世界には多くの人間が存在してい た。

C.E. コズミックイラ

そう呼ばれる世紀が存在した。

その世界では二種類の人類が存在 した。

自然発生する人種、ナチュラル。

それに対して、生まれる前に人為 的に遺伝子操作を施す人種、コーディネイター。

彼らの間には、数多くの確執があ る。

その一つに能力の差である。

コーディネイターは、ナチュラル よりも遥かに優れた能力を持つ。身体能力。頭脳。さらにはナチュラルが克服できなかった、癌などの病気を先天的に克服した。

しかしその事がナチュラルとコー ディネイターの確執を深めることになった。

誰しも自分にない力を、数多くの 優れた力を持つ者を妬む。人であるなら、その感情は当たり前なのかもしれない。

だがそれが悲劇を生む。戦争と言 う名の悲劇を。

認めぬ者同士が引き起こす、愚か で、悲しい争いを・・・・・・・・・・

人の業とは深いものである。歴史 は変わらない。人の本質もまた変わらない。

世界が二分される。

戦争がおきる。近い未来にかなら ず。

ナチュラルとコーディネイターと 言う、二つの種族が巻き起こす血みどろの戦争が。

 

 

 

 

C.E64 地球のある砂漠。

そこには一人の少年がいた。小汚 い布を頭から被り、一人で何も持たずに、日が降りしきる灼熱の砂漠を歩く。

普通の人間なら、物の数分で根を 上げてしまうこの世界を、少年はただ歩き続ける。

どれだけ歩いたことだろうか。少 年はオアシスに存在する一つの町を発見する。

少年は水を捜し求めた。彼はある 倉庫に忍び込んだ。その場にいた大の大人二人を一瞬にして倒し、物色を始めた。

すぐに水を見つけ、彼は一気に口 に流し込む。のどの渇きを潤し、何とか命をつなぎとめる。

ピーピーピー

どこからかアラームが鳴り響く。 少年の手に取り付けられた腕輪。それは発信機だった。少年は逃げ出したのだ。研究所と言う名の地獄から。

しかし彼は逃れられない。どこに も。この腕輪がある限り、自由はない。少年はすぐに腕輪を壊そうとするが、まったく壊れない。工務用のレーザーで焼き斬ろうとした。だがそれでも壊れな い。

「ちっ、ダメ か・・・・・・・・」

このままではまた捕まる。あんな 地獄に戻るのは嫌だ。どうすればいい。どうしれば。少年は必死に考える。そしてすぐにその方法を見つけた。

「腕輪がダメな ら・・・・・・・・・・腕を切ればいい!」

少年は自分の腕をレーザーに向け ようとした。

「恐ろしいことを考えているな」

「!?」

突然の声に少年は反応した。見れ ばそこには一人の男がたっていた。黒髪で、若い青年。少年と言っても、支えないかもしれない。

年のころはおそらく二十歳前後だ ろうか。黒いジャケットに身を包み、顔にはサングラスをかけている。

その男を見るなり、少年は目を見 開いた。そしてすぐに男に飛び掛った。少年の動きは信じられないほど早かった。

普通の人間なら、何の反応もでき ずに倒されるだろう。現にこの少年にこの倉庫にいた人間が二人も倒されている。だが男は何でもないように少年の動きを読み、簡単に回避していく。

「いきなりだな。しかしいい動き だ。だが、まだまだ俺の敵ではない」

そう言うと男は軽く少年の腕を掴 み、そのまま投げ飛ばす。地面に叩きつけられた少年だったが、すぐに体勢を建て直し、男をキッと睨みつける。

「追っ手か?」

肩で息をしながらも、少年は男に 聞く。男はニヤリと口元をゆがめる。

「安心しろ。俺は追っ手じゃな い。この倉庫の持ち主だ。どうやら子猫が迷いこんだようだな。しかも飛びっきり活きのいいのが」

皮肉げに男は言う。だが少年は無 言のまま息を整える。何の反撃もしない。

「どうした? もう終わりか」

「・・・・・・・・・」

「ああ、そういう事か。今の状況 では俺に勝てないと気づいたか。なるほど、頭もいい。それにその運動神経・・・・・・・・・コーディネイターか。それも並みの者よりも能力は上か」

