少年にとって残酷な言葉を打ち出した。

「私……もう、辞めた方がいいかな……」

その言葉は、和樹の心を傷つける。

ゾンダーのどんな攻撃よりも、和樹の腹の中に響いている。

「私、皆の足ひっぱって…そんなのでまだGGGにいようなんて……」

「玖里子さん……」

「虫が良すぎるわよ………私…もう居たくない…」

その言葉を聞いたとき、和樹の中で、何かが波打った。

「止めてください……」

「和樹と一緒に居る事だって……そんなこと…」

「止めてください!」

余りの大声に玖里子は前を向いた。

その怒鳴り声は、先ほど雷王に対して言った言葉でもなければ、アスカがシンジに向かって放つ質の物でもない。

あくまでも真剣な表情だった。

ただ一心に、玖里子を正面から見ていた。

「そんなの嫌です……。玖里子さんが居なくなるなんて、僕は嫌です……」

「和樹……」

「玖里子さんだけじゃない。夕菜がいなくなっても嫌です。凜ちゃんや舞穂ちゃんがいなくなっても嫌です。父さんも紅尉先生も、高之橋博士も、居なくなって いい人なんていません! 少なくとも、僕の周りには」

玖里子はとても奇妙な感覚だった。

今まで体験した事のない。それでも、どこか心地よい。

「僕たちみんな仲間じゃないですか。さっき父さんが言ってましたよ。皆で支えて、一人で皆を助けるのが、仲間だって」

夕菜がGパークの観覧車の中で聞いた時と、同じだった。

「玖里子さんがいないGGGなんて………『みんな』じゃないです!」



心の氷を溶かす言葉だ。



「元気を出してくれ、なんて言えません。だけど、ここから姿を消すなんて、絶対にしないで下さい」



玖里子は、和樹の言葉に嬉し涙を流すだろうと思った。

けれども、玖里子はただ笑っていた。

自分でも驚くぐらいに、顔は笑顔だった。

「うん………わかった」





玖里子が笑っている姿を見て、和樹は一瞬ほっとしたが、自分が吐き出した言葉に、顔を赤くした。

自分が言った言葉の重みにいまさらながら気付いたらしい。

「ご、ごめんなさい……柄にも無いこと言っちゃって…」

そう言って、顔を俯かせようとしたその時。

「和樹」

和樹に声が届くと同時に、何か別の物も一緒に届いた。



暖かくて、柔らかい。それに、何かいい匂いがする……



「え?」



玖里子が自分に抱きついてきたと認識するには、しばらく時間が掛かった。





「く、玖里子さん!??!」

慌てて、振りほどこうとするが、うまくいかない。腕に力が入らなかったし、それ以外にも何かの力が働いているようだった。

「あの……玖里子、さん・・・」

「いいから……」

「い、いいからって……」

「また、戦いに行くんでしょ……」

言われて、和樹は一瞬返答につまった。

玖里子の体か震えている。

その理由は、和樹は十分すぎるほどに解っている。

「ちゃんと、戻ってこなきゃ駄目よ……」

それでも彼女は、この一言を紡ぎだした。

『戦うな』では無く、その逆の、恐らくは最も難しいであろう選択肢を。

「はい。戻ってきます、必ず」

ならば自分は答えねばならない。

それが、機動隊長としての、勇者王としての、そして何より式森和樹として、果たさねばならない義務だから。



「動くわよね。不自由な部分とか無いわよね」

「はい」

もう体は動くはずだ。和樹の脳波は、『全快』の信号を飛ばしている。

「目も、ちゃんと見えてる?」

「はい」

玖里子の顔が近くにある。少し顔が赤かった。

「鼻とか、耳とかも?」

「大丈夫です」

玖里子の声は、心まで響いている。

栗色の髪から、心地よい香りがする。

「手足も………それ以外の部分も?」



「はい…………はい!?」



ちょっと待て、それ以外ってどういうことだ?

