GGGのAIロボットの特徴は大まかに分けて二つあった。
「これより、シンメトリカルドッキングのシュミュレーションを行う」
人間に近く、それでいて機械と同じ性能を持つことで、柔軟かつ的確な行動を取ることができる。
機械は教えられた行動に関して、質に忠実に働いてくれる。地上ならいざ知らず、宇宙にいるザフトのモビルスーツにいたっては言うまでも無いだろう。
「木竜、土竜。準備はいい?」
「何時でも……」
「OKだぜ!」
但しそれは裏を返せば、それ以外は何もできない、教えなければどんな手段も考えつけない子供と同じなのだ。
AIロボットならそういった問題は解消できる。ある程度の基礎知識さえ与えれば、後は自分達で学習できる。論理的思考の上に、しかも記憶容量や効率の良さ
は人間の比ではない。
「よし、シンメトリカルドッキング……承認!」
「「シンメトリカルドッキング!!」」
何も戦闘用や災害救助用としてだけではない。工事の作業用ロボット、介護用や、果てはレジャー関係のものまで応用できる万能家が出来上がるのだ。
「土竜シンパレート、92、89、87、82……駄目です、70を下回りました!」
「木竜、同じくシンパレート下がっているわ! ドッキング不能!」
「ぬおおお!!」
「ぐうううう………」
だが、盤上の計算のように上手くいかないのが人生であり、この世の鉄則の一つだ。
映画の話ではないが、ロボットが暴走して人間に反旗を翻す可能性をまったく否定できないわけではない。
ある程度行動を制限しつつ、それでも人間に近く接しなければならない。AIロボットが秘密裏に開発された影の理由がこれである。(影というのは、結局
GGGは秘密組織だから、公表したくてもできないというのが現状だからだ)
「くおおお!!」
「うおわあ!?」
そして、もう一つ重大な欠点があった。
「シンメトリカルドッキング失敗」
「爆発の危険性は………ありません」
「シュミュレーション終了します。各部損傷度チェック中……」
人に知覚するということはそれに近い感情をも持ってしまうということだ。それは避けられないAIロボットの宿命だ。
それが最大の長所ともなり究極の弱点でもある。
「また……失敗ですか……」
「ええい、くそっ!」
「そんなにあせっちゃ駄目だよ……紅尉先生」
「なんだね? 式森君」
「今日はここまでで、いいですか?」
「隊長は君だ。君が決めればいいことだよ」
「じゃあ、二人ともお疲れ様」
先ほど書いたように、機械の最大の利点は与えられた指令を完璧にこなせるということだ。
しかし、その鉄則が崩されてしまう原因にもなってしまうのが、『感情』という新たに加えた機能だ。
感情の導入で、人間の柔軟な発想や行動を行おうとしたプロジェクトではあったが、同時にそれ故起こってしまう人間特有の不器用さまでコピーしてしまうこと
がある。
今失敗した、シンメトリカルドッキングのシュミュレーションも、それによって生まれた産物だったという訳だ。
第四十六話 その名は斬竜神(問題提起編)
「これで何回目だっけ…」
「確か、十一回目だったと思います」
神城凜は冷静に答えて見せる。これは今の状況から考えればかなりすごいことだ。
この部屋はビッグオーダールーム。
GGG中央司令室にメインオーダールームのさらに地下に存在する作戦司令室であり、その作戦を立案するための巨大会議室でもある。
この部屋は、AIロボット達のための専用座席やデータ入出力用端子も設けられていた。
木竜たちにとっても空間的にゆとりのあるほどの広さを有しているのは、AIロボットも一人の人格として認めている事の証明でもある。
更に会議に至って彼等は、立案された作戦が不服であるならばこれを拒否し、代替案を提出することを認められているのだ。
