The magician of the Galaxy 金髪の転校生と不吉の兆候

「・・・ここが、葵学園」

夜中、2つの影が葵学園の前にいた。

「そうだよ、姉さん。ここから、僕たちの計画が始まるんだ」

少年の若々しい声が響く。

「ええ・・あなたは大丈夫なの?」

少女の可愛らしい声が返す。

「僕は姉さんと違ってしっかりしてるよ、大丈夫さ」

「もう、姉に向かってそんなことを・・」

怒ったように言葉を返す。

「ここにいるんだ。あの人たちが・・」

「ええ。トランスバール皇国、最強の部隊・・エンジェル隊」

「でも、まだまだ未熟だ。すこし、鍛えてあげないとね」

少年が笑いながら言う。

「ええ。もっと強くなくては・・勝つことなんてできないわね」

「ああ。悪いとは思うけど・・僕たちのために、傷ついてもらうよ」

少年の目は、姉と慕う少女も瞳に写している。

「そう・・傷ついて、ね・・」

視線を、葵学園へ戻す。

「もうそろそろ行こうか。僕は今から、銀河の果てに行かなきゃいけないんだ」

「そうね・・まめに通信するからね、体に気をつけるのよ?食べ過ぎちゃだめよ?

歯磨きはしっかりやるのよ?それに・・」

「もう分かったよ、姉さん。それじゃあ、行くよ」

人影は並んで去り、途中で分かれた。

「気をつけるのよ・・ヴァイン」

「ああ。ルシャーティ・・姉さん」


ある日、和樹は幸運だった。遅刻も無く、忘れ物も無く、特に体が傷つかなかった。

これを、幸運と感じてしまう自分が嫌だがそれも仕方ない。しかし、神は和樹を忘れることなどなかったようだ。

しっかりと、その夜に不幸は訪れたのだから。

「あれ・・タクトさん」

和樹は、夕食を取ろうと学園のカフェテリアにいくと、なつかしい人物を見た。

自分に葵学園を進め、また当人も大学部へ進む年上の友人。タクト・マイヤーズを。

「そういえば・・ここに入って以来、顔を合わせてなかったな」

せっかくだからと、タクトの方へ歩いていく。

「あれ・・和樹くん?」

タクトの方も気づいたようだ。

「お久しぶりです、タクトさん」

タクトと共に席に着く、眼帯をつけたタクトの親友、レスター・クールダラスが

「あいかわらず、ちゃらんぽらんな顔だな、和樹。そうか、無事に入学できたのか」

「ええ。なんとかですけど・・」

椅子に腰掛け、ウェイトレスにディナーセットA(税込み350円の格安メニュー)を頼む。

「で・・千早とは仲良くやってるか?」

「レスターさん・・僕と千早はそんなじゃ・・・」

「まあ、昔から一緒だったからね。まだ実感がないんだと思うよ」

昔から、この2人は自分と千早を冷やかしていた。当人たちいわく、ストレスの解消だそうだ。

色恋沙汰には、まったく無頓着なレスターも、和樹たちにだけは興味を持っていた。

「で、和樹くん。最近どうだい?」

「・・・不幸ですよ、まったく。いろんな人と知り合っちゃって、生活が振り回されまくりです。

下級生にたかる上級生とか、天然な先輩とか、いつも笑って毒舌な同級生とか・・

おまけに、地獄の特訓までやらす鬼教官までとも。おまけに、担任の先生と知り合いらしくて、

情報垂れ流しですし。しっかりしているようで、以外に甘いんですよね、先生も」

そう語る和樹を見て、タクトとレスターは一度顔を見合わせ、もう一度向き直り、

「和樹・・それは、金髪だったり、テレパスだったり、鞭を持ったりしてるような人たちのことか?」

「運がやけに強くて、たまたま道具が壊れたりする人や、なんとなく無表情だったり?」

かなり合っているので、ええ、と頷くと。

「・・和樹、お前は本当に不幸だな。よりによって、あいつらと・・」

「そんなに悪く言うもんじゃないぞ、レスター」

