風の聖痕〜The One AIR-REAL 〜』 

4th Wind −邂逅と別離U−

 

 

 

 

 夜の(とばり)が 落ち邸内から人の声が消え、代わりに虫たちがその軽やかな声色を披露する中、()和 麻は一人、父――厳馬の私室へと足を向けていた。

 昼間綾乃に叩かれた頭が痛むが、逆にそれが自分を支えてくれるような気がして心強かったりもする。

 

(しっかし……いくら唇じゃなかったとはいえ往復ビンタ並びに橋本●也ばりの垂直落下式DDTとウラカン・ラナはありえ んだろう……)

 

 なに者だ綾乃……つかそれを心の支えにするな和麻。

 

 そうこうしているうちにやがて厳馬の私室前にたどり着くと、和麻は両頬をたたき、気合を入れなおす。

 

トントン……

 

『……誰だ』

「和麻です、父上」

『なに用だ、このような夜更けに……』

「報告したいことがあり、参上しました」

『……入れ』

 

 そして、和麻は静かに扉を開けると、部屋の中へと足を踏み入れた。

 その姿を見たものは、後にこう語る。

 

 

 

 あのときの和麻の姿は、若い頃の厳馬に瓜二つだった、と……

 

 

 

§◆◇◆§

 

「……」

「……」

 

 部屋の中に男が二人、向かい合って座り込んでいる。

 一方――上座に坐する男の名は神凪 厳馬。

 神凪宗家の中でも抜きん出た炎を操り、稀代の炎、蒼の『神炎』すらも意のままに操る神話の体現者。

 対するはその血を分けた息子でありながら一切の炎を操ることができず、『無能』の烙印を押された出来損ない。神凪 和麻。

 二人は和麻が部屋に入室してより一切口を開くことなく、既に小半時ほど無言のまま顔をつき合わせていた。

 

「……」

「……」

 

 厳馬は、和麻にかける言葉を持ち合わせないからこそ口を開かない。

 厳密にいえば、“炎術士”としてしか生きられなかった厳馬は、息子である和麻に対し、“父親”としてどう接してよいの かわからないのだ。

 生まれたときより神凪の先代宗主である頼通の画策により既に父は無く、己も幼い頃より無茶な退魔業を命じられ、死と隣 り合わせの戦場の中で満足な情操教育も受けられずに生涯を過ごした。

 そのためか、厳馬は父親というものがどういうものか知らず、更に他人に対してどう接してよいのかわからないという不器 用な人間に出来上がってしまったのだ。

 だが、そのことを厳馬に責めるのは酷だろう。

 厳馬も被害者なのだ。神凪という、愚かな一族の。

 

 しかし、厳馬は不器用ではあっても人非人ではない。

 正しい接し方がわから無いというのであれば、自らが正しいと思える行動を取ればいいと、そう思い厳馬は和麻に厳しく当 たることにした。

 

――炎が使えないというハンデがあるからこそ、それを乗り越えられる強さを手に入れられるように、と……

 

 そのためならば自らは鬼と化し、息子に恨まれても由としようと心に決め、息子に対する情の一切を封じ込めわざと和麻に つらく当たるようにした。

 全ては息子(かずま)の 為に。

 我が子を千尋の谷へ突き落とす獅子のごとく、自らの力をもって(お のれ)を越えて見せよと、その思いを胸に抱き厳馬は和麻に無言で接してきた。

 だが、その行為は世間一般の常識からすれば愚かとしか言いようがない。

 

 幼子が親に求めるものはただ一つ。他人では決して与えることができない肉親の情愛。

 

 それを、厳馬は身をもって知っていたはずだ。

 それなのに、厳馬は自らも求めた“父親”であろうとせずに“炎術士”であろうとしてしまった。

 それだけならまだしも、厳馬は息子に対する苛めの一切合切も全て“乗り越える壁”と定義してしまったのだ。

 これではいくら和麻に強くなる素養があろうとも、たまったものではない。

 乗り越える壁が一方(げんま)だ けならまだ救いがあったかもしれない、だが、和麻はそこへ更に神凪の愚者たちや己を不要と断ずる母親というという十重二十重の壁ができてしまった。

