ヘリオポリス戦艦ドック

ザフト艦が近づいているというこ とでドックの中では警戒音が鳴り響いている。中立国のこのコロニーには戦艦の入港は認められていないのだ。

「こちらヘリオポリス。接近中の ザフト艦、応答願います。ザフト艦、応答願います!」

通信士が必死に呼びかけるが反応はない。なおも接近し続けるザ フト艦。

「接近中のザフト艦に通告す る!!諸君らの行動はわが国に対する条約に大きく違反する。直ちに停船されたし。ザフト艦、ただちに停船されたし!」

「強力な電波干渉。ザフト艦より 発信れています。これは明らかに・・・。戦闘行為です!!」

その言葉に管制室の誰もが顔を青 ざめた。悲劇の幕は上がる。

ザフト艦から何機ものジンが出撃 してくる。それはこの舞台に上がる役者達。だが彼らは黒子でしかなかった。

本当の主役達はもうすでに、この 舞台の裏に潜んでいたのだ・・・・・・・・・

 

 

 

 

「敵は!?」

ムウがブリッジに入るなり声を荒 げながら報告を聞く。この緊急事態である。グズグズなどしていられない。

「二隻だ。ナスカ、およびローラ シア級。電波妨害直前にMSの発信を確認した。」

モニターで敵の姿を確認すると小 さく舌打ちした。後手に回ってしまった。中立国だと言う油断もあっただろうが、相手がここまで強引な手を使ってくるなど、考えもしなかったのであろう。

「ちっ! ルークとゲイルはメビ ウスで待機。まだ出すなよ!」

こちらはあくまでも隠密行動中 だ。下手に動くことはできない。だがこの状況ではそんなことも言っていられない。

彼がまだ出すなと言ったのは戦力 差が大きすぎるからだ。ジン一機を倒すのにメビウスが五機も必要になる。二人ではすぐにでもやられてしまうと思ったからだ。

「この戦力差、どうにかなる か!?」

ムウは悪い方向に進む思考を振り 払うかのように、頭を左右に振る。だが彼も気が付いていなかった。状況は最悪の方向へと進むことを。

 

 

 

 

 

ヘリオポリス戦艦改造ドック

「艦長・・・・」

「慌てるな。うかつに騒げば向こ うの思う壺だ。」

慌てる部下に艦長は落ち着くよう 言った。

「対応はヘリオポリスに任せるん だ!」

そして、地球連合の兵士達は発信 準備を急いだ。

だが時限爆弾のリミットは5分を 切り、ザフトの兵士達も進行を続けていた・・・・

それを彼らが知るよしもな い・・・・・・・

「わかってる。いざとなれば艦も 出す!!」

通信を怒鳴りつけながら切る。そ して早口に部下に命令を出す。

「ラミアス大尉を呼び戻せ!! 『G』の運搬を開始させい!!」

「はっ!!」

艦長からの指示にナタルは敬礼 し、その場から去っていく。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・騒がしい な」

カナードはアスクレピオスのコッ ク ピットのモニターで、外の喧騒を知ることになる。モニターには技術者たちが慌てているのが見受けられる。

「どうした。何かあったのか?」

研究員に通信をつなぎ、すぐに事 態を知ろうとした。

『パルス特務三尉! 大変です!  ザフト艦がヘリオポリスに接近中とのことです!』

「ザフト艦、だと?」

『はい! すでにNジャマーが散布され、相手は戦闘体制に入っているとのことです!』

ここは一応オーブ軍の秘密工場で ある。ゆえに管制室などから随時、情報が送られてくる。

すでに状況は緊迫している。防衛 軍もすでに動き始めている。だがこのコロニーに存在する防衛兵器はMAくらいだ。まだMSは本格的に配備されていない。内部侵攻は時間の問題だろう。

その言葉にカナードはあごに手を 当て思慮にふける。

(ザフトにこのコロニーで開発中 のMSの情報が漏れたか? だがだからと言っていきなり攻撃するのはおかしい)

確かに兵器開発工場を強襲するの は戦略的に正しいだろう。しかし性急過ぎる。ここは兵器工場なのだ。その防衛として新兵器が出てくることも十分考えられる。

それなのにこうあからさまに軍を 動かすだろうか? 無駄な損害を出すばかりか、下手をすれば痛手を負うことにもなりかねない。

(向こうの指揮官が莫迦なのか?  いや、そうじゃない。奴らの本当の目的は・・・・・・・)

仮に自分が敵の指揮官だった場合 を考える。自分なら中立国にある兵器工場をどう攻める? そもそも新型兵器をそのまま破壊するか?

