EMEwind第15話「最悪の灯」


朱色の光が、夜を照らす。爆発するように、業火のごとく燃え上げる。

かと思えば、閃光花火のようにおとなしくもなる。

「ふう・・きりが無い」

『そうだね・・結構、疲れたかも』

薙刀となっている優衣が言う。真たちは、麻里たちと別れた当日、夜中にいきなり怪物(眷族)に襲われたのである。

誘い込まれるように、山中へ入らされ、四方に警戒を続けている。

「これが・・起こっている事件か」

『うん・・それに、この妖怪・・火の属性だよ』

「はあ・・お前の主は、なにやってんのかね」

『な・・こ、これは私の仲間じゃないよ!こんなグロテクスな仲間、いたら死にます!』

適当に相槌を打って、考える。おそらく、こいつらは俺じゃなく、優衣が目当てだ。

火の精霊騎士、その存在自体が最高峰の炎だ。こいつらにとっては、最高の獲物だろう。

『もう、聞いてる?真くんはいつもそうやって人の話を・・』

「はいはい。あとで聞くよ。優衣、あと何匹いる?」

小言だけで、3時間話したことがある優衣の話を無理やり打ち切る。

『・・・はあ。そうだね・・あと、5体かな』

5体。すでに、5体倒したから10体ほど差し向けられたわけだ。

「よし、一気にいくか。行くぜ」

『うん。いくよ』

―我誓いけり この力 外敵打ち滅ぼすためのもの 
この力 守るためのもの この力 誓いにかけて使わんー

「灼熱の突!」

薙刀に纏いつく、螺旋をたどる炎。それが、真直ぐに打ち放たれる。

木々を焼かず、敵のみを焼き尽くす炎。それが、精霊騎士最強の力である。

眷族たちは、悲鳴をあげて消滅した。

「ふう・・こんなもんか」

『そうだね・・良かった、これぐらいで倒れてくれて』

「・・そうだな」

最強の技を、放つ必要はなかった。最強の技は、消耗するものが大きすぎる。

優衣は、その技を決して使おうとはしないのである。

『もういないみたい。帰ろうか』

「ああ」

これで、終わったわけではない。2人とも、口に出さずとも気づいていた。


「限界だ」

東哉が、ホテルの一室で言う。

「そうですか・・やはり、待っては、くれないのですね」

麻里がつぶやく。全員が、深刻そうな表情を浮かべていた。

「ああ。もう、待ちきれない」

東哉の瞳が、麻里を写す。

「俺にも飯をくわせろ」

視線を移せば、全員が豪華な食事を口にしている。なのに、東哉にはなし。

「大丈夫よ、人間はそう簡単に飢え死ぬことないから」

「うるせえ莉柘!死ななくても、腹は減るんだよ!」

ホテルにつき、2人部屋が2つしかないため東哉は無理を言って1室を頼んだ。

しかし、そのため食事代が足りなくなったのである。で、仕方なく東哉はなし、となったのだが。

並んでいるのは、とてつもなく高そうな料理の数々。

「そんな豪華なもんだったら、もう少し変えれば、俺も食えただろう!?」

「仕方ないでしょ。ご飯は旅行の醍醐味なんだから」

「お前な・・」

絶対に、力が戻ったら莉柘を泣かしてやる。東哉は、心に深く刻み込んだ。

「はあ・・明日だぞ、多分」

「・・目覚めますか?」

「ああ」

おそらく、蛇神が大人しくしているのも明日までだろう。

和麻たちは、まだ回復はしていないらしい。となると、ここにいるメンバー+真になる。

「そうですか・・」

「ああ。だからな、俺にも飯を・・」

「却下」

麻里でなく、莉柘が言う。

「てめえ!もう許さねえ!」

「なによ、やる気?」

「おうよ!勝ったら俺にも飯を食わせろ!」

「じゃあ、負けたらあんたは、明日の朝もなしね」

