EMEwind第7話「解かれた封印。そして敗北」


東京郊外。和麻と綾乃はそこにいた。なぜか、それは連れてこられたからに他ならない。

目の前の、こいつに。

「もう少し待ってくれよ、お客さん」

和麻は皮肉気につぶやいた。あの棺から現れたもの、それが突然出現した。

それに誘導されるように、ここまで来てしまった。

「和麻・・」

綾乃が服を引いて呼ぶ。

「なんだ?」

「勝てる、かな?」

自分以上の力を持つ、あの琴葉が敗れている。綾乃の自信は皆無だった。

「大丈夫、なんとかなるさ」

奥の手もある。相手がなんであろうと・・負けるはずがない。

「いくぜ」

風がうなり、仮面の妖怪へ放たれる。

「・・・」

持っていた剣で風を切り裂く。そして、そのまま地面へつきたてた。

「綾乃、飛べ!」

なにがくるか理解し、指示を飛ばす。2人が飛び上がった直後、地面が割れた。

「化け物だな。風弾!」

風の弾を飛ばす。うまく剣を抜け、体にあたる。しかし、傷ひとつ付いていなかった。

「あの位じゃだめか。なら・・すこし本気になってやろう」

ここ最近、ろくな技を出していない。リハビリしたいが、そうも言えないようだ。

「安くしとくぜ、ありがたくもらいな!七星剣!」

天から降り注ぐ、7つの刃。それが仮面の妖怪を地面へたたきつけた。

風の精霊だけの空間、空で高密度の刃を練る。力を無駄に分散せず、効率的な数で、効果的な攻撃力をもつ技だ。中級、といったレベルだ。

「おまけにもう一個!」

風を仮面の妖怪から急激に遠ざける。それにより、真空がつくりだされる。

そして、精霊への命令を解除。四方八方から風が吹き荒れた。

「十字砲火。けっこう旨かったか?」

小手先だけの技だが、その威力は馬鹿にならない。

煙が大きくあがる。普通のPCで、七星剣で即死。十字砲火も食らえば、まず生きていない・・はずだった。

「簡単には、いきませんか」

煙の向こうから、仮面が光っていた。


「ち!」

ベレッタと、ガバメントが銃弾の雨を降らせる。どれも、効いていないわけではないが効

果的とは言えなかった。ムカデは体をくねらせ、尾を振るった。

「これで・・どうよ!」

東哉が炎を投げる。眷族の皮膚にこげ後をつくるが・・それだけ。

「攻撃手段がないな・・」

車までいけば、トランクにOP課(オーパーツなどを取り扱う)から借りたものがあるのだが・・そこまでいけそうにない。

「女性陣も、苦戦か?」

眷族は、複数現れていた。自然に分かれたら、男性、女性にわかれたのだ。

「さあな。とにかく、切り抜けないと」

東哉の問いに答える。紅の視界には、乗ってきたBMWが映っていた。


「はああ!」

莉柘が眷族を殴り倒す。灰になり、消滅する。

「摩利王」

麻里の命令に従い、摩利王が眷族の首筋を噛み千切る。声もださず、眷族は消えていく。

「ワット君、いくよ」

茜が指を上へかざす。バッグに入れてある、雷獣が頷く。

茜がEMEへ入る際、雷獣の事件があった。その事件は、EMEに入っていない茜が雷獣を守ろうと起こしたものだった。それを解決するため、来たのが紅だ。 EMEへと誘われ、紅の元で働くようになった。そして、雷獣は茜の元で世話をすることになった。

名前は、ヒノエウマ・アンペア・ボルト・ワット、通称ワット君だ。茜の妖媒能力は、PCの持つ、不思議な力を使えるようになるものだ。それを使い、茜は雷 を操ることができる。指先へ雷があつまる。

「10万ボルト!」

今や、電力の調整を可能とし100万まで引き出せる。雷が眷族へ落ち、消滅する。

「ふう・・ありがとう、ワット君」

男性陣の心配をよそに、眷族を消滅させていく女性陣だった。女は強し、である。


邪魔だ。それは、思った。いま、求めていた餌になるものを見つけ、それは嬉しかった。

だが、邪魔をするものがいる。力強い風で、反抗する。邪魔だ。

求めていた、あれが外へでてきた。あれが、食える。それは嬉しいことだった。

自分の眷族が連れてくる、そう思っていた。だが、なにかが眷族を消滅させていく。

邪魔だ。邪魔だ。邪魔だ。起きたばかりの自分へは向かった奴。安息の眠りを求め、眠ったというのに、起こそうとする奴ら。全て、人間。邪魔なのは、人間。 邪魔は・・消す。

「うおおおお!」

それはほえた。今、世界は狂っている。自分が世にいたとき、あんなに人は素直だったのに。なぜ、なぜだ。こんなものはいらない。邪魔だ。邪魔だ。邪魔だ!

