EMEwind第14話「最後の精霊騎士」


火の精霊が喚起の声をあげる。もし、聞こえるのならすさまじい場所。そこの近くに、彼は住んでいた。

『ねえ、起きないと遅刻するよ。ねえ、真くんってば』

柔らかい声が、耳元でささやきかける。

「ん・・あと5分」

『もう!いつもそう言って遅刻するじゃない』

そういいながら、口を閉じる声の主。

「すう・・すう・・」

彼はまだ、まどろみの中。これが、彼にとって最悪の一日の幕開けだった。


「ここか」

「そのようですね」

東哉は、眼前にそびえる山を見つめた。

「神凪の聖域、ねえ。それなら、結界ぐらい張りなさいよ」

理柘がため息まじりに不満を漏らす。簡単に蛇神に侵入され、力をつけるのに利用されるとは、なんとも情けない話だ。

夕方の新幹線に揺られ、彼ら5人は京都へと集まった。連絡では、和麻たちはなんとか勝利を収め、至急こちらに向かう予定だった。

しかし、その提案を麻里は断った。中途半端に疲労されていては、戦力にならない。

偵察として、自分たちが調べておく。その間に休ませておく方が有効なためだ。

「まだ・・大丈夫なのでしょうか」

茜がそう洩らす。誰も、答えはわからない。もしかしたら、いきなり決戦かもしれない。

そんなリスクがあるにも関わらず、麻里は和麻たちを休ませることにしたのだ。

「わかりません。ですが、休んでもらうことは間違っていないと思います。もし、すでに力のほとんどを取り戻したのなら、

私たちだけでは適いません。それならば、危険を承知で準備を整えたほうがいいのです」

麻里に言い分に、茜は反論する気はない。むしろ肯定だ。

「ま、その時はその時ね。覚悟はしておきましょう」

途中で合流した、蒼が言う。

「はい」

とりあえず、調査のため山に向かう5人だった。直後。

「東哉、横から」

「ん?」

「自転車が」

「え?うわああぁ!」


「どちくしょう!遅刻かよ!」

朝の道路を、自転車で失踪する若者が一人。

「私は起こしましたよ。それでも、起きなかった真くんが、わるいんだからね」

「はいはい、俺が悪かったです。それでもな・・遅刻の原因は、俺だけじゃないぞ」

自分の自転車の後ろに乗る女子に答える。

「俺の大切なものを、朝から部屋ごと、放火した誰かさんのせいでな」

「あら。それって誰のことかしら」

白々しいことこの上ない。

「お前だ、お前!ったく・・お前みたいなのが部下って、お前の主の顔が見たいよ」

「鏡で見ればいいじゃない」

「それはなんだ?俺か、俺って言いたいのか!?」

「そうでしょ。私と契約したのは、あなた。となると、私の主は・・真くん」

ぎゅっと服を握り締めて言う。

「・・・まあいいか。優衣、しっかりつかまってろよ!」

「うん」

背中ごしに返事が来る。これが、俺たちの毎朝の風景。

俺の名前は、沖田真。別に、沖田総司の子孫じゃない。これといって、普通の高校生・・

だった。そう、この背中にしがみつく少女、結と会うまでは。

実は彼女、人間じゃない。本名はフレイユ・イレーザー。

信じられないけど、火の精霊というもので体を作っている、火の精霊騎士というらしい。

ある夏の日、俺たちは出会った。

山の中で輝く、赤い閃光。不思議に思い、光の下へ行くと、金髪の少年に襲われる優衣がいた。

それを助けようとして、俺は見事に・・ボコボコにされた。でも、それを助けてくれたのが優衣だった。

俺を主と認め、俺の力になってくれた。それ以降、俺たちは一緒にいるのだ。

おまけに、優衣は俺の親の働きで、戸籍をつくり、学校に通っている。

これにより、俺たちの毎日が作られているのだ。しかし突如、優衣が叫ぶ。

「・・真くん!前、前に人が!」

「うそ!?」

「え?うわああぁ!」

振り向いた青年が声をあげる。

「優衣!」

「まっかせて!」

優衣が体を精霊に分解し、再構築する。俺の左腕に腕輪として。俺の右手に薙刀として。

「はああ!」

柄を地面へ突きたて、自転車を一回転させる。横滑りの摩擦でタイヤが煙をあげる。

「止まれ!」

