「か、和樹!?」

「式森!?」

「そんな………」

夕菜達は再び愕然とした。ガオファイガーがプラズマホールドを突如として解除したのだ。また故障でも起こったというのか……

しかし確かめられない。今の閃光は、いくらかは離れている筈の三段飛行甲板空母にも影響を与えていた。

しかし、彼等の上司である長官は、その笑みを崩そうとはしなかった。

紅尉や、高之橋、華も同じだ。

「大丈夫だ。三人とも」

「「「え?」」」

「今のは、ガオファイガーが爆発したのではない。通常よりも光子を凝縮させた為に起こる、相互作用の爆発だ」

「手ノ押シ合イヲ続ケテイテ、片方ノ手ヲ離シタノト同ジッテ事カ?」

紅尉の説明を受けるのと同時に、凜の手元にあるスクリーンが回復した。

そしてそれは、紅尉の言ったことを立証する何よりの証拠となる。

「ガオファイガーは………」

凜は確認しようとしたが、ここで妙なことが起こった。

ガオファイガーがメインスクリーンには映っていない。

しかしセンサーは依然として、ガオファイガー健在の信号を送り続けている。



(一体どういう……)

けれども、その疑問を声に出す前に、ついに夕菜が絶叫した。

「ああ! ガオファイガーが……和樹さんは上にいます!!」





WIZ―03が天空から鳴り響く回転音に気付いた時にはもう遅かった。



ギュイィィン!!!!



上を見上げた時には、もうすぐそこまで迫っていた。



「うおああ!! ドリルニーーッ!!」




膝部の穿孔ドリルをフル回転させ、烈々な落下スピードを味方に付けた、ファイティングメカノイドが………



『ゾォオオンダダアーーー………』



ゾンダーバリアをまるで紙切れのように破かれ、WIZ−03は、またも脳天から、その巨体を叩き壊されたのだった………





「WIZ−03、エネルギーレベル・15までダウン! やった、和樹!!」

玖里子の叫びはGGG隊員だけではなく、ネルフ本部にも歓喜を与えた。

それは紛れもなく、過去の原種大戦の際、人々が抱いた勇者王に対する心酔の気持ちそのものである。

「さっすが、和樹さん!!」

「ふう……まったく、冷や汗をかいたぞ……」

凜は苦々しげに言ったものの、安堵の表情を浮かべている。

「やりましたね、長官!」

華の笑顔につられて、雷王も顔をにんまりと綻ばせた。

「まあ、結果オーライだな……」

「ケッ! 本当ハ嬉シインダロウニ、素直ニ喜ベンノカネ………」

「うるせえよ。ミレイ」



そう。

これが和樹の真に考えたことだったのだ。

プラズマホールドでは、あくまで敵の手を封じる事ができるだけだ。

本当に敵に決定的なダメージを与える必要がある。

そして考えたのが、両膝に付いているドリルニーだ。直接的な貫通力だけならば、ブロウクン・ファントムをも上回る破壊力を発揮する。

光の触手が閃光を放ったと同時に、ガオファイガーは既に展開させたウルテクエンジンでもって一気に上昇。そこから落下スピードも加え、見事敵の頭上に一撃 を抉りこむ事に成功したのだ。



「式森君は、あの一瞬の内に三百メートル近く上昇していた。そこから落下と共に打ち出されるエネルギー総量は、ブロウクン・ファントムのおよそ⒈2倍。ゾ ンダーバリアとて、ひとたまりも無いだろうな……」

まさに押して駄目なら引いてみろ、の言葉通りの奇襲攻撃だった。





「ふあ〜。なんとか上手く行った……」

『上手く行ってないわよ!!』

全身を汗でびっしょりと濡らして、グッタリと背もたれに体を預ける和樹だったが、目をつぶる事だけは憚られた。

「ああ、アスカちゃんか……」

怪我はない? と普段の彼ならば聞くところだったが生憎そんな余裕はない。

『まったく何考えてんのよ!! これだからスーパーロボットは…』

「ちょっと静かにしておくれよ…。もうヘトヘトなんだ」

「こっちだってヘトヘトよ!! もうライフルも弾切れよ。とっくのとうに」

罵詈雑言がなだれ込み続けてくる。

冗談じゃないと和樹は思った。何処がヘトヘトだろうか。

そしてさらに事態は悪い方へと転換して行く。

『ちょっと惣流さん! 和樹さんは疲れているんです。これからかくの摘出もしなければいけないんですよ!!』

『何よ、またアンタ!? 昼間もそうだけど、やけに突っかかるわねえ!!』

『どっちが突っ掛かってるんですか!!』

『アンタよ! 他に誰がいるのよ。西洋かぶれの宮間さん』

『ああ〜また言いましたね!!』


(はあ……よしてくれよ。シンジ君のいないところで)


『夫婦喧嘩は犬も喰わない』

そんな諺があったが、今の和樹に言わせれば、『女の喧嘩はハイエナも食わない』の間違いであろう。

何とか仲裁してやりたいが、今の和樹にそんな芸当は不可能だ。

(そうだ……シンジ君!!)