剣が震える。邪魔を・・消すために。

このとき神だったものは邪神へと変わったのだ。


「でいやああ!」

莉柘が最後の眷族を殴り飛ばす。灰となって消え、面影すら残していない。

莉柘の力は、森羅万象、あらゆる精霊の加護を受ける体質からきている。これにより、筋力は向上され、運がよくなる。また、どのような攻撃でも、莉沢に不利 な攻撃はそれをつかさどる精霊が嫌がるため、最低限にしかならない。誰にも真似できない、莉柘だからこその力である。

「ふう・・終わった。それにしても・・」

後ろを振り返る。地面に大の字になっている男が2人。

「あんたたち、もう少しがんばりなさいよ!」

打つ手がない、2人がやったこと。それはいくつもある。ましなものでは、打ち出した銃弾の火薬に発火させ、爆発させるもの。だめなものでは、AAにより筋 力をあげた紅が、東哉をぶん投げる『人間ロケット』がいい例だ。無駄に体力を使い、いまや倒れこんでいる。

「ふう・・とにかく、急いで戻らないと」

茜に肩を貸してもらい、立ち上がった紅が言う。

ヨタヨタと車に近づいていく。そして、莉柘が完全に後ろへの注意を怠ったとき。

「・・・おい!後ろだ!」

東哉が叫ぶ。つられて後ろを見ると、眷族が口を開いている。まだ、残っていたのか。

すぐさま倒そうとしたが・・体が反応しない。急なことで、体が対応しきれないのだ。

(うそでしょ・・なんで・・!?)

「はああ!」

その瞬間、なにかが眷族を切り裂いた。それは、紅だ。いまや、紅の手には剣が握られている。AAを使い、トランクから剣を出し、自分の手元まで引き寄せた のだ。先ほどまでの、敵がうようよいる状態ではできなかった。しかし、いまなら話は別だった。

「草薙の剣、ですか」

麻里がつぶやく。そう、紅の手にもたれているのは神が使った、3種の神器のひとつ。

草薙の剣なのだ。現在、多くの人は、草薙の剣は寺に祭られていると考えているだろう。

しかし、そうではない。EMEはそういったものの保管もやっている。この剣も、そういった経緯で保管されていたものだ。今回、このぐらいの武器がなければ と思った紅は、捜作を受けた当日から、常にトランクにいれていたのである。

「これなら、神さまとでも戦えるかな?」

もちろん、普通の高校生が使うには大きすぎ、重すぎるものだ。しかし、自分の筋力にAAを作動させれる紅だからこそ、扱える武器なのだ。バスターソードを 操る人が、昔、EMEにいた。和麻の上司で、自分の上司の黒部とは仲がよかった人だ。その人から、いつか使うかも、という理由で訓練されたのが、今、役に 立った。

「草薙の剣は、大和大蛇から出てきたとされる神器です。神に対抗するには、必要な力でしょう」

麻里の言葉に頷き、全員を見回す。

「みんな、俺についてきてくれ」

紅は止まらない。次には、親友のところへいかなければならないのだから。


うそだ。うそだ。こんなこと・・うそに決まっている。綾乃は、すこし前の光景を思い出していた。

「ぐ・・まだ・・負けてねえ・・」

和麻が立ち上がる。全身はボロボロ、出血もそうとうなものだ。

「負けらねえんだよ・・七星剣!」

風の刃がたたきつけられる。

「ここで負けたら・・力を手に入れた意味がねえじゃねえか!」

和麻は目を閉じ、そして開いた。そこには、蒼い瞳がうかんでいた。

契約者。伝説でしかない存在。しかし、この現代に再び降臨したのである。風の精霊王と契約を交わしたもの、八神和麻。

「俺の世界で・・好き勝手するんじゃねえよ」

空気が、空が、蒼く澄んでいく。和麻の手が、高くあげられた。

「奥義・・蒼破斬!!」

全ての風をかき集め、刃へとかえる。その刃は、断ち切る。現世に未練を残すものを。

人につく悪霊を。そして・・あらぶる神でさえも。蒼き刃は断ち切る。

「くらいやがれ」

そして、刃が振り下ろされた。まるで、空が落ちてきたような衝撃がはしる。気圧が変わり、耳鳴りがする。そして、それは急速に治まった。

「・・終わった、の?」

「ああ。塵になって飛んでいった」

和麻が振り返る。そこには、ニヒルな笑みが浮かんでいた。綾乃は、和麻の胸へ飛び込もうとした。その時。グサ。なにかが、なにかを貫いた。

「・・・ぐ・・」

和麻がうなる。和麻の胸から、剣が生えている。いや、違う。後ろのものが、和麻へ剣を差し込んだのだ。かなり近くまで接近していた綾乃は、飛び散る血を顔 に受けた。

「か・・ず・・ま?」

目を見開いたまま、和麻は硬直している。

「・・げろ。逃げろ、綾乃!」

突如、和麻が叫んだ。綾乃は、言われたとおりにしようと思い、振り返ると。

「な、なんで・・」

仮面の妖怪がそこにいた。和麻の後ろにいるのでは、そう思った。

「ワレ・・チカラヲモトメタリ。ワガチカラノ・・イシズエトナレ!」

突然、地面が盛り上がった。それは、地面に眠るものが首をあげたために起こった動作だった。蛇だ。白い、大きな蛇。頭と尾が2つある蛇。

「ワガ、チカラノ・・イチブトナレェ!」

大きな口を開き、綾乃へ飛び掛る。炎をだそうとするが、間に合わない。

うそだ。うそだ。うそだ。和麻が倒したはずなのに。自分が殺されかかっている。

うそだ、うそだ、うそだ。この後、家に帰って。和麻や翠鈴さんとご飯を食べて。寝て。

また、明日が来る。そう思ってたのに。

「いやー!」

綾乃は叫んだ。同時に、意識が途絶えた。


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