EMEwind 第17話「エピローグ」


「ボンジュール、カズマ・ヤガミ」

やわらかく微笑む、赤い瞳の女性。普通、その魅力に眼を引かれるだろう。

しかし、真は嫌な感覚を味わってしまった。本能が告げる、近づくな、と。

「マ・・マリ・・ア・・」

和麻が、囁くように言葉を口にする。どうやら、女性の名前らしい。

「ふふ、再会できてうれしいわ。どれほどこのときを・・待ち望んだことか」

長い髪を揺らしながら、和麻に近づく。そしてほとんど距離がなくなる。

「・・・あの子はどんな死に顔だった?」

「安らかだったよ」

声がかぶさるような速さで和麻は答える。

「どこまでも、安らかで・・寂しそうだった」

「ふうん、そう。あなたがいたから、そうなっちゃったのかしら。つまらないわね。
せっかく、化け物にしてあげ・・」

言葉を言い終わる前に、和麻が剣を振るう。それは、完全にマリアを捕らえていた。

避けることはできないだろう。しかし。

「あぶないわよ、もう」
精霊騎士の刃を、片手で防いでしまったのだ。それに、どれだけの力が必要なのだろうか。

そんなものを、マリアは瞬く間に必要な分集めたのである。

「これが、精霊騎士なんだ。けっこう・・ぬるいものね」

「な!?」

真が声をあげる。世界をすべる精霊王の直属の部下である精霊騎士を、ぬるいと言い切る。

そんな人間がいるだろうか。アリと近代兵器ぐらいの差が人と精霊騎士の間にはあるというのに。

「ああ、でも・・炎のあなたの、最後のやつはおもしろかったわ。ほめたげる」

世界を滅ぼす力がある邪神を、おもしろいと語る。

「まあ、あの程度じゃ負けないけど。ちょっと・・遊んであげようかしら」

目線を真へ向ける。瞬間、真の体が硬直する。

「馬鹿やろう!避けろ!」

「!?」

和麻の言葉を聞き、横へ飛ぶ。その刹那、地面に光が触れる。光が触れた部分は、煙をあげながら消滅していく。

もし、直撃・・いや、かすりでもしていたら。

「結構、楽しめそうね。大丈夫、殺しはしないから。ちょっと、付き合ってもらうわ。
ラピス、あんたも入りなさい」

「・・はい」

マリアの言葉に頷くラピス。剣を構え、真に向く。

「和麻もいるんだから、2体2よね。じゃあ、いくわよ」

両手を打ち合わせ、地面へ当てる。その瞬間、地面がとげを作り出しながらこちらへ向かってくる。

「優衣!」

『うん!』

―烈火の焔 纏う鎧は寄せ付けぬ 纏う刃に敵はなし その力 我に宿りて示さんー

「鳳凰の大翼!!」

炎の翼がとげをなで、焼き尽くす。

「いきます」

横から声。振り向くと、水晶の剣の切っ先がこちらを向いていた。

「くそ!」

剣でそれを受け流し、距離をとる。

「・・つまらないわね」

マリアが、ボツリと漏らした。

「まだまだ、もの足りないわ。もっと・・楽しませてよ。じゃないと・・」

マリアが手を空へ掲げた。その瞬間。太陽が、増えた。

いや、ちがう。マリアが特大の火球を作り出したのだ。神凪でも、こんなことができる人間は少ない・・いや、皆無だろう。

「これを・・落とすわ」

「な!?」

真は眼を大きく開く。あんなものを落とされたら京都は・・いや、日本の半分が・・消えてしまう。

「なにかできるなら、早く準備しなさい。あと10秒で・・落とすわ」

「ち!フィー!!」

「優衣!」

和麻を真が構え、2人の唄が合わさる。

―汝貴とかいくめむすばん 地の終えのさやけし 天のはら 颯颯の声 汝貴とかいくめ
紡がん などさは臆せにしか ゆめゆめ独り 武すなき かげ光 満ちらん 地の終えの
さやけし 天の海 颯颯の声 かくいめ合わさんー

