中国………
二つの大河によって構成される大陸は、世界有数の壮大な文化を有している。
近年では、様々な発明家を生み出し、いまや一流の先進国の仲間入りを果たしていた。
だが、それを影で崩さんとする黒い影がある。
森林を走り続ける列車の中で、一人の男がその上に佇んでいた。
いや、その言い方は適切ではない。追い詰められていた。彼の前には赤い覆面を被った男が、立っていたのだから。
「ここまで逃げられるとは大したもの。ですが、それももうここまでだ博士」
泥と皺でボロボロになったスーツは、以下に彼が険しい道を通ってきたかを物語っている。サングラスに所々ひびが入っていた。
「さあ、アタッシュケースを渡してもらおう」
覆面の男の視線は、自然と博士と呼ばれた男の手元にある黒いアタッシュケースに移っていた。
「ば、馬鹿な! これが渡ればどうなるか分かっているだろう!」
逃げられないという絶望的状況にありながらも、懸命に叫ぶ。だがそれすらも、獲物を狩る者にとっては滑稽でしかない。微笑を浮かべながら返した。
「ふふふ……もとはと言えば、貴方がこんなドライブを造るからこんな事になるんでしょう」
「だからこそ、これは私の命を懸けた償いなのだ!」
ここまで追い込まれながら、猛然と反撃する姿に一瞬感動すら覚えたものだが、それもすぐに消えうせた。まあ、もしかしたら記憶の隅に残るだろうと思いなが
ら愛銃を取り出す。
「私の目的も、そのケースなのでね」
博士の顔が真っ青になる。だが、その戦う姿勢は、彼にアタッシュケースを抱え込ませるという行動を取らせた。
「神よ……どうかケースを………守りたまえ」
ここまで来ると笑う気も失せていっそ哀れだな。照準を抑え、銃口を絞りながら、ゆっくりと思う。どうせ最後に一言言ってやるか。
「どうせ祈るなら、十年前の貴方に祈ったらどうです………それでは」
博士はケースを握りしめがら目をつぶった。
だが次の瞬間、血の染まったのは、博士ではなかった。
鋭い音が、覆面の腕を直撃したのだ。
「う…ぬううう………」
博士自身何が起こったのかわからず呆然としている。いつの間にか、列車はトンネルを抜けてもう南京の都心部へ入っていた。
違う……こいつは何もしていない。ならば誰が……
幸い弾は貫通していたが、屈辱の痛みはとめどなく刺激し続ける。
ふと見ると、博士の目線が、移っていた。自分ではない。それよりもやや手前だ。
後ろに誰かがいる。
それ確認すべく、後ろを振り向いた瞬間、彼の体は列車から吹き飛ばされていた。
「ぐおおおお!!」
辛うじて横にしがみ付いたのはいいものの、右手を負傷した状態では、うまく力が入らない。
誰が一体こんな真似を………。
当初行う予定だった好意、後ろに立つ相手が誰なのか、必死の思いで凝視した。
「な、何だあいつは……」
大きなマントを羽織り、仮面を被った者。その仮面も向き質なものだった。明らかに急ごしらえの出来損ないだ。男か女かさえも分からない。
博士自身も覚えがないらしい。喜んでいいのか怯えていいのかさえも分からず、ただ呆然と座り込んでいる。
しかし、覆面の男……彼はこれが何なのか心当たりがあった。こんな短時間で我々と博士の場所を突き止め、腕のみにヒットさせる銃の腕前を持つもの……そし
て何より我々と同種の気を放つ雰囲気。
それらから導き出される結論はひとつ!