その言葉にさらに表情を険しく し、男を睨む少年。殺気と憎悪を放つ。並みのものなら、それだけで竦んでいるだろう。

「しかしまだ幼いな。考えている ことが表情から筒抜けだ。ふっ、義妹を思い出させるな」

思い出したかのように表情を緩め る男。だが隙をまったく見せていない。少年がいつ飛び出してきても、すぐにでも対応できるだろう。

「そしてその腕の発信機―――。 この先の研究所から逃げてきたな? その様子では、お前一人では逃げ切れるとは思えないな」

その言葉に少年の脳裏にはあの地 獄の日々が思い出される。モルモットのように扱われる自分。ただの研究対象。あれは生きているとは到底いえない。

「・・・・・・・・・・殺せ。あ そこに戻るくらいなら、死んだほうがマシだ」

「―――自由が得られなければ、 死を選ぶか。潔いと言うか、死に急ぎすぎだ」

「どうせ俺は『失敗作』だ。生き 永らえることが間違っている」

失敗作。そう言いながら少年は自 嘲気味に笑う。

「失敗作か・・・・・・・・・な るほど、お前はスーパーコーディネイターか」

男の言葉に少年の目が今までにな いくらい見開かれる。驚きを隠せないでいた。

「なぜそれを!?」

「そう言う情報を耳にしていて な。まあ勘と言う奴だ。しかしまさか正解とは」

男も多少驚いたように苦笑してい る。

「で、自由が欲しいか?」

「当たり前だ!!」

男の言葉に少年は過剰に反応す る。

「で、自由になって何をする?  お前は何をしたい?」

「・・・・・・・・・わからな い。研究所を出るときは俺を作り出した人間を、いや、世界すべてを破壊するつもりだった。だがそれも・・・・・・・・・・今は意味のあることとは思えな い」

「世界に対する復讐は無意味か。 確かにその通りだ。面白い。気に入った! 俺とともに来い! そうすれば、お前に自由をやろう!」

「なんだと?」

「聞こえなかったか、自由だ。い や、少し違うな。今までの研究所と言う名の鎖から解き放つだけだ。次に俺の鎖がつながれる」

「貴様も、俺を自由にするつもり はないと言うことか!」

「・・・・・・・・・・・勘違い するな。俺は失敗作の実験動物になど用は無い。またスーパーコーディネイターであろうとも、その失敗作であろうとも関係ない。俺が欲しいのはお前だ。お前 と言う存在だ」