 与えられるものも満足に与えられずに壁だけを乗り越えて見せろとは……無謀にもほどがある。

 そのために和麻は当然のごとく『親からも見棄てられた無能者』という烙印をおされ、不当な苛めを甘受し続ける事となっ た。

 愚かとしか……言いようが無かった。

 

 だからこそ、厳馬は和麻にかける言葉をもたない。

 だがもし、和麻の来訪の理由が今の境遇に対しての泣き言ならば、厳馬は即座に断じ、親子の縁を切る心積もりではあっ た。

 

 

 

 対する和麻はというと……なにも、考えていなかった。

 呆けているというわけではない。例えて言うならば水面の心得。

 畏怖すべき対象である父を目の前にして自分は平静でいられるか。それを確かめる為に和麻は無心になって厳馬と相対して いる。

 結果は……言わずもがな。

 和麻は入室してより一切厳馬から視線を離さず、その威圧を受け流しここにいる。

 常人であれば即座に視線を外さざるを得ないほどの眼力をたたえた目を、である。

 わずか14歳の少年とは思えない豪胆さだ。否、百度打ちのめされ、千度踏み潰されようとも愚直に立ち上がりつづけた和 麻だからこそ、受け止められたともいえるだろう。他の者ではこうはいかない。

 それは厳馬も気付いていた。和麻が自分の目を真正面から受け止め、さりとて怒りをもって睨み返すでもなく、唯空気のよ うに当たり前に威圧を受け流しその場にいることを。

 

 これには幾たびの戦場を越えた歴戦の厳馬(つわもの)も 心の中で驚嘆していた。

 

 その姿は厳馬の知る和麻(できそこない)で はなかった。一人前の……いや、それ以上の男として、自分と同等以上となる可能性を秘めた強者の姿。

 和麻になにがあったのか、厳馬は知らない。だが、何かがあったのだろうということは理解できた。

 それを、厳馬は密かに嬉しく思っていた。

 

 今の和麻ならば、勘当するまでも無く、自分の手元に置きつづけていられる。と――

 

 以前の弱いままの和麻だったのなら……神凪の炎を恐れ、必要以上に固執していた和麻だったなら、その弱さを消させる為 に敢えて勘当しただろう。

 手放したくないという気持ちはもちろんあった。不器用ではあっても、厳しく当たっていたとしても厳馬も人の親であり、 一人の人間でもある。

 己の血を分けた息子を心底憎く、かつ不要などと思えるはずも無く、できることならばどうにかして手元に残しておきたい と、そう思っていた。

 

 だからこそ和麻の成長が心より嬉しかった。

 

 だからこそ、和麻の口から出たその言葉が、信じられなかった……

 

 

 

 

 

 

「父上……私は、家を出ようと思います」

 

 

 

 

 

「――な、に……?」

 

 ――今コノ目ノ前ノ存在ハナント言ッタ?

 

「生まれて14年、ずっと……炎が手に入るようにと足掻き続けてきましたが……いまだに私は炎を出すことが叶いません。 父上もこのような『無能者』をさぞ歯がゆく思っておられたことでしょう……ですから私は神凪と縁を切り、家を 「またんかぁ!!」  と、いうのは建前ですがね」

「………ぁ?」

 

 深刻そうな顔をし、今にも自害をしそうな雰囲気をまとわせ言葉をつづっていた和麻を、厳馬はその口を即刻閉ざせとばか りに声を荒げるが、その瞬間和麻は表情を一変させ、更には苦笑を漏らし始めた。

 そこに至り、厳馬は己の息子にからかわれたのだと気がつき、苦虫を噛み締めたような顔をして机の上にあった湯飲みを勢 い良く傾けた。

 

 中身が淹れたてのお茶だったことにも気が付かず。

 

「ぅ―― ぐほっ! ごほ!」

「くっくくく……」

 

