The magician of the Galaxy  迫り来る脅威


赤く街が輝く。その輝きは、喜びではなく、悲しみの輝き。絶望の輝き。

赤い光に彩られた空を、7つの機体が舞う。

「ふざんけんじゃ・・ないわよ・・」

GA002、カンフーファイターのパイロットであるランファの声が響いた。

紋章機に乗り込む、全員の心にその言葉は響いた。

「確かに・・冗談にならないね」

「ええ。早く対処しなくては」

フォルテの言葉に同意したミントが目線を下へ降ろす。

破壊されたビル。砕けた道路。粉砕された家屋。これが全て、ほんの数時間前に

平和を奏でていた風景の一部だとは思えない。

「なんで・・こんなことになっちゃうんでしょうか」

ミルフィーユがボソリとつぶやく。その答えは誰にもできない。

「わかりません。・・しかし、もうトランスバール皇国は・・実質、壊滅しました」

珍しくヴァニラの声が震えている。その現実に、誰もが眼を背けたかった。

「ちくしょう・・ちっくしょう!」

和樹は拳を自分の膝に叩きつけた。



それは一瞬のような、しかしとても長い悪夢のようだった。6月3日、時刻未定。

第3方面軍からの連絡が途絶えたことから事件は始まった。本星きっての高実績をほこる

第3方面軍は、守りが薄くなっているトランスバール本星の右側を守っていた。そこから連絡が途絶えたということは

本星に向けなにかが攻撃を始めた証拠である。そう決め付けたとき、すでに遅かった。

突然の本星へ向けての攻撃。手始めとばかりに皇居は壊れ、元トランスバール皇王をはじめ、

多くの関係者は行方不明。そして、皇国全土へ向け攻撃は開始されたのだった。


「和樹さま!」

シャインクリエイターの対人インターフェイスであるリエが姿を現したのは、和樹たちのクラスで

HRが始まったばかりのときだった。当然、クラスから殺意と疑念が向けられたがおかまいなしに

リエは用件をまくし立てた。攻撃が開始され、すみやかに逃げたほうがいいこと、

なんとか食い止めなくてはならないことを。

「つまり・・僕たちしかみんなを守れないってこと?」

「はい」

リエの頷きに答え、和樹はちとせと共に教室を飛び出した。ヴァニラはすぐに学園上部に掛け合ってくれ、

生徒は学園が保持する輸送艦で皇国を脱出した。

部室に着くと、すでにヴァニラと和樹たち3人を除く人間が集まっていた。

そしてヴァニラが合流し、リエによってトランスバールの上空近くに移動されていた

紋章機に乗ってエンジェル隊、EW部は活動を開始したのである。

そして、そのときすでに皇国の8割近くは占領されていたのである。


そして現在。

「くそ・・誰が」

和樹のうなだれるような言葉。それに答えるように、突然ある情報が入った。

「なんだ?こんなときに・・」

どうやら、動画データのようだ。リエがすぐにそれを画面へ写した。

「これは・・」

肌黒の青年が、そこに立っていた。

『余は、トランスバール現皇王、エオニア・トランスバールである!