少年には意味側からなかった。こ の男は何を言っているのか。自分自身を欲すると。

「意味が理解できないか? まあ いい。それよりも選べ。俺とともに来るか、それともこのまま研究所に連れ戻されるか。二つに一つ」

少年は考える。どちらに転んでも 自分に自由はない。この男も同じだ、あの連中と。

「おっと、言い忘れた。俺ととも に来れば、お前に人としての生活を約束しよう。研究所の連中みたいな扱いは決してしない。お前は人並みの生活を送れる」

「人並みの、生活?」

「そうだ。実験動物としてではな い。人としての生活だ。どうする。お前にとっても悪い話ではないと思うがな?」

確かにそうだ。人としての生活を 送れる。どうせ研究所にいても同じだ、ならばこの男についていくのも、悪い話ではないかもしれない。

「それと教えてやる。人とは多か れ少なかれ、そして太いか細いかの差ではあるが、鎖につながれているものだ。人はそれでもあがく。そして強くなる」

「鎖につながれているのは、俺だ けではないのか?」

「ああ。俺にも鎖はついている。 取り除くことのできない鎖。拭い落とすことのできない宿命。お前と、ある意味同じだ」

「俺と同じ・・・・・・・・・」

「鎖につながれることを恐れる な。爪を、牙を、その鎖で研ぎ澄ませ。そして強くなれ。いつの日か、その鎖を引きちぎれるくらいに・・・・・・・・・」

バラバラバラ

ヘリの音が聞こえる。ここに近づ いてくる二機のヘリ。おそらくは少年を追ってきたのだろう。どんどん近くなる。

「どうやらお前の迎えの方が先に 来たようだ。で、どうする? 今すぐ決めろ。連中に連れて行かれるか、それとも俺の手を取るか・・・・・・・・」

男は手を差し出す。この手を取 り、新しい鎖につながれるか、今までどおりの鎖のままでいるか。すべては少年にゆだねられた。

少年は男の手を取る。迷いはな い。生まれて初めて、自分の意志で決めた選択だっただろう。これが吉と出るか凶と出るか、それは誰にもわからない。

「よし。では行こうか。その前に まずは五月蝿いハエを叩き潰してから・・・・・・・」

足音が近づいてくる。男は懐から 銃を取り出し、それをゆっくりと足音が近づいてくる扉に向けて構える。

扉が蹴破られた。それと同時に突 入してくる武装した集団。数は十人前後。男はおもむろにその銃の引き金を引いた。

音が響き、それと同時に飛び散る 鮮血。男は正確に武装した集団を打ち抜く。それぞれの急所を立った一発の銃弾で打ち抜く。さらに同時に二発出ているのではないかと思われるほどの早撃ち。 相手は誰も反応できないまま、為すすべもなく殺されていく。

銃弾が尽きると、すぐに弾倉を交 換し続けざまに打つ。十秒としないうちに、この場に立っていたのは男と少年だけになった。

「あっ・・・・・・・・・」

あまりのことに、さしもの少年も ただ呆然とした。それに対して男はどこまでも静かに、それでいて表情を一切変化させていなかった。

「終わりか。脆いものだな。行く ぞ。ついて来い」

促されるまま、少年は男について いく。外ではすでに何人もの人間が倒れていた。武装集団が乗ってきたと思われるヘリには、すでに生存者はいなかった。

変わりに黒い特殊スーツに身を包 んだ五、六人集団がいた。彼らは出てきた男に対して一礼した。

「シオン様。ご無事 で・・・・・・・」

集団の中の一人―――おそらくは リーダーであろう―――が、ゆっくりと少年と男に近づいてくる。

「わかっていて聞くのか、セバス チャン? この俺があの程度の集団に遅れを取るとでも思ったのか?」

「いえ。シオン様の御身に常に気 をつけるのが、わたくしめの仕事ゆえに。ご無礼をお許しください」

そう言うと、彼は深々と頭を下げ る。

「構わないさ。俺への忠義ゆえの 言葉だろうからな」

「寛大なお心、感謝いたします。 ところでそちらの方は?」

「ああ、こいつか? 俺が引き取 ることにした。名前はまだ聞いていなかったな。俺の名はシオン。シオン・テラ。お前の名は?」

「・・・・・・・・カナード・。 カナード・パルス」

少年はゆっくりと自分の名前を口 にする。それが唯一の自分の証。自分が自分であるための。

「カナードか。いい名前だ。カ ナード。今からお前にいいものを見せてやる」

そういうと、男は部下とカナード を率いて自分達のヘリに乗り込んだ。

ヘリはゆっくりと砂漠を飛ぶ。す ると眼下に大きな建造物が見えた。それはカナードがいた研究所。忌むべき場所であった。

「カナード、よく見ておけ。今か らお前の鎖を吹き飛ばす」

男―――シオンがそう言うと同時 に、研究所が大きな音を立てながら火と煙を発生させた。爆発である。研究所のあちらこちらで大小さまざまな爆発が起きている。

「な、何が起こっ て・・・・・・・・・」

「ふふふ。俺の配下の部隊の仕業 だ。もともと俺の目的はここを完全に破壊することだ。研究員はもちろん皆殺し。使えそうな機材やデータの回収。それと研究対象になっている人間の保護も目 的だったがな」