 熱いお茶を一気に呑み込んでしまった為にむせる厳馬。

 それを見て、和麻はある確信めいたものを感じていた。

 

――厳馬は厳馬なりに、自分のことを大切に思っていたのだ、と。

 

 予想は、していた。

 厳馬が和麻のことを罵るとき、『出来損ない』とはよく言うが、決して『無能者』や『不要』等といった言葉は使わなかっ たのだから。

 それはつまり、自分はその程度には厳馬に期待され、必要とされていたという証明でもある(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 かなり不器用ではあるし、人間心理に富んだ者でも言われなければ気付けないような事柄ではあるが、それは確かに事実 だった。

 だが確証は無かった。だからこそ和麻はカマをかけた。

 己のことをどうとも思わないのであれば、和麻の言葉に厳馬は口をはさまないだろう。逆に思うところがあれば……?

 それが、目の前の咳き込んでいる厳馬。

 それを知ることができた和麻は、今度こそ本当に家を出る決意ができていた。

 

「父上が……私が神凪の炎に負けぬよう強くなれるようにと敢えて厳しく当たっていることには、気付いていました」

「!?」

 

 ようやく熱も冷め、厳馬が怒声を上げようとした寸前に、和麻は口を開いた。

 それは厳馬にとっては寝耳に水の出来事。

 口に出したことはおろか態度にも出したことは無かったはずだった。

 それなのに、和麻はそれに気付いていたという。

 その言葉に、厳馬は先程の出来事も忘れ、呆然と和麻の目を見つづけた。

 

「ですが、それでは私は神凪以上には強くなれない(・・・・・・・・・・・・で しょう。ですから、私は家を出ることにしました」

 

 言いたい事を言い終えたのか、和麻は最初と同じように口をふさぎ、ただじっと厳馬の言葉を待ちつづけた。

 それに、厳馬は一度目をつむり深く息を吸うと、

 

「そう、か……ならばもはや貴様と私は父でもなければ子でもない。貴様のような出来損ない……言われずともこちらから縁 を切るつもりだったわ」

 

 と、和麻を突き放し、その上で文机の中に忍ばせてあった一枚のキャッシュカードを、和麻に投げ渡した。

 

「一千万入っている。せめてもの手向けだ。それを持ってどこへなりと失せるがいい」

 

 それは不器用な親としての最後の務め。

 引き止める資格をもたない厳馬は、せめて強くなろうと決心した和麻があと腐れなく、過不足なく神凪を出て行けるように と、そう思い、和麻を送り出す。

 その言葉と態度に、和麻は薄く微笑み、「ありがとうございます……“父上”」 という呟きを残し、部屋から静かに退室 していった。

 

「…………あの、馬鹿者が」

 

 そうしてしばらくして、厳馬は一人声を立てずに涙を流す。

 和麻が最後まで自分のことを“父”と呼んでくれたことが、心の底から嬉しかったから。

 

 

 

 

 

 胸に去来するはさまざまな想い。

 

 

喜ばしかった――

 厳馬(ちちおや)と いう壁を乗り越え、和麻(むすこ)が自分の進むべ き道を見つけることができたから。

 

怒りがあった――

 “炎”にしか固執できない神凪という愚かな一族と自分に対して。

 

哀しかった――

 最後の最後まで、“神凪の炎術士”としてしか息子に接することができなかったから。

 

楽しみができた――

 いつの日か、自分を超えた“強さ”を得て帰ってくるであろう、息子のことが。

 

 

 だから、厳馬が涙を流すのはこれが最初で最後。

 帰ってきた和麻に笑われぬよう、自らも強くあろうと心に決め、厳馬は一人、静かに涙を飲んだ。

 

 

 

§◆◇◆§

 

 ――――和麻が神凪から出て行った。

 

 この報は和麻と厳馬が相対した最後の夜の翌日に、瞬く間に広まっていた。

 その噂は尾ひれ背びれはおろか胸びれまで付いて回り、もはや原形などとどめていなかった。

 