「貴様……国際警察機構か!」
「そのっ通りよ!!」
自分の目の前に立っていた男はいきなりフードと仮面を剥ぎ取った。
否…男ではない。
視界からマントが風に流されながら消え去ったとき、そこにはもう誰も立っていなかった。
見えたのは博士を小脇に抱え込み、彼の頭上を悠々と飛び越えている美女の姿だ。
彼の下を走るもうひとつの線路は、列車が走っている。この瞬間すべてが理解できた。
それを裏付けるように下を走る列車から、走る轟音の中を貫く、途轍もない大声が響いた。
「ようし銀鈴! 来ぉい!!」
声の主は麻黒の肌を持つ大男だった。長い髪を後ろで曲げにしている。いかにも力自慢という風体だった。
銀鈴と呼ばれたチャイナドレスの美女が、暗闇の北京の街を跳躍する。
声の主である男は両手を広げて、受け止める準備をする。
だが、銀鈴が落ちるはずだったその場所には、サングラスをかけた博士がアタッシュケースとともにすっぽりと収まっていた。
「さあ、撤収するわよ。鉄牛!」
銀鈴はさも当然の用に綺麗に着地し、その服は一切の乱れがない。
鉄牛と呼ばれた麻黒男は、しばらく呆然としていた。美女を抱き受け止めるはずの腕に変なおっさんがいるのだから当然といえば当然だが………
だが笑顔で走り出す銀鈴につられ、彼も再びその表情を変えられぬまま従うのだった。
第四十七話 その名は斬竜神(南京激震変)
その後姿を、ただ呆然と見詰めているしかない覆面の男。だが、やがてはっとなったように列車の上によじ登った。
「おのれえ……このままでは済まさんぞ!」
列車の先頭部にあるキーをたたく。すると列車の中から大量のヘリ型の兵器が出動した。
これはただの列車ではない。そもそもシズマ博士をこの列車に乗せること自体が作戦の一部だったのだ。
列車内部にはBF団の自分の部下たちが万が一のときを持って待機してある。まさかこんな状況にまで追い込まれるとは思いもよらなかったが、どんな手段を用
いてもあれは奪取しなければならないのだ。
「全機攻撃を開始せよ! 手段は問わない、とにかくケースを取り戻せ!!」
『了解』
ヘリ型の機体は全員機銃を装備していた。一斉掃射による弾が三人の頭を掠め取る。
「くうっ!」
銀鈴は持っているコルトパイソンを立て続けに三連射した。うち二発がそれぞれプロペラと機銃部分を直撃する。
銀鈴の射撃の腕前は、国際警察機構の中でもトップクラスのものだった。目を隠していても、敵の動きがこの程度なら気配で読み取り撃ち抜ける。
「おおおおわあああ………」
先頭に立って式を取っていた小型機は、螺旋状に回転しながら、南京の都市へと消え去った。
『Aがやられた。変わってBが指揮を取る』
ただ命令で従っていた、それだけらしい。特に悲しむ様子もなく、機銃の乱射を再開した。
銀鈴も射撃で何機かを打ち落とすが、所詮数が違った。すぐに好転するような状況ではない。むしろ悪化の一途をたどっている。
「こうなったら………」
打開する手がないわけでもない。
しかし銀鈴はとある理由からそれを封じていた。周りの人からも、上司からも、そして自分自身も、これは使うまいと決めていた。だが………
使うしかない……
このままではいずれ全滅する、だから……
「よせ」
神経を集中しようとした時、鉄牛の重い手が自分の肩に乗っていた。
「お前の『能力』は、何があっても使うんじゃねえぞ」
そういう鉄牛の顔は、やけに自信に満ち溢れていた。
「後もう少しで、国際警察機構とGGGの両方が来る手はずになってる。きっと戴宗の兄貴たちだ。だから……」
小脇に抱えていた博士を肩に背負い込み、銃火器の弾が飛び交う列車の上に、立ちはだかるようにいきり立った。
「それまでは俺が、時間を稼いでやる!」
そういうと同時に、鉄牛の手から鎖が出てきていた。
質実簡素な拵えだが、そこからは並々ならない何かが噴出していた。
「いくぜえええっ!!!!」
振り回しながら片方を右斜め前方にある、一機に向かって投げ飛ばした。
方向が狂う事無く、見事に足の部分に絡みつく。
だが彼の狙いは別のところにあった。
「おりゃあ! 黒旋風!!」
両腕に力が込められ、信じられないような速度と勢いで、横に投げられた。
