The magician of the Galaxy 少年の誓い


「6番機・・シャープシューター・・」

タクトはこちらへ向かってくる紋章機を見てつぶやいた。乗り手がみつからず、羽ばたく

ことがなかった機体。ついに、羽ばたくときが来たのだ。

「タクトさん、これは・・」

ミントも、状況が理解しきれず戸惑っている。そんなとき、通信が入った。

6番機、シャープシューターからだ。

「こちら、GA006、シャープシューター。タクト・マイヤーズ司令、応答願います」

画面に映る、黒髪の少女。面識は少ないが、忘れてはいない。

「ちとせさん!?」

ミントも通信を聞き、声をあげる。

「ちとせさんが・・6番機を?」

「はい。いろいろと事情があったのですが・・今は、敵の殲滅を第1目標とします。

説明はあとで、よろしいでしょうか」

的確な言動に、タクトも少なからず驚いた。まるで本物の軍人だ。

「ああ、頼む。俺は指示を適当に飛ばすから、それ以外は自由に動いてくれ。まずは、ミントの機体を修復したい。

エルシオールのエネルギー全てを与えるから、エルシオールは動けなくなるけど・・これしかない」

「はい。では、私は援護に回ります。あ、それとタクトさん」

「え、なんだい?」

「みなさんから伝言です。ひっぱ叩くまで死ぬな、だそうです」

「ハ、ハハ・・そう」

殻笑いをしながら、タクトは戦術を組み始めた。


一方、部室では。

「無理!絶対に無理だから!」

「ち!なにグズグズ言ってるんだい、タクトもミントも大切な友人だろう?」

フォルテが銃口を突きつけながら問い詰める。

「だからって・・僕が戦闘機の操縦なんか、できるわけないでしょう!?」

そうである。フォルテたちは、和樹、とちとせに突然、戦闘機で戦え、と言い出したのだ。

ちとせは、すばやく行ってしまったが、和樹は渋っていた。

「僕は一般ピープルですよ!?和訳で人々ですよ?凡人で、話の脇役で充分です!」

「なに訳の分からんことを・・」

レスターが頭を抱える。

「和樹くん・・私からも、お願いします」

ヴァニラが上目遣いで和樹を見る。

「で、でも先生・・やっぱり、無理です」

運動神経も、勉強も、魔法だって使えない。無能と言われ続けてきた。

そんな自分が、戦闘機に乗って戦う・・馬鹿げた話だ。

「僕には・・なにも・・」

「あーもう!じれったいわね!」

ランファが叫ぶ。和樹の胸倉を掴み、身体をゆすりながら叫ぶ。

「あたしたちだって、あんたに助けなんか求めたくない・・あんたをこんなことに巻き込みたくないわよ!

ちとせだってそう!でも、そうしなきゃいけないの!タクトやミントが、それ以上に大切だから!」

ランファの瞳には、わずかに涙が浮かんでいた。

「助けてほしいのよ・・タクトも、ミントも・・。好きになった人に、死んでほしくないのよ!