「ぐ・・いいだろう!」

「勝負!」

さわがしい面々である。

「はあ・・」

ため息をつく茜に、蒼が気づいた。

「どうしたの、茜ちゃん?紅くんに会えなくて、寂しいの?」

「そ、そんなこと・・ないですけど。・・不安なんです」

「ふうん・・そうよね、私たちが戦うのは、神様だし」

「蒼さん・・私たち、勝てるんでしょうか?」

茜に尋ねられ、蒼はすこし黙って、答えた。

「わからないわよ、そんなこと。まあ、神様でもなんでも、勝つときは勝つわ」

「・・・すごい理屈ですね」

「そんなもんよ。それに、明日のお昼にはみんな来てくれるって話しだし。なんとかなるでしょ。

きっと、茜ちゃんがピンチになったら、愛しの紅くんが助けてくれるわよ」

「あ、蒼さん!?」

「フフフ」

夜は暮れる。戦いへの火蓋はちゃくちゃくと上がろうとしていた。


暗い山中。人間が、真下で光る卵のようなものを見ていた。

全身を黒いローブで包んでいて、性別はおろか、なにも判断できない。

「目覚めよ・・」

人物が手をかざすと、卵が強い光を放ち始めた。

「ミハイルは失敗したが・・私が、あいつの作戦を生かしてやろう。それに・・面白いものもできあがる」

神をそのまま、使うのは無理がある。だから、ミハイルは失敗したのだ。

ならば、どうするか。その答えを、その人物は知っていた。

「ふふ・・和麻がどんな反応するか、楽しみね」

突然、その人物に近寄る人影が言った。

「おお・・これはマリアさま。どうでしょうか、これは」

「まずまずね。あとは、誰かが神の力を削いでくれれば・・完成ね」

マリアと呼ばれた人影は、そのやさしそうな雰囲気とは異なる、恍惚とした笑みを浮かべた。

マリアの炎のような、赤い瞳は卵をじっくりと見つめていた。

「あとは頼むわよ、ヴェルンハルト」

「ええ。お任せあれ」

黒いローブを脱ぎ捨て、その人物は姿を現した。仮面をつけた顔で、マリアを見る。

「和麻の傷を、広げて見せます」

「お願いね。・・あの子の最も大切だったもの、なにひとつ残したりしないわ」

マリアはそういい残し、立ち去っていった。

「さあ、もう少しだ。もう少しだぞ・・ラピス」

卵にひびが入り、割れた。事態は、最悪の方向へ導かれ始めた。


ピピピピ!ピピピピ!ガチャン。

「はあ・・朝か」

真は目覚ましを止め、窓から外を見た。休日の今日も、京都の町は平和だ。

しかし、真の本能は告げていた。今日、なにかが起こることを。

「まっことくーん!朝だよー」

今日も元気に、扉を開いて優衣が来る。

「おお、おはよ」

「・・・うん、おはよ」

「・・なにを驚いている?」

「真くんが・・起きてる」

「・・そこまで驚くか?」

そりゃ・・休みの日は昼まで寝てるし、平日でも遅刻ギリギリまでは寝てる。

夜は毎日、夜11時には就寝。でも、それだけだ。

「まあ、こんな日もたまにはあるさ」

これ以上、くだらない話をする意味はない。真は会話を切って、優衣をみつめた。

「で、休みの日に起こしにきたってことは・・いくんだろ?」

戦いの場へ。優衣の、正しき居場所へ。

「うん。みんなが関わっているってことは・・絶対に、平穏に事が終わるとは思わない。

少しでも、平穏な世界を維持するのが私の・・精霊騎士の役目だから」

「そっか・・優衣。お前の居場所は、戦いだけじゃない。この家も、この部屋も、お前の

居場所なんだからな。・・絶対に、帰ってくるぞ」

「・・うん」

(絶対に・・帰らせてあげるよ。真くんだけは、私の・・大切な人だけは)