たちまち周りにいた者たちに当たって次々と爆発が起こる。そのほかにも、パニックになって自ら墜落するもの、爆発しなくとも機体の制御を崩して隣と衝突す
るものもいる。
瞬く間にBF団側の数が減っていた。
「へっ! どうだ、鉄牛様の黒旋風の味は!!」
豪放磊落な声が、夜の南京に轟く。
これが鉄牛の特技、『黒旋風』だった。エネルギーを分銅の付いた鎖に送り込み、それを自在に操ることによって敵を粉砕する。
彼の怪力があって始めて本領を発揮し、広域破壊にはもってこいの、まさに彼のためにある能力なのだ。
「ふっふっふ、見たか俺の実力を。援軍を待つこともなかったぜ……ごわっ!」
これで銀鈴の俺に対する目も、そう思ったのだが、次に彼が受けたご褒美は恐ろしいスピードで発射された銀鈴の拳骨だった。
「この、バカ牛! 博士に何かあったらどうするのよ!」
「え、え、いや…それは…」
「さっさとこっちにいらっしゃい!」
(そ、そんなあ………)
せっかく活躍したのに……
そう思ったが、目の前にいたはずの惚れた美女はもう向こうへ走り出そうとしている。あきらめて後を追う他になかった。
しかし、何はともあれ、これで追っ手の大半を退けることができた。下っ端連中ならば、これ以上の危険を冒してでも追跡しようとは思うまい。
後は博士を連れて無事に基地に戻るだけ、そう思った瞬間だった。
突如として自分たちの乗っている列車がバランスを崩し、後ろへ大きく傾いたのだ。
「な、なんだ!!」
「この振動……列車ごと線路が崩れてる!」
「何だとおっ!?」
呆気に取られながら、後ろを振り向いた鉄牛は、叫ぶのを必死で押さえた。
後ろから、緑色の動物をかたどった機動兵器が猛烈なスピードでこちらに近づいてきているのだ。
しかもその頭の部分には、先ほど振り落としたはずの覆面男が乗っている。
「畜生! BF団のロボットだったのか!!」
鉄牛は必死で博士を抱え込みながら逃げ、迫り来るロボットに悪態をついた。もう自分たちが乗っていた逃走用の列車は完全に壊れ、南京の闇へと消えている。
よく見れば、あれは先ほどまで博士が逃げていた列車に酷似する部分が、あるにはある。
だが、アームが両サイドから伸び、モグラのような頭とワニの様な背ビレ、そして口元と乏しき部分からはドリルが突き出している。
銀鈴はあのロボットに見覚えがあった。以前データをハッキングして盗み出したことがある。あれは維新竜・暁!
それが今、自分たちが一秒前にいた場所を削り取りながら迫ってきているのだ。
体を貫かれる悪夢と戦いながら、鉄牛は必死に走った。それは銀鈴も同じである。
「これじゃあ、いずれ追いつかれちまう!!」
やはりこれまでか、そう思った次の瞬間、事態はまたも好転することになる。
「おおおおおお!!!!」
和樹の乗ったガオファーが、BF団ロボットの腹部にしがみ付いた。急な抵抗を後ろに感じ、慌てた様にバランスを崩しそうになる。
このままでは市外に落ちてしまう。それはGGGにとっても得策ではない。だが、それに対し、和樹はすでに手を打っていた。
「木竜、土竜!」
「了解!」
「どりゃああ!」
傾いたところを木竜が抑え、土竜は列車の最後尾、すなわち尾の部分をがっちりと掴んだ。
両側と後ろの三方から押さえ込まれた形になり、ドリルのメカは完全に動きを封じられた。
「やったぜ!」
「隊長、このまま押さえ込んでしまいましょう」
「わかったよ。ええっと、それで……向こうにいる人たちは?」
向かっていた途中、そろそろ目的地に到着するだろうと思った矢先にいきなり二人が線路の上を走っていたのだ。慌てて、急ごしらえの作戦を立てて、それはそ
れで成功したようだが、彼らが誰かという疑問は残っている。
「国際警察機構のエキスパートですよ。こちらのデータと照合しても、間違いありません」
こんな橋の上の激走しているのは彼ら以外いるわけがない。すぐに考えれば分かるはずなのだが、仕方がない。和樹はまだ新米なのだ。
「そ、そうか……ええっと、国際警察機構の人たちですね! 僕達はGGGの機動部隊です!!」
しがみ付きながら話すというある意味器用なことをしている訳だが、それでも話しているのだから、その点はたいしたものだった。