民たちよ、今ついにトランスバールは悪しきジェラール皇王から開放され、自由を手にしたのだ』

「これって・・」

「おそらく、この事件の黒幕だと思われます」

和樹のつぶやきにリエが答える。王権を強引に奪い取った・・つまりこれは。

「クーデタって・・ことか!?」

「はい。私のデータベースでは、彼はエオニア・トランスバール。

ジェラール王の側室の子で・・王子でした」

リエの含みのある言葉。まるで、王子でなくなったような。

「王子だったって・・ああ、今は・・」

「違います。3年前、彼は反乱未遂を起こし・・王権を剥奪されています」

「え!?」

「そのときの、政府の決定は宇宙流し。彼は、病死と処理されました」

なんで、そんなデータまで入っているのかと気になるが気にして入られない。

「じゃあ・・こいつの目的は・・」

「失敗したクーデターを、今度こそ成功させること。そして、それは思惑通りになりました。

和樹さま、おそらく軍はほとんど機能していません。いかがいたしましょう」

シャインクリエイターのシステムとして、リエが問う。軍に所属し、戦う紋章機。

だから、リエは操縦者である和樹に説いているのである。自分の身の振り方を。

「・・・正直、戦って勝てる気はしないよ。みんなと力を合わせても、皇国を占領するような軍を

相手にできるわけないしね。でも・・」

画面に映される廃墟となった町。いつまでも、平和が続くと思われた社会。

「それでも・・僕は思うんだ。新しい国とか、そんなんじゃなくて・・

みんなの笑顔が見ていたい。だから精一杯に、戦うつもりなんだ」

それが、答えだった。リエは少し眼を閉じ、開いた。瞬間、コックピットにいくつかの言葉が浮かぶ。

『自動制御解除』、『独立行動へ移行』、『他の機体との接続を切断。GAシリーズのみと接続』。

高速で文字が浮かび、消える。

「・・これで、私は完全に軍と切りはなれました。和樹さまの命にのみ従います」

このとき、王に仕えていた最強の剣の乙女は、和樹のみの剣の乙女へとなったのである。


「それで・・これからどうしましょう」

ちとせからの通信を受けながら、全員が困った。なにを頼りにし、どんな行動をとるのか。

それを決めなくてはいけない。

「いっそのこと、このまま突っ込んじゃいましょうか?」

「ランファさん、さすがにそれはだめですわ。ここは撤退し、体勢を整えて・・」

軽いノリのランファをたしなめるようにミントが言う。

「でも、撤退している間に敵さんも準備するだろうね。

なら、このゴタゴタにまぎれて行動するほうが近道じゃないか?」

「・・・急がば回れ、ともいいます・・」

フォルテとヴァニラも加わる。

「そうですね・・ここは落ち着いて行動したほうがいいかもしれません」

ちとせはミントたちについた。残っているのは、和樹とミルフィーユだ。

「ミルフィー、あんたはどうなのよ?」

ランファが話を振る。

「えっと・・どうしよう〜。もっと味方が欲しいけど・・」

「ってことで、速攻派2人、撤退派4人か。多数決的には、撤退だね」

フォルテがまとめる。その後の話で、まずブラマンシュ財閥の本星、惑星ブラマンシュへ行くことになった。

「じゃあ、あとは惑星ブラマンシュに行ってからね。もうすぐ、タクトも来るだろうし」

ランファが話題を切り上げる。

「はあ・・」

和樹はため息をついて、座席へもたれかかった。

「大丈夫ですか?疲労の色が見えますが・・」

「平気だよ、それよりエルシオールを探してくれない?どれくらいで合流できるかな」

リエに言葉を返しながら考える。そういえば、ルシャーティは無事だろうか。

おそらく学校の宇宙船で脱出できたと思うが心配だった。

「和樹さま」

「あ・・なに?」

前触れのない声に、驚いて声が少し裏返る。

「いえ・・エルシオールとは、あと30分ほどで合流できそうですので、その報告を」

「あ、ああ・・ありがと」

突然の展開で、身体が疲労しきっていた。考えることも多いが、少し休みたかった。

座席に身体を預け、睡魔へ身体をゆだねた。


夢を見ていた。幼い頃、橋の上でした約束。泣いている少女の願いをかなえるため、魔法を使った。

そして、少女と重ねた約束は・・なんだっただろうか。思い出せない・・。記憶に残る、綺麗な・・黒い髪。

抱えたぬいぐるみ。でも、顔が見えない、不思議な夢。

「どうしたの?」

幼い自分が声をかける。少女は顔を上げる。まただ。幼い自分の身体で少女の顔が見えない。

いつもと同じだ。

「・・ぐす・・あなた・・だれ?」

少女が泣き声を抑えながら聞く。

「僕は世界一の魔術師だよ」

自慢げにかたる自分。

「・・本当に?うそじゃない?」

少女が聞いてくる。その問いに、うそじゃないと答える。

「どうしたの?」

「・・・お父様が・・死んじゃったの」

声が震え、泣き出しそうになる。

「お父様のぶかの人が・・これ届けてくれたの。プレゼントだって・・」

抱えていたぬいぐるみを差し出す。なんの変哲もない、ふつうのぬいぐるみ。

「お願いが・・あるの」

少女が尋ねてくる。

「お父様を・・生き返らせて」

自分はこの願いに答えられなかった。人を生き返らせるなんて、できるわけがない。

「やっぱり・・できないんだ」

少女がしょんぼりとした声で言う。

「・・そ、それ以外だったら、なんでもしてあげるよ!」

もう、泣かせたくない。その一心で、そう言った。

「・・本当に?じゃあ・・」

少女の願いは、またも和樹を困らせた。

「やっぱり・・できないんだ。うそつき・・」

「で、できるさ!見ててよ・・」

少女から離れ、力を集める。

「待って!」

少女が呼びかける。

「もし・・もし、お願い叶えてくれたら・・えっと・・お嫁さんになってあげる」

顔を赤くして、少女が言う。

「うん。約束、だね。・・えーい!」