心でつぶやき、笑顔を浮かべる。

「よし、いくぞ」

布団をガバッとめくり、すばやく着替えをすませる。

向かうは、立ち入り禁止の山。優衣と出会った、あの山。


『・・主』

病院の枕元で、シルフィードがつぶやく。

「ん、どうかしたのか、フィー?」

雑誌を読んでいた和麻は、顔をあげた。

『嫌なものを感じます。風の精霊が騒いでいる・・』

「・・・あそこか?」

決戦の場。神凪の聖域。

『はい。もうそろそろ・・起きるべきではないでしょうか』

怪我はおおかた完治した。もう、動けなくも無い。

「そうだな・・でも、あと30秒待ってくれ」

『・・どういうことですか?』

「経てばわかる」

まったく話そうとしない和麻。ほほをふくらませて、壁のほうへ視線を移した。

すると。とつぜん、白い壁に赤いものが浮き出てきた。

『!?これは・・』

「魔術の一種だな。遠いところから、物質に干渉して色を変えてるんだ。

魔術は精霊を伝わないから、気づかなかったみたいだな。もう少しで、つながるぞ」

雑誌を置いて、笑みを浮かべながら和麻は壁を見た。

『・・パーティーの誘い。神凪和麻、あなたさまを私のパーティーにご招待させていただきます。

遠い昔話をしながら、会話を楽しもうではありませんか。この招待状を利用して、会場へお越しください。 

西洋の大魔法使い、ヴェルンハルト・ローデス・・』

シルフィードが浮かび上がった文を読み上げる。

『主・・これは・・』

和麻を振り返った瞬間、シルフィードは背筋が凍りつくような感覚を味わった。

思念体を核とする、彼女にそんな感覚を与える。それほど、冷たい目で笑っていたから。

「そうか・・昔話、ねえ。どっちのだろうな・・ククク・・行ってやるよ」

いつもの服装に着替えると、壁に近づく。

「いくぞ、フィー」

『はい・・でも、どうやって?』

「こうして」

文字の『会場』という部分に手を添えると、ズブズブと沈み込んだ。

「空間をつなげて、リンク先まで貼ってくれたんだ。丁寧なことだな」

『紅さんたちに、伝えなくてよろしいのですか?』

一人で行く気マンマンの和麻に尋ねる。

「・・ああ。これは、神凪の俺のいざこざだからな。フィー、お前も来なくて・・」

いいぞ、と言おうとしたが、やめた。絶対についてくる気だ。

「・・お前は、俺の剣なんだろ?使い主と、ずっと一緒だ」

『・・はい。お供させていただきます』

和麻はその言葉を聞くと、ズブズブと潜っていった。

簡単に風に伝言を付け、シルフィードも追っていく。

和麻も、シルフィードもまだ気づいていない。全てが、ある少女の手の上で起こっていることに。


紅は体を軽く動かした。しっかりと動く、大丈夫のようだ。

『大丈夫ですか、紅さま。無理はやめてくださいね』

「ああ、大丈夫だよティン。もうそろそろ、動かないとな」

心配する自分と仮契約をした精霊騎士に微笑みながら、手を軽く握った。

「でも、紅さん。あんな戦いのあとなんですから、もう少し休んでもよろしいのでは?」

怪我があまりなかったため、見舞いに来ていた琴葉が缶ジュースを渡しながら聞く。

「そうかもね。でも・・動かなきゃいけない。これが終わったら、無理にでも休みをもらうよ。だから、気にしないでくれ」

「・・もし、お休みになったら・・私と、その・・」

どこかに行きませんか、という言葉を続けたいが、でない。

「み、みんなでどこか行きましょう、どうです?」

私の馬鹿、と思いながらそういう形でしか提案できない。

「そうだね・・いいかもな」

そんなノホホンとした時間。それは、急激に展開をとげていく。

バタン!扉が勢いよく開き、綾乃が飛び込んでくる。

「紅さん!和麻が、和麻が・・」

顔を青くして、綾乃がなにかを伝えようとする。

追って入ってきた翠鈴が、丁寧にドアを閉めて綾乃をなだめる。

しかし、そんな翠鈴も困惑の表情は隠しきれていない。

「和麻が・・どうしたんだ?」

「・・いなく・・いなくなっちゃった。ひとりで、行っちゃったの!」

全員に緊張が走る。

「行ったって・・どこに?」

「シルフィードが・・伝言を残してたの。一人で、戦いに行っちゃった!」


山の中心地。そこに、和麻は現れた。

「よう、来てやったぜ。ご招待、ありがとうとでもいっておこうか?」

正面を向いている、黒いマントに仮面をつけた男へ聞く。

「いや、結構。こちらこそ、来てもらって嬉しいよ、神凪・・」

「八神、和麻だ。間違えるんじゃねえよ」

男の言葉に割り込み、訂正させる。

「そうか・・あの時は、まだ神凪だったから知らなかったよ」

