EME wind 

プロローグ 「ようこそ、EMEへ」

東京。人にあふれたイメージだが、それは表の顔。

裏になれば不可解なことが最も多いところなのだ。

そんな東京の路地で、ひとりの少年、神凪和麻がなにかと戦っていた。

「ち!楽な仕事だって聞いていたのに!」

風が彼の意思にしたがい、何かに放たれる。放った対象。それは鵺と呼ばれ、猿の頭、狸の体、虎の手足、蛇の尾をもつ妖怪だ。鵺は手を振り風をはじいた。

「なんでできてんだ、あの皮膚!」

後方へ下がり再度風を放つ。刃は地を走り、鵺の足を切り裂いた。

「くそ。早く帰って飯食いたいのに」

今ごろ、家では同棲中の彼女が鼻歌まじりに料理を作っているのだろう。8時に帰ると言った、何気ない言葉を信じて。そして、今の時刻は7時半。やばい、や ばすぎる。ここで手間取って、帰るのが遅くなれば律儀に料理に手をつけず待つのであろう。そんなことはさせれない。早く片付けなくては。和麻はそう考え、 手のひらに風を圧縮した。

「食らえ!風弾!」

回転を与えることで貫通性を上げ、空気抵抗を減らし対象を撃ちぬく。和麻の得意技だった。すこし、細工を加えればどんなものでも強くなる。重さのない風で も、銃弾のように鉄を貫けるように。しかし、彼の父はそれを認めず、あげくの果てに勘当したのだ。

「くそ親父、覚えてやがれ!その顔をいつかぶん殴ってやる!」

勘当を宣言されたとき、家の前で高らかに午前3時に宣言したセリフを、再び吐く。

風の弾は狙い通りに鵺の手を貫いた。あと一息。今度は頭に叩き込む。再び風を圧縮し始めた。その時だった。

「ぎゃああ!」

鵺が雄たけびを上げて突っ込んできた。まだ準備が出来ていないのに。横に避けようとするが間に合わず鵺がまじかに迫った。その吐息から、独特の異臭がす る。この息があらゆる病を引き起こすというが頷ける臭いだ。

「この野郎!ざけんな!」

風を下から鵺の腹へ叩き込む。大気の拳という名がある技で標的を定めるのが難しいが威力は高い。だが、それを食らっても鵺は微動だにしなかった。

「マジかよ・・」

鵺の腕が高く掲げられる。おそらく、あの手で頭を砕くつもりだろう。こんなところで死ぬわけにはいかない。仕方なく、本気を出すことにする。しかし、間に 合うだろうか。

心の奥の扉を開こうとしたとき・・・ドンという重たい銃声が鳴った。

「そこの奴!早く逃げろ!」

自分とあまり年が離れてなさそうな男が叫ぶ。その体は、黒いスーツで覆われていた。

そして、男の手には銃が握られていた。

「これは動物じゃない!命に関わるぞ!」

男が銃を発砲し、銃口から火が噴かれる。銃声が夜の東京に鳴り響いた。しかし、そんな音を掻き消すような大声で和麻は叫んだ。

「やかましい!こいつは俺の獲物だ!手を出すな!」

風が吹き荒れ、鵺を襲う。

「術者か・・。そのPC,鵺はEMEが保護指定をした妖怪だ!どこのどいつか知らないが邪魔はしないでくれ」

EME。元、八百万機関といえば、思い当たる人も多いはずだ。あらゆる怪奇現象を、闇から闇へ処理する独立機関、それが八百万機関である。京に都が出来た ときから、陰陽寮として続いている八百万機関は、大戦後、EMEとして現代に至る。

EMEは、幽霊、妖怪をPC『フェノメノン・クリーチャー』と言い、殲滅指定、保護指定の2種に分けている。他にも、古代の技術や亜人間を監視するなど様 々な仕事をこなしている。そして、今和麻の前にいるのは、EMEのエージェントだった。