力を解き放つ。まだ昼間だというのに、すさまじいスピードで日が暮れ始めた。

そして、夜が訪れる。空には星が輝きだした。

「・・・うわぁ」

少女が感嘆の声をあげる。空から降る、いくつもの光の雨。流星群が振ってきたのだ。

「すごい!すごい!きれい!」

少女がはしゃぐ。自分に抱きつき、その唇を自分の頬へとぶつけた。

「・・・今度会えたら・・またしよう、ね?」

少女が恥ずかしそうにボソリともらす。

「・・うん」

「約束だよ。忘れちゃ・・嫌だよ?」

「う、うん!」

力強く頷く。

「じゃあね・・きっと、きっとね」

そういい残し、少女は走り去っていった。


名前を聞かず、自分にキスをして消えた少女。彼女は、いまどこにいるのだろうか。

「・・・さん、・・ずきさん」

誰かが自分を呼んでいる。重たいまぶたを開く。

「和樹さん、お疲れみたいですが・・大丈夫ですか?」

「・・ちとせ?あ、ああ・・大丈夫」

目の前の画面に映る、黒髪の少女。今の自分にとって、大切な存在の一人。

思い出にふけっている場合ではない。今は、非常事態なのだ。

「それで、どうしたんだい?」

「はい。エルシオールがもうすぐこちらへ到着します。それでいっそのこと私たちから迎えに行こうと思いまして、

和樹さんはどう思われますか?」

「あ、ああ・・いいよ別に。僕も、固いシートよりベッドの上で寝たいし」

「はい。では、行きましょうか。皆さん、実はもう行ってしまっているんです」

「うわ、ひどいな。じゃあ、早く追いつこうか」

「はい」

シャインクリエイターが翼を広げ、空を飛翔する。それに続くシャープシューター。

「和樹さま」

リエが突然声をかけてくる。

「ん、どうしたんだい?」

「あの・・私の身体の中は、そんなに休まりませんか?」

しばし硬直。

「・・え?」

とりあえず聞きなおしてみる。

「ですから・・さきほど固いシートとおっしゃられたので、私の中は・・」

「あ、ああ!いや、その、リエは僕の戦友だろ?そんな戦友の中で眠るなんて失礼だって、

思っただけさ!本当だよ、僕は君といるときは常に集中していようと・・」

「・・もっと、気を楽にしてください」

リエが不満げな表情をする。あまり表情を変えないので珍しかった。
「私は、和樹さまのために全てを捧げています。時には気を抜き、頼ってくださって結構です。

私は武器でしかありません・・でも、和樹さまを慕う心に迷いはありません」

ある意味、愛の告白のような言葉にいい返し方が見つからず、視線をそらす。

その先に、なにかがよぎる。黒い影が3つ。

「リエ!近くになにかいないか!?」

「検索を開始します。・・なにもいません」

「ちとせ!気をつけ・・」

突如、シャインクリエイターを襲う衝撃。

「和樹さま!なにものからか攻撃を受けました、相手は・・・みつかりません」

リエが言う。確かに、センサーにも、眼に映る画面にも敵らしき姿はない。

「なら・・攻撃を撒き散らしてあぶりだす!エネルギー弾、5連・・」

「だめです。この地区は避難が完了していません・・下手に攻撃をすると・・」

逃げ遅れたかもしれない人に、攻撃があたるかもしれないということか。

「和樹さん、こちらのレーダーにもやはり反応はありません。どうすれば・・」

「そうだね・・まずは・・」

そう、答えはひとつしかないだろう。

「戦略的、撤退!!」

「速度、最大まで加速。タイプSへ移行。シャープシューターとシンクロします」

「みなさんと合流しましょう、和樹さん!」

2機が空へ線をのこしながら飛ぶ。それを追う、謎の機体。

「楽しませてもらうぞ・・エンジェル隊よ」

謎の機体が加速する。


一方、タクトたちの方は。

「・・敵が見えません。タクトさん、指示を」

ヴァニラから通信が入るが、タクトは答えられない。

「どうなってんだい、こいつは!透明人間が操縦してるのかい!」

フォルテが機体を操り、攻撃を放つ。しかし、虚空への攻撃は無意味である。

「いったい、どうすればいいんですか!?タクトさん!」

ミルフィーユの声を聞きながら、タクトは策を練っていた。


トランスバール皇国の、壊れた皇居の上。そこに浮かぶ、黒い戦艦。そこの司令室。

「ね、僕の言ったとおりでしょ?エオニアさん」

金髪の白い肌を持つ少年が笑いかける。

「ああ。お前のおかげで、こんなにもたやすく国を手中に収めることが出来た。礼をいうぞ・・ヴァイン」

肌黒の青年、クーデタの張本人、エオニア・トランスバールが答える。

「あとは、エンジェル隊を倒してしまえば・・それで終わりです」

ヴァインが言う。

「そんなの、もう関係ないわよ」

エオニアの傍の金髪の少女が会話に加わる。
「ノアの作った紋章機は、すごく強いから。きっとすぐに、壊したって、言いにくるわ」

笑みを浮かべながら言う。その笑顔には、暖かさがない、冷めた笑顔だった。

「がんばってください、エオニアさん」

(僕たちの目的のために、ね。姉さんも、きっと上手くやっているだろうし)

「ああ、お主にもそれなりの地位を与えよう」

(この子供・・あなどれん。なぜ、皇国の極秘情報であるエンジェル隊を知っているのか。

足元をすくいにくるかもしれん、な)

2人の男の企みが交差する。それを観ながら、少女は笑みを浮かべ続けていた。



あとがき

さて、いきなりのシリアス展開です。ここから、和樹たちの戦いが本格化していくのです。

戦いの果てにあるものはなにか。なんのために戦うのか。彼らは疑いながらも剣を振る。

ただ、生きるために。などといってみます。

次回、「最高の牙」お楽しみに。   

この作品のご感想、ご意見、ドシドシ送ってください。 サザンクロスでした。


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