『シンジ君、早く撃って!』

「え、和樹さん!?」

『はやく!』

『なに言ってんのよ! 今撃っても敵に当たんないでしょうが!』

アスカが横から出てくる。

確かに充填は終わっているが、このままでは当たるはずが無い。誤差修正をロクにせず撃てば、このまま撃てば明後日の方向へ飛ぶだけだ。

が、和樹は構う事無くシンジに向かって叫び続けた。

『シンジ君! 僕を信じて!!』

『こらー! 無視するな!!』

シンジは、今はもう迷わなかった。

エヴァに乗るとか、逃げ出したいとか、そんなこと今は考えちゃいけない!

今は、早く彼女を……綾波を助けなきゃいけないんだ!

『あ、こら、何してんの、馬鹿シンジー!』

アスカの忠告を引きちぎり、シンジは一身にスイッチを押した。

奇跡を信じて………





「いまだ………」

シンジがライフルを発射した。やるのは今しかない!

チャンスは一瞬!

「玖里子さん、お願いします!」

『任せなさい!!』

玖里子は目の前のキーボードを叩く。

それと同時に、三段飛行甲板空母のハッチが開いた。

ディバイディングドライバーを射出するのに使ったミラーコーティング仕様の物だが、今回使うのはそれではない。

ディバイディングドライバーとは対を成す、もう一つの空間湾曲ツール………いや、空 間回転ツール!

その名は、

「ガトリング・ドライバー、射出!」

玖里子がエンターキーと叩くと同時に、カタパルトから銀色の光を帯びた棒状のものが飛び出した。

そしてそれは寸分の狂い無く、低空飛行するガオファイガーの左腕にコネクトする。



「うおおおおお!!!!」

そうだ。まだ我々には残されているものがある。

ガトリング・ドライバー、そして、彼の勇気が!



「ガトリング・ドライバー! 重力レンズ展 開!!」



ガトリング・ドライバー

空間を湾曲させ、それを一定の感覚と時間で固定するディバイディングドライバーに対し、これは湾曲した空間を能動的に回転させる特殊フィールドを展開して いるのだ。

これを応用すれば、空間を捻じ曲げ物体を収束させることができる。シンジの放ったポジトロンライフルは、あたかも炎の光が虫眼鏡で集められるように、使徒 のボディ本体に一点集中したのである。



キュイイイ!!



もはや、ATフィールドは意味を成さなかった。発生した瞬間すらわからず、その巨体をブチ抜かれ、第三新東京市の中に、沈められた。



「よっしゃあ!」

思わず、喜びの絶叫を上げるミサト。

だがシンジは使徒が沈黙したのを確認するや否や、ライフルを放り出し、すぐに零号機に駆け寄った。

ボディは焼け爛れ、色も所々が剥がれ落ち、端々が炭化してしまっている。辛うじて『これは零号機だ』と判別できる程度だった。

「綾波!」

背中のカバーを無理やりに引きちぎろうとする。

が焦ってしまって上手く行かない。集中力を欠いていた。

(早く、早くしないと!)

このまま何ていやだ!

彼女が死ぬ理由なんて無い。彼女が別れ際にさよならを言ったのはこういう事だったのか?

絶対にさせない、絶対に助ける!

それは、傍にいる、黒金の勇者達にも伝わった。

『よっと……』

「和樹さん……」

ガオファイガーは肩を押さえながら、前に倒れこもうとする零号機を前から支えた。

そのまま視線を横にいる弐号機に向けた。

『僕が支えるから、アスカちゃんはそっち持って』

『解ってるわよ………』

しぶしぶ、といった印象は受けるが、嫌々やっているわけではなさそうだ。むしろ言葉とは裏腹に、積極的に機体は動いているようだった。

「二人とも、どうして………」

『いいから、さっさとプラグ抜きなさい。手遅れになるわよ!』

「アスカ……」

彼女の言葉は乱暴だったが、どこか優しかった。

『シンジ君、君に降りる気なんて、ないんじゃないの』

「え?」

『この戦いが終わって、君が出てって、その後で、この倒れた機体を見たら……』

「!!」

『君は、絶対に後悔するよ』

「和樹さん………」

『君はここにいるべきなんだよ。どんなに嫌だったとしても、その後怒ることのほうが、ずっと嫌なんだよ!』

彼の言葉が、彼の心をすべて吹き飛ばしていた。





一瞬の静止だった。

だが、シンジは、次の瞬間カバーを引き千切っていた。エントリープラグを引き抜き、ゆっくりと地面に下ろす。おびただしい量のLCLが噴出した。

シンジ自身も初号機を降りて零号機のプラグに駆け寄る。大切な人のものへと。

「綾波!」

敵の砲撃の熱はエントリープラグの中までも侵食していた。金属のはずの白い部分が融解している。

「こうなれば児童では開かない。主導でやるしかなかったが、プラグのハッチは相当過熱されているはずだ。触れたらば火傷は免れない。

だが少年は迷わなかった。躊躇すらしない。ハッチを空けるためのレバーを触れた。





「うっ…ぐううう……」

熱いだけでなく痛い。このまま続ければバラバラになってしまいそうだ。

だがシンジは止めない。この中には仲間が、レイがいるのだ。

ゆっくりと、硬く閉じられたハッチが開いた。

急いで中に入り、そこにいるはずの人を求めて呼びかける。

「綾波!」

いた。グッタリと壁にもたれかかっている。意識が無いのだろう。いや、もしかすると………

そんなのはいやだ。考えたくもない!

