EMEWindU魔剣の伝説 序章


草木が生い茂る山中。ある動物を、3人の人間が追っていた。3人は、全員が黒いスーツを着ている。

「紅様、こちら琴葉。対象のC細胞生物を確認しました」

「了解。監視を続けてくれ」

「はい」

通信機で報告し、女性が動物に見つからないように木陰に隠れる。

「ねえねえ、琴葉。私はなにすればいい?」

琴葉の近くに、突然黒い髪の少女が現れる。

「邪魔にならないように、静かにしてて」

琴葉と呼ばれた少女に言われ、しゅんとなる。

「はあ・・・戦いになったら力を貸してね。頼りにしてるから」

「え・・・うん!」

途端に機嫌が良くなり、にこやかに頷く。表情の代わりが激しい、子供みたいな少女。

しかし、ただの少女ではない。この少女が、世界でも上位の力を持つものだとは、琴葉も知っている。しかし。

(ただの子供よね、これじゃ・・・)

見つからないように、そっとため息をつくのだった。


『紅、こっちは大丈夫そうだ』

通信機から声が発する。同僚の黄泉三木矢からだ。

「さすが三木矢だな。ハゲ力に期待するぞ」

『お前なんていいやがった!俺のどこがハゲだっていうんだ!フサフサだろ!?』

禁句単語に反応し、食って掛かる三木矢。

「お前、通信機で見ることができるわけないだろうが。バカか?」

『それなら、お前だって見えないだろ!なんで分かるんだよ!』

「俺が言っているのは、近い将来だ」

『ふざけんな!』

通信が切れる。やれやれ、と男が肩を落とす。乾紅太郎、17歳。

PC課に所属する、EMEのGAだ。

(・・・さて、どうするか)

