EMEWindU 第1話 流れの中に


ある洞窟の前。

「・・・ふ」

ニヤニヤと笑みを浮かべていた男が、髪をあげ、中指を立てる。はたからみれば、とてつもなく嫌な動作だ。

しかし、男はそのまま指を顔元の眼鏡へ持っていき、眼鏡を上げた。

ビシッ。少し曲がった眼鏡が気に食わなかったのだ。

「・・・あ、火野さん!!」

洞窟の近くにいた若者が、大きな声を上げ、男に近づいていく。

「どうした?」

「え、それはこっちのセリフっす!火野さんが、わざわざ来てくれるなんて・・・」

「なに、ちょっとした用で寄ったまでだ。それより・・」

ビシッ。眼鏡を直す。

「魔剣は?」

「ああ、この中っすよ。まったく、何年か前にもあって、つい最近も妖刀。最近、流行ってるんすかねえ?」

「さあな」

返事をし、中に入っていく。

「あ、火野さん。今は、誰も中にいないっすから」

「ああ、わかった」

若者に言われ、コツコツと洞窟へ入っていった。

「・・・あれ?そういえば、火野さん、アタッシュケースを持っていないなあ・・」

いつも、OP課のエージェント・リーダーである火野は武器である手甲を、アタッシュケースに入れて持ち歩いている。

「忘れたのかなあ・・」


火野が、コツコツと音を立てながら洞窟を進む。そして、鎖や魔方陣で封印された魔剣にたどり着いた。

「へえ・・これが魔剣ねえ」

先ほどとは、全く違う口調、声でしゃべる。

「ま、こいつを頂いてずらかれば成功なんだが・・・混血児でも連れてこればよかったかねえ。

ま、確認できたし良しとしますか」

携帯を取り出し、電話をかける。

「おーい、こちらハイブリット。中国人か?あれはあの組織が管理してるよ。・

・・ああ、そうだ。もうすぐ、回収するだろう。その時に横取りだぜ?」

男は話す。このときから、着々と事件は始まっていたのだった。


茜が、ワクチンを打ってから早3日。今朝、眼が覚めたと連絡が入り、紅は本部へと飛んできたのだった。

EMEには医療班がいるため、こういった病気の際には本部で入院できるのである。

「茜ちゃん!?」

紅が病室へ入る。そこには、半身をベッドから起こし、笑みを浮かべる茜がいた。

「茜ちゃん・・・よかった、大丈夫みたいだね」

ベッドの近くの椅子に座る。茜は笑みを浮かべたままだ。

もしかして、自分が見舞いに来るのを楽しみにしていたのでは、と勝手に思ってしまう乾紅太郎、17歳。

「茜ちゃん・・・すごく、心配したよ」

「・・・」

きょとん、とした顔で茜は紅を見た。

「俺、もし茜ちゃんになにかあったら、って思っちゃって・・・」

「・・・・」

ぎゅ、と茜が突然紅の手を握った。

「あ、茜ちゃん!?」

「・・・・」

茜の顔が接近してくる。唇が触れそうな距離。吐息が、紅の肌をくすぐる。

「あ、茜ちゃん!?嬉しいのは分かるけど、こういうものは、もっと・・・そう、順序が必要で・・

そ、そうだ!交換日記から始めようよ!」

「・・・・」

さみしそうな顔で、紅を見る茜。

「・・・・茜ちゃん」

茜が、小さく声を発する。

「・・・わ・・・」

「・・・・わ?」


―もしかして。

「わ・・・私、ずっと・・・紅先輩のことが・・・」

「俺もだよ、茜ちゃん。ずっと・・・君のことが」

「先輩・・・。お願いです・・・私を・・・」


ぶわ、と鼻血が噴出しそうになり、慌ててハンカチで抑える。

「・・・・・?」

「(そうだ、さすがに茜ちゃんに限ってそんなことはない。

もっと、こうゆっくりと行くべきで・・・でも、茜ちゃんが、どうしても、って言うんなら・・・)」

「・・・・わ・・・」

「わ?」

「・・・わん!」

「・・・・茜、ちゃん?」

「わん!」

元気よく、返事をする。

「茜ちゃん・・・。まあ、元気なのは良いことだし、明るいのはすばらしい。でも、その泣き声ちっくなものはなんだい?」

「・・・わん?」

小首をかしげ、聞いてくる。いつもの様子から考えられない行動が、見てるこっちがすこし恥ずかしくなる。

「キュ〜ン!」

突如、紅の肩に抱きつく。

「ど、どうなってるんだ?」


「血ね」

「血、ですか?」

本部の医師に相談してみたところ、こう返された。

「あのキメラには、魔力がある魔(ライカン)狼(スロープ)の血が入っていたみたいなの」

「魔狼って・・・あの、絶滅したPCですよね?」

魔狼。外見は人間だが、とてつもない魔力を持ち、その力を解放するときに象徴である耳や尻尾がでるという。