頭を掠め続ける幻影と嫌な予感を振り払いながら、シンジはレイを抱え起こす。

その白い肌からは更に血の気が失われ、額からは血が流れていた。

「綾波! 綾波!!」

シンジは必死に呼びかける。

やがて、その眼がゆっくりと開かれた。

「綾波!」






その時、彼女の瞳には何が見えたのだろうか……

いつも彼女に微笑み掛ける、ネルフの司令だろうか…

いやそうではない。その笑顔の質こそ同じなれど、その眼から流れ落ちるものはまったく違う。

不思議な、温かみに満ちていた。

「別れ際にさよならなんて……悲しいこと言うなよ……」



彼の息子だからだろうか………自分に対してこんな表情を見せるのは。



同じエヴァのパイロットだからだろうか、自分に対してあんな涙を見せるのは……



「自分には、もうそれしか無いなんて……悲しいこと言うなよ…」



そう言うと、目の前の少年は自分の出した涙に続いたのは、むせ返り始めた。



「どうして泣くの……」



馬鹿だ。レイは柄にも無いことを思う。


そんなことは解りきっている。



それが『彼』だからだ。

心は弱くて脆くても、それが彼なのだ。そんな事は解りきっているじゃないか。

初めて彼がエヴァに乗ったとき、怪我する自分を必死に支えてくれたのだから。

けれど、

「ごめんなさい……こんなときどんな表情をすればいいのか、私には解らない…」

やっぱり私は馬鹿だ。本当に、どうしようもない位馬鹿だ。

自分が情けなくなってくる。こんな事すらわからないなんて……



けれども、少年は笑いながら言った。

まだ眼には大粒の雫を浮かべても、

それでも、精一杯の笑顔で………





「笑えば………いいと思うよ……」





次の瞬間、少年が見たそれは幻だったかもしれない。

ほんの一瞬のことだったから、

しかし、シンジにとっては、それは紛れもない事実。

何者にも勝る真実だった。



綾波レイの、笑顔は………





「どうしたの?」

「え、いや、なんでもない!」

『シンジ君! 彼女は?』

「あ、ハイ大丈夫です!」

慌てて和樹に連絡を取るシンジ。しかし顔が赤かった。何故だろう……こんなこと、今まで無かったのに……



だがシンジは途中で考えるのを止めにした。



とりあえず、外に出よう。

そして、とりあえずはこのまま……

そう思うと、また迷いが出始めた。自分はこのままここにいてもいいのだろうか。和樹はそのほうが後悔するといったが、逃げた方が楽になるのではないか。



多分、両方あたりだろう。けれど間違いでもある。この先自分は迷い続けるかもしれない。だが、その時にはまた今のことを思い出す。そうして戦い続けるだろ う。

奇妙な確信を、月明かりが照らしていた。








「ええ!もう帰っちゃうんですか?」

『うん、俺達の役割はもう終わったからね』

『安心してくれ。地球の危機があれば、必ず私達も駆けつけよう』



それが彼等の言った最後の言葉だった。

「いい人たちだったな…」

『そうですね』

『さあ、私たちも帰りましょう』

「うん、色々と、今回は疲れました」

『安心しろ、式森、スタミナ切れにならないように、みっちりしごいてやる』

「ええ!?」

凜の声は妙に明るい。が、戦いが終わった後の勇者にとってそんな明るさは返ってマイナスだ。

『凜さん、私からもお願いします』

『ちゃんとしごいてやってね』

「そんなあ〜」

GGG隊員全員からどっと笑い声が沸き起こった。だがそんな馬鹿騒ぎも、月明かりは優しく映してくれる。

そう、光は平等に降り注ぐのだ。





どんなものであっても………





「あ〜あ、やっぱり無理だったね」

「情けないですね〜」

「ま、こんなもんでしょ」

機界四天王は、一部始終を見ていたのだ。

ベイオル、アヌレット、そしてギムレットが夜の闇へと溶け込んで姿を消す中、ガンベルクは、倒れたエヴァンゲリオンをずっと凝視していた。

「やはり、共鳴反応など起こるはずもないか……」

(緑の星と、青の星のテクノロジーがリンクするという護様の仮説は外れたのか?………)

「いや、これも彼の考えのうちかも知れん……」

そう言うとガンベルクも、差し込み始めた朝日から逃げるように姿を溶かした。





ついに、人類は最大級の危機を乗り越えた。

だが、戦いがまだ始まったばかりであることも、忘れてはならない。








あとがき



君たちに、最新情報を公開しよう!

新型AIロボットがついにロールアウトされた。
だが、隊長の言葉に従わぬ彼等に、またも和樹は心を乱される。

そして、時に出現する新たなる敵、WIZ−04によってファイナルフュージョンを封じられ、通信手段も途切れたガオファー。
果たして、和樹の勇気は、彼等の心に届くのか!?


まぶらほ〜獅子の名を継ぐもの〜、NEXT『木と土』

次回も、この小説にファイナルフュージョン承認!

これが、勝利の鍵だ!『ビークルロボット』



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