これから五人が聞き込みを行う先は、とある異星人の住まう家であった。

つい忘れがちになってしまうが、異星人犯罪者と言ってもそれは全銀河、全次元に住む人間のごく一部の話である。

善良なエイリアンは、このミッドチルダや他の次元に紛れて普通に生活をしている。
もちろん地球のような魔法の存在を知らない世界への介入は御法度だが、その星の法に従ってさえいれば、自由は保障されているのだ。

「ここに住んどるんですか?」

「そうよ、素性は余り宜しくないけど、宇宙の事情を結構知っているわ」

そう言ってジャスミンはインターホンを鳴らす。
素行の良くない人間を、捜査協力をする代わりに見逃す、というのは魔法が無い世界でも存在する。いわゆる『司法取引』だ。

「俺あんまり好きじゃないんだよなあ、こういうやり方」

大人のやり口ではあるが、それによって検挙率が上がっているのもまた事実だ。

「はい……どなた…」

中から出てきたのは、これでもかと言う位に、顔つきの悪い老人だった。頬はこけ、目は血走り、唇は歪み、頭は一部を残して禿げてしまっている。その代わり体つきは全くといってい程に弱々しく、立っているのがやっとという感じだ。

両手で抱いているブルドッグが、ようやく人間性を感じられる場所だった。数々の危機を友情パワーで乗り越えてきたなのは達だったが、流石にこれには一歩引いてしまう。

(あ……あはは……こりゃ、あかんわ…………)

(いかにも異星人だね)

(は、はやてちゃん、フェイトちゃん……)

「だって、なのはちゃん。これやったら、この犬の方がまだましやで」

(はやて!)

「あ、しもた……」

つい普通に本音が出てしまったが、今更取り繕ってももう遅い。怒られるのを覚悟で、老人に対して、頭を下げて謝った。

「ご、ごめんなさい。そういうつもりじゃ……」

そして老人の口がゆっくりと開かれ……

『そりゃあ、悪うござんしたね!』

なかった。

「へ?」

間の抜けた声で、はやては音のする方向を見る。その先にいたのは、あの人間の許容範囲内に老人を踏み止まらせていた、ブルドッグだ。

『これだって五十年以上使っている俺の相棒じゃ! 文句を言われる筋合いはない!』

声は、ブルドッグの方から発せられていた。

「えっと、これってつまり………」

「彼はパンピ星人って言ってね。宇宙法によって犬に変装する事が義務付けられているのよ」

ジャスミンが苦笑しながらなのはに答えた。
要するに宇宙人の本体はこの犬の方で、老人はあくまで人形に過ぎなかったのである。
地球にもある腹話術師の逆であった。

『なんじゃい、誰かと思ったら宇宙警察か。最近は何もやっとらんぞ、静かなものじゃ。宇宙ワインの先物にも手は出しとらんし、俺の相棒にも新しい靴下は買ってある』

下のほうをフェイトがこっそり見ると、なるほど確かに靴下だけは新しかった。だからどうだという問題はあるが、敢えて無視した。

「あの……さっきはホンマにすいません」

やはり罪悪感は拭えないのか、はやてが再び頭を下げた。無論今度は犬の視点である。

『お前さんも宇宙警察か?』

「えっと、私らは時空管理局から研修で………」

『時空管理局? だったら、使い魔連れの魔導師の十人や二十人は居るだろうが。ワシを見てそんなに驚くか?』

老人ブルドッグは、既に怒りは消えていたらしいが、その疑問は間違っていた。

確かにはやて自身、言語を話す動物を知っている……と言うか、それが家族の一員となっている。なのはに魔法を教えてくれた師匠はフェレットに変身できるし、フェイトも使い魔を一人連れている。