「身が持たないわよ〜。こんなに続けてたら」
玖里子がデスクに突っ伏しながら溜息と共に言った。
それを見た双子型AIロボット、木竜は申し訳なさそうに頭を下げた。
「すいません。我々が不甲斐ないばっかりに……」
「ああ、別に責めてるわけじゃないのよ……。ただ疲れた〜って感じで………」
手を振って気を使うな、ということをアピールさせようとしたが頭は以前デスクと接吻している状態なので、余り説得力は無い。
双子の弟の方も、さすがに荒っぽい性格を押さえて心の底から謝罪した。
「いや、二人が疲れているのは分かるぜ。脈拍や心拍数の変化が著しいからな……」
「気を使う必要は無いぞ。疲れるのは慣れている」
だがそう言っている本人も言葉に節々に疲労の色が窺えた。
凜は物の怪退治で今以上に体力を消耗するし、玖里子だって会社の運営や生徒会への陰の暗躍など神経を使う仕事だ。
だがこういったオペレート関係の仕事は今まで体験した事の無いまったく未知の物だ。夕菜も含め、天才肌の三人だからここまで来られたようなものである。
「それにしても……なんで上手くいかないのかしらねえ……」
「仕方ありませんよ。ファイナルフュージョンよりもさらにデリケートな作業ですから……」
その会話がよほど居心地が悪かったのか、土竜は隣にいる相方に向かって叫んだ。
「お前、もうちょっとシンクロしようとか思わないのか! そんなに僕が嫌いか?」
勿論こんなことを言われては以下に冷静な木竜といえども耐えられるはずが無い。
『可能な限り』語気を抑えて、徹底抗戦の構えを取った。
「私が公私を混同するような構造に見えるか……貴様こそ、失敗の原因が自分にあると早々に自覚するがいい」
凜と玖里子は重い頭をさらに重そうに上げながら二人のロボットを上げた。
幾らビッグオーダールームでもこれだけの巨体が叫べば五月蝿い。しかしそれを苦にしているようには見えなかった。
「完全同型のAIで、僕だけが不完全なはずが無いだろう! 一度総点検した方がいいな」
「………どうやら追加装備で、AIまで軟化してしまったようだな!」
「そっちこそハードゥン・システムのせいで、脳味噌がカチンコチンなんだよ!!」
「我々に脳味噌があるか!!」
「比喩表現だ、タコ!!!」
もはや最初の話題などそっちのけで、喧嘩してしまっている二人。
だが玖里子たちにしてみればこの風景はもはや見慣れたものだった。
俗に言う『喧嘩するほど仲がいい』と言うやつで、喧嘩してもどうせすぐに収まるというのはGGG隊員であれば誰もが知っている。
「でも、まったく同じに育てたAIがこんなにも両極端になるなんてね」
と言ったのは和樹だったが、それは新しく入ったGGG隊員全員の疑問だった。和樹に対し不満を言ったとき、二人の息が合っていたのはまったく稀な事だと言
う。運がいいのだか悪いのだか分からない。
しかし話によれば旧GGGのAIロボットも双子型でこんな物らしい。性格が正反対で事あるごとに衝突するのはお約束と言ってもいいほどに当たり前の事だっ
たそうだ。
違う属性の装備のせいだとか、カラーリングが原因だとか色々はなされてきたが、具体的な理由は分からない。人間の脳に不鮮明な部分が多いように、AIに
も、未だに謎が多く含まれているのである。
「放っていてもいいでしょうか?」
「どうせ止めたって止まらないわよ」
その合間を縫って玖里子はキーボードを叩き始めた。
襲い来る睡魔を必死にプロテクトウォールで防御しつつ、ブロウクンファントムで撃墜する。単純な様でかなり困難な作業だ。
その作業の内容は無論先程のシュミュレーションの判定と、失敗の原因究明である。
このシュミュレーションは絶対に成功させなければならないものだった。失敗してもいい実験など始めから存在しないのは当然だが、その中でもこれは今GGG
