EMEwind第12話「精霊に選ばれしもの」
「八神・・和麻!」
リヴァイティンを守るように、立ちふさがる和麻と紅。シルフィードは解除され、人間体へと戻った。
「おいおい、そんなにうれしそうな顔すんなよ」
とても怒りに狂った顔のミハイルに、軽いジャブ。
その間に、紅がリヴァイティンを抱える。
『あ・・』
「悪い。君をさらわせてもらうよ」
そう告げ、和麻をチラリと見る。大丈夫だ、と手を振る和麻を見て、笑みを浮かべる。
「いくよ」
AAを使い、すばやく戦闘地帯から抜け出す。和麻に、大きく信頼をこめた視線を送りながら。
「やっぱり・・僕の邪魔をするんだな」
憎しみを宿した目で、和麻を睨み付ける。
「そうだな。お前の目的は知らん。でも、俺はお前たちを許さない」
日本に帰る前、翠鈴に出会った香港。そして、その以前に住んでいたイギリス。そこから、すでに今日の戦いは決まっていたのかもしれない。もし、和麻が香港
へ向かわなければ。
今回の事件はなかったのかもしれない。
「ふ・・目的、か。僕の目的は・・君を殺すことだよ」
「そりゃご苦労様。ここまでやってくれてありがとな」
「確かに、感謝してもらいたいね。無残な死に様をさらさなくてすむんだから。僕の姉さんを殺したお前が、姉さんより綺麗に死ねるなんて・・幸せ以外のなに
ものでもない」
拳を握る手が、白くなるまでミハイルは怒りを抑える。
「姉、か。クリスは、自分で望んだんだ。あの死に方を。なぜ、わからない?」
ミハイルの姉、クリス・ハーレイ。ミハイルとは異母兄弟で、水色の目をもつ、美女だった。ある事件で、彼女は帰れぬものになり、それを和麻が楽にしたので
ある。しかし、その遺体は無残なものだった。あの葬式の日から、ミハイルの瞳に映る和麻は憎しみの対象でしかないのだ。兄、となるはずだった和麻が。
「姉さんは、なんでお前なんかに・・全てを捧げたんだろう。いや、違う。お前が強引に奪ったんだ!身も、心も、髪の毛1本でさえ、僕の元には、姉さんがい
たと示せるものはこなかった。写真も、家も、全てを失った・・姉さんに関するものは!」
「・・俺は・・」
和麻は、遠い空を眺める。こんな色だった。澄んだ水色で、全てを包み込んでくれる目をしていた。最後まで。自分が、消える寸前まで・・!
「俺は・・クリスを忘れたことはない。俺に力がなかったから。俺を救ってくれたあいつに、俺はなにもできなかった!だから。翠鈴は守る。俺は、選ぶために
力を手に入れたんじゃねえ!二度と失わない。誰にも奪わせない。俺はそう決めたんだ!」
和麻が、初めて愛した女性。愛する心を、教えてくれた女性。初めて、ひとつになった女性。彼女はもういない。だから、和麻は守るのだ。自分が失えない人た
ちを!
「フィー!」
『了解。いきましょう、マスター』
クリスと同じ、水色の瞳が応える。体を作る風の精霊を分解し、和麻の腕を包むように再構築される。美しく、神々しい、一振りの剣として。
「来いよ、ミハイル。決着をつけようぜ」
「望むところだ!いくよ・・義兄さん」
義兄弟となるはずだった、2人は戦う。愛するものの考えを、示すために。
「七星剣!」
天空から振り下ろされる、7つの風の刃。シルフィードの力により、効率よく集まった高レベルの精霊たち。それにより、スピードも、威力も上がっている。
しかし、その全てを円盤がさえぎる。
「忘れたのかい!?僕にはまだ、自動防御が効いてるんだよ!」
盾が光り、地面が反応する。盛り上がり、小型の人形がつくられる。
「いけ!マイン・ゴーレム!」
「あいかわらず、土いじりが好きだな」
近づくゴーレムを、剣で切り裂く。しかし、その瞬間。ドン!とゴーレムが爆発した。
「ち!自爆かよ」
急いで後退したため、ダメージは少ない。しかし、現段階であと5体。それが、いつのまにか和麻を囲んでいる。
「さあ、どうやって防ぐ?」
ミハイルの命令に従い、ゴーレム達はじりじりと近づいてくる。
「そうだな。こうするさ」
―昨夜覚し真人に 何くれとも触ればい かを棚んば かち落えんー
風が、和麻を包む。それは全てを受け流す鎧となって、和麻を守る。
「艮の鎧!」
そして、ミハイルめがけて駆けてくる。
「馬鹿か!?マイン・ゴーレム!」
マイン・ゴーレムが集まり、ミハイルを守る。しかし、和麻は臆することなく、ゴーレムたちの隙間へ体を滑り込ませる。
「爆死したいのか?なら・・望みどおり!」
和麻の目の前のマイン・ゴーレムが1機、爆発する。しかし、その爆風すらも退けて。
和麻は躍り出た!