(俺なら使えるものは奪 う・・・・・・・・・・! まさかやつらの目的は!)

カナードはある結論に達する。そ れが一番可能性の高いものであると、彼は考えたのだ。

「おい、ザフトがここに来るぞ!  すぐにこの工場を破壊しろ!」

『はっ? それはどうい う・・・・・・・』

「わからないのか!? ザフトの 狙いが何かを! やつらが欲しいのはこの新型MSだ! ザフトは地球軍とオーブ軍両方の機体の奪取、もしくは破壊が目的だ!」

カナードの言わんとすることが やっと分かったのか、研究員は顔を青ざめさせる。外の部隊は陽動だ。本命はその混乱に乗じて内部からの侵攻。

外と中。同時に攻められたのでは 混乱することはまず間違いない。それに中立コロニーだけに、こちらも下手な行動はできない。ゆえにザフトは先に動いた。主導権を握るために。

「急げ! もうすでに潜入部隊が 進入している可能性が高い! 戦艦が動き出したとなれば、もうすぐ潜入部隊が行動に出るぞ!」

『は、はい!』

カナードの指 示に従い、すぐに研究施設の破棄を決める研究員達。あわただしく動き出し、また警備の部隊は白兵戦用に銃を携帯する。

(すぐにでも 奴らは来る。だったら俺が出るしかない)

キーボードを 打ち、OSの最終調整を開始する。最悪の場合はこの機体で出るしかない。公式発表はまだだが、何も しないで死ぬ気はない。

「二号機 は?」

『まだ最終調 整中です! もうしばらく時間をください!』

「急がせろ。 すぐにでもここにザフト兵が押し寄せてくるぞ!」

彼の懸念は現 実のものになる。

 

 

 

いつもと変わらぬヘリオポリス。

しかしそれは嵐の前に静けさ。

そしてこの平和は唐突に終わりを 告げた。

ピッ!

仕掛けられていた爆弾がいっせい に爆発した!

それはアークエンジェルの格納庫 を爆発に包み、司令ブースを吹き飛ばした。

コロニー全域に衝撃が走った。

「うわ!なんだぁ!?」

カズィが転び他の一同もものに掴 まる。

「隕石か?」

サイが呟くが、返事は無い。

「な、何が起こったんだ?」

カガリも不安げに天井を見上げ る。だが彼女は知らない。この時、ザフト軍が侵攻を開始したことを。

 

 

 

 

「ちっ、始まったか」

カナードは忌々しげに呟く。この 衝撃は内部からだ。つまり破壊工作である。それはザフトの内部侵攻の始まりを意味していた。

(衝撃の度合いから宇宙港付近 か? とすると新造戦艦が標的か? それとも陽動か? まあいい。どちらにしても状況は変わらない)

ザフトの攻撃目標は新型機動兵 器。つまりは自分達なのだ。それを防衛するのにいささかの変更もない。

「あとどのくらいでこの工場を破 壊できる!?」

『あと十分は・・・・・・・・』

「五分でやれ! 運べないものは すべて破棄! データや書類をすべて持ってすぐにシェルターに向かえ!」

『パルス三尉は!?』

「俺はこの機体を護る! 二号機 はパイロット到着と同時に起動! 最悪自爆させる!」

『了解しました! ですが運べる 機材は!?』

「手で持ち運べないものはすべて 破棄しろ! 港はおそらくザフトに押さえられる。すぐに救援の船は来ない。奴らに奪われるのは関の山だ!」

それにこの研究所にあるものは確 かに重要だが、最重要と言うわけではない。替えが利くものであるし、本国にもすでに大体のデータは運ばれている。別段破棄しても何の問題もない。