が最優先で進めなければならないものだ。
人類を守るための要ともいえ、GGGが『防衛組織』である事の集大成でもあるのだから。
「そりゃま、いきなり成功するとは考えてないけどさあ」
過去のデータを見ても、これを苦も無くやって見せたと言う例は無い。難航するのが眼に見えていたとはいえ、やはりがっかりするものがある。
二人のAIロボットの同調シンクロ率―――シンパレートが80%以上になった時,シンメトリカルドッキングは可能になる。だがAIロボットが人の心を持つ
以上、心をシンクロさせろといきなり言っても無理だ。
普通のOSを組み込んでしまえば、合体は不可能だし第一AIロボットの利点が失われてしまう。それでは本末転倒だ。
「もう止めましょう。愚痴っているとまた喧嘩が始まります」
凜が閉めて終わったが、やはりもモヤモヤしたものは残っている。
当の双子はベーコンとルソー、どっちの思想が正しいかということにまで達していた。あくまで二人は真面目にやっているのだからある意味大したものかも知れ
ない。
「ここは、和樹に頑張ってもらうしかないわねえ……」
そういった直後、玖里子のデスクに通信が入る。通信回線は彼女の管轄でもある。
「どこからですか?」
「さあ………国際警察……機構?」
それが、新たな戦いの火種になろうとは、いまだ知る由も無かった。
「ははあ〜…また失敗ですか」
高之橋は頭を掻きながら一生懸命に困った顔を隠そうとした。
「ごめんなさい、博士」
「いやいや、誰のせいでもないよ。無論、あの二人のせいでもね」
あの二人とは勿論木竜と土竜のことだが、それでも和樹が我が事のように落ち込んでいるのは止まらなかった。
「けどまあ……」
横から雷王が口を挟む。
宇宙開発公団の仕事を途中で抜け出してきたため、長官の服ではなく、総裁用のスーツだ。雷王は外見だけならとても若く見えるから、こういう歳をとって貫禄
が出てから着る服は基本的に合わないはずだった。
けれどもそこは縫った人の腕の見せ所らしく、いかにも総裁らしい雰囲気が出ている。
「シンメトリカルドッキングで手間取るって言うのは、ちょっと予想外だったなあ」
そう言うと彼は、ガラス越しに見えるガオーマシンを見上げた。
ドリルガオーU、ステルスガオーV、そしてライナーガオーU。全ての整備は順調だった。ウルテクエンジン、GSライド、共に正常に稼動中。
但し……一箇所だけ、文句無しの判を押すには不十分なツールが存在する。
雷王は勿論、高之橋、そして和樹の視線は自然とそこに移っていた。
「コイツが使えないことには、はっきり言って対処の仕様が無い」
「ザフトとか、他の組織も攻撃するから?」
「まあ、何時まで放っておいてくれるのか、っていう疑問はあるな」
和樹たちは知らないことだったが、ザフトに奪取された連合軍の五体の新型機動兵器は、同じく中立であるオーブにある会社―――モルゲンレーテに発注して作
られたものだった。
中立だと言っておいて、それだけの物を作った。ザフトは今、疑心暗鬼というわけだ。日本に攻め込む可能性も捨てきれない。
おまけにガオガイガーを始めとする機動部隊の噂もそろそろ上層部に入ってくる頃だろう。それで無くとも情報が漏れているということも玖里子から聞いてい
た。
連合が軍に加入しろと、迫ってくることもありえる。
「たまにネルフが羨ましくなってくるぜ。司令のクソ親父はいけ好かないけど」
ネルフは世界各地に支部を持つ国際的な組織だし、国家とは独立して動いているから、文句を言われる筋合いは無いわけだ。そういった点では遥かに動きやす
い。
(まさか、仲丸達がザフトに自国情報を流すなんて事は………)
