EMEwind第16話「神々の領域」


炎が踊り、大地が悲鳴を上げる。

「せい!」

薙刀が、迫り来る火球を切り裂く。

『真くん!大丈夫!?』

「なんとかな。でも・・強すぎだぞ、これ」

山に入り、山頂へ上っていった真と優衣。そして、山頂で目覚めた蛇神とご対面してしまったのだ。

携帯で、昨日会った人たちに連絡は入れたが、それまで耐えられるだろうか。

「優衣、あれでいかないか?」

『だ、だめだめ!あんなもの・・使いたくないよ』

断固として拒否。分かりきっていたが。

「もう少しがんばるけど・・だめだったら、使うからな」

『・・うん。なら、使わなくてすむように・・全力で!』

「あったりまえだ!俺だって早死には勘弁だ」

―炎舞い 踊り狂うわ宴の夜 彼の者を快楽に 縛りたりー

「縛炎の鎖!!」

薙刀を地面に突き立てると、地面から炎の帯が打ち出される。それは、蛇神の体と、2組の首を捕えた。

『まだまだだよ!』

―紅き魂ここに集いて 烈火のごとき激しさを 輝く魂ここにつどいて 
太陽のごとき明々と 魂混じりて ここに現さんー

「烈火の竜牙!!」

一筋の炎が放たれる。それは辺りの精霊を取り込み、巨大な形の元となる。

そして、形が出来上がるとそこには、1体の火竜が牙を打ち鳴らす姿があった。

『おねがい、フェルナンド!』

フェルナンドと名づけられている火竜は騎士の剣となって、蛇神に喰らいついた。

正直、優衣のネーミングセンスはどうかと思うが、ここは気にしてる暇はない。

グオオオウ!

蛇神が、肉が牙にえぐられた痛みと、牙から伝わる高密度の炎に叫ぶ。

「いけるか・・?」

真の表情が、わずかに緩んだ。

しかし蛇神は、体をくねらせ炎による束縛を破る。そして、動かせるようになった尾が火竜を横から打ち倒す。

果敢に火竜は喰らい付こうとするが、真正面からぶつかり、弾かれてしまった。

『フェルナンド!そんな・・力負けするなんて』

「そうなると・・中から焼くしかないな」

刃を相手の体に沈ませ、そこから焼く。簡単で、かつ効果的な手段だ。

『うう・・あんなのに突っ込まれたくない・・』

「仕方ないだろう?そうしないと・・」

『嘘だよ。それしかないのは分かってるから。でも・・無茶させちゃうね』

「ま、お前がいる限り俺は無茶し続けるんだ。気楽にいこうぜ、絶対に俺は大丈夫」

薙刀を強く握り締め、不敵に微笑む。

「いくぜ、優衣」

『うん』


風が渦巻き、眷族を貫く。

「くそ!なんでこんなにうようよ出てくるんだ!?」

『自分たちの主が復活したというのに・・なぜここまで頑なに守るのでしょうか?』

上空で戦闘を行う和麻。見える限り、軽く20体。力を通して見る限り、その3倍が和麻を目指している。

「俺が行っちゃまずいってのか・・?おもしれえ・・なにがあるか教えてもらおうじゃねえか!フィー、飛ばしていくぞ!」

『はい。しかし、主・・ペース配分を考えませんと・・』

「フィー。俺の言うことが聞けないのか?俺は大丈夫だ、お前の力を受けきる自信がある。

だから、お前も素直に俺に力を与えてくれ」

『・・・はい。主を・・信じます』

刃を敵の群れの中心部へ向け、集中する。

―汝貴とかいくめむすばん 地の終えのさやけし 天のはら 颯颯の声 汝貴とかいくめ
紡がん などさは臆せにしか ゆめゆめ独り 武すなき かげ光 満ちらん 地の終えの
さやけし 天の海 颯颯の声 かくいめ合わさんー

