The magician of the Galaxy  空から来た少女


かつて偉大な文明が存在した。今では、EDENという名が知られるだけの星間文明であ

る。その時代には、魔法としか思えないような科学技術が発展していたという。人類は時

空を制し、全銀河の巨大なネットワークを創造していた。しかし、それは神の領域だった

かもしれない。なぜなら、天罰のごとき災厄が突如としてEDENに下されたから。

時空震、クロノクェイクと呼ばれるその災厄により、人類は移動手段と通信手段を同時に失ったのである。そして、EDENは崩壊する。

その中で、EDENの領域惑星のひとつ、惑星トランスバールの当時の統治者は、賢明で

あった。昔から自分たちに伝わる、魔力。それを利用し、本物の魔法を作り出したのである。

異なった文明を歩むことで、破滅を逃れ、辺りの惑星を自分の領域とした。

そして、100年のときをかけて。128の星系を領有する一大帝国、トランスバール帝国へと姿を変えたのである。

しかし、突如トランスバールの上空にあるものが現れた。白き月、と呼ばれるそれは天恵、

ギフトと呼ばれる科学技術を与えたのである。科学と、魔法。2つの技術により、トランスバール帝国はすさまじい発展をし、

トランスバール暦200年の、今日にまで続いているのである。


「・・・きくん。もう・・だよ、早く・・ないと・・」

かすかな声が聞こえる。しかし、少年、式森和樹はあたたかいまどろみの中で幸せな気分

に浸っていた。もうすこし、この世界にいたい。

「まだ・・るの?ほんと・・だね。・・・ねえ、・・に・・ないと」

「・・・あと五分・・」

そっとつぶやいた。直後。

「早く起きなさい!もう朝で、8時すこし前だよ!いつも、あと5分で遅刻しそうになって
るでしょ!」

大きな声が耳元でなり、自分の体にかかっていた布団がはがされる。

「ああ!あと五分って言ったのに!」

「関係なし!いいから、ほら起きる」

幼馴染の少女、山瀬千早に起こされるのが彼のいつもの朝だ。

この日も、いつもの朝で始まり、いつもの一日になると思っていた。


葵学園。科学技術が発展した今でも、魔法が便利であることには変わりない。そのため、

どの国も一流の魔術師を育成するための学校を作った。日本の3大魔術師養成学校、葵学園もそのひとつである。

中学、高校、大学、全てが一貫され、部活動も学年、年齢を問わずに行えるという教育方針を取っている。

和樹は、千早と中学までは同じクラスだったが、このたび、クラスが変わったのである。

すこし残念だったが、すでに生まれた歳と同じ間の付き合いである。

和樹が自分のクラス、1年B組に入るとすでにHRが始まっていた。

「和樹君・・遅刻・・ですか?」

教壇に立つ、緑色の髪を持つ少女が声をかける。

「す、すいませんヴァニラ先生」

この、どう見ても、そして実際に13歳という年齢の少女。しかし、すでに葵学園の大学

を出て、教員免許を持つ天才教師なのだ。入学し、1ヶ月で最初の担任をつぶした、この1

年B組へ回されたときは、教師全員が気の毒に思ったそうだが、すでに夏休みが近い季節

まで順当に進んでいる。やはり、年齢も見た目もあるため、誰もが手を出せないのだ。

出そうとすれば、即座に数名かの男子による鉄槌が待っている。

「遅刻は・・だめ・・ですよ。・・め・・」

人差し指を立て、和樹に注意する。

「ご、ごめんなさい・・」

まったく怖くないが、罪悪感を芽生える行為。このクラスは、罪悪感など誰もないと思ったが、彼女がそれを教えた。

「これで・・30回目です。さすがに・・許せません。ゲンコツ・・です」

テクテクと歩いてきて、拳を固く握る。そして、背伸び。

「・・先生?」

「・・届きません」

まあ、和樹の腰までしかない背で、頭を叩くのは無理という話だ。

教壇に立つときも、彼女は踏み台を使っている。

「じゃあ、頭を下げましょうか?」

「いや、式森。その必要はない・・」

肩に手を置かれ、振り返る。そこには、ヴァニラ先生親衛隊と化した男子ども。

おまけに、こういったことが大好きな仲丸が和樹の肩に手を置いた人物だ。

「ヴァニラ先生に代わり、俺たちが鉄槌を下す!そこに直れ!」

「え、ええ!?なんだよ、その後ろにある釜は!?グツグツ煮え立ってるし!