タクトを・・失いたくないのよ!」

ランファが叫び散らす。今まで、溜め込んでいたものまでも。

「タクトは、あたしかミントを選ぶことになって・・あたしを選ばなかった!ミントに、

タクトを取られた・・。正直、嫌だった・・でも、タクトも、ミントも憎むことはできなかったのよ。

2人とも、大切だから・・大切な友達だから!」

「・・・ランファ」

ミルフィーユがボツリと漏らす。

「あの2人のためだったら、あたしはなんでもする気になれた。道化でもいいから、好きな人のために・・

尽くしたかった。未練がましく思う?でもね、今は違う。あの2人の、笑顔を見たいのよ!」

ランファの声は、涙まじりで、とても・・痛かった。

「お願い・・和樹。あたしには、どうすることもできない。守りたいものを、守れない・・。

だから、だから和樹にやってほしいの!」

胸倉を掴む力が弱まる。

「・・お願い・・します・・」

ランファの声が、部室に響いた。


シャープシューターが攻撃を放つ。遠距離レールガンによる、高出力の遠距離からの狙撃。

離れたところから、相手に攻撃をさせずに貫いていく。

「すきだらけですね。正鶴、いただきます」

確実に、ダメージを与えて倒す。もっとも理にかなった戦い方だ。

しかし、それだけだ。この悪戦況を、逆転できる光ではない。

「タクトさん!もう少し待っていてくださいまし!すぐに・・すぐに終わらせます!」

ミントが宇宙を舞う。フライヤーを操り、多数の敵を一斉に攻撃している。

おそらく、疲労はピークに達しているはずだ。

「敵が多すぎる・・・でも、負けるわけには!」

ちとせが攻撃の手を早め、エルシオールを必死に敵の手から守っている。

そんな光景を、眺める視線。

「ちょっと、期待はずれかな。このまま終わりそうだし。まったく、僕たちの1番の障害

と思っていたのに・・こんなものか。心の力とは・・しょせんこんなものか」

すこし、悲しみのこもった視線。

「別に、問題があるわけじゃない。ここで、倒せてしまえば得だ。なのに、なぜ・・なぜ、

僕は・・彼らに期待してしまうのだろう」

誰にも届かぬ声が木霊する。


「・・・和樹君」

千早が和樹の背中に声をかける。和樹は止まったが、振り返りはしなかった。

「和樹君、ずっと自分は無能、なんて言ってたよね。でもね、あたしはそう思わない。

和樹君は、あたしにとって・・・世界一の、ううん。銀河一の魔術師だよ」

和樹は無言で右手を上げた。親指を、上に立てている。そして。

「行ってくる」

そういい、扉を開いた。7番機、を書かれた転移装置の。

(さて・・どうしたものかな)

優しすぎる、とは思う。でも、それでも後悔はしていない。友人を守る。理由は、必要などない。

力の有無など、関係ない。普通に、やることだから。

(・・それが、汝の考えか)

頭に響く声。

(・・ああ。そうだよ)

それに、動じることなく答える和樹。きっと、これは自分の声だと思って。

(死ぬかもしれない、帰れなくなるかもしれない、それでも、いいのか?)

(そうかもしれない。でも、そんなことはどうでもいいんだ)

(ほう?)

問う声が疑問を持ったように聞く。

(そこに、守りたいものがあるから行く。それに、帰るところには望む人がいる。だから、

僕は行って、帰る)

(・・・なにもできぬのにか?)

声が聞く。

(そうだね、人間、やる気になれば結構できるんじゃないのかな、と思ってはいるけど)

(・・ふ。ふふ・・おもしろいな)

(そう?でも、できるって分かっててやるより、できるかも、って思ってやるほうがおもしろいし、

限界以上のことができるかもしれないじゃない?)

(・・・なるほど。それが、汝の望むものか。いいだろう、やれる限りやってみろ。私の力を、汝に預ける。

式森和樹、汝が、今日から私の主)