しかし三人が驚いたのは理屈ではなく、本能からであった。どんなに不可思議事件を見ても、これに対する衝撃は誰だって受けるだろう。

返答に困っているはやてを見て、ジャスミンは早々に助け舟を出した。

「捜査が難航していてね。あなたに聞きたい事があるのよ」

手っ取り早く事を進める為、なのはが持っていた例のデバイスもどきを見せた。

「これが何に使うものなのか、知っていますか?」

それを聞いた瞬間、彼の顔が僅かに歪んだ。犬の顔であったとしても、ジャスミンはそれを見逃さなかった。もちろんバンも同様である。

「やっぱり、何か知ってんだな! 白状しろ、このワンコジジイ!!」

『し、知らん。ワシは知らんぞ!』

だがシラを切ろうとする犬を見て腹がたったのか、バンは老人の人形から本体をもぎ取ると、その首根っこを掴んでゆすり始めた。

「とぼけやがって! さっさと言わないと、コンビニのコピー機で宇宙ビザを偽造しようとした罪でしょっ引くぞ!!」

なのはが制止に入ろうとするが、それを無言でジャスミンが制した。やはり柄の悪い相手に聞き込みをするには、これが一番手っ取り早いのである。

そしてついに、ブルドッグがその口を本当の意味で開いたのだった。

『と、とりあえず放せ……話すから、放してくれ!』

「バン、もういいみたいよ」

バンが首を絞めていた手の力をゆっくりと弱めた。

「ああ、ちなみのこの研修生のお嬢様方は管理局のトップエリートよ。変な考えは起こさない方が身の為ね」

それが犬型宇宙人にとって最大のトドメだった。

『だ、だから、話すって言ってるだろうが………』

ゆっくりと、一つ一つ言葉を選んでいるようだった。それほど重大事なのだろう。五人の間にも緊張が走る。

『それはだな……デバイスじゃなくて………』

そう言って言葉を紡ぎかけた瞬間………、

「うぐぅ!」

斜め上の後方から飛んできた閃光が、さっきまで犬を抱いていた人形に直撃した。

「なっ!」

「きゃあ!」

『ああ、ワシの宇宙艇が!』

「これ宇宙艇!?」

三者三様の叫び声を上げつつ、皆の視線は閃光が飛んできた方向を凝視する。
そこにいたのは、橋の上でフードを被っている人間だった。
目深に被っているせいで、外見や顔は全く見えないが、手から熱線銃が覗いている。そいつの仕業であることは明白だ。

フードを被ったものは、気付かれた事を悟ると、これ以上は無理だと判断したのか、そのまま振り返って駆け出した。

「逃がすかよ! みんな追うぞ!!」

「合点承知のすけ!」

『おい、ちょっと待て! ワシの宇宙艇はどうなる!?』

老ブルドッグの視線は、自然となのはに向いていた。しかし彼女だって、そう言われても困る。自慢じゃないが自分はただの研修生だ。

「ええっと…………保険が降りますよ!」

「……多分やけどな」

「うん、多分……」

その辺りの制度はよく知らない三人は、適当な事を言って、駆け出したバンの後を追うことにした。
もう既にジャスミンもフード人間を追いかけ始めている。

「ようし。ここで管理局の実力を見てもらおうやないか!」

意気揚々とはやてが叫んだ。

「え、どうするの?」

「ここへ来るときに、一応の地理は把握しておいたやろ。ジャスミンさん達とは別のルート使うて、挟み撃ちや!」

「そっか、さすがはやてちゃん! うん、頑張ろう!」

「そうだね」

はやての提案に二人の親友が力強く頷いた。そしてそれが終わる頃には、三人はもう裏路地を曲がっていた。
謎の人物を追い詰めるプランは、既に頭の中で出来上がっていたのである。

逃げやすい所―すなわち立地条件が悪くて、かつ人が多い場所である。
そういった類の場所は、この近辺では一つしかない。

案の定、街の外れにあるスラムの一角に、フードを被った者は逃げ込んでいた。

「あそこや!」

人込みに紛れてはいるが、確かにあの狙撃者だった。後ろをジャスミンとバンが追っているのが見える。

(バンさん、ジャスミンさん! ここの路地裏のところに追い詰めましょう)

(OK! 任せろ!)