頭を抱えるレスターと、それをたしなめるタクト。珍しい光景だ。

そんなときだった、不吉が現れたのは。

「下級生にたかる上級生って・・あたしのことかしら?和樹」

首に手を回し、耳元でささやく女性。

「鬼教官ねえ・・言ってくれるじゃないさ」

鞭が顔の正面を捕える。

「笑顔の毒舌、ですか。なかなか失礼な発言ですわね、撤回・・してもらえますわね?」

顔は見えないが、きっと笑顔が浮かんでいるはずだ。

「そんなに・・頼りないですか・・」

落ち込んだような聞き覚えのある声。

「あたしのことは、なにも言ってなかったよね」

「言われてたわよ、あんた」

限りなく明るい声が響き、首を絞める女性が水をさす。

「みなさん・・そんなに言わなくても・・」

なぜかいる、転校生の声。

まちがいない、後ろにいるのは・・

「すいません。全部撤回しますし、何度も謝りますから・・許してください」

不吉は、始まったばかり。


「すいませーん、注文お願いしまーす!」

ランファの明るい声が店内に響く。

「うう・・なんでこんなことに・・」

「まあ、気にするな。あいつらと関わった以上、これで済んでるのが幸運なぐらいだぞ」

レスターが気の毒そうに言う。

「うう・・って、二人とも、みんなを知ってるんですか?」

タクトたちと、ミルフィーユたちが知り合いだったとは。世間とは狭いものである。

「・・同じ部活だ」

「まあ、みんなには世話になってるよ」

頭を抱えていうレスターと、能天気そうなタクト。

「そうなんですか・・」

「和樹さん、大丈夫ですか?なんとなく、顔色が悪いのですが・・」

「き、気にしないでちとせ。大丈夫、きっと大丈夫だから・・」

テーブルに並ぶ、数々の料理の代金を払わされる現実から目を背けたいものである。

そんなとき、カフェテリアの扉が不意に開いた。

「ん・・?」

金髪の髪がなびき、青色の瞳が和樹を捕えた。

「あ・・」

見詰め合う、青い瞳と黒い瞳。

「る・・ルシャーティ?」

「和樹・・・和樹さん!」

金色の髪を持つ少女が、和樹の胸に飛び込んだ。

「やっと・・やっと会えました・・」


「従姉妹、ですか」

ちとせが緑茶を出し、和樹の前に腰を下ろす。

「うん。僕の母さんの姉の娘でね。昔は、千早や僕とよく遊んだよ。でも、小学校5年生ぐらいのとき、転校しちゃったんだ」

「それはそれは、いいですね和樹さん」

なぜか、冷めた声でちとせが笑顔を浮かべる。

「ちとせ・・なんか怒ってない?」

「いえ、別に」

和樹としては、なぜどうどうと自分の部屋にちとせがいるのだろうと思う。

まあ、おいしいお茶が飲めるので文句は言わないが。

「まあ本人曰く、クラスは違うらしいけど・・千早がなあ」

まるで毒気がないルシャーティ。だから、千早はよく気にしていた。

子供ながらに、面倒見がいい千早はよく世話を焼いていた。もしかしたら、毎朝起こしに来てくれないのでは、と思ってしまう。

「どこか他の惑星で、離れて暮らしていた弟と一緒にしばらく暮らして・・昨日、こっちに帰ってきたみたいだよ」

「ということは・・一人で、こちらへ?」

「ううん。学校は違うけど、弟と一緒に来たらしいよ。ま、弟はかなり優秀みたいだけど」

会ったことはないが、確か自分の親たちがほめていたことを思い出す。

「それにしても・・めんどくさいなあ」

小声でつぶやく。千早だけでなく、ルシャーティまで来たとなると・・こうしてちとせと

2人でお茶を飲むこともできなくなるではないか。なんとなく、寂しい。

「和樹さん・・どうかしました?」

「・・ううん、なんでもない。ただ、ちとせはかわいいな、って思って」

途端に、顔が真っ赤になるちとせ。和樹ははぐらかすために言ったので事の重大さに気づいていなかった。