和樹の目の前に、なにかが現れる。金色の髪を伸ばし、ルシャーティになんとなく

似た雰囲気を持つ少女。年齢は、15くらいだろうか。

「私にあなたをください。その代わり、私の全てをあなたに捧げます。私は武器。

貴方の剣となり、槍となり、盾となる。私の名は、紋章機、汎環境戦闘兵器・

エンブレムフレーム・固有番号GA007・シャインクリエイター。和樹様、ご命令を」

この瞬間、和樹は唯一意思を持つ最強の紋章機、シャインクリエイターの駆り手となった。


銀河に光がともった。

「これは・・!?」

タクトたちを見ていたヴァインが、突然の出来事に目を丸くした。

すばやくレーダーに眼を向ける。辺りの惑星からかけた土や、ほのかに存在する元素、破損し、

機体からはがれた外壁が、光に飲み込まれていく。そして。

光が輝いた瞬間、光は弾けとんだ。変わりにそこには、黄金の翼を持つ鳥が現れていた。

純白に金をあしらった本体に装着された、金色の翼。3つに分かれた爪を生やす両足。

そして、猛禽類のようで、神聖にも感じられる頭部に光る3つの輝き。

なにより、ヴァインの眼が引かれたのは、その鳥の胸部に書かれた紋章。間違いなく、

あれは紋章機に付けられるものだ。つまり、この鳥のようなものは。

「紋章機、だとでもいうのか・・馬鹿な!?鳥型の、動物のような形をもつ機体なんて・・

そんなものはデータになかった!なんだ、あれは!?」


驚いているのは、ヴァインだけではない。

「あれは・・紋章機、ですの?」

ミントがつぶやく。誰にも、答えはわからない。しかし、レーダーには7番機と示された点が現れていた。

つまり紋章機であって、自分たちが管理していたものである。

千早が乗っていたときは、ただの戦闘機だったのに。なぜ。

「和樹・・さん?」

ちとせがボソリとつぶやいた。

『えっと、遅れたけれど・・間に合いましたか?タクトさん』

「か、和樹くん!?」

確かに、通信から聞こえる声はタクトの知る和樹のものだ。

『よかった、通信が繋がらないのかと思ったよ』

『エルシオールにエネルギー残量がほぼ0だからです。おそらく、通信のためのエネルギーも

回せなくなっているのでしょう』

和樹と違う、少女の声が間に入る。

『か、和樹さん!?誰ですか、誰がそこにいるんですか!?』

ちとせが慌てて問いだす。映像に出すと、確かに和樹が乗っている操縦席の横に、

金髪の少女が立っていた。しかし、なぜか幽霊のように宙に浮いている。

『私は、この7番機の対人インターフェイス。和樹様の願いを叶えるための力。そして・・

私は和樹様の、和樹様は私の一部となっています』

『な、な・・』

あまりの発言に、ちとせの顔色が、赤くなり、青くなって、また赤くなった。

『和樹さん!?』

『いや、ちとせ。話、聞いてた?』

『聞いてましたとも!何ですか、お互いがお互いの一部って!不健全です!』

『・・話は全く聞いていなかったようですが』

冷静な少女の声。

『なるほど、わかりましたわ。ちとせさん、おそらくその方・・人間ではありませんわ』

『え?』

ミントの言葉に、ちとせが困惑する。

『つまり、その方は・・信じられないかもしれませんが7番機の機能が作り出した立体映像のようなものですの。

おそらく、7番機は特別なシステムを積んでいるのでしょう』

ミントが推理するような口調で語る。

『その通りです。私は、あなた方の機体のHALOの進化版のようなものです。インターフェイスを使うことで、

より深く同調率を上げ、機体性能を上げる。そのための機能。

また、操縦者との親睦を深めることで同調への不安感を失くし、健康管理まで気を配る。

そのための機能の集合が私です』

『とにかく、長話は置いておきましょう。まずは・・敵を倒さないと』

『はい、和樹様。モードC3、両翼にレーザーブレード展開』

和樹の言葉に従う少女の声と共に、翼から緑色の光を放つ刃が出現する。

『いきます』

少女が言った瞬間、7番機は加速した。敵陣めがけて疾走し、瞬く間に敵陣を突っ切った。

そして、同時に爆発が起こる。

「すごい・・」

タクトが感嘆の声を漏らす。和樹たちはすさまじい速さで敵を倒していく。

「敵、7機撃破。残り8機です。前方より、エネルギー波。どうしますか」

「シールドを展開。相殺させて」

「おおせのままに」

和樹の指示通りに、シールドを張り、攻撃を相殺した。

「エネルギー弾、3連。連続発射!!」

「御衣!」

翼の下のほうに、光が集まる。3つの光弾は翼の羽ばたきとともに放たれ、3機の巡洋艦を貫いた。

「3時より、敵急襲艦接近。シャープシューターの援護攻撃により、接近3秒後に破壊されます。

2時の方向に、1機距離を置いています。いかがいたしますか」

「マイクロ・クロノキャノンで撃ちぬく。チャージ開始!」

「はい」

頭部の口もとに青白い光がともる。それは、次第に大きさを増していく。

「発射まであと・・3,2,1、いけます」

「よし。目標2時の方向、マイクロ・クロノキャノン・・発射!」

口から放たれる、青白い閃光。目標となった機体は、慌てて回避行動を取る。しかし、光線が右翼を捕え、

その部分は消滅してしまった。慌てて、クロノ・ドライブを行い、その機体は戦線を離脱

していった。残る敵を撃破するのには、2分も必要なかった。


クロノ・ドライブで逃亡しながらヴァインは考えていた。

「なんなんだ・・あのでたらめなものは!」

データになかった、紋章機。レーダーはあれを、7番機と判断していたがそんなはずはない。

7番機は、平均並みの力もロクに出せない失敗作だという話だったはずだ。

「しかし・・おもしろい目標が出来た。タクト・マイヤーズ、ミント・ブラマンシュ。

それに・・6番機と、7番機のパイロット。ふふ・・しばらくは、彼らを利用させてもらって調べてみようかな」