一人は、和麻は人生に絶望して自害した。と言い

一人は、和麻は金を稼ぐ為にマグロ船に乗り込んだ。と言い

一人は、和麻は人知れず殺され、裏庭のどこかに埋められた。と言い

一人は、和麻は炎を手に入れるために悪魔と契約し、それが失敗して魂ごと食われた。と言い

一人は、和麻は『オラより強いやつに会いに行く』と言って出て行った。と言い

一人は、和麻は分不相応にも綾乃様に手を出して、宗主にハンマーで飛ばされ光になった。と言った。

 

 微妙に事実っぽいのも混じってるがそのほとんどが眉唾物なあたり、どうにも始末に終えない。

 その報告を聞いた重悟は一言 「そうか」 と言い、以後和麻に関する不要な噂は慎むようにと触れを出した。

 だが、そんなことを素直に聞くようならば神凪の愚かさは少しどころか多大に改善されていたであろう。

 噂はとどまることを知らず、ついに、この男の元まで届いてしまった。

 

 

 

「いやぁ、あの目障りな無能者もようやく姿を消したか。善哉善哉」

「そうですな、無能とはいえ宗家のもの、そのような“物”が次期宗主の列に加わっていたなどとは……今思えば空恐ろしい 限りですな、ハッハッハ」

「厳馬殿も深雪殿もこれでようやく肩の荷が下りられた事だろうな……おや、噂をすれば」

 

 和麻の噂を誰はばかることなく口外にする分家の者たちの前に、厳馬が静かに姿をあらわす。

 その顔に表情は無く、神凪から逃げ出した(と噂になっている)和麻のことなど歯牙にもかけているようには思えなかった ため、分家の者たちは安心して厳馬に祝いの言葉をかけていた。

 それが、どれほど愚かしく、かつ厳馬の逆鱗に触れるのかと言うことをまったく理解もせずに。

 

「いやぁ、厳馬殿! ようやくあの無能者の顔を見ずにすむと思うと清々しますなぁ!」

「厳馬殿もさぞ迷惑していたでしょうからなぁ、いやぁ、あの無能者ときたら……百害あって一利なしとはこのこと、うわっ はっはっは!」

「……」

「まぁまぁ、お二方。厳馬殿もやっと肩の重荷をとることができたのだ、ここは一つ酒でも酌み交わしパーっと騒ごうではあ りませんか」

「おぉ、それが良い、それが良い」

「厳馬殿もよろしいですかな? もしよろしければ深雪殿もご一緒に……」

「……黙れ」

「は?」

 

 その分家の者どもの無遠慮な物言いが、厳馬にはひどく癪に障った。

 和麻に笑われぬよう、強くあろうと思った。それはつい昨晩のことだ。

 そのためならば多少の罵詈雑言には耐えて見せると、耐えられると、そう思っていた。

 だが、それでも許せないことはある。

 

 顔が見られないだと? そんなこと、覚悟の上だ

 迷惑だったかと? 貴様らのような口上でしか尊大に振舞えぬ愚か者こそ迷惑だ

 肩の荷が下りた? 血を分けた己の息子を背負う苦労など、大金を積んででも買占め背負ってやる

 

 それを口にしてしまえればどれほど楽になれただろうか。

 だが、厳馬はそれを口にするわけにはいかなかった。

 他の誰でもない、父親であるはずの厳馬が和麻になにもしてやれなかったのだ、いまさら本心(よ わね)を言ったところで、それは和麻に対する侮辱にしかならない。

 だから、厳馬は不器用な親であり続けるしかなかった。

 それなのに、この目の前の愚か者どもは、あろう事か自分に対して 『和麻がいなくなって良かった』 と言い放ったの だ。

 許せるはずなど、微塵も無い。

 

「黙れといった……ッ! あやつは他でもないこの私が見限り、この私が勘当したのだ――――なにも知ら ない貴様らが……口にして良いことではない!!」

「ヒッ!?」

 