ふとそんな事が頭をよぎったが、すぐに追いやった。いくら彼等でも国を売るなんて真似はしない筈だ………と思う。いや、そう信じたい………。
「オーイ、雷王!」
鳥にしてはやけに低い声、ミレイが飛んできたので、和樹は嫌な想像から意識を離す事ができた。
「どうした?」
「中条長官カラ緊急通信ダ。皆メインオーダールームへ集合シテクレッテヨ」
「中条のおっさんから?」
「それは久し振りですなあ」
またも和樹は状況に一人取り残された。知らない人物が話の中に出てきたのはこれで何度目だろうか。
口ぶりから察するに旧知の間柄らしいが。
「ところで何でお前が来るんだ? 直接連絡すればいいじゃないか」
雷王の質問は彼にしてみれば至極当然のことだったが、ミレイはまた声をしかめる。
「オマエガ電源切ッテタンダロ。電池ガ切レタラ、サッサト言エ」
「あ、そうか」
「中条長官って?」
「今話すと面倒だ。和樹は念のため、ファントムガオーに乗り込んでおいてくれ。いつでも発進できるようにな」
「わ、分かったよ………」
やっぱり一人分からぬまま、置き去りにされることになりそうだった。なんとなく拗ねる気分になってしまう。ちょうど子供が親に放っておかれた気分に似てい
た。
彼等とは反対方向にある、ファントムガオーの搭乗口へと走り出した。
やがて見えなくなると、高之橋は沈痛な顔つきになる。彼にとってはとても珍しいことだ。
「今度はBF団ですか……、また大変なことになりそうですなあ」
連絡してきたのは国際警察機構。と言うことはそこから導き出される答えは一つだ。
「中国に行く途中に、もし賢人会議が現れたら……」
いくらGGGでも対応できない。そう思ったが、隣にいる長官は軽い態度を崩さなかった。
「心配するな。あいつ等がそんな手段を取ることは今はありえない。今は絶対にな……」
先ほどまで、ザフトや他の組織がでてくる可能性をあれほど示唆していたのに、賢人会議に関してはいたって感嘆に切り捨てる。この態度を和樹達が見れば確実
に疑問に思い。次の瞬間、詰問口調になることは間違いないだろう。
だが、彼等はまったくそれを疑問に思わない。
「ヨオ、話サナクテイインダヨナ」
「当たり前だろ」
一瞬雷王が表情を曇らせたことに、その理由の一端があることは言うまでも無かった。
「何で国際警察機構がGGGに?」
例によって、舞穂の検査とそれに付き合っていた夕菜が紅尉に説明を求めた。
もちろん彼女達はとっくにメインオーダールームからの連絡をもらっていたから今は移動中である。
「国際警察機構って、多様化する犯罪者を取り締まるための組織でしょ」
「その通り」
舞穂の理路整然とした説明に一瞬夕菜は目をむいたが、すぐに理解した。
親の都合で住居を転々とし、中国にいたこともある。国際警察機構の本部、梁山泊があるのは当然中国なのだから、知っているのもこれまた当たり前といえた。
廊下を曲がり、突き当たりにあるエレベーターに乗る。これで一直線にメインオーダールームに行ける。
夕菜たちもそれに続いた。
「だが、それはあくまで表向きの顔なのだ。その実態は、我々に勝るとも劣らぬスペシャリストの集まりだ」
「スペシャリスト?」
「それらは通称『エキスパート』と呼ばれている………もう着いた様だね」
ドアが開けば、そこにあるのは夕菜達の仕事場だ。
もうすっかり日常の一部になってしまった、見慣れた風景。
「遅れてすまない。状況は?」
「状況モ何モ、俺達モ今着イタトコダヨ」
ミレイが怒りもあらわな態度で言う。どうやら雷王の不始末をまだ気にしているようだった。
しかし雷王はまったく悪びれた様子をしていない。まったく持ってポジティブだ。ここまで来ると気にしていると言うより、呆れているといったほうが正しいだ
ろう。
「大丈夫。中条のおっさんなら待ってくれるさ」