「急げ!」

『はい!』

 

 

 

 

ザフト艦から発進した3機のジン はヘリオポリスの自衛MAミストラルを蹴散らし、ヘリオポリスに向かっていた。

「フラガ大尉!?」

輸送船の艦長が尋ねる。

「船を出してください!港を制圧 されます!こちらも出る!」

その言葉どおり、何機かのジンが ヘリオポリス内部に進行した・・・・・

 

 

 

 

小高い丘の上から双眼鏡でヘリオ ポリスを見るザフト兵。

「アレだな…クルーゼ隊長の言っ たとおりだな…」

「巣を突つけば巣穴から飛び出し てくるって? …やっぱりマヌケだな、ナチュラルなんて」

そう卑下した言葉を呟きながら、 彼らは見据える。

双眼鏡の先にあるのは、連合軍の 新型機動兵器『G』………

「いよいよだね、アスラン」

「ああ。気を抜くなよ、キラ」

「わかってる。アスランも気をつ けて」

「・・・・・・・・いくぞ!」

いっせいに彼らはMSの奪還に向 けて動き出す。

同時にコロニー内にジンが進入 し、手当たり次第に銃を乱射する。

ピピピ。

ジンのコックピットにアラームが なる。

「お宝を見つけたようだぜ。第 37工場区。」

「了解、流石イザーク達だな…は やかったじゃないか…」

ジンのパイロットはそう呟き、カ メラの倍率を上げ、『G』を確認する。

 

 

『G』を搭載したトレーラーとそ れらの補助パーツを載せたトラック。その周りにて作業を行っている連合軍兵士。

「ラミアス大尉、艦との通信途 絶…状況不明」

一人の作業兵がツナギを着た女 性、マリュー・ラミアスにそう告げる。

刹那、ジンが彼らの頭上を舞い、 銃撃を晒す。

そのトレーラーの近くにいた整備 士や士官は粉塵が舞いあがる中を伏せる!

「…ザフトの!!」

マリューはいかにも悔しそうに舌 打ちする。

「X105-01、02と303 を起動さ せて!とにかく、工区から出すわ!!」

マリューが叫び、爆風によって落 ちた緑色の帽子を尻目に見ながらそこを離れた。

その間にもジンの攻撃は続き、作 業用トレーラーを吹き飛ばす。爆発があちこちに広がり、周辺にいた何人もの地球軍の兵士が殺されていく。

同時に襲い掛かるザフトの兵士 達。『G』奪取のための班である。彼らは銃を乱射しながら工場 区に降下していく。

3台の大型トレーラーにはそれぞ れ一体づつ、MSと思われる機体が積み込まれている。

「運べない部品と工場施設は全て 破壊しろ」

イザークがそう伝える。だが、す ぐに彼は異変に気づいた。

「3機? 報告では6機と聞いて いたが…後の3機はまだ中か?」

この場にあるトレーラーには全部 で3機の『G』しか収納されていなかった。

その声に反応するようにして後に いたアスランが言う。

「俺とラスティ、それとキラの班 で行く… イザーク達はそっちの3機を」

その言葉を聞き、イザークは口を 開く。

「OK任せよう。だが奥にはまだ MSがあるらしい。それの確認も忘れるな」

「ああ、分かってる。そっちこそ 油断するなよ、イザーク」

「五月蝿い! お前は自分達のこ とだけ心配していろ! 余計なお世話だ!」

その言葉が合図になったかのよう に降下していくザフト兵は散開し、トレーラーの周辺に降り立つ。

「各自、機体搭乗後、自爆装置の ロックを解除しろ!」

指示を出すとイザークは銃撃戦の 中へと降り立ち、トレーラー内に逃げ込んだ兵士に向かって手榴弾を投げつけるのだった。

そして、イザーク、ディアッカ、 ニコルの3人はそれぞれGへと乗り込んでいく。

それを見届けると、アスランはラ スティとキラに合図し、残りのメンバーと共に搬出口へと向かう。

残りのMSを奪取するために。

 

