EMEwind第10話「風の刃」

シルフィードが目を閉じ、神経を研ぎ澄ます。

「フィー、どうだ?」

和麻が聞く。敵が来る方向を割り出しているのだ。シルフィード単体でも、かなりの調査能力がある。

『・・・南西から真直ぐにこちらへ向かっています。おそらく、私たちに気づいています』

「どうやら、よほど俺が気に入ったらしいな。まあ、あんだけ丁寧に接すれば当然か」

そう言う和麻に、全員が目線を集めた。

(こいつ・・あんだけやられたくせに)

綾乃はそう思いながら見ていた。

「おいおい、なんだその目は。まるで信じてないって目だな」

「あったりまえでしょ。そういうのは、勝った人がいうもんよ」

なにもつけず直接、負けた、と言うようなセリフである。

「まあ、今度はそうはいかないさ。守れるだけの、力がある」

『そうです。私がいる以上、主には怪我などさせません』

シルフィードが言う。この、積極的な言葉に綾乃はカチンときた。

「たかが精霊が、そこまでできると思わないけど?」

と皮肉気に言う。

『・・・それは、侮辱ですか』

シルフィードの言葉に、怒気が含まれる。

「そう?言っておくけど、和麻は強いわよ。その和麻が負けた相手、そんなの相手にするのに、戦ったことの無いあなたに言われたくないのよ」

和麻における、全幅の信頼。いつのころか、綾乃はそれをするようになった。

その和麻が負けた相手に、余裕などかましてほしくない。

「ああ。そうだぞ、フィー。でも、俺とお前が一緒にやれば、勝てる。怪我はするかもしれんが、綾乃がいる。それに・・みんなもな」

綾乃が顔を赤くする。親友の紅より、自分の名をだしてくれたことに嬉しかった。

「和麻、もうそろそろか?」

「こっちは、早く終わらして帰りたいんだが」

紅が聞き、三木矢がつぶやく。

「ああ、俺もだ。お、どうやらニーズには答えてくれるみたいだな」

『来ます!』

フィーが叫ぶ。直後、砂煙が上がった。

まるで、爆発するような衝撃。その砂が渦巻き、嵐にかわる。

「おお、よほど急ぎの用があるみたいだな」

和麻が右手をあげた。

「でもな。ゆっくりしてもらうぜ、永遠にな」

『主、戦闘形態への変化をしてもよろしいですか?』

「ああ。いくぜ、フィー」

シルフィードと和麻が目線を合わせる。そして、シルフィードが詠う。

―あやかなる夜へ 伽つむぎ まなふたに栄ゆる おもしめ 我といましと 息の緒に あいかう性の 契り乞ん あからしま風を 纏たり 甘ない相具す う きかわさん―

直後。2人を光が包んだ。しかし、砂嵐からでてくる、それを見た綾乃は叫んだ。

「・・和麻!?危ない!」

砂嵐から、仮面の神が飛び出す。そして、剣を振り下ろした。

「グオオオウ!」

衝撃で、地面が裂ける。でも、たったひとつ。ガキンという音が鳴った。

「いっただろう?俺は負けないんだよ、もう」

和麻の声が響く。風が吹き、煙が晴れる。そこには、自分の右手を包むように、身につけられた蒼い剣を持つ、和麻の姿があった。

「こいつの刃は、風のように鋭く、疾い。鋼鉄だろうと、紙のように切り裂くことができる。いくぜ」

和麻が、右手を振るう。見えないスピードで振られた刃は、仮面の神の剣を、あっさりと切り裂いてしまった。

「・・すごい・・」

綾乃はつぶやく。和麻の圧倒的な力に。速さ、力、どれもすさまじい。

そして、和麻を包む、風の精霊たち。彼らは、守るように傍にいる。完全に、和麻を認めているのだ。精霊に祝福された人間は、精霊に見放されることはない。

「いま、楽にしてやる。フィー、やるぞ」

『はい、主。いきます』

和麻と、剣から響くフィーの声が重なる。

―集わり 強り奔らせ 白白明けと 朧なりに いめ通わん―

「西風の弦!!」

正面、仮面の神へと竜巻が放たれた。砂をあげて盾にするが、竜巻が砂を掻き分け、進んでいく。そして、ついに神を飲み込んだ。

「グアオオウ!」

ユルサン、ユルサンゾ、ニンゲンメ!頭に直接響く声。精神感応だ。

「ああ、俺たちは、許されないことをしたさ。でもな、人間ってのは、それで終わりじゃないんだ。何度でも立ち上がって、許してもらうまで頭を下げる。でき ずに、逃げるのは誰だってできる。そこから、立ち上がって、もがいてでも、できることをやるんだ!後悔しないように、選んだものを守るために!」