(了解よ)

意図を読み取り、上手く誘導しながら追いかけた。対して三人は逆方向に曲がり、今度は同じ方向に曲がる………、

「!!」

全力疾走をしていた狙撃者は、目の前に現れた少女四人を見て思わず立ち止まった。狭い路地裏にバンとジャスミン、そしてなのはとフェイトとはやてが狙撃者を挟む形で立つ。はやての作戦は見事に成功であった。

「観念しなさい。そこまでよ!」

「天網恢恢、疎にして漏らさずだ!」 

バンがSPライセンスを突きつける。
普通の人間ならばここで怯むだろう。五人の人間に追い詰められ、しかも二人は宇宙警察だ。

だが狙撃者は、臆する事無く真上に跳ねたのだった。五人もそこは予想できたもので、即座になのはのレストリクトバインドが発動する。

「っ!!!??」

右手と左足首が、それぞれ光のリングによって拘束された。
はやての提案により、空中に予め設置型魔法を張っておいたのである。
敵はまるで蜘蛛の巣に捕らえられた獲物の如く、動きを封じられたのだった。

「無駄な抵抗は止めろ! その子のバインド魔法の強さは、俺が身をもって証明済みだぜ!!」

逆さまに落下したという失態を惜しげもなく大声で喋るバンだったが、皆も確かにその意見には賛成だった。
狙撃者は何とか外そうと必死にもがくが、早々外れるものではない。

が………

バインドは外れないと判断したフード人間は、その場で拘束されている腕と足を切り離したのである。

「なにっ!?」

予想外の出来事に驚く一同。
そして狙撃者は残った足と手ででもって、壁を蹴りながら上へと上がっていった。

犯人の代わりに地面に落ちたのは、機械製のパーツであった。

「な、なんやの、あれ。人間業じゃないやん……」

ここにいる誰も、やつが魔法を使った事には気付けなかった。つまり初めから魔法自体を使っていなかった事になる。
そして、地面に落ちているバインドに引っかかった部分の機械。
これらから推測できる事は一つだった。

だがそれを考えている暇はない。手と足が無い、最早人間として認められないその男は、市街地の方へと逃げようとしていた。

「くっそー! こんな時に相棒がいたら!」

「……呼んだか?」

バンの叫びに対して答えた後ろからの声……それは五人がよく聞きなれた人物のものだった。

そしてそれが耳に届くと同時に、青白い閃光が、先程老人を撃った時の様に、今度は遥か空中にいる狙撃者を貫く。
綺麗に身体の中心部に命中したそれは、道路の真ん中にフード男を突き落とした。

「五人とも詰めが甘いぞ。プロならもっとクールに行くべきだ」

「ホージーさん!」

振り向いたなのは達の真後ろに立っていたのは、宇宙警察が持つエネルギー拳銃―Dシューターを構えたホージーの姿だった。

(すごい……あの距離で命中させるなんて………)

なのはは突然の登場にも驚いたが、何より同じ射撃を得意とする者としてホージーの腕に改めて感心させられていた。

なのはがヴォルケンリッターの一人であるヴィータと対戦した時、レイジングハートの形態の一つであるバスターモードの支援によって超長距離狙撃をやってのけたが、先程ホージーが撃った距離はあの時よりも長い。
にも拘らず、彼は動いている目標を一瞬で撃ち落としたのだ。支援機能も無く、直線にしか飛ばない短銃で。