 

 

 

その間にもヘリオポリス外壁部で は激しい戦闘が続いていた。

だが、MAとMSでは、性能が違 う。すでにヘリオポリス守備軍は壊滅状態。連合のMA三機も風前の灯だった。

なんとか、ムウのメビウスゼロが ジンを1機破壊する。しかし、その直後仲間のメビウスが破壊された。

「ゲイル!」

ムウは悲痛な声をあげた。

 

 

 

コロニー内部の建物では未だに振 動は収まらない。

「一体なんだよ…」

カズィが愚痴をもらす。

何とか建物からの脱出を図ろうと したのだが、振動があり電気が止まってしまったため、サイはエレベータの使用を諦め、横にある非常階段の扉を開けた。

そこにはすでに人がぞろぞろと並 んで上に上がっていた。

「どうしたんです!?」

「ザフトに攻撃されてる! コロ ニーにMSが入ってきてるんだよ!! 君達も早く!!」

男の言葉に呆然となるサイ。他の メンバーも信じられないと言った感じだ。その中でもカガリは特にそうだった。

(なんでだ、何でヘリオポリス が!? 中立のはずなのに!?)

頭の中が混乱した。自分の国がな ぜこんなことに。考えても分かるはずがない。だがしかし、もしかしたらこのコロニーには何かあるのではないか。カガリはそう考えた。

そう考えると、いてもたってもい られなかった。確かめなければならない。この国のトップである父と兄が何をしたのか。このコロニーが狙われる理由を。

オーブの姫、カガリ・ユラ・アス ハとして。

彼女はすぐに走り出した。以前に 小耳に挟んだ情報。カトウ教授が何か新しい開発に着手していると。

その時は深く考えなかった。だが 今思えばそれは何らかの兵器であったのかもしれない。その兵器を狙って、ザフトが攻めてきたのではないか。

(あるとすればモルゲンレーテ!  ここに何かある!)

猪突猛進のカガリは考えるより先 に行動を開始する。モルゲンレーテの奥。開発工区のある場所へと彼女は走る。

「カガリ!?」

「すぐ戻る! みんなは先に行っ て!」

自分のわがままにみんなを巻き込 むわけにはいかない。そう思い一人電灯の消えた通路を走る。

「戻って来い!」

「危ないぞ!」

仲間が引き返すように叫ぶ。だが カガリは止まらない。彼女を追おうとするが、爆発の生で落盤が起こり、今来た通路が完全に埋まり追えない。今来た通路が防がれてもカガリは足を止めない。

『ハロ! カガリ、アブナイ ゾ!』

その隣をピョンピョン跳ねながら ついてくる緑色のハロ。

「うるさい! 私は確かめなけれ ばならないんだ!」

カガリはハロを掴むとそのまま全 力で廊下を走りぬける。何枚もの扉をかいくぐるが、いつかは行き止まりに着く。

Keep Outと書かれた扉。それにはもちろんロックがかけられている。カガリにはその扉を開ける鍵が ない。

「くそ! 開かない!」

ガシャガシャとノブを強引に回す がビクともしない。電子ロックもあるが、パスワードがなければ開けられない。

『ハロ! カガリ、ドイテ。アケ ルカラ』

「!? お前、開けられるの か!?」

ハロから発せられた言葉にカガリ は驚きの声を上げる。ハロは口を開けると、一本のケーブルを出す。

「これを取り付ければいいんだ な!?」

カガリはコードをロックの部分に はめる。すると電子ロックの電気ボードに数字が現れる。それは一つ一つ、物凄い速さで表示され、ついにすべての番号がそろう。

ガシャ

ロックの外れた音がした。カガリ はよしとガッツポーズし、ハロからコードを引き抜くと彼を抱え扉を開けた。

 

 

 

 