風が勢いを増す。そして、神を完全に飲み込んだ。

「送ってやる、迷わずにいけよ。あるべき世界へ」

和麻の、蒼い瞳が開かれる。精霊王の力を使う証拠。風に先導され、神の魂はあるべき場所へ帰っていった。パリン。落ちていた、仮面が、割れた。

「終わった、の?」

「・・いや、まだだ。あの神を、そそのかした奴がいる」

そう、眠っていた、あの神を起こし、今回の事件を引き起こした犯人。

「俺から、逃げられると思ってるのか?」

上空をにらみつける。すると。

「ハハハ、さすが、契約者だね。恐れいったよ」

空気がゆがみ、金髪の少年が姿を現した。近くの、小高い丘へと立つ。

「やっぱり、てめえか。ミハイル・ハーレイ」

「ふふ、わかってたのか。おもしろいかったよ、神様だっていうのに、あんな簡単に堕ちるなんて。おかげで、僕の望みどおりだ」

堕天使、ミハイル。それが、ミハイルの通り名だ。どんなものでも、堕とし、自分の手ごまのように扱う。一種の、催眠術に近いものがある。心のスキをつき、 容赦なく対象の心を蝕む。しかし、その姿は天使のよう。そこからついたあだ名だ。

「ミハイルって、あの堕天使ミハイルか!」

三木矢が言う。紅も、少なからず反応している。

「ああ。で、言うんだろう?」

ミハイルへ聞く。

「そうだね。星と叡智の名の下に、我が怨敵、八神和麻を滅ぼさん!」

高らかに宣言した。

「くだらねえな、いつ聞いても」

和麻がつぶやく。風があらぶり、ミハイルを襲おうとする。忘れたい記憶がよみがえる。

眠る翠鈴。笑う男。そして、辺りにいる術者。

「お前らを、俺は許さない。正義、なんかじゃないさ。ただ、むかつくんだよ」

『主、冷静にお願いします。あせりと怒りは、マイナスにしか動きません』

「ああ。わかってる。フィー、力を貸してくれ」

『おおせのままに』

剣を包む、蒼い輝きが強くなる。

「ふうん。精霊騎士かい?でも・・1つで勝てると思うのかな?」

ミハイルが言った瞬間、2つの輝きに彼の姿が包まれた。

左腕に黄金の輝きが。両肩を水色の輝きが。

「精霊騎士1体で、2体の精霊騎士に勝てるものなら、勝ってみな」

左腕に強固な盾を、両肩から彼を包むように纏わる水の衣をなびかせ、彼は言う。

「・・・お前ら、下がってろ」

和麻は後ろ向かずに言った。誰もが従った。この場は、すでに踏み込めない領域なのだ。

「お前がなにを使おうと、しったことじゃない。ただ、殺すだけだ」

ミハイルを強くにらみつける。

「そうかい?でも、僕だって君のことを・・忘れることなんてなかったよ」

少年から変わらぬ瞳。しかし、そこには強烈な殺意がこめられていた。

「いつだって!僕は君を忘れなかった!僕の「姉さん」を奪った貴様から、大切なものを奪い、堕ちた貴様を叩き潰すその日まで、僕は忘れない!」

―吾を軋ますな 知らしめすとだり 千千に物こそ 狂おしけれ 治す最手 吾にこけ入たり 玉の緒よ 絶えねば絶えんー

ミハイルが詠い、水の衣が共鳴する。衣は、鋭利な刃物のごとき形へ変わる。

そして、刃物となった衣がひるがえされる。

「未羅の斬!」

衝撃波が地面を震わす。ひび割れ、地割れから水が噴出す。この水すら、ミハイルの統治下にあるのだ。水が主に従い、敵、和麻へと襲い掛かる。

「フィー!払いのけるぞ!」

『了解』

風が吹き、水を飛ばし、衝撃波の方向をずらす。

「今度はこっちの番だぜ!」

―集わり 強り奔らせ 白白明けと 朧なりに いめ通わん―

「西風の弦!!」

竜巻が、ミハイルを襲う。

「ふん。アーク、やるよ」

―うたがたも おおとに守らう おおとに巌の 祈ぎ懸くる 恋う闇 うらこかりしらう 祝くと詠むれば えびこに賊なるは けし飛まらんー

竜巻の前に、地面が盛り上がり、いくつもの土の円盤をつくりだす。その数、12枚。

宙に浮くそれが集まり、竜巻を防ぎきった。

「掩護巌壁。これで僕に攻撃は・・届かない」

12枚の円盤が壁となり、ミハイルを和麻の視界からさえぎる。

「和麻。どうやら君は、まだ精霊騎士を使いこなせないみたいだね。おそらく、技もほとんど使えないんだろう?違うかい?」

「お前程度には、これぐらいで十分なんだよ」

和麻が使える技は、2つ。ひとつは、西風の弦。もうひとつは守りの技だ。

ミハイルは自分の予想が正しいと理解し、ニヤリと笑った。

「そうかい。なら・・出させてあげる」

円盤が集まり、柱となって和麻を襲う。

「くそ!フィー、どうにかならないか!?」

地面をえぐるように突き刺さった柱が、ばらけ、円盤へ戻る。円盤が和麻を牽制するように、辺りを囲む。

「君は、その場所からほとんど動けない。なにがあっても、だ」

そして、ミハイルは視線をずらした。見守っていた、綾乃たちへ。

