昼休みも終わりが近づいた頃。


トイレから戻った悠二はどこか疲れたように席に腰を下ろした。

その様子にシャナは訝しげな、一美は心配そうな目を向ける。


「坂井君、調子悪いの?」


「あ、いや、ちょっとそこで変なのに絡まれてね…ハハ。」


引き攣ったような笑いを漏らす。

ふと、シャナのほうを見ると、まだメロンパンに噛り付いていた。

シャナの机には食べ終わったメロンパンの袋が山積みになっている。

…見てるだけで胸焼けしそうだ。


「しゃ、シャナちゃん…よく食べるんだね?」


吉田さん。また控えめな表現を…

ああいうのをドカ食いと言うんですよ?

可愛いから良いんだけどね。


「シャナ、それ美味い?」


「うん!」


頬にパンの滓をくっつけたまま、

ニッコリと微笑んで頷くシャナ。


瞬間。


教室に残っていた男子全員の時間が静止した。




「「「(げ、激萌えぇぇっっ!!!)」」」




ある者は椅子から崩れ落ち、

ある者は机に突っ伏し、

ある者は壁にもたれかかり、

脳内をリフレインする甘美な幻想(妄想)に身を捩じらせていた。


その異様な光景に吉田さんは怯えていたようだが、

彼らと同じく、目を血走らせてハアハア言ってる悠二に気づかないあたり、恋は盲目という格言を思い出させてくれる。




そんな、何気ない昼食の風景。




































灼眼のシャナ 存在なき探求者

第11話 下校




































「それじゃ、帰ろうかシャナ。」


放課後。

終礼のチャイムが鳴り、SHRを終えた生徒たちは各々が家に、部活に向かっていく。


「吉田さんも、また明日ね。昼にも言ったけど、今日は早く帰ったほうが良い。夜は出歩かないようにね?」


「うん。坂井君にシャナちゃんも気をつけてね。」


「…え、と。また明日…一美。」


どこか慣れない口調で、ぎごちなく言うシャナ。

こういう友達同士の付き合いをしたことが無かったのだろうか?

悠二はそれが少し気になったものの、軽々しく聞いて良いものでもないかと思い直し、シャナを促す。


「それじゃ、行こう。」


最後に吉田さんに手を振って、教室を出る。

そのまま歩いて校門を出たところで、突然悠二は立ち止まった。


「悠二?」


「あ、いや…なんでもない。」


そう言いながらも、不審げに辺りを見回す。


(今…何か違和感が)


普段と変わらない学校の風景。

なぜだろう。

一瞬。そこに何かの、言葉に表せない何かの異物が混じっているような…

ごく微かな違和感が…


「悠二!」


「わ……な、なに、シャナ?」


「なに?じゃないわよ…おまえこそ、さっきから何やってるのよ?」


言われてみて、何だったんだろうと考えてみる。

“徒”が自在法を使うときの感覚と、よく似ている気がするが、“存在の力”を感じることはできなかった。


「いや……なんでも、ない。」


気のせいかと思い直し、

もう一度辺りを睥睨してからシャナに向き直る。


「じゃあ帰ろうか。」


「ま、いいけどね。悠二の奇行にはもう慣れてきたし。」


「ぼ、僕の評価ってそんなもん?」


なにやら精神的なダメージを受けたらしく、ガクリと崩れ落ちる悠二。

そんな彼を引きずるようにしてシャナは学校を後にした。


















彼女らが出て行った校門の近くを、微かに深緑の火の粉が舞った。













     ◆       ◆       ◆       ◆       ◆       ◆       ◆













「ただいま〜」


って、誰もいないけどね。

シャナと連れ立って家に帰り、玄関をくぐると、響子が血相を変えて2階から駆け下りてくるのが見えた。


「ドォーミノー、家の中で走るな。」


「はわッ!!す、すみません。今朝、悠二さんあてに外界宿のほうから電話がありまして。」


「なんかあったの?」


あそこから自宅宛に直接連絡がくる時は、大抵碌でもない話だったりする。


「外来のフレイムヘイズが一人、市内に入ったそうです。それと、組織からの派遣部隊が御崎市周辺の隔離を…」


「外来か…厄介な。」


「組織?」


シャナが頭の上にクエスチョンマークを浮かべてこちらを見てくる。


「その様子だと…まともな手合いじゃないみたいだけど。」


響子の只ならぬ様子に、嫌な予感を覚える。

狩人だけでも厳しいってのに、この上まだ何かあるのだろうか。


「組織って?」


シャナが聞いてくる。

それには答えず、居間のほうを指差す。


「取り合えず、座って話を聞くよ。」


「ゆ・う・じ!!組織って何なの!!」


「ああもう!少し静かにしてくれ、ちゃんと落ち着いてから説明するから!!」


「ひゃうっ!?」


突然の悠二の剣幕に驚いたらしく、シャナはブツブツ言いながらも引き下がった。

いかんいかん、少しばかり気が立ってるらしい。

まあ、明日には母さん帰ってくるのに、更なる厄介事が舞い込んできたんじゃ目も当てられないからなあ…



 BACK TOP NEXT






inserted by FC2 system