外はすでにザフトに制圧されてい た。3機のGはすでにザフトのエリートパイロット達が起動させ始めていた。

シンプルな『G』がビームライフ ルとシールドを掴む。

「ほぉ…地球軍にしては中々のも のじゃないか…どうだ? ディアッカ!」

イザークがもう一つの『G』に 乗っているディアッカに声をかける。

「OK、アップロード完了、リン ク最高潮…動け!」

立ち上がるディアッカの乗る重武 装タイプの『G』。

「ニコル?」

「待ってください、後もう少し で…」

そう言いながらも、プログラム起 動の為にキーボードを打つ手を休めていない。その速さは常人では考えられないものだった。さすがはコーディネイターと言うところだ。

トレーラーに固定された3機の 『G』が静かに立ちあがり……その瞳に光が灯る。

「アスランや、キラ。ラスティ は…… 遅いな」

「ふん、奴らなら大丈夫だろ。と にかくこの3機、先に持ちかえる、クルーゼ隊長にお渡しするまで、壊すなよ」

イザークが念を押すように二人に 言う。

刹那『G』のブースターが青い炎 をはき、宇宙高く舞い上がる。

GAT−X102 デュエルガン ダム

GAT−X103 バスターガン ダム

GAT−X207 ブリッツガン ダム

灰色を基調としたカラーの巨体は コロニーを悠々と抜け、そのまま宇宙へと消え、ローラシア級戦艦ガモフへと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは格納庫だった。

銃声が鳴り響く空間。カガリは キャットウォークの上にいた。だが今のカガリにはそんなことを気にすることができなかった。

眼下に見える巨大な人型の物体。 鋼の装甲。それは地球軍の開発した新型兵器MSG』であった。

あまりの光景にカガリは言葉を 失っていた。そしてがっくりと膝をつく。

「なんなん だ・・・・・・・・・・・なんなんだ、これは」

カガリはうなだれ、誰ともなしに 呟く。ハロを抱え、ぎゅっと腕に力を込める。

「何でこんなものが?」

彼女は思考をまとめようとする。 なぜコロニーの中にこんなものが。いや、そもそもこれは何なんだ。オーブ軍の新型?

違う。オーブは中立だ。そこで自 軍の兵器を作っていたから言って、ザフトがここまで強引なことはしないはずだ。それは彼女にも分かった。

だったらこれは。思い浮かぶこと は一つだ。これはザフトの敵の兵器。つまり地球連合の新型と言うことになる。

「そんな・・・・・・・・こんな ものをヘリオポリスで作っていたなんて・・・・・・・・」

不意に抑えることのない怒りが湧き上がる。誰がこんなものを作るように指示したのだ?  考えられるのはこの国のトップだ。つまり自分の父と兄である。

「・・・・・・・・お父様とお兄 様の裏切り者ぉっ!」

カガリは心の底から叫んでしまっ た。それが災いを招く。工場区に響いた彼女の声に反応し、ザフトと連合双方の兵士が彼女に標準を合わせる。

『カガリ! ニゲロ!!』

「えっ?」

銃声が響く。カガリに向かって銃 弾が迫る。間一髪、当たることはなかったがこのままここにいては巻き添えを食う。

『ハシレ!』

人工知能とは思えないほどの的確 な指示。彼女はその言葉に従い、ハロを抱きかかえたまま走り出す。

『シェルターに入れ!』

最寄のシェルターに入れば、おそ らくとりあえず安全だろう。カガリは必死に走る。だが思ったように進めない。銃弾の雨あられなのだ。兆弾や流れ弾などの心配もある。

その時、爆発が起こる。爆風が吹 き荒れ、カガリはそのまま吹き飛ばされる。近くの階段から転げ落ちる。幸い、彼女の身体能力がナチュラルにしては高かったため、とっさに受身を取ることが できた。またハロも衝撃を吸収する役目を果たしたのだろう。彼女は骨折や打撲は愚か、かすり傷さえしていない。

