EMEwind第8話「炎と水」


「ここ・・・は・・」

綾乃が目覚めた場所は、薄暗く、辺りの様子はほとんどわからなかった。

「あたし・・怪物に飲まれて・・それで・・」

記憶が戻っていく。それを総合して、つまり。

「怪物の中?でも・・」

手から伝わる感覚。それは石のように硬い。生き物の内部にしてはおかしい。

「ということは・・洞窟かなにか?だったら。出られるかも」

火を灯し、綾乃は辺りを見る。右は、行き止まり。左には、まだ道が続いている。

「やらなくちゃ・・あたしにできることは」

歩くと同時に、カツカツと、音が反響した。


和麻が発見され、早1日。同時に、綾乃が誘拐されたのも1日。

なんとか和麻は、一命を取り留めた。今頃、病室で彼女に看病されているだろう。

看護婦を目指すだけあって、任せておいて安全なレベルには達している。

「紅先輩、船津家から借りた資料にはなにもありませんでした。しかし、気になる文があります。それは、あそこが船津家のものと、信仰する水神の土地となる まで、2回戦いがありました。ひとつは、東哉さんとの戦い。そして、東哉さんと、別のなにかが戦ったそうです。それが、関係するのかはわかりません が・・」

茜の報告を聞き、紅は軽く頷いた。

「その何かがあれなのか、ということか。とにかく、和麻の回復ができたら動く、と言いたいけども。そうは言えないな」

綾乃と、琴葉。2人の若手術者が誘拐された。それは、かなりの反響をうんだ。

水、火をつかさどる家の、後継者がいなくなってしまったのだ。これを機会に、我こそが、という一族が、上位に就こうとするだろう。出来る限り、早く対応し なければならない。

「辛いな・・」

紅は天を仰いでつぶやいた。


ここは・・どこだ。真っ暗で・・なにも見えない。

「俺は・・また・・守れなかった・・」

八神和麻は、全てを守ろうとしたのに。神凪和麻を捨てた意味がないじゃないか。

「俺が・・弱いから・・」

頭に響く声。自分は、誰だろうか。どこにいるのだろうか。

「また、あきらめるのか。また、逃げるのか」

声が言う。自分の声で、自分を責める。

やめろ、聞きたくない。もう・・嫌なんだ。

「守れないことがか」

ああ。力をつけても、つけても。奪われる。

「だから、逃げるのか」

もう・・嫌なんだよ。

「できること、全てをやっても・・叶わない、それが怖いのか」

悪いのか?怖いことが・・だめなのか。

「そうではないさ。自分でできないことを見極めるのは大事なことだ」

だろう?出来る限りはやって、あとは逃げてしまえばいい。

「でも・・それで満足なのか」

満足、ではないさ。仕方ない・・あきらめたいんだよ。

「あきらめることは楽だ。でも、そこから進むのが・・」

大切、なんて教師みたいなこと言うのか?

「いや、楽しいんだ」

は?・・・楽しい?

「ああ。ぎりぎりから、さらに突っ込むのがスリルがある」

バカだな。

「ああ。でも・・苦しんだぶん、余生は楽しく生きたい」

余生が長いんだよ、馬鹿やろう。

「ああ。そうだ。こんな楽しいこと、せっかくだから一人でやりたい」

そうか・・じゃあ・・俺は眠るよ。

「ああ。じゃあな、神凪の俺。もう、会いたくないな」

ああ。行って来い、余生は楽しめや。

「言われなくても」

俺が消えていく。もう、ここにこないだろう。思い出した、前にも、俺はこうして置いていかれた。自分の、弱い心を・・捨てる場所なんだ、ここは。まて よ・・いいのか、それで。あいつばから、楽しませていいのか?だめだ、許せねえ。俺が苦しんだのに、あいつだけ楽しませてなるものか。

「苦労した人間に、いいことなくてなにが人生だ!負けた人間は寝てやがれ!俺がやってやるよ!」

声がでた。再び、自分に戻った。ここには、なにも残さない。全てが、俺だから。


「・・・和麻?」

碧色の目が、自分を見下ろしている。

「翠鈴・・ここは?」

答えると、笑顔を浮かべた。

「和麻!」

ドン、と腹部に衝撃。

「ぐはあ!死ぬ、死ぬ、ギブだギブ!」

右手を下へ叩きつける。バン、バン、と音が鳴る。

「和麻―!」

「ちょ、本当に、やばいから・・」

しがみついているのか、ミキミキと体が悲鳴をあげる。

「もう、危ないことばかりして」

いや、今もあぶないんですけど。そう言おうとして、声がでなかった。

「いま、先生呼んでくるから。って・・和麻?」

見ると、気を失いかけている和麻がいた。

「か、和麻!?先生ー!和麻がー!」

和麻が本当に目覚めたのは、このあとしばらく先だった。


綾乃は、黙々と歩いていた。

「出口はどこかしら・・。精霊がいるってことは、それほど変な場所じゃないとおもうけど・・」

いま、自分が操っている炎が、それを証明している。

そして、どこからか音が聞こえた。

「なにか・・あるの?」

耳をすませる。炎術士は、こういうとき不便だ。

音・・・何かに何かがぶつかる音。とどまることなく、響いている。

そして、ピチョン、という音。

「水?どこかに・・水が流れる場所があるの!?」

そこをたどれば・・外に出られるかも!