しかし、過去に迫害に会い、全滅したと文献には記されている。

「そうよ。その、実は表ざたになってないんだけど・・・EMEにまだSD課があったときの、研究所があったのよ」

「・・・SD課が?」

SD課。自分が最も信頼した女性が、勤めていた課だ。

「ええ。遺伝子を保存して、そのPCが持つ毒や、魔力を解析するためにね。その中に、

もちろん魔狼のもあったわ。そして、その研究所に・・・3ヶ月前、泥棒が入ったの」

「!?まさか・・・」

紅の頭には、最悪のケースが想像された。

「ええ。いくつか、厄介な遺伝子情報が盗まれたわ。バジリスクとか・・・そして、魔狼も」

「つまり・・・その泥棒と、キメラを作った奴は・・・」

「同一人物、または繋がりがると見て間違いないわね。解析するためのものが、こんな風に悪用されるなんてね」

肩をすくめる医師。

「・・・それで、茜ちゃんのあれは、なんなんですか?」

「そう、問題はそこなのよ。落ち着いて聞いてね?・・・魔狼は、とてつもない魔力があるのは、知ってるわよね?」

「ええ。それが問題で、迫害されたんですから」

「その魔力には、ある特性が2つあるの。ひとつは、魅惑。その魔力に当てられると、魅了されちゃって魔狼になついてしまうの。

これは、効果も短いし構わないわ。もうひとつは、支配。死にそうとか、今回みたいに血だけで生きる本体がないとき・・・

魔力は他の生物を洗脳して、自分の体にしてしまうの。そして、体に侵食して・・・体の構造ごと、魔狼のものへ変化させられる」

「それって・・・」

「そう、見も心も魔狼になって、支配された人間は・・・消滅するの」

ガタン!勢いよく椅子から立ち上がる。

「ど、どうすればいいんだ!?」

「・・・安全な方法は、わからないの。でも、ひとつだけあるわ」

「なんなんですか!?」

表情を曇らせ、医師は語る。

「・・・・魔力を破る剣があるの。正しくは、魔力を全て吸い尽くす剣がね。

今、OP課が管理してるんだけど、それを使って、魔狼の魔力を吸い出してやればいいはずよ」

「それなら、早く・・・」

「いいえ、そうはいかないの。その剣の能力は、ほぼ無尽蔵に魔力を吸い上げる。

封印を解けば、辺り一帯の魔力は、完全に失われるわ。魔力って、私たちGAが持つAAや、

精霊魔術はもちろん、武器とかにも使ってるけど・・・一般人にも、少ないけどあるの。

おそらく、一般人が剣の吸引の力をまともに受けたら・・・死ぬわ」

つまり、茜を救いたいなら、剣の範囲外に誰も入っていてはいけないということだ。

しかし、それで封印を解けない。でも、封印を解かなければ・・・。

「どうすれば、いいんですか?」

「・・・探しなさい。唯一、魔剣の効果を直に受けても平気な存在。

誰かに封じられた魔剣の封印を解くための存在でもある少女。キー・ガールを」



暗い夜道。そこを歩く、人影が2つ。男と、女のものだ。

「まったく、真くんはいつも強引なんだから」

「それは認めるが・・・でも、上手くいったんだからいいだろ?」

男の影、沖田真は軽い調子で答える。

「もう!そんなだと、いつか大変な目に合っちゃうよ!」

女の影、沖田優衣が声を怒らせて文句を言う。

「はいはい・・・・!?優衣、止まれ!」

「え?」

ドン!2人の前方に、突如大きな穴が開いた。

「これは・・・!?」

「さあな!闇討ちか、なんかだろ!」

EMEの隊員であり、数少ない特別な力を持つ、真と優衣は狙われたことがないわけではない。

攻撃が来た方向を睨む。夜の暗さで姿が見えないが、相手はかなり小柄だ。

人の形ではあるが、人間か、PCなのかはわからない。

「優衣、契約執行だ!」

「うん!」

優衣の姿が消える。優衣とは仮の名。火の精霊騎士・フレイユ・イレーザーの本名を持つ少女がその力を解放する。

1本の薙刀へと姿を変え、真の手に収まる。

「燃え上がれ・焔の灯!」

薙刀が燃え上がり、姿を更に変える。刃は伸び、柄は短く。龍を模すようなフォルム。

長騎剣と呼ばれる形の、緋い剣がそこにあった。

「さあ、かかってこいよ!」

闇から、答えるように光の矢が飛んでくる。

「こんなんじゃ・・・傷なんかつかねえよ!」

炎が、光の矢を包み込み、焼き払う。

「こっちからも、やらせてもらうぜ!」

剣を振るう。炎が、真直ぐに闇に隠れる者へと伸びた。明るく、照らされる夜道。

(見えた!)