モニターを移し変えてみると、初号機と零号機は未だにライフルを構えていた。

早いところ援護に向かわなければ!

ガオファイガーがWIZ−03に向き直ったその時。



ビービービー!!



警報が鳴り響いた。





WIZ−03が恐るべき速さで再生を続けていた。

そして触手を発生させ、弐号機とガオファイガーに叩きつける。

余りの衝撃に、三段飛行甲板空母のモニターが揺れたほどだった。

昼間、ガオファイガーを貫通したような生ぬるい物ではない。正真正銘、強力な本気のパワーだ。

二体の巨人は、それぞれ二つの山に叩きつけられる。

『うわあ!』

『きゃああ!!』

余りに唐突な出来事に一同は声も出ない。

先ほどまでアスカと喧嘩していた夕菜はもちろん、凜や玖里子、華ですら言葉を失った。

「和樹!!」

辛うじて叫び声が出せたのは、少年パイロットの育ての親だけである。

「博士! 一体ドウナッテンダヨ!」

「敵の再生スピードが速すぎますなあ……」

できるだけ、何時もと同じように喋っていた高之橋だったが、心の中はミレイと同じぐらいに叫びまくっている。

こんな事はあり得ない筈だった。

昼の戦闘から考慮すれば、敵があそこまで大破したら、あのゾンダーの再生力ではここまで短時間の修復は行えない筈だ。

むしろ昼間よりも与えたダメージは大きかった。

事実、WIZ−03は脳天から胸の中心にかけて、パックリと裂けた状態になっているのだ。

「従来の再生とは違う、もう一つの方法を取ったらしいな……」

紅尉はこの状況下の中でも冷静さを欠いてはいなかった。一瞬驚きはしたものの、すぐさま原因の究明に取り掛かったのだ。



やがて作戦参謀は、一つの結論に辿り着いた。



(これは、再生とかのレベルではない……これは、そう!)

「あれは、『復元能力』だ!!」





その様子を、遠くから眺める影があった。

「ほっほう………」

「かなり面白いものを作ったわね」

賢人会議の最高幹部、新生された機械四天王である。

「で、あれはどういった代物なわけ? ガンベルク」

ベイオルの問いに、ガンベルクは無表情で答えて見せる。

「ゾンダーメタルに少し細工をした。体組織を変えても、魔法能力だけは失わないように、な」

「それじゃあ、あのゾンダーは……」

これには驚愕という感情を滅多に表さない機械四天王でさえ、動揺した。

「まだ実験段階だが、上々だろう」

「魔法とゾンダーの融合……というわけですなあ」

ギムレットの顔は変化しない。

始めから『笑顔』に設定されているのだ。しかしそれでも感情の起伏がないわけではない。

それが証拠に、彼の被る仮面はブルブルと震えている。

ベイオルに至っては、歯を食いしばっていた。前回の失敗が、そうさせているのだろう。

「ふん、あれでシキモリが死ななければいいけどね…」

自分たちの目的は『機械昇華』だが、アイツを殺してしまっては元も子もないのだ。

それは彼の望むものではない。

「実験段階だといっただろう。あれで死ぬ様な奴ではあるまい」

ガンベルクは少しだけ含み笑いをする。

だがそれに気付くものはいなかった。

もっと別のことを、思索していたからだ。



「そうね、もっと危ないのは………あの素体かもね」









「そんな……それじゃあ」

紅尉の説明は、皆を愕然とさせた。

確かに言われてみれば納得する。

あれは機械の修復というよりも、人間の怪我を治療するといった印象を受ける。

しかし、一つ疑問が残る。

「けれど、参謀。あれが魔法によるものだとしたら……」

華の問いかけは皆の疑問でもある。

そう。

あれが魔法だとするならば、そこから導かれることは一つ。

「そうだ、何回も続けられるものではない。恐らく、あとニ、三回が限度だ」



魔法は無限には使えない。

それぞれに魔法回数が決められ、使い果たしたとき、その肉体は灰となり完全な死を迎えるのだ。

この世界の常識、昔からの決まりごと、決して曲げる事のできない真実だ。

あれだけの巨体を魔法の力によって維持すれば、それ相応の魔力が消費される。それは少し考えれば誰もが辿り着ける答えだった。



『もう、敵にあの『復元』を使わせてはいけない。使えばそれだけ、素体の人間が死に近づくことになる』

「そんな……それじゃあ、どうしろって言うんですか…」

『とにかく、一発で仕留めるんだ。復元が発生しないうちに。式森君、いいな』

どうしよう。和樹は悩んだ。

もう同じ手は使えない。プラズマホールドと併用して、ようやく一撃を与えたのだ。敵だって馬鹿ではないだろう。警戒してくるはずである。

そもそもエネルギーがもう限界だった。

元々一個足りないGSライドを使って無理やりに動かしていたのだ。この分だと機体そのものがお釈迦になってしまう。

(あと一発……ヘル・アンド・ヘヴンを撃てるぐらい………)

さっき復元をされる前に撃っておけば良かったのだ。それを油断していたのがまずかった。

今使っても効果は薄い。敵は完全に復活してしまっている。

(どうする……どうする!?)