「相棒! お前、いつもおいしいトコ取りだな!!」

「相棒って言うな!」

喜んでホージーに駆け寄るバンを、『相棒』は先程の『クール』な表情を一変させ、鬱陶しそうに払いのけた。

「二人とも、今は犯人を!」

「ホージー、フェイトの言うとおりだよ」

「そうそう。さあ、追いかけよう! 今度こそ逮捕だよ!!」

センがそう言ってホージーの肩を叩いた。後ろにはウメコも一緒にいる。
つまり、この場に全員が集合したという事だ。

計八人となったスペシャルポリスとその研修生達は、道路に落下したフード男を追跡する為に、路地裏から出た。
そうでなくとも、この狭い空間に八人はきつい。

「ところで、何で連絡もないのにこの場所が分かったんですか?」

ウメコが逆になのはに質問で返してきた。
彼女自身も理由が分からない……そんな顔である。

「なのはちゃん達こそどうして? 私たち、聞きこみ先で襲い掛かってきた奴を追跡してきたんだよ」

「何ですって!?」

フェイトがホージーの方を向くと、彼も無言で頷いた。どうやら単独で動いていた彼も同様に狙われたらしい。

ウメコの言う事が本当ならば、つまり敵は複数いたと言うことである。

そしてバインドで絡めとった狙撃者が外した機械の手足と、魔法無しでのあの跳躍力。

「相手は………」

先頭にいるセンが呟きながら、落ちたと思われる道路に出る。
人や車の類は全く言っていいほど居ない。

その代わり、先程の謎のフード狙撃者と、同じくフードを被った人型の何かが二人、中央に陣取っていたのだ。

「メカ人間だ!」

三人になった狙撃者とその仲間が、一斉にそのフードを取り払う。

そうして現れたのは、真っ黒い人工皮で全身を包まれたマシーナリーゴーレム……いわゆるロボット達だった。
Xの形をしている頭部にある兜は顔全体を覆っていた。

「バーツロイド……それも三体…」

フェイトが言ったバーツロイドというのは、メカ人間の中でもかなりの力を持つ中級ドロイドである。
あらゆる機械の扱い方をマスターし、更にはアースラのような戦艦の操縦も出来る。

『イイロ、ドコナーア!』

くぐもった機械音声がバーツロイドから聞こえると、何時しか手にしていた銀色の球状物体を、それぞれ二つずつ取り出した。

それを地面に放り投げると、中からは更に大量のメカ人間が現れる。

汎用性に飛んだ量産型ドロイド兵、『アーナロイド』だった。その数は百体を悠に超え、道路を埋め尽くしている。

「甘く見ないほうがいいよ。質量こそ及ばないけど小回りが利く分、普通の傀儡兵よりも厄介だ」

「分っています、私たちも経験がありますから」

センの忠告に、なのはは力強く同意した。

「ゴメン、なのはちゃん、フェイトちゃん。私は、今回はサポート役や」

はやては申し訳なさそうに二人に対して言った。

彼女のデバイスの器である『蒼天の書』と、補助の為の杖『シュベルトクロイツ』は今彼女の手元にあるが、それらを統括し、処理を円滑に行う為の管制人格『リインフォース』は、未だ時空管理局の本局で調整中であった。

「大丈夫だよ、はやてちゃん。はやてちゃんは、さっき敵を追い詰めたんだもの。今度は私達の番だよ」

「はやては私達の援護に回って、そうすれば遠慮なしで戦えるよ」

戦えない事は無いが、これは車掌自らが燃料を補給しながら走る機関車のようなものである。
今回のような多数の敵を相手にするのでは、余りに効率が悪い。

「うん……二人ともありがとうな!」

二人ともそれを良く分ってくれていた。それに感謝すると同時に、全力でバックアップを行う事を強く誓う。

『クゴカ、ロシ、サラキマ!!』

「『貴様ら覚悟しろ』……って言っているみたいね」

機械音声をジャスミンが翻訳する。彼女は銀河系のあらゆる言語をマスターしているエキスパートでもあった。といっても、流石に単純な言葉しか喋れないので、訳は簡単である。

