EMEwind第13話「その力、清らかで」

風がうなり、大地がほえる。天変地異ではない。これは、人間同士の戦いなのだ。

「フィー!」

和麻がシルフィードへ呼びかける。

『はい、いきましょう、主』

―引き合い ほのかな光なれ 月光のごとく輝き 道をしめさんー

「南風の弧!」

導かれた風が、刃となって踊る。シンクロを深めることで、2つの魂は響きあう。

その響きが、唄になり、更なる力を与えるのだ。

「そんなもの・・!アーク!」

『わかってるよ!あいつら、散々なめてくれちゃって・・もう許さないんだから!』

―僕が台 けらいに心足らい 僕が正真の音柄 さしぐみに気取らんを 心の檀うたく健気に 確か支うたしー

キィィンと、甲高い音がなる。アーク力により、地面や石が本来もっている音の反射率を極限まで上げ、すさまじい高音にまで引き上げているのである。

それは、近ければ近いほどダメージが高い。

「ち・・頭が・・」

『・・主、風で音の遮断をします・・』

シルフィードが風の精霊に音の遮断を頼む。完全に聴力を失うわけにはいかないので、普通に聞こえるようにする。しかし、それより早く、音が静まる。

「音波の初弦!」

高めた音を凝縮し、一気に開放する。音は衝撃波になり、和麻を襲う。

「ぐ・・やるじゃねえの・・」

体自体、内部にまで及ぶ攻撃。口の中で鉄の味がする。

「トッリキーな攻撃だな・・でも、もう効かないぜ」

音は、空気を伝わる。その空気を操れる風術士の和麻には音の攻撃は無意味だ。

「そうかな?―僕が台・・」

「フィー!」

音を遮断する。唄自体が攻撃だが、もう意味が無い。

「けらいに心足らい 僕が正真の音柄 さしぐみに気取らんを 心の檀うたく健気に 確か支うたしー 残念だね、音が伝わるのは風だけじゃないんだよ」

土柱を立たせ、そこに手を添える。

「音波の初弦」

足元から、衝撃が伝わる。

「やば・・」

音は、なにも空気だけを伝わるのではない。石などの振動でも伝わるのだ。そして、骨からも。

「地面にたってる時点で・・君は不利なんだよ。なぜなら・・ここは僕の領域だから」

「それはどうかな?」

地面から、水が吹き出る。和麻に伝わる音も、かなり小さくなり、消えた。

「地面にあるのは、土だけじゃない」

『私の力・・水もあります』

水の衣を纏った紅が、参戦したのだ。

「リヴァイティン・・!裏切ったのか!?」

ミハイルが驚く。

「違うな・・お前が裏切ったんだ」

和麻が告げる。

「く・・まだだ!」

盾を装備している左手を地面にそえる。

「グランソード、大地の剣!」

盾に絡むように、土が集まって形をつくる。それは、明確に剣の形に変わった。

「はああ!」

地面に剣をつきさす。より強く、地面に呼びかけるために。

地面が盛り上がり、巨大な形をつくりあげる。

「竜、かよ・・」

それは、竜のような形になる。

「ストーン・ドラゴン・ラゴウ!僕の切り札だ!」

ラゴウの背に乗りあがり、和麻たちを見下ろす。

岩壁のような大きい鱗をもつ体。巧みに造形された顔。翼はないが、その分強力そうな爪を、4本の手足につけている。口元には、太い牙もある。

「いけ!ラゴウ!」

咆哮を上げ、襲い掛かる。

「いくぜ、フィー!今、俺たちの心に響いてる唄を、聞かせてやろうぜ!」

―汝貴とかいくめむすばん 地の終えのさやけし 天のはら 颯颯の声 汝貴とかいくめ紡がん などさは臆せにしか ゆめゆめ独り 武すなき かげ光 満ち らん 地の終えの

さやけし 天の海 颯颯の声 かくいめ合わさんー

「頼むぞ、ティン!」

―吾を軋ますな 知らしめすとだり 千千に物こそ 狂おしけれ 治す最手 吾にこけ入たり 玉の緒よ 絶えねば絶えんー

「東風の鐶!!」

「未羅の剣!」

輪を描くような風の斬撃と、衝撃波が放たれる。

ラゴウの胴体を切断し、上部を上へと飛ばした。下部は、叩きつけられた衝撃波で粉砕する。

「馬鹿な!」

ミハイルが叫ぶ。ラゴウを破壊するなんて!しかし!