「ほう・・EMEか。政府の役人さんがどうした?」

仕事の邪魔だ、とっとと帰れ、という念を飛ばしながら和麻は言う。

「俺たちは独立機関だ。どこの馬の骨か知らないが、死なないうちに帰れ」

ふざけるな、お前のほうが帰れ、という念が男から放たれる。

しばらく、2人は見つめあい、静かな時間がたつ。

それは、一瞬かもしれない。それとも数分はたったのかもしれない。

「さっさと消えやがれ!」

「早くここから出て行け!」

和麻が風の刃を放つ。それは男をすり抜け、壁に跡をつけた。同時に、男が和麻へ発砲した。和麻の足元で銃弾がはじける。

「「今のは威嚇だ。次は当てるぜ」」

同じセリフが違う口から放たれた。

「ギャアアア!」

鵺が男の方へ飛んだ。男は慌てずに銃口を鵺に向けて発砲した。銃声がなる。肩を撃たれると鵺は静まり、ゆっくりと横たわった。麻酔銃だったようだ。

「よし、お前。こいつは俺が連れて行くから早く帰れ」

男が和麻へ言う。しかし、こちらとしても黙っていられない。

「そいつは持っていっても構わんが、お前のとこが金を出してくれるんだろうな。

こっちはそいつを倒して、当分の生活費を稼ぐ予定だったんだ。経済活動の自由は、日本国憲法の自由権で保障されてんだぜ」

金さえもらえばいい。これは、かなり譲った考えだ。和麻としては、無理にでも鵺を殺して、男の仕事を失敗。自分は儲ける、というプランも考えたが制限時間 が迫っていた。

「はあ?命を助けてもらってなにいってやがる。お前は仕事を失敗したんだから報酬はなくて当然だろう?馬鹿言ってないで真面目に働け」

しかし、男は気遣いなど知らずに言い切った。おまけに仕事を奪って、奪われた人間に、真面目に働けと。そんな事言われて、切れない人間が存在するだろう か。

「ふざけんな!そっちと違って、こっちは自給自足なんだよ!飯のタネ奪って、どの口がほざきやがる!」

人差し指で男を指差し、高らかに宣言する。しかし、男は完全に無視して鵺を連れて行く。

まるで米俵でも抱えるように小脇に抱えて。なんて馬鹿力だ。鵺はおそらく60キロはある。それを抱えるなんて。馬鹿だから馬鹿力も当然か、と思い直し風の 弾を男の横に放つ。

風が男の頬をかすり、傷をつける。

「お前、早く帰れって言われたのに気づかなかったのか?」

「俺が言った話も、聞こえなかったのか?馬鹿は」

後半は言い切りで終わらす。向こうもカチンと来たのか鵺を降ろして向き合う。

「・・早く帰ればよかったものを。こっちも仕事を妨害する奴を見逃す気はもうないぜ」

男が言う。それを聞き、和麻は、

「その言葉、馬鹿は死ななきゃ直らないなという言葉をつけてお返しするぜ」

中指を立てて挑発する。対して、男は親指を下に向けた。2人の距離は50メートル。銃を抜くより先に、和麻の風は男を倒せる。和麻はそれを把握していた。

「いくぜ!公僕!」

風が放たれる。男がそれを避ける。しかし、銃を抜くよりも先に風を放てる。和麻はそう考えたが予測が外れた。男が走ってきたのだ。それは、常人のスピー ドを超えていた。正しくは、気づいたら目の前にいたこと、地面についている急ブレーキをかけたような跡からの推測だが。

「はあ!」

男の拳が和麻の腹へ突き刺さる。風を集めて盾にしたが、関係がないぐらいのダメージが体に走った。

そういえば、EMEのエージェントは多くが特殊な力を持っていると聞く。

男はそれを使ったのだろう。銃が男の脇から抜かれる。銃口は和麻の頭を捕らえていた。

和麻は風を操り、銃口をずらそうとした。しかし、なにかに固定されたように銃口は動かなかった。

「・・・殺せよ」

和麻がつぶやいた。いくら、まだ本気じゃ無いと言ってもこの距離では間に合わない。

「殺さない。不殺が、俺の信念だから」

男がいった。その瞳には、熱い魂が宿っていた。

「強いな、EMEのエージェントは」

和麻が正直に言う。一時期、やさぐれていた自分なんかより、この男は強い心を持っている。そう感じたから。あぶないところまで行った。大切な人を、失いそ うになった。

「そうでもないさ。・・少ないけど、安定した収入は欲しくないか?」

男が問いかけた。その言葉の意味は、わかる。先ほどまで戦っていた相手にこんな風に言えるとは。

ちょうどいい、一人にもあきたし、誰かとつるむのもいいかもしれない。

なにより、安定収入はうれしい。

「ああ。権力振り回して、やりたい放題してみたいな」

和麻は手を伸ばした。男が、和麻の手をとった。

「楽ばかりじゃないけど・・ようこそ、EMEへ」

これが、少年だった神凪和麻と、男になっていた乾

紅太郎との出会いだった。

そして、翌日から和麻は神凪を捨て、八神和麻としてEMEへ入ったのだった。


当日談。握手をしたとき、時刻はすでに8時半を回っており、和麻は文字通り飛んで帰った。しかし、部屋には予想通り、冷めた食事を前にして座っている、不 機嫌そうな碧色の目をむける最愛にして、最恐の人がいたのだった。




あとがき。
どうも、EMEとのコラボ書きました。ご感想お待ちしてます。これは、EMEを主に書いていくので

聖痕キャラは脇役になってしまうかもですが、未来は未明なので、かわるかもです。

多くの達人の方が書いている風の聖痕。自分が少しでも近づけるように努力していきたいです。

高校受験が終わったばかりのサザンクロスでした。

銀河の魔術師もがんばります。どちらが好みかも言ってくれてかまいません。とにかく、ご感想、おまちしております


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