和樹の言葉に、二人は一瞬驚いたようだったが、すぐに何か察したような表情になる。
「じゃあ、あなたが中条長官の言っていた………」
「国際警察機構以外に、あんな奴があったとはなあ………」
さすがの鉄牛も呆気に取られたようだった。
「ここは、僕達が引き受けますから、あなたたちは早くシズマ博士を……」
連れて帰ってと言った筈だったのだが、
次の瞬間、ガオファーの体は、轟音とともに吹き飛ばされていた。
「う、うわあ!?」
「隊長!?」
「隊長!!」
慌ててスラスターを噴かしてバランスを取るが、何が起こったのだよく分からなかった。
だがそんな疑問は維新竜・暁を見た瞬間に完全に消え去ることになる。
アームの部分からノコギリの様な刃が無数に出て回転していた。これの回転でガオファーの腕をはずし、投げ飛ばしたのだ。
「あんな隠し武器があったなんて……木竜、土竜!!」
和樹が察したとおり、反対の腕と尾の部分からも、隠し武器が伸びていた。
木竜と土竜はとっさにライフルのアームを伸ばした。
接触部分から激しい音と火花が撒き散らされる。
「ぐう……」
「な、なんてパワーだ……とうとう本気ってわけかよ」
これだけでは終わらない。暁は再び前進を始めたのだ。しかも先ほどの数十倍のパワーで。
「二人とも!!」
和樹は自分がもといた場所に戻り、回転ノコギリを避けながら押さえつけるが、依然として前進は止まらなかった。
「だ、だめだ……押される……」
「隊長、ファイナルフュージョンして一気に…」
「よせ、土竜。三人でも抑えるのが精一杯なんだ。一人でも外れたらバランスが崩れてしまう!」
「じゃあ、どうしろってんだよ!!」
このまま押さえ込んでいてもいずれは組織られてしまう。
かといって、無闇に手を離すわけにはいかない。
八方塞がりとは正にこの事だった。
その様子を、逃げていた銀鈴と鉄牛は必死の面持ちで見つめていた
「お、おいおい、やばいんじゃないか?」
「ええ、このままじゃいずれやられるわ」
今度こそ自分の力を使うしか……ないかもしれない。そう思っていた瞬間だった。
『は…て…』
「え?」
「ん、どうした銀鈴?」
「今、声が……」
鉄牛には聞こえていないのだろうか?
それとも自分の聞き間違い?
『走ってっ!』
まただ。
やはり銀鈴には聞こえていた。
耳を踏ませると、それは銀鈴の付ける、イヤリングが他の通信機からの声だった。だから鉄牛には聞こえなかったのである。
『そのまま真っ直ぐに、早く! 機動部隊の皆さんにも伝えてください』
「わかったわ」
銀鈴はもと来た道を走り出した。
「ちょっと、今から一気に線路の上を走って!!」
押さえつけている横から声をかけられた。一瞬バランスが崩れる。
「うわわあ! な、何ですって!!?」
「いいから急いで!」
「わ。分かりました! 二人とも、いい?」
「り、了解です……」
「こ、こっちも、もう、限界だ……」
弾き飛ばされるようにその場から離れる機動部隊。
そして着地と同時に彼らが行ったことは、その場からの全力ダッシュだった。
もちろんそのまま走っては銀鈴たちを踏んでしまうので、途中で手のひらに抱え込む。
しかし全力で走り、必死にスラスターをふかしても、維新竜は悠々と付いてきていた。
「隊長、駄目です 敵の方が速い」
「このままじゃ追いつかれるぜ!!」
和樹も目を覆いたくなった。だが、目の前にいる人が言った『走れ』という言葉を発した以上、和樹はその言葉を信じた。
信じる心もまた勇気。彼女の言葉を裏切って、線路から出るわけには行かなかった。
「大丈夫、絶対大丈夫だから!!」
若き隊長が叫んだ瞬間………
前方の線路が……爆ぜた………
もう名前を明かしてもいいだろうが、赤覆面のコードネームはQボスといった。
彼の顔は得意満面となっている。BF団の規則とはいえ、こんな覆面を着なければならない下っ端だったが、もうそれもここまでだ。
さながら獲物を見つけた狩人の気分で前方を走る機動兵器に迫る。突然GGGが出て来た時はヒヤリとしたものだが、所詮自分の敵ではないのだ。
だが、彼は根本的な部分で過ちを犯していた。
狩人は何時如何なる時でも、常に最悪の事態を想定しなければならない。それによって、あらゆる状況に対処できるからだ。
