EMEwind第9話「風の精霊騎士、シルフィード」
「ここ、か?」
隣の男に聞く。
「ああ、間違いない。目立つぐらいに、力を放出してやがる」
男は、はっきりと答えた。
「じゃあ・・さっさとお姫さまたちを救出しますか」
顔を戻し、洞窟をにらみつける。
「そうだな。・・・いや、必要ないようだ」
なにかに気づいたらしく、薄い笑みを浮かべる。
直後。洞窟から水柱が上がった。ドオオンと、音を響かせ沸きあがる水。
風が、動いた。水柱から、なにかを引っ張りだす。
「おお、以外に丈夫だな」
静かに、引っ張り出したものを手元に寄せる。風が従い、やわらかく導いた。
「おい、おい!」
それを軽く叩く。ペシペシと軽い音がなる。しばらくして。
「ん・・あ・・和麻・・」
それ、さらわれていた神凪綾乃は自分を抱きとめた人物を確認した。その目には、八神和麻が写っていた。
「よう。迎えに来てやったぞ」
薄い笑みを浮かべ、和麻は言った。
和麻は覚醒していた。目覚めると、瞬時に精霊が彼に情報を伝える。風の精霊王の力を、常に6割引き出せるようになっていた。自分を認め、弱い心を認め、全
てを受け止める。
やわらかさ、また、素直な心を持つ人を、風の精霊は好む。それができるようになった和麻を、ついに自分たちの主だと認めたのである。そして、新たな力のお
まけつき。
『主、人の反応がある。真澄琴葉だ。水の精霊がつきまとっている』
和麻の横に、蒼い髪の少女が現れた。これこそ、力だ。風の精霊王の意思を、実行するもの。高位の精霊の集合で体を作り、本体は常に和麻とともにある。精霊
騎士のひとつ、シルフィード。和麻の新たな力である。外見が、美少女なのは和麻の趣味だろうか。
「ああ。まあ、それはいい。フィー、敵の場所を探る。バックアップしてくれ」
『了解』
敵が利用した、この洞窟。なにか痕跡があるはずだ。和麻ひとりでは、精霊王の力は100パーセント引き出せる時間は限られる。その時間を破れば、頭が情報
を処理できなくなり、焼き切れてしまう。しかし、シルフィードがいることで、その時間を何倍にも延ばすことができる。和麻という頭の前に、『見る』必要の
有無を決める目の役目をするのである。
これにより、処理できる量に調節し、必要なことのみを得ることができる。
「これは・・違うな。これも・・よし、あった」
『では、全域の調査を開始します』
シルフィードが調べていく。自分の体を構成する、高位の精霊から精霊伝いに情報が届く。
そして、和麻が見つけた気配と、同じものを見つけた。和麻に送る。
「ここは・・京都か。あの蛇、本体は京都の山の下だな。よし、フィー、いいぞ」
『はい。おつかれさまでした』
「ああ。お前もな」
蒼い髪の頭をなでる。その瞬間、顔を真っ赤に染め。
『あ、主の命は絶対ですから!お、お褒めにあずかり、光栄で・・!』
と、つまりながら言う。いままで、シルフィードを操る人間なんて、2人しかいない。和麻の前は、女性だったらしく、男性への免疫がないのだ。それに気づ
き、和麻がどうしたかというと。過剰なほどの世話である。セクハラ手前までいきそうなことまでやったときは、鬼を見たが。完璧に遊ばれる存在になった精霊
騎士は、世界初だろう。
「うーん。さすが俺の相棒。最高、問題なし」
『わ、私には、これしか、できませんから!だから、主、その・・』
ジタバタと暴れる少女を抱え込む青年。もはや、警察沙汰になってもおかしくない。
「なんか、ご褒美やらないとな」
『いいですから、本当に!』
「そうだな・・なにがいいかな・・」
なにをすれば、おもしろい反応をするだろうか。和麻はいろいろと考えた。
「よし。キスでもして・・」
「いいかげんにしろ!この、不浄者ぉ!」
炎が舞い上がり、和麻を襲う。シルフィード以上の、男性免疫ゼロの少女、綾乃の堪忍袋の尾が切れた。
「ん?どうした?」
炎を風で受け流しながら、聞く。
「あんた!もう、完全に、セクハラよ!っていうか、ロリコン!?」
「失礼なやつだな。大切な相棒との交流じゃないか。EMEが回した相棒は、あまり・・だし。まあ、仕方が無いが」