しかし状況が好転したかといえ ば、まったくしていない。それどころかキャットウォークの下に下りた(落ちた)ことにより、状況は悪化の一途を辿る。

「うわっ・・・・・」

カガリは体験する。死の恐怖を。 銃声が鳴り響き、硝煙と血の臭いがする世界。怒号と悲鳴がこだまする。

そんな時だった。ピピピピとハロ から奇妙な音が流れる。

「なっ、ハロ?」

それは突然の異変だった。

『ピピピ、危機管理システム起 動。状況把握。情報転送。ハッキング開始・・・・・・・』

ハロの口が開き、中のモニターに 何かが表示される。それは情報の受信。データをどこからとも無く引き出し、自分のものにしていた。

『状況最悪。壁から離れろ。兆弾 が飛んでくる可能性あり。頭をかがめて、這うようにして進め』

「は、ハロ?」

ハロの口から出てくるのは片言で はなかった。的確な指示。カガリは自分の耳を疑う。だがこの状況では悠長なことをしていられない。

『シェルター状況。38シェルター満杯。37シェルター破壊を確認。最寄 のシェルターは無し』

「そんな・・・・・・・」

ハロからもたらされる絶望的な報 告。カガリはそれを聞くだけで気落ちしそうになる。

『地下に反応あり。施設発見。現 状、地下施設への退避がベスト。早急にこの場を離脱せよ』

「離脱って、そう言われて も・・・・・・・・・」

周囲を見渡す。銃弾が飛び交いあ ちこちで爆発が続く。こんな中をどうやって進めばいいと言うのだ。

「ハマナ! ブライアン!」

女性の声が響く。カガリはその方 向を見ると一人の女性将校が必死の抵抗を続けている。だが状況はあまりにも不利だった。

すでに彼女の仲間と思われる作業 服姿の人間はほとんどはいない。そのほとんどがすでに殺されてしまったのだ。

「うっ!」

女性が苦悶の声を上げる。どうや ら撃たれたようだ。彼女は転げるようにMSの上から落ちる。カガリはハロをつれ、その女性の下に走る。

「おい、大丈夫か!?」

女性を見る。よく見ると肩と腹部 を銃弾が貫通している。どちらも急所からはずれているため、致命傷にこそならないだろうがそれでも放置できる傷ではない。

「待ってろ! すぐに助け を・・・・・・」

だがカガリが周囲を見渡しても味 方は誰もいない。すでにほとんどの人員が殺されているのだ。敵であるザフトはいても、カガリ達に味方をしてくれる者はいない。

「くそっ! 止血だけでも!」

カガリは常に持ち歩いている緊急 用医療パックを取り出し、女性の治療に努める。これはオーブ軍が考案したもので、彼女にも兄が常々持たせていた。

義兄としては妹であるカガリが無 鉄砲であるため、いつ怪我をするか分かったものではなかったのだろう。

彼女は的確な処置を施す。だがこ こは戦場だった。そんな彼女を敵が見逃すはずも無い。ザフトの赤い機密服を着た二人がカガリの姿を認識する。

彼らはGの奪還のために動く。彼女の傍 にはそのGがある。それを奪うためにも邪魔者を殺そうとした。

敵がGのコックピットに入らないよう に自分達が先にコックピット付近に待機する。そしてゆっくりと銃を構える。

二つの銃口がカガリに向けられ る。彼女もそれに気が付いた。カガリにはまるで周囲がスローモーションで動いているかのように、ゆっくりと映る。

「・・・・・・・・カガリ?」

声を上げたのは誰だったのだろ う。名前を呼ばれたカガリは、ゆっくりとその声の方に視線を向ける。それは自分に向けて銃口を向けているザフトの兵士達に。

「・・・・・・・・・キラ? そ れに・・・・・アスラン?」

ヘルメット越しに覗かせたその 顔。茶色に近い黒髪と紫がかった黒の瞳。そして黒髪に綺麗な碧の瞳の少年達。

約束した少年達。また会おうと。 カガリの口から発せられた名が、二人に兵士の動きを硬直させる。

三年前の別れ以降、ずっと逢って なかった。お互いに成長していたが、かつての面影は消えることは無かった。

思っても見なかった形での再会。 その衝撃に彼らは言葉も無く立ち尽くす。