淡々と語るシオンにカナードは戦 慄した。シオンの顔には一切の迷いなどない。そしてこれだけのことをしておきながら、少しも表情を変化させていない。

「俺が恐ろしいか、カナード?  だが覚悟しておけ。俺はこれから世界を動かす。そのためには一人でも多くの優秀な仲間が必要だ。お前にもその一端を担ってもらいたい」

シオンの口から発せられる言葉。 カナードは思わず息を呑む。これほどの威圧感に今までにさらされた事はない。研究所の人間とは別の意味で、カナードはこの男に恐怖した。

「この世界はこれより先、大きく 動き出す。ナチュラルとコーディネイター、二つの種族の争いが・・・・・・」

まるで未来を予見したような物言 い。だがこの男には説得力があった。カナードも、そしてこの場にいた誰もが彼の言葉を信じる。

「大きな流れは誰にも止められな い。どれだけの力があろうとも、流れに逆らうことは誰にも出来ない」

人が川の流れを逆にできないのと 同じである。時の歯車を巻戻すことも、動き出した流れを大きく変えることはできない。

「だがそれでも、流れに乗り、 ゆっくりと流れを変えることはできる。俺は世界を動かす。この世界を・・・・・・・・・・この狂い始めた世界。そう、シオン・テラ・・・・・・・アスハの 名を持って!」

彼の予見どおり、これより先世界 は大きく動き始める。時は流れる。

 

 

 

 

 

C.E.70

 

世界は完全に二分した。ナチュラ ルの地球連邦。コーディネイターのプラント。

緊迫した世界情勢。数多く起こる ナチュラルのコーディネイターに対するテロ。

そして地球の理事国からプラント に大して突きつけられる理不尽な要求。

ついに衝突は起こった。起こるべ くして起こった戦争。

C.E.70 二月十四日

地球軍がプラントの農業用コロ ニー ユニウス7に対して武力行使を行った。放たれた砲火。一発の核ミサイルにより、世界は混沌する。

一発の核により、ユニウス7は崩 壊した。一瞬にして二十四万三千七百二十一名の命を奪っのだ。

のちにこれを『血のバレンタイン の悲劇』と呼んだ。

この血のバレンタインの悲劇によ り地球、プラント間の緊張は一気に本格的武力衝突に発展した。

 

 

 

 

 

C.E70 七月二十八日

地球の極東の島国。かつて日本と 呼ばれた領土である。ここは世界に数多に存在する国々の中の、東アジア共和国の領地であった。ほんの十年程前までは。

だが今は違う。十年ほど前、一人 の男の力によりこの列島はある国に譲渡されることになった。

その国の名はオーブ首長国連合。 そして男の名はシオン・テラ・アスハ。

かつて日本と呼ばれた国の行政府 の中枢に、その男はいた。

短めの黒髪に黒い瞳、整った顔立 ちでスーツを着込んだ青年。年頃は二十代半ばだろうか。長い円卓のテーブルにすわり、資料を眺めている。そのテーブルには彼のほかにも十人近い人間が座っ ていた。