「和麻。そこで見ているといい。命が奪われる瞬間を」

フワリ、と地面へ降り立つ。

「さあ・・カーニバルの始まりだ」

全員が身構える。目の前の敵、ミハイルの強さを目にした今、手は抜けない。

紅は、草薙の剣の柄を、強く握り締めた。

「そんなに身構えなくてもいいよ。最初は、自己紹介といこうか。僕の名は、ミハイル・ハーレイ。そして」

盾が姿を変え、幼い少女へと姿を変える。

『あたしはアークレイス。あたしが居る限り、ミハイルには手を触れさせないよ!』

金髪のポニーテールを振り回し、アークレイスが叫ぶ。

「彼女は、地の精霊騎士だよ。防御系の技が、彼女の強みさ。そして、こっちが」

水の衣が離れ、人の姿を形成する。その姿は、成人したくらいの体をもつ、透き通るような水色の髪を腰までのばした女性だった。

『リヴァインティン。水の精霊騎士・・です。ミハイル・・様に使えています』

どこか、いいにくそうにつぶやいた。

「アーク、そしてティン。彼女らが僕の武器さ。君たちは、和麻の精霊騎士しか知らないんだろう?僕が見せてあげるよ、本当の力を」

アークが盾に戻り、ティンも衣へと姿を戻した。

「来ていいよ。早くしないと・・僕がまとめて倒しちゃうよ」

地面が盛り上がり、円盤が作り始められた。しかし、それを瞬く間に焼き尽くす炎。

「さっきから聞いてれば、えらそうに。和麻も、あたしたちも、あんたに負けない。和麻は、あんなちゃちな仕掛け、さっさと壊して出てくるわよ。それまで は、あたしたちが相手をしてあげる」

炎雷覇を構え、高らかに宣言する。

「そうだな。俺たちだって、多少はおもしろいぜ」

三木矢の左手に、いつのまにか彼の愛銃、コルトウッズマンが握られていた。

「私たちは負けません」

琴葉の願いに答え、水の精霊が歓喜の声をあげる。

「俺たちは負けない。倒されるのは・・お前だ」

草薙の剣の矛先をミハイルにあわせ、紅は言った。

「そうかい。じゃあ・・いこうか」


あとがき

 精霊騎士、本領発揮です。技や、呪文は「エレメンタルジェネレイド」という、作品からとらせてもらいました。いくつか新キャラ、新設定がでたので、整理 します。

 精霊騎士・・高度な精霊により、体を作っている。戦闘体型として、武器の形へ変わることができる。武器へ変わる際、おおがかりな技を放つ際、唄を詠う必 要がある。

契約条件は、精霊騎士自体に会い、精霊騎士を納得させ、契約を行う。(武力行使含む)

または、精霊王直々に与えられることもある。精霊王との契約者の監視役としての役目もあり、近くに思念体としているらしい。和麻は出会いを後者で満たし、 精霊に好かれるようになったため、精霊騎士シルフィードが使えるようになった。


シルフィード

風の精霊騎士と言われ、精霊王の意思を伝える代行者です。

本体は、思念体で、体は高位の風の精霊からつくりだしている。そのため、姿を変えることも可能。和麻は、自分の右手に纏う剣として使います。しかし、精霊 騎士を使いこなすには多くの条件がいります。1つ、精霊騎士がその人物を信頼していること。

2つ、大掛かりな技を出す際には、呪文を言う必要がある。3つ、術の性能を、引き出すためには心がつながる、シンクロ状態に近いほど技の威力は増し、シン クロからかけはなれるほど、威力が落ちてしまう。などが主なものです。

現在の技(第1章時)

 南風の弦(ノトスコード)。小規模に圧縮した竜巻を正面からぶつける技。

 東風の鐶(エウロスループ)。鐶を描く風の刃が真上に向かって吹き荒れ、対象を上空へ巻き上げ、刃で切り裂く技。

 西風の孤(メルスアーク)。いくつもの風を放ち続ける技。弧を描くなど、方向も自由。

 北風の剣(ブレアソード)。集める限りの全ての風に破邪の力をこめ、大きな刃にする。蒼破斬以上の力を持ち、全てを切り裂く。
 
アークレイス

地の精霊騎士。戦闘体型は盾と、防御タイプ。しかし、土を操れるため、攻撃もトリッキーなものが可能。多くは土の円盤を操る技である。集めて柱に、散らせ てブーメランに、守って盾にと多様性が強い。しかし、攻撃型でないため、攻撃力はいまいち。

掩護巌壁は、アークに円盤の操作をゆだね、自動の盾となす技である。

 
リヴァイティン

水の精霊騎士。戦闘体型は衣で、マントのように体にまとわりつく。攻撃時は、衣が鋭くなり、刃物となる。防御時は、大きく広がり、包み込むような形にな る。他、攻撃の仕方によって形を変える、無の形の武器。未羅の剣は、単純な衝撃波。しかし、特殊な条件で様々な能力が付加する。本当に自分が認めた相手に のみ、全てを捧げる。


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