「甘かったね!ラゴウの残骸と、僕の攻撃が残ってるんだよ!」

―僕が台 けらいに心足らい 僕が正真の音柄 さしぐみに気取らんを 心の檀うたく 健気に 確か支うたしー

「・・音は俺が消してやる、いいとこだけどやるよ、紅」

「ああ!」

―険しきさ波に記されん さろとも思わば 奔いの杯 わたつみの神の願い 大海の原に手向かせんー

「鎮天の捧!!」

衣の両端が延び、中心で絡み合い、矢のような形へ変わる。そこから、強烈な光が放たれる。ラゴウの残骸を飲み込み、ミハイルの攻撃とぶつかる。

「そんな・・そんな短い言葉でこれほどの威力を・・!それに、続けて2つの唄を・・」

「いや・・前から準備していたのさ。これは、かなり難しいんだ」

『最初に詠った唄の後半が、別の唄の前半になる唄。併唱唄といわれる・・私の最大の技です。ミハイル・・これで終わりです』

ついに、ミハイルの術を破った。

「ぐ・・まだ・・まだ終わっちゃいない!」

攻撃が迫る中、大きく叫ぶ。

「和麻!お前だけは・・許さない!」

「・・そうだな、やっぱり最後は・・俺がしめてやるよ!」

―汝貴とかいくめむすばん 地の終えのさやけし 天のはら 颯颯の声 汝貴とかいくめ紡がん などさは臆せにしか ゆめゆめ独り 武すなき かげ光 満ち らん 地の終えのさやけし 天の海 颯颯の声 かくいめ合わさんー

「東風の鐶!!」

上空のミハイルへ向け、上昇する風の斬撃。

「うおお!」

―もやくる闇に謀りて 瀬瀬のしめらにわな刺さんー

「呼号螺旋!」

石で作られた蛇が、すさまじい回転によって空気との摩擦で発生した雷を纏う。

雷と、竜巻の対決。

「姉さんのためにも・・負けられないんだ!」

ミハイルの叫び。和麻はほえる。それが、間違っていると信じているから。

「ふざけんな!そんなの、クリスは望んじゃいねえ!ずっとクリス、クリスって・・あいつのことをお前はどれだけ知ってるつもりだ!あいつは、そんなもの望 んじゃいない!お前はただ自分がむかつくことにクリスでごまかしてやっている、ガキなんだよ!」

そう、クリスはうらんでも、悲しんでもいない。死ぬ直前まで、体が自分のものじゃなくなる寸前まで、抱いていた和麻は知っている。温もりが消えるまで抱い ていた和麻は知っている。あの・・空色の瞳が映していたものを。



「和麻・・ごめん・・ね」

「謝るなよ・・お前は悪くない・・悪くないんだ・・」

焼け焦げた屋敷の中心で、雨を受けながら和麻は抱きしめた。

「和麻・・もっと・・もっと強く抱きしめて。私が、忘れないぐらいに・・記憶に焼きつくぐらいに・・あなたを忘れないように・・」

ジッと目を見つめて語る。

「ああ・・!ああ・・!クリス・・クリス・・!」

強引に唇を寄せ、冷たい唇に自分のものを重ねる。

「和麻・・ずっと・・ずっと・・好きなんだから。大好きなんだから・・」

「ああ、わかってる。わかってる!だから、あまりしゃべるな!」

もしかしたら、助けが間に合うかもしれない。助けられるかもしれない。

「いいよ・・和麻と・・もっと話したい」

「話せるさ!ずっと・・ずっと・・いつまでも」

そう応えると、軽く微笑んだ。

「ふふ・・プロポーズのつもり?もっと・・早く言ってくれなきゃ・・」

「間に合う!これから、ずっと二人で・・」

「うん・・うん・・。全部・・これからだったのに。和麻とのことも・・幸せなことは」

「クリス・・?」

クリスを抱く手から、体温が失われていく。

「私ね・・和麻のこと・・大好きだから。でも・・和麻はそうならないでね。女の子は・・別の子のことを話されたくないの。だから、和麻は私より綺麗な人 に・・会えたらいいね」