「では報告を聞こうか」

「はっ、ご報告申し上げます」

円卓のテーブルに座っていた一人 の男が立ち上がると報告を開始した。

「経済封鎖に近いプラントとの物 資の補給につきまして、こちらはわが国の工業用、農業用コロニーでこの先三年間はまかない続けられるとの結果が出ました」

「そうか。では次はわが国のエネ ルギー問題の件だ。エネルギー省」

「はっ!」

黒髪の男―――シオン・テラ・ア スハの言葉にエネルギー省の高官が席から立ち上がり報告書を読み上げ始めた。

「現在わが国におけるエネルギー 問題に関しましてですが、地熱、風力、太陽光発電を最大限に利用することで何とか経済や一般市民の生活を支えている状況です」

「ザフトも厄介なものを地球に打 ち込んでくれたものです。核分裂を抑制する兵器など」

エネルギー省の高官の報告を聞 き、他の高官が苦々しげに発言する。

ニュートロンジャマー。通称Nジャマー。ザフトが地球軍のユ ニウスセブンへの核攻撃の報復として地球の地中深くに打ち込んだ兵器である。

これは核分裂反応を抑制する効果 を持ち、今まで原子力に頼りきっていた地球のエネルギー事情に大打撃を与えることになった。

「おっしゃるとおりですな。しか し核による報復で無かっただけマシです。それにわが国では原子力に頼らないクリーンエネルギーの開発に力を注いでいたため、そこまでの実害はありませんし ね」

オーブは地熱や風力、太陽光発電 と言う安全でクリーンな電力開発に力を注いでいたため、そこまでの大打撃を受けることは無かった。

それでも原子力に頼っていた部分 はあるため、それなりの被害を被ることになったのだが。

「これもシオン様の先見の明によ るものです」

「よしてくれ。俺はただこの星が 人間の愚かな行為で汚れていくのを見たくなかっただけだ。それにまさか俺もザフトがこのような兵器を作り出せるとは予想もしていなかった」

謙遜に近い態度を取るシオン。彼 としてみれば、この程度のことで褒められてもうれしくなど無いのだ。

「それでNジャマーの解析は進んでいるの か?」

「それに関しましては目下全力で 取り組んでおります。しかしながらまだ地中深くに埋まっているNジャマーをやっと回収したところですので、解析には今しばしの時間を・・・・」

「わかっている。だが急いでく れ。オーブが、いや俺たち極東がこの戦いに参戦するには、何としても地球のエネルギー事情を打開しなければならない」

「はっ! 何としてでも解析し、 原子力発電を復活させます」

原子力に頼っていないと言って も、やはり原子力発電は魅力的である。この力を得れば、エネルギー問題を一気に解決できるし、他の国々にも恩を売ることができる。

「だが核兵器に転用されるわけに はいかない。仮にNジャマーを無効化する装置を作り出せても、核兵器に転用できないように巨大な装置にして おけ。さもなければユニウスセブンの二の舞だ。あんなことだけは二度とさせるな」

ギロリと高官を睨む。その威圧感 に政治の世界で多くの人間と渡り合ってきた連中が冷や汗をかく。

「いいな? では次だ。軍事予算 に関してだが、これには特別補正予算を組ませる。これから戦争は激化する。この国が、領土がいつ戦火に巻き込まれるかわかったものではない」

過去、いくつもの戦争の中で踏み にじられた土地は数限りなく存在する。何の関係がなくとも、そこに人が暮らしていようともお構い無しに踏みにじる。戦争とはそう言うものだ。

だから力が必要なのだ。自分を護 るための力が。国と言う人々の生活する場所を守り抜くために。

「技術開発庁、この極東で計画し ている『G計画』の要、『G-UNIT』について説明してもらおうか」

「はい。まずはこれをご覧くださ い」

部屋の電気が消え、そこに備え付 けられているモニターにあるものが映し出される。それはザフトがこの戦争で投入したMSジンであった。

「ご存知の通り、ザフトの兵器で あるMSジ ンです。これは先ごろ、ユーラシア連邦に鹵獲されたものですが、それを我が極東は極秘裏に入手し解析したものです。わが国の優秀な技術者、それもコーディ ネイターの技術者まで総動員して解析したものです」