俺の願いが通じたのか、自転車は青年の前で停止した。

「す、すいません!急いでたもので・・」

「馬鹿やろう!どこ見てやがる!」

吠え立てる青年。とても、驚きまくった奴には見えない。

「落ち着きなさい、東哉。ところで・・」

和服の少女がとめる。ここ、京都でも私服で着物を着る人は少ないから、不思議に思う。

横を見ると、さらに不思議な光景が。黒のスーツが二人、巫女服が一人、全てが女性。

その内2人は、俺と同じくらいだろう。

『真くん、真くん!着物の子、なにか言いたいみたいだよ。聞いてあげなきゃ』

優衣に言われ、俺は目線を戻す。不思議なくらいに落ち着いた目が印象的だった。

「その薙刀・・少し、見せてもらえますか?」

まずい。多分、きっと、おそらく。優衣の変身を見られた。

「そ、その急いでますから・・あは、あはは・・」

自転車を引いて去ろうといたが、ガキン、と止められる。青年が、俺の自転車の

タイヤを足で止めている。ご丁寧に、ブレーキまで。

「何ですか?そりゃ、こちらが悪いですけど・・ここまでされる必要はないと・・」

「精霊騎士、ですね。その薙刀」

「!?」

俺は、全身が凍りつくのを感じた。まさか、精霊騎士の存在を知っているなんて。

「その顔では、正解みたいですね。少し、お話があります」

俺たちは巻き込まれていく。とてつもない、事件へと。


「火の精霊騎士?」

ある病院の1室、シルフィードの話に和麻は疑問を持った。

『はい。私たち精霊騎士の中でも、最も高い戦闘能力を持つ精霊騎士。どうやら、

その契約者が京都にいるらしいです。アークから教えてもらいました』

属性は違っても、精霊同士。なんらかの通信手段があるのだろう。

「へえ、それでどうしたんだ?」

『もし、負けそうなら・・助けを求めろと』

「・・そんなに強いのか」

『ええ。どうやら、ミハイルは火の精霊騎士も得ようとしたらしいです。

しかし、それを邪魔した青年がいて、火の精霊騎士はその青年と、

契約を結び・・ミハイルを撃退した』

さすがの和麻も驚いた。あのミハイルを、契約したてで追い詰めるなんて。

『私たち精霊騎士に限らず、戦いは積み重ねが大切です。しかし、それを軽く凌駕する青年。

火の精霊騎士が、いくら強力でも普通の人間とでは無理です。かなりの才能を持った人なのでしょう。

おまけに、火の精霊騎士、フレイユ・イレーザーは滅多に契約などしません。

おそらく、初めてでしょうね。彼女は特別です。私たち精霊騎士は、人間体でも実態としての体を持ちません。

しかし、彼女は完全に実体化し、人間として生活ができます。それゆえ、正確な名前を持っています』

反則だな、和麻は正直そう思った。なんでもかんでも、火が優位な立場になる。

「そんな精霊騎士を使えるなんて・・確かに最強かもな」

『今なら契約してから、ほぼ3ヶ月だそうです。しかし、不思議なものです』

シルフィードが苦笑を浮かべる。

「なにがだ?」

『私たち、精霊騎士はあまり人間に力を貸しません。いつも、世界に現れるときはバラバラでした。

なのに・・今、全ての精霊騎士が契約者を持ち、世界に表れています』

「そうだな・・」

ミハイルのアースレイス。和麻のシルフィード。紅のリヴァイティン。

その男の、フレイユ・イレーザー。伝説が勢ぞろいだ。

「まあ、そういうこともあるだろ。・・どうした?」

自分を見つめるシルフィード。その視線に熱がこもっていた。

『私は・・主が最も優れた人だと思います。どの精霊騎士と、契約者にも・・負ける気はしません。主と一緒なら・・』

「当然だろ、フィー。お前は、最高のパートナーなんだから」

ガバッと抱き込んで言う。

『あ、主!や、やめてください・・』

「だめ。もう少しな」

髪をなでながら言う。

『ひゃ!そ、そこは・・だめです・・』

うなじの辺りが苦手らしい。

『はう・・』

なんとなく・・いけないことをしてる気がする。

「ねえ、和麻。なにをしているの?」

突如、病室に響く声。恐る恐る扉の方を見ると、天使がいた。しかし正体は悪魔だ。