 それはまるで火の山が爆発したような、星が産声を上げたような威力を誇る感情の発露。

 それを間近で受けた分家の者たちは、ある者は腰を抜かし、ある者は失禁をし、ある者はそのまま気絶をし倒れ伏した。

 その惨状に厳馬は 『やはりこの程度か』 と呆れ返ると、憤怒の表情から一転再び無表情に戻り、

 

「良いか……今後一切あやつに関する噂を私の前でするな。もししたら……わかっているだろうな?」

「はははははは、はいぃぃいぃぃぃ!!!」

 

 と、いまだ意識を残していた一人に対して睨みを利かせた。

 たったそれだけで、その者は悲鳴をあげ、尻尾を撒いてその場から立ち去った。

 あの様子ならば他の者にも正しく伝わらせるだろうと、そう思い厳馬も安堵しその場から立ち去ることにした。

 

 

 

 廊下の曲がり角で、その話を聞いていた者がいるなど、露にも思わず。

 

 

 

§◆◇◆§

 

 和麻が神凪から出て行ったという噂は、宗主はもちろんのこと、その娘である綾乃にまで届いていた。

 いや、むしろ和麻のことを噂していた中心的な人物たちはほとんどが子供なのだから、同じく子供である綾乃に話がいくの は当然かもしれない。

 その噂を聞き、綾乃は人知れず憤慨をあらわにしていた。

 

(なによかずまさんったら、たしかにたたいちゃったのはわるいと思うけど、でていくことないじゃない!)

 

 それはとても的外れな思いではあるが、綾乃の中ではさまざまなヒレがついた確実性の無い噂よりもよっぽど信じられる事 実だった。

 

(だいたいかずまさんもかずまさんよ、あたしにキ、キスまでしておいて家出するなんてないじゃない! もどってきたら ぜったいに“せきにん”とってもらわなくっちゃ)

 

 そんなことを考えながら廊下を歩いているときに、その声は聞こえてきた。

 

『いやぁ、厳馬殿! ようやくあの無能者の顔を見ずにすむと思うと清々しますなぁ!』

『厳馬殿もさぞ迷惑していたでしょうからなぁ、いやぁ、あの無能者ときたら……百害あって一利なしとはこのこと、うわっ はっはっは!』

 

 その周囲の迷惑を顧みない大声に、綾乃はカチンときた。

 

(なによなによみんなしてかずまさんをのけ者あつかいして……! あったまきた、とっちめてやるんだから!)

 

 綾乃にとってはその声の主が大人かどうかなんて関係が無かった。

 ただ、自分の“目標”であり、“責任”を取ってもらう人物のことを貶されたのが、綾乃の中では他のなによりも許しがた い行為だったのだ。

 それに自分は宗主の娘である。

 そんな自分の言葉なら、分家のものならば一も二も無く頷くだろうと、そう思ったからこそ綾乃もその声の主に対して抗議 することを決めたということもある。

 

「まぁまぁ、お二方。厳馬殿もやっと肩の重荷をとることができたのだ、ここは一つ酒でも酌み交わしパーっと騒ごうではあ りませんか」

「おぉ、それが良い、それが良い」

「厳馬殿もよろしいですかな? もしよろしければ深雪殿もご一緒に……」

「……黙れ」

 

 そしてその者たちの直前――廊下の角まできたとき、その場にいるとは思わなかった人物の声が聞こえてきた為に、綾乃は 慌てて声をかけるのをやめ、息を殺して隠れた。

 

(あ、あぶないあぶない。げんまおじさまいたんだー、あの人こわいのよねー……でもなんでげんまおじさまがいるのにかず まさんのわるくちとめないんだろ?)

 

 綾乃の中では厳馬はいつもむっつりと不機嫌そうにしている怖い親戚、という思いがある。

 だがそれでも厳馬は和麻の父親なのだから、自分の子供の悪口を言われたのなら止めるのが当たり前だろうと、綾乃はその ときまで疑いもしていなかった。

 だが、次の瞬間厳馬の口から出てきた言葉に、綾乃は心底驚愕することとなった。

 

「黙れといった……ッ! あやつは他でもないこの私が見限り、この私が勘当したのだ――――なにも知ら ない貴様らが……口にして良いことではない!!」

 

(――――!? みかぎる? かんどう? なんで? なんでなんでなんで???)