その映像には事細かにジンの情報 が組み込まれていた。ハードからソフトまで事細かに。

「スペックを見る限り、従来の連 合の主力兵器であるMAでははっきり言ってまったく歯が立ちません。それは開戦当初からわかっていたことです が・・・・・・・・・」

「そんなことはわかりきってい る! やつらコーディネイターは我らの想像をはるかに凌駕する。そんな奴らの兵器に対抗する兵器を作れるのか!?」

「少し黙れ。それをこれから説明 するのだろうが」

会議室に響くシオンの声。その声 に今発言した男はうっと声を詰まらせる。彼の言葉はこの場では何よりも重かった。

「続けろ」

「では続けさせていただきます。 このデータを下に我が技術開発省、技術開発局の人員を総動員し計画したのがG計画です。この機体についてご説明いたします。手元の資料をフご覧ください」

高官達は手元に配られた資料に目 を通す。そこにはMSのデータが書き込まれていた。

「この機体は汎用性に優れた機体 として開発を予定しております。その主たる要因がコアブロックシステムと呼ばれる特殊システムです。これはメインである胸部をコアにして、状況に応じてユ ニットを変換するものです」

モニターに新しい映像が映し出さ れる。今までシンプルだったMSに別のパーツが加わった。

「ザフトのジンがいかに汎用的で も、さすがに局地戦には使用できない。確かに彼らはそれを克服するためにジンを適地対応させたり、局地専用のMSを開発したりしております。 しかしこのシステムならば、換装するだけでどんな状況にも対応できる。これこそが我が国防衛の要になりましょう」

「開発局長官。財務省の私から言 わせてもらえば、この機体一機作るのにどれほどの額が必要になる。さらに換装ユニットに関してもだ。確かにシオン様は軍備拡張のために特別予算を組まれた が、量産するとなると額も馬鹿にはなるまい」

「それに関しては問題ありませ ん。量産を前提としておりますので、できる限りの低コストで開発できます。そのためにはまず試作機に取り掛からなければなりませんが・・・・・・」

「開発局長官、試作機をロールア ウトし、量産を開始しそれなりの数を整わせるのに、どれほどの時間が必要になる?」

「すでに試作機の方は開発が進ん でおりますので、今年中には完成します。量産型に関しては、それよりさらに四ヶ月ほど必要になるかと・・・・・・・」

「数が整うまでにはまだ時間がか かるか。単純に見積もって、来年度の四月か・・・・。長いな」

「その間にわが国が戦火に巻き込 まれた場合、一体どうするのだ!?」

「そうだ! のんきにことを構え ている状況ではないのだぞ! ザフト軍のマスドライバー破壊作戦の標的がいつこの地になるかわかったものではない!」

ザフト軍が進めるオペレーショ ン・ウロボロス。地球に点在する宇宙への出入り口であるマスドライバー破壊作戦。すでに地球のいくつかのマスドライバーが陥落している。

「いちいち騒 ぎ立てるな。中立を宣言している今、ザフトも地球連合も早々手を出せるものではないだろう」

いつまでの話 が先に進まないのに嫌気が差し、シオンが口を挟む。

「しかしシオ ン様・・・・・・・・・」

「問題がある なら、外交政策で何とかすればいい。時間を稼ぐくらいならできるだろう? あと半年だ。半年だけ中立を維持させ続けろ。そのあとは・・・・・・・・・・」

「やはり本国 を離脱して戦争に参加するのですか?」

「いや、戦力 が整ったからと言ってすぐには開戦しない。まだその時期ではないだろうからな。それに俺はブルーコスモスの息がかかった連中が上層部に存在する大西洋連邦 が嫌いだからな。奴らと協力する気は毛頭ない」