ほのかに見えた、人影。それを見失うことないように、一気に接近する。

間合いに捕らえた瞬間、剣を振りかぶった。

「これで、終わりだ!」

炎を纏わせ、危険なPCならすぐに焼き払えることができるようにする。

しかし、余計な心配だった。炎に照らされる人影は、危険なPCでも。むしろPCでもなかった。

「人・・・?」

『っていうか、女の子だよ!どうしよ、真くん!私たち、幼児虐待!?』

叫ぶ優衣。

「よ、幼児って言わないで!これでも、立派なレディなのよ!」

声を荒らげ、幼い少女が叫ぶ。腰を抜かしたのか、起き上がる気配はないが。

「今の、お嬢ちゃんがやったのか?」

どうみても、まだ小学生。ツインテールにされた金髪が跳ね上がる様子からは、

どうみてもこっちの世界の人間とは思えない。

「そうよ!テストさせてもらったんだけど・・・まあ、合格ね。あんたたち、今からあたしたちの護衛ね、決定!」

「え、な、は?」

困惑している真を尻目に、少女は口を動かす。

「出てきて、真奈!」

少女の声に反応し、物陰からもうひとつ、人影が出てくる。

「や、やめようよぅ・・・香奈ちゃん」

「気にしないの!あたしたちは・・・あたしたちには、人に命令する権利くらいあるんだから!だから、ね?」

もう一人の、真奈と呼ばれた少女がたじろぐ。香奈といわれる、ツインの少女と似た顔立ち。

しかし、髪が白く、瞳は赤い。

『アルビノ・・・』

「みたいだな。人体の色素がなくなって、皮膚や瞳、髪に色がなくなるってやつだ。
初めて見た・・・」

視線に気づいたのか、真奈がこちらを見る。

「は、始めまして・・・真奈です。お、おかしいですよね!?この髪とか、眼とか!

赤い眼って、うさぎじゃないんですから・・・・」

慌てたように言葉をつむいでいく。アルビノであることについて、なにか言われるのが嫌だから。

そう感じた。だから。

「・・・おかしくなんかないさ」

真は真奈に近づき、目線を合わせる。優衣は人間態へと姿を戻った。

「他人がどうこう言っても、気にしなくていい。これだって、君の個性だ。それに、この目だって

・・・まるで、宝石みたいで綺麗だし、ね?」

「・・・・」

「おかしいことなんてないよ。君は」

やわらかい笑みを浮かべて言う。怖い顔をして見つめる優衣については、ご愛嬌といったところだ。

「・・・・はい」

ぎこちない笑みを浮かべる。その様子を見て、香奈が口を開く。

「・・・・幼女好き?」

「ちがうわ!」

そんな他愛のない話をしている最中。ある人物が道を歩いて来ていた。

動物ですら、その人物の気配には気づいていない。その人物が、ある能力を発動しているからだ。

国際暗殺組織―阿修羅の手―。その刺客の一人、中国人が真の元へ向かってきていた。


一方、夜道へ飛び出したBMWを見つめる人影もあった。BMWを駆るのは、もちろん紅である。

車の中には、待機中だったため駆り出した三木矢と琴葉が朝と同じく乗っている。

それを見つめ、駐車場へ人影は動いていった。

駐車場には、紅たちを送り出した女医がいた。

「あれか?」

「ああ、そうだよ。魔剣については教えといた」

女医は、多少低くなった声で答えた。すると、体が瞬く間に変わっていく。

女医がいたところには、男か女かもわからないような、見かけても2秒で忘れそうな特徴のない人間がいた。

「あれは、強い男か?雑種」

人影が聞く。

「雑種じゃなくて、ハイブリットだっての。う〜ん、まああんたに勝てる可能性はないとおもうけど。

きっと強いんじゃない?なんせ、EMEのトップクラスの人材らしいし。

なあ、混血児。追うのか?」

「今、お前が強いといったから追う」

「うわ、俺あの子に恨まれそうじゃん」

ケラケラと笑う雑種。混血児は背を向け、口を開いた。

「いくぞ、雑種」

「はいはい・・・って俺もかよ!あのさぁ、前から言おうと思ってたんだけどさ」

「なんだ」

「お前って、ストーカーみたいだぜ?」

帰ってくるのは、沈黙だけだった。



―茜を救うために、夜道を走る紅たち。

―なぞの少女と遭遇した真。

彼らの元に、阿修羅の手が伸びる。そして、魔剣を狙う謎の組織。

魔剣とはなんなのか。少女たちは何者なのか。そして、キー・ガールとは。

彼らは、残酷な運命と言う流れに、乗ったばかり。

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あとがき

どこか映画めいた終わり方の、EMEWIND2の第1話でした。

魔狼の件ですが、これはdearという漫画から拝借しました。

この漫画のキャラと似た性格の人が出るかもしれません。いつか、ですが。

今回は、EME+オリジナルをメインにしたので綾乃の出番がほぼないと言えます。

ファンの方すいません。できる限り考えて作っているので遅いですが、いざとなったら激励してください。

怠けてる場合もありますので。話のご感想、激励をお待ちしています。
                   
サザンクロスでした。

犬茜のわんぱくは、まだまだ続きます。



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