「なに、いまの沈黙!?」
ギャーギャー騒ぐ綾乃と和麻を見ながら、来ていた紅は携帯でEMEへと電話していた。
綾乃と、琴葉の救出に成功。和麻が見つけた、敵の居場所。簡潔に教えると、EME本部への集合が命じられた。
「はい、わかりました。和麻、いく・・・!?」
本能が、危険を知らせる。体を伏せると同時に、頭上を水流が通り過ぎた。
「神凪綾乃!見つけたわ!さあ、さっさと降参しなさい!」
出現した真澄琴葉が、高らかに宣言した。
「うるさい!いま、性犯罪者を倒さなきゃなんないの!」
すっぱりと切り捨て、再び和麻に食って掛かる。
「あ、あなた・・私を無視して・・!」
紅は、体をふせたまま聞いた。
「あの・・とりあえず、いっしょにきてくれませんか?」
琴葉も連れてくるように言われたのだ。そして、琴葉と目が合う。
「・・・あ、はい。わかりました」
「ああ、ありがと。よろしく、乾紅太郎だ」
「ま、真澄琴葉です・・」
握手をする。なぜか、顔が真っ赤だ。どうしたのだろうか。
紅は知らない。琴葉のタイプに、自分が当てはまったことに。そう、一目ぼれされたことに。こうして、戦いのため、チームができていくのだった。
EME本部へ帰ると、すでに他の人は集まっていた。
「遅かったな。待ちくたびれたぞ」
「東哉、静かにしなさい!あ、紅くん、久しぶり」
莉柘に注意され、東哉は黙るしかなかった。莉柘に手を振られ、紅も振り返した。
紅は知らない。いままで、自分より周りが弱いと認識していた莉柘にとって、ピンチを救い、眷族相手に剣で立ち回った姿は、惚れる対象になっていたことに。
「ああ、ごめん。待たせちゃって」
「い、いいのよ、別に!」
「ええ。こちらも、情報をまとめる必要がありましたから」
麻里が言う。どうやら、あちらもそれなりに進んだようだ。
「じゃあ、情報の整理からいこうか」
隣の茜にメモを頼み、チームリーダーといつのまにかなった紅は会議を始めた。
「まず、俺たちから」
和麻が立ち上がる。
「まず、敵は2種類いる。仮面のと、蛇の。戦ってわかったが、仮面は地面、というか土を操っている。そして、もうやつらは十分な力を手にいれている。綾乃
を食う前に、満腹になったようだ。蛇の本体は、今も京都の山の下から動いてねえ。ちなみに、その京都の山は神凪の聖域って言われて、高位の炎の精霊が集
まっている。たぶん、居心地がいいんだろうな」
紅から聞いていた情報を結びつけ、和麻はまとめた。
『また、今、敵は火の精霊の吸収をしている。山は、いまだ生きている火山だが、完全に静まっている。おそらく、純度が高いため吸収しやすいのだろう』
シルフィードが現状を伝える。
「では、こちらも。東哉の神体時の記憶ですが、過去、東哉はあの蛇と戦ったことがあるそうです。どちらも火神のため、対立し、戦いになりました。結果、東
哉は勝ちはしました。その後、私たちの先祖が来て、東哉を祭っていた一族も、東哉の神体も滅んでしまいましたが。つまり、再びあの地、私たち船津の土地を
侵略するつもりでしょう。問題は、あの土の神です。あれが、どうやら蛇神を目覚めさせたようですが、あれの正体はわかりませんでした」
麻里が話をとめる。つまり、敵は2つ。東哉と戦った、蛇神。土を操る、仮面の神。
ほっておけば、敵は自ら来る。いくのならば、京都へ行く。
「戦う場所は、東京か、京都ということか。東京は、中枢機能があるから、避けたほうがいい。それに、来るということは、向こうも十分な力を手に入れた証拠
になる。まだ来ていない、いまがチャンスかもしれない」
紅は、全員へ言った。そう、東京は出来る限り、戦いは避ける場所だ。
「チームを分けたほうがいいかな。蛇神と、仮面の神。どうするかな」
「俺は、蛇神を叩くぜ。あいつが、本当に目覚めたら神の俺でしか戦えないしな」
東哉がいう。おそらく、麻里も、莉柘もついていくだろう。
「じゃあ、俺は仮面だな。借りを返さなきゃいけないし」
「あ、あたしも行くわよ!」
和麻、綾乃が言う。