コーディネイ ターを殲滅すると言う馬鹿げた思想を持つ連中である。そんな狂信的で盲目的な集団に手を貸すなど容認できることではない。

かつてナチス ドイツがユダヤ人の抹殺を図ったように、この世界でも同じようなことが繰り返されようとしていた。

「人とはどこ まで行っても何も変わらないな。かつての悲劇から何も学ぼうとしない」

戦争などの世 界的悲劇を幾度も体験した人類だが、その根本はその本質はどこまで言っても変わらない。

人とは自分が 経験しなければ何も学ぼうとしないのかもしれない。どれだけ過去から警告を受けようとも。

「開戦の時期 を見誤れば、それこそこの国は滅びる。それに未だに戦局はザフト有利にある。俺達まだしばらく傍観に徹する」

「しかしそれ では何かと問題が・・・・・・・・・もし連合が敗北するようなことになれば、それこそすべてが水の泡です」

「さよう。戦 力が整い次第すぐさま攻勢に出るべきであるかと・・・・・・・・」

軍部を束ねる 国防省長官が意見を述べる。だがシオンはそれを鼻で笑う。

「ダメだ。い くらこの国の国力が高くとも地球の一国家に過ぎない。技術力に関してはザフトよりも下だ。物量に関しても地球軍にも遠く及ばない。仮にザフトと戦争をした 場合、この国は勝てると思うか?」

その言葉に誰 もが黙り込む。彼らとてそれは理解していた。この国にはコーディネイターも多く居住しているとは言え、そこまでの技術力はない。物量においても同じであ る。

「連合軍と手 を組むなら話も別だが、どうせ戦後の利権争いに巻き込まれるだけだ」

「ではこの国 だけで双方と戦うのですか? それこそ無謀であると思いますが」

「無論俺とて そんな事は考えていない。どちらも同時に相手にするなど不可能だ。だから俺はまず中立諸国と同盟を結び、それからユーラシアと東アジアの切り崩しにかか る」

「ユーラシア と東アジアをですか? ですがあの二国は連合でも大きな発言権を有しております。おいそれと懐柔することは・・・・・・・・」

「いや、でき ないこともないだろう。ユーラシアと東アジア共和国も大西洋連邦とは不仲だ。幸いにもこの極東からも近い。大西洋連邦と仲たがいさせ、こちらに引き込むこ とも可能だ」

シオンの言葉 を高官達は思案する。確かに連合は一枚岩ではない。共通の敵が存在するからこそ、今のところ同盟を結んでいるに過ぎない。

「今のままの 地球軍が勝利を収めれば、ブルーコスモスの一派は確実にプラントを破壊する。それは地球経済に大きな打撃を与えると言うことになる。奴らが何を考えてそん なことを行うのかはわからないが、それだけは防がなければならない」

ブルーコスモスとは、コーディネ イターに深い嫌悪感を抱く狂信的な集団である。テロなどは当たり前。青き清浄な世界のためと称してコーディネイターを虐殺する連中である。

大西洋連邦ではその息のかかった 軍人、もしくはそれを信仰する軍人が数多く存在する。その大手のパトロンは、アズラエル財団である。

「確かに。プ ラントはわが国に関しても重要な市場であると同時に経済の中心でもある。プラントは戦後復興に関しては必要になりますからな」

「ああ、だか らこそ連合の、いや大西洋連邦の横暴を食い止めなければならない」

「しかしその 場合、ザフトについた方がよいのでは? そうすればわが国潤うと思いますが・・・・・・・」

だがその言葉 にシオンは首を横に振る。

「ザフトにつ けば、確かに戦後この国は潤う。だがやつらはナチュラルを下等な存在として見下す。その結果、やつらは俺達を必要としなくなる可能性が高い」

人と言うのは 自分より劣っているものを見下す。劣等種として軽視する結果、今度はナチュラルがコーディネイターによって淘汰されかねない。

かつてホモサ ピエンスが、ネアンデルタール人など幾多の種を滅ぼしたように。それは未来において現実のものになるだろう。

「今はまだ、 その数は少ない。だがプラントが勝利を収めれば、必ずコーディネイターによる支配が始まる。やつらから見れば下等な存在であるナチュラルを、いつまでもや つらは擁護すると思うか?」

今はまだ出生 率の問題などで、彼らもナチュラルが必要である。しかし遠くない将来、彼らがその問題を克服した時、はたして彼らはナチュラルをそのままにしておくだろう か?