「そうだな・・あのあと、名前を変えたんだからな」

交じり合う、2つの殺意。

「クリス、翠鈴、2人もの女性に好かれるテクニック、伝授してもらいたいものだね」

男の、皮肉をこめた言葉。対して。

「簡単さ。弱音をたまに吐くことと、ベッドの上でのリードだよ」

動じてないぜ、と込めて言い返す和麻。

「ふふ・・そうか。さて、では私の召使いにもその技を、教えてやってほしいものだ」

男の背後から、黒いローブで身を包んだ人影が歩み出る。

「あいにく、俺の技は軽々しく披露できないんだよ」

「そうか・・もうそろそろいいかな?」

「ああ。こいよ」

シルフィードが姿を変え、和麻の右腕に剣となって再構築される。

人影が、どこからか水晶のような輝きを持つ刀身の、大降りの剣を構える。

「お前は出てこないのか?」

「私は主催者だよ?パーティーに主催者が目立っては、いけないのだよ」

「そうか。なら、さっさと終わりにして二次会といこうか。ヴェルンハルト」

「そうだな・・八神和麻」

人影と和麻が動いた。俊足で間合いをつめ、剣を振る。

カキン、と甲高い音がなる。剣がぶつかり合い、また距離を離し、ぶつけ合う。

「その程度で・・俺の前にでるな」

―引き合い ほのかな光なれ 月光のごとく輝き 道をしめさんー

「南風の弧!」

風の刃が踊る。人影は剣で防ぎながら、距離を離す。

―集わり 強り奔らせ 白白明けと 朧なりに いめ通わん―

「西風の弦!」

しかし、和麻は手を緩めない。直線状に放たれる竜巻が、人影を襲う。

剣を盾にするが、そんなもの関係ない。圧倒的な力で弾き飛ばし、人影は地面に倒れこんだ。

その人影に、剣が突きつけられた。

「チェックメイト。終わりだな」

黒いローブはすでにズタズタだ。顔は隠れているが、別にかまわない。

剣に血が付くのが嫌なので、風を集め、放とうとする。

しかし、その集まる風の影響で、顔を包んでいた布が飛んでしまった。そこにあった顔は。

「な・・!?」

紫色の瞳が、和麻を捕らえる。意識がそがれ、集まった風が散っていく。

『これは・・まさか・・』

シルフィードまでもが、驚愕を隠せない。

「和麻・・今度は、私を殺すの?」

瞳の色は違う。でも、それでも。それは酷似していた。

「翠鈴・・・」

翠鈴に瓜二つな顔を持つ少女は、そっくりの笑顔を浮かべた。

そんなとき。グゥオオオウ!山が振るえ、山頂からすさまじい火柱が上がる。

「・・これは」

「おお、目覚めたようだな、蛇神よ。よほど、美味かったのだろうな。神凪の神は」

和麻は、ヴェルンハルトを見た。今、こいつはなんと言った?

「まさか・・ここにいた理由は」

「その通りだよ。炎神、火之迦具土を祭る山のひとつがなぜ、聖地となるか。

ここに、いるからだよ。祭られている、火乃迦具土が。眠っている神なら、どれほど強力
だろうと目覚めた神の敵ではない。

大きい分、時間はかかったが・・完全に吸収したようだな」

神が・・神をとりこんだ。その事実に、和麻は目の前の少女のこともあり平静ではいられない。

「お前・・そんなことを・・」

神同士が争うならともかく、取り込む・・食すなど最大の禁忌だ。取り込んだほうには、罰が下る。

おそらく、すでに蛇神は神ではなく、本当の邪神になってしまっている。

「パーティーで盛り上がるためには・・普通ではだめなのだよ。ラピス」

地面に倒れていた少女が、即座に起き上がり、ヴェルンハルトの元へ帰る。

「さあ・・パーティーの前座はこれまでだ。メインのアトラクションは始まっているよ。

早く行きたまえ、君の仲間が死ぬ前に」

和麻は、拳を固く握る。どうするべきか。ここで、この2人を倒すべきか・・山頂へ向かうべきか。

どちらを放っておいても、決してただごとでは済まない。

「・・・くそ!」

風を纏い、和麻は飛翔する。山頂へ向かうために。

「まだまだ・・これからだよ、八神和麻」

ヴェルンハルトは微笑む。これから起きることを知る、主催者として。



あとがき

14話を書いてから、これができるまで結構かかりました。ようやく、15話です。

ついに始まる最終決戦、紅は間に合うのか、和麻はどうするのか、東哉は神に勝てるのか、

真はいったいどうなるのか、様々な問題の解決を、お楽しみにしてください。

この物語の感想、ご意見、質問などがありましたら言ってください。

また、修正版銀河の魔術師、『The magician of the Galaxy』についての感想も、お待ちしております。


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