EMEwind 第2話「炎と風」



場所は、EME本部の地下に建設された訓練用の部屋。大きく、広く、頑丈な壁に囲まれた部屋だ。その部屋の真ん中で、少女と青年が立っている。お互い、と いうか少女が一方的に青年をにらんでいた。

「いい!和麻、あんたがどんだけ力をつけたか知らないわ。でも!あたしに勝てるはずないのよ!逃げるなら今よ」

そう、自分が負けるはず無い。年が上がり、身体は大きくなれど。所詮、和麻だ。

あいかわらず、炎におびえ、一方的に負けるに違いない。神凪綾乃は、そう確信していた。

対して、青年、八神和麻は、というと。

「面倒だな・・ああ、嫌だなあ・・」

と、愚痴っていた。綾乃と戦うことが、ではない。任務のあとに連れ出され、お子様の遊び相手にされているのだ。けだるげな雰囲気が、彼を包んでいる。

「いくわよ!」

綾乃が右手を掲げる。そして、集まる炎の精霊。その数は、並みの術者のものさしで図れるものではない。年端もいかない少女が、それほど大量の精霊を集める ことができる。

恐ろしく、最強の一族。神凪一族が宗家の血が、そして彼女の才能がなせる技だった。

「みんな・・お願い!」

炎が具現化する。金色の炎、破邪の力を持つ神凪の象徴が和麻に迫る。

「・・邪魔だ」

突如、炎が拡散される。圧倒的な風が、炎を蹴散らしたのだ。しょせん、子供。まだ術ではなく、ただ精霊を集めて、放っただけのこと。その程度、気をこめて 術にした風なら、炎の半数以下の精霊で十分である。正しくは、その炎に表れていない精霊も多くあるため数はほぼ互角だが。

「あたしの、炎が・・!?ま、まぐれよ。今度こそ!」

両手を上に掲げた。さきほどより、多くの精霊が集まる。さらに、綾乃の怒りに反応して術のようなまとわりができてきた。術、とは精霊に仕事を割り振るよう なものだ。炎ならば、攻撃のための熱、エネルギーのための熱、など熱の種類だけでいくつもある。この動作を、気をこめる、と表現するのだ。そして、綾乃は 才能ゆえか考えずに気をこめていた。

「はあ。いいよな、才能に恵まれた奴は・・なんでそれを使わないんだか」

風の精霊に呼びかける。そして、綾乃より短い時間で同じ数を、同じ時間で倍に近い数を集める。風術の特徴、それは速さだ。精霊を集める速さ、それは攻撃に 速さにも繋がる。

「いくぜ・・綾乃」

その数の精霊を、手のひらに集め、圧縮する。

「いけええ!」

金色の炎が、プラズマ弾と化して放たれる。

「風弾!」

風が、銃弾のように飛び出す。回転を与えられ、邪魔なものを掻き分ける。標的である、綾乃に向かって。例え、立ちはだかるのがプラズマ弾であろうとも。

「お前が俺に勝つには・・千年早いぜ」

プラズマ弾を貫き、綾乃へ向かう。しかし、当たると思われた直前、風の弾が切られた。

「ち!出さないんじゃなかったのかよ・・炎雷覇は」

綾乃の手には、炎を纏う緋色の剣が握られていた。


(あぶなかった・・。なんなの、あの強さ!?)

約4年。その間に、あの男になにがあったのか。風術を使うのにもだが、まずあの強さに驚いた。風術など、最弱の術である。風は、軽すぎる。どれだけ速くと も、それが必殺の一撃で無い限り意味は無い。正面からぶつかり、力勝ちするのは炎の方なのだ。それが、簡単に打ち破られた。

(炎雷覇を出すのが・・あと少しでも遅れてたら・・)

おそらく、風の弾の直撃を受け気絶。いや、最悪死んでいる。

「おい、綾乃。それは、出さないんじゃなかったのか?」

苛立ちをこめた言葉で、和麻が言う。

「ええ。そのつもりだったけど・・あんたも多少は強いみたいだから出してあげたわ」

出さなかったら、負けている。そんな本心は隠しておく。

「いくわよ・・八神和麻!」

炎雷覇に炎の精霊が集う。そして、炎が刃を形成する。

「炎斬!!」

炎が伸び、刃が和麻へ伸びる。炎雷覇を基盤として、長さ自在の炎の刃を作る。

父、重悟が炎雷覇を告ぐ際に、教えてくれた技だ。

「多少は・・ましか」

和麻がつぶやく。出された風の刃が、伸びた炎の刃を切る。しかし、まだだ。

「お願い、精霊たち!」

綾乃の願いに従い、切られたところ、そこからまた炎の刃が生える。炎は本来、形など持っていない。術者が与えているのだ。戻すことなど造作も無い。父は、 同時に8本の刃を作り「ヤマタノオロチ」などと言う技を使ったというが綾乃にはまだできなかった。

「和麻、いくらあなたでも・・捌ききれる!?」

切っても、切っても消えない刃。それが、この技の強みなのだ。


(あの人の技か・・)

一度、和麻は見たことがあった。重悟が炎雷覇を持って戦うところを。父、厳馬に連れられて、宗主の仕事を見に行ったとき。炎雷覇から8本の刃が伸び、それ を自在に操る宗主。四方八方、死角はなし。歩く竜巻のように妖魔を滅ぼしていた。

(あれの弱点・・なにかあったはずだ)

幼き和麻はそれに気づき、父に言ってみた。父は、珍しく笑顔でほめてくれた。

それに気づかせるために連れていったらしい。あれは。

「そうか、思い出した!風舞!」

炎の長い刃。それの真ん中あたりを風で切り刻む。すると、その先は自然に消滅した。

「無駄よ!」

綾乃が炎の刃を生やそうとする。しかし、このとき。長めの刃を形成するとき、タイムラグが生まれる。1本ならまだいい。だが、宗主のように8本を作ってい て。それを同時に根元のような場所で壊したら。タイムラグが大きく生まれる。先まで気をこめるべき刃。