「ちとせ、これからも遊びに来ていいからね」

「・・・はい。わかりました」

蔓延の笑みを浮かべる。すさまじく可愛らしかった。ごまかすために、和樹はお茶を啜った。

そんな、ぎこちない空間に割り込みが入った。

『和樹さん、その・・起きていますか?』

『ああもう、ルシャーティは丁寧すぎるって。和樹くんなんて、絶対に起きてるんだから扉蹴破っちゃえばいいのよ』

『千早・・そんな乱暴は』

『いいのよ。だって和樹くんだから』

だって、ってなんだ。

『こうやって、さ!』

直後、扉が破られる。関係ないけど、千早は鍵を持っていたような気がする。

「ち、千早・・もう」

「ほらね、やっぱりちとせさんがいるのよ。もう、いつのまにこんな子に育ったのかしら・・」

よよよと泣く千早。僕は、いつから育てられてたんだろう。

「千早さん・・あの、さすがにこじ開けるというのはどうかと・・」

ちとせも戸惑いを隠せていない。

「まあ、気にしないでおこうよ。さてと、じゃあ始めようか」

「ええ」

頷くルシャーティ。

「な、なにを始めるの?」

嫌な予感がしながら聞いてみる。

「ルシャーティの引越しの手伝い。あたしは・・そのいろいろと予定があるから、ね」

軽くウィンク。和樹はため息をついて。

「・・・僕にやれと?」

「従姉妹の手伝いくらい、笑顔でやってあげなよ」

「・・お願いできるでしょうか?」

千早だけでなく、ルシャーティが遠慮がちに頼んでくる。

「・・しょうがないな、やりますか」

腰を上げ、肩を軽く回す。

「私もお手伝いします」

ちとせを加え、引越しのためのパーティーが組まれていった。


最初、僕とルシャーティ、ちとせの3人のはずだった。和樹はそう思っていた。

「ルシャーティ、これはこっちでいいの?」

「はい。ありがとうございます」

ランファに答えるルシャーティ。なぜ。

「衣服の整理は終わりましたわ。次はなにをすべきでしょうか」

「えっと・・どうしましょう」

「そうですわね・・じゃあ、飲み物でも持ってきますわ。みなさん、お疲れみたいですし」

そう言って、部屋を出て行くミントを見送る。なぜだろう。

「・・なんで、数人か増えてるんだろう」

テキパキと働くヴァニラを見てつぶやいた。

なぜか、引越しをしていたらヴァニラが入り、ミントが入り、気づいたらランファもいた。

「和樹!ぼけっとしてないで、働きなさいよ!」

「はい・・なぜ?」

その後、フォルテ、ミルフィーユと増えたのは言うまでもない。

「へー、ルシャーティと和樹くんって従姉妹なんだ」

「はい。幼い頃から・・和樹さんにはいろいろとお世話になりました」

ミルフィーユと談笑するルシャーティ。人見知りが激しい彼女だが、早くも打ち解けている。

「いろいろ、ねえ。和樹、変なことしてないだろね?」

首に手を回してフォルテが言う。

「フォ、フォルテさん。してませんってば、そんなこと」

「本当かねえ?若さゆえの過ちってことで、いま白状したら許してあげるよ?」

「許すって・・フォルテさんに許されても・・。助けてください、先生」

ヴァニラに助けを求める。

「・・悪いことはいけません。早く・・謝った方がいいです」

「先生まで・・」

味方なし、四面楚歌。

「さあ、さっさと白状しな!」

そんなこんなで夜は深けていく。

「あら、もうこんな時間ですわね。私、そろそろお暇しますわ。」

ミントが時計に目をやり、立ち上がる。

「え・・まだ9時前ですよね?」

「あら、乙女に殿方と夜を明かせと言うのですの?」

何気なく言った和樹をたしなめるミント。

「それに、ここに居すぎてはルシャーティさんの迷惑ですわ。引越しはほとんど終わったのですし、