入れる気なの!?僕をザプンと入れる気なの!?」

男たちが準備する、大きな釜。グツグツと煮え立つ、地獄の釜戸を現世に召喚している。

「当たり前だ!貴様などに、先生のゲンコツを受ける権利はない!」

「なんだよそれ!先生、助けてください!」

命の危険を感じ、振り返ると。

「先生、気にしないで。式森くんが人でなしなだけなんだから」

「きっと、ロリコンでS属性なんですよ」

「最低よね、式森くんって」

「大丈夫・・です・・」

先生を慰める、女子生徒たち。やばい、女子が先生を隔離し、その隙に男子が僕を殺す気だ。このままでは・・。

「ここは・・戦略的撤退!」

窓側に駆け込み、窓を開け、飛び降りる。教室は2階から始まる。よって高さは2階分。

しかし、和樹は窓近くの柱をつかみ、下へと降りた。そして、再び逃げ出す。

「式森が逃げたぞ!」

「追え!そして殺せ!」

『おう!』

捕まるわけにはいかない。捕まれば・・死が待っている。

僕はとげ付きバットで天使に殴られても復活する少年じゃないのだ。


ドゴーン!バコン!バッターン!

騒音が、学校を揺らす。当然、千早の在籍するF組にも音は響いた。

「また・・B組か」

F組の担任がため息を洩らす。

「和樹くんのクラスか・・なにやってるんだか」

窓のほうを見る。そこには、追われる和樹が映っていた。

『誰か助けて!それは、エスカ○ボルグは、使っちゃいけない!』

『うるせえ!お前なら復活できる!いや、しなくてもいいぞ』

『露骨にひでぇ!誰も呪文は言ってくれないんだろ!』

『俺たち、天使じゃねえし』

『最悪だ!』

ちなみに、各クラスHR中である。

「ふう・・」

「幼馴染の子が、生きてるといいですわね、千早さん」

後ろから声がかかる。

「み、ミントさん!?そ、そんな・・」

後ろの席の、青い髪の少女。ミント・ブラマンシュの言葉に振り返る。

「私にはなんでもお見通しですわ。さて、今日はいつになったら終わるのでしょうかね」

「さあ?お昼には止めるでしょ」

いつもの朝がまだ続いていた。


「はあ・・はあ・・さすがに、ここまでは追ってはこないだろ」

裏庭にいき、垣根をひとつくぐりぬける。そこにあるのは、ひとつのベンチ。木々の間か

らの日光、やわらかい風、咲いている花の甘い香り、和樹が見つけ、誰も知らないはずの

快眠スポットである。いつも、ここに逃げ込んでいるのだ。

「ここはあいかわらずいいところだな・・少し眠るか」

目をつむると、早くも意識が遠ざかりそうになる。かなり疲れているようだ。

そんなときだった。鼻元になにかが落ちてきた。目を開き、それを見る。白い羽だ。鳩か

なにかだろうかと思い、空を見上げるとそこには巨大な魔方陣が浮かんでいた。慌てて立ち上がる。

「ま、魔方陣!?なんでこんなのが上空に」

雲が避けるようになっていて、魔方陣の向こうには、青空が広がっている。おそらく、真

下に位置する和樹にしか見えないだろう。そして、魔方陣の中央になにかが浮かんだ。

「・・・天使?」

影だけだが、人型に、翼が生えている。まるで、絵画のような光景。空から、天使が降り

てきたのだ!しかし、それは一瞬だった。翼が、はじけるように消えてしまったのだ。

そして、人影は落ちてきた。

「う、うそだろ!?」

「きゃー!だれか、助けてくださーい!」

声からして、女の子のようだ。そして、女の子は和樹のところへ衝突コースをたどっていた。

あわてて受け止めるような姿勢になる。そして、その手に女の子の体が収まった。しかし、

ロクに鍛えてない体が耐えられるわけがない。背中から地面に倒れこみ、後頭部を打ち付けてしまった。

(こんなことなら・・多少は鍛えとくんだった・・・)