「ん?」
その『最悪の事態』を……
「んん!?」
BF団最大の天敵が現れることを……
「ぬおおおおおおおおおお!!!!!!」
彼は予想だにしていなかった。
最初は連中が突然消えたと思った。朦々と立ち込める土煙の中、そうでないとすぐに看破した。前方の線路が倒壊したことと、機動兵器がそこから落ちたことに
気付くのは同時だった。
それだけならば、その現象の理由は皆目見当も付かないだろう。だが、土煙の中に維新竜が突撃したところで、全ての線が一本に繋がった。
そして、繋がった時には………
維新竜の体に、豪腕が突き出されていた
和樹達自身にだって何が起こったのか分からない。
ただ、突然崩れた線路に、急ブレーキを掛けられずに落っこちて、それから………
そうだ、何か大きなものが自分の前に………
「う、うわあ!?」
自分たちは、それの腰にしがみ付いていた。そのガオファーに更に二人のビークルロボが張り付いているのだから、かなり滑稽な風景だ。だが、そんなことより
も、更なる威圧感が周りにいるもの全てを圧倒させる。
自分たちが持っていた銀鈴たちも、いつの間にか手を離れ、『それ』の掌に収まっていて、それを剋目していた。
ゆっくりと、歩き始めた。
あるいは和樹達に対する最大限の優しさだったのかもしれない。一歩歩くごとに、途轍もない振動がガオファーを通して和樹に伝わる。シンクロシステムが伝え
ているのではない。衝撃そのものが金属を通し伝わるのだ。
「……一体…何なんだ……」
少しずつ、だが確実に、維新竜に対し距離を縮めていく。
しがみ付いたのはガオファーの倍以上もある人型の鉄塊だった。顔の形をしているが、現れたときに被った瓦礫が、まるでフジツボの様に張り付いている。
「こ、これは、まさか………」
遠くから声が聞こえてくる。耳をそばだてた和樹は、それがBF団のロボットを操っているものだと気付いた。
そしてエヴォリュダーの能力によって倍化された視力で、彼が維新竜を再び動かそうとしているのにも気が付いた。
「ビッグファイヤの、為に〜!!」
本来四足で歩くはずのメカではあったが、両手を振り上げるその様子は、まさに最後の足掻きだった。
アームだけでなく、腹の部分からも刃を出し、高速回転させる。
だが、そうして発した叫びを受けて、瓦礫が崩れ落ちた!
「こ、これは!?」
和樹は思わず息を呑んだ。被きだけではない、木竜も土竜も、銀鈴も鉄牛も、おそらくは鉄牛の背負っているシズマ博士すらも驚愕したに違いない。
中から、スフィンクスを思わせる、人の顔が出現したのだから。
しかも、それだけではない。
ロボットの肩には、人が乗っていたのだ!
「パンチだ、ロボ!!」
肩に乗った少年、草間大作は叫んでいた!
グオオオォ!
叫び声ともうなり声ともとれる咆哮が南京に響く。
そして握り締めた右腕を、とてつもないスピードで突き出す!
轟音と共に、維新竜・暁の体を、鋼鉄の豪腕が貫通していた。
貫いた腕を中心として、灼熱の痛みがメカの中を迸る。
バキバキと音を立て、断末魔の叫びが奔る。
それと同時に巨人は背中についているロケットブースターを全力で噴射した。
海で起こった爆発は、闇夜に蠢く悪のみを飲み込みながら、巨人たちを空へ送り届ける。
「あ、あいつは草間大作!?」
「そしてこれが……ジャイアントロボ!!」
銀鈴たちの叫びを、和樹は確かに聞いていた。
そう、これが少年たちの出会いの日
ネルフから始まった、式森和樹の、人の絆の物語。
それの、二ページ目なのである。
「式森君は、国際警察機構と合流できたか」
『ええ。これでひとまずは安心よ、兄さん』
紅尉は暗くなった室内で、ある人物とモニター越しの会話をしていた。
「だが油断はできない。彼らの目的はおそらく……」
『ええ、地球静止作戦……』
「おそらく十傑衆も動き出す。そうなれば、今の式森君では勝ち目がないだろう」
そういう紅尉の頬には、一筋の汗が浮かんでいた。
『大丈夫よ。私もすぐに向かうわ』
「ああ、だが急いでくれ。彼を死なせる訳には絶対にいかない」
日本時刻午前一時十三分
紅尉晴明の眼鏡と、通信相手の鉄扇が、同時に光った瞬間だった。