2人の唄が重なる。

「東風の鐶!!」

輪を描く風の刃が、眷族を切り裂く。全てを飲み込む、竜巻のように刃が踊る。

そして、完全に眷族たちは消滅した。

「はあ・・はあ・・」

息を整え、山頂へ向かう。山頂からは、大きな火柱が上がった。


「すばらしい・・」

大型の化け物を見据え、ヴェルンハルトが微笑む。傍には、ラピスがいる。

「神を取り込み、その力を得た今・・精霊王直属の精霊騎士の攻撃すらものともしていない。

どの攻撃も、蚊に刺された程度でしかない」

本来、邪悪なものを焼き払う精霊騎士の炎。しかし、今戦っているのは一部とはいえ神聖な神が混ざっているのだ。

抵抗も付いているのだろう。

「これほどになるとはな・・私の望むエンディングが出来そうだ」

「・・マスター、八神和麻たちがこの蛇神に負けたらどうなさるのですか?」

「それはない」

ラピスの疑問を、すっぱりと切り捨てる。

「なぜなら、八神和麻だからだ。それに、あの精霊騎士も本気を出していないし、力はまだ集まる。

それらの総合力以上の力を持つものは、単体では存在しないよ。

異界の神々を融合召喚しない限りは無理だろう。

今回は、ハッピーエンドなのだ。なぜだかわかるか?」

その質問に、ラピスは首を振る。

「それはな・・その方がおもしろいからだ」


人影が、山頂を見つめる。

「東哉・・いけますか?」

麻里が聞く。

「ああ。これが終わったら・・次はお前らだ」
振り返り、麻里を見つめる東哉の目はひどく冷めているようで、ひどく暑そうなものだった。

封印を解き、神としての力を解き放たれた東哉。火の精霊が鼓舞し、歓喜の悲鳴をあげている。

「行くぞ」

そういい、東哉の姿が消える。戦いの場へと向かったのである。

「・・・気をつけて」

麻里のつぶやきが風にとけた。


蛇神と戦う真。刃を弾き、炎を寄せ付けない敵に打つ手なし。次第に、体力が失われつつあった。

「はあ・・はあ・・」

乱れた息を強引に戻し、前に向き直る。

『真くん、がんばって!』

「おうよ!」

優衣には元気よく返事をするがあまり自信はない。

おそらく、あと10分も戦っていたらギブアップだ。

―烈火の焔 纏う鎧は寄せ付けぬ 纏う刃に敵はなし その力 我に宿りて示さんー

最後の唄を謳う。おそらく、これを使えば最後の切り札しか使えなくなる。

薙刀の刃に炎が巻きつく。刀身が紅く染まり、灼熱の業火をこの世に召喚する。

その刃から放たれる業火は目標を滅ぼす、消滅させるものだ。

「鳳凰の大翼!!」

そう、鳳凰に包まれ浄化される魂の如く。ただ違うのは、行き着く先が天国か地獄かだ。

刃から放たれた炎は、大きく弧をえがき、巨大な蛇神の体を包み込む。

「死の抱擁を受けろ」

炎が体を飲み込み、視界から巨体が炎にさえぎられ見えなくなった。

そして、炎が消える。そこには、なにも残らない無が存在していた。

「・・・勝った・・のか?」

『みたい、だね・・でも、なんだか』

「ああ。なんだ、この違和感は・・!?」

突如、地面が揺れ始める。薙刀を杖に踏ん張るが、多少足元がふらついてしまう。

それを、待っていたのだ。

ギシャアアア!!