最高にお決まりな言葉だったが、だからこそ、彼ら全員の士気も向上する。
相手が機械で出来た人形ならば、遠慮はいらなかった。

「まったく、数を頼りに攻めてくるなんて………」

「ウメコ、それはお約束だよ」

ウメコが愚痴るのを宥めつつ、襲いかかろうとした一体のアーナロイドをDシューターで撃ち抜いた。

「三人とも、準備はいい?」

「ジャスミンさん、子供扱いは嫌やで。私らかて、それなりに場数は踏んでるんや」

「それに私たちは……」

「いつでも、全力全開ですから!」

そう言って待機状態にしてあるデバイスを取り出す三人。
デバイスからも、光が零れていた。まだ待機状態だが、『彼女ら』もやる気十分という事だろう。

「よっしゃー! いくぜ、みんな!」

なのは達の言葉が鼓舞となり、一気に力がこみ上げるバン。その時の彼の顔は、一番生き生きとしていた。

「お前が仕切るな!」

そう言いつつも、バンとホージーは率先してDシューターで敵を撃ち落していた。なんだかんだで、結局息のあっている二人である。

前方にいた敵をあらかた捌き切った後、五人もSPライセンスを取り出す。バンとホージーの指示に、センとジャスミン、そしてウメコも従った。これは、彼等が異星人犯罪者と戦う為の前準備に必要な物なのである。

一方で時空管理局からの研修生も、戦闘準備を始めた。

「「チェンジスタンバイ!」」

「「「ロジャー!」」」

『SP License, Change mode.』

「蒼天の書、機動開始!」

『Anfang』

「バルディッシュ・アサルト!」

『Condition, all green. Get set.』

「レイジングハート・エクセリオン!」

『Stand by, Ready.』

三人が持つデバイス……それは彼女達のかけがえの無いもう一人の親友であり、共に幾度の戦場を駆け抜けた自らの愛杖だ。力強い声に、機械音声がその意思に応える。

八人がそれぞれ持つ、魔法を扱う者として誇りを前に突き出し、そして叫んだ。

「「「「「エマージェンシー! デカレンジャー!!」」」」」

『Roger. Transmit a suit.』

「「「セット、アップ!」」」

『Set Up』

瞬間、彼らの回りから光が発せられ、全身を包んでいく。
そして、服の形を成し、装着されていった。

なのはが身に纏うのは白の基調とし、胸に大きなリボンが付いているのが特徴だった。
フェイトが漆黒のマントを羽織り、手足にはプロテクターを装備している。
そしてはやてが装着したのが中世騎士をイメージした、黒い服の上に白いジャケット。

これぞ魔導師が使う防護服、バリアジャケットである。
魔力によって作られた特殊な服で、衝撃などから身を守り、それぞれ個人のバトルスタイルによって最適化したものになっている。

更に実際には不可視のフィールドが魔導師の周りに張り巡らされ、防御の要となっているのである。

『DEKARANJAER, Standing By』

そしてバン達のコールを受けたデカベースより、デカメタルが微粒子状に分解され、送信される。
そして、彼らの表面で定着し、『デカスーツ』となるのだ。

「フェイス・オン!」

アリエナイザーと次元犯罪者の違いの一つが、圧倒的な犯罪者数の多さである。
それに対抗する手段として、皆に一定の実力を持たせなければならないが、資質によって差が出る本来の魔導師戦闘法では限界があった。

そこで考え出されたのが、バリアジャケットをとことん追求した、特殊装甲強化服だった。
一定の魔力波を送る事で微粒子上に変換でき、また再構築をも可能にする形状記憶宇宙金属『デカメタル』を使用し、SPライセンスからのコールを受けた際には即座に転送できるシステムを組み上げたのだ。