C細胞は、異なる動物の遺伝子を強引にくっつけ、新たな生物を誕生させる人工細胞だ。

目標の生物は、獅子に蝙蝠の羽と、簡単なものだ。以前、紅はある島で最も信頼できる師と共に

C細胞生物の駆除を行ったことがある。倒すことは簡単、死亡するぐらいのダメージを与えればいい。

しかし、今回の任務はそうではなかった。


―それは、約1日ほど前にさかのぼる。

当初、これは紅と、その下で修行中の桧絵馬茜の2人で担当していた事件だった。

順調に追い詰め、あとは。そう、殺害するだけになっていた。そして、その際に、事件は起きたのである。



ある山奥。高さは、山全体の7割くらいのところだ。

「紅先輩、本当に・・・」

茜が、悲しそうに紅を見る。紅は、茜が優しい子だとは知っていた。しかし、それは時に危険を生み出しかねない。

そのために、今回あえて殲滅の仕事を請けたのである。

「ああ。C細胞生物は、とても危険なPCとされている。元は普通の動物かもしれない。

でも、C細胞を植えつけられた以上・・・こいつは殲滅しないといけないんだ」

紅が銃口を、前方で歩いている獅子のC細胞生物、キメラに向けた。

少し引き金に力を加えれば、ベレッタの銃口から鉛の弾が飛び出し、仕事が終わる。

「先輩・・・」

しかし、茜の表情が気になり、力を加えることをできなくする。生物を殺す事は・・慣れるものではない。し

かし、この迷いが問題だった。茜が後ろへ下がった瞬間、パキン、と枝を踏んで音を出してしまった。

「グオオ!」

突如、紅たちに気づいたキメラが襲い掛かってきたのだ。紅はすぐに引き金を引こうとし
た。しかし、それより早く。

「キャア!」

キメラの爪が、茜の肩をないだ。紅の目の前に、立ちはだかるように飛び出した茜の肩を。

血が舞い、紅の顔にも付着する。頭が真っ白になる。そして。

「うわああああ!!」

引き金を引き、ベレッタが火を噴く。しかし、キメラは銃弾にかすりながらも逃げていく。

「・・・茜ちゃん!」

逃げていく背中を少し見つめ、その後すぐに茜の元へ飛びついた。

肩から、血が流れている。それほど深くはなさそうだ。おそらく、かすった程度だろう。

EMEの支給スーツは、頑丈にできているのだ。

「良かった・・・茜ちゃん?・・・茜ちゃん!茜ちゃん!!」

全く動かない茜の体にふれようとして、すこし手が止まり、でも触れてみる。

とても、冷たかった。やばい。危険だ。急がないと。病院か。いや、本部。しかし、間に合わないかも。

すさまじい葛藤が紅の中に生まれる。

「・・・紅、先輩・・・」

茜が消えてしまいそうな声で囁く。すでに、意識などないようだ。

紅は、茜をすぐに抱きかかえ、BMWを止めた麓まで走った。

もちろん、普通の人間に人を抱えたまま、山道を駆け下りることなどできはしない。

紅が、AAを使用しているのである。EMEのGAは、AAと呼ばれる特殊能力を所持している。

紅のAAは、力場干渉能力で手を振れずに物を動かすことを可能にしていた。

しかし、例外的に自分の肉体にのみ、その力を発動できた。それにより、通常の2倍くらいの力が発揮できるのである。

「はあ・・・はあ・・・」

麓まで一気に駆け下り、BMWへ向かう。後部座席のドアを開け、茜を寝かす。

自分は運転席へ座り、車を走らせた。まずは、本部へ向かうことにした。

時刻はすでに夜。夜道を高速で、BMWが走っていった。


「私たちの調査によると・・・この症状の原因は毒です」

「毒・・・」

その治療班の女性によると、どうやらあのキメラにはいくつもの毒生物が組み込まれているらしい。

それらが持つ毒を混ぜ、オリジナルの毒を作り出したのである。

そして、それが茜の体を蝕んでいる。

「毒の進みは遅いのですが、心臓に達した時点で・・・まず、手遅れです。治療するためには、

あのキメラを捕獲し、体から免疫を取り出してワクチンを作らない限り・・・」

その話を聞き、紅は慌てて外に出ようとした。急がなくては。

本部内を走りだす紅。玄関ホールについた。しかし、そんな紅の前に2つの人影が現れ、

玄関でぶつかってしまう。弾きとび、体を床へ打ち付けてしまう。

「痛え・・・おい、どこ見て・・って、紅か」

ぶつかったのは、同僚で同期、同じ師を持つ黄泉三木矢だった。

隣にいるのは、三木矢の元で修行する真澄琴葉だ。

「紅様?いかがなされたのですか?」

「ごめん、ちょっと時間がなくて。悪い、三木矢」

紅はそのまま、駐車場へ駆け出した。その後を、三木矢と琴葉が追いかけてくる。

「なんのようだ!?」

「ああ!?今、代理から命令が来て帰ってきたんだよ!キメラ捕獲しろ、ってな!」

代理の心遣いに、うれしくなる。やはり、信頼できる上司だ。

「よし、いくぞ三木矢!」

「おう!」

「紅様の行くところなら、どこへでも」

3人が車に乗り込み、明け方の道路へ飛び出していった。

その様子を、長官室で見る人影が2つ。

「いきましたな。・・・これで、よろしいのですね?」

EMEの長官代理が、もう1つの人影に顔を向ける。

「ええ。紅くんなら、きっと上手くやるでしょうしね。さてと・・あれを作った気違いを探さないといけないわね」

そう語るのは、一般隊員として所属する、現在のEMEの長官である巽蒼乃丞である。

「・・・気をつけてね、紅くん。なにか、嫌な予感がするわ」


そして、現在に至る。

(茜ちゃんのためには、あいつを捕獲しないといけない。

殺してしまうと、もしかしたら免疫も死んでしまう可能性もあるから・・・)

C細胞で無理やり作られた生物は、死ぬと結合が解け、バラバラになってしまう。

おそらく、免疫を確実に取り出せる確立は0に近いだろう。

(となると・・・こいつの出番か)