真ん中あたりで切られれば、その先に気は通らなくなり自然に消滅してしまうのは当然である。これが、弱点だ。

「風弾!」

すかさず風の弾を綾乃の足元へ放ち、砂煙をあげる。風を用いて、和麻は滑空した。

接近戦にしてしまえば、あの技に意味は無い。しかし、あと一歩というところで突如炎が吹き上がった。

「ち!気づかれたか!」

バックステップを行い、距離を稼ごうとする。しかし、煙の向こうから炎の刃が和麻へ

飛んできた。


「・・・やった?」

刃が、何かを貫いた気がする。父、重悟に刃を半分以上消されたら気をつけろと言われていた。

そして、相手が向かってくる可能性が高いので炎の壁をつくれとも。予想通り、炎に驚き、距離を開けた和麻を一瞬だが捕らえた。すかさず短くなった刃を振 るったが・・うまくいったようである。

「ちくしょう・・やってくれるじゃねえか」

煙の向こうから、皮肉めいた声が響く。

(避けられた・・!?)

驚愕し、刃を引き戻そうとした。しかし、戻ってこない。

「逃がさないぜ・・いや、逃げさせれないというべきか」

その言葉に、綾乃は疑問を覚えた。まるで、逃がしたくとも出来ない、という意味の言葉に。そして、煙が晴れてくる。そして、言葉の意味を理解した。

「結構・・痛いな」

和麻の右肩に刃が刺さっている。そして、血が流れ落ちている。

手に残る、なにかを貫いた感触。妖魔を倒す際、いくつか感じたが・・人間では初めてだった。自分で、人を、傷つける感触は。

「あ、あたし・・あたし・・」

身体が震え始める。手に持つ炎雷覇が震え、炎の刃が消える。そのまま、炎雷覇を放してしまう。炎雷覇は、空気に溶けるように消えてしまった。

「人を・・和麻を・・」

力を持つ、人間。才能に、恵まれた人間。でも・・中学生の女の子なのだ。

「ごめん・・なさい・・。ごめんなさい・・」

涙が、目からあふれる。頬を伝い、床に涙の跡をつける。

[お、おい!泣くなって・・]

右肩を押さえ、綾乃に駆け寄る。

「ごめんなさい・・」

呪文のように、何度もつぶやいている。そんな綾乃を、和麻はやさしく抱き込んだ。

「落ち着けよ、俺は大丈夫だから」

シャツ越しに、熱いものを感じる。人間を殺す、まではいかないものの、人を自らの力で傷つけてしまった。目の前で、その現場を見るというのはショックが大 きかったのだろう。

結局、綾乃が泣きつかれて眠ってしまったため勝負は流れてしまった。


「ん・・」

綾乃が目覚めると、白い天井が目に入った。

「ここは・・」

ベッドに寝かされているようだった。しかし・・ここはどこだろう。

EMEの医療施設だろうか。

「あ、起きたの」

女性の声がした。その方向を見ると、やさしそうな女性が立っていた。

お盆にコップを載せている。

「大丈夫?なにか欲しいものある?」

ベッドに近寄り、女性が語りかける。その目は、碧色だった。

「ううん・・ここは?」

聞くと、女性が微笑み部屋の入り口を見る。つられて、同じように見ると。

「よう、大丈夫か?」

けだるそうに青年、八神和麻が立っていた。

「とりあえず・・ここは俺の家。お前が寝ちまってEMEに放って置くのもなんだし。

 連れてきたんだが。気づいたならさっさと家に帰・・」

和麻の言葉は、飛んできたお盆に止められた。

「和麻、そんなこと言わないの。もう、はとこさんなんでしょ?」

たしなめるように女性が言う。

「はいはい。で、真面目な話。綾乃、お前どうするんだ?」

ここに、いるのか。それとも、帰るのか。

「泊まってもいいのよ。もう終電も終わっちゃったし、帰る手段もないと思うし」

「どうしても、ってなら俺が連れて行ってやるよ」

2つの提案。どうするべきだろうか、無理して帰る必要もないだろう。

しかし、帰らないのも悪い気がする。再開したばかりの、はとこの家にいきなり泊まる、おまけに自分が傷つけた相手。思考がぐるぐる回転する。しかし、正直 な体は昼以降なにも食べていないため根をあげた。ぐー、と大きな音が鳴る。

「・・・まずはご飯にしようか」

「そうだな」

あまり綾乃を辱めぬような態度をとり、部屋をでていく2人。そんな2人の後を真っ赤な顔をして付いていく綾乃だった。

(屈辱・・あたしの馬鹿!)

綾乃の心の叫び。しかし、そんなもの聞こえないとばかりにもう一度鳴るのだった。





あとがき

 えっと・・EMEキャラがでてません。この話、実は2ルートに分かれるんですよ。

和麻主体の「FIRE」ルート。紅主体の「wind」ルート。誰かが主人公に関わる、

という感じのタイトルです。FIREでは、和麻←綾乃。windでは、紅←和麻ってな具合に。話の基盤をつくるために今は、「FIRE」ルートなわけで す。

第1話は、FIRE→wind→FIREって感じの聖痕メインです。逆に、第2話はwind→FIRE→windのEMEメインです。こんな感じにして欲 しい、もっとあのキャラを、というのがあれば出来る限り実現するのでどんどんコメントお願いします。

言い訳がましい、あとがきでした。あと1話で、FIREルートに区切りがつくので

windルートになります。


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