地面から飛び出した蛇神の頭部が真を捉える。足元のふらつきから、体勢を整えきれていない。

やられる。蛇神の口が開かれ、その牙が目に見える。

『・・真くん!気をつけて、上から!』

優衣が叫ぶ。蛇神は前に迫っているのに、上?疑問に思ったが、その疑問はすぐに晴れた。

「消えろ」

静かな声が響く。直後、上から押し付ける力が蛇神を地面へ押し付ける。

真は後ろに下がり、攻撃の効果範囲からギリギリ避けていた。

もし、範囲内にいたら全身の骨が砕かれるだけではすまなかっただろう。

目の前には、今までフラットだった地面に段差が作られている。

「これは・・」

『風の精霊騎士だよ!本当に・・みんないるんだ!』

優衣が興奮を抑えられない言い方で叫ぶ。

「おつかれさん、選手交代ってか」

上空から舞い降りる戦士。風の剣を持ち、精霊王と契約を結ぶ史上最強の風術師。

その名は、八神和麻。


「さてと」

目の前にそびえる巨体。

「・・少しぐらい、傷つけてくれればいいものを」

恨めしげに戦っていた男を見つめる。

「炎の精霊騎士とかいうのは、名前ばかりなのか?」

「な・・お前!」

男が食って掛かる。同時に、男の薙刀が少女へ変わる。

「こっちがどんだけ苦労したと!」

「あたしだって、そんな噂あてにして欲しくないよ!」

叫ぶ2人。それを冷ややかに見つめ。

「はあ・・愚痴くらい言わせろよ。こっちは、これを相手にしなきゃなんないんだぞ」

剣が離れ、シルフィードへと姿を戻す。

「そうです。こちらは進行を妨げるものをダース単位でかなり倒してきたのに、

そちらのせいで少しも休めないじゃないですか。それに・・フレイユ、あなたは最強と

うたわれながらその程度で、おまけに主も守れない。私でしたら、あの場合は融合を解除して主を守りました。

ま、私たちでしたらあんなことになるわけありませんが」

とげを含んだフィーの言葉。和麻はともかく、珍しい。その理由は、ここに来るまでに倒した眷族の数だ。

本当に、多かった。おそらく、90以上は倒した。なのに、こいつらはただ蛇神とじゃれていただけなのだ。

怒りを覚えない人間は少ないはずだ。

「フィー・・あんた、言うようになったじゃない」

「あなたみたいに、名前ばかりじゃありませんから」

そのとき、なにかが切れた音がした。

「・・上等よ・・真くん!」

「は、はい!なんでしょうか!?」

おもわず敬語。とてつもない怒りが、辺りにまでもれだしている。

「いくわよ・・全力で」

体を再び薙刀へ変える。しかし、今までとは形が違う。

腕輪は存在せず、より攻撃的なフォルム。竜を模したような形状から、刃が真直ぐに生えている。

これは、薙刀ではなく槍、いや柄が短いため長剣といったほうがいいだろう。

長騎剣というのが最も適している。

「優衣、これは・・!?」

『あたしの、本当の力。出しすぎたら、持ち主が扱えないほどの力。

でも、真くんを信じて託すよ。フィーなんかに・・・負けるもんですか!』

純粋に、女の意地で俺は命をかけるハメになったわけか。真はため息をついた。

和麻のシルフィードも剣へと姿を変えた。

緋い長騎剣と、腕を包み込むような蒼い大剣。2つの剣が狂想曲を奏で始めた。

「ほんじゃ、いくぜ!フィー!」

―集わり 強り奔らせ 白白明けと 朧なりに いめ通わん―

「こっちもだ、優衣!」

―我誓いけり この力 外敵打ち滅ぼすためのもの 
この力 守るためのもの この力 誓いにかけて使わんー

「西風の弦!」

「灼熱の突!」

竜巻が、炎が放たれる。2つは解け合い、銀色の光を放つ。神凪の金色の炎ではない、銀色の炎。

そう変化させたのは、優衣の力か、それとも和麻の神凪嫌いか。

原因は分からない、しかしそれはまさしく最強の力である。

銀色の炎が蛇神の頭部の下へと命中する。それは免疫や抵抗力すら焼き尽くし、純粋に消滅を与える。

蛇神の頭部が半ばほどちぎられた。

「ぐぎゃああ!」

「神の分際で叫んでんじゃねえ!」

和麻の容赦のない刃がさらに首を切る。しかし、もう片方の首が和麻を襲う。

しかし、避ける必要はない。なぜなら、彼らがいるから。

―炎舞い 踊り狂うわ宴の夜 彼の者を快楽に 縛りたりー

「縛炎の鎖!」

炎の鎖が、首を捕獲し縛り上げる。最初とはまったく違い、抵抗をさせない。

完全に捕らえてしまった。

『フィー!これが、あたしの実力よ!』

「・・俺もがんばってんだけど」

真の言葉は、風に溶けてしまう。そんな風は、和麻の命に従い刃となって攻撃に使われる。

『真くん!あれ、いかせてもらっていい!?完全に消滅させる!』

「よし!ようやく出番だな!?」

『うん。呼吸を合わせて・・一緒に謳おう』

―死の犠 無の威 箍を外した業の龍 古の時に封ざれた 怨嗟の炎よ 
火の神の御名によって 今命ずる 秩序を持って 我が前に姿を現せー

「赤き光の炎獣!!」

クゥゥウウウオオォオォオン!