『こんちくしょ!!』

「アスカちゃん!?」

弐号機が起き上がって、いつの間にかロケットランチャーを構えていた。

一気にWIZ−03に畳み掛ける。

が、全てゾンダーバリアの前には無力だった。

本来なら、物を壊すには十分すぎる兵器。

しかし、その『本来』の機能は発揮されることなく、あと数十メートル近くで止まってしまう。

WIZ−03は砲撃が止まったのを見計らうと、触手を復活させ、弐号機にその全てを猛襲させる。

「うわあ!!」

アスカの腹部に激しい衝撃が走る。

鈍い金属音とともに、またもや弾き飛ばされそうになる弐号機。

しかし相手は、そんな甘っちょろい結果を出すつもりはなかった。






「ゾーーンダーーー!!!」

敵が、光の数を増やしていた。

計六本となった触手が、ガオファイガーに襲い掛かった。

「う、うわああ!!」

(そ、そんな……触手が増えるなんて……)

防御する間もない。

二方から奇襲する攻撃に対する手段などなく、ガオファイガーの全身が絡め取られてしまった。

さらにそれを、弐号機があった場所へと放り投げる。

それはちょうど、弐号機がWIZ−03に手によって、弾き飛ばされそうになる瞬間だった。





見事といっていいほどに空中でダブルブッキングする二対の人型機体。

「痛っつ……」

頭を抱えながら、何とか立ち上がろうとする和樹。

だがそこへ弐号機のパイロットの罵声が飛んできた。

『痛いじゃないの!! 私に恨みでもあるわけ!!』

「ご、ごめんよ……」

こんな状況でも良く喋っていられるな。と和樹は内心で関心はしたが、口には出さない。ようやく和樹の頭の中でも学習能力が働いたようだった。

ダメージはそんなに大きいわけではない。

しかし打開策がない今の状況では、必殺の一撃も同様だった。

使徒がゆっくりと、触手を振り回しながらこちらへ迫ってくる。

これ以上下がるわけには行かなかった。これ以上後ろに引けば、シンジたちに危険が加わる。そうすればあの六面体の使徒にも気付かれてしまう恐れがある。そ れだけは何としても避けねばならない。

『で、あれどうすんのよ?』

「ちょっと勝てないな……」

『なんですってえ! 良くそんなので、落ち着いて言われるわね! ある意味才能よ、それ!!』

「それは違うよ………」

落ち着いているわけがない。

むしろパニックのきわみだ。心臓は引っ切り無しに強く波打っているし、ぶつかった衝撃で頭はくらくらして、足はがくがく言っている。

それでも、なぜか声は普段と変わりない。

「アスカちゃんと、同じだよ……」

『私と……同じ?』







『アスカちゃんと、同じだよ』

最初は、おかしくなったのかと思った。

勝てないといっておいて、焦りなんかほとんど無い。

むしろ笑っている風にさえ思える。

まるっきり気違いの類か。そう思ってしまう。



だが、今の和樹のそれを聞いて、アスカも悟った。

彼が、勝てないといっても、口調を変えないその理由。

その真実、を



「諦めない、からでしょ!!」

『うん! そういうこと!!』

自分たちは諦めるわけには行かないのだ。

理由は違えど、二人とも、諦める事ができないから、今ここに立っている。

WIZ−03はそんな二人の気持ちを嘲り笑うように触手を飛ばす。

しかし、和樹たちは怯むことはしない。

「絶対に……」

「あきらめて……たまるもんかあ!!」





触手が今、届こうとした、その瞬間!





『その通りだ! 式森和樹君!』

「ガイン・ショット!!」





突如として上から、幾筋もの閃光が跳んできた。

それは寸分の狂いなく、触手に命中し、弾き飛ばす。

「な、何!?」

一瞬何が起こったのか理解できなかった。

諦めない、といって立ったものの、敵の攻撃は食らうつもりでいた。そこからカウンターを狙うつもりだったのだから。

あの閃光はなんだったのか………

だが、それの正体を、和樹はすぐに知ることになる。

「戦闘機に………あれは、ロボット!?」

和樹の前方には、WIZ−03をはさむ形でロボットが立っていた。その少し上空を、戦闘機と思しき何かが飛んでいる。よく見ると、二体とも新幹線を模して いるようだった。

そしてそこから、ガオファイガーのところに通信が届く。

「ヒーローにとって、一番大事なもの……それは、最後まで諦めないことさ!」







それは、彼らにとっての救いの手、そして、この戦いにおいて、勝利の道標だった。



そう。


彼等の名、





それは………勇者特急隊!


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