「翠・・鈴・・。そ、その、これはだな・・」

「ねえ、和麻?・・・教えてもらいましょうか」

「は・・はい・・」

すさまじい気迫に押され、和麻はおびえる子ウサギのようにビクビクするのだった。


「真くん・・」

「優衣。大丈夫、いざとなったらどうにかする」

「・・うん」

人間体に戻した優衣とともに、集団と同じテーブルについた。適当な喫茶店で、

話をしようとの提案を受けてのことだ。

「さて、まずはお名前を聞かせてもらえますか?」

「・・先に、そっちが名乗るべきじゃないか?」

ここで、素直に言ったらペースを握られる。

「そうですね。私は、船津麻里といいます。今、私たちはある事件の調査をしています」

「そうかい。俺は、沖田真。こっちは優衣」

「よろしくお願いします」

丁寧に頭を下げる優衣。必要ないのに、と思ってしまう。

「さて、本題に参りましょう。彼女は、精霊騎士ですね?」

「・・ああ。火の精霊騎士だ。でも、それがなんだっていうんだ?

まさか・・狙ってるんじゃないだろうな?」

強くにらみつける。しかし、涼しげにその視線をそらして言葉を続ける。

「いえ。精霊騎士というものを、所持している人が身近にいるものですから」

「ふうん・・金髪か?」

「いえ、黒髪です。ここで、伝えておきます。いま、この世界には全ての精霊騎士が契約をして、存在しています」

優衣の顔が驚愕に染まる。

「そんな・・アークだけじゃなく、ティンや、フィーまで?なにが・・起こってるの?」

「わかりません。ですが、これらの精霊騎士が、いまある事件に関わりがあります」

話が読めてきた。

「その事件が、あんたたちの調査してる事件、ってことか。それで?」

「いえ、話はそれだけです。私たちの敵は、火の属性です。

もしかしたら、あなたの元に現れる可能性があるので、注意を促そうと思いまして」

少し、拍子抜けだった。協力しろ、というのではないかと思ったが。

「そうか・・ありがとよ」

さあ、これで帰れる。そう思ったが、なにかを忘れている。

「真くん・・」

優衣が送る、妙に潤んだ、なにかをねだる目。まさか、もしかして。

「私たちも・・手伝わない?」

やっぱりだ。この、おせっかいというもので精神を構築しているような存在。

その優衣に、こんな話をだせば、尻尾を振って飛びつくのは目に見えて明らかだった。

「ゆ、優衣?あの菜、俺たちは関係ないんだぞ。だから、ここは見なかったことにして・・」

「真くん!」

「う・・」

やめてくれ。俺に、そんな捨てられた子犬のような目を向けないでくれ。

「お願い・・力を貸して」

「うう・・」

正直、嫌だしめんどくさい。おまけに、安全じゃないに決まっている。

そんなものに、首をつっこまなければ・・

「ねえ」

いけないのか?

「だめなの?」

ならないのか?

「ご主人さま・・」

決定事項なのか!?おまけに、辺りの普通の客まで俺を見てるし。

耳をすませ、主婦たちの声を聞く。

『あの子、女の子のお願い断るみたいね』

『最近の子は、人を使い捨てにするわね』

『おまけに、ご主人さま、だって。聞きました?』

うわあ!いつのまにか危険信号がレッドゾーン!やばい、これはやばい。

このままでは俺は、軽い男大賞受賞になっちまう。石田純一なんて目じゃねえ。

ギャルゲー主人公も土下座もの。アイム・チャンピオーン!

だめだだめだそんなこと!やってはならぬ、ああ、なるぬぞ!

『優衣!・・俺が、お前を裏切ると思うのか?」

「真くん・・」

ああ、俺ってば貧乏くじ引きまくり。

「ふふ・・」

そして机の向こうの女性は含み笑い。もう、どうにでもしてくれ・・


あとがき

はい、不幸な最後の精霊騎士の契約者、沖田真くんの登場です。

優衣、とは真がつけた名前で、その辺りのエピソードはちょこちょこと。

完全オリジナル版の主人公が出てきて、スパロボみたいなこの作品。

上手にバランスをとりながら、書いていきたいとおもいます。

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