自分の胸元にあたる、やわらかいふくらみにすこし喜びながら遠のく意識で思ったのであ
る。

一瞬見えた、その子の顔。なぜか頭に深くやきついた。長い黒髪が和樹の視界を隠した。


「・・・・ここは・・・」

目を開けると、白い天井が目に入る。そして、わずかに鼻につく薬品の香り。ここが、保健室だと気づいた。

「なんでこんなところに・・・」

体を起き上がらせる。わずかに、まだ後頭部は痛む。

「気づいたみたいね、式森くん」

と声をかけるのは紅尉晴明、養護教諭すなわち保健の先生である。

「先生・・・僕なんでここに?」

「誰かが裏庭で倒れてる君に気づいて、ここに来たのだよ。君を探してた山瀬くんとわざ

わざ運んであげたのだよ。ヴァニラ先生も手伝ってくれた。後で山瀬くんとヴァニラ先生

にお礼と、私に感謝の念を形にして贈るように」

「はいはい、ありがとうございました。で、山瀬は?」

「彼女なら教室に行ってヴァニラ先生に容態を伝えているぞ。君を見つけたとき、すごく

あせって名前呼んでいたぞ。心配してるから早くそのボーっとした顔ひきしめたまえ」

「顔は生まれつきです、あ、そういえば」

あの空から落ちてきた女の子、あの子はどこにいるんだろうか。

「先生、僕の近くに、誰かいませんでした?」

「誰か・・どんな子だい?」

「女の子、たぶん・・僕と同じくらいの背の。・・・あれ」

制服に、なにかついている。長い、黒色の糸・・いや髪の毛だろうか。山瀬は栗色のショートカット。

ヴァニラ先生とも違う。紅尉先生は黒いが、すこし茶色がかかっているのでちがう。おそらく、あの女の子のものだろう。

「女の子・・・野次馬に何人かいたが?」

「黒くて、長い髪の毛の子です。見覚えありませんか?」

「悪いけど、私はないね。でも、黒くて長い髪なんてけっこういるぞ。でも、その子がどうしたのかね」

空から落ちてきたんです、とはさすがに言えない。

「その・・気を失う前に見たんで」

「ふうん。・・・浮気はやめといたほうがいいぞ」

「浮気って・・誰とも付き合っていませんよ」

そんなとき、ガララと扉が開いた。

「あ、和樹くん。起きたんだ、よかった」

と笑顔で駆け寄ってくる。

「大丈夫?頭、痛くない?体におかしいところはない?」

「大丈夫だって、もう立てるし。今、何時ごろ?」

「えっと・・もう2時間目が終わる頃かな。あたしのクラス、自習だから来ちゃった」

そんなとき。コンコン。扉がノックされた。

「あ、入っていいよ。教室からお見舞いじゃないのかな?」

確かに、その可能性は高い。追い討ちをするつもりだろうか。

「すいません、式森さんはいらっしゃいませんか?教室で先生が様子を見てくるように言われたのですが」

やわらかい声。クラスメートにこんな声の子がいただろうか。

「あ、和樹くんは知らなかったんだ。今日、転校生が来たんだよ。1年B組だって。あたし、

少し話したけどいい子だよ。紹介するね」

そういって扉に向かい、開く。そして、話の子を前に出した。

黒くて、長い髪。かわいらしい顔。ピシっとした姿勢。

「今日から1年B組で学ぶことになった・・烏丸ちとせです。よろしくお願い・・・
あ、あなたは・・」

「あ、君は・・天使」

そういうと、すばやく近づいて口をふさがれる。

「すいません、すこし・・」

手を引かれて外へだされる。

「ちょ、ちょっと!?」

千早が驚くが、すでに外に出ていた。

「知り合い、だったの・・?」

「さあ、どうだろうね」