人種意識の問 題とは昔から根深い。コーディネイターによるナチュラルの武力による淘汰はないかもしれないが、それでも奴らに隷属化される可能性が高い。

「コーディネ イターと言う存在は、未来において必要になる。そのためブルーコスモスのような狂信的な思想を排除すれば、ギブアンドテイクの関係、もしくはアメとムチの 関係にできるはずだ」

人とは現金な ものである。毛嫌いしているものでも、自分達の利益になるものにならばどんどん利用する。普通の一般社会でもそれは同じだ。

だからシオン はその関係を持って、ナチュラルとコーディネイターの間を取り持とうとしていた。

「だからやつ らだけの国家を認めるわけにはいかない。優れた存在を野放しにしていれば、いつの日か、ナチュラルは滅ぼされる。武力ではない力によってな。ゆえにザフト は潰さなければならない」

人は弱いから こそ徒党を組む。徒党を組むことによって強くなったと錯覚する。コーディネイターも一人ではナチュラルの殲滅を考えることはないだろうが、集団になれば自 分よりも劣るものを不要と考え始めるだろう。今のプラントがまさにそれだ。

「個人的にな らともかくすべてが分かり合えるなどありえない。白人と黒人、黄色人種と言った肌の色や民族、宗教で対立する人間だ。それが種が違うとなれば、完全に分か り合うなど不可能だ」

そんなことが できれば戦争は起こりはしない。過去の悲劇も存在しない。それが続くと言う現実。これから先も決して変わることはないだろう。

「だからこ そ、俺達はこの戦争に介入するのだ。コーディネイターとナチュラル、どちらも抹殺されないようにするためにも、な」

シオンは立ち 上がると、高官全員の顔を一巡するように眺めたあと、口を開く。

「すべてはこ の国の未来、そしてこの世界のために。しばらくの間、俺の力を貸して欲しい。この国は誰のものでもない。この国に住むすべての者のものだ。ザフトにも地球 軍にも踏みにじらせるわけにはいかない!」

シオンの演説 の後、会議は閉幕しそれぞれの仕事に戻った。あとにはシオンだけが残った。

 

 

 

 

「計画もいよいよ大詰めか。時代 の渦は誰にも止められない。ならば俺達はその渦に乗ればいい。そう、このオーブと言う国が」

薄く笑うとシオンはモニターのス イッチを入れる。そこには連合軍とザフトの地球での勢力争いの図が映し出された。

「高官の連中にはああは言った が、さすがに漁夫の利を狙うことは難しいか。ここは先の会議の通り中立国で同盟を結び、ユーラシアと東アジアと密約を交わすしかないか」

あごに手を当て悩むシオン。彼と て大局的にこの戦争を見据えている。すでに彼の頭の中では戦争をするためのいくつもの作戦が浮かんでいた。

世界を二分する戦い。その戦いに オーブと言う一石を投じるために。

(この国だけで二つの巨大な力と 戦うことはできない。だったらどれかの陣営につくしかない。だがザフトもブルーコスモスもダメだ。やつらは選民思想の凝り固まった連中だ。火に油を注ぐく らいに危険だ)

奴らは戦争ではなく虐殺をしかね ない。この世界を黙示録にある終焉へと誘いかねない。

(ユーラシアと東アジアの連中な ら、そこまで愚かな行為はしないだろう。この二国と講和を結ぶのが無難だろうな。前途多難か・・・・・・・・)

不意にため息が漏れる。だがこれ も仕方がないこと。自分はそれだけのことをしようとしているのだから。

「すべては地球軍のMSしだいと言うことか。この兵器、どれほどの力を生み出すのか。そしてこの世界は俺の思惑を受け入れてくれるのかな」

C.E.70 世界は大きく動き始めた。

この日、一人の男の野望が始ま る。この戦争を終わらせるべく。そしてよりよき未来を作り出すために。

時間が進む。

C.E71 1月25日 

ヘリオポリスでの事件をきっかけ に、世界は回り始める。

 

 


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