そう考えているうちに、クロノ・ドライブは終了し、通常空間へと出た。

「さてと・・クーデターの始まりだよ」

黒い球体を見つめ、ヴァインはそうつぶやいた。


「はあ・・これでどうにかなったな。お疲れ様、みんな」

「今回は疲れましたわ・・タクトさん、なにか奢ってくださいな」

何気なくいうミントにあやうく頷きかけ、

「お、俺だって疲れたよ!そういうのは、心優しい副部長に頼んでくれ」

「いえいえ、タクトさんといっしょに、なにかを食べたり、休みに行きたいんですの」

「はあ・・・そういうことね」

と、なんとなくラブラブカップルの間に入れず困っている救世主の2人。

「ちとせ、僕たち・・・完璧に味方にされたのかな?」

「それはわかりません。とりあえず、私たちは部外者なのですから」

いつのまにか消えているインターフェイスを思いながら、少し回想する。

―あのときー

銃弾と矢が放たれようとしたとき。

「やめてください!」

声がかかり、両者ともそちらを向いた。和樹たちも、声のほうを見た。

「今は、タクトさんを助けるのが大切です!ケンカはあとにして、なにか考えましょう!」

「ああ・・って、和樹にちとせじゃないか!?こりゃいい、ナイスアイディア」

フォルテが、銃を下ろして近づく。

「和樹、ちとせ、人助けをやらないか?」

といわれ、言われるままに乗せられたのだ。操作法は、頭に流れ込んでくるからといわれたが、

その通りでずっと知っているように操れたのだ。

「ちとせは簡単だったけど・・僕は大変だったんだよ」

どうやら、特別な機体である7番機はいろいろと複雑なようだ。一気に叩き込まれた知識のおかげで、頭痛がする。

「あ、2人もありがとう。たぶん、なにも言わずにやらされたんだよね」

タクトから通信が入る。

「はい、ここがどこで、これがなんなのかもさっぱりです」

「少しは説明してほしいものです。・・先ほどはうまくいきましたけど、やはり命を張るということなのですから」

命をかけろ、そう言われた。そして、来たのは戦場。勝ったが、なにがなんなのかわから
ない。

「わかった。でも・・」

「でも?」

「明日にしない?今日はもう、なんかつかれちゃって。ミントとデートもしないといけないし」

和樹は、一瞬頭が痛くなった。こんな人物に、命を預けていたのだから。

「それに・・いま言うと、2人とも理解しにくいだろう。すごく疲れていないか?」

「え・・確かに・・」

言われると、体が重たく、頭がはっきりしない。

「紋章機は、かなりの魔力が吸収されるからね。あ、回数は減らないから安心して」

「魔力、精神力、もちろん体力も。紋章機のパイロットは大変なんですの」

と、ミントからも言われる。

「あ、ひとつだけいいですか?」

ちとせが口を開いた。

「いいけど、簡単に答えられるなら」

「はい、お二人は、お付き合いをしていらっしゃるのですか?」

しばらく時間がたって。和樹は、普通聞くか、を思った。

「その・・友達以上、恋人未満、かな?」

「一番、タクトさんと波長が合うのが私なだけで、他のみなさんと違ってどうとかは」

「好きあってはいるのですか?」

また沈黙が場を支配した。和樹は、もう帰りたかった。

「その・・まあ・・ね」

「男性として・・だいぶ・・意識してますわ」

結局、今日の収穫は部長と部員の恋愛事情だった。

(でも・・ランファさんが言ってた、見たい笑顔って意味は分かったかな)

「なかなか、恋心とは複雑ですね」

「うん・・って、いつの間に!?」

対人インターフェイスが微笑を浮かべて和樹の横にいた。

「和樹様、ここはある意味、私の中なんですから。すぐ出てくるのは当然ですよ?」

「そっか・・えっと・・」

「どうしました?」

小首をかしげる少女に、少しドキリとする。

「えっと・・君に、名前がないといいずらいな、と思って」

「・・名前、ですか?」

「うん。シャイン・クリエイターなんて長いだろ?そうだな・・リエ」

目茶苦茶単純な名前だが、根が素直で純情なインターフェイスは、顔を赤くして頷いた。

「じゃあ・・よろしく、リエ」

「はい・・和樹様」

和樹の差し出した手を、強くリエは握り返した。



機体情報

シャインクリエイター 

7番目につくられた紋章機。正式名称はGA007。他の紋章機と違い、対人インターフェイスを

用いたHALO(搭乗者と機体を同調させるシステム)を搭載。2人乗りの紋章機、GA000の概念を

インターフェイスで代用し、個人でありながら紋章機を越える紋章機とされる。

独自の人工知能を搭載しており、搭乗者を選んだもの以外には持つ力を全て引き出すことは不可能。

また、その際にはただの戦闘機のような形をとっている。

持ち主のみ、その形態を変化させることができる。原子に干渉できる、原子干渉システムも搭載。

それにより、他の物質を取り込み質量を無視した変形が可能。

搭載武器 レーザーブレード 原子干渉システム マイクロ・クロノキャノン(エルシオールに装着される、クロノ・ブレイクキャノンの威力を多少落とすこと で戦闘機最強の武器とされている)


シャープシューター

6番目につくられた機体。正式名称はGA006であり、搭乗者は烏丸ちとせ。

遠距離射撃を得意とし、遠距離レールガンは命中率、威力が高い。

接近戦用の武器は少なく、装甲も薄い。


あとがき

遅れまして、MG最新作です。銀河の魔術師とは、いくつか機体設定が違いますので、上

に乗せておきました。シャインクリエイターのモデルは、竜機神ですのであしからず。

ま、あれほど万能ではありませんが。

さて、次回は一難さってまた一難。クーデター編の予定です。ちとせが、夕菜っぽいのは

お許しください。         サザンクロスでした。



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