「な!?く、まだだ!」
2機が和麻を挟み込み、爆発する。
「死んだか?」
立ち上る煙。しかし、それはなにかに押されるように形を変える。
「く・・腐っても最強の風術師か!」
マインゴーレムを煙の方へ向かわせる。そして、爆発。また煙があがる。
しかし、その煙が突然、形を変える。ミハイルを包むように集まってきたのだ。
煙は風に動かされ、皮肉にもミハイルの視界を完全に隠した。
「どこから・・くる・・」
集中する。ただひとつ、風の音に耳を澄ます。そして、ヒュン、というかすかな音。
「そこかぁ!」
円盤を集め、柱として叩きつける。人影のようなものが見えた。どうやら避けたようだが、ここから円盤に戻せば・・
「甘いんだよ、お前は!」
突如、背後から声。振り返ると、そこには和麻の姿が。
「な!?」
「食らえ!風弾!」
右手に圧縮した、風の弾を放つ。思いもしない方向からの攻撃。ミハイルには避けることはできそうもなかった。でも、防ぐことなら?
『アッハハー!あたしがいるんだよん!』
出番がきたことに、歓喜の声をあげ、風を防ぐアーク。
『忘れてたの?バカだねー』
『いや。バカなのはあなたの方です』
風が、ミハイルを襲う。しかし、和麻が放ったものではない。それは、先ほどミハイルが間違った人影が放ったもの。
「気づかなかったか?俺の右手が・・空のことに」
右手にあった、剣が消えている。そう、和麻は煙を巻きちらしたときにシルフィードを解
除したのである。そして、お互いがおとりになりあい、一撃を与えたのだ。
『完璧と思える自動防御ですが・・アーク。あなたの高慢な性格がナンセンスです』
『こ、この・・!あいかわらず、すました顔だね!むかつくほどに!』
怒りに震えるアーク。さらに、精霊騎士のなかで毒舌に長けているシルフィードの攻撃が続く。
『自動防御、とはいいますが。本当は、ただ単にあなたが判断しているだけです。だから、騙せますし、不意をつけます。名前を変えたらどうですか?なんとな
く防御、とかに』
親も親なら、子も子である。
『もう一度いいます。そんな、なんとなく防御では・・私は止めれません。あなたが気づくより速く、気づいたときにはその防御を抜けます。いえ、単細胞なあ
なたでは、気づかないでしょうが』
クスリ、と笑う。口げんかでは、敵に回したくないタッグである。
「そうだぞ、ミハイル。お前もそんな、うっかりミスっちゃう奴を使ってると、誤解されるぞ。今でもシスコンだが、それにドジっこ好きも加わると、戻ってこ
れないぞ」
「だ、だまれ!誰がシスコンだ!姉さんには・・」
激怒し、反応するミハイル。
「おーおー、聞きましたか奥さん?この子は3歩も歩かずに全てを忘れてしまう、スーパー鳥頭ですよ?あの年で、姉さん、なんて言ってるのがおかしいですよ
ね」
普通、13ぐらいになると姉さん、なんて使わないだろう。少なくても、使っている知り合いはいない。
「それともあれか?本当は、血がつながっていなくて。誘拐しにいったはずなのに、恋しちゃったとかいう話か?で、クリスは催眠していたと」
「ふざけるな!なぜ僕が、姉さんを催眠しなければならない!それに・・してたらお前なんぞと関係は持たせないぞ!」
人差し指で、ドーン、という効果音とともに宣言する。
「おお、それもそうだな。で、催眠してたら自分と関係を・・」
「するか!」
叫び続けるミハイル。
『あいかわらず、知性が足りてませんね。その、無駄に大きい胸を、知性に使ったほうがいいんじゃないですか?』