「ソウイウ問題ジャ……」
「ミレイ。すまないが、論議は後だ。風椿君、向こうとの連絡を」
「はい」
玖里子も早くこの果てしなくくだらない言い争いから脱出したいらしく、心なしかその操作はいつもより早く見えた。
数十秒もしないうちに、スクリーンは起動し、国際警察機構との連絡体制が整ったのである。
『久方ぶりだな。紅尉君、それに雷王』
中条と呼ばれる男は四十代ぐらいに見えた。ダークスーツに黒のネクタイ、それにサングラスをつけ散る。まるで葬儀屋のような格好だったが、全身から発せら
れるオーラと貫禄は機械越しでも渋みを与え、陰湿な雰囲気はまるでない。
雷王とはまた別方向で、リーダーの素質が伺えた。
『随分と面子が変わったようだが、その話をするのはよそう』
「おいおい、少しは話を聞いてくれよ。こっちはあんた達に匹敵する人材をそろえたんだ。それに華があっていいだろ。どっかの後宮みたいでさ」
『時間が無いと言っただろう。そこまでの人材がそろっているなら、機動部隊も充実していると見たが?』
その言葉を聞くや、雷王は傾けた体を前に乗り出させた。
「中国へ来てくれってか? 俺たちは保険会社じゃないんだぜ。そこまで援軍を欲する理由は何だ?」
さっきまで軽口を叩いたのが一瞬にして真剣な態度に早変わりした。
雷王の長官としての能力のいったんはここにある。平時は軽い態度で周囲の緊張感を和らげ(和樹のように振り回されることもあるがリラックスするということ
に変わりは無い)必要時には一転して、そのまっすぐな姿勢で隊員の冷静さをキープさせる。
その身構えの仕方の変わり目を見切ることができる人は意外と少ない。早すぎれば緊張のあまり、ミスが起こる可能性は高まり、遅すぎればそれは怠惰となる。
もちろん全員がそうと言うわけではない。だが夕菜や玖里子、凜の様なメンタル面で一抹の不安がある若者にとって、それは確かに目に見える形となって表れる
はずだった。
それを知ってか知らずか、中条長官はサングラスをきらりと光らせる。
「我々は今、ある人物を保護しようとしている。これからの地球の明暗を左右するといっても過言ではない」
「それほどの重要人物を、今まで放っておいた理由が分かんないな」
「BF団はその事実を長く隠していたのだ。博士の身柄と共にね。それに気付いたのはつい最近だ」
情けない、と言うように中条の口からため息が漏れる。だが雷王はそれを追求しようとはせず、事態の解明に努めようとした。
「それはもしや……」
「そう、シズマ博士だ………。BF団に狙われていた」
シズマ博士!
その名を聞いたとき、叫ぼうとするのを必死でこらえたのは、何人もいただろう。
完全無公害、絶対リサイクルのエネルギーシステム。『シズマドライブ』の研究を完成させたという事実は、子供でも知っている。
「BF団から救出したのはつい数日前の事。彼が我々の完全な保護下に入るまでには時間がかかってしまう。こちらのエキスパートと合流し、彼らを手伝ってほ
しいのだ」
彼の態度はほとんど代わりを見せなかったが、それでも追い詰められていると言うことは読み取れる。
それを察した雷王の決断は早かった。
「分かった。すぐにでも座標を送ってくれ。機動部隊を行かせてやる、45分もあれば十分だ」
「すまない。それまではこちらで持たせる。一応こちらも、お前のいう保険はかけてあるが………」
「分かってるよ。それじゃあな」
通信が終わると、メインオーダールームは静まり返ってしまった。それまでの平穏が一瞬にして緊迫のある、戦場へと代わりつつあるようだった。
やがて、雷王が口を開いた。
「夕菜ちゃん。和樹達にいつでも出撃できるように、連絡を取ってくれ」
「はい、えっと……それで、BF団って?」
「世界征服をたくらむ秘密結社だよ」
「はあ?」