「すいません、助けていただいたのに。逃げるように去ってしまって」

深々と頭を下げる。

「えっと・・烏丸さん、だよね。その・・天使の」

「そ、それは秘密にしてください。長距離移動のために、魔方陣をつかっての移動にした

のですが・・誤って座標を間違えるなんて・・」

「ま、気にしないでよ。大丈夫だから」

「でも、式森さんにお怪我を。・・・私、決めました」

なぜか、決意が浮かんだ顔で見つめる。

「私、式森さんの家に・・嫁がせていただきます。そして、一生のお世話をします!」

「え、ええー!?と、嫁ぐ?なんで?どうして?」

この年で結婚の話を出されても困るし。

「怪我を、お身体を傷つけたのです。当然のけじめです。それに・・式森さんならいいと

思うんです。私を受け止めてもらった際に、私はひどく感動しました。多くの人は、まず

よけたりします。でも、自分を顧みず助けてもらえた。そんな式森和樹さんなら、尽くし

がいもありますし、私を任せられます」

「ま、任せてもらっても・・それに年だって」

「では、そのときまでお尽くししたいと思います。気軽に、ちとせと呼んでください」

いや、そんな笑顔で言われたら断れないし・・。

「えっと・・ちとせ・・さん?」

「さんなどいりません。呼び捨てで」

「じゃあ、ちとせ」

「はい、和樹さん。・・あ、様の方がいいですね」

「いや、いいよそのままで。でも、とりあえずお互いを知らないと僕は困るし、だからも

うすこし時間を置いてから、決めるべきだし、ああもう、なに言ってんだろ」

頭がこんがらがってきた。まず、彼女は僕に嫁ぐといっている。彼女は可愛いし、気が利

きそうだが・・なにぶん知らなさ過ぎる。彼女も、僕のことをしらないし。

「つまり、お互いを知ってから考える、といいたいのですね」

ちとせが言う。

「うん、それだよ。もっとお互いを知って、本当にいいのなら・・」

「なら、和樹さんを知るために最大限の努力をします。これから、よろしくお願いします。

でも、出来る限りお傍においていただけませんか?」

「いや、それぐらいいいよ」

結婚に比べたら、それぐらいなんでもない。

「はい、ありがとうございます。では、みなさまの所にもどりましょうか」


「・・・・なんで、こうなるんだ?」

和樹から左に千早。右にちとせと両手に花状態である。しかし、左からは冷たい殺気が放

たれている。おまけに、後ろから殺気。

「和樹くんが、ちとせさんになにするかわからないから」

「もちろん、和樹さんを知るためです」

と、断言する2人。

「はあ・・明日から大変そうだ」

一番星が輝く空の下、和樹は平穏に戻るようにと願った。



あとがき

はい、修正版『銀河の魔術師』、題してThe magician of the Galaxy。そのまんまですね、ええ。

アンケートを行い、いくつか修正を加えての登場です。

ヴァニラが先生だったり、葵学園になっていたりと、変わったところを見てもらえるとう

れしいです。修正点は、作品でお見せできるようがんばりたいと思います。

まだ、第1章ですので、ご要望があれば言ってください。

また、掲示板のアンケートに書いてくだされば、かなり実現を考えますので。

修正前後で比較しての感想など、いただけると嬉しいです。

             サザンクロスでした。



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