風が、集まる。

―死の犠 無の威 箍を外した業の龍 古の時に封ざれた 怨嗟の炎よ 
火の神の御名によって 今命ずる 秩序を持って 我が前に姿を現せー

炎が、騒ぐ。

「ふふ・・じゃあ、いくわよ」

マリアが手を振り下ろす。同時に、その巨体からは想像できないスピードで落下を始める火球。

その火球の横へ、攻撃を当ててぶち破る気でいる2人。マリアも、彼らも正気ではないと言える。でも、それが必要なのだ。

「東風の鐶!!」

「赤き光の炎獣!!」

渦巻く竜巻が、八つ首の竜神の放つ閃光に纏う。銀色に輝く閃光が、火球へ当たった。

「く・・」

和麻にも、真にも限界が近づいていた。お互い、ギリギリの体力と精神力でこの攻撃を繰り出したのである。

もし、弾かれれば・・終わりだ。

「・・まあ、満足かしら。今のところは」

マリアが言う。口の動きは小さいが、その声が和麻には届いた。隣の真には届いていないようだ。

風に乗せて声を運んでいるらしい。マリアの言葉を聞き、和麻の顔つきが変わる。

そして、その後。閃光が、火球を貫いた。



数日後。

「・・ついに、引越しか」

真は、自分が生まれ育ったままであり続ける京都の町を見下ろした。

「真くん・・」

優衣が隣で、心配そうに顔を覗き込む。引越しは、真が高校2年に上がったら行う予定で、ついに今日、1年生が終わったのである。

「じゃあ・・いくか」

「うん」

「・・優衣」

真が、口を開く。

「これからも・・いろいろと世話になるけど・・頼むな。その・・一生」

「・・・」

ポカンとして、真の顔を見る優衣。その視線に気づき、真は恥ずかしくなってそっぽを向いた。

「真くん・・いま・・」

「ああもう、何度も言わせるな!いくぞ!」

「ええ!?待ってよう、ご主人様ぁ」

「変な呼び方するな!」

沖田真、16歳と9ヶ月。身長は173センチと微妙で、引き締まった体がスポーツマンを思わせる。

特に良い点もないが、悪くない顔立ち。そして、精霊騎士フレイユ・イレーザーの契約者。

昼は高校生、夜は・・EMEに雇われたヘルプ。それが、今年の春からの真だ。



東京の、某空港。1人の青年が、飛行機を待っていた。青年は、少し振り返り、背後を見つめた。

思い出すのは、今までの日々。振り切るように顔を向けなおし、前へ進もうとした。

「待て、この野郎」

不意に、声がかかった。青年、八神和麻はゆっくりと振り返った。

そこにいたのは、親友にして、戦友。乾紅太郎だった。ちなみに、先日退院したばかり。

「紅、なんのようだ?」

「バカか、お前は?聞く前に考えろ」

「・・・なんの用だ?」

もう一度、聞いた。

「見送りだ」

「止めないのか」

「お前が決めたことだろ」

紅は静かに、和麻を見た。あの戦いの際、マリアが言い残した言葉。

『今度は、アメリカにおもしろい子がいたの。ぜひ、一緒に遊びましょ』と。

翠鈴や、クリスのような女性を生み出すわけにはいかない。そのため、和麻は代理の机の上に辞表を置き、無期の休暇を取ったのである。

「・・・紅。ありがとな」
全てを悟り、引止めでなく見送りにきた親友に礼を言った。

「・・餞別だ」

和麻が紅へ持っていた包みを投げる。

「売って資金の足しにしたかったんだが・・やるよ」

「ああ、ありがとな。行って来い」

「・・行ってくる」

和麻は、珍しくやわらかく微笑み、そう言った。


EME本部へ戻った紅。入り口に入ったところで、1人の少女が駆け寄ってくる。

もちろん綾乃だ。手には、和麻の辞表が握られている。

「こ、ここここ・・こ・・」

「鶏みたいだよ」

「紅さん!?和麻が!」

叫び続ける綾乃を見て、ふと思った。もしかして、この暴走少女の面倒も、自分がみないとならないのだろうか。