これからのことを考えて、今日はお開きにしましょう」

「そうだね・・じゃあ、帰りますか」

フォルテが続くと、全員が身支度を始めた。

「私は・・学校について伝えることがありますので」

ヴァニラは鞄からいくつかプリントを取り出した。

「そっか、がんばってね。じゃあね、ルシャーティ」

「はい、みなさんありがとうございました」

ぞろぞろと部屋を出て行くメンバーを見送り、和樹も自室へ戻っていった。

男子寮への帰り道、ふと和樹の目に人影がとまった。

「タクトさん?こんな遅くに・・どうしたんだろ」

寮と道路を挟んで反対側に位置する公園のベンチにタクトがいた。

そのタクトに、見覚えがある人影が駆け寄る。

「ミントさん?」

人影はミントだった。タクトに近づき、いくつか言葉を交わす。

タクトの言葉に、大きな反応を示すミント。すねたように顔を背けてしまう。

なだめるタクトに笑顔を向け直す。この光景は・・まさに。

「カップル?」

そうとしか映らない。いつものミントでない、生き生きとした表情をクルクルと変えるミント。

それを唯一浮かべさせることができるタクト。

「まったく・・春はもうすぐ終わるってのにね」

苦笑を浮かべ、幸せそうな2人から目を戻し、寮へと戻っていった。


「まさか、ミントが待ち合わせに遅れるなんてな」

8時半にベンチで、と言い出した張本人は頬を膨らませた。

「仕方ないじゃありませんか。お引越しはそれなりに大変なんですのよ?」

「そっか、ミントは俺より友情なのか。ショックで寝込みそう」

とたん、顔の色を青くして

「ち、違いますわよ!その、あの、えっと・・」

「ああ、もうだめかもしれない」

「わ、私にタクトさんほど必要な人はいませんわよ!」

言ってしばらくして、顔を赤く染める。

「やった、言ってくれた」

嬉しそうに微笑むタクト。

「ひどいですわ、もう・・」

白い耳がペタン、としおれる。

「だって、ミントは俺に素直な気持ちを言ってくれないだろ?」

「だからって・・」

そっぽを向くミントを、やさしく抱きしめるタクト。

「た、たた・・タクトさん!?」

「・・静かに。じっとして・・目を瞑って」

まさか、まさか・・キス?キスですの?そんな、人目がないとはいえ・・公衆の面前で。

恥ずかしい・・でも、タクトさんが望むなら・・。

などと考えているミント。しかしテレパス能力が、本当のタクトの思考を読み取った。

直後、表情を固くする。「自分に敵意を持っている人間が、近寄っている。」そう考えていたのだ。

ミントに教えるため、タクトはミントへのメッセージを頭の中に作っていた。

ミントなら、きっと分かってくれると信じて。

「・・・誰でしょう」

「・・わからない」

そう会話を交わした瞬間、タクトたちの頬を風が通った。ビイィン、と真後ろの木に刺さった矢が震えた。

タクトはすばやくミントを離し、矢が来た方向を見据えた。

しかし、人影はない。

「・・・」

木に刺さった矢には、手紙がついていた。開き、読む。

「・・な!?」

『よたる9きじはたんに、そたらぬでたぬまってたいきる。なたかまとともにくぬるもよぬし。

みたぬんとのみとでもたよぬきし。はたやきくこたい。  ヒントはたぬきだよ!』

手紙を覗き込んだミントも絶句する。タクトと顔を見合わせ、再び手紙に目をやる。

「・・・これって、あれですわよね」

「ああ・・・」

読者のみんなは分かるだろうか。あれである。

「・・・いくしかありませんわね」

「ああ」

2人は学園へと、歩を進めた。


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