取り出すのは、麻酔が入った弾丸だ。そういえば、茜との初任務でも形は違うが麻酔弾を使った。

あのときの涙。決意。それを思い出す。死なせるわけにはいかない。

「三木矢、2分後に作戦を開始する。準備してくれ」

通信機で連絡をする。

『よし、わかった。ヘマをするなよ』

「あたりまえだ」

両脇から銃をとりだす。右手にはベレッタ。左手にはコルトガバメント。

両方ともスロットを引き、安全装置をかけ、暴発しないようにマガジンを抜く。

マガジンに弾を補し、銃に戻す。こうすることで、総弾数より1発多く入れられるようになる。

おそらく、マガジンを入れ替える暇はない。

「待ってろよ、茜ちゃん」


ある部屋。真っ暗で、何も見えない。ただ、人の声だけがするが何人いるかはわからない。

「あれは上手くいったのか?」

男の声が聞く。

「あれ・・・?ああ、C細胞を利用しての細菌兵器作りか。失敗みたいだよ」

少年のような声が響く。

「C細胞は不安定、毒もあまり性能はよくない。やはり、一昔前の技術だな」

「ふふ、まあ老いぼれにも仕事をやらないとね」

「ああ、そうだ」

いくつもの声が響きだす。すでに、何人がいるのかわからない。

「まあいい。次は、あれか?」

「ああ、魔剣ラグナロクか。また、EMEが邪魔をするぞ」

「構わない。そのために、ある集団に依頼をしておいた」

「ほう、君が依頼を?」

「で、その集団の名前は?」

「アジア最大の暗殺集団・・・阿修羅の手」


突如、辺りから水が勢いよく噴出した。

紅はその隙に、キメラとの間合いをつめる。

同時に、弾を連射する。しかし、前回同様にかすりながらでも体には打ち込まれないようにしている。なかなか優秀だ。

「グオオオウ!」

キメラが紅に襲いかかろうと、体勢を整える。

しかし、いきなりの横からの銃弾がキメラを射抜いた。三木矢がAAを使い、紅よりも早く間合いをつめていたのだ。

小ざかしいとばかりに、キメラがより近い三木矢に爪を向ける。

キラリと、濡れた爪が光を反射する。それを見て、三木矢は・・・ニヤリと笑った。

「真澄水術・水牢膜」

ソプラノの柔らかい声が森に木霊する。キメラの足元から、水が巻き上がる。

蛇のようにとぐろをまきながら、水はキメラを包み込み、球体へと変わる。

そして、閉じる寸前に、紅が麻酔弾を放った。銃声(ドン)。

「・・・これでいけるか?」

三木矢がキメラを覗き込む。

『ウギャポオウ!』

キメラは最後のあがきか、勢いよく暴れだした。

「うお!?」

三木矢はすばやく後ろに下がる。

「格好悪いぞ、三木矢」

「うるせえ!とにかく、どうする?」

「そうだな・・・」

考え込む紅。

「気絶なら、構いませんわよね?」

いつの間にか琴葉が紅の脇に立っていた。なぜか、水色の長い杖を持っている。

おまけに、あの少女の姿がなくなっていた。

「え、まあ・・・。でも、できるか?」

「ええ、お任せ下さいまし。私と・・この子ならできますわ」

杖を構える。眼を閉じ、集中する。紅と三木矢は、邪魔にならないように距離をとった。

琴葉が、唄を詠い始める。

―吾を軋ますな 知らしめすとだり 千千に物こそ 狂おしけれ 治す最手 

  吾にこけ入たり 玉の緒よ 絶えねば絶えんー

「未羅の剣!」

杖に水が巻きつき、鎌のように形へ変わる。その刃を、キメラが暴れる水の球体に打ち付けた。

激しい衝撃音が、森をゆする。

キメラは球体の中で漂っている。どうやら、完全に気絶したらしい。

「ふう・・・」

「やったよー!琴葉、できた!」

杖が少女へ変わる。それは、先ほどの少女だった。

「ええ、ありがとねティン」

琴葉が頭をなでると、うれしそうに抱きつく。

「・・・あれ?どうしたの?」

少女がポカンとした顔で見る紅に聞いた。

「あ、いや・・・姉妹みたいだな、て」

確かに姉妹のように見える。しかし、少女は姉妹では、いや人間ではない。

火、風、地、そして水。4種の精霊で、この世界はバランスを取っている。

それら精霊を使役し、術として使うのが琴葉などの精霊術師である。

また、それぞれの精霊には王が存在し、それらと契約を交わす者は契約者と呼ばれる。

そして、この少女はその王に使える騎士、水の精霊騎士リヴァイティンなのである。

元々は、ある少年に使え、それが紅へと渡り、それから琴葉へと移った。

その際、なぜか琴葉の元へ移るときに人間形体が変わったのである。

本来、幽霊のように仮の肉体を精霊で構成するのだがティンはそれにプラスして、実態に近い形を手に入れてしまった。

水は生命の源、という人もいるがそれとこれとは話が別だ。

そんな経緯でできた体は、精霊で構成した肉体より小柄で、精神的にも子供っぽくなってしまっていたのだ。

だから、静かだったティンを知っている紅には、どうしても同じ人(精霊だけど)に見えないのだった。

「へえ・・・だって、琴葉!」

「はあ・・・そうですわね」

なんとなく、厄介者を押し付けられた気分の琴葉は、こうして振り回されるたびに疲れるのであった。



ある洞窟。その奥に、ある剣が刺さっていた。鎖で縛られ、御札などの東洋魔術、魔方陣などの西洋魔術で封印されていた。

(にくい・・にくい・・あの男が・・八百万機関がにくい!!)

なにかが叫ぶように声を絞り出す。これは、ある事件が始まる1週間ほど前の話だった。



あとがき

みなさん、前回のEMEWind1の最終話以来、もしくははじめまして。

いかがでしたでしょうか?まだ序章なので、設定紹介や伏線を張ってみました。

茜の負傷については、ギャグっぽい展開がこの後にありますのでお楽しみに。

エドっち様、ご意見ありがとうございました。ご感想、お待ちします。 サザンクロスでした。


 BACK TOP  NEXT


inserted by FC2 system