「紅様!探しましたわ!」

そう言って駆け寄ってくるのは、琴葉である。彼女は、結局EMEのGAとして入隊した。

実力も申し分なく、しばらくは紅や他のGAと仕事をして、慣れれば一人前のGAである。

そして、その背後には黒髪の少女、ティン。水の精霊騎士であり、

紅と仮契約していたのだが・・やはり水だけあって水術のエキスパートである琴葉がいいだろう、ということで紅の勧めで本契約をしたのである。

今は相性もよく、彼女らだけで大概の仕事は片付いてしまう。

「琴葉さん?どうしたんだ?」

「東哉さんですけど、無事退院したそうです」

マリアとやらにやられ、力の大半を持っていかれた東哉。その体の治療のため入院していたのだ。

今度は、力の回復のため、また山にこもるらしい。

「ありがと。えっと・・他には?

「あ、それですが。その・・えっと・・その・・こ、こんど・・」

顔を赤くして、口をパクパクさせる。ティンがニヤニヤとその様子を見ている。

「こんど!私と・・映・・」

「あ、茜ちゃん」

琴葉の向こうから来る茜に手を振る。嬉しそうに笑顔を浮かべ、こちらへ向かってくる。

視線を戻すと、ガックリとしている琴葉がいた。


時刻は、すでに昼。茜、綾乃とともにEME本部の屋上で昼食を取っていた。

ちなみに、弁当は茜が作った、どんぐりゴロゴロ弁当だ。団栗にちなんで作られたミートボールが、弁当の中心に居座っている。

琴葉も来ようとしたが、三木矢に見つかり、仕事だと連れて行かれた。

「あんの、バカ!人でなし!最低!」

叫び続けながら、食べ続ける綾乃。和麻がいたら、食べながらしゃべるな、とつっこんでいただろう。

「綾乃ちゃん、和麻さんだってなにかあるのよ。信じてあげなきゃ、ね?」

「うう・・でも、茜さ〜ん!」

「はいはい」

優しく微笑む茜に、ほんの少し、昔のことを思い出した紅だった。



飛行機内。時刻は、搭乗したころにさかのぼる。

(えっと・・C34、C34っと、ここか)

和麻は席を見つけた。しかし、そこにはすでに先客がいた。野球帽をかぶった少年が、ごく自然に座っているのだ。

その隣には、帽子を深くかぶっている女性がいた。

(くそ、邪魔くせえ・・)

と、少年が顔を上げた。そして、口を開く。

「やあ、義兄さん」

「は!?ミハイル、だと!?」

予想外のことに驚きを隠せない和麻。確かに、少年はミハイル・ハーレイだった。

「あと・・忘れものだよ」

隣の席に座っている女性の、帽子を取る。そこには。

「つ、翠鈴!?」

黙って出かけてきたのに、なぜここにいるのだろうか。

「和麻、置いていくなんてひどいわよ。あたしは・・和麻とずっと・・一緒にいたい」

好きな女性にこういわれて、拒否できる人間は存在しない、いや、してはならない。

和麻は反対を、口だけではしたが、やはり上手く行かず、共にアメリカへ向け、飛び立ったのである。



2人の青年は、出会い、別れ、また再会を誓った。

風が生みすハーモニーは、まだ残る人々を包んでいる。また、会う日まで。


       エピソード1 BLUE・Wind 完。


あとがき

はい、ようやくエピソード1を書き上げた、サザンクロスです。みなさん、お久しぶりです。

元気でしたか?しばらく書けなかったもので、今まで以上に読みにくいかもしれませんが・・いかがでしょうか。

エピソード2は、紅を中心に書こうと思っています。

まあ、エピッソード2を書くかどうかは、皆様の反応をみて考えます。

では、この辺りで。         サザンクロスでした。


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