そして、最強の破壊神が召喚される。優衣の最強呪文、それはかつて火の精霊王に倒され、

封印された邪神を一時的に開放する荒業。維持コストは、術者の魂の力。使いすぎれば死が訪れ、

邪神が完全に開放されて世界が滅びる。ハイリスクを伴う術なのだ。

しかし、それが生み出す力はすさまじい。そう、最高の切り札であり、最悪の呪文なのだ。

召喚された邪神は、八つの頭を持つ竜神だ。八つ首の竜が鋭い顎門(あぎと)を開いた。

その口に、すさまじいほどの莫大なエネルギーが集まる。

蛇神が、逃げようと地面へ向かう。しかし、それは和麻の風に邪魔される。

「メインディッシュだ。しっかりと食っていきな」

力が放たれた。世界を埋め尽くすほどの赤い明滅。八つの破壊砲から放たれる閃光はやがて、

強大なひとつの光になって蛇神を襲う。

それに対し、蛇神は腹を据えて必殺の一撃らしき火球を吐き出す。

しかし、その程度では話にならない。光に火球は飲み込まれ、そして。

ヒュゴン!

蛇神は、その体の大半を消滅させられた。跳ね飛ばされる、ただ1本の頭部。

それが、今の蛇神の全てであった。

「さあ、お祈りでもしておきな」

和麻の風が、蛇神の頭部を包み込み完全に消滅させる・・はずだった。

「・・な!?」

突如、飛び込んだ少女が手に持つ剣でその頭部は切り裂かれた。

水晶のような剣を持つ、和麻の愛す翠鈴に寸分違わぬ体を持つ少女、ラピスによって。

「ありがとう、和麻」

ラピスが発する声は、翠鈴そのものだった。水晶の剣が、その刀身に蛇神の血を吸うかのように赤く染まっていく。

そして、頭部は力を失い、地面へ落下する。

ラピスは軽やかに着地する。

「これで・・蛇神の力の片鱗は吸収できるわ」

その言葉を聞いたとき、和麻の血の気がひいた。

「お前・・まさか」

「これで、私も・・」

刀身の赤みが引いていき、消えた。そして、ラピスの手にはあるものが生まれる。

「炎が使える」

蛇神と同じ色の、黒味がかかった炎。その色は、少しずつ変化し、赤紫色へと変化した。

ちょうど、ラピスの瞳と同じ色だ。

「お前、ただその炎のために・・蛇神を利用し、神凪の神を食わせたのか!?」

和麻が言う。力の片鱗でいいのだ、全て吸収できるわけがないのだから。そのために、和麻たちを使い、

力を切り分けさせたのだ。そして、炎の力を取り込む。それが、ラピスの・・いや、ヴェルンハルトの目的なのだ。

「そうよ。これが、炎・・熱くないんだ、不思議」

笑みを浮かべ、自分の炎を恍惚の顔で見つめる。まるで、念願のおもちゃが手に入った子供のように。

「それに・・こっちもあるからもっとすごくなれるぞ。ラピス」

突如出現したヴェルンハルトがなにかを置く。それは、人。

「と、東哉!?」

真が叫ぶ。そう、ヴェルンハルトが持っていたのは復活し、戦いに参加しようとした東哉だったのだ。

体はボロボロで、気絶しているようだ。

「さすがに、神は強いな。私では、手に負えなかっただろう」

「あたしのおかげよ、感謝しなさい」

そう言いながら現れる、異なる人物。赤い瞳を持つ、やさしげに雰囲気をもつ女性。

「ボンジュール、カズマ・ヤガミ」

その女性、マリアは笑みを浮かべて言った。



あとがき

みなさんお久しぶり、のEMEwindです。うわ、もうEMEじゃねえよと自分でつっこみます。

この第1話は風の聖痕メインでしたけど・・ここまでとは。がんばって、第2話ではEME率を高くしたいです。

今回は、私版「聖痕」と思ってください。EMEファンの皆様、すいません。

もうすぐ、第1話終了です。おそらく、第18から20ぐらいで終わると思いますので。

ご感想、ご意見お待ちしております。       サザンクロスでした。



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