「クリス!」

「見て、和麻・・綺麗な青空だよ。こんな綺麗な世界の一部になれるんだから・・私、嬉しいよ。和麻と・・ずっといられるんだから・・」

「嫌だ・・嫌だよクリス。俺は・・お前と一緒に・・」

「だーめ。和麻は、私の分まで生きて、幸せになるの。これは約束だからね」

「クリス・・わかった、わかったよ・・」

「・・・うん。ねえ、和麻・・最後のお願い、聞いてもらっていい?」

「なんだ?」

「・・あのね・・」

空気の溶けて、聞こえないような声。でも、和麻はそれを聞くことができた。

和麻は、その願いに応えた。

「・・ありがとう、和麻。ありがとう・・・」

目が閉じられる。最後まで、和麻に抱かれて。そして・・最後まで青空を見ながら。

クリスは、世界の一部になった。

「クリス・・・!」

すでに手の中にない温もり。それを失くさぬように・・強く抱え込む。

目から、熱いものが流れ出る。ポツポツと、地面をぬらす雨に混ざって・・流れ出た。


青い空。それを、ミハイルは見ていた。

「和麻・・」

大地に横たわるミハイルが、声をあげる。

「なんだ?」

「姉さんは・・最後・・どんな顔だった?」

クリスの遺体は存在しない。どこにも。この、地球という星に組み込まれているのだ。

「・・笑ってたよ。幸せそうに・・」

「そうか・・どうしてかな?前、聞いたときは信じられなかったのに・・今は信じれる」

暖かい笑みを浮かべ、ミハイルは言う。

「ほう?それはどうしてだ?」

「いいだろう、別に・・ただ、なんとなくだよ」

戦いの中。そこで、少年は大切なものを得ることができた。

自分だけではない、自分以上に、自分の大切な人を想っている人間がいる。1人では無理でも・・2人なら大丈夫。

「和・・いや、義兄さん」

「よせよ、そんな言い方」

しゃれにもならん、と付け加える。

「ふふ、最後の嫌がらせさ。マリアに・・気をつけて」

「・・ああ。わかってる」

クリスの双子の姉。しかし、クリスは父に連れられ、ミハイルという兄弟を得てすごした。

対して、母親に連れられたマリアは・・孤独を生きた。自分と変わらぬ妹。それに恨みを持った。だから・・あの事件を起こした。

「僕は・・君と、マリアに復讐するつもりだった。でも・・無理みたいだ」

「ああ。俺に勝てなきゃ、あんな化け物に勝てるわけない」

「そうだね・・和麻。僕を逃がしてくれないかい?」

「・・・俺は、ずっと気絶してたから、なにも見てねえよ」

そういい、背を向けて歩き出した。

「まったく・・あの男は変わらないな」

苦笑を浮かべ、立ち上がる。

「アーク。お前は、僕に付いてきてくれるかい?」

呼びかけると、アークが人間態で現れる。

『いまさらなに言ってんの。あたしの契約したのは、あんたなんだから。どこまでも力になるよ。ずっとね』

「・・ありがとう。さあ、いこうか。アーク、和麻の精霊騎士に伝言を送っといて。あの邪神、ほっとくとまずいからね。どうにかしてもらおう」

『助けにいかないの?』

「あたりまえだ。僕がいかなくても、充分だよ。それに・・京都にはあの男がいるからね」

『そうね。でも、あいつも協力しないと思うわよ』

「そうだろうね。ま、あいつらが負けたときの保険さ」

『なるほど』

話しながら、2人は歩いていく。これからの、未来へと。



TO BE windパート

あとがき

はい、以上FIREパート(和麻メイン)の話でした。和麻の過去、断片的ですがどうだったでしょうか?しっかりした過去編、リクエストがあれば早めにやり たいですけど・・

すっごく長くなりそうなんで準備をしようと思います。

次回、堕天使さんが希望したあの子たちががんばります!戦力が乏しい中、どうなるのでしょうか? 和麻たちの参戦は間に合うのか。いろいろと楽しみにして ください。

ご感想、お待ちしております。 以上、サザンクロスでした。



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