あまりにストレートな物言いに呆然とする夕菜だったが、雷王説明を続けようとした。そういう反応だろうと予測したからだ。
「なまじ力があると、どうしてもそう言う考えを持つ者は、出てしまうんだよ。それに反発する者もな。BF団はその思想の連中の集まりなんだ」
前にも書いたが、古来から人間は魔法とともに生きてきた。それが身分を決めてきた社会は一つや二つではない。ならば、それに弾圧されてきた人々が決起して
反乱を起こす例も無数にある。
BF団はそれらが集まってできた組織なのだという。
「彼らは……人間なんですか?」
「ああ」
「起源は古代中国にまで遡るとまで言われる。誰にも干渉せず、干渉されない。故にその能力は、今まで水面下で争ってきた国際警察機構だけだ」
そこから言ってきたのは紅尉だ。彼も手元の機械をいじっている。
「何で国際警察機構だけが、戦ってるんですか? ザフトで連合は手一杯だから?」
「そうではなく、信じようとはしないのだ」
ますます意味の分からぬ作戦参謀もとい養護教諭の言葉に、ただ驚くばかりだった。
「あ、GGGが動いたよ。今、三段飛行甲板空母が出た」
ベイオルがフードの奥を光らせながら言った。ぼそりと呟くそうな声だったが、それでも中にいるものにとってはこれで十分だった。
「そうか……では、そろそろ我々も行動を移さないとな」
「フハハハハ、ようやく私の出番ですねえ! まったく、ゾンダーメタルを埋め込む順番の私が最後なんてイケませんねえ………」
「文句があるなら止めることだな。貴様の代わりなど幾らでもいる」
今までより一層低い声だった。
ギムレットの戦闘能力は強大なものだったし、知恵者でもある。
だが、彼はこの男がなんとなく気に入らないのだ。ちっとも落ち着く様子を見せずに騒ぎ立て人の神経を逆撫でさせる。おまけに言動から見れば、本当に忠誠を
誓っているのかさえも怪しいものだ。
「おおーっと、それはもっとイケませんねえ。がんばらせていただきまっすよぉ!」
そういうと、機界四天王の一角は骸骨のような体をピエロのマントと魔女のかぶるような帽子、そしてローブを纏い、壁の奥に消えた。
一度の静寂を過ぎ去ると、ガンベルクも踵を返そうとするが、それを静止された。
「ガンベルク、あんたもよく突っかかるわね。一種の才能よ」
壁に手を着き、もう片方の手を腰に当てながら、アヌレットは顔をしかめた。ドレス姿の彼女がこんな姿勢をとっているのははしたなく思えるが、それも風雅に
見える。
「ふん」
ガンベルクはそっぽを向いて反応しようともしない。
もうこれで何度目か数えるのも馬鹿馬鹿しい。というよりも二人の喧嘩自体が馬鹿馬鹿しい。しかし二人は一向にやめようとしなかった。二人はこうしなければ
生きて行けないとでも言うのだろうか。
ため息をつくのも何度目か数えるのが億劫だったので、早めに頭から切り捨てることにした。
「でも、今回はやけに険悪じゃない。どうして?」
ベイオルが心底不思議そうに尋ねた。
ベイオルもどちらかと言うとガンベルクのほうが好きだった。真面目で、何より自分を子ども扱いしないのだ。
今回も、怒りが抜けずぶっきらぼうではあっても、その問いには答えてくれた。
「我らの理想に近づくため、此度の計画は必ず成功させねばならぬ。それをあのような者がやるのが、私は我慢ならんのだ」
「そりゃ計画は分かるけどさ。そんなに重要なの………式森和樹を負けさせることが?」
「そうだ。ただ機界昇華を行うだけなら、彼の願いは叶えられない。そのための準備期間の中でも、これは絶対に外せない」
彼の声には、信念がこもっていた。
そうだ、たとえ私がただの駒であっても、彼のために尽くそう。それの私の生き様だ。
その後姿を、機界生命体の姉弟はただ見つめているだけだった。