『う、うるさい!お前みたいな、りんご半分程度にいわれたくないわ!』
『あら、勝手に人の胸の大きさを考えるなんて・・いやらしい』
ネチネチと責めるシルフィード。
「なるほど、つまりお前はシスコンじゃないと言いたいのか?」
「当たり前だ!僕は一般人だぞ!」
「ちなみに、一般人なんて言葉、秋葉系の、そういった世界の人しか使わないって知ってるか?」
「うわあああ!」
精神攻撃ならお手の物。風の精霊王直属の、契約者と精霊騎士のコンビ。
本当に、この2人でいいのかと疑いたくなる。
「もう、言葉もないわね」
「ああ」
「ですね」
嫌味らしく、呼霊法で声を全員に届かせていた。それを聞いての、感想だ。
「まあ、これなら綾乃ちゃんがいつもあしらわれるのも、納得ですわね」
「・・なんか、癪にさわる言い方ね」
琴葉のセリフに、いまいち納得できない綾乃。
「まあ、効いてるみたいだが・・少し、まずくねえか?」
三木矢の不安。それはなにか。
「なにがですか?」
「いや・・あそこまで馬鹿にされたら。さすがにキレるぞ」
「「あ」」
納得である。もし、怒りに狂って暴走されたら・・たまったもんじゃない。
「だ、大丈夫なの!?」
「まあ、やたらめったら攻撃するだろうから・・この辺は荒地だな」
三木矢の冷静な予想。
「や、やめさせないとまずくない!?」
『大丈夫です』
綾乃の不安に、応えるような声が響く。
「あ、あんたは」
振り返ると、そこには紅と、精霊騎士リヴァイティンがいた。
『もし、怒りに狂えば、精霊騎士と持ち主の意思がかみあいません。そうすれば、力を使うことも出来ないでしょう。常に心を落ち着かせる。これが、私たちを
使うコツです』
第3者としてでしかないセリフに、すこし綾乃は引っかかった。
「あんた、さっきまであのミハイルのだったのよね。なのに、そんな風にのほほんと解説してていいの?」
まあ、だからと言って、攻撃されたらたまらないが。
『はい、すでに私は捨てられた身。不必要に戦いに入ったりするのは好みません。私たちは、本来戦うものではありません。主を守りたい、その一心で戦うので
すから・・』
すこし、寂しそうに目を伏せる。
「リヴァイティン・・」
紅が心配そうに声をかける。
『・・紅、さま』
あれ・・・え?紅、さま?ちょ、ちょっともしかして・・
綾乃は嫌な予感がした。まさか、まさか・・
『紅さま、和麻さんの力になりたいですか?』
「・・ああ。でも、あんなところに・・助けになんか・・」
精霊騎士の対決は、すでに踏み込めない領域の戦いだ。入るには、精霊騎士を使うしかない。そして、その術となる精霊騎士が、今、1体あまっている。
『もし、紅さまが選ぶのなら・・私はあなたの力になります。この身を、この心を・・あなたに捧げます。選んでください、私を・・求めるのか、拒むのか』
や、やっぱり。綾乃は頭を抱えた。また、周囲に人じゃないものができそうだ。
「俺は・・昔、自分の力でやってはいけないことをした。君の力まで・・制御できる自信はない。でも・・俺は和麻を助けたい。力を貸してくれ、リヴァイティ
ン。俺に、戦う力を」
『はい、マスター』
決着をつけるため、更なる力が加わる。
あとがき
今回、リヴァイティンと紅が力を合わせますが・・実は、リヴァイティンの持ち主は最終的に紅ではないんです。紅とリヴァイティンだと、なんとなく合わない
ですし。短時間だけだけど、そんな彼らの戦いを、次回、楽しんでいただけたら幸いです。