ゴゴゴゴゴ

衝撃が走る。彼らはその揺れに思 わず体勢を崩す。突如として揺れが大きくなり、彼らのいた工場区の床に亀裂が走る。

「えっ!?」

『カガリ、気をつけろ! 崩れる ぞ!』

「きゃぁぁぁぁぁっっっ!!!」

ハロの警告は間に合わなかった。 地面が裂け、まるで奈落の底に落ちていくかのように、カガリと女性は亀裂に飲み込まれる。

「カガリッ!!」

アスランの声が聞こえたような気 がした。その方向に彼女は必死で手を伸ばす。だがその手がつかまれることは無かった。

 

 

 

「アスラン。今のは・・・・・」

「まさか、そんなはず は・・・・・・・」

先ほどまで銃を構えていた二人は 呆然と崩壊した工場区の床を見ていた。下はかなり深いのか、彼らコーディネイターの目を持ってしても薄暗がりでその様子をうかがい知ることはできない。

「カガリ・・・・・・・・」

ポツリと呟くアスラン。そんなは ずはないと心に言い聞かせるが、それでも心のモヤモヤを晴らすことはできない。

次から次へと浮かんでくる疑念。 あれは本当に彼女だったのか? なぜこんなところに? ここから落ちて、彼女は無事なのか?

「アスラン!」

いきなりの声にビクリと身体を振 るわせる。横を見ると親友であるキラが肩を掴んでいた。

「しっかりして!」

「あ、ああ」

あいまいにしか返事ができない。 彼は頭を振り、自分の考えを拭い去ろうとした。

「彼女がカガリなのか分からない けど、今の僕らに何ができるの!? それにもうすぐここも爆発するんだよ!? このままだとアスランも!」

「わかってる! だがお前は不安 にならないのか!? もし今のがカガリだったら!?」

「僕が心配してないって思ってる の!? 僕にとっても彼女は大切な友人なんだ! 心配してないはずないじゃないか!」

二人は言い争いを続ける。彼らは どちらもカガリを心配していた。

だが自分達になにが出来る?

このままこの穴に入っていって彼 女を探すか?

だがもうすぐここも仕掛けた爆弾 の余波で爆発を起こすだろう。のんびりなどしていられない。それにここは敵陣なのだ。すぐにでもまた増援が来ないとは限らない。

さらに自分達の任務はGの奪取である。その命令を無視 してまで、彼女を探しにいくことはできない。下手に任務を放棄すればそれは軍法会議ものである。

「何やってんの! 二人とも!  さっさと機体に乗り込まないとヤバイっしょ!」

そんな二人に声がかけられる。そ れはもう一人の赤服のパイロット、ラスティだった。

「もうあらかた制圧したし、イ ザーク達ももう終えてる。俺らもさっさと終わらせる!」

その言葉に二人は不承不承ながら も従う。アスランもキラも軍人である。自分たちがしなければならないことは分かっているのだ。

「お先にいくぜ!」

ラスティは残っていた3機のGのうちの1機に乗り込んだ。それはGATX105−02ストライクルー ジュに。

キラはGAT−X105−01ス トライクガンダムのコックピットに、アスランはGAT−X303イージスガンダムに乗りこんだ。

 

 

 

 

「撤収状況は?」

『すでに九割が終わっています。 自爆の用意も整いました!』

「よし。自爆は五分後に設定。 セットしだい撤退しろ」

『はっ!』

カナードは研究員の報告を聞く と、すぐにモニターを起動させる。そこにはオーブのマークが表示される。

そして・・・・・・

-eneral

-nilateral 

-euro−Link 

-ispersive 

-utonamic 

-aneuver

「さあ、はじめるぞ、アスクレピ オス! 俺達の初陣だ!」

カナードの言葉に反応するかのよ うに、アスクレピオスのアイモニターに光が灯る。

すべてが始まる。このコロニーか ら。

世界を巻き込む巨大な戦い が・・・・・・・・

 

 


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