極端な話、これがあれば防御魔法や結界を張る必要は殆ど無い。安心して肉弾戦や銃撃戦などに持ち込めるのである。

「うっし、変身完了!」

「きゃー! なのはちゃん達のバリアジャケットかわいい!」

「え、あ、ありがとうございます!」

「もう嫌やわ、ウメコさん。冗談がうまいんやから!!」

「おい、無駄口を叩くな!!」

ちなみに、はやてのバリアジャケットはこれが完全ではない。管制人格が存在しない状態での起動は、ベルカ式融合型デバイスの特徴である肉体の顕著な変化が無いのだ。

はやての場合は髪と瞳の色が変化するのだが、やはり何時もの通り変わらなかった。

「連携されると厄介だな……よし!」

ホージーが一瞬で状況判断をし、最も適切な作戦を考えた。

量産型とは言え、頭脳がCPUで統一されているアーナロイドは集団戦に特化している。
対してこちらはまだ三人が合流したばかりだ。向こうと同じ土俵に立つのはあまり得策ではない。

「フェイト、砲撃魔法だ。中央から切り崩す!」

ホージーの作戦の第一の要、その役目は彼女に託された。業を煮やしたのか一斉に襲い掛かってくるアーナロイドたちを前に、フェイトの表情が引き締まった。

「はい。バルディッシュ、カートリッジロード!」

『Yes, Sir. Load Cartridge.』

バルディッシュの弾層が回転し、『弾』がロードされる。

彼女達の持つデバイスに秘められた力、カートリッジシステム。
魔力を込めたカートリッジと呼ばれる『弾丸』を装填する事により、爆発的にその力を向上させるというものだ。

そうして得た力によって、フェイトの身体は一瞬にして空高く舞い、アーナロイド達がいる中心点の頭上まで移動する。

その速さは、量産型ドロイドの反応速度を明らかに上回っていた。
まして、デバイスから魔法が放たれようとしている事など知る由も無い。

「はあっ!!」

『Thunder Smasher』

バルディッシュの機械音声と同時に先端部分が輝き、メカ人間集団の中心部を黄金の雷撃が綺麗に直撃した。
フェイトの遠距離砲撃魔法、サンダースマッシャーである。

「!!?」

いきなりの奇襲に避ける術などある筈も無く、直接当たらなかったアーナロイドはおろかバーツロイドすら、余りの衝撃に吹っ飛ぶ。

包囲したと見えたドロイド軍団は、まるで噴水が放たれるかのように四散したのだった。

「やった!」

「さすがフェイトちゃんや!」

「カッコイイ!」

なのはとはやてが手を合わせながら喜ぶ。ウメコもそこに加わって一緒にハイタッチをした。

「すっげえ………」

「う〜む、恐るべし……」

隣ではセンとバンが同時に驚嘆していた。
彼女達は小手先の技術よりもパワーが凄い。そう聞いてはいたが、まさかこれほどまでとは……。

「『魔法少女』と言うよりは、『魔砲少女』ね……」

ジャスミンが、呆然と口にした言葉に、はやてが反応した。

「ジャスミンさん。それ、なのはちゃんのあだ名やで」

『魔砲少女』……それはなのはに付けられし忌み名であり、本人は敬遠しているもう一つの名前だ。

「ええ、は、はやてちゃん!?」

「ええやん、私はかっこええと思うよ」

「だから無駄口を叩くな!」

なんで緊迫感が無いんだ、こいつらは!
どうやら本格的にウメコやバンたちに感化されてしまったらしい。

彼女達のやり取りにホージーは腹の底から叫びたかったが、不思議と安心感がある事に気付いたので、それ以上は言えなかった。
何よりホージー自身、彼女の腕前に驚いていたからだ。

だがそれを口に出す前に、煙が段々と晴れてきた。そう、あくまで中心部の敵を討っただけで、敵の大半は残っている。

「まだ残ってるね……」

「上等だぜ! 俺達も負けていられないからな!!」

バンの叫んだ気持ちは、ここにいる全員のそれと同じである。
各々も、それぞれの役目を全うすべく、自分達の武器を取った。

「はやて、君はフェイトとペアを組んで、彼女を援護するんだ。あとは皆、散開して各個撃破だ!」

「「「「「「「ロジャー!!」」」」」」」

リーダーの指示のもとに八人の戦士たちが、それぞれ散り散りになったアーナロイドを追うべく、宙を舞った。



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