「となると・・俺と茜ちゃん、琴葉さんが残るのか」
草薙の剣が、蛇神に有効なのだろうか。人間体に近い、仮面の方が戦いやすいが。
「どうするかな・・」
考えてると、不意に和麻が席を立った。
「和麻?」
シルフィードも辺りを警戒している。
「はあ・・紅、仮面のがこっちへ来ている。狙いはわからんが、とりあえず応戦したほうがいいな。蛇神は動いてないから、その3人は早く京都へいかせろ。あ
と、お前も来い。茜はそっちにつけて、琴葉と一緒に来るんだ。速攻で終わらせて、京都へ行く」
和麻、綾乃、琴葉、紅の4人ということか。
「そうだな。じゃあ、みんな動いてくれ。時間が、あまりないようだ。茜ちゃん、気をつけてね。そうだな・・三木矢と蒼さんにもでてもらうか」
蒼を、茜の方に回せば、なにかあったとき安心だ。紅はそう考え、携帯を鳴らした。
プルルルル。携帯が鳴り響く。誰からだろう、と思ってとる。液晶には、バカの名前が浮かんでいた。せっかくの休暇が、つぶれる予感がした。
「なんだ、紅」
いらいらを押さえ、黄泉三木矢は電話にでた。
『三木矢か、頼みがあるんだが』
「なんだ。金なら貸さんぞ」
『違う。ちょっと手伝ってほしいんだ。強いPCが相手でな。なにかおごるから、手伝ってくれ』
珍しい。あの貧乏暇なしなやつから、おごるとは。よほどなのだろうか。
「仕方ねえな・・じゃあ、今度昼飯おごれ」
『ああ。もちろんだ。・・中華でもいいか?』
「ああ、構わないが」
『そうか。じゃあ・・・・よし、今すぐ本部へ来てくれ』
「わかった」
電話を切り、着替える。鏡を見ると、金髪に染めている髪に、すこし黒い部分が増えていた。今日も元気に生えている。あのバカのおかげで、時々心配になるの
だ。
「じゃあ、いくか」
三木矢は軽い気持ちで外へでた。まさか、神と戦うことなどと露知らずに。
黄泉三木矢。17歳。鋭い視線に、鋭い鼻筋、鋭い口元。くすんだ金髪に染め抜かれている頭髪。その全身から漂っている、どこか皮肉気な雰囲気。紅とほぼ同
じ引き締まった身長と体重は、耐久性と保温性の高いスーツに包まれている。昼は高校生、夜はEMEのエージェント、それが三木矢だ。
「はい、蒼です。なんだ、紅くんじゃない」
『蒼さん、折り入ってお願いが』
「いいわよ。今度、なにかおごってね」
『・・はい。では、いますぐ本部へ』
「もう、せっかちなんだから。いいわ、出来る限り牛歩のように行ってあげるわ」
『せめて人間のスピードでお願いします』
ガチャン、と切れた。どうやら、神と戦うときが来たようだ。知られてはいないものの、今回の神の騒動、なにか組織が動いているようだ。EME長官として
は、出ることになると思っていた。
「さあ・・正体を見せてもらいましょうか」
巽蒼乃丞。
毅然とした、眉に、大きな双眸。すっきりとした鼻筋、引き締まった口元。完璧なまでの美貌の持ち主。つやのある黒髪を、真ん中で分けて流している。身の丈
は、175ある紅とほぼ変わらない。形のよさそうな胸、引き締まった腰、長い長い左右の足。どこからどう見てもモデル。その正体は、EMEの長官。それが
蒼だ。
あとがき
ついに、戦いの火蓋が落とされます。すこし、強引な進めだったかもしれませんが。
とりあえず、ようやくEMEから2キャラだせました。おまけに、新しいオリキャラ、風の精霊騎士、シルフィードです。(愛称は、フィーです。みなさんもそ
う呼んであげてください)騎士、というけど性別は男というわけではありません。
従う人物のイメージに体は構築されます。シルフィードは女性体です。
いつもは生真面目だけど、和麻に遊ばれたり、ときどきずれたことを言ったりという、キャラを目指します。イメージは、すてプリのゼフィリスを思ってくださ
い。なんとなく、もう1回り、角がとれた感じです。精霊騎士も3体いますが、登場させれるのか。
また、設定的に7か8の煉に出番が来るのか、など自分に課題が盛りだくさんです。
ここを、こうするといい、こうしたほうが、というのがあれば変更しますので、ビシバシといってください。ありがとうございました。