「こっちね!」

綾乃は、耳を頼りに駆け出した。しだいに、音が大きくなってくる。

「もう少し、もう少しでたどり着く・・」

ここをでたら、なんとか東京まで帰る。みんなと合流して、今度こそ、あいつを倒す。

曲がり角が見えた。あそこを曲がったら!

「あった・・?」

そこは、ただの空間。

「あなたは・・」

そして、目の前には女性。

「こ、琴葉さん!?」

誘拐された、真澄家の誇る、最強レベルの術者、真澄琴葉を見つけた。


「そっか・・琴葉さんも」

「ええ。ごめんなさい、勘違いさえて・・」

EMEの関係者で、調査していると伝えると、琴葉は簡単な情報をくれた。まず、自分もここがどこかわからないということ。そして、水の声が聞こえるから、 そこを目指して岩を壊そうとしていること。

「じゃあ・・でることは・・不可能じゃない」

「ええ。あなた、協力してくださいますか?」

というか、そうするしかないし。

「はい。できる限りはします」

「そう。では、合わせていきましょう。私の攻撃したところへ、あなたも攻撃を」

「わかりました」

2人が、呼吸を合わせる。

「真澄家水術・・激流葬!」

琴葉が、すさまじい勢いの水流を放つ。

「お願い・・力を貸して」

綾乃の願いに従い、精霊があつまる。

「は!」

プラズマ弾を放つ。そして、水流をぶつかり。

「え?」

「あ」

ブシュウウウと、白い煙を立て、炎も水流も消えてしまった。

蒸発と、消火が同時に行われ、消えてしまったのだ。

「あ、あなた・・お名前は?」

琴葉が、眉をひそめて聞いてくる。そういえば、言ってなかった。

「神凪・・綾乃です」

「神凪!?ちょっと・・私の水の「邪魔」になるんですけど」

この言葉に、カチンときた綾乃は

「そ、そっちこそ・・私の炎にやたらに干渉するの、やめてください」

と言い切ってしまった。

「なんですって!私の情報があるのに、あなたが来ても無意味なぐらい、理解できないのかしら!」

琴葉が憤慨した様子で叫ぶ。

「そ、そっちこそ!大人しくしてればいいのに、勝手に現場にしゃしゃり出てくるから!」

「あら、落ちてきた神凪に言われたくありませんわ!」

「いつまでも2番手な家に、こっちこそ言われたくないわ!」

「その2番手に、3人もやられたのはどこかしら!」

「あんなの倒して、いい気にならないで。すぐさま、誘拐されたくせに!」

「あなたもされてるじゃない!」

「ぐ・・それは・・」

言葉につまる。

「子供は黙って、大人のいうことを聞くべきよ」

琴葉が諭すように言った。

「な!?あたしと、13の子と、胸の大きさあまり変わんないくせに、大人ぶらないで!」

綾乃は叫んだ。どうみても、琴葉と自分のものは、大した違いはない。

「な・・・な・・・」

琴葉が、顔を真っ赤にした。プルプルと、拳が震えている。

「ほっといてよ!気にしてるんだから!」

「成長期のあたしと、あなたが同じ、ってことは。将来、絶対にあたしが勝つわね」

「う、うう・・」

突きつけられた言葉に、反論できない。

「まあ、その筋の人には受けるかもね。秋葉原あたりでバイトしたらいいんじゃない?」

つまりは、ロリータ・コンプレックスな人間にだが。

「あ、あなたこそ・・バカみたいに年不相応な胸してるんじゃないわよ!」

「ば、バカみたい・・貧乳は黙ってなさい!」

「言ったわね!」

水の精霊が反応し、水流が生まれる。

「術も胸と同じで、足りないんじゃないの?」

炎雷覇をだし、構える。自然に集まってくる、火の精霊たち。

「後悔させてあげますわ」

「できるものならね」

そして、炎と水の、女の意地をかけた戦いが始まった。


「ふう・・」

紅は、かるくため息をついた。

「紅先輩?どうしたんですか」

お茶です、と机に置きながら、茜がたずねる。

「俺・・最近、出番少ない気がして・・」

「・・・あ、先輩。茶柱立ってます」

見ると、本当に立っていた。

「本当だ。いいこと、あるといいなあ・・」

「ですねえ・・」

ゆっくりと、日が暮れていった。



あとがき

はい、シリアスってのも考えたのに、こうなりました。次回への、休息って感じですかね。

次回、いろいろと動き始めます。紅が駆ける、賭ける、駆け回る!

東京の街を、山を、海まではいかないけど!さて、今回、何気なく、和麻のパワーアップイベントらしきものが起こりました。神凪時代の自分を受け入れ、なに が変わるのか。

なんとなく、負けキャラっぽい最近、大変身です。東哉も、力を取り戻してきて。

紅、和麻、東哉、彼らの活躍に期待してください。

では、ご感想お待ちしながら、今回もありがとうございました。


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