和樹が聞き返そうとする前に、和樹の体は玖里子によって押し倒されてしまった。

「な、なななな何やってんですか!」 

「あはん。この感覚久し振り」

「ちょっと待ってください! どうしてこんなことするんです!?」

「保険よ。もし万が一アンタに何かあったら、出来ることも出来ないでしょ。だから、その為に、ね?」

「ね、じゃなーい!!!」

和樹は今度こそ必死になって振り解こうとしたが、上手くいかなかった。

四肢の間接を上手く極められてしまっている。

「今までの雰囲気ってモンがあるでしょ! さっきまでのは何だったんですか!?」

「大丈夫。その内大切なのは今って信じるようになるから」

「嫌だー! 未来も過去も大事にしたーい!!」

エヴォリュダーの力を発現させようとしたが、これも上手くいかなかった。

和樹は心の中で驚愕した。確かに私利私欲のためにこの能力は使えない。B組の連中から逃げる時でも、自分自身の足で逃げなければ成らなかった。

しかし、だからといってこれは酷すぎる!

「安心して。まだ作戦まで時間あるし、その気になれば何回でも……」

玖里子の目はマジだった。

(ひ、ひい!)

出会った時の目と殆ど変わらない。和樹は泣きたくなって来た。

自分の周りの人間は、何故こうも裏のある人間ばかりなのだろう。

さっきだって雷王に騙されたばかりだ。

自分は人に騙されるために生まれてきたというのだろうか。

余りにも無慈悲だ。





だが、そんな和樹にも、仏様は愛情をもって接してくれたようだ。

救いの女神、というか女神の皮を被ったようなものが現れた。

「「玖里子さん!」」

ドアを開いて、飛び出してきたのは夕菜と凜だった。

二人とも、怒りで顔が真っ赤になっている。

「玖里子さん! 何やってるんですか! ちょっと目を離したスキに!!」

「大丈夫か、式森!」

凜が引き離そうとする。しかし玖里子がそれよりも一瞬早く、ひらりとかわした。

「玖里子さん! そういう事は、妻の私の許可を取ってください! 出す気は無いですけど!!」

「そうです! なんと言ううらやま…いや、ふしだらな!」

「いやよ。和樹は私が独り占めするの」

その言葉が二人の少女に火をつけた。和樹がもっとも恐れていた事態である。

ベッドが跳ね上がったのを、和樹は感じ取った。





シンジは、和樹がいるはずの部屋を目指して歩いていた。

和樹もここに運び込まれたらしい。彼は怪我そのものは軽微だったそうだ。

なぜその人物の下へ行こうとしたのかは解らない。

が、何故か行くべきだと、体が、神経が、本能がそう告げたのだ。

彼ならば、自分のこのモヤモヤの正体を理解してくれて、そして何とかしてくれるかもしれない。

そう思っていたことも事実だ。

自然と歩く早さも早くなる。

「ここか………」

もしかしたら寝ているかもしれない。

慎重に扉を開けよう。そう思って小さく声を掛けた。

「あのー。碇です。和樹さ…」

ドゴォン!!

突 然馬鹿でかい衝撃とともに、轟音が、シンジの耳を貫いた。

思わず耳を覆ってしまうほどだ。

(まさか、何かあったんじゃ!?)

思わず、最初の考えも忘れ、勢いよくドアを開けた。

「和樹さん!」

しかしそこで少年が見たのは………





「あ、シンジ君……」





三人の美少女と絡み合っている、式森和樹の姿だった。



しばらく呆然としていたシンジだったが、時間が経つに連れてその重大さに気付いてくる。

それと同時に、真っ青だった顔に、赤みがさしまくっていた。



「ス、スイマセン! ぼ、僕……別に覗くつもりは……」

「い、いや違うんだよ! ひとまず落ち着いて!!」

だがシンジはおろか、言った本人すら落ち着いていないのである。事態の収拾は今この瞬間は、不可能だった。

「し、失礼しました! 僕、僕何も見てませんからね!!」

「いや、ちょっと!! ちょっと待ってよ!! 見捨てないで!! お願い! シンジ君! シンジ君!!!!」


和樹の咆哮が、基地中に響き渡った。





ヤシマ作戦決行まで、





あと、九時間と、三十八分。


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