 

 それは綾乃にとっては信じられない言葉だった。

 親ならば子供を愛するのが当然。それは、己の父(そうしゅ)も 言っていたはずではなかったか?

 なのに、この廊下の角を隔てた先にいる厳馬は、それをあっさりと覆し、あろうことか自分で自分の息子を追い出したと 言ったのだ。

 

(じゃぁ……かずまさんが家をでたのって……あたしがたたいちゃったからおこっちゃったんじゃなくって、げんまおじさま に……。ゆるせない……あのひとはあたしの“もくひょう”なのに、なのにけなすなんて、おいだすなんて――――ぜったいにゆるせない!)

 

 その話は幼子である綾乃にとってはまさに衝撃的だったといってもいいだろう。

 親から愛されることしか知らなかった綾乃は、拒絶され排斥されるということを知らない。

 だからこそそれはとても恐ろしい事で、それを行った厳馬や分家の者たちに対し、嫌悪の感情を抱くと言うのも、無理から ぬ話だろう。

 綾乃は一人、厳馬が立ち去ったあともその場に残りやり場の無い怒りに胸を痛めていた。

 

 

 

 

 

 そしてこの日より、綾乃は一切の甘さを捨て、修行に励むこととなる。

 いつかきっと自分が宗主になって神凪を変えれば……その先にきっと、目指す人の笑顔が戻ってくると信じて……

 

 

 

 

 


 やや中途半端な終わり方ではありますが、これにて過去神凪編は終了となります。

 次回はちょっと場面を移して中国であった“あの事件”のことを2〜3話程度にまとめて書いてみようかと思っております。

 

 和麻、原作よりも2年も早く神凪を出奔してしまいました。

 更に原作では厳馬に勘当を言い渡されていた和麻ではありますが、本作では自ら出奔の報告を厳馬にしています。

 これに関しては私も思うところがあり、変更させていただきました。

 まず一つめは、和麻×綾乃にする場合、継承の儀を通過してしまうといろいろと不都合が出てきてしまう (どちらが勝っても負けてもラヴに結び付けづらくなってしまう) 可能性がでてきてしまうため、継承の儀を通過しない形を取らせて頂きました。

 出奔報告に関しては和麻の心境の変化でしょうか、原作では心を折られた和麻ですが、本作では踏まれても踏まれても伸び上がる麦の如き執念さを見せ 立ち上がる和麻が、いつまでも神凪に居つづけるというのはどうにも妙な気がしまして……

 かわいい子には旅をさせろとも言いますしね?(違)

 それと厳馬が変わり過ぎですが、私の中での厳馬像はこういう感じです。

 不器用は不器用なりにがんばってたんだけど、やっぱりどこか不器用で全部ばれちゃっててでもやっぱり不器用にしかできなくて……

 じゃなきゃ原作1巻で最後にあの台詞は言わないでしょうから。

 

 -IX- 拝。

 

 

     

 


本日のNG集

 

 そうこうしているうちにやがて厳馬の私室前にたどり着くと、和麻は両頬をたたき、気合を入れなおす。

 

トントン……

 

『はいってます』

「トイレ!?」

 

 純和風建築神凪邸。トイレも障子戸の純和風。ありえ ねー

 

 

 

本日のNG集その2

 

 それなのに、この目の前の愚か者どもは、あろう事か自 分に対して 『和麻がいなくなって良かった』 と言い放ったのだ。

 許せるはずなど、微塵も無い。

 

「黙れといった……ッ! あやつは他で もないこの私が見限り、この私が勘当したのだ――――なにも知らない貴様らが□☆∀仝ΜΣω▼♪ξ♯……すみませーん、噛みましたー」

「ぁー、NG大賞行きだなー」

 

 はい、NG集に載せました(・∀・)ニヤニヤ

 

 

 

 終われ

 


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